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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革 報告書を読む

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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革 報告書を読む
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
研究ノート
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革
報告書を読む
北川 博英
目 次
はじめに
Ⅰ オバマ大統領経済再生諮問会議
1.オバマ大統領経済再生諮問会議の組織と役割
2.租税改革に向けて:オバマ大統領のタスク・フォースに対する提言
3.PERAB よりオバマ大統領への報告書
Ⅱ 法人所得課税制度改革
1.現行制度の概観
2.法人所得課税制度改革の選択肢
3.小括
Ⅲ 国際課税改革
1.国際課税に係る本報告書の構成
2.国際課税に係る本報告書の内容
(1)序論
(2)現行国際課税に対するアプローチ
(3)外国税額控除制度
59
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
(4)現行国際課税制度による経済的影響
3.国際課税制度改革案の利点と欠点
4.小括
Ⅳ 今後の論議の展開
1.競争力の評価方法
2.FDI は国内投資に代替するか国内投資を補完するか
3.選択肢 1 への移行は投資地選択の歪みを従来以上に助長させるか
4.国際課税制度の国際的調和の必要性
5.小括 おわりに
はじめに
昨年我が国は、国際課税分野における伝統的な国際課税原則について、大き
な改革を行い、外国子会社からの受取配当金の益金不算入制度 1)を制度化した。
この改革の検討段階で、
我が国は、
我が国同様の全世界所得課税主義(worldwide
(foreign tax credit
system、以下 worldwide 制度 と い う)と 外国税額控除法 2)
system、以下 FTC 制度という)を採用しているアメリカ合衆国(以下合衆国
という)および英国における税制改革論議の動向を注視していた 3)。英国は、
2009 年に我が国類似の改正を行った。一方、合衆国は、以下にその概略を述
べるが、少なくとも 1990 代以降の合衆国における税制改革論議は、合衆国の
輸出に対する租税優遇措置であった内国国際販売会社(domestic international
sales corporations、以下 DISC という。
)準則 4)に係る合衆国対 GATT/WTO
の所謂 30 年論争の影響を強く受けたとされている。M. Graetz によれば、そ
れまでは worldwide 制度から離れて、2009 年に我が国や英国が採用したよう
な外国子会社から受ける配当免税のような改革を全く考えもしなかったとい
う 5)。
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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
1972 年 2 月、当時 の 欧州委員会(EC)が、合衆国 が 1971 年 に 立法 し た
DISC 準則が、当時の GATT の下で違法な補助金に該当するのではないかと
いう疑義をもち、合衆国に対して協議を申し入れた。しかし、EC および合衆
国は当該協議によって合意に達することができず DISC 準則の合法性につい
て GATT に 提訴 し た。同年 7 月 30 日、GATT は 小委員会(Panels)を 組織
する 6)。1976 年に GATT Panel は DISC 準則が GATT 規定の下で違法な補助
又合衆国は、GATT Panel での審理において、
フランス、
金であると認定した 7)。
ベルギー、オランダが採用している territorial 制度こそが数々の経済的歪みを
生じさせていると主張したが、GATT Panel は、多くのヨーロッパ諸国が二重
(territorial or exemption
課税を緩和するために採用している国外所得免税法 8)
system、以下 territorial 制度又 は exemption 制度 と い う 9))が GATT 規定 に
抵触していないことを明らかにした 10)。合衆国は、1984 年に、DISC に代わる
準則 と し て 外国販売会社(foreign sales corporations、以下 FSC と い う。
)準
則を立法したが、1998 年に EU は、WTO に対して FSC 準則の合法性を審理
す る Panel を 要求 し、2000 年 2 月 に WTO 上級委員会(Appellate Body)は、
FSC を違法な補助金とする当該 Panel による認定を支持した 11)。
2000 年 11 月の立法により、合衆国は FSC を置きかえる FSC 準則 12)のほか
いくつかの移行措置のための準則を経て、新しい所得概念を創出したとする域
外所得(extraterritorial income、以下 ETI という。
)準則を創設したが、2001
年 8 月に WTO Panel が ETI を違法な補助金と認定し、2002 年に WTO 上級
員会が当該 Panel による認定を支持し、2002 年 8 月には合衆国に課徴金を命
じるまでに至った。2004 年 10 月、合衆国はアメリカ雇用創出法(American
Job Creation Act、以下 2004 AJCA という。
)立法時に、ETI の段階的廃止を
決定した 13)。
ここまで述べたように、GATT/WTO との 30 年論争で合衆国が敗訴し続け
たことにより、合衆国子会社が外国で稼得する能動的所得からの配当免税制度
(dividend exemption system、本稿における exemption 制度)への移行案がに
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横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
わかに浮かび上がった。以後現在に至るまで、ブッシュ、クリントン、ブッシュ
Jr. の各政権の下での国際課税分野における税制改革論議においては、本稿に
おける exemption 制度が常に提案される選択肢の中心をなしてきた 14)。
しかし、2000 年に入り複数の論者から、多くの欠点を抱えた現行の内国
歳入法のままで exemption 制度へ移行することに対する反論又は疑問が提
起された 15)。ブッシュ Jr. 政権最後の年である 2008 年の上下両院合同租税委
(Joint Committee on Taxation 、以下 JCT と い う)ス タッフ 報告書
員会 16)
で は、exemption 制度 17)と 完全合算制度(full inclusion system)を 併記 す
る形で提案されるに至った 18)。
2009 年に我が国が行った exemption 制度への移行は、伝統的な国際課税の
制度理論の根幹ともいえる worldwide 制度及び後に述べる資本輸出中立性の
原理に大きな修正を加えようとしていることは確かである。また、
すでにグロー
バル経済に組み込まれている我が国が、exemption 制度への移行に伴って関連
法令である移転価格税制やタックス・ヘイヴン税制等に対して今後も改正が行
われる見込みである状況の中で、合衆国における国際課税分野での税制改革論
議の行方を理解しておくことは、今後の我が国における国際課税に係る改革論
議にとって不可欠であると考え研究に取り組んでいる。
2009 年 1 月にオバマ政権が誕生し、前 FRB 議長であった Paul Volker を議
長 と す る 大統領経済再生諮問会議(President s Economic Recovery Advisory
Board: PERAB)が組織されたが、合衆国内外を問わず 600 を超える世界の個
人・組織から集まった税制改革アイデアを整理した上で報告書にまとめ、2010
年 8 月 27 日にオバマ大統領に報告書を提出した。オバマ政権下の合衆国国際
課税の税制改革の方向性を理解するためにきわめて重要な文献であると考え、
本研究ノートにまとめた。
なお、本稿においては、特にことわりのない限り法人事業に対する国際課税
の文脈で述べる。
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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
Ⅰ オバマ大統領経済再生諮問会議
1.オバマ大統領経済再生諮問会議の組織と役割
2009 年 3 月 25 日 に オ バ マ 大統領令(executive order)に よ り、P. Volker
を 議 長 と す る 大 統 領 経 済 再 生 諮 問 会 議( President s Economic Recovery
Advisory Board、以下 PERAB という)が組織された 19)。なお、当該諮問会
議はあくまでも外部諮問会議であって、オバマ政権の一部を構成するものでは
なく、
かつ、
オバマ政権の意思を反映するものではない。PERAB の任務(task)
はつぎの 3 点であり、その任務の期間は 2 年間である。
② 租税制度を簡素化し、
② 既存法令に対するコンプライアンスを改善するための、
③ 法人課税制度の改革に関する意見書をオバマ大統領に提出する。
2.租税改革へ向けて:オバマ大統領のタスク・フォースに対する提言 20)
PERAB から産業界、学会を含む租税の専門家 32 名に、一定の字数制限内
で提案を求め、2009 年に Tax Analysts を通じて公開された。国際課税の分野
における提案内容は驚くほど多岐にわたっているが、それらの中で圧倒的に
多かったのが、合衆国の投資先国としての魅力を向上させ、合衆国多国籍企
業の国際的競争力を回復させ、ひいては課税制度が引き起こす数々の経済的
歪みを解消するために、territorial 又は exemption 制度への移行を提案したの
が圧倒的に多く 8 名 21)、その中で法人税率を引き下げた上で territorial 制度へ
の移行を提案した意見が 3 名 22)、移転価格税制への圧力を弱める為に定式配
分への移行を提案したのが 2 名 23)、check- the -box をはじめとする納税者に
与えられている選択を無くし公平かつ衡平な課税に移行することを提案した
のは 2 名 24)であった。また、国内課税の文脈では、投資支出の即時費用控除
を含む支出税・消費税・VAT への移行を提案したのは 2 名 25)、資金調達の手
段として、エクイティによる調達より借入による調達を優遇することにより生
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横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
じる経済的歪みを解消すべきとしたのが 2 名 26)であった。
なお、前 JCT 主席スタッフであった George K. Yin 教授は、一つの仮定と
して、オバマ政権の下で、一方ではその政策課題である、医療改革(health
care reform)
、景気変動に対する対策(climate change mitigation), その他の
政策遂行及び財政赤字縮小のための財源確保のために、個人の最高税率を著し
く引き上げる可能性があり、他方、多くの租税政策分析の専門家による提言に
より、国外投資を促進し、納税者による移転価格税制への圧力を減少させるた
めの方策として、法人税率を引き下げる可能性がある。これらの結果個人税率
と法人税率との間に著しい格差が生じる場合が考えられる。その結果、過去
の経験 27)を見ると多数の個人が一斉に、法人をタックス・シェルターとして
利用すべく法人成りしてくることが想定される。この対策として、公開会社
(public corporation)だけに法人税率を適用し、非公開企業(nonpublic firm)
には、path through 課税を通じて個人税率を適用することを提案しているこ
とは注目される。さらに、この提案は、後に述べる純粋 worldwide 制度の下
での完全合算(full inclusion)制度を実施するための方策とその結論を一にし
ている。
3.PERAB よりオバマ大統領への報告書 28)
PERAB は、アイデアの範囲を最大限に広げることができるように、国を
越えた世界の個人、組織からの税制改革のアイデアを募集し、会議、文書、
E-Mail やオンラインを通じて 600 を超えるアイデア得て、その結果をサブコッ
ミッティーのメンバーが報告書にまとめ、2010 年 8 月 27 日に PERAB の承認
(以下、本報告書という。
)
。
を経てオバマ大統領に提出した 29)
本報告書は 118 頁におよぶ重厚なものであり、第 1 章では参考となる数値
データーの図及び表のリストを表示し、第 2 章には簡素化オプションとして個
人所得課税の簡素化についてまとめ、第 3 章ではコンプライアンス・オプショ
ンとして納税者による自主的コンプライアンス改善及び租税ギャップの縮小に
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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
ついて、第 4 章では法人課税改革を、第 5 章では法人に対する国際課税に対す
る対応を、巻末には提案者全員の氏名を示す別表が添付されている。本稿の目
的は合衆国の国際課税制度改革の行方を探ることにあるので、本報告書のうち
第 5 章を中心として研究しているが、国際課税制度は、法人課税改革における
法人税の法定税率引き下げの可能性及びそのための法人課税ベース拡大の可能
性に大きく依存することとなるので、第 4 章を概観した上で、第 5 章について
の考察を行う。
Ⅱ 法人所得課税制度改革
本報告書の第 4 章で法人税法の改革について述べているが、本稿の目的から、
次の章で述べる国際課税改革を理解する上で必要な或いは補完する部分に限っ
てその要点のみを述べたい。
1.現行制度の概観(65-69 頁)
ここでは、何故法人所得課税制度の改革が必要かを述べている。第一に、
OECD 諸国との比較では、連邦法人税率に州税を加えた法人税率が 39%であ
り、日本に次いで高税率である 30)。第二に、法人税収額の GDP に占める割合
が OECD 加盟国の中で最も低い方から 4 番目であり、事業セクターの規模と
の釣り合いがまったくとれていないこと 31)。第三に、法人による新規投資に
対する限界実効税率は、法人の一定の活動にメリットを与えるための負債利子
等の各種所得控除、税額控除及びその他の租税支出が行われている結果、29%
となっており、当該限界実効税率は、OECD 加盟国における法人所得税の法
定税率の中央値(median)28%に近い 32)。第四に、法人所得に対しては、法
人段階とその株主段階の二段階課税を課している。法人による新規投資に対す
る限界実効税率は前述のとおり 29%であるが、非法人の個人レベルへの課税は
一段階課税である結果、非法人による新規投資に対する限界実効税率の 20%よ
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横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
りも高く、新規の事業組成は非法人の方がきわめて有利となっている 33)。第
五に、現行租税制度の下では、法人、非法人に関わらず事業が支払う利子は控
除対象となるが、支払配当は控除対象とはならないので、資金調達方法により
著しい実効税率の格差を生じさせている 34)。その結果合衆国事業は、エクイ
ティ・ファイナンスよりも借入による資金調達を優先して選択する誘因を持
つ。そこで新規投資に対する資金調達が借入に偏向し、資本構成の上での外部
借入への依存は高く、合衆国企業の財政上の危機及び倒産を招きやすい資本構
成となっている。第六に、特定の事業活動や事業支出に対してだけ租税優遇措
置が与えられている。例えば、一方では加速償却を含む減価償却費控除を認め
ながら、他方では研究開発費や広告宣伝費のような無形資産に対する投資には
即時費用控除を認め、加えて国内生産に対する特別控除 35)や、研究開発費や
低所得者向け住宅投資に対する税額控除まで認めている。これらの結果、総じ
て現行法人課税制度の下では、事業投資は、経済的効率に依拠するのではなく
租税を理由とするため、投資が特定の資産に偏向し特定の経済活動に従事する
ことを促進している。
2.法人所得課税改革の選択肢
法人所得課税改革 の 選択肢 を、
「Group A:限界法人税率 の 引 き 下 げ」
、と
「Group B: 法人所得課税ベースの拡大」に分け、それぞれを以下のような選択
肢に分けて説明している(本報告書 69-80 頁)
。これらの選択肢を実施した結
果による影響が国際課税に直接効果を及ぼすのは、法人税の法定税率の引き下
げだけであるので、ここでは選択肢の列挙に止める。
(1)Group A:限界法人税率の引き下げ(本報告書 69-72 頁)
・選択肢 1:法人税の法定税率を引き下げ、その結果の減収を Group B での
課税ベース拡大で補い、税収中立を維持する 36)。
・選択肢 2:新規投資の即時費用化(direct expensing)を認めることにより、
新規投資に対する実効税率を引き下げ新規投資を促進させる。
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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
(2)Group B 法人所得課税ベースの拡大(本報告書 72-80 頁)
・選択肢 1:借入による資金調達とエクイティ・ファイナンスの租税上の取
扱いの差を縮小する。
・選択肢 2:法人課税と非法人課税との間の境界を見直す。
・選択肢 3:租税支出を排除又は削減する 37)。
3.小括
PERAB の主席エコノミストの A. Goolsbee は、2010 年 8 月 27 日のホワイ
トハウスのブログで、前年にホワイトハウスから指示された租税改革の問題の
ための選択肢(options)に対するロードマップを提示したと述べ、今日承認
された最終報告書は租税改革のための有益な(informative)
、かつ、重要な租
税改革選択肢の年鑑(almanac)である、と述べた 38)。しかしブッシュ Jr. 前
大統領の下で 2005 年に提出された大統領諮問パネル報告書と違い、本報告書
は租税改革のために考えられるすべてのアプローチを包含するものではなく、
個々の租税政策上のオプション(又は選択肢)に対する賛否(pros and cons)
について報告しているにすぎないという指摘もある 39)。
Ⅲ 国際課税改革
1.国際課税に係る本報告書の構成
序論
(ⅴ)国際法人課税の論点に対する対応
a.合衆国の現行国際法人課税に対するアプローチ
b.外国税額控除制度
c.合衆国の現行制度による経済的影響
i .合衆国多国籍企業の経済活動の場所に対する影響
ⅱ.合衆国会社と外国競合会社及び国内における競合会社のコストへの影響
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ⅲ.移転価格及び費用控除の場所を通じた事業課税ベースの浸食(erosion)
ⅳ.現行合衆国制度の執行コスト及びコンプライアンス・コスト
ⅴ.選択肢 1:現行法人税の法定税率のままで territorial 制度へ移行
ⅵ.選択肢 2:法人税率の引き下げを伴う純粋 worldwide 制度へ移行
ⅶ.選択肢 3:現行法人税率の下で課税繰延を制限又は無くす制度へ移行
ⅷ.選択肢 4:現行 worldwide 制度の下で法人税率を引き下げる制度へ移行
2.国際課税に係る本報告書の内容
(1)序論
まず序論から見ていく。ここでは、合衆国が採用している国際課税制度
である worldwide 制度と先進国の中で日本に次いで高い法人税の法定税率
とが組み合わされている現行国際課税制度が、特に合衆国多国籍企業(U.S.
