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JICA(国際協力機構)
第 8 号 2008 年 8 月 15 日
アマパ州の氾濫原における森林資源の持続的利用計画
プロジェクト通信
プロジェクト事務所: Avenida Procópio Rola, 90 Centro Administrativo, Macapá, Amapá
TEL&FAX:+96-3212-3121
CEP:68900-081 (アマパ州森林院内)
E-mail(担当:渡邉):[email protected]
プロジェクト・エリア
アマパ州マザガウン郡の氾濫原地帯(マラカ地
区・マザガウン・ベーリョ地区)
プロジェクトの上位目標
アマパ州氾濫原の森林資源の持続的利用に
よりプロジェクト・エリアに居住する川岸住民の
生計が改善される。
プロジェクト目標
氾濫原にあるプロジェクト・エリアにおいて、川
岸住民の生計向上に資する森林資源活用の
方法が改善される。
プロジェクトにより期待される成果
① アマパ州政府内にプロジェクト・エリア内の
氾濫原における森林資源の持続的利用の
ための技術的枠組が構築される。
② 森林の持続的管理が川岸住民によって行
われる。
③ アグロフォレストリー・システムが川岸住民
によって確立される。
④ 川岸住民と家具業者の連携が構築され、
強化される。
■ はじめに
ブラジルの 20 歳未満の人口は約 40%。一方、プロジェクト・エリアのあるマ
ザガウン郡のそれは約 58%です(IBGE, 2004 推計値より)。プロジェクト・エリ
アの一家族当たりの人数は、マザガウン・ベーリョ地区は 7 人、マラカ地区は
7.8 人(JICA 州政府合同調査, 2005)で、そのうち家族の生産に加わっている
人数は、前者で 3.2 人、後者は 2.7 人。つまり両地区とも大家族で、多くの子供
を抱えている状況が伺えます。これを反映するかのように、プロジェクトの活動
氾濫原には道がないので、家の中で三輪車。
には子供たちがたくさん登場します。ところが 15 歳以上の識字率は、ブラジル全国で約 86%、アマパ州 88%に対し、マ
ザガウン郡は約 71%しかなく(IBGE, 2000)、これがプロジェクト・エリアになると 50∼60%しかありません。
プロジェクトが目指す持続的な森林管理は、10 年から 30 年先を予測した計画です。氾濫原の森林資源を持続的に
利用するためには、子供たちの教育も考慮した活動が求められています。
川岸住民の会議に参加する母子。
会議の最年少参加者?
ティーンエイジャーも会議に参加しました。
実施機関:アマパ州政府 農村開発局、森林院、農村開発院、商工鉱局、経済開発特別局、科学技術局、他
実施期間:2005 年 11 月−2009 年 4 月
日本側投入:チーフアドバイザー、森林管理、アグロフォレストリー、木材加工の各専門家、必要機材、他
森林資源の持続的利用のための環境教育
環境教育とは?
環境教育の目的は、国や組織、人によって様々ですが、ベオグラード憲章(1975 年)によると「環境とそれに関わる
問題に気づき、関心を持つとともに、当面する問題を解決したり、新しい問題の発生を未然に防止するために個人及
び社会集団として必要な知識、技能、態度、意欲、実行力等を身につけた人々を育てること」としています。その目的
を達成するため、ベオグラード憲章では環境教育の段階的な目標として①認識、②知識、③態度、④技能、⑤評価能
力、⑥参加という 6 つを挙げています。
本プロジェクトの目標は、氾濫原にあるプロジェクト・エリアにおいて、川岸住民の生計向上に資する森林資源の活
用方法を改善することです。それを達成するため、これまでは主に大人を対象に技術指導しながら、環境保全への意
識向上を働きかけてきました。しかし、大人の環境意識を向上することは簡単ではありません。例え森林資源が劣化
