Comments
Description
Transcript
地域農業副産物を活用した高品質豚の生産に関する研究
地域農業副産物を活用した高品質豚の生産に関する研究 嶋 澤 光 一 Studies of high-quality pork production using local agricultural by-product Koichi SHIMAZAWA 目 次 第1章 緒論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3 第2章 1 2 3 4 規格外バレイショを主原料としたサイレージの調製およびその化学成分と発酵品質・・・・・・・・5 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 第3章 バレイショ混合サイレージが肥育豚の産肉性に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 第1節 バレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の発育,飼料利用性ならびに枝肉成績に及ぼす影響・・11 1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 2 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12 4 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 第2節 バレイショ混合サイレージの給与が豚肉の食味に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・15 1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 2 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 4 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17 第3節 バレイショ混合サイレージの給与が豚肉の理化学的特性に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・19 1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 2 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19 3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20 4 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21 第4節 バレイショ混合サイレージが肥育豚の健康状態(血清生化学成分)に及ぼす影響・・・・・・・・・23 1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 2 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 3 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 4 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・25 -2- 第4章 1 2 3 4 現地実証試験による規格外バレイショ飼料化技術の経済性の検討・・・・・・・・・・・・・・・・26 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26 結果および考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 第5章 昼間屋外飼養およびバレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の行動,発育,肉質ならびに 筋線維特性に及ぼす影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 1 緒言・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 2 材料および方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37 3 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・39 4 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41 5 摘要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 第6章 1 2 3 4 総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 地域農業副産物の家畜用飼料への利用について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 規格外バレイショによって生産した豚肉の肉質について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45 地域農業副産物を活用した高品質豚肉生産における経営および社会的意義について・・・・・・・・46 結論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・48 謝辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 Summary・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・50 引用文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・52 -3- 第1章 緒論 世界の人口は約62億人と最近の40年間で2倍に増 加しており,開発途上国では飢餓や栄養不足に直面 している.また,世界人口の42%を占めるBRICs(新 興市場国)では,経済成長により食生活が高度化す るなど,世界の食料需給は量的にも質的にも不安定 な要因が混在している.さらに進行が懸念される地 球温暖化は食料生産に多大な影響を及ぼすものと考 えられている.このように食料問題が危惧される中, 昭和40年度にはカロリーベースで73%あったわが国 の食料自給率は平成18年度には39%にまで落ち込 み,先進国の中では最低水準と評されるまで脆弱化 している.食料は健康で充実した社会生活の基盤と なることから,食料自給率を向上させることは喫緊 の課題と考えられる.食料のうち,畜産物はヒトの 健康に不可欠な動物性タンパク質であり,経済発展 に伴う食生活の多様化によって消費が大きく伸びて きた食品である.現在わが国の畜産物の自給率は肉 類で55%,牛乳・乳製品で66%とされるが,その家 畜に給与する飼料の自給率は25%しかなく,わが国 の畜産は輸入穀物に依存する加工型畜産と言える 44) .国内産飼料の中でも濃厚飼料の自給率は僅か 10%と低く,濃厚飼料を給与せざるを得ない養豚業 では,自給率の向上策が重要な課題となっている. 現在,廃棄されている食品残さを飼料利用するリ サイクル飼料をエコロジー(ecology)ならびにエコ ノミー(economy)を表すエコ(eco)と,家畜用飼 料のフィード(feed)を併せた造語で「エコフィー ド(ECOFEED) 」と呼んで,有効な飼料自給率の向上 策として取り組みが進められつつある8,9).食品残さ の中でも,利用しやすい食品工場の製造粕類などは, これまでも既に飼料として利用されてきた.しかし, 農業生産の過程で大きさや形,あるいは損傷などの 理由で流通規格から外される規格外農産物は,水分 が高く,排出時期が一時期に偏るなどの理由で,利 用しにくい食品残さとして未利用のまま廃棄される ことが多い.規格外農産物については,資源の有効 活用という点で検討を必要とするだけではなく,青 果のままでは腐敗しやすいため悪臭等の環境汚染の 原因にもなり得ることを考えると,その活用対策は 重要な課題である.長崎県の主要な農産物の一つで あるバレイショは選別過程で大量の規格外品を発生 している35).バレイショは連作されることが多く, 病害の蔓延を防止するために規格外品の圃場還元は 敬遠されている.そのため,これら規格外品のうち 自家消費仕向け以外はやむなく廃棄処分されてきた が,今後は資源として有効な活用を検討する必要が ある.バレイショの国内消費内訳において,昭和40 年度には15%が飼料用として利用されてきたが,平 成18年度には0.2%とほとんど飼料としては利用さ れていない44).これは,畜産生産者が貯蔵や加工調 製に問題のあるバレイショより,自動給餌機等の利 用可能な輸入穀物を飼料とした省力的な多頭飼養を 行ったためと思われる.結果として生産コストが引 き下げられ,増加していくわが国の畜産物需要に対 応できた.しかし,最近の燃料用エタノール生産に よって,トウモロコシ価格が急激に高騰したことで, 輸入穀物に依存するわが国の畜産業は大きく混乱し た.このような中,規格外バレイショを飼料として 見直すことは,廃棄されている地域農業副産物を利 用した資源循環型畜産のモデルになり,国内飼料自 給率の向上につながると思われる.なお,この取り 組みによって,廃棄されてきたバレイショの処理経 費が削減できるとともに,畜産経営においては飼料 費節減の可能性もある. 近年の消費者の関心は,食に対する安全・安心の 意識の高まりに伴い,畜産物の生産過程にまで広 がってきている.そのため,生産状況の把握できる 地域特産の農産物を飼料原料として利用すること は,消費者の安心感の確保につながり,地産地消政 策にも貢献できる37).しかし,スムーズな資源循環 を行うためには,最終的なコスト負担者である消費 者の購入意欲を喚起するインセンティブが必要と思 われる.近年,パンくずや小麦由来のデンプン質飼 料を肥育豚に多給することで筋肉内に脂肪含量の多 い,いわゆる「霜降り豚肉」を生産し,通常の豚肉 より高額で販売している事例もみられる15).これは, リジン等の必須アミノ酸含量が低い飼料を給与する ことで,筋肉内脂肪合成が促進するためと考えられ ている15,16,22,25,67,68,71).この原理を応用してパンくず 同様にデンプン質に富むバレイショを飼料原料とす -4ることで,筋肉内脂肪含量の高い高品質な豚肉を生 産できる可能性がある.筋肉内脂肪含量が増加する と柔らかさ,風味等の食味性が向上するとされてい る3,12)ことから,この方法で生産した豚肉を付加価値 の高い食肉として販売することで,バレイショの飼 料化に要するコストを相殺できる可能性がある. しかし,規格外バレイショの栄養成分を損なわな い飼料利用法や調製した飼料が生産性や肉質に及ぼ す影響は未解明である.特に,豚肉において筋肉内 脂肪含量の増加が食味や肉質に及ぼす影響に関する 研究は少ない.そこで本試験では,地域農業副産物 を活用した資源循環型畜産のモデルとして,規格外 バレイショの飼料化と,その飼料を用いた高品質な 豚肉生産の可能性について検討した.また,その豚 肉について,食味試験と理化学的分析を行うことに よって食肉としての総合的な特性について検討を 行った.さらに,生産農家において年間を通じた実 証試験を実施し,規格外バレイショを飼料利用した 養豚経営の経済性についても検討を加えた. このような農業副産物を活用した資源循環型畜 産の推進には,生産物を消費者のニーズにあったも のとすることが重要と思われる.元来,地域で生産 した農産物を飼料としてブタを飼養することは,地 域の風土に合った作物を利用した自然な家畜飼養方 法と言える.このような自然な飼養管理法により生 産した畜産物を購入する消費者として,LOHAS (Lifestyles of Health and Sustainability)層と いわれる健康や環境問題に関心の高い自然志向な消 費層が考えられる4).また,これまでの養豚業では, 生産性を重視した集約的な飼養管理方法が採られて きたが,近年,ヨーロッパを中心に家畜福祉や有機 畜産の観点から,ブタの本来もつ行動特性を発揮で きる放牧や屋外飼養を取り入れた養豚経営がみられ るようになってきた60).したがって,地域風土に適 応した屋外飼養による養豚を検討することも,自然 志向の消費層のニーズに合致し,耕作放棄地が拡大 する地域の放棄地解消および活性化策にもつながる 可能性がある.そこで本研究では,地域農業副産物 を飼料とした高品質豚肉生産方法のさらなる展開策 の一つとして,屋外飼養を取り入れた資源循環型養 豚業の可能性も検討に加えた.豚肉の食味特性は育 種改良のみならず飼養管理にも影響される59)ことか ら,飼養環境(屋外飼養vs.屋内飼養)や給与飼料(規 格外バレイショ飼料vs.市販飼料)の組み合わせが肥 育豚の生産性および肉質に及ぼす影響を調査するこ とによって,多様化する消費者ニーズに対応した豚 肉生産の可能性を検討した.さらに,異なる飼養環 境や給与飼料での飼養は動物体の筋肉に生理的な変 化を及ぼし,食肉の特性にも影響する可能性が考え られるため,肥育豚の生産性および肉質と併せて, 行動特性や食肉を構成する筋肉の運動代謝機能に及 ぼす影響についても検討を行った. 本論文は6章から成り,第1章では農業副産物で ある規格外バレイショを飼料に利用して高品質な豚 肉を生産する本研究の背景と目的について述べた. 第2章では,養豚飼料として規格外バレイショを主 原料としたサイレージを調製し,その品質および保 存性について検討した.第3章では4節に亘って, 第2章で調製したバレイショ混合サイレージを給与 した肥育豚の生産性および肉質について検討した. まず,第1節ではバレイショ混合サイレージの給与 が肥育豚の発育および生産性に及ぼす影響について, 第2,3節では生産された豚肉の食味官能検査およ び理化学的分析を行った.続いて,第4節では,バ レイショ混合サイレージを給与した豚の健康状態を 把握するために,血液性状に関する調査を行った. 第4章では,養豚生産者の協力のもとに現地実証試 験を実施して,規格外バレイショを飼料として利用 する肥育方法について,経営的側面から分析を行っ た.第5章では,消費者の食肉に対する嗜好の多様 性を加味し,規格外バレイショを飼料として利用す ることと昼間屋外で飼養することの組み合わせが肥 育豚の行動,生産性,肉質および筋線維特性に及ぼ す影響について検討した.そして,最後の第6章で は各章で得られた結果を総合的に考察し,本研究の 成果を学術的に総括した. -5- 第2章 規格外バレイショを主原料としたサイレージの調製および その化学成分と発酵品質 1 緒言 農業生産の過程で大きさや形,あるいは損傷など の理由で流通規格から外される農業副産物は水分が 高く,排出時期が一時期に偏るため,有効活用され ず未利用のまま廃棄されることが多い.本章では, そのような地域農業副産物を活用した資源循環型畜 産のモデルとして,規格外バレイショを飼料材料と して活用する方法について検討した. 現在,水分の高い食品残さを飼料化する加工法と して乾燥方式,リキッドフィーディング方式および サイレージ調製方式がある(配合供給安定機構 2006) .乾燥方式には,油温減圧脱水乾燥,ボイル乾 燥および高温乾燥などがあり,いずれの方式も毎日 排出される食品製造残さの加工処理には利用しやす いが,排出時期が一時期に限られる規格外バレイ ショでは処理機の運営が難しい.また,リキッド フィーディング方式は湿潤状態で飼料を加工するこ とから,水分が高いバレイショにも利用可能な処理 方法と思われるが,利用するには粉砕器,キッチン およびパイプライン等の施設整備が必要になり,初 期投資が課題と思われる.サイレージ調製において は,これまでカンショおよびバレイショ等のイモ類 は糠類と混合して調製することで,保存性を高めた 養豚飼料として利用できることが知られている 24,33) .また,大豆粕等でタンパク質の不足を補うこ とで,バレイショは風乾物換算で濃厚飼料の40%を 代替できるとの報告もある74).しかし,輸入穀物を 飼料とした自動給餌機による養豚業の多頭化が進ん だことで,このようなイモ類のサイレージは利用さ れなくなった.これまでの研究は収穫した水分の高 いバレイショを飼料原料として糠類と保存するため のサイレージ調製技術が主流であった.そのため, 本試験では給与時の再配合の必要がないように,あ らかじめ肥育豚用に栄養設計を行ってバレイショと 他の飼料原料とを混合した後に保存する混合サイ レージによる貯蔵法を検討することとした.本章で は,規格外バレイショを他の飼料と混合したサイ レージを調製し,その化学成分,発酵品質および保 存性について調査するとともに,貯蔵する容器とし て,密閉型ドラム缶(試験1)とフレコンバッグ(試験 2)を用いる方法についても比較検討した. 2 材料および方法 規格外バレイショを主原料にした混合サイレー ジの調製試験を2回行った. 試験1 本試験では,2005年5月に,長崎県内のバレイショ 集出荷施設で規格外と格付けされたバレイショを他 の飼料原料と混合して,サイレージ調製を行った. サイレージの調製過程を図2-1に,またその調製の様 子を図2-2に示した.調製方法としては,まず水洗し た規格外バレイショを細断機で1∼2cm程度の厚さに 細断後,表2-1に示した配合割合で他の飼料原料と混 合して密閉容器(プラスチック製密閉型ドラム缶) に貯蔵し,サイレージ発酵させた.なお,配合に当 たっては,バレイショの含有率は原物割合で50%と し,TDN含量は75%に,またリジン含量は日本飼養標 準・豚41) に示された要求量の80%程度になるように 設計した. 表 2-1 バレイショ混合サイレージの配合割合(試験 1) 飼料原料 割合 (%原物) バレイショ 50.0 トウモロコシ 35.0 コーングルテンフィード 8.2 大豆粕 3.0 シロップ廃液 2.0 その他(油脂,ビタミン,ミネラル等) 1.8 表 2-2 バレイショ混合サイレージの配合割合(試験 2) 飼料原料 割合 (%原物) バレイショ 50.0 トウモロコシ 40.0 大豆粕 5.0 シロップ廃液 3.0 2.0 その他(油脂,ビタミン,ミネラル等) -6- 水洗 細断 撹拌・混合 詰め込み 給与 貯蔵・ サイレージ発酵 図 2-1 バレイショ混合サイレージの調製工程 1.水洗 3.攪拌・混合 5.開封 2.細断 4.詰め込み 6.給与 図 2-2 バレイショ混合サイレージの調製写真 -7- 2.脱気・封入 1.詰め込み 3.運搬 4.貯蔵 図 2-3 フレコンバッグによるバレイショ混合サイレージの調製写真 表 2-3 試験1におけるバレイショ混合サイレージの発酵に伴う栄養成分の変化 設計値 調製時 開封時 (0日) (40日) 水分 (%) 48.1 49.1 47.1 粗タンパク質(%)1) 11.9 11.3 11.6 4.0 3.8 4.0 粗脂肪 (%)1) 可溶性無窒素物 (%)1) 63.3 64.7 64.8 2.8 2.9a 2.3b 粗繊維 (%)1) 5.0 4.3 4.4 粗灰分 (%)1) リジン(%)1) 0.44 0.44 0.40 1)水分以外は風乾物(水分 13%)換算 a-b:P<0.05 表 2-4 試験 2 におけるバレイショ混合サイレージの発酵に伴う栄養成分の変化 設計値 調製時 開封時 (0日) (60日) 水分 (%) 48.2 48.3 49.2 粗タンパク質(%)1) 11.0 11.5 11.8 粗脂肪 (%)1) 3.7 4.2 4.0 可溶性無窒素物 (%)1) 65.9 65.6 65.1 粗繊維 (%)1) 1.8 1.8 1.8 粗灰分 (%)1) 4.6 3.9 4.3 リジン(%)1) 0.46 0.46 0.46 1)水分以外は風乾物(水分 13%)換算 -8試験2 試験1と同様の方法で2006年6月にバレイショを 主原料とした混合サイレージを調製したが,詰め込 みの工程については図2-3に示したとおり,バレイ ショ混合サイレージ400kgを内袋付きのフレコン バッグに詰め,脱気封入した.また,本試験では, バレイショの含有率は試験1と同様に原物割合で 50%としたが,TDN含量は77%に,リジン含量は日本 飼養標準・豚41)に示された要求量の80%程度になる ように設計した.配合割合は表2-2に示した. バレイショ混合サイレージの品質の調査項目とし て,サイレージの調製時と発酵後の栄養成分の変化, pH,乳酸および揮発性脂肪酸(VFA)含量,α-ソラニ ンおよびα-チャコニン含量を測定した.試験1およ び試験2で調製したサイレージの調製時と発酵後(試 験1では40日後,試験2では60日後)の試料を60℃で通 風乾燥し,水分,粗タンパク質,粗脂肪,可溶性無 窒素物,粗繊維および粗灰分含量を定法により分析 した66).リジン含量については,通風乾燥した試料 を塩酸加水分解後,高速液体クロマトグラフィーに より(社)長崎県食品衛生協会にて分析した66).ま た,各試験のサイレージ(試験1では調製40日後,試 験2では調製60日後)30gに蒸留水170gを加え,一晩浸 透抽出後にろ過した発酵品質調査試料を用いて,pH を測定した後,高速液体クロマトグラフィーで直接 UV法により乳酸および揮発性脂肪酸(VFA)含量を測 定した19). また,バレイショは緑化または発芽すると有毒の グルコアルカロイドが合成されることから,サイ レージのメタノール抽出液をカラムTSK-gel Supre ODS (2×100mm),溶媒0.1%ギ酸-アセトニトリル (80:20)を用い,MS/MS部はMRMモードで液体クロマ トグラフィー質量分析計(LC/MS/MS)により,αソラニンおよびα-チャコニン含量の測定を行った. バレイショ混合サイレージをフレコンバッグに貯 蔵した試験2については,開封後の2次発酵を調査す るため,サイレージ開封後の品温およびpHの推移を 2006年8月9∼15日の6日間調査した.サイレージは開 封後,直射日光の当たらない屋内に置き,サイレー ジ表面から5cm内部の温度と外気温をデータロガー により1時間間隔で記録した.pHは開封時から48時間 間隔で調査した.また,フレコンバッグに詰めたサ イレージにおける部位間の水分含量とpHの違いを比 較するため,貯蔵60日後にフレコンバッグ内の上層 (表面から5cm内部),中心部,下層(底から5cm内部) の3部位における水分含量およびpHを調査した. 統計処理として,バレイショ混合サイレージの発 酵に伴う栄養成分の変化については,サイレージ調 製日と発酵後の平均値をt-検定により比較した.ま た,フレコンバッグ内の部位による水分含量および pHはTukeyの方法で平均値の差の検定を行った. 3 結果および考察 バレイショ混合サイレージの発酵に伴う栄養成分 の変化を表2-3(試験1)および表2-4(試験2)に示 した.試験1のサイレージの発酵に伴う変化として, 粗繊維含量が2.9 % から 2.3 %へと減少した (P<0.05)以外,他の栄養成分に顕著な変化は認めら れなかった.また,試験2においては調製時と発酵後 の栄養成分に差は認められなかった.