Multinational Company、以下 U.S.MNC という)の経済活動に深刻な歪みを生
じさせており、早急に改革が必要であることを示唆している。
本報告書のうち国際課税に係る本報告書の序論部分(81-82 頁)の要旨を以
下に示す。合衆国は、先進国の中で最も高い法人税率を課している国の一つ
である 40)。他の先進国は現在も引き続き当該法人税率を引き下げているので、
合衆国の法人税率との差異は現在でもさらに広がりつつある。合衆国は伝統
(capital export neutrality、以下 CEN という)に依拠し
的に資本輸出中立性 41)
た worldwide 制度を採用し、二重課税を排除するための外国税額控除(foreign
tax credit、以下 FTC という)制度を採用している。他方、他の先進国の多
く は 資本輸入中立性(capital import neutrality、以下 CIN と い う)に 依拠 し
た territorial 又は exemption 制度を採用し、そこで生じる二重課税を排除する
ために必要に応じた FTC 制度を採用しているが、現行合衆国の worldwide 制
度及び他の先進国の territorial 制度若しくは exemption 制度のいずれも本来の
CEN 又は CIN を逸脱している面がある 42)。他の先進国に比較して高い法人税
(U.S. Multinational Company、
以下 U.S.MNC という)
率は、
合衆国多国籍企業 43)
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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
をグローバル市場における競争の上で租税の面で不利な地位に置いている 44)。
加えて、その高い法人税率が、グローバル市場において U.S.MNC の財貨・用
益を生産・提供する拠点やグローバルな経済活動の本部を合衆国内に置くこと
までも阻害していることが指摘されている。識者や産業界の代表者の多くは、
これらの国際課税の制度が、次のような U.S. MNC による経済活動に歪みを引
き起こしていると指摘している 45)。
・比較的高い法人税率を回避するために、その経済活動や本部としての活動
拠点を低課税地域に移動する 46)。
・主要な通商相手国に比べて高い法人税率を課している結果、合衆国への配
当時の高い残余税を実質的に回避するために、外国で得た利益の合衆国へ
の配当を無期限に遅らしている。この問題を(期間の定めにない)課税繰
延(indefinite deferral)という。しかも、課税繰延の期間中は合衆国残余
税が課せられないので、その結果、実質的には本稿でいう exemption 制
度の下と同じ取扱いをしていることとなる。
・一方では、U.S. MNC がいわゆるタックス・プラニングに巨額なコストを
費消し、他方ではこれらの企業による歪んだ経済活動を規制するために、
現在既に複雑になってしまっている国際課税に係る準則及び執行面にさら
なる圧力が加えられてきている。
多くの識者は、この結果、国内源泉所得まで浸食されていることを指摘し、
一様に合衆国企業の外国所得に対する課税準則の変更が必要であると指摘して
いる。しかし、どのように変更するかについては、識者によって意見がまった
く異なる。その理由は、時にはお互いに競合しあう次のような政策目的への影
響に対する評価が識者によって異なるためである。本報告書は当該政策目的に
ついて四つのポイントを挙げている。
①競争力 47):低課税地域で事業を行う U.S. MNC の、その外国競争相手との比
較における租税上の不利さを減少させる。
②所得移転 48)の防止:合衆国課税に服するのを回避するために、U.S. MNC が
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横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
その経済活動及び申告利益を外国に移動しようとする誘因を減少させる。
③執行面:執行およびコンプライアンス・コスト 49)を削減する。
④課税ベースの浸食:合衆国課税ベースの浸食及び租税回避行為による法人税
の減収を減少させる。
(2)現行国際課税に対するアプローチ(82,84 頁)
ここでは、合衆国の採用している worldwide 制度の概要 50)及び本稿でいう
exemption 制度 51)との比較を述べている(82,84 頁)52)。worldwide 制度の下
で無期限の課税繰延を許している期間内では、合衆国納税者の租税負担は、本
稿で言う exemption 制度を採用している場合と実質的に同じ結果となってい
る 53)。
現行制度の下での課税繰延と FTC 制度との組合せの下で、2004 年に U.S.
MNC が納付した外国源泉所得に対する合衆国法人税額(残余税)は 184 億ド
ル 54)であるが、当該外国源泉所得の額のうち主要な部分は、外国源泉の使用
料や外国源泉の利子等による所得であり、それらは当該外国源泉所得合計に対
する外国源泉事業所得よりもはるかに大きな割合を占めていながら、次に述べ
る彼我流用(cross crediting)を利用することにより、実質では課税対象となっ
ていない 55)。高い合衆国残余税率とそれを回避するための課税繰延との相互
作用により、U.S.MNC には外国で得た利益をそのまま合衆国外で再投資する
ことにより留保しようとする強力な誘因が働いており、現行制度の下での合衆
国税収への貢献度は極めて低いことを指摘している。
(3)外国税額控除制度
ここでは、
外国税額控除制度
(Foreign Tax Credit System 、
以下 FTC という)
の概要(83 頁)を述べている。
FTC の準則 56)は複雑であり数々の重要な制限を含んでいるが、原則として
外国所得を能動的所得と受動的所得に分類したうえでそれぞれの所得に対して
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米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
当該準則が適用される。それぞれの所得ごとの FTC 限度額の計算上、合衆国
親会社の費用の額をそれぞれの所得に配賦することにより外国税額控除の対象
となる純所得の額を計算するが、これは外国税額が国内源泉所得と相殺される
ことにより国内課税所得が浸食されないようにするためである。税額控除とな
る金額は外国で支払った税額を基礎とするが、完全控除(full credit)57)ではな
く当該所得に合衆国税率を適用した額を限度とする。現行法の下では一定の制
限を除き彼我流用(cross crediting)を認めている 58)。そこで U.S. MNC は開
発した無形資産を外国関連者に移転することにより FTC 限度額を作り出し、
彼我流用により合衆国法人税額を減額しようとする誘因 59)を生じさせている。
(4)現行国際課税制度による経済的影響
ここでは、現行国際課税制度が与えている経済的影響を次の 4 点に分けて述
べている。
・合衆国多国籍企業の経済活動の場所に対する影響
・合衆国会社と外国競合会社及び国内における競合会社との競合時のコスト
への影響
・移転価格及 び 費用控除 の 場所 を 通 じ た 合衆国事業 の 課税 ベース の 浸食
(erosion)
・現行合衆国制度の執行コスト及びコンプライアンス・コスト
以下、それぞれの影響について、見ていく。
合衆国多国籍企業の経済活動の場所に対する影響(85-86 頁)
外国直接投資(foreign direct investment、以下 FDI という。
)が、合衆国内
の投資及び雇用に与える影響について論じているが、二つの対立する観点があ
ることを示している。
その一つは、FDI は、国内事業の犠牲の上に成り立つので、国内投資の代
替(substitute)であり、合衆国内の投資及び雇用を減少させるという観点であ
る 60)。もう一つは、上記と全く反対の観点であるが、FDI は国内投資への補
71
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
完(complement)であり、合衆国内の投資及び雇用も増加させるというもの
である 61)。
本報告書は、FDI は、
「代替」と「補完」という対立する観点を併存させ、
後に述べる選択肢の利点・欠点を、
「代替という観点から見れば」とか「補完
という観点からすれば」という条件を付して評価をしている。これまで、海外
投資が国内投資の「代替」なのか「補完」なのかについての実証研究が重ねら
れてきているが、これらまったく相反する結果を得た論者らによる意見の対立
が現在も続いている 62)。
合衆国会社と外国競合会社及び国内における競合会社との競合時のコストへ
の影響(86-87 頁)
ここでは、他の先進国の法人税率よりも高い法人税率を外国事業に課してい
る合衆国の現行国際課税制度である課税繰延を許す worldwide 制度が合衆国
企業とその外国ライバル企業及びその国内ライバル企業とのコスト競争力にど
のような影響を与えているかについて論じている 63)。
その第一は、外国で事業を行う合衆国企業は、そのライバルである外国企業
との比較で、租税を含むコスト競争力の点では明らかに不利な位置におかれて
いる 64)。その結果、グローバル市場にあって、グローバルな生産を最も効率
のよい企業に配分することを阻害している懸念がある 65)。 第二に、高い法
人税率と課税繰延を許す worldwide 制度との組み合わせは、territorial 制度と
の比較において、U.S. MNC を外国で買収や事業持分所有の面でも不利な立場
に置いている。その理由は、合衆国会社は、ヨーロッパの会社又は低税率国で
の買収の場面で、そのライバル会社よりも低い買収価額しか提示できないから
である 66)。
第三に、公平性の観点から観察すると、純粋に国内事業だけの企業との比
較の上では U.S. MNC は有利な立場におかれている。何故なら、U.S. MNC は、
タックス・プラニングを通じて課税繰延、彼我流用、所得の外国への移転等に
より、実効税率の引き下げのメリット及び安い資本コストを享受しているが、
72
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
国内事業だけの企業はそのいずれも享受できないからである。
移転価格及 び 費用控除 の 場所 を 通 じ た 合衆国事業 の 課税 ベース の 浸食
(erosion)
(87 頁)
合衆国の法人税率が相対的に高く、能動的所得の課税繰延を許している現行
国際課税制度の下では、合衆国法人が合衆国課税に服するのを無期限に遅らす
ために、合衆国利益を低税率地域に移転し、他方では、外国子会社を支援する
ために合衆国内で発生する費用を、合衆国国内源泉所得から控除しようとする
強力な誘因を生じさせている。そこで、U.S. MNC が利用する重要な手段を二
つ挙げている。その第一は、高税率国(例えば合衆国)で負債を発行し、そこ
で調達した資本を低税率地域で能動的所得を生み出す事業に使用し、そこで得
た利益に対する合衆国残余税を無期限に繰延べる方法である。第 2 は、合衆国
企業が開発した価値ある無形資産を適正な対価無しに低税率地域である子会社
に移転し、当該子会社は適正な使用料を支払うこと無く当該無形資産を使用
する 67)。次に合衆国企業は外国で得た(subpart F の対象となる)受動的所得
を課税繰延が許される能動的所得に性質を変える。さらに、ここで合衆国が受
ける使用料は、FTC 限度額を作り出すように利用されていることを指摘して
いる。
現行合衆国制度の執行コスト及びコンプライアンス・コスト(88-89 頁)
多 く の 専門家 は、課税繰延 を 許 す worldwide 制度 で あ る 現行 hybrid 制度
には、簡素化、執行性及びコンプライアンスの観点から考察すると、純粋
worldwide 制度と純粋 territorial 制度のそれぞれが持つ最も悪い特徴が埋め込
められていると指摘している、という。
簡素化の観点からは、純粋 worldwide 制度の下であれば、能動的所得と受
動的所得との区別、国内源泉所得と国外源泉所得とを区別する準則はいずれも
不要となる。それでも FTC 準則は必要とはなるが、間接 FTC 部分が不要と
なるので大幅に簡素化され得る 68)。しかし、純粋 worldwide 制度であっても、
相対的に高い現行法人税率のままでは、U.S. MNC が組織再編により本社を外
73
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
国に移転する(コーポレート・インバージョン取引 69))の誘因は、従来以上
に強まるであろうという懸念がある。他方、exemption 制度の下であっても、
免税の対象となる能動的所得とタックス・ヘイヴン対策税制の対象となる受動
的所得とを別々に取扱う準則は必要であり、かつ、国内源泉所得と国外源泉所
得とを区別する準則が必要になる 70)。更に、exemption 制度の下では、タック
ス・プランニングや移転価格を通じた所得の外国への移転への誘因は現行制度
の下でのそれ以上に強くなるということが懸念される。
3.国際課税改革案の利点と欠点
本報告書は、国際法人課税についての専門家との討議を通じて、四つの基本
的改革案についてそれぞれの利点及び欠点を分析しているが、その第一の案は、
現行法人税の法定税率のままで他の先進国が採用しているような exemption
制度 71)へ移行、第二の案は、法人税率を引き下げた上で課税繰延を許さない
純粋 worldwide 制度へ移行、第三の案は、現行法人税率のままで worldwide
制度を維持しながら課税繰延を制限又は無くす、第四の案は、法人税率を引き
下げた上で課税繰延を認める現行制度を維持する。以下に各選択肢の特徴を概
観する。
選択肢 1:現行法人税の法定税率のままで exemption 制度へ移行(89-91 頁)
本選択肢の利点は、US MNC の租税負担と exemption 制度(又は territorial
制度)を採用している国の企業の租税負担とを同一水準に位置づけ、
かつ、U.S.
