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産 7 先天的に鼻孔が 3 つ存在した子牛の一例 ○齋藤愛 1 ) 柄 武志 2 ) 西村 亮 2 ) 岡本芳晴 2 ) 森田剛仁 2 ) 寸田祐嗣 2 ) 1)岡山県農共連生獣センター 2)鳥取大学 1.はじめに:supernumerary nostril とは鼻孔が過剰に存在する非常に稀な先天奇形である。今までヒトで約 30 ケースの報告があるが、動物において論文としての報告は今までにない。今回、ホルスタイン種雌子牛において supernumerary nostril が疑われる症例に遭遇したのでその概要を報告する。 2.症例:平成 27 年 9 月 21 日生まれのホルスタイン種雌子牛で、生まれつき鼻孔が 3 つ存在した。左右鼻孔は正常 位置にあるものの、広い鼻鏡のため正常子牛に比べて辺縁に変位、若干扁平で小さな孔として観察された。中間鼻孔 は右側鼻孔の近傍にあり、腹背方向に長軸をもつ扁平な小さな孔として存在した。中間鼻孔より正中・近傍の鼻鏡に は白毛の有毛部がみられた。外観上、鼻梁は鼻鏡-眼窩ライン前方 1/3 領域で左側に屈曲していた。症例は元気、哺 乳欲あり、TPR は正常、呼吸器症状の発現もなく,顔面以外に外見上の奇形は認められなかった。飼い主は予後判 定ならびに整形外科を希望、45 日齢に鳥取大学を受診した。塩酸キシラジン (0.2mg/kg) による麻酔下で computed tomography (CT) 検査を実施した。左右鼻孔は鼻腔につながり、 中間鼻孔は鼻鏡から約 4㎝の位置で盲端となっていた。 鼻中隔は鼻梁変形部で右側に大きく蛇行、右側鼻腔を狭窄していた。鼻中隔には通常ではみられない骨様構造がみら れた。内視鏡検査において、右側鼻腔の高度狭窄ならびに中間鼻孔の盲端構造を確認した。手術は、中間鼻孔周囲の 鼻鏡 ( 有毛部を一部含む ) を 360 度切開し、切開部から中間鼻孔を周囲組織から剥離、盲端部分まで分離したのち中 間鼻孔を切除した。中間鼻孔構造切除に伴う欠損部は吸収糸を用いて縫縮し、鼻鏡切開部は結束バンドを用いて閉じ た。切除組織の病理組織学的検査において、正常な鼻腺・皮膚上皮構造がみられるとともに洞毛も散見された。術後 3 週間で癒合を確認、その後現在に至るまで既往歴はなく良好に発育している。 3.考察:本症例は世界でも報告のない supernumerary nostril を疑う鼻の先天奇形であった。画像検査から中間鼻 孔が異常鼻孔と考えられたが、鼻中隔骨様構造や鼻梁・鼻中隔変形などを含め、今回の鼻奇形の発生機序を解明する ことは難しい。中間鼻孔は盲端であり本病変が臨床症状に直接関係する可能性は低かったが、顔面整形を目的に手術 を実施した本症例は、同様の疾患に対する術式や問題点を把握する上でよい情報となった。 産 8 経寛骨臼ピンニングにより治癒した育成子牛の大腿骨頚部骨折 ○田浦保穗1 ) 檜山雅人1 ) 谷口雅康1 ) 高木光博1 ) 谷 健二1 ) 西川晋平1 ) 原口友也1 ) 板本和仁1 ) 井芹俊恵1 ) 伊藤良樹1 ) 中市統三1 ) 美濃成憲 2 ) 元永博次 2 ) 小泉美智子 2 ) 1)山口大学動物医療センター・山口県 2)NOSAI 山口西部家畜診療所・山口県 1.はじめに:牛の大腿骨頭や頚部の骨折治療は難しく,手つかずの状態で放置される例も多い。治療せずに放置し た場合には,様々な後遺症により最終的には廃用になりやすく,簡単で安価な手術法が求められる。経寛骨臼ピンニ ング法は,小動物臨床では応用されて効果を挙げているが,牛への応用は我々の報告(1996 年、第 39 回本学会)以 外に見当たらない。 2.材料および方法:黒毛和種,5ヵ月齢、雌、体重 200kg。突然の左後肢負重が消失し加療するも状態は悪化する という主訴で山口大学動物医療センターに来院した。一般身体検査では、右後肢の球節沈下と、時々の左後肢蹄尖で の着地、左後肢を拳上させた際の左股関節の軋轢音等が聴取された。Ⅹ線検査から両後肢の球節以遠には異常はなく、 左大腿骨頚部の骨折と骨棘形成および骨新生が認められた。1週間様子をみるも改善せず、経寛骨臼ピンニング法を 行った。すなわち、キシラジン・ミダゾラム・ブトルファノールの鎮静・鎮痛およびクモ膜下麻酔の右横臥位で、ホー ムセンターで購入した径4mm の滅菌ステンレス鋼ピンを電動工具用滅菌ドリルに装着し、大転子下方より寛骨臼~ 骨盤腔まで貫通させた。直腸検査にて十分な固定と骨盤腔内へのピン刺入1cm を確認後に、ピンの大転子側をL字 形に曲げ筋膜下に埋伏させ、ピンの大転子側への移動を予防した。手術時間は約 45 分であり、覚醒後に外固定は行 わず抗生物質を投与し退院した。 3.結果および考察:術後 43 日目のⅩ線検査で骨折部でのピン破損が認められたが固定は十分であり、大転子側の ピンのみを除去した。その後、患牛は、術後4ヵ月で体重 350kg と順調に生育し、Ⅹ線検査で骨盤腔内ピンも偶然に 大腿骨頭まで戻っていたので、子牛市場に出荷した。 我々の既報では、3 ヵ月齢の体重 83-90kg に対してピンは径6mm であったが、今回の症例は体重も重く、径4mm では細く破損したものと推察された。股関節アプローチ法として、萩尾らは骨頭までの方法ではピンを刺入する角度 が重要であると報告している。本症例では太いピンの準備不足ではあったが、①股関節の骨標本や写真などで刺入の シミュレーションができたこと、②直腸検査で刺入したピンの確認できたこと、③Ⅹ線検査で骨折が確認できたこと などにより、良好な結果が得られたと考えられた。本法は手技が簡単で、特別な器具を必要とせず、安価であること から、牛の大腿骨頚部の骨折に有用であることが再確認された。 34