試験1と試験2 では配合割合および貯蔵容器が異なるが,両試験と もほぼ設計どおりの栄養成分であり,発酵に伴う栄 養成分の変化にも大きな差は認められなかった. バレイショ混合サイレージにおけるpH,乳酸およ び揮発性脂肪酸を表2-5に示した.乳酸含量は試験1 で3.56%,試験2では3.19%と高い値を示し,一方, pHは試験1で3.85,試験2で4.01と低い値を示した. これは,飼料原料であるシロップ廃液等に含まれる 糖類が発酵基質として利用されたため,乳酸生成と 共にpHの低下につながったと考えられる.これまで 表 2-5 バレイショ混合サイレージにおける pH, 乳酸および揮発性脂肪酸含量 試験1 試験2 pH 3.85 4.02 乳酸 (%) 3.56 3.19 酢酸(%) 1.04 0.99 プロピオン酸(%) 0.17 0.01 i-酪酸(%) 0.32 ND n-酪酸(%) 0.10 ND ND:検出できない 表 2-6 バレイショ混合サイレージに含まれるグルコアル カロイド含量 試験1 試験2 α-ソラニン(mg/kg) 7.4 3.3 α-チャコニン(mg/kg) 5.4 8.0 -9- バレイショは,糠類と混合してサイレージ調製され る例が多かった33)が,本試験で用いたバレイショを 主原料とする配合方法でも,栄養成分の損失の少な い良質なサイレージの調製が可能であると判断され た. バレイショ混合サイレージに含まれるグルコアル カロイド含量を表2-6に示した.バレイショでは,緑 化および発芽により中毒物質のグルコアルカロイド であるα-ソラニンおよびα-チャコニンが合成され ることが知られている.通常ヒトにおけるα-ソラニ ンのLD50値は450mg/kgとされ,中毒量は250∼400mg/ 日とされている73).本試験で調製したバレイショ混 合サイレージに含まれるα-ソラニンは,試験1で 7.4mg/kg,試験2で3.3mg/kgと低値であり,本サイ レージの場合33kg以上摂取しないとヒトの中毒量に は達しない.これは,集出荷施設において規格外と 格付けされた新鮮なバレイショを飼料原料として用 いているため,緑化や発芽個体の少ないことが理由 と考えられる.しかし,バレイショを家畜飼料とし て利用する際には,グルコアルカロイドによる中毒 を防ぐため,光に曝露されていないものを用いるか, 緑化しているものは除外する等の措置が必要であろ う. フレコンバッグに貯蔵した試験2におけるバレイ ショ混合サイレージの開封後の温度とpHの推移を図 2-4に示した.サイレージの開封時は夏季で,外気温 は最低25℃から最高37℃を推移し,日最高気温はい ずれも30℃を超える真夏日であった.しかし,サイ レージの品温は30℃前後で,pHも4.0前後で安定して いた.これまでウシ用混合飼料(TMR)をフレコンバッ グに発酵貯蔵したTMR飼料は好気条件下においても 品温が変化しにくいことが報告されている42).バレ イショ混合サイレージにおいても同様に品温および pHに大きな変化は認められず,また開封後のカビの 発生もなく,好気的な2次発酵は少ないことが明かと なった. - 10 - 表 2-7 フレコンバッグに貯蔵したバレイショ混合サイ レージの部位における水分と pH 水分(%) pH 上層 51.0ab 4.00 中心部 47.2b 4.07 下層 53.2a 4.10 a-b:P<0.05 フレコンバッグにおける部位間の水分の違いを表 2-7に示した.水分含量は下層部で53.2%,上層部で 51.0%および中心部で47.2%と,バッグ内の部位間 に差異を示した(P<0.05).しかし,バッグ内に廃汁 は認められず,運搬および給与に問題になることは なかった.また,pHにおいてもバッグ内の部位間に 差は認めらなかったことから,フレコンバッグに貯 蔵したバレイショ混合サイレージの品質は部位間の 差の小さい安定したものと考えられた. 以上の結果より,規格外バレイショは水洗,細断 の後,他の飼料と混合しサイレージ発酵させること で,乳酸含量が高く,栄養損失の少ない飼料として 利用できることが明らかとなった.また,サイレー ジ調製に用いた容器である密閉型ドラム缶(試験1) とフレコンバッグ(試験2)は,どちらも栄養損失が 少ない良質な発酵が認められたが,フレコンバッグ の方が安価で取り扱いに優れるとともに開封後の2 次発酵も少ないことから,機能性に富むサイレージ の貯蔵・発酵容器と思われた. 4 摘要 地域の農業副産物を飼料利用する目的で,規格外 バレイショを他の飼料と混合したサイレージを調製 し,その品質および保存性を検討した.試験1では, 水洗した規格外バレイショを細断機で細断後,他の 飼料と混合して密閉容器に貯蔵し,サイレージ発酵 させた.試験2では,試験1と同様に調製した飼料原 料を内袋入りのフレコンバッグに詰め,脱気封入し た.配合に当たり,バレイショの含有量は原物割合 で50%とし,TDN含量は要求量を充足するように,ま た,リジン含量は要求量の80%程度になるように設 計した. 調査項目として,バレイショ混合サイレージの調 製時と発酵後の栄養成分の変化,pH,乳酸および揮 発性脂肪酸(VFA)含量,α-ソラニンおよびα-チャコ ニン含量を測定した.また,サイレージをフレコン バッグに貯蔵した試験2については,開封後の品温お よびpHの推移,またフレコンバッグ内各部位におけ る水分含量およびpHを調査した. 調製したサイレージは試験1および試験2のいずれ においても乳酸含量が高く(試験1:3.56%,試験2: 3.19%) ,pHの低い(試験1:3.85,試験2:4.01)良 質なもので,発酵に伴う栄養成分の変化も小さく, 中毒物質であるα-ソラニンおよびα-チャコニンの 含量も低かった.試験2のフレコンバッグサイレージ では,開封後の品温とpHは安定していた.水分含量 はフレコンバッグの部位間で若干の差異を示すもの の,廃汁は認められなかった.また,pHにおいても 部位間の差は認めらなかった. 以上の結果より,規格外バレイショは,水洗,細 断の後,他の飼料と混合しサイレージ発酵させるこ とで,乳酸含量が高く栄養損失の少ない飼料として 利用できることが明らかになった. - 11 - 第3章バレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の産肉性に及ぼす影響 第1節 バレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の発育,飼料利用性ならびに枝肉成績に及ぼす影響 1 緒言 第2章において,規格外バレイショを水洗,細断 の後,他の飼料原料と混合してサイレージ発酵させ ることで,乳酸含量が高く栄養損失の少ない飼料と して保存でき,廃棄されている規格外バレイショを 家畜飼料として有効活用できる可能性が示唆され た. このバレイショ混合サイレージを肥育豚へ給与 し資源循環を行うためには,最終的なコスト負担者 である消費者の購入意欲を喚起するインセンティブ が必要と思われる.近年,食品残さであるパンくず や小麦由来のデンプン質飼料を肥育豚に多給するこ とで筋肉内に脂肪含量の高い,いわゆる「霜降り豚 肉」を生産し,通常の豚肉より高品質な豚肉として 販売している事例がある15).このような筋肉内脂肪 の増加は,リジン等の必須アミノ酸含量が比較的低 い飼料を給与することで,筋肉内脂肪合成が促進す るためと考えられている15,16,22,25,67,68,71).この原理を 応用してパンくず同様にデンプン質に富むバレイ ショを飼料原料とすることで,筋肉内脂肪含量の高 い高品質な豚肉を生産できる可能性がある. しかし,リジンはブタの第一制限アミノ酸であ り,増体に影響するとされている41).そのため,ト ウモロコシと大豆粕を主原料に作成された市販飼料 の多くは,飼養標準に示された要求量を充足するよ うに単体アミノ酸のリジンが添加されている.また, 低リジン飼料の給与は筋肉内脂肪含量の増加ととも に背脂肪厚を増大させるという報告16,25,71)もある.そ のため,低リジン飼料により筋肉内脂肪含量が増加 した高品質な豚肉が生産できても,生産性および背 脂肪等の枝肉成績の低下が懸念される.そこで本章 第1節では,第2章で調製したバレイショ混合サイ レージを肥育豚に給与し,発育,飼料利用性ならび に枝肉成績に及ぼす影響を検討した. 2 材料および方法 給与試験は,飼料設計およびサイレージの貯蔵容 器の違いから試験1(第1期:2005年7∼10月,第2期: 2006年2∼5月)と試験2(2006年7∼9月)とした. 試験1 給与試験1として,第2章の試験1に示した方法で 2005年5月に調製したバレイショ混合サイレージを 用いた第1期試験(2005年7∼10月)と,同様の方法 で2005年12月に調製したサイレージを用いた第2期 試験(2006年2∼5月)を行った.供試豚には,三元 交雑豚(WL・D,平均体重63.4kg)22頭(去勢11頭, 雌11頭)をバレイショ混合サイレージ〔成分:水分 47.1%,粗タンパク質11.6%,粗脂肪4.0%,可溶性 無窒素物64.8%,粗繊維2.3%,粗灰分4.4%,リジ ン0.40%(水分以外は風乾物(水分13%)換算)お よびTDN設計値75.0%〕を給与するバレイショ給与区 10頭(第1期6頭,第2期4頭)と,市販配合飼料〔成 分: 水分10.3%,粗タンパク質16.6%,粗脂肪 4.0%,可溶性無窒素物59.2%,粗繊維2.9%,粗灰 分4.4%,リジン0.76%(水分以外は風乾物(水分 13%)換算)およびTDN表示値77.0%以上:伊藤忠飼 料,東京〕を給与する対照区12頭(第1期8頭,第2 期4頭)とに性比を考慮して区分けした.両区ともに 群飼,不断給餌とし,各区の平均体重が110kgに達す るまで肥育した. 試験2 第2章の試験2に示した方法で調製したバレイ ショ混合サイレージを用い,給与試験2を実施した. 供試豚には,三元交雑豚(WL・D,平均体重60.6kg) 15頭(去勢7頭,雌8頭)を,バレイショ混合サイレー ジ〔成分:水分49.2%,粗タンパク質11.8%,粗脂 肪4.0%,可溶性無窒素物65.1%,粗繊維1.8%,粗 灰分4.3%,リジン0.46%(水分以外は風乾物(水分 13%)換算)およびTDN設計値77.0%〕を給与するバ レイショ給与区8頭(去勢4頭,雌4頭)と,市販配合 飼料(伊藤忠飼料, 東京)を給与する対照区7頭(去 勢3頭,雌4頭)とに区分した.両区ともに群飼,不 断給餌とし,各区の平均体重が110kgに達するまで肥 育した. - 12 - 表 3-1 試験 1 におけるバレイショ混合サイレージが肥育豚の増体量, 飼料摂取量および飼料要求率に及ぼす影響 対照区 バレイショ給与区 (n=12) (n=10) 第1期(2005.7∼10) (n=8) (n=6) 開始時体重 (kg) 63.1 62.2 終了時体重 (kg) 112.8 111.3 肥育期間 (日) 70 91 540B 1日当たり増体量 (g/日) 710A 2614 2935 飼料摂取量1) (g/日) 3.68 5.44 飼料要求率1) 第2期(2006.2∼5) (n=4) (n=4) 開始時体重 (kg) 63.9 64.4 終了時体重 (kg) 113.1 112.3 肥育期間 (日) 49 67 715B 1日当たり増体量 (g/日) 1005A 3612 3094 飼料摂取量1) (g/日) 3.59 4.33 飼料要求率1) A-B 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.01) 1) バレイショ混合サイレージ摂取量および要求率は風乾物(水分 13%) に換算した 表 3-2 試験 2 におけるバレイショ混合サイレージが肥育豚の増体量, 飼料摂取量および飼料要求率に及ぼす影響 対照区 バレイショ給与区 (n=7) (n=8) 開始時体重 (kg) 61.2 60.6 終了時体重 (kg) 110.5 109.5 肥育期間 (日) 61 70 1日当たり増体量 (g/日) 814a 695b 飼料摂取1) (g/日) 3154 2709 3.90 3.90 飼料要求率1) A-B 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.01) 1) バレイショ混合サイレージ摂取量および要求率は風乾物(水分 13%) に換算した 試験1および試験2ともに,毎日の飼料給与量およ び残飼により飼料摂取量を算出し,週1回の体重測定 により,増体量および飼料要求率を求めた.また, 枝肉成績は屠畜冷蔵24時間後に右枝肉半丸の屠体 長,屠体幅および背脂肪厚を豚産肉能力検定38)に基 づき測定した. 統計処理は,Harvey11)の最小自乗分散分析ソフト LSMLMWを用いて,飼料(バレイショ給与区,対照区) および性を主効果とした2元配置分散分析を行った. 3 結果および考察 試験1で用いたバレイショ混合サイレージは日本 飼養標準・豚41)におけるTDN要求量(75.0%)を充足 するよう設計したが,リジン含量は0.40%と飼養標 準に示された要求量(0.56%)より低い.また試験2 に用いたバレイショ混合サイレージも同様にTDN含 量は市販配合飼料と同等の77.0%になるように設計 したが,リジン含量は0.46%と飼養標準に示された 要求量の80%程度であった. 試験1におけるバレイショ混合サイレージが発育 成績に及ぼす影響を表3-1に示した.各項目におい て,飼料と性の交互作用は認められなかったことか ら各試験区の最小自乗平均値を表示した.発育成績 は飼料間では差が認められ,バレイショ給与区の増 体量は対照区より有意に小さかった(第1期539.6 vs. 709.8g/日,第2期714.6 vs. 1005.1 g/日, - 13 - P<0.01).そのため,出荷体重である110kgに達する までに要した日数は,バレイショ給与区で対照区よ り長い結果となった(第1期21日,第2期18日) .バレ イショ給与区における風乾物換算後の飼料摂取量 は,第1期では対照区より多い傾向にあったが,第2 期では少ない傾向にあった(第1期2935 vs. 2614g/ 日,第2期3094 vs. 3612g/日) .飼料要求率において は,バレイショ給与区で対照区より劣っていた(第1 期5.44 vs. 3.68,第2期4.33 vs. 3.59) . 一般に,飼料摂取量は環境温度が低いと増加し, 高いと減少するとされている41).試験1では試験期の 気象条件が異なり,第1期は飼養期間が2005年7∼10 月と夏季に当たり,最高気温が30℃以上の真夏日を 62日観測する猛暑であったのに比べ,第2期は2∼5 月と冬季から春季に当たり,平均気温は10℃と低 かった.市販配合飼料を給与する対照区の試験期に よる飼料摂取量の差は,環境温度の影響を顕著に示 しているものと考える.しかし,バレイショ給与区 の飼料摂取量は試験期による差は小さかった.増体 量については,両区とも夏季にあたる第1期が冬季か ら春季にあたる第2期より劣っていた.通年給与が考 えられるバレイショ混合サイレージ給与において, 環境温度および季節の違いが飼料摂取量や増体量に 及ぼす影響は重要であり,現地実証試験を行った第4 章でさらなる検証を行いたい.試験期により増体量 に差はあるものの,バレイショ給与区では対照区よ り明らかに増体が劣り,出荷に要した日数も長かっ た.Szaboら68)は,飼料中のタンパク源の違いとリジ ン含量が増体に及ぼす影響に関する研究において, 増体に及ぼす影響はタンパク源の違いよりリジン含 量で大きいことを報告している.また,リジン含量 の少ないパン添加飼料をブタに給与した場合,通常 肥育より増体が劣り,出荷に要した日数が18日長 かったと報告されている16).このことから,試験1で 供試したバレイショ混合サイレージの場合でも,リ ジン含量の少ないことが影響し,出荷に要した日数 が延長し,飼料要求率も高くなったものと思われる. 試験2におけるバレイショ混合サイレージ給与が 増体量,飼料摂取量および飼料要求率に及ぼす影響 を表3-2に示した.バレイショ給与区は対照区より有 意に増体量が劣った(695 vs. 814g/日,P<0.05)た め,出荷体重である110kgに達する日数は対照区より 9日間長くなった.しかし,風乾物換算した飼料摂取 量はバレイショ区が対照区より少なかったことから 飼料要求率では両区に差は認められなかった.また, 試験1では飼料要求率も対照区に比べ大きく劣って いたが,試験2では対照区と同程度の要求率となり飼 育成績の改善が認められた.試験1ではTDN含量は 75%と日本飼養標準・豚41)に示された要求量を充足 するように設計したが,試験2では市販配合飼料の表 示値と同じTDN含量77%で設計したことで,可溶性無 窒素物含量が多く,粗繊維含量が少なくなり,エネ ルギー含量が増加したため,飼育成績が改善したも のと思われる.また,試験2で調製したバレイショ混 合サイレージではリジン含量が0.46%と試験1の 0.40%より多いことも要因の一つと思われる.しか し,多くの報告15,16,22,25,67,68,71)と同様にリジン含量の 低い飼料ではリジン要求量を充足した飼料より増体 量の低下は明らかであった. 試験1および試験2におけるバレイショ混合サイ レージが枝肉成績に及ぼす影響を表3-3および表3-4 に示した.枝肉成績の各項目においても飼料と性の 交互作用は認められなかった.両試験とも,屠体重, 枝肉歩留,屠体長および屠体幅において飼料間に有 意な差は認められなかった.しかし,背脂肪の厚さ においては試験1ではバレイショ給与区で対照区よ り薄い傾向にあり,試験2では飼料間に差は認められ なかった.これまで,肥育豚を低リジン飼料で飼育 すると,筋肉内脂肪含量が増加するとともに背脂肪 厚の増大が懸念されていた16,25,71).しかし,Katsumata ら22)は等エネルギー,等タンパク質含量飼料を用い てリジン含量のみの影響を調査し,低リジンによっ て筋肉内脂肪は増加するが,背脂肪厚に有意な差は 認められないと報告している.本試験においても, 低リジン飼料であるバレイショ混合サイレージによ る皮下脂肪の増加は認められなかった.このことは 筋肉内脂肪と皮下脂肪の蓄積機構が異なる可能性を 示唆しており,バレイショ混合サイレージが肥育豚 の肉質に及ぼす影響を言及する本章第2および3節 において筋肉内脂肪含量およびその脂肪酸組成と併 せて考察したい. 以上の結果より,第2章に記載した方法で規格外 バレイショを主原料にリジン含量を日本飼養標準・ 豚41)に示された要求量以下になるように調製したバ レイショ混合サイレージの肥育豚(60∼110kg)への 給与は,市販配合飼料給与より増体量では劣るもの の,枝肉成績には影響を及ぼさないことが示唆され た. - 14 - 表 3-3 試験 1 のバレイショ混合サイレージが枝肉成績に及ぼす影響 対照区 バレイショ給与区(n=10) (n=12) 第1期 (n=8) (n=6) 屠体重 (kg) 73.9 71.6 枝肉歩留 (%) 65.4 64.3 屠体長(cm) 95.5 99.0 屠体幅 (cm) 34.9 35.8 1.7B 背脂肪厚 (cm) 2.4A 第2期 (n=4) (n=4) 屠体重 (kg) 73.8 73.8 枝肉歩留 (%) 64.6 65.8 屠体長(cm) 95.0 97.6 屠体幅 (cm) 35.5 35.1 背脂肪厚 (cm) 2.3 2.0 A-B 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.01) 表 3-4 試験 2 のバレイショ混合サイレージが枝肉成績に及ぼす影響 対照区 バレイショ給与区(n=8) (n=7) 屠体重 (kg) 79.0 78.6 枝肉歩留 (%) 71.4 71.7 屠体長(cm) 97.5 96.3 屠体幅 (cm) 35.1 35.9 背脂肪厚 (cm) 2.2 2.5 4 摘要 バレイショ混合サイレージの肥育豚への給与が 発育および生産性に及ぼす影響を検討した.給与試 験1は第2章の試験1に示した方法で調製したバレイ ショ混合サイレージを用い三元交雑豚(WL・D,平均 体重63.4kg)22頭をバレイショ混合サイレージを給 与するバレイショ給与区10頭と,市販配合飼料を給 与する対照区12頭とに区分けし,平均体重が110kg になるまで肥育を行った.給与試験2では第2章の試 験2に示した方法で調製したバレイショ混合サイ レージを用い,三元交雑豚(WL・D,平均体重60.6kg) 15頭をバレイショ混合サイレージを給与するバレイ ショ給与区8頭と,市販配合飼料を給与する対照区7 頭とに区分し平均体重が110kgに達するまで肥育し た.試験1および試験2ともにバレイショ給与区が対 照区より増体量で明らかに劣り,出荷体重である 110kgに達するまでに要した日数はバレイショ給与 区で対照区より長くなった(試験1:20日,試験2:9 日) .そのため,バレイショ給与区の飼料要求率は対 照区より劣る傾向にあった.しかし,背脂肪厚等の 枝肉成績においてバレイショ給与区と対照区に差は 認められなかった.以上の結果から,規格外バレイ ショを主原料にリジン含量を要求量以下になるよう に調製したバレイショ混合サイレージの肥育豚(60 ∼110kg)への給与は,市販配合飼料給与より増体量 では劣るものの,枝肉成績には影響を及ぼさないも のと考えられた. - 15 第2節 バレイショ混合サイレージの給与が豚肉の食味に及ぼす影響 1 緒言 これまで,豚の育種改良および飼養管理技術の開 発は,脂肪蓄積量の少ない赤肉重視の豚肉を低価格 で安定的に供給することを主眼に行われてきた.し かし近年,特徴ある豚肉を生産し,銘柄豚やブラン ド豚として販売することで収益性の向上を目指す取 り組みが見られるようになってきた.その特徴の一 つに筋肉内脂肪含量の高い,いわゆる「霜降り豚肉」 があるが,これは筋肉内脂肪が食肉の柔らかさや風 味等の食味の良さに関連が深いとされる3,12)ことに より他との商品差別化を図ろうとするものである. これまで育種改良により造成された「TOKYO-X」は筋 肉内脂肪含量の高いブランド豚肉として知られてい る13).また,飼養管理による高品質豚肉生産の取り 組みとして,パンくずや小麦由来のデンプン質飼料 を多給することで筋肉内脂肪含量の高い豚肉を生産 し,通常の豚肉より高額で販売している事例もみら れる15).これは,パンくず等の低タンパク質かつ高 デンプン質の飼料原料を添加することでリジン等の 必須アミノ酸含量が低くなり,そのため筋肉内脂肪 合成が促進するためとされている16,22). 本試験の目的の一つは,近年明らかにされつつあ るリジン制御による筋肉内脂肪含量の高い豚肉生産 技術15,16,22,25,67,68,71)を応用し,パンくず同様にデンプ ン質に富むバレイショを飼料原料に肥育豚に給与す ることで,筋肉内脂肪含量の高い高品質な豚肉生産 の試みである. そこで本節では,本章第1節の試験1においてバ レイショ混合サイレージを給与して生産した豚肉の 化学組成を調査するとともに,食味官能検査を行い, 豚肉の特徴を明らかにすることを目的とした. 2 材料および方法 第3章第1節の試験1のバレイショ混合サイレー ジを給与するバレイショ給与区10頭(第1期6頭,第2 期4頭)と,市販配合飼料を給与する対照区12頭(第 1期8頭,第2期4頭)について,枝肉調査を行った後, 最後胸椎部位で切断後,同部位から前方2胸椎分の胸 最長筋(ロース肉)を採材した.