MNC が外国企業を買収する際の租税コストも同一の競争条件に置くことがで
きるという点である。しかし、U.S. MNC がタックス・プラニングを通じて無
形資産を利用した移転価格及び費用の控除場所の移動による所得移転の誘因
を強める結果、現行執行体制及びコンプライアンス準則に更なる圧力がかかる
事が最も懸念される選択肢である。この結果、課税繰延を伴う現行 worldwide
制度の下で生じている非効率な企業行動への誘因はそのまま維持されるか又は
更に悪化させる結果を招来し得る。
74
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
選択肢 2:法人税率の引き下げを伴う純粋 worldwide 制度へ移行(91-93 頁)
本選択肢 は、現行 の worldwide 制度 で は な く、課税繰延 を 認 め な い 純粋
worldwide 制度を課しながら、合衆国法人税率を、U.S.MNC の平均実効税率
と考えられる 28% 72)まで引き下げ、課税繰延に終止符を打とうとするもので
ある。能動的外国所得に係る課税繰延を排除することにより、全ての法人所得
が、国内、国外のどこで稼得されたかに関わらず同じ取扱いをされるので、租
税制度は格段に簡素化され、現行制度が引き起こしている経済的歪みの多くは
減少する。その結果、移転価格への圧力は弱まり執行が容易となり、効率が改
善される。しかし本選択肢の困難な点は、法人税率を租税負担を中立にするた
めに必要である税率(28%)に引き下げるためには、その他の法人税の税額控
除や所得控除を廃止することにより課税ベースを大幅に拡大しなければならな
いことである 73)。さもなければ、多額の税収ロスを蒙ることになり実効可能
性は困難となる。
選択肢 3:現行法人税率の下で、
課税繰延を制限又は無くす制度へ移行(93-94
頁)
本選択肢は、他の先進国より高い法人税率を維持しながら、課税繰延の無い
純粋 worldwide 制度への移行である。本選択肢の下でも、
租税制度を簡素化し、
所得移転、タックス・プラニング及び租税回避を減少させ、移転価格への圧力
を弱め、
コンプライアンス・コストを減少させ得るであろう。しかし、U.S.MNC
の外国事業の実効税率をその外国ライバル企業の実効税率よりも高いレベルに
引き上げることとなり、低税率国(地域)にある外国資産への買収ビッドに参
加する能力への障害となり、同時に、外国企業にとって合衆国企業の買収がま
すます魅力的になる。
選択肢 4:現行 worldwide 制度の下で法人税率を引き下げる制度へ移行(94
頁)
本選択肢は、法人税率は選択肢 2 と同じ 28%に引き下げるが、課税繰延を許
す現行 worldwide を維持する制度の継続である。全ての法人に対して、その
75
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
所得を国内、国外のどこで稼得したかに関わらず、現行法より低い法人税率を
適用することによる効率改善のメリットは選択肢 2 で述べたとおりとされてい
るが、簡素化及び効率改善の多くは期待できず、現行制度の複雑さと、低課税
国に所得を移転し租税回避のために配当送還を繰延べようとする、誘因は残る。
4.小括
国際課税の各選択肢を改革方法別に評価を試みた。下記の表において、現行
制度の下に比べて改善される場合を○、いくぶん改善される場合を△、変わら
ない場合を―、悪化する場合を×とした。
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本稿で述べてきた合衆国の国際課税改革で一貫して論点とされてきた「競争
力」については、前記の表のとおり選択肢 1 が第一番の候補であり、次いで選
択肢 2 及び選択肢 4 が選ばれる。しかし、低課税地域への事業及び所得の移転
誘因については、選択肢 1 がもっとも懸念され、選択肢 2 ではほとんど懸念さ
れることはなく、選択肢 3 及び選択肢 4 それらの中間に位置している。外国で
稼得する利益の配当送還時期に対する歪みについては、選択肢 1 から選択肢 3
までは同等である。移転価格税制への圧力、制度の簡素化、執行コスト及びコ
76
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
ンプライアンス・コストでは、選択肢 1 がもっとも懸念されるところであり、
前述のように相次いで反対論が表明されている。
しかし、これまでの国際課税論議の流れを承継するとすれば、2008 年の
JCT 報告書で併記された選択肢 1(税率を現行のままで exemption 制度への
移行と選択肢 2(税率を 28%にまで引き下げた上で純粋 worldwide 制度への回
帰)とを軸に検討が進められると考える。しかし両者を評価するためには、い
まなお結論が出ていないいくつかのかの論点が残されていることを次の章での
べたい。
Ⅳ 今後の論議の展開
今後も、選択肢 1 である「現行税率のまま exemption 制度への移行」と選
択肢 2 である「税率を 28%に引き下げた上で純粋 worldwide 制度への移行」
という対立する二つの選択肢を軸に論議が展開されると考えられる。選択肢 1
と選択肢 2 との比較について、本報告書での利点・欠点に基づいて第Ⅲ章 3 節
で評価した。しかしここで疑問なのは、選択肢 1 について、低課税地域への所
得移転の誘因、事業運営場所選択の歪み、移転価格税制への圧力等の懸念に
言及されていながら、
「オバマ大統領のタスク・フォースに対する提言」では、
なぜ多くの識者により選択肢 1 に当たる exemption 制度への移行が提案され
ているのであろうか。しかも、8 名の提案者の内訳は、税法学者 2 名、経済学
者 1 名、元連邦財務省出身者 2 名、元 JCT 出身者 1 名及 び 民間税務専門家 2
名と多岐にわたっている。
選択肢 1 は、合衆国の主要通商相手国のほとんどが採用している制度 74)へ
の移行であり、貯蓄配分の観点から、資本の源泉である貯蓄を世界レベルで最
適に配分する観点から CIN 保持を目標としながら、投資先国における、主と
して U.S.MNC の競争力を主要通商相手国ベースの MNC と同等の条件におこ
うとするものである。他方、選択肢 2 は、資本配分の観点から CEN の保持を
77
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
目標としながら、課税繰延のない純粋 worldwide 制度に回帰することにより、
世界レベルで資本を最適に配分しようとするものである。これらを総じていえ
ば、合衆国企業の投資先国での競争力を重視し、世界で二番目に高い法人税率
による租税負担を排除するか、または、合衆国が伝統的に租税政策の指導原理
とされてきたが、現在では多くの論者によりその有効性に対して疑義が投げか
(CEN)をこれからも堅持すべきかの
けられている世界的資本効率の最適化 75)
論争といえる。
このように対立する論議が今なお展開され続けている理由は、いくつかの論
点について未だ共通認識に至っていないためである。それは(1)競争力の定
義とその評価方法、
(2)FDI は国内投資に代替するか国内投資を補完するか、
(3)選択肢 1 への移行は投資地選択の歪みを従来以上に助長させるのか、
(4)
国際課税制度の国際的調和の必要性である。
1.競争力の定義とその評価方法
第一に、
「競争力」の論点である。
「競争力」の定義及び評価方法も不明確 76)
のまま、また、合衆国企業が国際課税制度に基因してどの程度競争力が阻害さ
れているのかについても実証研究結果等によるなんら結論がだされていない。
先に述べたように、U.S.MNC が投資先国での競争力を維持するため(という
より、実効税率を主要商業相手国と同等レベルにするため)
、低課税地域への
所得移転や事業運営場所選択の歪みを引き起こしているが、その原因の一つは、
OECD 加盟国の中で 2 番目に高い法人税率を回避するためであり、次にあげ
られるのが、合衆国の国際課税の制度上で課税繰延(及び彼我流用)を是認し
ていることである。しかし、グローバル経済が発展する中で、合衆国経済にお
いて U.S.MNC が果たす役割が劇的に変化する過程で、合衆国連邦議会は、合
衆国企業の競争力を維持させるために課税繰延を許容してきたことも事実であ
る 77)。
Fleming Jr.= Peroni =Shay は、合衆国内に投資するか外国 に投資するかを
78
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
選択する場面で、合衆国内投資から得られる税引前収益率が低課税国である A
国への投資から得られるそれよりも高いのに、低い税率を原因として A 国か
ら得られる税引後収益率の方が高いため、A 国への投資が選択されるような投
資地選択の歪みを制度的に解消するためには、課税繰延のない純粋 worldwide
制度へ回帰すべきであると主張し、数々の欠点を有する現行制度を本来あるべ
き姿に立ち戻るために、認識されている欠点を修復することが先決であり、投
資地域選択の歪みや移転価格税制に圧力がかかる等の数々の経済的歪みを引き
起こす蓋然性が高い exemption 制度への移行は、短絡的すぎると繰返し論じ
ている 78)。
このような議論に対して、B.Angus=T. Neubig=E. Solomon=M. Weinberger
は、グローバル市場での U.S.MNC の活動は合衆国の経済にとっては重要な存
在であり、さらに、合衆国に比べて極めて高い経済成長を続けている中国・イ
ンドを代表とする BRICs 諸国に出現(emerging)した市場を獲得することは、
少なくとも中期的将来において不可欠と考える 79)。よって当該論者は、外国
市場において U.S.MNC を外国ベースの MNC と同等の競争条件に置くことは
極めて重要であるという 80)。この論理は、現行法の下よりもさらに US MNC
の租税負担を増やすような国際課税制度の改革には慎重であるべきであるとし
て、exemption を提唱する根拠となっている。
2.FDI は国内投資に代替するか国内投資を補完するか
第Ⅲ章 2 節(4)で述べたように、本報告書では FDI は国内投資を代替する
という観点と、FDI は国内投資を補完するという観点を併記した。併記にとど
めた理由は、これまでに行われた実証研究が「代替」と「補完」というまった
く反対の結果を導いてきたからである 81)。
ここでの「代替」か「補完か」の論点は、2008 年 6 月の JCT 報告書でも議
論された 82)。代替であるという観点からは、FDI は、合衆国内での金額に限
度のある資本プールからの国内投資を犠牲にして(精算して)合衆国外へ投資
79
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
されるので、その結果合衆国内での生産及び雇用は減少するとみるものであり、
CEN の成立を目標とする考え方である。他方、
補完という観点からは、FDI は、
金額に限度のない国際資本市場からの投資であり、国内投資を犠牲にすること
も無く、むしろ海外生産の拡大が合衆国内での生産、雇用及び投資を増加させ
る可能性があるとみるものであり、CIN の成立を目標とする考え方である。
しかし、少なくとも BRICSs 市場が出現してからの最近の実証研究では、合
衆国に本部をおくグローバルな企業による外国市場における活動の増加は、母
国における雇用を増加させる傾向にあると指摘し、例えば中国(或いはイン
ド)では、合衆国に比べて高い経済成長が見込まれており、それらの市場での
活動を支援するために、U.S.MNC がその合衆国本部や研究開発部門の雇用を
増加させたことが実証された 83)。そこで、租税制度に起因するような U.S.MNC
の競争力に対する障害は有害であり、その結果、資本は外国に向かって流れれ
ば U.S.MNC は規模の経済の利益を失うことになると警告する 84)。この論理も
exemption 提唱者を後押しする。
3.選択肢 1 への移行は投資地選択の歪みを従来以上に助長させるのか
2000 年代に入ってこの論点に対して大きな影響を与えたのは、2001 年に行
われた二つの研究結果であると考えられる。どちらの研究も、exemption 制度
に移行した場合に、その前提は、これまで国内源泉所得から控除されている
利子及び一般管理費のうち、exemptions 制度の下で免税となる所得に配賦可
能な金額について控除を認めるべきではないとしている。第一の研究は、H.
Grubert=J. Mutti によるものである。その論理は、一方では能動的外国所得に
ついての合衆国残余税は免税となる(実効税率が下がる)が、上記前提による
利子及び一般管理費の額の一部は控除を否定される(実効税率が上がる)こ
とに加えて、現行制度の下では、彼我流用を通じて合衆国課税から遮断され
ていた外国から受ける使用料の全額が合衆国課税の対象となる(実効税率が
上がる)
。その結果、総じて低課税地域で稼得されてきた所得に対する実効税
80
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
率はむしろ上がるので、exemption 制度に移行しても、低課税地域への投資が
加速されることはなく、逆にブレーキがかかるという 85)。第二の研究は、R.
