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Title 持久的走行トレーニング初期段階における骨格筋の脂質代謝関連
Title 持久的走行トレーニング初期段階における骨格筋の脂質代謝関連酵素活 性の変化過程 Author(s) 鈴木, 淳一; 平塚, 勇介; 東浦, 拓郎 Citation 冬季スポーツ研究, 7(1): 9-14 Issue Date 2004-10 URL http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6775 Rights Hokkaido University of Education 冬季スポーツ研究 第 7 巻 1 号 9-14, 2004 (北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター紀要) 持久的走行トレーニング初期段階における骨格筋の脂質代謝関連酵素活性の 変化過程 鈴木淳一 1)、平塚勇介 2)、東浦拓郎 3) 北海道教育大学冬季スポーツ教育研究センター1)、北海道教育大学教育学研究科 2)、筑波大 学大学院博士課程人間総合科学研究科 3) Time-course changes in citrate synthase and 3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase activities in soleus muscle of young treadmill-trained rats Research and Education Center for Winter Sports1), Graduate School of Education2) Hokkaido University of Education, 5-3 Ainosato, Kita-ku, Sapporo, Hokkido 002-8502, Japan. Graduate School of Comprehensive Human Sciences, University of Tsukuba, Tennodai, Ibaraki 305-8577, Japan Abstract This study was designed to examine the time-course changes in citrate synthase (CS) and 3hydroxyacyl-CoA dehydrogenase (HAD) activities during endurance training by running in young female Wistar rats. Exercise training by running started at the age of 5 weeks and lasted for 5 weeks at 25 m/min on a 25% grade, 10-60 min/day. Enzyme activities were observed in the soleus muscle. The soleus muscle weight and its weight-to-body weight ratio were significantly greater in the training group than in the sedentary control group at Week 5 and Weeks 3 and 5, respectively. Training significantly increased the HAD activity by 30%, 29% and 37%, respectively, at Weeks 3, 4, 5. The CS activity was significantly increased in training groups by 35%, 47% and 47%, respectively, at Weeks 3, 4, 5. The HAD-to-CS ratio (HAD/CS) remained unchanged throughout the experimental period. These results suggest that it takes at least 3 weeks of intensive training to cause adaptive changes in fatty acid utilization in slow twitch muscle. Similar time-course changes in CS and HAD may contribute to effective fatty acid utilization in muscle cells. Key words: citrate synthase; endurance training; 3-hydroxyacyl-CoA dehydrogenase; skeletal muscle 緒言 有酸素運動時では、エネルギー基質として 主に血中グルコース、筋グリコーゲン及び脂肪 酸が利用される。