色差計を用いて採 取したロース肉の最後胸椎側3ヵ所で肉色(L*:明度, a*:赤色度,b*:黄色度)を測定した.次に,ロー ス肉を挽肉にし,牛肉の品質評価のための理化学分 析マニュアル2)に基づき,水分,粗タンパク質および 粗脂肪含量を測定した. 食味官能検査は,年齢構成25∼59歳からなる男性 26人と女性5人の計31人の長崎県畜産試験場職員を パネラーとして実施した.供試材料は,バレイショ 給与区と対照区から無作為に抽出した個体のロース スライス肉をほぼ同じ大きさ(2cm×2cm程度)にな るように整形した後,170℃のホットプレートにて表 30秒,裏25秒加熱したものを用いた.パネラーには, A:市販豚肉,B:バレイショ給与豚肉であることは 知らせず,Aに対するBの特性についての評価を依頼 した.調査項目として,香り,歯ごたえ,多汁性, 繊維感,旨み,風味,脂っぽさおよび総合評価につ いて,-2から+2までの5段階で評価したデータをSD 法(semantic differential method)により特徴を 明らかにした20). また,ロース肉の肉色および化学組成における統 計処理は,Harvey11) の最小自乗分散分析ソフト LSMLMWを用いて,飼料(バレイショ給与区,対照区) および性を主効果とした2元配置分散分析を行った. 食味官能検査は佐藤63)の方法に準じて,各項目の 平均点が0であると仮定したt-検定を行った. 3 結果および考察 バレイショ混合サイレージの給与がロース肉の化 学組成および肉色に及ぼす影響を表3-5に示した.ま た,代表的なロース断面の写真を図3-1に示した.脂 肪含量においては,バレイショ給与区で対照区より 有意に高く(第1期4.4 vs. 2.1%,P<0.01,第2期3.8 vs. 1.8%,P<0.05),タンパク質においては,バレ イショ給与区で対照区より低かった(第1期21.6 vs. 22.8%,P<0.01,第2期21.8 vs. 22.5%,P<0.05). また,肉色はバレイショ給与区で対照区より明度(L* 値)および黄色度(b*値)とも高い傾向を示した. これは,これまでの報告15,16,22,25,67,68,71)と同様に,リ ジン含量の低い飼料を給与することで,図3-1にみら れるとおり筋肉内脂肪含量の多い豚肉が生産された ものと思われる.通常,ブタのロース肉内粗脂肪含 量は2.0∼2.5%であるが,筋肉内脂肪含量が多い品 種とされる「TOKYO-X」のロース肉では5%程度と報 告されている15).本試験におけるバレイショ給与区 でのロース肉脂肪含量は3.8∼4.4%と高く, 「TOKYO- - 16 - 表 3-5 バレイショ混合サイレージの給与がロース肉の化学組成および肉色 に及ぼす影響 対照区 バレイショ給与区 (n=12) (n=10) 第1期 (n=8) (n=6) 化学組成 水分 (%) 74.0 73.3 タンパク質 (%) 22.8A 21.6B B 脂肪 (%) 2.1 4.4A 肉色 L* 値 48.4 50.1 a* 値 5.6 6.3 b* 値 7.6b 9.6a 第2期 (n=4) (n=4) 化学組成 水分 (%) 74.3 73.7 a タンパク質 (%) 22.5 21.8b b 脂肪 (%) 1.8 3.8a 肉色 L* 値 48.1 50.2 a* 値 5.1 6.0 b* 値 6.9 8.9 平均±標準偏差 A-B 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.01) a-b 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.05) バレイショ給与区 対照区 図 3-1 試験 1 におけるロース断面写真 - 17 - 香りの良さ(n=25) 悪い 香りの強さ(n=24) 強い 歯ごたえ(n=29) 硬い 多汁性(n=29) 少ない 繊維感(n=27) 荒い 旨みの程度(n=27) 弱い 風味の好ましさ(n=29) 悪い あぶらっぽさ(n=28) 弱い 総合評価(n=29) まずい 良い 弱い 柔らかい 多い 滑らか 強い 良い 強い 美味しい ** ** * ** ** -2 -1.5 -1 -0.5 0 0.5 平均点 1 1.5 2 図3-2 バレイショ混合サイレージを給与し生産した豚肉の食味官能評価 n=31,**:P<0.01,*:P<0.05 X」に近い値を示すことから,バレイショ混合サイ レージを給与することで筋肉内脂肪含量の高い,い わゆる「霜降り」の豚肉を生産できる可能性が示唆 された.肉色においては,バレイショ給与区で対照 区より明度(L*値)および黄色度(b*値)が高い傾 向にあった.これは,岩本ら16)の報告と同様に,筋 肉内脂肪含量が増加したことで,肉色の明度(L*値) が高くなったためと思われる. バレイショ混合サイレージを給与したロース肉の 食味官能評価を図3-2に示した.バレイショ給与区の 肉は対照区より有意に香りが弱く(P<0.01),柔らか く(P<0.01) ,旨みが強く(P<0.05) ,風味が良い (P<0.01)という特徴が示され,総じて美味しい (P<0.01)という評価が得られた. これまで,筋肉内脂肪含量が増加すると,食味官 能検査における柔らかさ,風味,多汁性といった肉 の食味が向上するとされている3,12)ことから,本試験 におけるバレイショ給与区の食味にも筋肉内脂肪含 量の高いことが好ましい効果を及ぼしたものと思わ れる.また,食肉の香りおよび風味は飼料の影響を 受けるとされている41)ことから,飼料原料であるバ レイショまたはサイレージ発酵による有機酸等が, 香りの弱さや風味の良さに影響したことも考えられ る.また,香りが弱いという評価について検査終了 後パネラーに聞き取りを行うと,豚肉特有の獣臭が 少ないとの評価が多かった.これらの各評価項目に おける高評価が相まって総合的に美味しいと評価さ れたものと推察される. 以上の結果から,規格外のバレイショを主原料と したサイレージの給与は,筋肉内脂肪含量が高く, 肉色は明るいなどの特徴と併せて柔らかく,臭いが 少なく,風味がよいという食味に優れる高品質豚肉 の生産を示唆するものと思われた. 4 摘要 バレイショ混合サイレージを給与し生産した豚 肉の特徴を明らかにすることを目的に,化学組成を 調査するとともに食味官能検査を実施した. バレイショ混合サイレージを給与するバレイ ショ給与区10頭と,市販配合飼料を給与する対照区 12頭について,ロース肉の肉色(L*:明度,a*:赤 色度,b*:黄色度) ,水分,粗タンパク質および粗脂 肪含量を測定した.また,バレイショ給与区と対照 区から無作為に抽出した個体の加熱したローススラ イス肉を,香り,歯ごたえ,多汁性,繊維感,旨み, 風味,脂っぽさおよび総合評価について,SD法 (semantic differential method)により食味官能 検査を実施した. その結果,ロース肉の脂肪含量は,バレイショ給 与区で3.8∼4.4%と対照区の1.8∼2.1%より高く ,肉色の明度(L*値)および黄色度 (P<0.01∼0.05) (b*値)も高い傾向にあった.食味官能検査の結果, バレイショ給与区は対照区より,有意に香りが弱く ,柔らかく(P<0.01) ,旨みが強く(P<0.05) , (P<0.01) 風味が良い(P<0.01)という特徴が示され,総じて 美味しい(P<0.01)という評価が得られた.以上の 結果から,規格外バレイショを主原料にリジン含量 を要求量以下になるように調製したバレイショ混合 - 18 サイレージの給与により生産された豚肉は,筋肉内 脂肪含量が高く,肉色は明るいなどの特徴と併せて 柔らかく,臭いが少なく,風味がよいという食味特 性を有していた. - 19 - 第3節 バレイショ混合サイレージの給与が豚肉の理化学的特性に及ぼす影響 1 緒言 本章前節では,規格外バレイショを主原料にリジ ン含量が日本飼養標準・豚41)の要求量以下になるよ うに他の飼料原料と混合したサイレージを調製し, 肥育豚(60∼110kg)に給与した.その結果,市販配合 飼料より発育は劣るが,筋肉内脂肪含量の高い豚肉 が生産され,食味官能検査においても香り(臭い) が弱く,柔らかくて,風味に富み,総合的においし いと評価されたことを示した.これらのことから, 地域の特産農産物の廃棄物(規格外バレイショ)を 飼料原料とした高品質な特産豚肉生産方法の可能性 が示唆された.しかし,これまで低リジン飼料の給 与により筋肉内脂肪含量が増加した豚肉の理化学的 特性を調査した研究は少ない.また,豆腐粕,ラー メン屑,パン屑,パスタ屑などの食品残さ物を主体 としたサイレージを給与したブタはやや軟脂の傾向 にあると報告されている31,39).一方,麦類,イモ類 に多く含まれるデンプンや糖類などの炭水化物は生 体内で飽和脂肪酸優勢の体脂肪に転換され脂肪を硬 くするともいわれている24,41).したがって,本節で は,前節の食味官能検査において,バレイショ混合 サイレージを給与し生産した豚肉は食味が良いと評 価された要因について理化学的に解明するととも に,バレイショ混合サイレージが皮下脂肪と筋肉内 脂肪における脂肪酸組成に及ぼす影響を調査した. 2 材料および方法 第3章第1節の試験2のバレイショ混合サイレー ジを給与したバレイショ給与区8頭(去勢4頭,雌4 頭)と,市販配合飼料を給与した対照区7頭(去勢3 頭,雌4頭)について,枝肉調査を行った後,左枝肉 から,胸最長筋およびその背側表層の皮下脂肪内層 を採材して理化学的調査試料とした.牛肉の品質評 価のための理化学分析マニュアル2)に基づいて,ロー ス肉の理化学的特性に関する調査を行った.各分析 用試料は,部位による影響を受けないように第4-5 胸椎断面から一定の距離で採材した.ロース肉の水 分,粗タンパク質および粗脂肪含量は第4-5胸椎断面 から後位0-5cmの胸最長筋をフードプロセッサーで 挽肉にして測定した.また,挽肉の残りは筋肉内脂 肪における脂肪酸組成用試料として分析に供するま で-70℃で保存した. 保水力(加圧ろ紙法)は,第4-5胸椎断面から後 位5-10cmの胸最長筋を筋線維に沿って約10×10× 5mmで450∼550mgになるように整形した肉片を直径 7cm(No.2)のろ紙にのせ,アクリル板に挟み,加圧 計を用い35kg/cm2fで1分間加圧してプラニメーター で測定した肉汁面積と肉片面積を用いて,次式によ り算出した. 保水力=〔1−(肉汁面積cm2−肉片面積cm2)×9.47〕 /(肉片重量mg×水分含量%)×100 加熱損失率は,第4-5胸椎断面から後位10-20cmの 胸最長筋を筋線維に沿って20×20×40mmの肉片(約 16g)に整形した試料をビニール袋に入れ脱気密封 後,70℃の温湯で1時間加温し,加熱により減少した 重量から算出した. 破断応力の測定は,加熱損失率を測定した試料を 10×10×40mmに整形し,カミソリ刃プランジャーを 装着したレオメータ(NRM-2010J-CW; FUDOH,東京) を用いて,2kgロードセルで6cm/分の試料台速度で 行った. 脂肪融点は,第4-5胸椎断面から後位0-5cmの背側 皮下脂肪内層を細断し,No.101のろ紙を用いて105℃ の恒温器で4時間溶解して,ろ過したものをガラス毛 細管に詰めて5℃で24時間保存した後,上昇融点法に より測定した.また,細断した皮下脂肪内層の残り は皮下脂肪における脂肪酸組成用試料として分析に 供するまで-70℃で保存した. 冷凍保存した皮下脂肪および筋肉内脂肪の脂肪 酸組成測定用試料については,融解後クロロホル ム・メタノール液(2:1 v/v)を用いて脂質を抽出し た後,0.5M水酸化カリウム・メタノール溶液を加え て80℃,10分間加熱し,ケン化した.ケン化物に14% 三フッ化ホウ素メタノール溶液を加え,環流しなが らメチルエステル化し,飽和食塩水で反応を止めた 後,n-ヘキサンで抽出した試料の一部をガスクロマ トグラフ(GC-17A;島津製作所,京都)でFID検出に より分析した.分析カラムには 内径0.32mm×30m ×膜厚0.25μmのガラス製キャピラリーカラム (OmegawaxTM320,スペルコ社製; シグマ アルド - 20 リッチ ジャパン,東京)を使用し,測定条件は注入 口温度200℃,検出器温度250℃,カラムオーブンの 初期温度70℃で2分間保持した後3℃/分の昇温後 250℃で10分間保持した. 統計処理として,Harvey11)の最小自乗分散分析ソ フトLSMLMWを用いて最小自乗分散分析を行った.豚 肉の理化学的特性については,飼料(バレイショ給 与区,対照区)および性を主効果とした2元配置分散 分析を行った.脂肪酸組成については,組織(皮下 脂肪,筋肉内脂肪) ,飼料(バレイショ給与区,対照 区)および性を主効果とした3元配置分散分析を行っ たが,組織と飼料との間に交互作用が認められたた め,組織ごとに飼料の効果を検定した. 3 結果および考察 バレイショ給与区と対照区のロース断面の写真 を図3-3に示した.バレイショ給与区のロース肉は対 照区より明らかに多くの筋肉内脂肪を含み,いわゆ る「霜降り」の様相を示した.バレイショ混合サイ レージの給与が豚肉の理化学的特性に及ぼす影響を 表3-6に示した.ロース肉の脂肪含量はバレイショ給 与区で対照区の約3倍高かった(6.0 vs. 1.9%, P<0.01).試験1のバレイショ混合サイレージを給与 した本章第2節では,バレイショ給与区は4.0%前後 の脂肪含量であったが,本節で用いた試験2では 6.0%と筋肉内脂肪含量が増加していた.試験時期や 供試豚も異なるため一概には判断できないが,試験1 と試験2ではTDN等の栄養設計が異なることが筋肉内 脂肪含量に影響した可能性もある.しかし,この結 果はこれまでのリジン含量の少ない飼料で生産した 豚肉に関する報告15,16,22,25,67,68,71)と一致し,低リジン 飼料による筋肉内脂肪の蓄積効果を顕著に示すもの と思われる.一方,ロース肉内の水分含量はバレイ ショ給与区で低かった(72.1 vs. 74.6%,P<0.05) が,これは脂肪含量の増加に代替して低下したもの と考えられた.また,ロース肉の化学的組成に性に よる差は認められなかった. ロース肉の物理的特性において,破断応力はバレ イショ給与区で対照区より有意に低かった(1164 vs. 1474g/cm2, P<0.01)が,加熱損失率および保水 力には試験区間での差はなかった.前節において, バレイショ混合サイレージを給与して生産した豚肉 は食味官能検査の結果,柔らかいという評価が得ら れているが,本試験のレオメータによる破断応力の 結果はこの点を科学的に証明するものと考えられ る.また,本試験の結果は筋肉内脂肪含量が増加す ると食肉の柔らかさは向上するとするこれまでの報 告3,12)とも一致するものと考えられる. ロース肉の物理的特性を去勢雄と雌とで比較する と,去勢雄は雌より加熱損失率で有意に低く(27.4 vs 29.2%, P<0.05),保水力で有意に高かった(76.2 vs. 73.3, P<0.05)が,破断応力には差はなかった. Unruhら70)は去勢の筋肉内脂肪含量が雌のそれより も多く,保水性も優れていると報告しており,本試 験でも同様の傾向が伺えた. バレイショ混合サイレージが皮下脂肪および筋 肉内脂肪の脂肪酸組成に及ぼす影響を表3-7に示し た.脂肪酸組成について,組織(皮下脂肪,筋肉内 脂肪) ,飼料(バレイショ給与区,対照区)および性 を主効果とした3元配置分散分析を行った結果,多く の脂肪酸で組織,飼料の効果および組織×飼料の交 互作用が認められたが,性の効果および組織×性, 飼料×性の交互作用は認められなかった.したがっ て,バレイショ混合サイレージの脂肪酸組成に及ぼ す影響は皮下脂肪と筋肉内脂肪では異なるものと考 えられたため,脂肪酸組成への影響を組織ごとに比 較した.その結果,バレイショ混合サイレージは, 皮下脂肪ではミリスチン酸(C14:0)およびパルミト レイン酸(C16:1)を有意に低下させた(P<0.05 ∼ 0.01)が,他の多くの脂肪酸には影響を及ぼさなかっ た.そのため,飽和,一価不飽和および多価不飽和 脂肪酸構成割合においても区間に差は認められな かった.また,皮下脂肪の融点に区間の差が認めら れなかったことも,脂肪酸組成に差がなかったこと によると思われる. ブタの体脂肪は摂取する飼料の影響を受けやすい とされている14).豆腐粕,ラーメン屑,パン屑,パ スタ屑などの食品残さ物を主体としたサイレージを 給与すると,豆腐粕に含まれるリノール酸とリノレ ン酸がブタの脂肪組織に移行し,軟脂をもたらす傾 向にあるとの報告がある31,39).また,麦類,イモ類に 多く含まれるデンプンや糖類などの炭水化物は生体 内で飽和脂肪酸優勢の体脂肪に転換され脂肪を硬く するともいわれている24,41).本試験で用いたサイ レージでは,主原料であるバレイショがデンプンを 多く含むことと,多価不飽和脂肪酸の多い豆腐粕等 を飼料原料に用いていないことが影響し,バレイ ショ給与区における皮下脂肪の融点および脂肪酸組 - 21 - 表 3-6 バレイショ混合サイレージの給与が豚肉の理化学的特性に及ぼす影響 飼料(F) 性(S) 対照区 (n=7) バレイショ給 与区 (n=8) ロース肉の化学組成 水分 (%) 74.6a 72.1b タンパク質 (%) 21.4 21.0 6.0A 脂肪 (%) 1.9B ロース肉の物性 加熱損失(%) 28.2 28.4 破断応力 (g/cm2) 1474A 1164B 加圧保水力 74.2 75.3 皮下脂肪の融点 (℃) 37.0 38.7 最小自乗平均値 AB, XY 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.01) ab, xy 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.05) NS : P>0.05, * : P<0.05, ** : P<0.01 成は対照区との間に差を示さなかったものと思われ る.また,皮下脂肪の融点は飼料および性による差 を示さなかった. 一方,筋肉内脂肪においては,パルミチン酸 (C16:0)およびオレイン酸(C18:1)がバレイショ給 与区で対照区より高く(P<0.01),パルミトレイン酸 (C16:1),リノール酸(C18:2),リノレン酸(C18:3), アラキドン酸(C20:4) ,エイコサペンタエン酸 (C20:5)およびドコサヘキサエン酸(C22:6)はバレイ ショ給与区で有意に低かった(P<0.05∼0.01).特に, バレイショ混合サイレージの給与によってオレイン 酸(C18:1)の増加とリノール酸(C18:2)の低下が顕著 であった.そのため飽和および一価不飽和脂肪酸の 構成割合ではバレイショ給与区が対照区より有意に , 高く(46.6 vs. 44.1%, 45.3 vs. 42.5%, P<0.05) 多価不飽和脂肪酸ではバレイショ給与区の方が低 かった (8.1 vs. 13.5%, P<0.01).これまで,食味 や香りに関して,オレイン酸の割合は正の相関を, リノール酸は負の相関を示すとの報告もあり69),筋 肉内での脂肪酸組成の違いは前節における食味官能 検査でバレイショ給与区の臭いが弱く,風味が良い と評価された要因の一つと思われる. また,オレイン酸の増加とリノール酸の低下は脂 肪酸合成酵素活性の上昇を示す22,30)ことから,本試 験のバレイショ給与区のロース肉で同様の結果が認 められたことは,バレイショ混合サイレージ給与に よっても筋肉内の脂肪酸合成が活性化されている可 能性を示唆する.これまで,ブタにおける背脂肪の 厚さは,枝肉全体の脂肪量に比例するとされており, 脂肪蓄積の指標とされてきた41).しかし,本試験の 分散分析 去勢 (n=7) 雌 (n=8) F S F×S 73.0 21.1 4.2 73.7 21.2 3.6 * NS ** NS NS NS NS NS NS 27.4Y 1275 76.2x 38.1 29.2X 1363 73.3y 37.6 NS ** NS NS * NS * NS NS NS NS NS バレイショ混合サイレージの給与では,背脂肪は厚 さにも脂肪酸組成にも大きな影響を受けなかった が,筋肉内においては特異的に脂肪含量の増加と脂 肪酸組成の変化が示されたことから,脂肪蓄積の作 用機序は組織の違いにより異なる可能性が考えら れ,非常に興味深い.この低リジン飼料の脂質代謝 における組織特異性に関するメカニズムは不明であ り,今後の検討課題と思われる. 以上の結果より,バレイショ混合サイレージの給 与は筋肉内脂肪の蓄積量を増加させるとともに,脂 肪酸組成ではオレイン酸含量を高めることによっ て,柔らかく風味の良い豚肉を生産できることが示 唆された.これらのことが,バレイショ混合サイレー ジを用いて生産した豚肉の食味が良いという評価に 繋がったものと考えられる. 4 摘要 肥育豚にバレイショ混合サイレージを給与したバ レイショ給与区 8 頭と,市販飼料を給与した対照区 7 頭を用い,ロース肉の化学組成(水分,粗タンパ ク質および粗脂肪含量) ,保水力(加圧ろ紙法) ,加 熱損失率,破断応力,皮下脂肪の融点,皮下脂肪お よび筋肉内脂肪の脂肪酸組成を比較した.筋肉内脂 肪含量はバレイショ給与区で対照区より有意に高 .ロース肉の破断 かった(6.0 vs. 1.9%, P<0.01) 応力はバレイショ給与区で対照区より有意に低い (1164 vs. 1474g/cm2, P<0.01)が,加熱損失率お よび保水力に試験区間差はなかった.皮下脂肪では 融点と脂肪酸組成のいずれにおいても給与飼料の違 いによる差は認められなかったが,筋肉内脂肪では - 22 バレイショ給与区が対照区より飽和および一価不飽 ,特にオレ 和脂肪酸の割合で有意に高かく(P<0.05) イン酸の増加(P<0.01)とリノール酸の減少(P<0.01) が顕著に認められた.以上の結果より,バレイショ 混合サイレージの給与は筋肉内脂肪の蓄積量を増加 させるとともに,オレイン酸含量を高めることに よって,柔らかく風味のよい豚肉を生産できること が示唆された. 対照区 図 3-3 バレイショ給与区 試験 2 における理化学的特性分析中のロース断面の写真 表 3-7 バレイショ混合サイレージの給与が背脂肪と筋肉内脂肪の脂肪酸組成に及ぼす影響 部位 背脂肪 脂肪酸(%) 分散分析 筋肉内脂肪 対照区 バレイショ給 対照区 バレイショ給 P F S P×F P×S F×S (n=7) 与区(n=8) (n=7) 与区(n=8) 2.6A 1.8B 1.7 1.7 ** NS ** NS NS ** C14:0 25.8 25.5 28.1Y 29.7X NS NS * NS NS ** C16:0 3.6a 3.0b 4.4x 3.9y ** NS NS NS NS ** C16:1 11.5 13.2 14.1 15.0 ** NS NS NS NS ** C18:0 38.7 39.3 38.1Y 41.4X ** NS * NS NS NS C18:1 16.0 15.7 9.8X 6.4Y * NS * NS NS ** C18:2 1.2 1.0 0.3X 0.2Y * NS NS NS NS ** C18:3 0.2 0.2 ND ND − − − − − − C20:0 0.4 0.4 2.9X 1.3Y ** NS ** NS NS ** C20:4 ND ND 0.2X 0.1Y − − − − − − C20:5 0.2 0.1 0.4X 0.1Y ** NS ** NS NS ** C22:6 SFA1) 40.0 40.5 44.1y 46.6x ** * NS NS NS NS MUFA2) 42.2 42.2 42.5y 45.3x ** * NS * NS NS 3) Y 17.7 17.3 13.5 8.1X ** ** NS ** NS NS PUFA 最小自乗平均値 分散分析における主効果 P:部位(背脂肪 vs.