Altshuler =H. Grubert によるものであるが、ほとんど同じ結論に帰結してい
る 86)。これら二つの研究結果を根拠にして、多くの論者が exemption 制度へ
の移行を主張している。
しかし、そのいずれも、低課税地域への投資地選択の歪み及びその結果とし
ての所得移転の助長を否定する論拠とはなっているとは思えない 87)。
4.国際課税制度の国際的調和の必要性 88)
外国に有する子会社により稼得された能動的事業所得に対する国際課税制度
については、歴史的には CEN に依拠する worldwide 制度と CIN に依拠する
territorial 制度という二つの対立する潮流があったが、現在は純粋 worldwide
制度又は純粋 territorial 制度のいずれも実際には存在していない。合衆国を中
心として採用されてきた worldwide 制度は、能動的所得に対する無期限の課税
繰延を許しており、現実には純粋 CEN から離脱し事実上 exemption 制度に接
近している 89)。ヨーロッパの主要国を中心として採用されてきた territorial 制
度も、主に受動的所得に対しては実質的には worldwide 課税を適用しており、
事実上 exemption 制度に変形している。つまり双方の制度がハイブリッドな制
度としてお互いに接近している。しかも 2009 年に、我が国及び英国が事実上
exemption 制度に移行したことにより、合衆国制度は世界的国際課税制度の面
では孤立しているともいえる 90)。この孤立は、U.S.MNC の租税負担を重くし、
商業相手国企業が負担していない二重課税、コンプライアンス・コストを強制
する結果となる 91)。したがって、国際課税制度の調和化の観点からも、合衆国
は exemption 制度へ移行すべきと主張する論者を後押ししている。
5.小括
合衆国の国際課税の改革論議は、世界的な資本配分効率の最適化を重視す
81
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
べきか、新興市場における合衆国事業の競争力を重視すべきか、という岐路
(crossroad)に立っている 92)。しかし、選択肢 1 への移行を決断するためには、
第ⅳ章に述べた(1)競争力の論点、
(2)代替か補完かの論点、
(3)投資地選
択の歪みを従来以上に助長させることに対する懸念、
(4)国際課税制度の国際
的調和の必要性、についての結論が共有される必要がある。
対照的に選択肢 2 への移行は、多くの経済的歪みを解決する可能性は高いが、
OECD 加盟国の中で我が国に次いで二番目に高い法人税率(実効税率ではな
く)をどこまで引き下げられるかにかかっている。
いずれの選択肢に移行する場合でも、タックス・ヘイヴン地域及び合衆国に
比して低税率を採用する国が存在する以上は、移転価格準則及び subpart F 準
則等に係る実定法上及び執行の両面での強化は必須となるであろう。
今後の議論は、いくつかのアプローチの組合せの中で、どの問題点をどの程
度解決できるかの評価になるであろうが、そのためには、選択肢毎にいくぶん
詳細な制度設計が必要であろう。本報告書が承認された昨年 8 月以降の取り組
みとしては、連邦財務省及び JCT による、本報告書に基づく所得の種類毎の
影響額に対する分析が予定されており 93)、それらによる検討結果に注目した
い。
なお、2011 年 5 月 24 日の合衆国連邦議会下院における聴聞会において、グ
ローバル市場における合衆国法人の競争力を改善するために、諸外国がどのよ
うな税制改革を行っているかについての聴聞会 94)が開催され、日本、オランダ、
英国及びドイツにおける exemption 制度についてのヒアリングが行われた。
同聴聞会において R. Avi-Yonah は、競争力は基本的には租税以外の要素によっ
て決定され、U.S.MNC が他の OECD 加盟国ベースの MNC より高い実効税率
を課せられていることを説明できるデーターはないとした 95)。また、合衆国
の現行 Subpart F 準則の下のままで exemption 制度に移行すれば所得移転を
更に悪化させるとして、合衆国による exemption 制度への移行に対して消極
的意見を表明した 96)。なお、2011 年 6 月 2 日には、合衆国連邦議会の下院委
82
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
員会において、雇用を促進するための事業課税制度についての聴聞会が開催
97)
され、産業界の租税または財務責任者が意見を表明したが、法人税の法定税
率を引き下げる代わりに特定のセクターに対する租税支出(tax expenditure)
を削減すべきとする点で意見を一にしている 98)。
おわりに
合衆国の国際課税の改革論議は、世界的な資本配分効率の最適化を重視す
べきか、新興市場における合衆国事業の競争力を重視すべきか、という岐路
(crossroad)に立っている。OECD 加盟国のなかで、我が国に次いで高い法人
税率の下であっても、U.S. MNC は、外国で得た利益の合衆国への配当送還を
無期限に繰延べ、彼我流用を駆使して実効税率を OECD 加盟国の中間値であ
る 28%前後にまで引き下げることによって、その租税負担を主要な通商相手国
の企業と同等の条件に置こうとしていると考えられる。
今仮 に、課税 ベース を 拡大 す る 結果、合衆国 の 法人税率 を OECD 加盟国
の中間値 28%にまで引下げることができるとすれば、配当送還時の送還税
(repatriation tax or residual tax)の額は微額となり、純粋 worldwide 制度の
堅持と exemption 制度への移行との対立点はかなりの程度において減少する。
しかし、2010 年 7 月に JCT スタッフが合衆国連邦議会下院に対して行った報
告 に よ れ ば、現行移転価格、subpart F 及 び check-the box 準則等 の 下 で も、
事業再編によりタックス・ヘイヴン地域に CFC を設立し、価値ある無形資産
の移転及び企業グループ内取引を通じて、所得移転が実際に行われていること
が明らかになった 99)。そうすると、タックス・ヘイヴンを含む低課税国が存
在し続けると考えれば、むしろ、タックス・ヘイヴン対策準則及び無形資産取
引に係る移転価格準則の執行力こそが喫緊の課題となろう 100)。
2009 年(平成 21 年)に我が国は、海外子会社からの受取配当金の益金不算
入制度を制度化し、本稿にいう exemption 制度へ移行した。これまでに述べ
83
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
て来た合衆国における国際課税の改革論議から得た知見から我が国が留意す
べき点を総じていえば、既に exemption 制度へ移行し、OECD 加盟国の中で
(地方税を含めると)一番高い法人税率を維持している我が国では、我が国
MNC(又は企業)が今後の事業再編等を通じて、
コーポレート・インバージョ
ン取引 101)又は無形資産を含む移転価格を利用することにより 102)、又は費用の
控除場所 103)の移動により所得移転の誘因を強める可能性があり、現行の執行
制度及びコンプライアンス制度に更なる圧力がかかる事がもっとも懸念され
る 104)。
加えて、我が国における外国子会社からの配当金の益金不算入制度では、旧
来から我が国の租税法は「配当」に特段の定義をおいていない 105)ことに加え
て、外国子会社からの配当の源となった所得の種類について何ら区別していな
いし、また、当該所得を得た外国でどのように課税されたかも問うてはいない
ことから、外国関連会社で稼得した利益の性質の転換等が懸念されている 106)。
1)2009 年税制改正で、平成 21 年法律第 13 号「所得税法等の一部を改正法律」附則 6 条に
より創設された法税 23 条の 2。外国子会社からの受取配当金の益金不算入制度について
の我が国文献は、青山慶二 「わが国企業の海外利益の資金還流についてー海外子会社か
らの配当についての益金不算入制度」 租税研究 127 頁 710 号(2008 年)
、浅妻章如「海外
子会社(からの配当)についての課税・非課税と、実現主義・時価主義の問題」フィナ
ンシャル・レビュー 94 号 97 頁(2009 年)
、谷口勢津夫「税制改正要綱を評価するー税法
学の視点から(2)
(国際課税)
」税研 24 巻 5 号 48 頁(2009 年)
。
2)
「全世界所得課税主義」及び
「外国税額控除法」という邦訳については、
金子宏『租税法(第
16 版)
』438 頁(弘文堂、2011 年)に従った。
3)平成 20 年度税調答申「抜本的な税制改革に向けた基本的考え方」9 頁(2007.11)では、
資本輸出国の視点から、全世界所得課税を前提に外国税額控除制度を採用してきた合衆
国および英国の動向に注視しており、
「例えば、外国税額控除制度については、我が国の
税負担を超えた控除を認めるべきではないという原則の下で、海外事業比率や海外現地
法人の内部留保額の増加など我が国企業グループの事業実態にも配慮し、バランスのと
れた制度とすべきである。これに関連し、二重課税の排除方式の選択について、外国税
額控除制度を採っているアメリカやイギリスにおいて、近年、国外所得免税制度や海外
84
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
子会社配当免税制度などの導入が提案されている。こうした提案は、国際的な資金循環
の現状等を背景に、資本輸出国の視点に立ち全世界所得課税を前提に二重課税を排除す
る方式を、修正しようと試みるものである。このような諸外国の動向についても注視し
ていく必要がある。
」としていた。
4)内国歳入法 991-996 条。
5)Michael Graetz は、Michael Graetz and Paul W. Oosterhuis, Structuring an Exemption
System For Foreign Income of U.S. Corporations , 54 National Tax Journal 771, at 772
(2001)[herein after cited as Graetz 2001] において、次のように述べている。
「1918 年に
外国税額控除制度 が 立法 さ れ て か ら、合衆国 は worldwide 制度 か ら exemption 制度 に
移行することを真剣に検討したことはなかった。しかし、2000 年に合衆国連邦議会は、
FSC に対する租税特別措置を WTO が承認しないことを阻止することが不成功に終わっ
たことがはっきりしたときに、外国事業所得に対する合衆国租税の免除を、
(租税特別措
置ではなく)通常の制度として性格づけ、国際課税の改革論議における有力な選択肢と
なった。つまり外国通商条約の下での(輸出補助金、筆者注)の問題によって、合衆国は、
worldwide 制度の下での外国税額控除制度から exemption 制度への移行の検討を余儀な
くされた。
」
。
6)GATT, Report of the Panel Presented to the Council of Representatives on 12 November
, para. 1 [hereinafter cited as GATT Panel].
1976(L / 4422 BISD 23S/98)
7)GATT Panel は次の論理で、合衆国の DISC 準則を「違法な補助金」として認定した。
(1)DISC 準則は合衆国輸出企業に、本質的に輸出に関連したタックス・ベネフィッ
トを与えており「輸出補助金」に該当する(GATT Panel para. 67)。(2)DISC 準則
の立法趣旨は輸出の増進を目的としており、当該準則が実質的に合衆国輸出企業に利
益を付与していることは明らかであり、GATT 規定の下、
「違法な輸出補助金」に該
当 す る(GATT Panel para. 69)。(3)輸出補助金 が 輸出市場 に も た ら す 結果 を(a)
価格の低落、
(b)販売効果の増大、
(c)単位当たりの利益の増加のいずれかまたは複
数の結果をもたらす場合は部分的な免税に該当しており「違法な輸出補助金」に該当
する( GATT Panel para.73)。(4)課税繰延措置に過ぎないという合衆国の主張に対
しては、通常課せられるべき金利の要素を持ち込んでおらず、
「輸出補助金に当たる
部分的免税」というべきである(GATT Panel 71,72)
。
8)
「国外所得免除法」という邦訳については金子宏、前掲 2 同頁に従った。
9)国外所得免税法若 し く は 属地主義課税法 を 表 わ す territorial と 本稿 に お け る 特定 の 所
得である外国で稼得される能動的所得を免税にする exemption との区別については、
Lawrence Lokken の 区 別 に し た が っ た。See, Lawrence Lokken, Territorial Taxation:
Why Some U.S. Multinationals may be less than enthusiastic about the Idea( and some
85
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
Ideas they really dislike) , 59 SMU L.aw Review 751( 2006)
, at 4 [hereinafter cited as
Lokken 2006].
10)GATT Panel, supra note 6, para 43.
11)WTO Appellate Body, United States-Tax Treatment for
Foreign Sales Corporations
(WT/DS 8(2001.11.16)
)
, para.34, para.68. では次の論理で、FSC 準則は違法な補助金で
あると Panel の決定を支持した。
(1)WTO 規程の下では、もし、そうでなければ政府
の税収になるべきものを租税法に規定によりその徴収を差し控える場合は、そのような
租税法規程は補助金を構成し、補助金規定第 1 条 1.1(a)
(1)
(ⅱ)に該当する(WTO
2001 para.34,para 68)
。
(2)租税法規定によるメリットの額が輸出の実績(performance)
を条件に算定される場合は、当該補助金は違法な補助金を構成し同規定第 3 条 3.1(a)
に該当する、WTO 2001 Para.69-78, para.129。
12)内国歳入法 921-927 条
13)ETI を段階的に廃止する代わりに、租税支出(tax expenditure)として、合衆国内での
生産・製造活動 に 対 す る 控除(deduction for U.S. production/manufacturing activities)
を内国歳入法 199 条として加えた。
14)時系列的に述べると、1992 年の連邦財務省による「個人・法人課税統合に関する合衆国
連邦財務省案」
(U.S. Treasury, A Recommendation for Integration of the Individual and
Corporate Tax System (1992)では、国内課税の制度的問題点を解決するための文脈
における提案ではあったが、配当免税方式を推奨した(186-197 頁)
。配当免税方式を初
めて国際課税の分野で実際に採用したのは、American Jobs Creation Act of 2004(2004
AJCA)であり、時限立法により、一定の条件を満たす外国子会社(CFC)からの配当
の 85%を 免税 に し た(内国歳入法 965 条)
。2004 年 2 月 26 日付 け で、合衆国連邦議会
上下両院合同租税委員会(Joint Committee on Taxation)主席スタッフである G. Yin よ
り 合衆国上院財政委員会議長(Chairman of U.S. Committee on Finance)宛 て の 書簡 を
付 し た、U.S. Staff of Joint Committee on Taxation, Options to Improve Tax Compliance
and Reform Tax Expenditures (2005)[hereinafter cited as JCT [2005]. にて、JCT スタッ
フによる租税ギャップ(tax gap)を縮小する提案をしたが、国際課税分野で提案された
のは、
(a)法人居住地決定準則の改定(178-181 頁)
、
(b)租税回避を減少させるための
実体(entity)分類準則の変更(182-185 頁)
、
(c)外国事業所得に係る配当免税(dividend
exemption)制度の採用(186-197 頁)であるが、合衆国連邦議会の場で国際課税の文脈
で初めて worldwide 制度から exemption 制度への移行が提案されたと考えられる。2005
年 の 合衆国連邦議会上下両院合同経済委員会(U.S. Joint Economic Committee)へ の 報
告書では、特に合衆国多国籍企業が territorial 制度を採用している外国の多国籍企業と
の競争において租税競争力の面で劣後しているという文脈で、提案された選択肢は、
(1)
86
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
territorial 制度への移行(10-11 頁)
、
(2)消費ベース課税及び支出税(expensing)への
移行(11-12 頁)
、
(3)個人・法人所得課税の統合による一回だけの課税制度(12-14 頁)
で あった、U.S. Joint Economic Committee, Reforming the U.S. Corporate Tax System
to Increase Tax Competitiveness(2005)[hereinafter cited as JEC 2005]。 ブッシュ Jr.