近年、その優れた効率性や有 用性の高さから、脂質代謝能力が持久力の指標 としてが注目されている。ヒトの研究では、脂 肪酸のエネルギー貢献率は低強度運動時では約 90 %、中等度運動時では約 65 %であること が知られている。また、長期間の持久的トレー ニング後に、エネルギー基質として脂肪酸の動 員が増大することが知られている [3,6,9-11]。 脂肪酸のβ酸化はミトコンドリア内で行われ、 その後有酸素的に ATP が生成される。この脂 肪酸β酸化系の律速酵素である 3-ヒドロキシア シル-CoA 脱水素酵素(HAD)の活性は、長期 間の持久的トレーニング後に増大することがこ れまで多くの研究で報告されている [3,6,9-11]。 しかし、トレーニング初期段階における HAD 活性の変化過程に関してはほとんど研究 されていない。Cheng ら[4]は、Long-Evans 系雄 ラットを用いて高脂肪食摂取と自発走運動を 6 週間行い、ヒラメ筋の HAD 活性の変化過程を 観察した。その結果、高脂肪食摂取群では HAD 活性が漸増したが、通常食摂取群では HAD 活 性にほとんど変化がみられなかったと報告して いる。Henriksson ら [7]は、New Zealand White 9 鈴木淳一、平塚勇介、東浦拓郎 Rabbit を用いて速筋である前脛骨筋に 10Hz、 24h/day の条件で電気刺激を 10 週間行い、HAD 活性の変化過程を観察した。電気刺激開始 1、 2、3、5、8、10 週後、それぞれ HAD 活性の値 を測定した結果、いずれも 0 週時(電気刺激開 始前)より高い値を示し、3 週後が最高値であ ったと報告している。 しかしながら、高強度の持久的走行トレー ニングを行うと、その初期段階でどのように脂 質代謝能力が改善されていくのか、その変化過 程を観察した研究はこれまで報告されていない。 そこで本研究では、ラットに高強度の持久 的走行トレーニングを 5 週間負荷し、1 週間毎 の骨格筋 HAD 活性の変化過程について明らか にすることを目的とした。 実験方法 1.実験動物 実験には 3 週齢の Wistar 系雌ラット 54 匹 を用いた。2 週間飼育室の環境に慣らした後、 5 週齢時に安静コントロール(Cnt)群 25 匹、 トレーニング(Tr)群 29 匹の 2 グループに分 けた。すべてのラットは室温 24±1 ℃、相対 湿度約 50 %、12 時間の明暗周期の環境下で飼 育し、飼料(日本クレア/CE-2)と水道水を共 に自由摂取させた。 2.運動負荷 Tr 群のラットには、ラット用トレッドミ ル(KN-73/夏目製作所)による持久的走運動 を負荷した。トレーニングは 5 週齢時に 25 m/min、10 min、勾配 25 %の条件で開始し、60 min になるまで 3 min/day の割合で運動時間を 漸増させ、週 5 日の頻度で 5 週間負荷した。 3.筋標本 トレーニング開始 1、2、3、4、5 週後、そ れぞれペントバルビタール麻酔下(50 mg/kg) のラットからヒラメ筋を摘出し、湿重量を秤量 した。筋のサンプルは、液体窒素で瞬間凍結後、 −80 ℃で冷凍保存した。 4.酵素溶液の調製 筋のサンプルは−25 ℃下で微粉状にし、5 mM β-mercaptoethanol、0.5 mM EDTA、0.02 % bovine serum albumin(BSA)を含む 20 mM phos- 10 phate buffer(pH7.4)を用い、ポリトロン型ホ モジナイザーで氷冷下でホモジネート(15,000 rpm、15 sec×2)した。そして、0 ℃、13,000 g で 15 分間遠心分離した後、その上澄み液を酵 素溶液として、酵素活性の測定まで−80 ℃で 冷凍保存した。 5.酵素活性の測定 3-ヒドロキシアシル-CoA脱水素酵素 (HAD, EC 1.1.1.35)活性の測定には Bass ら[1]の方法 を用いた。酵素溶液に、5 mM EDTA、0.45 mM NADH を含む 100 mM triethanolamine-HCl buffer (pH 7.0)を加え、25 ℃の温水中に 10 分間静 置し温度平衡に達した後、0.1 mM acetoacetylCoA を添加して反応を開始させた。反応開始後 5 分間にわたり分光光度計を用いて 340 nm に て吸光度の変化を測定した。 Citrate Synthase(CS, EC 4.1.3.7)活性の測 定には Srere [13]の方法を用いた。