筋肉内脂肪) F:飼料 (対照区 vs.バレイショ給与区),S:性. 1)SFA, 飽和脂肪酸 2)MUFA, 一価不飽和脂肪酸 3)PUFA, 多価不飽和脂肪酸 AB, XY 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.01) ab, xy 横列異文字間に有意差が認められる ( P<0.05) NS: P>0.05, *: P<0.05, **: P<0.01 - 23 第4節 バレイショ混合サイレージが肥育豚の健康状態(血清生化学成分)に及ぼす影響 1 緒言 第2章では,農業生産の過程で排出される規格 外バレイショを主原料に肥育豚用のサイレージを 調製できることを示した.本章の第1∼3節では, そのサイレージの給与は増体量において市販飼料 に比べやや劣るものの枝肉成績には影響しないこ と,また筋肉内脂肪含量が高く,食味が良く,理化 学的にも特徴のある豚肉が生産でき,廃棄されてい る規格外バレイショの有効活用につながる可能性 を示した. 本試験でこれまでに得られた結果と同様に,低リ ジン飼料を給与することで筋肉内脂肪合成が促進さ れることはすでに報告されている15,16,22,25,67,68,71)が, 生理的にどのような作用機序で筋肉内の脂肪合成が 促進するのかについてはいまだ解明されていない. また,リジンはブタの発育に影響する第一制限アミ ノ酸であり,給与量が少ないと発育が低下すること は明らかである41).これまで養豚における飼養管理 に関する研究は生産性を重視して進められてきたた め,リジン含量が要求量以下の飼料を長期的に給与 した場合における肥育豚の健康状態に関する調査は 行われていない.低リジン飼料によって生じる筋肉 内への脂肪蓄積量の増加は,食味の向上をもたらす 反面,ブタの健康を損ねる可能性も考えられる.ま た,バレイショは緑化または発芽によってグルコア ルカロイドであるα-ソラニンおよびα-チャコニン が生成され,中毒が懸念される73).そこで,本節で は,筋肉内脂肪含量の増加を目的にリジン含量を日 本飼養標準・豚41)に示された要求量の80%に設定し たバレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の健康 に及ぼす影響を検討するため,血清生化学成分を調 査するとともに屠畜時の内蔵調査を行った. 2 材料および方法 第3章第1節の試験2のバレイショ混合サイレー ジを給与したバレイショ給与区8頭(去勢4頭,雌4 頭)と,市販配合飼料を給与した対照区7頭(去勢3 頭,雌4頭)について,血清生化学検査および屠畜時 の内蔵検査を実施した.血清生化学検査は給与試験 の開始前と開始後5および10週の3回行った.飼料給 与4時間後に頸静脈から採血し,血清を分離後,総タ ンパク質(TP) ,アルブミン(Alb),尿素態窒素(BUN) , γ-グルタミルトランスペプチダーゼ(GGT) ,アスパ ラギン酸アミノ基転移酵素(AST) ,乳酸脱水素酵素 (LDH) ,総コレステロール(T-Chol)および高比重 リポ蛋白コレステロール(HDL-C)についてスポット ケムSP-4410(アークレイファクトリー 滋賀)を用 いて測定した.また,アルブミン/グロブリン比(A/G =Alb/(TP−Alb) )およびHDLコレステロール/総コ レステロール比(HDL/T-Chol)については上記デー タから算出した. 統計処理には,Harvey11)の最小自乗分散分析ソフ トLSMLMWを用いて,飼料(バレイショ給与区,対照 区)および性を主効果とした2元配置分散分析を行 い,性比の違いを補正した各区の最小自乗平均値で 示した. 3 結果および考察 バレイショは発芽および緑化により中毒物質であ るα-ソラニンおよびα-チャコニンを生成するとさ れている.本試験で給与したバレイショ混合サイ レージに含まれるα-ソラニンは第2章に示したと おり3.3mg/kgとヒトにおけるLD50値450mg/kgやヒト における中毒量とされる250∼400mg/日73)よりはる かに少ない.そのため,試験期間中に摂取したソラ ニンは,1日当たり平均15mgであり,供試豚に中毒症 状は認められなかった. バレイショ混合サイレージ給与が血清生化学成分 に及ぼす影響を表3-8に示した.試験飼料の給与開始 前ではすべての測定項目において試験区間に差は認 められなかったが,試験飼料給与5および10週後で は,TP,AlbおよびBUNにおいてバレイショ給与区が 対照区より有意に低かった(P<0.01).これらは,バ レイショ混合サイレージが市販配合飼料より粗タン パク質含量で低いことに起因するものと考えられ る.これまで低タンパク質飼料を給与すると血中の TP,AlbおよびBUNが低下する低タンパク血症となり, ひいては増体の低下や発育遅延の恐れがあるとされ る34.ブタにおける血液性状の参考値として11農場 440頭の平均値の95%信頼区域は,TP:5.2-8.3g/dL, Alb:1.9-4.2g/dL, BUN:7.2-24.0mg/dLとされる21) ことから,本試験のバレイショ給与区においてもほ ぼ正常値にあると考えられる. また,肝機能障害や臓器の炎症の指標となるGGT, - 24 - 表 3-8 バレイショ混合サイレージ給与が血液性状に及ぼす影響 対照区 バレイショ給与区 (n=7) (n=8) 給与開始前 TP (g/dL) 6.8±0.1 6.5±0.1 (g/dL) 3.7±0.1 3.5±0.1 Alb 1.2±0.1 1.2±0.1 A/G BUN (mg/dL) 16.9±0.9 16.3±0.8 (IU/L) 23.1±9.1 33.4±8.4 GGT (IU/L) 22.8±13.8 47.1±12.8 AST LDH (IU/L) 526±86 633±80 (mg/dL) 86.1±1.5 83.3±1.4 T-Chol (mg/dL) 36.1±1.7 37.5±1.6 HDL-Chol HDL/T-Chol (%) 41.9±2.0 44.9±1.9 5 週後 TP (g/dL) 7.0±0.1A 6.0±0.1B A (g/dL) 3.8±0.1 3.2±0.1B Alb A/G 1.2±0.1 1.2±0.1 (mg/dL) 18.8±1.2A 12.5±1.1B BUN (IU/L) 43.6±6.0 38.9±5.5 GGT AST (IU/L) 47.8±19.5 19.5±17.6 (IU/L) 923±171 445±158 LDH (mg/dL) 92.9±2.5 94.5±2.3 T-Chol HDL-Chol (mg/dL) 40.5±2.1 45.0±1.9 (%) 43.6±2.0 48.0±1.8 HDL/T-Chol 10 週後 TP (g/dL) 7.2±0.2A 6.2±0.2B A Alb (g/dL) 3.8±0.1 2.9±0.1B a 1.1±0.1 0.9±0.1b A/G A (mg/dL) 17.8±1.3 11.9±1.2B BUN GGT (IU/L) 13.7±1.0 12.6±0.9 (IU/L) 28.2±9.2 24.1±8.5 AST (IU/L) 461±70 456±64 LDH T-Chol (mg/dL) 91.8±4.1 92.2±3.8 (mg/dL) 37.3±2.7 40.8±2.5 HDL-Chol (%) 41.1±2.5 44.3±2.3 HDL/T-Chol 最小自乗平均±標準誤差 A-B:P<0.01, a-b:P<0.05 ASTおよびLDHは,試験飼料給与後も両区に差は認め られなかった.これらのことより,低タンパク質か つ低リジン飼料が肥育豚の健康に及ぼす影響は小さ く,バレイショに含まれるグルコアルカロイドが内 臓器に障害を及ぼしていることは考えられない. 一般的に脂肪蓄積にともない増加すると考えられ る血中コレステロール値は試験飼料給与後も対照区 と同程度であり,いわゆる「善玉コレステロール」 とされ,組織(末梢)から肝臓へコレステロールを 輸送するとされるHDL-Cとその比(HDL-C/T-Chol)に ついても対照区と同等であった.これは,バレイショ 混合サイレージのエネルギー含量が過剰であり,そ の過剰のエネルギーを体脂肪として蓄積したのでは なく,低リジン飼料であるバレイショ混合サイレー ジの給与により,肥育豚の健康を害することなく筋 肉内において脂肪合成が促進したものと考えられ - 25 る.しかし,この筋肉内脂肪合成の機序は未解明で あり,今後さらなる研究が必要と思われる. 屠畜検査の結果においては,対照区に間質性肝炎 が1頭認められたが,バレイショ給与区のすべての供 試豚の臓器に異常は認められなかった.また,第3 章第1節の試験1でバレイショ混合サイレージを給 与した試験豚10頭においても,屠畜検査における異 常は認められなかった.これらのことから,本試験 の方法で調製したバレイショ混合サイレージを肥育 豚に給与しても内臓疾患を誘発する可能性は低いと 思われる. 以上の結果から,筋肉内脂肪含量に富む高品質な 豚肉の生産を目的に,低タンパク質(11.8%程度) かつ低リジン(0.46%)含量になるように調製した バレイショ混合サイレージを給与しても,血中のタ ンパク質関連生化学物質のTP,AlbおよびBUNは対照 区より低いものの,正常値の範囲であることが示さ れた.これまでブタの栄養要求量については遺伝的 な産肉能力を発揮し,増体性および飼料利用性の効 率性を求めて検討されてきた.そのためトウモロコ シ,大豆粕を主体とする養豚用飼料では,リジン, メチオニン等の単体アミノ酸が添加され,不足する 必須アミノ酸を充足するよう設計されてきたが,本 試験で用いたバレイショ混合サイレージのように, リジン含量が日本飼養標準・豚41)に示された要求量 の80%程度であっても,増体性は劣るが,ブタの健 康に悪影響を及ぼす可能性は低いことが示唆され た. しかし,バレイショは発芽および緑化にともない 中毒物質であるグルコアルカロイドの濃度が高くな ることから,発芽しているものを排除し,緑化して いるものを含まないようにバレイショの調達方法お よび選別には注意が必要と考えられる. 4 摘要 筋肉内の脂肪含量に富む高品質な豚肉生産を目 的にリジン含量を要求量の80%程度になるように調 製したバレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の 血清生化学成分に及ぼす影響を調査した.バレイ ショ混合サイレージを給与する8頭(バレイショ給与 区)と市販配合飼料を給与する7頭(対照区)に区分 けし,試験飼料の給与開始前,開始後の5および10 週の血清生化学成分を調査した.血清生化学成分に おいて,総タンパク質(TP) ,アルブミン(Alb)およ び尿素態窒素(BUN)はバレイショ給与区で対照区よ り有意に低かった(P<0.01)が,γ-グルタミルトラン スペプチダーゼ(GGT) ,アスパラギン酸アミノ基転 移酵素(AST) ,乳酸脱水素酵素(LDH) ,総コレステ ロール(T-Chol)および高比重リポ蛋白コレステロー ル(HDL-C)では給与飼料による違いは認められな かった.また,これらの血液生化学成分値は概ね正 常値の範囲内であり,屠畜検査においても内臓等に 異常は認められなかった.以上の結果より,リジン 含量が要求量の80%程度のバレイショ混合サイレー ジの給与がブタの健康に悪影響を及ぼす可能性は低 いと考えられた. - 26 - 第4章 現地実証試験による規格外バレイショ飼料化技術の経済性の検討 1 緒言 第2章において,規格外バレイショを主原料に調 製した混合サイレージは栄養損失の少ない飼料とし て利用できることが示された.また,第3章におい て,そのバレイショ混合サイレージを日本飼養標 準・豚41)に示されたリジン要求量の80%を含有する ように調製することで増体量等の生産性は劣るもの の,筋肉内脂肪含量が高く食味の良い豚肉を生産で きることを明らかにした.これらを応用して,規格 外バレイショを飼料原料に豚肉を生産し,その豚肉 を付加価値の高い食肉として販売することで,廃棄 されている農業副産物を有効利用した資源循環シス テムの構築が考えられる. しかし,規格外バレイショを飼料として利用した 資源循環型畜産を実用化するには,栄養成分の一定 した飼料の安定供給と肥育豚の増体性および肉質の 年間を通じた再現性を確認する必要がある.また, 規格外バレイショを飼料利用する資源循環システム では,飼料費の低減が図られるとともに,高品質な 豚肉生産で収益の増加が期待される半面,サイレー ジ調製や給与に労力を要すること,肥育豚の増体量 が低下するなどの多くの要因が関係することから, 経営面での不確実性が懸念される.近年このような 不確実性を加味した事業評価の分析手法としてモン テカルロシミュレーションが行われている10,43).さ らに,この資源循環の取り組みはバレイショ生産者, 養豚生産者および食肉流通販売業者等が事業に参加 し,消費者に生産物である豚肉を購入してもらうと いうリサイクル・ループによってリスクを分散する ことが必要となる.そのため,最終的なコスト負担 者となる消費者の意向が事業普及には重要な要素と 思われる. そこで本章では,生産農家,農協等の協力の基に 通年実証試験を実施し,これまで長崎県畜産試験場 で行った試験結果の再現性を確認するとともに,得 られたデータを基に規格外バレイショを飼料利用し た養豚経営をシミュレーションした.また,併せて 消費者に対しこの取り組みに対する意識調査も実施 した. 2 材料および方法 本実証試験は長崎県内の養豚生産者および農業 協同組合の協力により実施した.試験飼料として, バレイショ選果場で排出される規格外バレイショ 20tを主原料に,他の飼料原料と混合したサイレージ 40tを調製した.サイレージ調製作業は春バレイショ を材料として2007年6月5,6,7,8日に,秋バレイショ では2007年12月20,21日および2008年1月17,18日に 行った.調製方法としては,まず選果場において規 格外と格付けされたバレイショを輸送,水洗,細断 し,第2章の表2-2の配合割合で他の飼料原料と混合 したものを,一個の内袋付きのフレコンバッグに 400kg詰め込んで発酵させた.この方法で,6月に50 梱包(20t)および1∼12月に50梱包(20t)の合計100 梱包(40t/年)のバレイショ混合サイレージを調製 し,2007年8月から2008年10月にかけ肥育豚88頭に対 する給与試験を行った.試験では,平均体重60∼70kg の肥育豚8頭を1群とし,1豚房(10㎡)に収容して,生 体重が110∼120kg(出荷目標体重)なるまでバレイ ショ混合サイレージを給与することとし,それを概 ね月に1回の間隔で試験期間内に11回繰り返した(8 頭/月×11月=88頭,内2頭は発育不良のため除外) . 各個体の体重測定は肥育開始時とその後は月1回 の間隔で行い,個体毎の増体を確認した.終了時体 重は枝肉歩留を65%と仮定して枝肉重量から推定 し,その推定値と開始時体重および飼育日数から増 体量を算出した.バレイショ混合サイレージは残飼 のない程度の量を1日2回給与し,それぞれのサイ レージの開封月日と給与期間および飼養頭数から1 頭当たりの給与量を算出した.但し,実証農家では サイレージ給与に不慣れであったことから,開始2 群の増体量および2ヵ月間の給与量をサイレージ給 与の馴致期として結果から除外した.また,筋肉内 脂肪の調査として無作為に選んだ16頭について,左 枝肉の第4-5胸椎断面を写真撮影し,Meat Science Laboratory Manual64)に示された脂肪交雑基準により マーブリングスコアを付けた. 本試験で生産した豚肉の食味および取り組みに 対する消費者の意識を調査する目的で,2007年12月 - 27 - 「じゃがいもを食べた豚」をご試食になり、 アンケートにご協力お願いします。 問5 規格外じゃがいもを飼料化することは、労力やコストがかかることから、 通常の豚肉より生産費が高くなってしまいます。豚肉の価格についてどう思い ますか。 長崎県畜産試験場 1.少々高くても買うと思う。 JA ながさき県央 2.通常の豚肉と同じ価格なら買うと思う。 循環型社会の構築を目指して,規格外じゃがいもの豚用飼料化から豚肉の生産・販売ま での実証事業に取り組んでいます。 (詳細はポスターをご覧下さい) 。今後の商品化に役立 てたいと思いますので、以下のアンケートにお答えください。 問1 あなたの性別、年齢(歳代)に○をつけてください。 性別 年齢 男 ・ 女 20歳以下・20代・30代・40代・50代・60代・70歳以上 問2 試食をされた感想をお聞かせ下さい。 (複数回答可) 1.おいしい 2.柔らかい 3.臭みがない 4.風味がよい 5.まずい 6.堅い 7.あぶらっぽい 8.パサパサしている 3.通常の豚肉より高ければ買わない。 4.通常の豚肉より安くても買わない。 5.わからない 6.その他( ) 問6 1.環境問題への取り組みとして評価できるから 2.おいしいから 3.豚肉の外観がよいから 4.地元のじゃがいもを飼料にしているので安心できるから 5.わからない 6.その他( ) 問3 陳列棚に並んだ豚肉( 「じゃがいもを食べた豚」)を見て、豚肉の外観に 問7 ついてどう思いますか。 (複数回答可) 1.おいしそう 2.肉色がよい 3.霜降り状態がよい 4きめが細かい 5.まずそう 6.肉色が悪い 7.脂肪が多すぎる 8.霜降りが少ない 9.その他( ) 問5で1.を選び「少々高くても買う」と回答した方にお尋ねします。 高くても買う理由は何ですか。(複数回答可) 問5で1.を選び「少々高くても買う」と回答した方にお尋ねします。 価格は、どの程度高くても買いますか。 通常の豚肉より( )%程度高い価格 問4 この実証試験の取り組み(規格外じゃがいもを飼料化し、良質な豚肉を 問7 その他 生産する取り組み)についてどう思いますか。(複数回答可) この取り組みに関してご意見ご感想などありましたらご記入下さい。 1.環境問題に興味があるのでよい取り組みだと思う。 2.地元のじゃがいもを飼料にしているので安心な豚肉が生産でき、よい取り 組みだと思う。 3.霜降りのおいしい豚肉が食べられるのでよい取り組みだと思う。 4.環境問題に対して効果が小さいと思うのでやめた方がよいと思う。 5.それほどおいしい豚肉ではないのでやめた方がよいと思う。 6.費用がかかりそうなのでやめた方がよいと思う。 7.わからない 8.その他( ) 裏面へ続く 図 4-1-1 アンケート調査用紙(1) 20日に81名の消費者に対し,試食と併せて図4-1-1 および図4-1-2に示した調査項目についてのアン ケート調査を実施した. また,経営評価のためのシミュレーションに関し ては,本試験で得られた結果(バレイショ給与区) と農業経営統計調査報告・畜産物生産費 48,49,50,51,52,53,54,55,56,57) (以下統計情報と記す)の肥育豚 生産費に示された全国平均値(対照区)を用いて, 生産費(肥育豚1頭当たり)および所得(肥育豚1頭 当たり)について実施し,両区間での比較検討を行っ た.シミュレーションでは単味飼料(トウモロコシお よび大豆粕)の単価,飼料費,飼料費以外の物財費お よび労働費(労働単価)は統計情報 48,49,50,51,52,53,54,55,56,57) の平成9∼18年における肥育豚生 産費の全国平均値と標準偏差を用い,バレイショ混 合サイレージの飼料給与量,増体量,調製や給与に 要する労働時間は本実証試験のデータを用いた.な ご協力ありがとうございました。 図 4-1-2 アンケート調査用紙(2) お,バレイショ混合サイレージを給与して生産した 豚肉の販売価格は,筋肉内脂肪含量の高い高品質豚 肉であることから,統計情報48,49,50,51,52,53,54,55,56,57)にお ける全国平均値の1.1倍と仮定した.経営指標とした 生産費および所得は次式に従った. ・生産費=飼料費+飼料費以外の物財費+労働費− 副産物収入 ・所得=粗収益−(全算入生産費+副産物収入−家 族労働費−自己資本利子−自作地地代) バレイショ給与区の飼料費,飼料費以外の物財費お よび労働費は次式に従った. ・飼料費=対照区の飼料費−〔(50kg/対照区の増体 量)×対照区の摂取量×配合飼料単価〕+〔 (50kg/ バレイショ給与区の増体量) ×バレイショ給与区摂 取量×バレイショ混合サイレージ飼料単価〕 ・飼料費以外の物材費=対照区の飼料費以外の物材 - 28 費×バレイショ給与区の肥育期間/対照区の肥育期 間+サイレージ調製に係る消耗品および水光熱費 ・家族労働費=農業就業者数×1,800時間/販売頭数 ×家族労働単価 ・雇用労働費=〔 (対照区の労働時間+サイレージ調 製・給与の労働時間)−農業就業者数×1800時間/ 販売頭数〕×雇用労働単価 シミュレーションには,リスク分析ソフト@RISK ver4.5(日立東日本ソリューションズ 宮城)を用い, モンテカルロ法で10,000回の試行を行った10,43).こ のシミュレーションにおける設定条件を表4-1に示 表 4-1 シミュレーションにおける設定条件 項目 設定条件 飼料価格 とうもろこし 24.9±2.5 円/kg 大豆粕 46.7±7.2 円/kg 配合飼料 40.5±2.9 円/kg 規格外バレイショ 0 円 その他の微量要素は購入実費 増体量 バレイショ給与 0.58kg/頭日 一般肥育 0.75/頭日 飼料摂取量 バレイショ給与 4.63kg/頭日 一般肥育 2.80kg/頭日 労働単価 家族労働単価 1544±49 円/時間 雇用労働単価 1233±75 円/時間 労働時間 サイレージ調製 1.74±0.19 時間/頭 サイレージ給与 0.17 時間/頭 サ イ レ ー ジ 機械償却 302 円/頭 調 製 に 係 る 資材 770 円/頭 消耗品等 水光熱費 80 円/頭 相関 単味飼料 とうもろこし−大豆粕:0.823 とうもろこし−配合飼料:0.954 大豆粕−配合飼料:0.789 した. 3 結果および考察 バレイショ混合サイレージの調製行程を図4-2お よび図4-3に示した.写真のように各工程をコンベア でつなぐことで作業労力の軽減が図れた.バレイ ショ混合サイレージ400kgをフレコンバッグ1梱包に 調製するのに20∼30分を要し,1日当たりの梱包数は 10∼16個であった.しかし,作業には熟練を要する ことと,必要作業員数は最低4人と見積もられ,1梱 包当たりのサイレージ調製に要する作業時間は1.73 ±0.19時間/人と算出された.