大統領は 2005 年に超党派(bipartisan)による大統領諮問パネル(President Advisory
Panel)を 設置 し、
「簡素・公正・成長」を 満足 さ せ る 提案 を 求 め た。2005 年 11 月
に 大統領 パ ネ ル 報告書 が 提出 さ れ た、Simple, Fair and Pro-Growth: Proposals to Fix
American s Tax System (2005)[hereinafter cited as Advisory Panel 2005]。そ こ で は、
簡易所得税案(Simplified Income Tax Plan、以下 SIT プランという。
)及び成長投資税
案(Growth and Investment Plan、以下 GIT プランという。
)という二つの提案が併記
された極めて広範な提案であり、国際課税の文脈では SIT プランにおいて、合衆国法
人の被支配外国会社(controlled foreign corporation、以下 CFC という)が稼得する能
動的所得からの配当及び外国支店の利益について、exemption 制度への移行が提案され
た(102-105 頁)
。本大統領諮問パネル報告書については我が国でも注目されたが、先行
研究として、本庄資『アメリカの租税政策』189 頁(税務経理協会、2007 年)松田直樹
「米国の租税制度改革の選択肢と方向性―大統領諮問委員会報告書の国際課税制度改革
案の位置づけー」190 頁(租税研究 704 号、2008 年)
、浅妻章如「国外所得免税(又は仕
向地課税)移行論についてのアメリカの議論の紹介と考察」フィナンシャル・レビュー
通巻 84 号 152 頁(2006)
、浅妻章如、前掲 1)97 頁 が あ る。2007 年 7 月 26 日 に、当時
のポールソン財務長官の指示により、合衆国連邦財務省の主催による各関係の識者の出
席を求めた会議が開かれた。当該会議の結果が連邦財務省による報告書 , Office of Tax
Policy, US Treasury, Approach to Improve the Competitiveness of the U.S. Business Tax
System for the 21st Century (2007)[hereinafter cited as US Treasury 2007]、が 提出 さ
れた。そこでは、国内課税については、事業活動税(business activity tax、以下 BAT
という。
)という消費ベースによる課税制度を提案し、租税特別措置を縮小することに
より課税ベースを拡大し法人税率の引き下げを図り(19-42 頁)
、国際課税については外
国子会社及び外国支店から受ける配当に対する exemption 制度への移行を提案している
(43-46 頁)
。
15)国際課税 に 関 し て は こ れ ま で 一貫 し て 合衆国法人 が 得 た 外国事業所得 に 対 す る
exemption 制度への移行が提案されてきた。複数の税法学者から、exemption 制度へ移
行する目的を租税制度を簡素化することとした場合にその移行により本当に簡素化さ
れるかの疑問が提起され、あるいは当該移行の目的が WTO による不法な輸出補助金
の認定を回避することであれば exemption 制度への移行は解決にならないという指摘
もあり、さらに、exemption 制度への移行は特にコーポレート・インバージョン取引
防止策を無力化する等の反論が発表された。例えば、① exemption 制度への移行の論
87
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
議は、欠点を多く抱えた worldwide 制度と良く設計された territorial 制度を比較した議
論であり馬鹿げている。worldwide 制度の欠点を直すのが先決であり、また、直すこ
とができる、としたのは、J. Clifton Fleming Jr., Robert Peroni and Stephen Shay, Some
Perspective from the United States on the Worldwide Taxation vs. Territorial Taxation
Debate, Journal of the Australasian Tax Teachers Association Vol.3 No.2, at 38-40,41
(2008)[herein after cited as Peroni 2008]、②輸出補助金を廃止する代わりに territorial
制度へ移行するというのは、正しい政策とは言えず、また、違法なコーポレート・イン
バージョン取引への対応のために territorial 制度へ移行することは、犯罪を合法化する
ことにより犯罪の発生率を下げようとするようなものであり、territorial 制度に移行す
れば、コーポレート・インバージョン取引に対する防衛策はますます困難になる、と
し た の は、William G. Gale, The Tax Treatment of Foreign Income: Issues and Options ,
in Testimony submitted to U.S. House of Representatives Committee on Select Revenue
Measures, at 6-8(2002)[hereinafter cited as Gale 2002]。③ 大統領諮問 パ ネ ル お よ び
JCT2005 の提案はいずれも「数々の欠点により有害となった状態の現行制度」と「理想
的な代替案(exemption)
」と比較して後者を選択するという過ちを犯している。正しくは、
可能な限り正しくした worldwide 制度と候補とすべき選択肢を比較するべきである。認
識されている現行制度の欠点は現行制度に固有なものでは決してなく、合衆国国際課税
制度の基本的前提を変更することなく是正することができるものばかりである。これら
を是正しないで exemption 制度に移行すればこれらの問題点はそのまま移行後の制度に
④ 具体的な制度設計が、
災いを招くことになる , としたのは、Lokken 2006, supra note 9、
行われないまま exemption への移行が論議されているきらいがあると指摘した上で、単
に exemption 制度への移行だけでは、現行法の持つ複雑さの源の多くは残ってしまい、
必ずしも制度の簡素化に繋がるとは思えない、と警告したのは、Graetz 2001, supra note
5, at 784-785。
16)上下両院合同租税委員会(JCT)という組織及びその役割及び権限は、内国歳入法によっ
て授権されている。同法 8001-8005 条において、組織としての JCT の承認及びその構成
メンバー、議長、副議長及び主席スタッフの選出手続き等を規定し、同法 8021-8023 条
では、JCT の権限・役割及び必要な資料を要求する権限及び必要とされる報告義務を規
定している。また、JCT の役割としては、申告書情報を入手し検査を行い、必要に応じ
て公聴会を開催し、召喚令状により証人の宣誓証言及び供述を求めることができる。ま
た、定期的に、現行連邦租税法を調査し、JCT の前で連邦租税法の現状及び簡素化の
ための提言を行う事が義務付けられており、そのために必要とされる資料を各関係当
局に要求する権限を有している。1926 年法により授権された当該 JCT は、連邦租税法
改正において重要な役割を果たしてきているが、その具体的な役割の詳細については、
George K. Yin, Should Congress Abolish the Joint Committee on Taxation? , Tax Notes
88
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
2010.2.15, at 861 を参照。.
17)本項における exemption 制度の意義については、Lokken 2006, supra note 9。
18)U.S. Staff of Joint Committee on Taxation, Economic Efficiency and Structural Analysis
of Alternative U.S. Tax Policies for Foreign Direct Investment (2008.6)[hereinafter
cited as JCT 2008]. なお、本報告書については、増井良啓が海外論文紹介として報告
し て い る、増井良啓「米国両議員税制委員会 の 対外直接投資報告書 を 読 む」、租税研
究 708 号 203 頁(2008)
。
19)諮問会議は次のメンバーでの構成されている。
・議長:Paul Volker(前 FRB 議長)
・スタッフ・ディレクター:
Austan Goolsbee(オバマ大統領上席経済顧問)
・タスク・フォ−ス・メンバー
Martin Feldstein(ハーバード大学教授、前レーガン大統領首席経済顧問)
Laura D Andrea Tyson(カルフォルニア大学教授、前クリントン大統領経済顧問)
Roger Ferguson Jr.(前 FRB 副議長)
William Donaldson(前 SEC 議長)
上 記 以 外 の メ ン バ ー は、Anna Burger, John Doerr, Mark T. Gallogly, Jeffrey
R. Immelt, Monica Lozano, Jim Owens, Charles Phillips, Penny Pritzker, David
Swensen, Richard L. Trumka, Robert Wolf.
20)Toward Tax Reform: Recommendations for President Obaba s Task Force, Tax Analyst
(2009)[hereinafter as Obama Task Force 2009].
21)Reuben S. Avi-Yonah, James. Hines Jr.,, H. David Rosenbloom, Daniel N. Shaviro, Rocco V.
Femia, Clinton Strech, William Barrett, Joseph M. Caliano = Fred F. Murry.
22)Rocco V. Femia, Clinton. Strech, William Barret.
23)Joann M. Winer, Joa Huddleston.
24)Daniel N. Shaviro, Eric M.. Zolt.
25)Arthur. W Wright, J. Hines Jr., William. Barret.
26)Daniel N. Shaviro, Eric M. Zolt.
27)J. Yin 教授は、本 Toward Tax Reform での提言の中で、次のように過去の例を指摘し
ている。
「1985 年から 2005 年の 20 年間に S Corporation は 725 千社から 3,700 千社へと
5 倍になり、1993 年から 2005 年までに LLC(Limited liability company)は 17 千社から
89
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
1,500 千社まで増えた。
」
。これらはすべて、これらの期間においては個人及び法人所得課
税の最高税率段階の差がない又は同一であったにもかかわらず、法人課税の下での 2 段
階課税を回避し、一回だけの課税を求めて path through 課税の適用を受ける為であっ
た。
」
。この事実は、個人税率が法人税率を大きく上回れば全く反対の現象が大量かつ即
時に起きる可能性を示唆している、OBAMA Task Force 2009, supra note 20, at 114-118。
28)The President s Economic Recovery Advisory Board, The Report on Tax Reform
Options: Simplification, Compliance, and Corporate Taxation (2010)[hereinafter cited as
PERAB 2010].
29)当初は 2009 年 12 月までにオバマ大統領への報告が求められていたが、あまりにも多
くの識者からの意見が出されたため予定より遅れ、2010 年 8 月 27 日に Paul A. Volker
議長の書簡を付してオバマ大統領へ提出された。2010 年 8 月 27 日付けの合衆国ホワイ
トハウスのブログでは、本報告書の意義について次のように述べた。
「本報告書は、規
範的(prescriptive)というよりはむしろ有益な(informative)資料であり、租税改革
という分野での広範な改革アイデアについての今後の議論に資することを意図してい
る。しかし、PERAB に与えられた役割は、あくまでも現政権にとっての独立の外部
機関としての役割をはたすことであり、PERAB 自身が政策上の提言をオバマ政権に
提出することではない。従って現政権の考えをとりわけ考慮に入れてはいない。本日
PERAB が承認した本報告書は、有益な報告書であると同時に重要な年鑑(almanac)
でもある。なお本報告書は、合衆国の中・長期的財政課題に対処し財政の持続可能性
を達成するための方策を引き続き検討するために、超党派の National Commission on
Fiscal Responsibilities and Reform に も 提出 さ れ る こ と に なって い る。
」
(http:/www./
whitehouse.gov/administration/eop/perab にてアクセス可能。
)
30)法人税の法定税率 35%に州税を加えると約 39%であり、2009 年の OECD 加盟国の中央
値(median)の 28%との乖離が大きい(本報告書 66 頁及び 68 頁図(figure)4)
。
31)その理由として挙げているのは、①事業セクター所得の約半分は、S Corporation や
Partnership のような path through entity であり、それらの所得は(法人レベル課税で
はなく)個人レベル課税の対象となっていること、②一定の活動だけにメリットを与え
る特別な所得控除、税額控除及びその他の租税支出を法人事業(及び非法人事業)にそ
の多くを与えているため、法人課税ベースが狭くなっていること、によるものである。
32)PERAB 2010,supra note28,at 68,Figure 4.
33)本報告書 68 頁表(table)7 で新規投資に対する限界実効税をセクター別に比較をしてい
るが、事業の平均が 25.5%に対する内訳は、法人事業が 29.4%、非法人事業が 20.0%となっ
ている。非事業の租税負担が法人のそれより低い結果として、事業セクターの全所得の
うち個人レベルで課税されている非法人事業所得の占める割合が、1980 年には 20%程
90
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
度であったものが 2007 年には約半分にまで達した。2004 年において百万ドル以上の事
業利益のうち、
(個人レベルで課税対象となる)非法人による利益が 66%を占めており、
OECD 加盟国の中では最も高い割合を示しているが、二番目であるメキシコの 27%、三
番目である英国の 26%と比較しても際立って高い比率である(本報告書 66-67 頁)
。
34)現行制度の下では、配当やキャピタル・ゲインよりも重い租税を配当を受ける個人に課
していることを考慮すれば、エクイティ・ファイナンスに対する実効税率は借入による
資金調達のそれよりも高くなる。本報告書 68 頁表 7 では、エクイティ・ファイナンス
の限界実効税率 39.7%に対して、借入による資金調達のそれは− 2.2%となっている。
35)前述の GATT/WTO との 30 年論争の結果、exterritorial 準則を段階的に廃止する代わ
りとしての国内生産に対する特別控除である。See supra note 13.