していると認識していても、これまでの態度を変えるには、法的規制や経済的インセンティブが必要になってきます。
一方子供たちは様々な可能性を秘めています。プロジェクトが推進して
いる持続的森林管理やアグロフォレストリーの担い手、受益者は、まさに
今の子供たちの世代です。子供たちも、すでに苗木づくりに参加し、植林の
お手伝いをしていますが、これらの活動を早い段階から認識し、知識を得
るために学習することが重要です。
そこで 8 月 12 日、佐藤卓司専門家の指導により、マラカ地区のアマパ州
立基礎教育リオ・ナビオ校において、植樹行事を通じた環境教育活動を実
践しました。
マラカ地区、リオ・ナビオ州立学校での環境教育・植樹行事
佐藤卓司(JICA 短期専門家・森林管理担当)
アマパ州立基礎教育リオ・ナビオ校は、プロジェクト・エリアの住民
子弟の多くが通う基礎教育課程の学校で、5 年生までが学んでいる。生
徒総数は、午前と午後の部を合わせて 40 名程度。教員 4 名、他職員 2
アマゾン河に面するリオ・ナビオ校
名。通学船は州政府の補助を得て、コミュニティーが運航している。学
校のある地は島(中洲)になっている。4,5 年前まで製材所が動いてい
たが、現在は製材機など取り外されている。製材所の職員が住んでいた
家に空き家が多く、学校と教会以外の建物は荒れ果てている。
植樹地は、Antonia 校長の賛同を得て、学校前(アマゾン本流河岸)
と学校裏側を見て検討した。川岸は、波浪の激しくなる時期には強い波
に打たれ、流木も押し寄せると地元住民の情報を得る。学校裏の荒れて
佐藤専門家による説明
いる草地に約 7mx20m を設定。8 月 11 日(月)、作業者 2 名を雇い、高
松寿彦専門家(アグロフォレストリー担当)と共に地拵え作業と植え穴掘り作業を終日行った。この土地は、
以前水牛が放牧されていて、土が踏み固められ、15cm より下の土は酸欠還元状況にある粘土。煉瓦用の粘土
のような土となっている。流木や木片が散乱しており、邪魔なものは植え付けエリアから取り除いた。ネムノ
キやジュンコと呼ばれる草が多く茂っており、刈り取った草は植え付け後のマルチ(被覆)用に利用。植え穴
は Draga を使い掘り始めたが、粘着力が強く、器具の柄が 3 回折れてしまい、テルサード(長刀)の方が穴掘
りに便利だった。
苗木は、マラカ地区農林協会(AFLOMARA)のコミュニティー苗
畑より、アサイー、セードロ、アンジローバ、マカカウーバ、マホ
ガニー、クプアスー、カカオ、アセローラ、チーク(1 本のみ)など
のポット苗を 160 本程運ぶ。他に、近くに芽生えていたマカカウー
バ苗(7、8 本)を掘り取って用いた。
植樹は、8 月 12 日、午前 10 時から 40 分程度のミニ植樹祭の形式
植樹開始
で行った。植え付け方式は混植密植で、自然林に似せた森をつくろ
うとするもの。小職が 1992 年より携わっている植物社会学の宮脇昭
先生(横浜国大名誉教授)指導による植樹方式を参考にした。植樹
に先立ち、訪問者を紹介し、植え付け方法の説明と怪我をしないよ
うに注意を与えた。参加者は、生徒 24 名と教職員、訪問者など 14
名の合計 38 名。植え穴に入れる土が粘土の固まりとなっているもの
が多かったので、大鋸屑の堆積した所から、バウーと呼ばれている
大鋸屑堆肥のようなものを運び、植え土に代えた。一人当たり 4、5
アサイーを植える
本を丁寧に植え付けてくれ、枯草でのマルチも指示に従って敷いて
くれる。苗ポットを外したポリエチレンは、子供たちがゴミ箱に拾
い集めている。
植樹後、全員で輪をつくり「Viva Natureza!(自然万歳)
」と「Viva
Escola Rio Navio!(リオ・ナビオ校万歳)
」を、元気よく唱えた。
生徒たちは、自分立ちが植えた木々が小さな森に育っていくこと
を目にしてゆける。今後の保育管理は、1 年内に 3、4 回の下刈りを
行うだけで、後は自然に任せて良い。
植樹後の記念撮影
自然万歳!