また,機械の作業能力 根拠 農業経営統計調査報告 畜産物生産費肥育豚生産 費の流通飼料の使用数量 と価格(平成 9∼18 年度) から算出 実証試験データ,畜産経営 コンサルタントおよび畜 産物生産費の販売月齢(平 成 9∼18 年度)から算出 実証試験データ,畜産経営 コンサルタントおよび経 営指導指標から算出 畜産物生産費肥育豚生産 費の労賃 (平成 9∼18 年度) より算出 実証試験データより算出 細断機,攪拌機およびコン ベアーで計 1,400 千円(耐 用年数 5 年)とし修繕費も 含めて償却費の 1.2 倍とし た。またその他バッグ資材 および水光熱費は実費を 計上,バレイショの運搬距 離を 10km と仮定した. 各単味飼料の相関は、畜産 物生産費肥育豚生産費の 流通飼料の使用数量と価 格(平成 9∼18 年度)の年 度から算出 - 29 - 水洗 細断 計量 ①工程 混合 袋詰め ②工程 図 4-2 バレイショ混合サイレージの調製作業工程 図 4-3 バレイショ混合サイレージの調製作業写真 脱気封入 ③工程 - 30 - 表 4-2 現地実証試験における飼料給与量 飼料給与量 現物 風乾物換算 調査期間 kg/頭・日 kg/頭・日 8月21日 ∼ 9月27日 3.21 1.88 9月28日 ∼ 10月23日 3.80 2.23 11月27日 4.09 2.40 10月24日 ∼ 1月12日 4.65 2.73 11月28日 ∼ 1月13日 ∼ 2月15日 4.38 2.57 3月14日 4.56 2.67 2月16日 ∼ 4月14日 4.77 2.80 3月15日 ∼ 4月15日 ∼ 5月19日 4.91 2.88 6月17日 4.56 2.67 5月20日 ∼ 7月18日 5.13 3.01 6月17日 ∼ 7月19日 ∼ 8月20日 4.29 2.51 平均±標準偏差 4.63±0.32 2.72±0.19 網掛け部分は馴致期として除外している. 表 4-3 現地実証試験における増体量 出荷体重 肥育開始日 平均出荷日 kg 7月23日 11月10日 111.8 8月21日 12月3日 113.9 1月2日 114.2 9月26日 1月28日 111.2 10月23日 11月27日 2月26日 114.6 4月15日 120.5 1月10日 5月7日 120.0 2月13日 3月12日 6月14日 123.2 7月26日 120.1 4月15日 9月3日 120.0 5月20日 6月17日 9月18日 122.7 平均±標準偏差 118.5±4.1 網掛け部分は馴致期として除外している. が作業効率に大きく影響し,本試験で用いた撹拌機 では400kgまでしか撹拌できなかったことから,図 4-2に示した②工程「混合」および「袋詰め」が作業 能率を決める主要因となった.そのため,調製規模 の拡大を図るためには,大型の撹拌機の利用が効果 的と考えられた. バレイショ混合サイレージの給与量を表4-2に示 した.馴致(表中の網掛け部分)後の飼料給与量は 原物で4.63±0.32kg/頭・日,風乾物では2.72± 0.19kg/頭・日であり,肥育豚は飼料をほぼ完食した 増体量 kg/頭・日 0.45 0.51 0.56 0.55 0.60 0.60 0.68 0.65 0.56 0.51 0.53 0.58±0.06 ことから,安定した採食が認められた.これらは第 3章第1節におけるバレイショ混合サイレージの風 乾物飼料摂取量2.71∼3.09kg/頭・日と同等であっ た.また,これまでの結果でもバレイショ混合サイ レージの摂取量は試験時期による差が小さかった が,本実証試験においても給与量の年間変動係数は 7.0%と季節による変動が小さかった.一般にブタは 夏季の暑熱によって採食量の低下が懸念される.し かし,本試験で調製したバレイショ混合サイレージ は適度に水分を含み良質に発酵していることで夏季 - 31 - 市販配合飼料給与 (実証農家において市販配合飼 料給与により生産された肥育豚) バレイショサイレージ給与 図 4-4 実証試験における枝肉断面 における採食量の低下を防げた可能性も考えられる が,要因解明には今後の更なる研究が必要と思われ る. 増体量の推移を表4-3に示した.馴致(表中の網 掛け部分)後の増体量は0.58±0.11kg/頭・日と算出 され,第3章第1節における増体量0.55∼0.72kg/ 頭・日と比較しやや劣る傾向にあった.この値は, 本実証試験を実施した農家の畜産経営コンサルタン トの結果から推定される市販飼料給与による肥育後 期の増体量0.75kg/頭・日と比較しても,これまでの 結果と同様にバレイショ混合サイレージ給与は市販 飼料給与より増体量で劣ることを示すものである. また,多くの養豚農家では自動給餌機が普及してい ることから,水分含量の高いサイレージの給与に不 慣れであり,普及に際しては飼料調製方法だけでな く,給与方法についても技術的な習熟が必要と思わ れた. しかし,図4-4で示すように,バレイショ混合サイ レージで生産した枝肉は筋肉内への脂肪の蓄積が多 く,高品質豚肉と言えるものであった.枝肉ロース 断面のマーブリングスコアを表4-4に示した.Meat Science Laboratory Manual64)に示された脂肪交雑基 準は筋肉内脂肪含量と同値とされる.本試験で調査 した16頭の筋肉内脂肪含量をこの基準に基づいて推 定すると,その値は平均4.8%となることから,バレ イショ混合サイレージの給与を養豚農家で行って も,筋肉内脂肪含量の高い枝肉を生産できることが 実証された. 消費者に対するアンケート結果を表4-5∼11に示 した.第3章第2節で行った食味官能検査において, バレイショ混合サイレージを給与して生産した豚肉 は柔らかく,臭いが少ない特徴があり,総合的にお いしいと評価された.本実証試験で生産された豚肉 においても,表4-6のとおり「柔らかい」 , 「臭みがな 表 4-4 枝肉ロース断面のマーブリングスコア マーブリングスコア 頭数 3 4 4 4 5 3 6 4 10 1 計 16 平均±標準偏差:4.8±1.8(n=16) - 32 い」 , 「おいしい」との評価が多く,良質な食味特性 を有していた. パック包装したバレイショ給与豚肉を提示して その外観についてアンケート調査を行った結果を表 4-7に示したが, 「おいしそう」 「肉色がよい」および 「霜降り状態がよい」といった回答が多かった.佐々 木62)はエコフィード給与豚肉に対する消費者の受容 性において外観の重要性を論じているが,バレイ ショ混合サイレージで生産した豚肉は外観において も評価が高いものと思われる.また,この規格外バ レイショを飼料化する取り組みについては,表4-8 のとおり「地元のじゃがいもを飼料にしているので 安心な豚肉が生産でき,よい取り組みだと思う. 」や 「環境問題に興味があるのでよい取り組みだと思 う. 」との回答が多かった.これまで農林水産省が実 施した農産物の生産における環境保全に関する意 識・意向調査45)において,多くの消費者が環境に配 慮した農産物を購入したいと思うと回答している. 本調査においても,消費者は環境問題や食の安全に 対する意識が高く,地域農産物を飼料として利用す る取り組みに対し好意的な意見が多いことが示され た.また,これまで消費者が環境に配慮した農産物 をどれぐらいの価格でなら購入したいかについて は, 「高くても購入したい」との回答が約4割とされ る45)のに比べ,本調査では表4-9のとおり, 「少々高 くても買う」との回答が6割近くを占めた.表4-10 のとおり,高くても買う理由として5割の人が「おい しいから」と回答していることから,食味の良さが 購入のインセンティブとなり消費者の環境に対する コスト負担意識を助長し,資源循環を促進させる可 能性を示した.その意識の高さは,表4-11において 「少々高くても買う」とした人の8割程度が市販豚肉 価格の10∼20%高を容認したことからもうかがえ る. 表4-12にシミュレーションの経営概要を示した. バレイショ給与区の出荷月齢は対照区より0.7ヵ月 (約21日)延長するとともに,バレイショ混合サイ レージの調製および給与にも時間や労力を要するこ とから,必要労働時間は5.08時間/頭と推定され,対 照区の3.17時間/頭より増加すると試算された.しか し,バレイショ給与区では廃棄されている規格外バ レイショの価格を無償と仮定すると,肥育豚用サイ レージの風乾物(水分13%含有)換算した飼料単価 は24.9±2.2円/kgと算出され,対照区の飼料単価 40.5±2.9円/kgの6割程度となった. シミュレーションにおける肥育豚1頭当たりの収 益性を表4-13および図4-5に示した.シミュレーショ ンでは,バレイショ給与区の全飼料費は16,506円と 対照区の18,118円より1,614円低減され,1頭当たり でも飼料費は11%削減されると試算された.また, 今回のシミュレーションでは規格外バレイショを飼 料利用する養豚農家の廃棄物処理業の資格等を考慮 して,規格外バレイショの処理料を徴収する様に設 定していないが,地域全体では廃棄物処理費用の削 減効果も大きいと思われる. 飼料費としては廃棄されている規格外バレイ ショを用いることで明らかに低減されたが,サイ レージ調製および給与に労力が必要なことでバレイ ショ給与区の1頭当たりの労働費は7,970円と試算さ れ,対照区の4,771円より3,199円の増加が予測され た.そのため1頭当たりの生産費としては,バレイ ショ給与区で32,144円となり,対照区の29,328円よ り2,816円と10%の生産費の増加となった.しかし, バレイショ給与区の豚肉の品質の良さが消費者に認 知され,一般豚肉の1.1倍で販売されれば,所得は1 頭当たり7,168円となり,対照区の5,500円より1,668 円の増加と試算された.アンケート調査結果によれ ば,バレイショ混合サイレージによって生産された 豚肉は,筋肉内脂肪含量が多く食味が良いと評価さ れ,価格が一般豚肉の10∼20%高なら購入してもよ いとコスト負担を容認する回答も多いことや,最近 の食品の安全性や環境に対する関心の高まりを考慮 すると,消費者に受け入れられる可能性は十分にあ ると思われる. 図4-6にバレイショ混合サイレージ給与システム の1頭当たりの所得の分布を示した.横軸にシミュ レーションにより算出された所得額を,縦軸にはそ の度数を示してシミュレーションの不確実性を視覚 的に表した.その結果,90%信頼区域における1頭当 たりの所得は,対照区で2,273∼8,904円,バレイショ 給与区で3,546∼10,750円と,両区の所得分布幅には 大きな差を認めなかったことから,本研究で提示す るような規格外バレイショを飼料として利用する養 豚経営に取り組んでも,従来の市販飼料による経営 より不確実性を増すことなく,所得を向上できる可 能性が示された.しかし,本技術はバレイショを給 与することで明らかに出荷が延長されるため,従来 の経営より肥育豚房が10%程度多く必要となること - 33 - 表 4-5 アンケート問1の回答 性別および年齢(歳代) 性別 男性 有効回答数:79 人(98%) 年齢 20歳 以下 女性 20 代 30 代 40 代 50 代 70 歳 以上 60 代 人数 5 74 0 2 3 6 10 30 28 % 6 94 0 3 4 8 13 38 35 有効回答数 81 人(100%) 表 4-6 アンケート問2の回答 試食の感想(複数回答可) おいしい 柔らかい 臭みがない 風味がよい まずい 堅い あぶらっ ぽい パサパサ している 回答数 62 49 42 9 0 2 1 2 % 77 60 52 11 2 1 2 表 4-7 アンケート問3の回答 外観の感想(複数回答可) 有効回答数 67 人(83%) おいしそ う 肉色がよ い 霜降り状 態がよい きめが細 かい まずそ う 肉色が悪 い 脂肪が多 すぎる 霜降りが 少ない その他 回答数 36 44 17 6 0 0 2 1 3 % 54 66 25 9 0 0 3 1 4 表 4-8 アンケート問4の回答 取り組みに対する評価(複数回答可) 有効回答数 66 人(81%) 回答数 % 環境問題に興味があるのでよい取り組みだと思う。 44 67 地元のじゃがいもを飼料にしているので安心な豚肉が生産でき、よい取り組みだと思う。 54 82 霜降りのおいしい豚肉が食べられるのでよい取り組みだと思う。 19 29 環境問題に対して効果が小さいと思うのでやめた方がよいと思う。 2 3 それほどおいしい豚肉ではないのでやめた方がよいと思う。 0 0 費用がかかりそうなのでやめた方がよいと思う。 1 2 わからない 0 0 その他 2 3 - 34 - 表 4-9 アンケート問5の回答 コスト負担の意識 少々高くても買うと思う。 通常の豚肉と同じ価格なら買うと思う。 通常の豚肉より高ければ買わない。 通常の豚肉より安くても買わない。 わからない。 その他 有効回答数 67 人(83%) 回答数 % 38 57 26 39 0 0 0 0 2 3 1 1 表 4-10 アンケート問6の回答 高くても購入する理由(複数回答可) 有効回答数 36 人(95%) 回答数 % 16 44 環境問題への取り組みとして評価できるから 19 52 おいしいから 6 16 豚肉の外観がよいから 16 44 地元のじゃがいもを飼料にしているので安心できるから 0 0 わからない 2 6 その他 表 4-11 アンケート問7の回答 許容する購入価格 1%高 5%高 10%高 有効回答数 28 人(74%) 10∼15%高 10∼20%高 20%高 30%高 50%高 回答数 1 1 11 1 1 11 1 1 % 4 4 39 4 4 39 4 4 6206 18118 529 4242 1308 対照 16504 7971 1725 5692 飼料費 飼料費以 雇用労働 家族労働 利益 その他 1478 バ レ イショ給 与 0 5000 10000 15000 20000 円 25000 30000 35000 図 4-5 シミュレ ーションに おける 肥 育豚 1頭 当 た りの収 益 性 40000 - 35 - 2276 3546 5% 5% 2.5 8904 10750 95% 95% 対照 5550円 2 バレイショ給与 7183円 O1.5 4 ・ 0 1 ・ x・ ・ 1 0.5 0 -5 0 5 10 15 20 千円 図4-6 シミュレーションにおける1頭当たり の所得分布 表 4-12 シミュレーションにおける経営の概要 販売月齢 (月) 販売価格 (円) 平均 6.5 0.1 標準偏差 バレイシ 平均 7.2 0.1 ョ給与区 標準偏差 1)飼料単価は風乾物(水分 13%)換算 対照区 29,784 1,589 32,762 1,721 1 頭当たり労 1 頭当たり家族 農業就業者 肥育期の飼 1) 働時間(時間) 労働時間(時間) 数(人) 料単価 (円) 3.17 0.07 5.08 0.19 2.74 0.19 3.68 0.19 2.2 0.1 2.2 − 40.5 2.9 24.9 2.2 表 4-13 シミュレーションにおける肥育豚1頭あたりの収益性 物財費 (円) 対照区 バレイシ ョ給与区 平均 標準偏差 平均 標準偏差 24,324 1,297 24,476 1,368 飼料費以 外の物材 費(円) 飼料費 (円) 労働費 (円) 家族労働 費(円) 生産費 (円) 1頭当たり 粗収益(円) 6,206 399 7,970 442 18,118 1,076 16,506 1,082 4,771 250 7,415 597 4,242 411 5,690 552 29,328 1,172 32,144 1,308 30,636 1,574 33,622 1,721 1頭当たり 所得(円) 5,550 2,016 7,168 2,208 - 36 に留意する必要がある. 以上の結果より,養豚農家にて実施した本実証試 験によって,バレイショ混合サイレージを給与した 肥育豚は年間を通じて安定した飼料摂取量と増体量 を示すとともに,生産された枝肉においては明らか な筋肉内脂肪の増加が確認されたことから,バレイ ショ混合サイレージ給与システムの生産現場での再 現性が確認された.また,本研究で提案した規格外 バレイショを飼料利用する資源循環システムは廃棄 物を有効活用を可能にしつつ,利用する養豚生産者 では所得向上につながることが示された.一般に, 食品残さの飼料利用は養豚経営の飼料費の低減を目 的に行われることが多い.その場合,事業化に伴う 経済的なリスクは食品残さの排出者と飼料利用者と に発生するが,本研究の規格外バレイショの飼料利 用においては,高品質な豚肉を生産して消費者にコ スト負担をしてもらうことで排出者であるバレイ ショ生産者または選果場と飼料利用者である養豚生 産者の経済リスクが軽減できる資源循環のモデルに なると思われた.しかし,このモデルの実用化には, バレイショ生産者,養豚生産者,行政,関係団体お よび消費者が限りある資源を有効活用して地域で資 源循環型の社会を構築していこうとする意識と連携 が不可欠であると思われる. 4 摘要 規格外バレイショ20tを主原料に調製した混合サ イレージ40tを肥育豚88頭に年間を通じて給与する 実証試験を実施して,第3章で得られた結果の養豚 生産現場での再現性を確認するとともに,得られた データを基に規格外バレイショを飼料利用した養豚 経営に関するシミュレーションを行った.また,併 せて消費者にこの取り組みに対する意識調査を実施 した. その結果,バレイショ混合サイレージを給与した 肥育豚は年間を通じて安定した飼料摂取量と増体量 を示すとともに,生産された枝肉においては明らか な筋肉内脂肪の増加が確認されたことから,バレイ ショ混合サイレージ給与システムの生産現場での再 現性が確認された.また,アンケート調査からは, バレイショ混合サイレージで生産した豚肉の食味の 良さが確認されるとともに,消費者は環境問題や食 の安全に対する意識が高く,地域農産物を飼料とし て利用する取り組みに対し好意的な意見を持つこと が示された.さらに,約6割の回答者からは「少々高 くても買う」との回答が得られたことから,この生 産方法で生じる豚肉価格の増加についての妥当性も 理解されたものと考えられた. 本生産システムの経営に関するシミュレーショ ンでは,バレイショ給与区の飼料費は1頭当たり 16,506円と対照区の18,118円より1,614円の低減と 試算されたが,飼料調製および飼育期間延長による 労働費の増加により生産費は32,144円と,対照区の 29,328円より2,816円の増加が予測された.しかし, バレイショ混合サイレージ給与によって生産された 豚肉がその食味の良さから一般豚肉の1.1倍で販売 されれば,所得は1頭当たり7,168円となり,対照区 の5,500円より1,668円の増加が予測された.以上の 結果より,本研究で提示した養豚システムは,規格 外バレイショを飼料に利用して高品質な畜産物を生 産し,消費者にコスト負担してもらうことで,リス クを分散できる資源循環型畜産の一つのモデルとい える. - 37 - 第5章 昼間屋外飼養およびバレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の行動, 生産性,肉質および筋線維特性に及ぼす影響 1 緒言 第4章において,規格外バレイショを飼料利用す る取り組み対するアンケート調査から,消費者は環 境問題や食の安全に対する意識が高く,地域農産物 を飼料として利用する取り組みに対し,好意的な意 見を持つことがうかがえた.地域農産物を飼料とし て生産した畜産物を購入する消費者として,健康や 環境問題に関心の高い自然志向な消費層である LOHAS(Lifestyles of Health and Sustainability) 層4)が考えられる.また,ヨーロッパを中心に家畜福 祉や有機畜産の観点から,ブタの本来もつ行動特性 を発揮できる放牧や屋外飼養を取り入れた養豚経営 がみられるようになってきた60).地域風土に適応し た屋外飼養による養豚を検討することも,自然志向 の消費層のニーズに合致し,耕作放棄地が拡大する 地域の活性化策にもつながる可能性がある.そこで 地域農業副産物を飼料利用した高品質豚の生産にお ける更なる展開策として,より自然に近い飼養環境 である屋外飼養を取り入れた資源循環型養豚の可能 性も検討に加えた. 近年の豚肉の食味に対する消費者の嗜好は多様 化している.筋肉内脂肪含量に富んだ柔らかい肉を 好む消費者がみられる一方で,脂肪が少なく歯ごた えの良い赤肉を好む消費者もいる61).これらの豚肉 の食味特性は育種改良と飼養管理に影響される59). そのため,屋外飼養や規格外農産物を活用した給与 飼料を組み合わせた飼養管理法はブタの行動や食肉 となる筋肉活性に影響を及ぼし,肉質にも変化をも たらす可能性も考えられる. これまでブタの骨格筋は生理的な性質の違いか ら組織化学的手法によってⅠ型,ⅡA型およびⅡB型 筋線維の3型に大別でき,その構成割合や特性は品種 により異なること17,18),また屋外飼養等の飼養環境 に適応した運動機能を持つように変化することが明 らかとなっている1,7).しかし,飼養環境と給与飼料 の組み合わせが筋線維特性に及ぼす影響を調査した 事例はない. そこで本章では,規格外バレイショの飼料利用と 屋外飼養の利点に焦点を合わせ,飼養環境(屋内飼 養と屋外飼養) ,給与飼料(市販飼料とバレイショ混 合サイレージ給与)の2要因×2水準の組合せにおけ る肥育豚の行動,生産性,肉質および筋線維特性を 調査した.またこれらの結果から,飼養環境と給与 飼料が各調査項目に及ぼす影響を解析するととも に,多様な消費者ニーズに対応した豚肉生産の可能 性を検討した. 2 材料および方法 本章における試験は2007年5月7日から8月1日(第 1期)と2007年6月11から9月26日(第2期)の2回実施 した.第1期における平気気温は,22.6℃(最高気温 34.0℃,最低気温11.4℃)であり,第2期では25.5℃ (最高気温34.7℃,最低気温14.5℃)と西南暖地の 春季から夏季の通常の気象条件であった. 給与飼料 給与飼料には第2章の試験2の方法により表2-2の 配合割合で調製したバレイショ混合サイレージを用 いた.その成分量は,水分51.8%,粗タンパク質 12.1%,粗脂肪4.0%,可溶性無窒素物65.8%,粗繊 維1.2%,粗灰分3.9%,リジン0.46%〔水分以外は 風乾物(水分13%)換算した成分量〕であった.対 照飼料として,市販飼料(伊藤忠飼料 東京)を用い, その成分量は水分10.3%,粗タンパク質16.6%,粗 脂肪4.0%,可溶性無窒素物59.2%,粗繊維2.9%, 粗灰分4.4%,リジン0.76%〔水分以外は風乾物(水 分13%)換算〕およびTDN表示値77.0%以上であった. 飼養管理 飼養環境を図5-1に示した.屋内での飼養環境は, スノコ床豚房(2.4×3.0m)で,飼育密度は1.8㎡/ 頭とした.一方,屋外での飼養環境は,地表部を雑 草 が 覆 い , モ ウ ソ ウ チ ク ( Phyllostachys heterocycla f. pubescens)を優占種とした傾斜地 (斜度10∼14%)のパドック(10×24m)で飼育密度 は60㎡/頭とした.屋外飼養区における屋外での飼養 - 38 時間は10:00から17:00までとし,17:00から翌日10: 00までは屋内飼養区と同じ環境で飼養した.