36)法人税率を 1%下げた場合の税収減は、向こう 10 年間で 1,200 億ドルと見積もられてい
る
(本報告書 69 頁)
。なお、
この見積もりは、
最上位の税率段階である 35%及び 34%を各々
34%及び 33%に下げた場合の税収限を見積もっている(本報告書 69 頁脚注 10)
。
37)事業課税ベースを狭めている特別な租税規定の主なものは、
本報告書 77 頁の表 9 を参照。
これらは経済活動を歪め内国歳入法を複雑にし、同じ性質の事業を同じように取扱わな
ければならないという原則に抵触している。これらの租税支出を排除することは、効率
を改善し内国歳入法を簡素化する、としている。
38)http://www.whitehouse.gov/blog/2010/08/27/perab-tax-task-force-report
39)Meg Shreve, Volcker Report Lays Out Tax Reform Options , Tax Notes, September 6,
2010, at 1024(2010)[hereinafter cited as Shreve 2010].
40)Peter R. Merrill, Competitiveness Tax Rate for U.S. Companies: How Low to Go? ,
Tax Note (2009.2.23) か ら、2008 年 OECD Benchmark: US 39.3% , 日 本 39.5% , 英 国
28.0%、ド イ ツ 30.2%、フ ラ ン ス 34.0%、カ ナ ダ 33.5%、OECD 単純平均 26.2% , 同加重
平 均 30.4 % 。2007 Office of Tax policy of U.S. Treasury, Approaches to Improve the
Competitiveness of the U.S. Business Tax System for the 21 st Century(3 頁) で は、
OECD 加盟国の中で小国が税率引き下げに積極的であり、アイスランド、アイルランド、
ハンガリー、ポーランド、スロバキア、ギリシア、韓国、ルクセンブルグは最近税率を
引き下げたと述べている。
41)Klaus Vogel, Worldwide vs. Source taxation of Income- A Review and Reevaluation of
Arguments, in Influence Of Tax Differentials on International Competitiveness, at 117-118
(1990)においてつぎのように述べている。
「合衆国においては、特に、ここ 10 年の
間に各国に影響を与えてきた国際租税法や国際課税の問題についての政策議論のほと
んどは、もっぱら経済学者によってのみ進められてきていた。それらの経済学者の中
91
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
で、最も創造的でありかつ最も影響を与えたのは間違いなく Musgrave 教授夫妻であっ
た。
」と し、Richard A. Musgrave が 資本輸出中立性(Capital Export Neutrality: CEN)
及 び 資本輸入中立性(Capital Import Neutrality: CIN)の 概念 を 発表 し た Criteria For
Foreign Tax Credit in Taxation and Operations Abroad, Symposium conducted by the
Tax Institute, at 84-86(1959)を 引用 し た。し か し、R. Musgrave は、各国 の 租税法 の
体系が関係国間で統一されていない以上、仮に課税標準合計額が完全に等しいことが
あったとしても、その他の課税要件の違いにより税額は決して同額とはならない。従っ
て CEN と CIN はお互いに排他的にならざるを得ず、二重課税もなくなることはないと
も指摘していた。したがって、R. Musgrave は、この時点では、CEN についてはもっ
と直接的な目標が必要であるとし、租税政策の指導理念としての CEN の有効性に対し
て疑問を投げかけていた。しかし、その後 Peggy Musgrave は、合衆国の者(person)
による外国投資の世界的配分の効率最適化の観点から考察し 1963 年および 1969 年にそ
の分析結果を発表し、そこでは、CEN と CIN のいずれを優先させるかについて、租税
が引き起こす投下資本に対する収益率の違いが、CIN の下で貯蓄量に対して与える影
響と比較し、CEN の下で投資地域選択に対して与える影響の方がはるかに大きいと考
え CEN が CIN に対して優先されるべきであるとした、Peggy. Musgrave, Taxation of
Foreign Investment Income: An Economic Analysis , Johns Hopkins Press, at 5-36(1963)
;
Unites States Taxation of Foreign Investment Income: Issue and Agreement , Harvard
law School International Tax Program, at 108-121(1969)
。その後合衆国における経済学
者の文献は P. Musgrave の影響を強く受け合衆国の租税政策の指導原理となった。しか
し、それから半世紀を得た現在は、CEN の租税原理としての位置づけに対する評価は、
劇的な国際経済及び国際市場の発展と共に変化してきたと考えられる。CEN の有効性
に疑問を投げかけたのは、Michael J. Graetz, The David. R. Tillinghast Lecture Taxing
International Income: Inadequate Principles, Outdated Concepts, and Unsatisfactory
Policies , 54 Tax Law Review 261, at 282(001)[hereinafter cited as Graetz 2001 B]。資
本中立性 に 代 わ る 標準 と し て 資本所有中立性(Capital Ownership Neutrality:CON)
を 提 案 し た の は、Mihir A. Desai and James R. Hines Jr., Evaluating International Tax
Reform , 56 National Tax Journal 487, at 489( 2003 )[hereinafter cited as Desai/Hines
2003]。
42)2005 年 1 月現在の OECD の資料によると、主に worldwide 制度を採用していた主な国
は、合衆国、イギリス、日本の他に、チェコ、アイルランド、韓国、メキシコ、ニュージー
ランド、ポーランド。
;主に territorial 制度を採用する主な国は、ドイツ、フランスの他に、
カナダ、オーストラリア、アーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、ギリ
シア、ハンガリー、アイスランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウエー、
ポルトガル。
(注)条約によって国外所得免税にしているのは、オーストラリア、カナダ、
92
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
ギリシア、ポルトガル、これらの中で 95%を免税にしているのは、フランス、イタリア
である。しかし、2009 年に、日本及び英国が相次いで exemption 制度を採用したので、
現在でも主に worldwide 制度を採用している国は、合衆国の他は少ない数となっている。
43)第二次世界大戦以降急激に発展したグローバル市場における多国籍企業の事業形態に
ついては、R.E. ケイビス、岡本康雄他訳『多国籍企業と経済分析』2-24 頁(千倉書房、
1992 年)を参照。
44)2005 JEC, supra note 14, Executive Summary and at 4-9 に お い て、合衆国商務省 の 報
告書における「現行合衆国租税法と国際的通商準則との相互関係によって、外国製造
業者が有利に取扱われていると広く認識されている。
」を引用し、租税制度によって引
き起こされている合衆国企業の競争力の回復が急務であると指摘されている、とした。
U.S. Department of Commerce, Manufacturing in America: A Comprehensive Strategy
to Address the Challenges to U.S Manufacturers .(2001.1), at 46.; Jeremy A. Leonard,
How Structural Costs Imposed on U.S. Manufactures Harm Workers and Threaten
Competitiveness, White Paper prepared for The Manufacturing Institute of the National
Association of Manufacturers, at 1(2003.12.9). に お い て も、合衆国租税制度 が 合衆国
製造業者に対してネガティブな影響を与えていることが報告された。それ以降、国際課
税の文脈での税制改革論議では、必ず租税制度によって合衆国製造業の競争力が損な
われているという指摘がされるようになった。追って 2007 年 7 月 26 日に、当時のポー
ルソン長官の指示により、合衆国連邦財務省が、 Global Competitiveness and Business
Tax Reform という会議を主催し、各関係業界の指導者や専門家を招集し、合衆国企業
のグローバル市場における競争力を高めるためには事業課税制度をどのように改革すべ
きかを討議した。当該会議ではグローバル経済の変化及び他の商業相手国が採用する事
業課税制度の改正に歩調を合わせるための事業課税制度を改革すべきことに議論は集中
した。当該会議での議論をフォローする形で、2007 年 12 月に合衆国連邦財務省租税政
策局は、
「競争力改善のための 21 世紀の事業課税制度を提案する報告書」を提出した。
US Treasury 2007, supra note 14.
45)JCT 2008, supra note 18, at 10-20 では、合衆国企業が外国子会社を通じて得た所得に対
して worldwide 制度を課しながら、課税繰延を許している現行租税政策が引き起こして
いる経済的歪みについては、各国による租税制度に違いのある中で最大の税引後投資収
益を達成することを目的とした①投資先地域の選択に対する歪み、②配当送還時期選択
に対する歪みを生じさせるのみならず、当該課税繰延による二次的歪みとして、①経済
的に非効率な事業構造を選択する歪み、②納税者がその所得を能動的所得に適格となる
ように或いは納税者が合衆国居住者とならないような投資に適格となるように投資の意
思決定をする歪みまで生じさせていることを指摘し(10 頁)
、全世界所得課税が合衆国
企業の居住国選択(residency choice)の歪みを生じさせていると指摘し(11-13 頁)
、合
93
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
衆国企業の投資の意思決定の歪みを設例を付して指摘した(14-17 頁)
。なお、2008 JCT
については、前掲 18)増井良啓 2008 の先行研究がある。
46)JCT 2010, infra note 67 において、現行準則の下でも、合衆国で開発された価値ある無形
資産の所有権を適正な対価なしにタックス・ヘイヴン地域に設立した子会社に移転し、
かつ、事業に係る主要機能(principal)を当該子会社に付与することにより実質的所得
移転が行われているという事例分析が報告されている、要約的説明は JCX-38-10, at 6。
47)これまでの合衆国の国際課税改革論議における「競争力」の定義は必ずしも明確ではな
い面があるが、本報告書では、国際課税制度が「競争力に」影響を与えないという、3
つの文脈で使われている。
(1)投資先国で、合衆国企業の租税負担が投資先国ベースの
企業のそれと同等であること。
(2)外国企業を買収するために合衆国企業がビッドに参
加する際に、租税負担の面で他の外国参加企業と同等であること。
(3)外国企業から見
て、合衆国がその投資先国として魅力的であること。
48)所得移転についてはこれまでも数々の実証研究が行われてきたが、最近 3 つの研究が行
われ、いずれも合衆国から低課税地域への所得移転が行われていることを示唆している。
特にタックス・ヘイヴン地域への所得移転が行われている事を実証したのは、James R.
Hines Jr. and Eric M. Rice, Fiscal Paradise: Foreign Tax Havens and American Business ,
The Quarterly Journal of Economics, Vol.109, No.1, at 149-182(1994)
。 研究開発活動 と
リンクする工業用無形資産の移転を通じて高課税国から低課税地域への所得移転が行わ
れており、当該所得移転への誘因が U.S.MNC の事業活動上の意思決定を歪めているとし
たのは、Harry Grubert, Intangible Income, Intercompany Transactions, Income Shifting,
。
and the Choice of Location , National Tax Journal Vol.LVI, No.1, Part 2,at 239-240(2003)
また、極めてユニークな分析であるが、事業規模の指標である付加価値、売上、物的資産、
報酬、雇用、税引前利益及び税引後利益の各金額相互関係の比較を通じて所得移転の可
能性が認められるとしたのは、U.S. Government Accountability Office, U.S. Multinational
Corporations: Effective Tax Rates are Correlated with Where Income is Reported, Report
。
to the Committee on Finance , ,at 25-29, U.S. Senate(2008)
49)本報告書ではコンプライアンス・コストの程度についてはなんら言及していないが、
U.S.MNC の外国事業はその全体経済活動の約 20%にすぎないのに、当該 U.S. MNC の
所得課税に対するコンプライアンス・コストの 40%は外国源泉所得に対する課税に帰
す る と 報告 し た の は、Marsha Bluementhal and Joel B. Slemrod, The Compliance Cost
of Taxing Foreign-Source Income: Its Magnitude, Detriments, and Policy Implications , 2
International Tax and Public Finance 37(1995)
。
50)全世界所得課税の基本原則は、合衆国企業が得た利益については、その利益を国内、国
外のどこで得たかに関わらず合衆国法人課税に服す。しかし、現行制度の下では、合衆
94
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
国企業が(その外国子会社を通じて)外国で得た利益については、合衆国親会社に配当
という形で送還(repatriation)されるまでは課税しないことを認めている。つまり、課
税繰延が行われている間は配当送還時の残余税は課されることはない。ただし、外国で
得た受動的所得(passive income)或いは外国で得た高度に可動性所得(highly movable
income)に つ い て は、繰延防止措置(anti-deferral subpart F、以下 subpart F と い う)
の下で、課税繰延を認めず、利益発生時に合衆国親会社の手元で合衆国課税に服す。合
衆国の採用している worldwide 制度の結果生じる二重課税を排除するために FTC 制度
を採用している。合衆国企業の(子会社ではなく)支店の損益は、あたかも国内で発生
したかのごとく発生時に合衆国課税に服す( 本報告書 82 頁)
。
51)supra note 42.