中日新聞の記者らがプロジェクトを訪問
8 月 12 日、13 日の 2 日間、JICA の広報事業の一環として、中日新聞(本
社名古屋市)社会部記者の山本真嗣さんが、JICA 中部の前納加奈子さん
(市民参加協力課)、JICA サンパウロ事務所の村本清美さんと一緒にアマ
パ州を訪問し、本プロジェクトを取材されました。
本プロジェクトでは、アグロフォレストリー担当の高松寿彦専門家(長崎出
身)は三重大学 OB で、木材加工担当の加藤慎一専門家(東京出身)は岐
川岸住 民(右)にインタビューする山本 記者
(左)。(マラカ地区)
阜県の飛騨高山で修行したなど、中日新聞の主な販売地域である中部地方
と深いつながりがあります。
訪問先は州都マカパ市の他、プロジェクト・サイトのあるマザガウン郡マラ
カ地区と木材加工研修を実施しているサンタナ市。早朝から夜遅くまで、
JICA スタッフや川岸住民らにインタビューしていかれました。
なお日本の新聞社によるプロジェクトの取材は今回が初めてです。
高松専門家(左)にインタビューする山本記者。
(マラカ地区アグロフォレストリー導入地)
木材加工研修 OB を訪問
本プロジェクトの柱の一つは、プロジェクト・エリアの氾濫原から合法的に
産出される木材をマカパ市、サンタナ市の家具業界へ供給することです。そ
のため家具業界が貴重な氾濫原産木材の付加価値を高めることができるよ
う、木材加工研修を実施してきました。これまでに合計 5 回の研修が実施さ
れ、28 人の家具職人が研修を終了しました。
プロジェクト開始後の度重なる法令改正等によって、プロジェクト・エリアか
らの持続的森林管理計画に基づく合法材供給はプロジェクト後半になる見
右から木材加工分野の加藤専門家、研修 OB、
家具工房のオーナー
通しですが、これまでの研修を通じて移転された技術により、家具業界から
新しいタイプの家具が市場に供給されはじめています。そこで、8 月 14 日、
15 日の 2 日間、家具組合職員の同行のもと、JICA 専門家がマカパ市、サン
タナ市の家具工房で働く木材加工研修 OB を訪問し、研修の成果や現状の
課題、今後の期待などをインタビューしました。
アマパ州の家具工房は零細なものが多く、職人とその補佐、事務職員を合
わせても 2 人∼10 人程度です。インタビューの結果は、プロジェクト後半の
木材加工研修の計画、実施に反映させる予定です。
プロジェクト・サイト「マザガウン」の由来
サン・チアゴ教会
昔の戦いの装束で登場する地元住民
本プロジェクトの対象地域はアマパ州の氾濫原にある「マザガウン・ベーリョ(Mazagão Velho)」と「マラカ
(Maracá)」です。行政上は共にマザガウン郡内にあり、このうちマザガウン・ベーリョ(ベーリョは「古い」と
いう意味)において、7 月 16 日から 28 日まで、伝統的な「サン・チアゴ祭」が開催されました。といっても、
祭が行われたのは氾濫原のプロジェクト・サイト内ではなく、それに隣接した高台の集落です。
「マザガウン」の由来は、北アフリカのモロッコにあります。16 世紀の大航海時代、ポルトガルはモロッコに
城壁都市「マザガウン(マサガン)」を築きました。この都市はポルトガルの貿易拠点として栄えていました
が、イスラム教徒との争いの結果、18 世紀後半に陥落。マザガウンを撤退したポルトガル人の移住した先
が、現在のマザガウン・ベーリョ付近だったと言われています。
マザガウン郡には、その後マザガウン・ノーボ(ノーボは「新しい」という意味)という新市街地が整備され、
マザガウン・ベーリョは閑散とした小さな集落のままとなりました。しかし 18 世紀後半から続くサン・チアゴ祭
の期間中だけは、毎年多くの観光客で賑わいます。そして地元住民は当時のポルトガル人とモロッコ人の
戦を再現する伝統的な装束で登場し、観光客を沸かせます。
ポルトガル人の去ったマザガウン(マサガン)は、その後モロッコ人、ユダヤ人、フランス人に占拠され、
1958 年のモロッコ独立後、アル・ジャディーダという都市になっています。ポルトガル人によって築かれた城
壁都市(旧市街)は、「マサガンのポルトガル様式市街」として、2004 年にユネスコの世界遺産に登録され
ました。
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