飼料給 与および飲水は屋内および屋外施設に飼槽および ニップル給水器を設置し不断給餌および自由飲水と した. 試験区分 三元交雑豚(WL・D) (平均体重57.4kg)32頭を用い た.試験区分は飼養環境(屋内飼養vs.屋外飼養)と 給与飼料(市販飼料vs.バレイショ給与)を要因とし た4区(2要因×2水準)に配置した.すなわち,屋内 飼養で市販飼料給与のIC区,屋内飼養でバレイショ 給与のIP区,屋外飼養で市販飼料給与のOC区および 屋外飼養でバレイショ給与のOP区の4区とし,各区と も開始時体重および性比が同じになるよう考慮しな がら8頭(4頭×2期)を配置し,各区の平均体重が 105kgに達するまで肥育した.但し,OC区とOP区から 各1頭を,鞭虫症により試験途中で除外した. 行動調査 行動調査は,第1期の各区4頭の計16頭に対し,2007 年5月14,15,16日と6月18,19,20日(試験開始後7,8,9 日と42,43,44日)の計6回実施した.調査方法はOC 区とOP区の屋外飼養時間帯(10:00−17:00時)の7 時間における5分間隔の点観察とした.行動の調査項 目は休息(横臥または伏臥休息している状態) ,移動 (歩く,走る,もしくは佇立してる状態) ,土掘り(土 壌や植物体を掘り起こす,もしくはそれらを摂食し ている状態) ,摂食(給与飼料を摂食している状態) , 飲水および排泄の6種類とした.しかし,屋内飼養で は明らかな土掘り行動が認められなかったことか ら,移動と土掘りをあわせて運動と分類した. 枝肉調査およびロース肉の理化学的特性調査 屠畜冷蔵24時間後に右枝肉半丸の屠体長,屠体幅 および背脂肪厚を豚産肉能力検定38)に基づき測定し た.左枝肉から,胸最長筋(M. longissimus thoracis) およびその背側表層の皮下脂肪内層を採材した後, ロース肉の理化学的特性として水分含量,粗タンパ ク質含量,粗脂肪含量,保水力(加圧ろ紙法) ,加熱 損失率,破断応力および脂肪融点の7項目について測 定を行った.ロース肉における各分析用試料は部位 による影響を受けないように第4-5胸椎断面から後 位の一定の距離で胸最長筋から採材した.すなわち, 化学組成(水分,粗タンパク質および粗脂肪含量) 分析用の材料は後位0-5cmで,保水力(加圧ろ紙法) 測定用は10-15cmで,加熱損失率の測定用は15-25cm で採取し,また破断応力の測定には加熱損失率を測 定した試料を10×10×40mmに整形して用いた.脂肪 融点の測定には第4-5胸椎断面から後位0-5cmの背側 皮下脂肪内層を用いた.理化学的特性における分析 は第3章第3節と同じ方法で実施した. 筋線維特性調査 筋線維特性に関する調査には,第4-5胸椎断面から 後位5-10cmで胸最長筋の中央部から筋線維に沿って 切り出して直ちに液体窒素で凍結した材料肉片を用 いた.凍結材料肉片からクリオスタットミクロトー ム で 10 μ m の 凍 結 切 片 を 作 成 し , NADH-dehydrogenase(NADH-DH)活性を組織化学的に 検出した72).NADH-DH活性の検出を終了した切片に対 して,抗ヒト骨格筋(遅筋)モノクローナル抗体 (monoclonal anti-myosin (skeletal-slow) clone NOQ7.5.4.D; Sigma-Aldrich, Saint Louis, USA) を用いた免疫染色による二重染色を行った.免疫染 色は市販キット(Biotin Streptavidin-HRP System KIT, HistMark ORANGE; Kirkegaard & Perry Laboratories, Gaithersburg, USA)を用いた酵素抗 体法40)により検出した.筋線維型の分類として通常 は酸処理またはアルカリ処理におけるATPaseと NADH-DH活性により分類される1,7,17,18)が,本試験で は,抗ヒト骨格筋(遅筋)モノクローナル抗体によ り検出された筋線維をⅠ型,抗ヒト骨格筋(遅筋) モノクローナル抗体では検出されないが,NADH-DH 活性が高いものをⅡA型,抗ヒト骨格筋(遅筋)モノ クローナル抗体でも検出されず,NADH-DH活性も低い 筋線維をⅡB型と分類した.作成した標本から顕微鏡 写真を撮影し,各標本につき400から600個の筋線維 について筋線維型を同定し,それぞれの筋線維型の 構成割合を算出した.また,顕微鏡写真を用いて, 画像解析ソフト(Image HyperⅡ; 株式会社デジモ 大 阪)により,各筋線維の短径の最大直径の平均値を 筋線維直径として算出するとともに,各筋線維型が 顕微鏡写真に占める面積の割合を算出した. 統計処理 統計処理にはHarvey11) の最小自乗分散分析ソフ トLSMLMWを用いて最小自乗分散分析を行った.体重, 増体量,屠体成績およびロース肉の理化学的特性に 関しては,飼養環境(屋内飼養,屋外飼養) ,給与飼 料(市販飼料,バレイショ給与)および性を主効果 とし,試験期をブロック効果として分散分析を行い, 筋線維特性については角変換の後,同様に分散分析 - 39 を行った.行動については,飼養環境(屋内飼養, 屋外飼養)と給与飼料(市販飼料,バレイショ給与) を主効果とし,各調査日毎に群の行動の平均値を角 変換し,調査日を反復として分散分析を行った. 24m 電気牧柵 防風壁 2.4m 地表部に雑草 の覆った竹林 スノコ床 日除けおよび 給餌器 3m 10m ニップルドリンカー 屋外飼養パドック 給餌器 ニップルドリンカー 屋内飼養豚房 図5-1 飼育環境の概要図 表 5-1 屋外飼養とバレイショ混合サイレージが肥育豚の行動に及ぼす影響 屋内飼養 屋外飼養 分散分析 バレイショ バレイショ 市販飼料 市販飼料 E F E×F サイレージ サイレージ 休息 (%) 82.4 69.2 64.4 44.8 ** ** NS 運動 (%) 6.1 10.0 28.9 48.3 ** ** * 移動 (%) 6.1 10.0 10.4 14.4 18.5 33.9 土掘り (%) 9.6 18.5 5.3 5.3 ** ** ** 摂食 (%) 飲水 (%) 1.6 1.6 0.8 1.1 * NS NS 0.4 0.6 0.5 0.5 NS NS NS 排泄 (%) 最小自乗平均 E: 飼養環境(屋内飼養 vs.屋外飼養),F: 飼料(市販飼料 vs.バレイショサ イレージ) , NS : P>0.05, ** : P<0.01, * : P<0.05 3 結果 屋外飼養およびバレイショ混合サイレージ給与が 肥育豚の行動に及ぼす影響を表5-1に示した.休息割 合はIC区82.4%,IP区69.2%,OC区64.4%,OP区 44.8%であり,飼養環境および給与飼料の各効果に 有意な差が認められた(P<0.01).また,移動と土掘 りを合わせた運動割合および摂食行動割合において は,飼養環境と給与飼料の各効果の間に交互作用が .飲水および排泄行動 認められた(P<0.05,P<0.01) については,給与飼料および飼養環境による大きな 差は認められなかった. 屋外飼養およびバレイショ混合サイレージ給与 が肥育豚の増体および屠体成績に及ぼす影響を表 5-2に示した.全ての項目において飼養環境と給与飼 料の各効果の間に交互作用は認められなかった.増 体量においては,飼養環境および給与飼料に有意な 効果が認められ(P<0.01),屋外飼養区は屋内飼養区 より,バレイショ給与区は市販飼料給与区より劣っ ていた.最も発育の優れたIC区での肥育開始(57kg) から出荷体重(105kg)までの日数は56日であったの に比べ,OC区で66日,IP区で71日およびOP区では98 日を要し,OP区の発育の遅延は顕著であった.飼料 摂取量は屋外飼養区が屋内飼養区より少なく,バレ イショ給与区が市販飼料給与区より少なかった.飼 - 40 料要求率はバレイショ給与区で市販飼料給与区より 劣っていたが,飼養環境による飼料要求率への影響 は認められなかった.枝肉成績では,屠体長,枝肉 歩留および背脂肪厚において飼養環境による有意な 効果が,枝肉歩留および屠体幅においては給与飼料 による有意な効果が認められた(P<0.01, P<0.05) . 表 5-2 屋外飼養とバレイショ混合サイレージ給与が肥育豚の生産性および枝肉成績に及ぼす影響 屋内飼養 屋外飼養 分散分析 バレイショ バレイショ 市販飼料 市販飼料 E F E×F サイレージ サイレージ n 8 8 7 7 開始時体重(kg) 57.7 58.6 55.6 57.6 NS NS NS 終了時体重(kg) 106.5 105.9 108.1 107.4 NS NS NS 899 695 760 512 ** ** NS 1日当たり増体量(g/日) 飼料摂取量 1)(g/日) 3335 2871 2734 2358 飼料要求率 1) 3.72 4.16 3.63 4.46 枝肉歩留 (%) 70.3 71.7 67.6 70.0 ** ** NS 屠体長(cm) 94.2 95.4 97.8 100.5 ** NS NS 屠体幅 (cm) 35.0 35.4 34.1 35.4 NS * NS 2.2 2.2 1.5 1.7 ** NS NS 背脂肪厚 (cm) 最小自乗平均 E: 飼養環境(屋内飼養 vs.屋外飼養) ,F: 飼料(市販飼料 vs.バレイショサ イレージ) , NS : P>0.05, ** : P<0.01, * : P<0.05 1) 飼料摂取量および飼料要求率は風乾物(水分 13%含有)換算した. 表 5-3 屋外飼養とバレイショ混合サイレージ給与が豚肉の理化学的特性に及ぼす影響 屋内飼養 屋外飼養 分散分析 バレイショ バレイショ E F E×F 市販飼料 市販飼料 サイレージ サイレージ n 8 8 7 7 ロース肉の化学組成 水分(%) 73.3 71.6 74.3 73.2 ** ** NS 20.1 21.9 19.6 NS ** NS タンパク質(%) 21.8 脂肪(%) 4.0 7.3 3.1 6.1 * ** NS ロース肉の物性 29.5 30.1 29.1 29.4 NS NS NS 加熱損失(%) 破断応力(g/cm2) 1120 924 1256 993 NS ** NS 74.2 73.3 75.7 72.8 NS * NS 保水力 背脂肪の融点(℃) 39.9 41.0 36.1 39.3 ** * NS 最小自乗平均 E: 飼養環境(屋内飼養 vs.屋外飼養),F: 飼料(市販飼料 vs.バレイショサ イレージ) , NS : P>0.05, ** : P<0.01, * : P<0.05 屋外飼養したOC 区とOP 区の屠体長(97.8 , 100.5cm)は屋内飼養したIC区とIP区(94.2,95.4cm) より明らかに長かった.また,屋外飼養したOC区と OP区の背脂肪厚(1.5,1.7cm)は,屋内飼養のIC区と IP区(2.2,2.2cm)より明らかに薄かった.一方, OC区の枝肉歩留および屠体幅は他のIC区,IP区およ びOP区より小さかった. 屋外飼養およびバレイショ混合サイレージ給与 が肥育豚のロース肉の理化学的特性に及ぼす影響を 表5-3に示した.ロース肉の脂肪含量に関して,給与 飼料および飼養環境のいずれにおいても有意な効果 が認められた(P<0.01,P<0.05)が,バレイショ混合 サイレージを給与したIP区とOP区の脂肪含量(7.3, 6.1%)は市販飼料を給与したIC区とOC区(4.0, 3.1%)の2倍程度を示し,給与飼料の違いによる差 が飼養環境の違いによる差よりも明らかに大きかっ た.破断応力においても,給与飼料の効果に有意な 差が認められ(P<0.01),バレイショ混合サイレージ を給与したIP区とOP区(924,993g/cm2)は市販飼料 を給与したIC区とOC区(1120,1256g/cm2)より小さ かった.一方,加圧保水力は給与飼料により異なり, バレイショ給与区では市販飼料給与区より低かった .また,皮下脂肪の融点においては,OC (P<0.05) 区が他のIC,IPおよびOP区より低かった. 屋外飼養およびバレイショ混合サイレージ給与が 肥育豚の胸最長筋の筋線維特性に及ぼす影響を表 - 41 5-4および図5-2に示した.筋線維型構成割合におい て,I型筋線維では区間に差は認められなかった.し かし,ⅡA型筋線維では飼養環境および給与飼料によ る有意な効果が認められ(P<0.01) ,屋外飼養区が屋 内飼養区,バレイショ給与区が市販飼料給与区より いずれも高かった.ⅡB型筋線維においても,飼養環 表 5-4 屋外飼養とバレイショ混合サイレージ給与が肥育豚の筋線維特性に及ぼす影響 屋内飼養 屋外飼養 分散分析 バレイショ バレイショ E F E×F 市販飼料 市販飼料 サイレージ サイレージ n 8 8 7 7 筋線維構成割合(%) 8.2 6.3 7.4 7.9 NS NS NS Ⅰ型 ⅡA 型 9.4 13.8 13.5 19.5 ** ** NS ⅡB 型 82.4 79.9 79.1 72.6 ** * NS 筋線維直径(μm) 44.0 45.9 47.9 45.6 NS NS NS Ⅰ型 ⅡA 型 45.6 43.3 46.1 45.0 NS NS NS 61.2 59.1 63.8 60.8 NS NS NS ⅡB 型 筋線維面積割合(%) 4.4 4.0 5.2 4.9 NS NS NS Ⅰ型 ⅡA 型 5.7 8.4 9.3 12.2 ** * NS ⅡB 型 89.9 87.6 85.5 82.9 ** NS NS 最小自乗平均 E: 飼養環境(屋内飼養 vs.屋外飼養),F: 飼料(市販飼料 vs.バレイショサ イレージ), NS : P>0.05, ** : P<0.01, * : P<0.05 IC IP Ⅰ ⅡA ⅡB 100μm Ⅰ OC OP 図 5-2 免疫組織化学的染色を行った筋線維断面 NADH-DH 活性を組織化学的に検出した後,抗遅筋モノクロナル抗体で免疫染色した.IC:屋内・市販飼料,IP 屋内・バレイショサイレージ,OC:放牧・市販飼料 OP:放牧・バレイショサイレージ 写真内のⅠ,ⅡA, ⅡB は各筋線維型を表す. 境および給与飼料による有意な効果が認められ ,屋外飼養区が屋内飼養区,バレ (P<0.01,P<0.05) イショ給与区が市販飼料給与区よりいずれも低かっ た.しかし,筋線維直径においては,全ての筋線維 型において,飼養環境および給与飼料における差は 認められなかった.各筋線維型の面積割合において は,筋線維型構成割合と同様に,Ⅰ型筋線維では区 間に差は認められないが,ⅡA型筋線維では屋外飼養 区が屋内飼養区,バレイショ給与区が市販飼料給与 区よりいずれも有意に高く(P<0.01,P<0.05) ,ⅡB - 42 型筋線維では屋外飼養区が屋内飼養区より低かった (P<0.01) . 4 考察 肥育豚の行動において,屋外飼養区は屋内飼養 区,バレイショ給与区は市販飼料給与区よりいずれ も休息割合が少なかったことは,屋外飼養およびバ レイショ混合サイレージ給与により立位姿勢での活 動割合が増加することを示したものと思われる. LawrenceとTerlous29)は放牧のような行動制約のな い状況下でのブタの行動は様々な環境に適応し,摂 食に関連した行動(探査行動)を示すのに比べ,摂 食がいつでも可能な屋内飼養では行動の変化が少な いと報告している.ブタの特徴的な探査行動として 土掘り(rooting)が知られている32)が,本試験で設定 した屋外飼養でも明らかに土掘りや移動行動が多く 認められ,ブタの本能的な探査行動を発揮させうる 自然な飼養条件であったと考えられる.一方,本試 験でバレイショ混合サイレージを給与したブタの活 動の活発化は,飼料形態の違いに起因するかもしれ ないが,給与飼料が行動に及ぼす影響を調査した研 究はほとんどなく,今後更なる調査が必要と思われ る. また,バレイショ給与区で少なくなった休息行 動の代替行動として,屋外飼養では土掘り行動が増 加し,スノコ床である屋内では十分な土掘り行動が 行えないことから,摂食行動時間が増加した可能性 も考えられる.そのため運動および摂食行動に交互 作用が認められたものと思われる. 生産性において,屋外飼養およびバレイショ混合 サイレージ給与を行ったIP区,OC区およびOP区は屋 内で市販飼料を給与するIC区に比べ増体量が劣り, 生産性の低下が認められた.これまで,国外では屋 外で飼養したブタでは屋内で飼養したものより増体 量や飼料効率で優れるとする報告5,6,7)が多いが,国 内では屋外飼養での発育が劣るとされている26,27,58). そこで本試験では,昼夜屋外飼養するいわゆる「放 牧」の形態を取らず,十分な運動を可能にしつつエ ネルギー損耗を抑えるよう昼間のみの屋外飼養とし たが,これまでの国内の研究と同様に屋内飼養に比 べ発育が劣る結果となった.季節の変化が激しいわ が国では,屋外飼養での気温,湿度等の厳しい気象 変動がブタのエネルギー摂取やエネルギー消費に影 響を及ぼしたものと思われる.一方,給与飼料が生 産性に及ぼす影響として,これまでの結果と同様に サイレージ中のリジン含量を日本飼養標準・豚41)の 要求量以下にしたバレイショ混合サイレージの給与 は市販飼料給与より増体量や飼料要求率で劣ってお り,行動が活発な屋外飼養では,バレイショ混合サ イレージの給与によって増体量はさらに低下したも のと考えられる. 枝肉成績について,屋外飼養豚が屋内飼養豚より 背脂肪で薄かったことは,屋外飼養の運動に要する エネルギー消費の増加と飼料摂取量が少ないことに よる貯蔵エネルギーの低下によって皮下への脂肪の 蓄積が抑制されたためと思われる.また,屋外飼養 豚で屠体長が長かったことには,出荷体重である 105kgに達するまでの飼育日数が屋内飼養豚より長 いことが影響していると思われる.このことから, 屋外飼養は皮下脂肪の蓄積を抑制するが,筋肉およ び骨格成長に対する影響は小さく,赤肉割合の多い 豚肉生産を可能にするものと考えられる.この屋外 飼養における枝肉特性は国内におけるこれまでの屋 外飼養の報告26,27,58)とも同様の傾向を示す.また, 給与飼料の違いにより枝肉歩留および屠体幅に差が 認められたが,枝肉成績に及ぼす影響においては, 給与飼料の違いが及ぼす差よりも飼養環境の違いに よる差が明らかに大きいと思われた. ロース肉の理化学的特性において,バレイショ混 合サイレージ給与は明らかに筋肉内脂肪含量の増加 を促進したと思われた.これは,これまでのリジン 含量の少ない飼料で生産した豚肉に関する報告 15,16,22,25,67,68,71) と一致し,エネルギー消費の増大から 背脂肪が薄くなる屋外飼養のような飼養環境におい ても,リジン含有量の少ない飼料の給与によって筋 肉内脂肪の蓄積は顕著に促進することを示すもので ある.第3章において,バレイショ混合サイレージ 給与は背脂肪の厚さと脂肪酸組成には影響を及ぼさ ないが,筋肉内では脂肪含量を増加させるとともに, 脂肪酸組成の変化をもたらすことが認められてい る.本章においても,背脂肪厚は飼養環境の違いに よる変化が大きいのに比べ,筋肉内脂肪は給与飼料 の違いによって大きく変化することが示されたこと から,これまでの結果と同様に皮下と筋肉内では脂 肪蓄積の機構が異なっていることが,飼養環境と給 与飼料を組み合わせた2元配置の要因解析を行うこ とで強く示唆されたものと思われる. 破断応力においては,筋肉内脂肪含量が多いバレ イショ混合サイレージ給与区が市販飼料給与区より - 43 小さく,筋肉内脂肪含量が増加すると柔らかさが向 上するとするこれまでの報告3,12)とも一致するもの と考えられる.また本試験の結果から,屋外におい て活発に運動した肥育豚であっても,給与飼料によ り筋肉内脂肪含量の増加を促し,柔らかい豚肉を生 産することが可能であると思われた. 屋外飼養が筋線維特性に及ぼす影響として,屋外 飼養したブタでは屋内飼養よりⅡA型筋線維の構成 割合が高く,ⅡB型筋線維は低いと報告されており 1,7) ,本試験においても同様の結果が得られた.これ はⅡ型筋線維において嫌気的なエネルギー代謝系を 持ち,瞬発的な運動性に優れているⅡB型から,嫌気 的代謝系と酸化的代謝系を合わせ持ち,瞬発的かつ 持続的な運動性に優れているⅡA型への変化を示す. このことは,屋外飼養において土掘りや歩行等の持 続的な運動が多く観察されたこととも一致する.こ れまでKatsumataら23)は低リジン飼料を給与したブ タの筋肉において酸化的酵素(NADH-DH)活性の高い 筋線維割合が高くなることを報告しており,それは 摂取したリジンが少ないことで体タンパク質合成が 低くなり,体内で過剰となったアミノ酸をミトコン ドリアにおけるTCA回路により酸化することから筋 線維の酸化的代謝活性が高まったためと考えてい る.一方,本試験の行動調査において,バレイショ 混合サイレージ給与により明らかに休息時間が少な くなり立位の姿勢の増加が観察されている.立位姿 勢の維持には,胸最長筋の持続的な運動が不可欠で あり,そのために瞬発的な運動に適するⅡB型から持 続的な運動に適するⅡA型に変化したことも, Katsumataら23)の提案する過剰アミノ酸の代謝活性 の増大とあわせて筋線維特性の変化の要因の一つと 考えられる. 以上の結果より,屋外飼養およびバレイショ混合 サイレージ給与は屋内での市販飼料給与より生産性 を低下させたが,枝肉の形状,豚肉の理化学的特性 および筋線維特性に異なることから,様々な消費者 ニーズに対応した豚肉生産への応用が示唆された. 5 摘要 昼間屋外飼養とバレイショ混合サイレージ給与 が肥育豚の行動,生産性,肉質および筋線維特性に 及ぼす影響を検討する目的で,三元交雑豚(WL・D) (平均体重57.4kg)32頭を飼養環境(屋内飼養vs. 屋外飼養)と給与飼料(市販飼料給与vs.バレイショ 給与)を要因とした4区(2要因×2水準)に配置して 各区の平均体重が105kgに達するまで肥育した.行動 における休息割合では,屋外飼養区が屋内飼養区よ り,またバレイショ給与区が市販飼料給与区より少 なかった(P<0.01).増体量では,屋外飼養区が屋内 飼養区より,またバレイショ給与区が市販飼料区よ り低かった(P<0.01).屠体成績において,屋外飼養 区は屋内飼養区より背脂肪厚が薄く(P<0.01),屠体 長が長い(P<0.01)特徴を示し,ロース肉の理化学的 特性においては,バレイショ給与区が市販飼料給与 区より筋肉内脂肪含量で高く(P<0.01),破断応力で 低い(P<0.01)特徴を示した.筋線維型構成割合にお いて,Ⅰ型筋線維(遅筋線維)には区間差は認めら れないものの,Ⅱ型筋線維(速筋線維)では,屋外 飼養区が屋内飼養区より,またバレイショ給与区が 市販飼料給与区よりⅡA型(速筋線維-酸化型)の構 成割合で高かった.以上の結果より,屋外飼養およ びバレイショ混合サイレージ給与は屋内での市販飼 料給与より生産性を低下させたが,枝肉の形状,豚 肉の理化学的特性および筋線維特性で異なることか ら,様々な消費者ニーズに対応した豚肉生産への応 用が示唆された. - 44 - 第6章 総合考察 本研究は,地域農業副産物を活用した資源循環型 畜産の確立を目的に,規格外バレイショを飼料原料 にした高品質豚肉の生産の可能性について総合的に 検討したものである.まずその結果を要約すると, 規格外バレイショを主原料としてリジン含量が要求 量以下になるように調製した混合サイレージを肥育 豚へ給与すると,筋肉内脂肪含量が高く食味の良い 豚肉を生産できた.