52)JCT 2005 supra note 14, at 187-189(2005)で は、Worldwide 制度 を 採用 し て い る 合衆
国の企業と territorial 制度を採用しているフランスの企業が各々が、OECD の中で最も
低率の法人税率(12.5%)であるアイルランドに子会社を有している場合を例にして、
合衆国企業とフランス企業を例にして説明している(84 頁)
。しかもこの例でも、合衆
国の企業が課税繰延をしている期間の実行税率はフランスの企業のそれとほぼ同じであ
り、実質的に exemption 制度の採用国の企業と同じ取扱いになっている。
53)2005 年の JCT スタッフによる報告書では、この事象を「欠点のパラドックス」と結論
付けた。JCT2005, supra note 14, at187-189. 高度に複雑な経済的意思決定の歪みを通じて
多くの場合に納税者に有利な取り扱いを許しており、その結果 CEN のみならず CIN ま
で損ねており、ある意味で欠点のパラドックスともいうべき状態にあると報告した。
「現
行法はこのように、ある意味で欠点のパラドックスを生んでおり、一方では、多くの場
合に納税者を有利にする結果を許しており、はたして、現行法は CEN を促進しまたは
税収を増やす目的に適正に寄与しているのかという疑問を生じさせ、他方では、たとえ、
これらの結果を容認したとしても、当該制度は、exemption 制度を採用している国にベー
スを置く納税者が直面するよりも、高度に複雑で歪められた経済的意思決定を課してい
るのであり、ある場合には、恐らく CIN を損ねる結果にまでなっているのであろう。
」
54)オバマ政権下のホワイトハウスによる 2009 年 5 月 4 日付けのプレス・レリースでは、
2004 年に合衆国多国籍企業が国外の事業活動により稼得した 7,000 億ドルの利益に対し
て、申告された連邦税は 160 億ドルでその(所得に係る残余税の:筆者注)税率は 2.3%
に過ぎない、と報告している。
55)外国源泉 の 使用料所得及 び 利子所得 は、現行準則 の 下 で は 彼我流用(cross crediting)
を通じてその所得のほとんどが課税対象となっていない、Grubert / Mutti2001, infra
note85, at 41-45。彼我流用については、後掲 58)
。
56)内国歳入法 901-905 条。
95
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
57)合衆国が、1918 年に外国税額控除制度を導入した時は完全控除であったが、納税者の事
務負担及び執行上の負担の両面から、一括限度額方式や国別限度額方式の変遷を経なが
ら現在に至っている。詳しくは、河原康之「国際的二重課税排除のための政策選択」国
際税務 3 巻 1 号 10 頁(1983)
。
58)現行法の下では、能動的所得の控除対象税額の計算上、親会社への配当のような合衆国
の法人税率より高い税率で支払われた外国税額と、親会社への使用料や利子等のような
合衆国の法人税率より低い税率で支払われた外国税額との合算が許されている。よって、
仮に親会社への配当に係る外国税額が合衆国の法人税率を適用した限度額を越える額
と、親会社への使用料や利子等に係る外国税額が合衆国の法人税率を適用した限度額を
下回る額とが相殺される結果、能動的所得に対して支払われた外国税額全額が控除でき
る。これを彼我流用(cross crediting)という(本報告書 83 頁)
。
59)合衆国法人税額を減額したいと考える合衆国親会社は、無形資産の利用を通じてその目
的を果たすことができる。その一つは、合衆国で無形資産を開発し開発のための試験研
究費を合衆国で国内源泉所得から控除し、開発された無形資産の法的所有権を保有しな
がら、租税上の目的から低税率地域にある外国子会社にその使用権を与え、無形資産の
使用から得られる利益を実質的に合衆国から低課税国に移転する方法であり、いま一つ
は、合衆国親会社と外国子会社との間で開発費を負担し合う費用分担契約を通じて無形
資産の開発を行い、外国子会社には費用分担以外の対価なしに開発された無形資産の
使用権を与える方法である。この点を事例研究を通じて報告したのが、JCT 2010, infra
note 67)
。
60)合衆国の法人税率が外国の法人税率との比較で相対的に高いということは、U.S.MNC の
租税を含めたコスト競争力を弱めることになるので、その投資及び雇用を低課税地域に
移転しようとする誘因を強める結果となる。この論理からすれば、
(例えば deferral のな
い純粋 worldwide 制度の下であれば:筆者注)US MNC の外国源泉所得に対する相対的
租税負担を増やせば、母国に生産及び雇用を持ち帰るであろうともいえる。数々の研究
成果は、U.S.MNC の投資場所の選択において、租税を含めたコストの違いが非常に重要
な判断要素であることを示唆している(本報告書 85 頁)
。
61)US MNC が FDI により経営効率と競争力を強め、合衆国市場よりもはるかに高い成長
力をもつ外国市場で売り上げを伸ばす結果、合衆国内における雇用、産出量、投資及び
研究開発活動を増加させる。U.S.MNC による FDI が 「代替」 又は「補完」のいずれに
該当するかは、U.S.MNC がどのような経済活動をどの国(地域)で行うかによるもので
あ る(本報告書 85 頁)
。ま た、本報告書 は、補完(complement)の 例 と し て、外国市
場で合衆国の革新的技術または専門的知識を使用するため、その地域に存在することが
必要である会社とか、小売業であるがゆえに顧客と向き合う関係を必要とする会社、輸
96
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
送費が嵩むような商品を生産する会社は、その国内の地域から外国市場に供給すること
はできない場合があり、国内の雇用や投資を国外の雇用や投資に置き換えることはでき
ないという。2007 年における合衆国の輸出商品の額の 19%は US MNC によるその関連
会社へ社内売上であるが、多くの場合に、その外国事業を支援または補完するために、
重要な管理業務及び研究開発活動を合衆国内で行っている、としている(本報告書 86
頁)
。しかし、別の論点とはなるが、現行準則の下では、これらの外国における事業を
支援または補完するための費用が、合衆国内源泉所得から控除され国内源泉所得を浸食
(erosion)しているという問題点もある。
62)1991 年のブッシュ . 大統領経済諮問会議では、
「ネットベースでみると、合衆国の対外
投資が合衆国の輸出を減少させているのか、また、合衆国の雇用を減少させているの
かは疑わしい」と結論づけたのは、Council of Economic Advisors, Economic Report of
。外国 で の 生産 1 ド ル が
the President , U.S. Government Printing Office, at 259(1991)
合衆国からの輸出を 0.16 ドル増加させる(よって補完)としたのは、Robert E. Lipsey,
Outward Direct Investment and the U.S. Economy , in Martin Feldstein, James R. Hines
Jr. and Glenn Hubbard(eds.), The Effect of Taxation on Multinational Corporations, at
16-17(1995)[herein after sited as Lipsey 1995]。FDI の合衆国雇用に対する影響は、合
衆国での雇用が主に管理的及び技術的な雇用にシフトする等の雇用の構成に対する変化
はみられるが、合衆国雇用全体への影響に対するはっきりした結論を得ていないとした
の は、Robert E. Lipsey, Home and Host Country Effect s of FDI, in Robert E. Baldwin
and L. Alan Winters(eds.), Challenge to globalization, at 339-379(2004)
。
63)Advisory Panel 2005, supra note 14,at 132-135 では、worldwide 制度を採用し 35%の税率
を適用しているU .S.MNC と、exemption 制度を採用し税率 20%を適用しているフラ
ンス MNC が第三国(設例では X 国)にある子会社を通じて事業を行う場合の租税負担
の差について説明し、合衆国企業が当該租税負担の差を回避するために、投資先地域で
再投資あるいは無期限の課税を繰延べを行うなど、租税制度が様々な経済的歪みを生じ
させていることを指摘している。
64)U.S. MNC が外国で得た利益に対する課税繰延により、U.S. MNC と外国 MNC との実効
税率の差を縮小できるとしても、それでも残る実効税率の差が、US MNC をコストの面
で相対的に不利な立場に置いている(本報告書 86 頁)
。
65)少なくとも、合衆国残余税を回避するために外国利益の送還を留保する結果は、当該
US MNC の合衆国親法人の(外部負債に依存する)財務構造という形で、租税制度が引
き起こす非効率から生じるコストを負担させており、territorial 制度を採用している国の
企業にはそのような非効率性は生じていない(本報告書 86 頁)
。
66)典型的な買収価格算定方法である将来キャッシュ・フローの割引現在価値の計算におい
97
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
て、将来キャッシュ・フローは税引後で算定されるので、租税のキャッシュ・アウトが
高い合衆国企業の買収提示価額は、territorial 制度を採用している国の企業の提示価額よ
りおのずから低くなる。
67)最近これらの論点を最近実証的に分析し報告したのが、2010 年 7 月の JCT スタッフ
に よ る 合衆国連邦議会下院 に 対 す る 報告書、Present Law and Background Related to
Possible Income Shift and Transfer Pricing, JCX-37-10( 2010 )and Ways and Means
Hearing on Possible Income Shifting and Transfer Pricing , JCX-38-10(2010)[hereinafter
cited as JCT 2010]、に お い て、現行移転準則、subpart F 準則及 び check-the -box 準則
の下で、
所得移転が可能であり実際に行われていることが報告された。そこでは U.S.MNC
6 社の(実例に近い)事例を研究することにより、現行移転価格準則及び subpart F 準
則の下でも、組織再編と特に価値ある無形資産を利用してタックス・ヘイヴン地域(又
は低課税国)に所得を移転し、当該所得を無期限に留保(又は再投資)することにより、
合衆国課税が回避されていることを報告した。これらの報告書については、増井良啓に
よる先行研究がある、前掲 18。
68)それでも FTC 準則は必要となるが、その適用範囲は(使用料のような)受動的所得及
び exemption 対象とならない外国源泉所得だけとなる。
69)2004 年の AJCA によって、コーポレート・インバージョン取引を規制したが、AJCA 準
則施行日以前に組織再編を完結した事業及び当該施行日以降の新設事業に対してはその
規制が及ばない。従って、租税制度改革の方向性によっては、コーポレート・インバー
ジョン取引への強力な誘因を生み出す可能性があるとしたのは、Gale 2002, supra note
15 at 6-8。
70)具体的な制度設計なしに議論が先行していると警告した上で、この点を指摘したのは、
Graetz 2001, supra note 5, at 784-785。
71)本報告書では territorial 制度への移行とあるが、前掲 9)に述べたように、免税の対象と
なるのは外国子会を通じて又は合衆国企業が直接行う事業により稼得される能動的所得
に対する免税であるので、以降 exemption 制度への移行と読み替える。
72)本報告書 66 頁では、法人セクターによる新規投資に対する実効現行税率は 29%とされ、
本報告書 91 頁では、法人税改革により , 法人税率負担を中立にするためには税率を 28%
にしなければならないとしている。また、同頁で U.S. MNC 実効税率で中立を図るため
に税率の目標を 28%としている。これらは、前述した OECD 加盟国の法人税の法定税率
の中央値の 28%に近い。
73)課税繰延を是認することによる税収ロスは向こう 10 年間で 1,800 億ドル、課税繰延を排
除することによる税収増は税率に換算して 1.5%にあたると見積もられている(本報告書
93 頁)
。現行制度の下で、課税ベースを狭めている租税特別措置は、本報告書 77 頁表 9
98
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
に示されている。
74)2009 年に我が国及び英国があいついで exemption 制度に移行したことにより、現在主と
して worldwide を採用している主要国は、合衆国以外にチェコ、アイスランド、韓国、
メキシコ、ニュージーランド、ポーランドと限られている、前掲 42)
。
75)グローバル経済の進展および MNC の出現により、国際課税の伝統的指導原理としての
CEN の有効性についての疑問が提示され、意見の対立がある。P. Musgrave が租税政策
の最終ゴールは CEN を保持することであると提案してから約半世紀が経過し、グロー
バル市場における国際的経済活動の主役として MNC が登場した等の経済環境が劇的に
変化した。そこで国際課税政策の指導原理としての CEN の原則の有効性について疑問
が投げかけられるようになってきた。2001 年に M. Graetz は、租税政策の最終ゴールは、
世界の資本配分の最適化による「世界の経済効率」
(つまり CEN の目標)ではなく、合
衆国市民及び居住者の生活水準を向上させるような「国家の経済効率」あるとした。こ
の点については、Graetz 2001B, supra note 41, at 282 。他方、浅妻章如は、現在でも合
衆国では CEN をよりどころにして worldwide 制度を支持する学者(法律学者、経済学
者共に)は圧倒的に多いと報告している。この点については、浅妻章如、前掲 14)152
頁、160 頁及び同、前掲 1)97 頁、100 頁。2003 年に M.Desai/J.Hines Jr. は、MNC によ
る FDI の実体は、伝統的な評価基準(つまり CEN/CIN)に代わる新しい評価基準が必
要であるとして資本所有中立性(capital ownership neutrality、以下 CON という)を提
。2007 年の
案した。この点については、Desai/ Hines 2003, supra note 41, at 489(2003)
連邦財務省は、グローバル経済の進展、多国籍企業の出現により、CEN/CIN が提唱さ
れた時代にそれらの基準の前提とされていたことが現在は既にその根拠を失っている。
決定的に重要な役割を果たす MNC の無形資産ひとつとっても、その地域でこそ意味が
ある無形資産(CIN が妥当する)もあれば、企業グループが事業を行い得るいかなる地
域の生産場所にも移動させることができる無形資産(CEN が妥当する)もあり、それぞ
れのケースに妥当する基準に合わせて租税政策を行うことなどは実行不可能であるとい
う。この点については、U.S. Treasury 2007, supra note 14, at 57。
76)米国議会調査局(Congressional Research Service、以下 CRS と い う)に よ り、経済学
の観点からの競争力の定義を試みたが、経済理論からは、資本が海外に流出すること
により合衆国内の雇用が減少するという観点には懐疑的であるとの結論を出したのは、
David L. Brumbaugh, Taxes and International Competitiveness, CRS Report for Congress
Order Number RS22445, at 6(2006)
。ま た 最近 の CRS Report に お い て、競争力 に 言
及しグローバルな経済の下での合衆国の租税政策の論議で競争力という言葉がしばしば
引用されてきているが、経済分析によれば、国家間の競争力ではなく、あくまでも法
人間の競争力の相対的優位性の問題でしかないとしたのは、Jane G. Gravelle and David
L. Brumbaugh, Reform of U.S. Inter4national Taxation: Alternative s, CRS Report Order
99
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
Number PL34115, at 4-5(2010)
。競争力の定義に曖昧さまたは論理的矛盾を指摘してい
る我が国文献は: 増井良啓、前掲 18)203,216 頁。; 浅妻章如、前掲 14)155 頁脚注 9 頁;
同、前掲 1)109 頁、100 頁。
77)1962 年に合衆国連邦議会は課税繰延そのものに制限を加えようとしたが、タックス・ヘ
イヴン地域に設立される基地会社を通じた租税回避防止に焦点を当てるべきとする下
院の法案に課税繰延の全廃を主張していた上院が合意し、一種の妥協の産物としての
subpart F 準則が立法された。subpart F 立法時の背景については、Bolis I. Bittker and
Lawrence Lokken, Federal Taxation of Income, Estates and Gift(edition 3rd), ¶67A.1
(2001)及 び Senate Rep. No. 1881, 87th Congress, 2nd Session, reprinted at 1962-3 CB 703,
1t 784-785。それから約 30 数年後 1998 年に、合衆国連邦財務省はグローバル経済にお
ける合衆国企業の役割の変化に対応する subpart F 準則について、CFC が外国で能動的
事業にまで従事するようになった結果、今まではさほど重要とは考えてこなかったが、
CFC が事業を行う外国に所在する外国法人と CFC とを同等の競争条件におきながら
CFC の競争力を維持させることまでも考慮しなければならなくなってきたと述べた上
で、
「Subpart F は、合衆国者が CFC を通じて合衆国外で稼得する一定の所得に対する
合衆国課税の繰延を制限するために立法された。しかし Subpart F 立法後の課税繰延へ
の制限は、今日では CFC が外国で事業を行う際の競争力を保護してきた面がある。し
かしこの課税繰延への制限の目的は、更に進んで、CFC が、能動的事業に従事し、適切
なる経済的理由から外国に所在し、CFC が事業を行う国に所在する外国法人と同等に競
合できる租税環境を与える必要がでて来た。よって現在における国際課税政策は、国内
企業と外国企業との間で(いずれを促進することも無く、またいずれを阻害することも
無いような)租税中立性の目的とのバランスを求めながら、他方では合衆国事業の外国
における競争力を維持しなければならなくなっている。
」
。この点については、Technical
Document 8767, 1998-16 IRB4。追って 2000 年に、合衆国連邦財務省は 1962 年の立法に
当たって、ケネディ政権は課税繰延の全廃を目指しながら、合衆国所有事業の外国で
の事業の競争力の低下を恐れて全廃に踏み切れず、妥協の産物が subpart F 準則の立
法となったとした、この点については、U.S. Treasury, The deferral of Income Earned
。
Through U.S. Controlled Foreign Corporations, at 19-22(2000)
78)Robert J. Peroni, Deferral of U.S. Tax on Inter4national Income:End It, Don t Mend It-
Why Should We Be Stuck in the Middle with Subpart F ? , 79 Texas Law Review 1609
( 2001 ); J. Clifton Fleming Jr., Robert J. Peroni and Stephen E. Shay, Perspectives on
the Worldwide vs. Territorial Taxation Debate, Tax Notes International January 4, 2010,
at 83,104( 2004 ); .J.Clifton. Fleming Jr., Robert J. Peroni, Exploring the Contours of a
Proposed U.S. Exemption( Territorial)Tax System , Tax Notes , at 1570-1577(2005);
Peroni 2008 supra note 15 , at 38- 41 ,45-46.