また,その様な特徴を持った豚 肉を高品質食肉として販売することにより,養豚生 産者の所得向上の可能性が示唆された.さらに,こ の規格外バレイショを飼料原料とした高品質豚肉生 産方法の展開策の一つとして,屋外飼養を組み合わ せた養豚システムの特徴についても検討した.その 結果,屋外飼養やバレイショ混合サイレージの給与 は屋内で市販飼料を給与するこれまでの管理方法よ り生産性の点では劣るものの,枝肉特性および肉質 の異なる肥育豚を生産できることが明らかになっ た.以下では,これらの各章で得られた結果につい て総合的に考察した. 1 地域農業副産物の家畜用飼料への利用について 近年,飼料資源の少ないわが国では,食料自給率 の向上を目指し,食品残さを飼料として利用するエ コフィードの取り組みが広がりつつある8,9).食品工 場からの廃棄物の場合は,品質が比較的一定してお り,しかも定期的に排出されるので飼料利用しやす い食品残さの一つとされる.また,食品工場は都市 部に多いことから,都市近郊の畜産農家はそのよう な食品残さを飼料資源として入手しやすい状況にあ るが,農村地域の畜産農家の場合には別途の輸送手 段が必要となる.飼料価格が高騰する中,農村地域 でエコフィードに関心を持つ養豚生産者にとって, 栄養価や安全性に優れる農業副産物は食品工場から の残さに代わる有望な飼料資源の一つと思われる. 一般的に,農業副産物は水分を多く含むことや,排 出時期が収穫期の一時期に偏ることから,貯蔵が難 しく,これまでは利用が進んでいなかった.そこで, 本研究では飼料利用可能な農業副産物として規格外 バレイショを主原料にフレコンバッグを用いた肥育 豚用混合サイレージの調製について検討した.フレ コンバッグの利用は,調製した混合サイレージの運 搬を可能にするとともに,調製後の栄養損失および 開封後の2次発酵も少ないことから有効な農業副産 物の調製・保存方法と思われた.本研究の方法を活 用することで,利用可能な食品残さの少ない農村地 域では,農業副産物をエコフィードとして有効活用 できるものと思われた.また,近年の大規模養豚場 では食品残さを飼料利用する場合,リキッドフィー ディング方式が多く採用されている8) .リキッド フィーディングはコンピュータ制御により様々な飼 料原料を配合し,パイプラインを通じて給餌できる ことから,水分含量の高い原料を飼料利用する有益 な手法の一つと思われる.しかし,このリキッド フィードの調製には粉砕器,ミキサーおよびパイプ ライン等の施設整備に多額の初期投資が必要となる ため,この方法に取り組めるのは大規模な養豚生産 者に限られてくる.一方,現在の養豚生産者を飼養 規模別にみると,肥育豚の飼養頭数が1000頭未満の 階層は全養豚生産者の66.4%を占めており,年々規 模拡大は進んではいるものの,未だに零細な生産者 も多い47).平成18年度農業統計調査報告・畜産物生 産費57)における養豚経営規模別に示された家族労働 時間を農業就業者数で割った数字を,経営規模別の 一人当たりの年間家族労働時間として図6-1に示し た.経営規模が2000頭以下の場合では,規模が小さ いほど一人当たりの年間家族労働時間は少なく, 1000∼2000頭規模で厚生労働省が目標とする年間実 労働時間の1800時間28)に達するものの,それ以下の 飼養規模では1800時間に達していない.このことか ら,中小規模の養豚経営では他の作物との複合経営 または他産業に従事している生産者が多いことが想 定される.本研究で用いた規格外農産物の飼料利用 方法は,サイレージの調製および給与等に労力を必 要とするが,細断機,撹拌機およびコンベア等の比 較的安価な機械で調製できることから,敷地面積が 狭隘であったり,地域環境の問題でやむを得ず他産 業に従事せざるを得なかった経営体や,初期投資が ネックとなり,エコフィードに取り組みにくかった 中小規模の養豚農家にも利用可能なシステムと思わ れた.また,近年の深刻な景気低迷により厳しさが - 45 - 2 0 00 1 8 00 1 6 00 1 4 00 1 2 00 時間 / 人 1 0 00 800 600 400 200 0 1∼ 1 00頭 1 0 0∼300頭 3 0 0∼500頭 5 0 0∼1000頭 1 0 00∼2000頭 2000頭以 上 図6-1 経営規模別の一人あたりの年間家族労働時間 増している雇用環境の中,サイレージ調製に必要な 労力が養豚経営内で得られなくとも,廃棄農業副産 物を飼料利用する組織を地域で作ることで対応が可 能であるし,また,このことは新たな雇用の創出の 可能性ともなる. 2 規格外バレイショによって生産した豚肉の肉質 について バレイショ混合サイレージにおけるリジン含量 を要求量の80%程度になるように調製することで, 筋肉内脂肪含量の高い高品質な豚肉生産が可能であ ることを明らかにした.これまで,筋肉内脂肪は食 肉の柔らかさや風味等の食味の良さに関連が深いと されてきた3,12)が,第3章では食味官能検査と理化学 的調査の両面からバレイショ混合サイレージで生産 した豚肉の食味の良さが科学的に示された.また, 第5章では,バレイショ混合サイレージの給与に加 えて屋外で飼養したブタの筋線維特性を免疫組織化 学的方法に基づいて分析した.行動調査の結果から も明らかに運動量が増加していた屋外飼養では,持 続的な運動に適するⅡA型筋線維の構成割合が増加 したが,同様にバレイショ混合サイレージ給与に よってもⅡA型筋線維の構成割合の増加が認められ た.これまで,Katsumataら23)は低リジン飼料を給与 したブタの筋肉において酸化的酵素(NADH-DH)活性 の高い筋線維割合が高くなることを報告している. その理由として,体内に吸収したリジンが少ないこ とで体タンパク質合成量が低下し,過剰となったア ミノ酸を筋線維内ミトコンドリアのTCA回路で酸化 するために筋線維の酸化的代謝活性が高まることを 挙げている.一方,バレイショ混合サイレージ給与 において観察されたⅡB型筋線維からⅡA型筋線維へ のシフトの要因として,Katsumataら23)の提唱する過 剰アミノ酸の処理のための酸化的代謝活性の増大も 考えられるが,同時に行動における立位姿勢の増加 が持続的な運動能力に富む筋線維特性へと変化させ たことも考えられる.しかし,給与飼料の違いによ る筋線維の酸化代謝活性の変化については今後更な る機構解明の研究が必要と思われる. これまで枝肉成績における背脂肪厚は脂肪蓄積 の指標とされてきたが,第3章ではバレイショ混合 サイレージを給与しても,皮下脂肪においては厚さ も脂肪酸組成にも大きな影響は認められないが,筋 肉内脂肪においては脂肪含量の増加と脂肪酸組成の 変化が明らかになった.また第5章では,背脂肪が 薄くなる屋外飼養においても,バレイショ混合サイ レージ給与により筋肉内脂肪は増加することを明ら かにした.これらのことは,バレイショ混合サイレー - 46 ジ給与による脂肪合成が筋肉内で特異的に進んでい ることを示唆するものである.給与飼料の違いによ り組織における脂肪蓄積の特異性が示されたこと は,本研究において得られた新たな知見である.皮 下組織に無駄な脂肪を蓄積せず,食味と関係が深い 筋肉内脂肪を増加させることは畜産業にとって有益 な技術となり,今後の機序解明が望まれる. 筋肉内脂肪は給与飼料のみならず遺伝的にも変 化する.本研究における筋肉内脂肪含量は,第3章 ではバレイショ給与区3.8∼6.0%,対照区1.8∼ 2.1%であるのに対し,第5章ではバレイショ給与区 6.1∼7.3%,対照区3.1∼4.0%と飼養試験において 筋肉内脂肪含量に違いがみられた.各試験では2∼4 腹の産子を用い遺伝的な偏りがないよう配慮したこ とから,筋肉内脂肪における給与飼料間および飼養 環境間の違いを明らかにできたが,第3章と第5章 に用いた供試豚では遺伝能力が異なるため飼養試験 間の差が認められたものと推察された. 3 地域農業副産物を活用した高品質豚肉生産にお ける経営および社会的意義について これまで廃棄されてきた食品残さを飼料として 利用し,食料自給率の向上と資源循環型社会の構築 を目指す意義は大きい.しかし,いくら社会的意義 が大きくとも,個々の養豚経営が成立しないとエコ フィードが普及することは難しい.穀類の燃料用エ タノール化による飼料価格の高騰や近年の環境意識 の高まりによって,食品残さの飼料利用を検討する 養豚経営は今後増加すると思われる.養豚農家によ る食品残さの飼料利用は飼料費の低減を主目的に行 われることが多い.確かに,廃棄されている食品残 さを用いることは飼料費の低減につながるが,利用 に際しては新たな施設整備や労力が必要になること も考えられるため,経営的なメリットは予測しにく い.そのため本研究では,規格外バレイショを飼料 利用して食味の優れる豚肉を生産することで,生産 物に付加価値を生み出して高い販売価格を獲得でき る仕組みを提案した.この仕組みにより第4章では, 資源循環型畜産という社会的意義を達成しながら も,個々の経営体の所得が向上するモデルとして本 研究を位置づけた.本来,規格外農産物は食品とし て生産された農産物であることから, 「食べ残し」や 「残飯」といった食品残さが持つ負のイメージを生 じにくい.また,食料生産が環境に及ぼす負荷とし て輸送距離を考慮するフードマイレージ36)や地産地 消46)の考えが一般に広がったことで,本取り組みに 対する消費者からの好意的な意見がアンケート結果 に示されたものと思われる.また, 本研究を実施し た長崎県は北海道に次ぐバレイショの産地であり, 地域で生産されたバレイショは新鮮でおいしい特産 品として消費者に知られている.そのためバレイ ショを飼料にして生産した豚肉もバレイショが持つ 特産品の良いイメージを共有でき,消費者にも好印 象を与えたものと考えられる.一般的に地域で生産 される主要な農産物は地域特産品である場合が多い ため,それを飼料にして生産した畜産物と農産物と が食味の良い特産品として相乗的な効果を生む可能 性もある.地域農業副産物を活用して高品質な畜産 物を生産する資源循環のシステムは環境面だけでな く,地域特産物の創出ひいては農村地域の活性化方 策としての効果も期待される. これまで養豚業では,省力的な飼養管理と輸入穀 物による市販飼料の普及によって多頭化が進み,効 率的な生産が可能となり,生産費の低減が図られて きた.しかし,これらの技術開発は安価で安定的な 豚肉供給を可能にした反面,画一的な品質の豚肉生 産となり,多様化する消費者ニーズへの対応を難し くしたとも言える.現在では,生産性は劣るものの, 食味の良い品種を交配した地鶏や銘柄豚等が付加価 値を高めた特産畜産物として普及しているのと同じ く,飼養管理を工夫することによって特徴ある肉質 の畜産物を生産することも多様化する消費ニーズに 対応する方策の一つと考えられる.そのため,第5 章では規格外農産物の飼料利用の展開策の一方法と して屋外飼養を組み合わせることで,肥育豚の生産 性および肉質に及ぼす影響を検討した.ヨーロッパ を中心に家畜福祉や有機畜産の観点から,養豚経営 に取り入れられるようになってきた放牧や屋外飼養 であるが,わが国でも屋外飼養で生産された豚肉に 対し,健康に飼養された食肉として関心を示す消費 者もみられるようになってきている65).本研究では, 行動調査や筋線維特性に関する検討結果から十分な 持続的な運動を行ったと考えられる屋外飼養の肥育 豚においても,バレイショ混合サイレージを給与す ることで筋肉内脂肪に富む高品質な豚肉を生産でき ることを明らかにした.これらの研究結果は飼料や 飼育施設などの飼養管理法を工夫することで,消費 者が求める肉質の食肉を生産できる可能性を示すも - 47 ので,今後ますます多様化していくと思われる消費 者ニーズに対応した豚肉生産のための貴重な情報を 提供するものと言える. 4 結論 開発途上国では飢餓や栄養不足に直面している. 現在の世界の食料事情を考えると,食料自給率の低 いわが国で食品残さを有効利用することは重要な施 策と考えられる.しかし,廃棄されてきたものを資 源循環する費用を単純に生産物に上乗せすることは 消費者には受け入れにくい.そこで,消費者の十分 な理解が得られ,スムーズに資源循環を推進する方 策として,地域農業副産物を飼料原料にし,食味の 良い食肉の創生というインセンティブを持つ豚肉生 産システムを提案した.したがって,本研究で得ら れたこれらの成果は,今後わが国で資源循環型畜産 を推進していくための有益な知見と言える. - 48 - 総括 本研究は,地域農業副産物を活用した高品質豚肉 生産技術の確立を目的に,規格外バレイショを主原 料とした混合サイレージの調製方法,調製されたサ イレージの品質および保存性を調査するとともに, その給与が肥育豚の生産性および肉質に及ぼす影響 を検討した.また,規格外バレイショを活用した高 品質豚肉生産の実用化を目指し,年間を通じた実証 試験を行った.さらに,近年の多様化する消費者ニー ズに対応するため,屋外飼養を取り入れた資源循環 型養豚業の可能性も検討に加えた.研究の結果得ら れた知見の概要は以下のとおりである. 1.第2章では,規格外バレイショを主原料とした 混合サイレージを調製し,その品質および保存性を 検討した.その結果,規格外バレイショを水洗,細 断の後,他の飼料と混合して貯蔵することで,乳酸 含量が高くpHの低い,良質なサイレージが調製でき た.また,発酵に伴う栄養成分の損失は認められず, 開封後の2次発酵も少ないことが明らかになった. 2.第3章では,規格外バレイショを主原料とし, リジン含量をブタの要求量以下になるように調製し たバレイショ混合サイレージの給与が肥育豚の生産 性および肉質に及ぼす影響を検討した.その結果, バレイショ混合サイレージは,市販配合飼料より肥 育豚の増体量では劣るものの,枝肉成績には影響を 及ぼさなかった.バレイショ混合サイレージで生産 された豚肉は,柔らかく,臭いが少なく,風味がよ いという食味特性を有しており,その理化学的特性 においては,筋肉内脂肪含量が明らかに高く,破断 応力が低く,筋肉内脂肪の飽和および一価不飽和脂 肪酸含量の高い特性が認められた.血清生化学成分 および屠畜検査の結果,バレイショ混合サイレージ がブタの健康に悪影響を及ぼす可能性は低くいこと が示された.これらの結果からバレイショ混合サイ レージ給与によって高品質な豚肉を生産できること が明らかとなった. 3.第4章では,規格外バレイショ20tを主原料に調 製した混合サイレージ40tを肥育豚88頭に年間を通 じて給与する実証試験を実施して,第3章で得られ た結果の養豚生産現場での再現性を確認するととも に,得られたデータを基に規格外バレイショを飼料 利用した養豚経営に関するシミュレーションを行っ た.また,併せて消費者にこの取り組みに対する意 識調査を実施した.意識調査から,消費者は環境問 題や食の安全に対する意識が高く,地域農業副産物 を飼料利用する取り組みに対し,好意的な意見を持 つことが明らかとなった.そのため,規格外バレイ ショを飼料利用して生産した豚肉を高品質な食肉と して販売し,サイレージ調製の労働対価を得ること によって,養豚経営の所得は向上することが示唆さ れた. 4.第5章では,昼間屋外飼養とバレイショ混合サ イレージ給与の組合せが,肥育豚の行動,生産性, 肉質および筋線維特性に及ぼす影響を検討した.屋 外飼養やバレイショ混合サイレージを給与する飼養 管理方法は,屋内で市販飼料を給与するこれまでの 管理方法より生産性は劣るものの,枝肉の形状,理 化学的特性および筋線維特性の異なる豚肉が生産で きることを明らかにした.そのため,これらの飼養 管理方法の組合せは,様々な消費者ニーズに対応し た豚肉生産へ応用可能であることが示唆された. 以上の結果から,規格外バレイショを主原料に調 製した混合サイレージを肥育豚に給与することに よって,高品質な豚肉が生産できることを明らかに した.この農業副産物を活用した高品質豚肉生産の システムは,地域環境に貢献しながらも養豚生産者 の所得が向上できるリスクの分散された資源循環型 畜産のモデルになると思われた.さらにこのシステ ムと屋外飼養を組みあわせることで,多様な消費者 ニーズに対応した豚肉生産への応用が可能であるこ とが示された.したがって,本研究で得られたこれ らの成果は,今後わが国で農業副産物を活用した資 源循環型畜産を推進していくための有益な知見と言 える. - 49 - 謝辞 本研究の遂行並びに論文の取りまとめに当たり, 終始懇篤なるご指導とご助言を賜りました佐賀大学 農学部尾野喜孝教授(主指導教官)に心から感謝い たします.また,本研究の遂行に当たり,適切なご 助言を賜りました鹿児島大学農学部中西良孝教授 (副指導教官)並びに佐賀大学農学部駒井史訓准教 授(副指導教官)に深謝いたします.本論文の審査 に当たり,有益なご助言とご高閲を賜りました琉球 大学農学川本康博教授並びに佐賀大学農学部和田康 彦教授に深謝いたします. そして,実証試験でご協力をいただきました山中 養豚の山中良信氏,山中浩氏並びに長崎県央農業協 同組合畜産課をはじめ多くの長崎県内農業関係機関 の皆様に謝意を表します.また,本研究の遂行に当 たり,様々な分析等でご協力いただいた長崎県環境 保健研究センター竹野大志主任研究員並びに西川徹 研究員,飼養試験から分析まで昼夜を問わずご協力 いただいた長崎県農林技術開発センター本多昭幸研 究員に感謝いたします. 最後に本研究の遂行と論文の作成に対してご理解 とご協力を賜りました長崎県農林技術開発センター 畜産研究部門の職員の皆様に厚く御礼申し上げます. - 50 - Studies of high-quality pork production using local agricultural by-product Koichi SHIMAZAWA SUMMARY This study was conducted to establish an effective way to use unqualified potatoes as a feed for pigs. After the preparation of silage using the potatoes below marketing standards, assessment of the silage quality, and the effects of the silage on the performance and carcass quality in finishing pigs were evaluated. Using the obtained data stated above, economical and management prospects of the pig farmer applying this production system was analyzed. Pig production using the silage with outdoor rearing was also investigated to discuss a possibility of sustainable animal production. The results obtained were followed. 1. Refused potatoes from the commercial standards were washed, cut, mixed with other ingredients and packed in a flexible container bag. This potato mixed silage was designed to contain potatoes a half of a whole silage and less lysine than the pig requirement for their desirable growth. The quality of the silage produced in this way seemed to be favorable, because it had a high lactic acid content and low pH. The nutritional loss of the silage through the fermentation was minimal, and the secondary fermentation of the silage after opening was negligible. 2. Effects of the potato mixed silage on performance and meat quality in finishing pigs were investigated. The treatment with the silage decreased the growth rate of the pigs, but had no influence on the carcass traits. The silage treated pigs produced a meat with less smell, better flavor and more tenderness than the control pigs fed a commercial diet. According to the physical and chemical analyses, loin meat of the silage treated pigs showed significantly higher percentages in fat, saturated and monounsaturated fatty acids, and lower shear stress value than that of the control pigs. Biochemical analysis of serum and slaughter inspection revealed no problems concerning the health condition of the silage treated pigs. These results suggest that the potato mixed silage has a high potential to produce quality carcasses with highly accumulated fat within a loin muscle. 3. Application of this pork production system using potato mixed silage into the practical field (farmer) was examined and the obtained data were used to analyze economical and management prospects of farmers applying this system. Consumer interest in this system was also researched. Consumers highly conscious to environmental problems and food safety had a tendency to support this kind of sustainable animal production system of using local agricultural by-product as an animal feed. The economical and management analysis prospected that the income of the farmers applying this pig production system with potato mixed silage could be increased by selling the produced quality pork by 10% higher price than that produced by the current conventional system, and evaluated this system as a valuable sustainable animal production model. 4. Effects of different rearing environments (indoor rearing vs. outdoor rearing) and diets (commercial diet vs. potato mixed silage) on behavior, performance, meat quality and muscle fiber characteristics in finishing pigs were investigated. Outdoor rearing and the silage feeding decreased productivity of finishing pigs, but produced different quality meat and muscle fiber characteristics from those of the current conventional rearing management system with a commercial diet fed indoors. Results show that the pig management systems examined in this study could produce acceptable and specific quality pork to meet consumer needs. - 51 In conclusion, it was clarified in this study that pigs fed with silage made by unqualified potatoes produced high-quality pork, farmer income applying this pig production system could increase, many consumers support this system as sustainable and safety food production agriculture, and the combination of potato mixed silage feeding and outdoor rearing could produce specific types of pork to meet consumer needs. Therefore, this local agricultural by-product feeding and high quality pork production system would be a sustainable animal production model. - 52 - 引用文献 1) Bee G, Guex G. Herzog W. 2004. Free-range rearing of pigs during the winter: Adaptation in muscle fiber characteristics and effects adipose tissue composition and meat quality traits. Journal of Animal Science 82, 1206-1218. 2) 畜産技術協会. 2003. 牛肉の品質評価のための理 化学分析マニュアルVer. 2. pp.3-12. 畜産技術 協会, 東京. 3) DeVol DL, Mckeith FK, Bechtel PJ, Novakofski J, Shanks RD, Carr TR. 1988. Variation in composition and palatability traits and relationships between muscle characteristics and palatability in random sample of pork carcasses. Journal of Animal Science 66, 385-395. 4) イースクエア. 2008. LOHAS消費者動向調査2008 サマリーレポート. [cited 30 March 2009]. Available from URL: http://www.e-squareinc. com/news/2008/pdf/LOHAS08SummaryReport.pdf 5) Galian M, Poto A, Santaella M, Peinado B. 2008. Effects of the rearing system on the quality traits of the carcass, meat and fat of Chato Murciano pigs. Animal Science Journal 79, 487-497. 6) Gentry JG, McGlone JJ, Miller MF, Blanton JR. 2002. Diverse birth and rearing environment effects on pig growth and meat quality. Journal of Animal Science 80, 1707-1715. 7) Gentry JG, McGlone JJ, Miller MF, Blanton JR. 2004. Environmental effect on pig performance, meat quality, and muscle characteristics. Journal of Animal Science 82, 209-217. 8) 配合飼料供給安定機構. 2006. 食品残さの飼料化 (エコフィード)をめざして―飼料化マニュアル (平成17年度版)―. 配合飼料供給安定機構, 東 京. 9) 配合飼料供給安定機構. 2008. 食品残さ飼料(エ コフィード)の利用を進めるために. 配合飼料供 給安定機構, 東京. 10) 橋詰 匠. 2005. ビジネスリスク分析入門. 早 稲田大学出版部, 東京. 11) Harvey WR. 1990. Users guide for LSMLMW and MIXMD PC-2 ver, mixed model least-squares and maximum likehood computer program. Ohio State University. Columbus. 12) Huff-Lonergan E, Baas TJ, Malek M, Dekkers JCM, Prusa K, Rothschild MF. 2002. Correlations among selected pork quality traits. Journal of Animal Science 80, 617-627. 13) 兵頭 勲. 1997. 脂肪交雑のある豚. 畜産の研 究 51, 19-24. 14) 入江正和, 藤谷康裕. 1989. 豚の脂肪組織と筋 肉脂肪の理化学的性状に及ぼす大豆油添加と添 加時期の影響. 日本養豚学会誌 26, 255-260. 15) 入江正和. 2002. 豚肉質の評価法. 日本養豚学 会誌 39, 221-254. 16) 岩本栄治,設楽 修,入江正和. 2005. パン添 加飼料給与がブタの増体量および肉質に及ぼす 影響. 日本畜産学会報 76, 15-22. 17) 岩元久雄, 田畑正志, 尾野喜孝, 川井田 博, 高 原 斉. 1981. 豚骨格筋の筋線維構成に関する研 究Ⅰ. 大腿二頭筋深層部と浅層部における筋線維 分布の差異. 九州大学農学部学芸雑誌 35, 31-36. 18) 岩元久雄, 尾野喜孝, 川井田 博, 高原 斉. 1989. 鹿児島バークシャー種豚の胸最長筋筋線維 に関する組織化学的研究. 日本畜産学会報 60, 261-272. 19) 自給飼料品質評価研究会. 2001. 改訂粗飼料の 品質評価ガイドブック. pp.36-38. 社団法人 日本草地畜産種子協会, 東京. 20) 家畜改良センター. 2005. 食肉の官能評価ガイ ドライン. pp.1-79. 日本食肉消費総合センター, 東京. 21) 籠田勝基. 1999. 豚病学〈第四版〉. pp.63-68. 柏崎 守,久保正法,小久江栄一,清水実嗣,出 口栄三郎,古谷 修,山本孝史編集. 近代出版, 東 京. 22) Katsumata M, Kobayashi S, Mitsumoto M, Tsuneishi E, Kaji Y. 2005. Reduced intake of dietary lysine promotes accumulation of fat in - 53 - Longissimus dorsi muscle of finishing gilts. Animal Science Journal 76, 237-244. 23) Katsumata M, Matsumoto M, Kobayashi S, Kaji Y. 2008, Reduced dietary lysine enhances proportion of oxidative fibers in porcine skeletal muscle. Animal Science Journal 79, 347-353. 24) 川井田 博, 実吉弘文, 福元守衛, 安田三郎, 湯 之口幸一. 1983. 甘しょ等の飼料価値向上に関す る研究, Ⅳ甘しょ(サイレージ, 粉末)の給与期 間, 給与量が肥育並びに肉質, 特に脂肪の質に及 ぼす影響について. 鹿児島県畜産試験場研究報告 15, 177-188. 25) Kerr BJ, Mckeith FK, Easter RA. 1995. Effect on performance and carcass characteristics of nursery to finisher pigs fed reduced crude protein, amino acid-supplemented diets. Journal of Animal Science 73, 433-440. 26) 清間 通, 砂川真一, 宮脇公平, 野口 進, 遠 藤敏章, 小松弘明, 村岡郁夫,野田一臣. 1986. 山 地放牧による豚の産肉性及び肉質に関する研究. 鳥取県中小家畜試験場研究報告 47, 2-20. 27) 小林直樹, 河部恭一, 井筒重樹. 1995. 肉豚の 放飼における放飼密度に関する研究. 福井県畜産 試験場研究報告 13, 7-9. 28) 厚生労働省. 2008. 厚生労働白書. [cited 03 April 2009]. Available from URL:http://www. mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/08-1/dl/01.pdf 29) Lawrence AB, Terlouw EM. 1993. A review of behavioral factors involved in development and continued performance of stereotypic behaviors in pigs. Journal of Animal Science 71, 2815-2825. 30) Lefaucheur L, Le Dividich J, Mourot J, Monin G, Ecolan P, Krauss D. 1991. Influence of environmental temperature on growth, muscle and adipose tissue metabolism, and meat quality in swine. Journal of Animal Science 69, 2844-2854. 31) 松岡昭善, 鈴木伸一, 池田周平, 濱岡俊哉. 1985. 豚に対する発酵飼料の利用に関する研究 2. 食品残渣物を中心に配合した場合のと肉成績 ならびに肉質について. 日本養豚研究会誌 22, 213-220. 32) 三村 耕. 1997. 家畜行動学. 養賢堂, 東京. 33) 森本 宏. 1985. 飼料学. pp.414-419. 養賢堂, 東京. 34) 村上大蔵. 1997. 新編獣医ハンドブック. pp140-141, 1502-1505. 中村良一,笠原二郎,酒井 保,村上大蔵,吐山豊秋編集. 養賢堂, 東京. 35) 長崎県. 2005. 長崎県バイオマスマスタープラ ン資料編. pp.26-29. 長崎県, 長崎. 36) 中田哲也. 2003. 食料の総輸入量・距離(フー ド・マイレージ)とその環境に及ぼす負荷に関す る考察. 農林水産政策研究 5, 45-59. 37) 日本学術会議生産農学委員会畜産分科会. 2007. わが国の食料生産における資源循環型畜産技術 の開発と地域活性化. [cited 22 march 2008]. Available from URL:http://www.scj.go.jp/ja /info/kohyo/pdf/kohyo-20-t46-2-1.pdf 38) 日本種豚登録協会. 1991. 豚産肉能力検定実務 書. pp.39-45. 日本種豚登録協会, 東京. 39) 丹羽美次, 中西五十. 2002. 豆腐粕,パン屑主体 サイレージおよびパスタ屑の給与が肥育豚の発 育および体脂肪に及ぼす影響. 日本養豚学会誌 39, 157-165. 40) 野地澄晴.2006.免疫染色& in situ ハイブリ ダイゼーション最新プロトコール.羊土社,東京. 41) 農業・生物系特定産業技術研究機構. 2005. 日 本飼養標準・豚(2005年版). 中央畜産会, 東京. 42) 農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研 究所. 2008. 平20-7資料 平成20年度自給飼料利 用研究会・エコフィード全国シンポジウム. 農 業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所, 茨城. 43) 農林水産バイオリサイクル研究会「システム化 サブチーム」. 2006. バイオマス利活用システム の設計と評価. 農業工学研究所, 茨城. 44) 農林水産省. 2008. 我が国の食料自給率 平成18 年度食料自給率レポート. 農林水産省, 東京. 45) 農林水産省大臣官房情報課. 2006. 農産物の生 産における環境保全に関する意識・意向調査結 果.[cited 2 February 2009]Available from URL:http://www.maff.go.jp/www/chiiki_joho/c ont/20060202cyosa.pdf 46) 農林水産省大臣官房情報課. 2007. 地産地消に 関する意識・意向調査結果.[cited 2 February 2009]Available from URL:http://www.maff.go. - 54 jp/www/chiiki_joho/cont/2007031201cyosa.pdf 47) 農林水産省大臣官房統計部. 2008. 畜産統計(平 成20年2月1日現在). [cited 2 April 2009] Available from URL:http://www.maff.go.jp/ toukei/sokuhou/data/siyou-doukou2008/ siyu-doukou2008.pdf 48) 農林水産省統計部. 1999. 農業経営統計調査報 告 平成10年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 49) 農林水産省統計部. 2000. 農業経営統計調査報 告 平成11年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 50) 農林水産省統計部. 2001. 農業経営統計調査報 告 平成12年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 51) 農林水産省統計部. 2002. 農業経営統計調査報 告 平成13年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 52) 農林水産省統計部. 2003. 農業経営統計調査報 告 平成14年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 53) 農林水産省統計部. 2004. 農業経営統計調査報 告 平成15年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 54) 農林水産省統計部. 2005. 農業経営統計調査報 告 平成16年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 55) 農林水産省統計部. 2006. 農業経営統計調査報 告 平成17年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 56) 農林水産省統計部. 2007. 農業経営統計調査報 告 平成18年 畜産物生産費. 農林統計協会, 東 京. 57) 農林水産省統計部. 2008. 農業経営統計調査報 告 平成18年度 畜産物生産費.農林統計協会, 東 京. 58) 大石 仁, 坂 代江, 宮部 工. 2006. 飼養環 境が生産性に及ぼす影響(ストレス軽減環境の検 討). 茨城県畜産センター研究報告 39, 67-72. 59) 沖谷明紘. 1996. 肉の科学. 朝倉書店, 東京. 60) Rosenvold K, Andersen HJ. 2003. Factors of significance for pork quality ‒ a review. Meat Science 64, 219-237. 61) Sasaki K, Nishioka T, Ishizuka Y, Saeki M, Kawashima T, Irie M, Mitsumoto M. 2007. Comparison of sensory traits and preferences between food co-product fermented liquid (FCFL)-fed and formula-fed Pork Loin. Asian-Australasian Journal of Animal Science 20, 1272-1277. 62) 佐々木啓介. 2008. エコフィード給与豚肉に対 する消費者の受容性. 畜産技術 641, 11-16. 63) 佐藤 信.1985.統計的官能評価法.pp.53-55. 日科技連出版社,東京. 64) Savell J, Smith G. 2000. Laboratory manual for meat science seventh edition. pp.65-78. American press, Boston. 65) 新小田修一. 2008. 日本型アニマルウェルフェ アの実現と食の安心感を向上させる耕作放棄地 を利用した黒豚の放牧. 養豚の友 6, 44-49. 66) 飼料分析基準研究会. 2005. 飼料分析法・解説 (2004). pp.1123-1126. 日本科学飼料協会, 東京. 67) Sundrum A, Bütfering L, Henning M, Hoppenbrock KH. 2000. Effect of on-farm diets for organic pig production on performance and carcass quality. Journal of Animal Science 78, 1199-1205. 68) Szabo C, Jansman AJM, Babinszky L, Kanis E, Verstegen MWA. 2001. Effect of dietary protein source and lysine: DE ratio on growth performance, meat quality, and body composition of growing-finishing pigs. Journal of Animal Science 79, 2857-2865. 69) 谷 史雄, 新居昌宏, 森 直樹. 2003. 阿波ポー クの「特徴あるおいしさ」評価技術の開発. 徳島 県畜産試験場研究報告 3, 73-76. 70) Unruh JA, Friesen KG, Stuewe SR, Dunn BL, Nelssen JL, Goodband RD, Tokach MD. 1996. The influence of genotype, sex, and dietary lysine on pork subprimal cut yields and carcass quality of pig fed to either 104 or 127 kilograms. Journal of Animal Science 74, 1274-1283. 71) Witte DP, Ellis M, Mckeith FK, Willson ER. 2000. Effect of dietary lysine level and environmental temperature during the finishing phase on the intramuscular fat content of pork. Journal of Animal Science 78, - 55 1272-1276. 72) 山田和順. 1987. 組織化学. pp371-387. 南江堂, 東京. 73) 山崎幹夫, 中嶋暉躬, 伏谷伸宏. 1985. 天然の 毒−毒草・毒虫・毒魚−. pp.18-20. 講談社サイ エンティフィク, 東京. 74) 米田裕紀, 首藤新一, 阿部 登, 所 和暢, 糟 谷 泰, 西部慎三, 吉本 正. 1984. 豚における 自給飼料の利用に関する研究, 第2報 肥育豚で の馬鈴薯サイレージ及び澱粉粕の利用性. 日本養 豚学会誌 21, 125-134.