100
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
79)Barbara Angus, Tom Neubig, Eric Solomon and Mark Weinberger, The U.S. International
. [herein after cited
Tax System At a Crossrods , Tax Notes, April 5, 2010, at 53-59(2010)
as Angus and other 2010]. 本項 の 共同著者 は す べ て 合衆国連邦財務省租税政策部門
(Office of Tax Policy)出身者である。
80)Ibid.
81)FDI は国内投資に代替し、従って FDI は国内生産、雇用及び投資を減少させるとした
の は、Council of Economic Adviser, Economic Report of the President, February 1991,
at 259。FDI は国内投資を補完し、国内生産、雇用及び投資を増加させ ,1 ドルの外国生
産は 0.16 ドルの輸出を生じるとしたのは、Lipsey 1995, supra note 62, at 333- 379 )
。US
FDI による FDI の 10%増加が国内投資を 2.6%増加させ、US MNC による外国売上の伸
び率が 10%高ければ合衆国の輸出を 6.6%増加させ、さらに合衆国の研究開発を 3.2%促
進させるとしたのは、Mihir Desai, Fritz C. Foley and James Hines Jr ., Domestic Effects
of the Foreign Affiliates of U.S. Multinationals, American Economic Journal, Economic
Policy, Vol. 1, No. 1,(2009)
。
82)JCT 2008, supra note 18, at 19-20..
83)Mihir Desai, Fritz C. Foley and James Hines Jr., Foreign Direct Investment and the
Domestic Capital Stock , 95 American Economic Review 33, at 33-38(2005).
84)Angus and other 2010, supra note 79, at 62-63.
85)Harry Grubert and John Mutti, Taxing International Business Income: Dividend
Exemption versus the Current System , American Enterprise Institute, at 4,41-45(2001)
[hereinafter cited as Grubert/Mutti 2001].
86)R. Altshuler and H. Grubert, Where Will They Go if WE Go Territorial ? Dividend
Exemption and the Location Decisions of U.S. Multinational Corporations , National Tax
.
Journal , Vol. LIV , No.4 , at 807(2001)
87)exemption 制度への移行は、低課税国への所得移転等の経済的歪みを更に加速させると
指摘する論者がある。Edward D. Kleinbard, Throw Territorial Taxation from the Train ,
Tax Notes February 5,2007, at 547 は、
「
(本稿で言う)exemption 制度への移行は、移転
価格ゲームの勝者に、租税のくじ引き(tax lottery)で瞬間的勝者の褒章を与えること
により、国境を跨ぐ移転価格問題を更に悪化させる。
」
。最近の指摘としては、Reuven S.
「現在の
Avi-Yonah は、合衆国連邦議会下院における聴聞会(infra note 95)において、
国際課税制度における抜け穴を塞がずに、
(本稿で言う)exemption 制度に移行すれば、
合衆国の商業相手国以上に所得移転の問題を悪化させる。
」と証言した。
88)EU 及び OECD における法人税の国際的調和の動向については、岩崎政明「法人税の国
101
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
際的競争 と 調和―EU お よ び OECD の 動向 の 考察」27 頁 , 租税法研究第 26 号(1998)
。
村井正「強調 と 競争―EU に お け る 税制調和 の ディレ ン マ」租税法研究第 26 号 1 頁
(1998)
。又金子宏 は、前掲 2)444-445 頁(弘文堂、2011)に お い て、
「我 が 国 が 制度化
した外国子会社からの受取配当益金の不算入制度は、
「わが国の国際課税の制度理論、
すなわち、全世界所得課税主義ないし資本輸出中立性の原理に大きな修正を加えたこと
は、たしかである。それが、わが国の国際課税のあり方にいかなる影響を与えるか、す
なわち、全世界所得主義を基本的に維持すべきか、それとも所得源泉地課税主義ないし
資本輸入中立性の原理に全面的に移行すべきか、の問題に今後どのような影響を与える
かが注目される(全面的に移行することはないと思われる)
。いずれの考え方をとるに
しても、最も重要なことは、税制の国際的ハーモニゼーションの推進である。
」と述べ、
国際課税の制度理論としての worldwide 制度ないし CEN、又は、territorial 若しくは
exemption 制度ないし CIN のいずれを選択するかの問題として捉えたうえで、国際課税
制度の調和の必要性を重視している。
89)Rosanne Altshuler, Recent Developments in The Debate of Deferral( Section
951-Controlled Foreign Corporations , Tax Analysts, Tax Note Today April 10,2000(
2000 TNT 69-67)
, at 2-3.,
90)国際課税制度 の 指導原理 と し て、合衆国 の 通商相手国 が CIN を 追及 し て い る の に 対
し て、合衆国 だ け が CEN を 追及 す れ ば 非効率 を 生 む と し た の は、National Foreign
Trade Council, The NFTC Foreign Income Project: International Tax Policy for the 21st
。Angus and other 2010, supra note 79, at 45-46。
Century , 1999( Doc 1999-11623)
91)本報告書 88 頁。 92)Angus and other 2010, supra note 79 , at 62-63.
93)Shreve 2010, supra note 39, at 1024.
94)Committee on Ways and Means の HP で証言内容が公表されているが、Reuvens S. AviYonah が証言した要点は、① Exemption 制度への移行の可否と U.S. MNC の競争力は無
関係である。② Exemption 制度への移行は trapped-income 問題を排除することに効果
はあるが、法人税率の引き下げ及び課税繰延を廃止することによっても同じ効果を得ら
れる。③ Exemption 制度への移行は所得移転を増加させる。④免税とする所得に配賦さ
れる費用控除の否定を実施しないと税収中立は達成できない。⑤ exemption 制度を実施
している各国の経済状況及び租税政策の違いを考慮もせずに同制度に追随しようとする
のであればそれは誤りである。
95)Testimony of Prof. Reuben S. Avi-Yonah Hearing on How Other Countries Have Used
Tax Reform to Help Their Companies Compete in the Global Market(2011).
102
米国経済再生大統領諮問会議による国際課税改革報告書を読む
96)Ibid. なお、本公聴会に先立って、もし仮に合衆国が exemption 制度への移行を決定す
る場合には、どのような現行準則の改廃が必要か及び必要となる移行措置を提示し、加
えて、既に exemption 制度を採用している、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイ
ツ、日本、オランダ、スペイン、スイス及び英国の国際課税準則を説明する JCT 報告書、
JCT, Background and Selected Issues Related to the U.S. International Tax System and
Systems that Exempt Foreign Business Income. (JCX-33-11,2011)
、が事前に提出された。
97)Committee on Ways and Means の HP。
98)Ibid.
99)supra note 67.
100)Rueven S. Avi-Yonah, は、2011 年 5 月 24 日に開催された合衆国連邦議会の下院委員会
(supra note 99)において、現行の Subpart F 準則のままで exemption 制度への移行は
所得移転の問題をさらに悪化させると指摘した。exemption 制度採用国で当該所得移転
があまり問題にされていない理由として、
「ここで重要なのは、
(exemption 制度を採用
している:筆者注)主要通商相手国は合衆国の CFC 準則よりも厳格な準則を採用して
いるので、事実として、
(worldwide 制度を採用してきた:筆者注)合衆国以上に外国
源泉所得に対する課税が行われていることである。
」
、と証言した。
101)我が国におけるコーポレート・インバージョン取引の実例は、大阪証券取引所第 1 部
上場会社であったサンスターが、株式非公開化を伴う MEB(Management Employee
Buy-Out)を通じて、2007 年 11 月 1 日にスイスへの本社機能移転を完了させている。
この点については、大田洋「三角合併等対応税制と M&A 実務への影響」中里実他編
『国際租税訴訟の最前線』293-295 頁(有斐閣、2010 年)
。我が国で今後行われることが
予想されるコーポレート・インバージョン取引のパターンについては、大田洋「イン
バージョン対応税制の在り方とその未来」金子宏編『租税法の発展』727-729 頁(有斐閣、
2010 年)
。
102)平成 23 年度税制改正大綱では、
「国際的な事業再編等を通じた無形資産の移転に係る
国際課税のありかた」については、
「今後 OECD において無形資産の移転に係る国際課
税のあり方に関する議論が行われることから、当面は「論点整理」で示された点を参
考にしつつ、
こうした国際的な議論に参画していく必要があります。
」とされている(平
成 23 年度税制改正大綱(平成 22 年 12 月 16 日)26-27 頁)
。
103)特に利子・使用料および研究開発費等の費用計上場所をいう。
104)浅妻章如(2009)
、前掲 1)105 頁 脚注 31、および、113 頁では、特に懸念されている
ことは、従来海外子会社から受けていた利子、使用料所得等を配当所得に変換するこ
とであると指摘した。例をあげれば、海外子会社から得た配当等を、益金不算入とし
103
横浜国際経済法学第 20 巻第 1 号(2011 年 9 月)
た上で、その資金を日本親会社から別の外国法人へ(例えば費用として控除できる形
で)支払い、実質的に利益を移転するような恣意的な取引が開発されることであると
指摘した。また、同「課税ベース浸食の客観的把握への試論―外国子会社配当益金不
算入導入後における課税繰延対策手法(CFC 税制・タックスヘイヴン対策税制)の繰
延以外の問題への適用の政策論的正当化可能性と限定可能性」99 ページ(ジュリスト
No.1388,2009 年)では、外国子会社配当益金不算入により、軽課税国関連会社に利益を
移すような移転価格問題が激化することが考えられる。
」
、
とした。大田洋=手塚崇史「2
移転価格税制」中里実他編『国際租税訴訟の最前線』96 ページ(有斐閣 2010 年)で
は、
「外国子会社配当益金不算入制度の副作用として、今後は資産運用の海外移転とい
うものも問題となってくる可能性があり、
・・・、課税ベース浸食の水際での防波堤と
しての移転価格税制の役割は今後益々高まっていく。
」
、とした。
105)利益配当について、
「出資者としての地位に基づいた」とか「利益の多寡に応じた」と
判示 し た 最判昭和 35 年 10 月 7 日民集 14 巻 12 号 2420 頁、最(大)判昭和 43 年 11 月
13 日民集 22 巻 12 号 2449 頁があるが、いずれも平成 17 年の会社法制定前の判例であ
る。
106)法法 23 条の 2 では、法法 22 条①一に掲げる「剰余金の配当等の額」と規定している
だけであり、特に「配当」の定義を置いていない。
我が国の外国子会社から受ける配当金の益金不算入制度を利用した租税回避につい
て、現行法令及び判例などを前提とした法解釈論の観点から実質的に「否認」される
理論的可能性について論述したのは、太田洋=佐藤修二「外国子会社配当益金不算入
制度と租税回避」税務会計(54),329-343 頁(2010)。
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