酵素溶液に 1 mM DTNB、10 mM acetyl-CoA を含む 0.1 M Tris-HCl buffer(pH8.1)を加え、25 ℃の温水 中に 10 分間静置し温度平衡に達した後、10 mM oxaloacetate を添加して反応を開始させた。反 応開始後 5 分間にわたり分光光度計を用いて 412 nm にて吸光度の変化を測定した。 6.統計処理 すべての値は平均値±標準誤差で示した。 すべてのデータはまず、Kormogorov-Smirnov 検 定によって正規性の検定を行ない、正規分布し ていることを確認した。2 群間の比較にはStudent の t 検定を用いた。また、各群の経時変化 の 検 定 に は 一 元 配 置 分 散 分 析 及 び Fisher の post-hoc テストを用いた。 検定結果は危険率 5 % 未満を有意水準とした。 実験結果 表 1 にトレーニング期間中の体重、ヒラメ 筋重量及びヒラメ筋重量/体重比の値を示した。 体重は、第 3 週において Tr 群の値が Cnt 群よ り有意に低い値を示したが(P<0.05)、他の週 では変化がみられなかった。経時変化では、両 群ともに週毎に増加が認められた。ヒラメ筋重 量は、第 5 週において Tr 群の値が Cnt 群より 有意に高い値を示した(P<0.05)。経時変化で トレーニングによる HAD 活性の変化過程 高い値を示した(P<0.05) 。 考察 は、両群ともに漸増していた。ヒラメ筋重量/ 体重比は、第 3、5 週において TR 群は Cnt 群 より有意に高い値を示した(P<0.05)。経時変 化では、両群ともに 5 週間通してほぼ一定の値 を示した。 図 1 に、HAD 活性(U/g tissue)の変化過 程を示した。HAD 活性は、第 3、第 4、第 5 週 において、 Tr 群が Cnt 群よりもそれぞれ約 30 %、 29 %、37 %有意に高い値を示した(P<0.05) 。 TR 群の経時変化では、第 1 週に対して第 3 週 以降有意に高い値を示した(P<0.05)。Cnt 群で は、第 1 週から第 5 週まで緩やかに漸増したが、 有意差は認められなかった。 CS 活性は Tr 群が Cnt 群より第 3 週で約 35 %、第 4 週で 47 %、第 5 週で 47 %有意に 高い値を示した(P<0.05;図 2)。Tr 群の経時 変化では、第 1 週に対して第 3、4、5 週、第 2 週に対して第 3 週が有意に高い値を示した (P<0.05)。Cnt 群では、5 週間通して変化がみ られなかった。 図 3 に HAD/CS 比の変化過程を示した。 HAD/CS 比は脂肪酸のエネルギー貢献率を示す ものである。すべての週において、両群間に有 意差は認められなかった。Tr 群の経時変化では、 5 週間通してほぼ一定の値を示した。Cnt 群で は、第 1 週に対して第 2、3、4、5 週が有意に 本研究では、5 週齢の Wistar 系雌ラットを 用いて、5 週間の持久的走行トレーニング期間 中、ヒラメ筋における HAD 活性がどのように 変化していくのか、その適応過程を観察した。 トレーニング期間中、HAD 活性は第 3 週 目以降に有意に増加していた(P<0.05;図 1) 。 これは、第 3 週目以降に脂肪酸のβ酸化が亢進 され、脂質からのエネルギー供給量が増大した ことを示唆している。エネルギー基質として脂 肪酸の利用が増大すると、筋や肝臓のグリコー ゲンが節約されるものと考えられている [8,11,12] 。Geor ら[5] は、持久的走行トレーニ ングを負荷した馬に高強度の持久的走運動を実 施させたところ、筋グリコーゲン代謝率が減少 し、トレーニング開始前よりも運動終了時の血 中や筋中乳酸濃度が減少することを観察した。 その結果、VO2max が増加し、疲労困憊に至る までの時間が延長したことを報告している。こ 11 鈴木淳一、平塚勇介、東浦拓郎 の時間が延長したことを報告している。これら のことから、有酸素的運動能力が向上する際に、 脂質代謝系の適応が密接に関与しているものと 考えられる。 本研究において、Tr 群の CS 活性は、HAD 活性と同様に第 3 週目以降に有意に増加してい た(P<0.05;図 2) 。この結果は、クエン酸回路 の活発化と脂肪酸のβ酸化亢進が同時に起こっ たことを示唆している。β酸化によって生成さ れたアセチル-CoA は、クエン酸回路に入り、 その後有酸素的にエネルギーが産生される。β 酸化だけが過剰に進行すると、アセチル-CoA の蓄積が生じ、細胞質からミトコンドリア内へ の脂肪酸の輸送が抑制されることから、脂質代 謝の亢進には、クエン酸回路の活性化が不可欠 であると考えられる。また、多くの先行研究で、 持久的トレーニング後、HAD 活性と CS 活性が 共に有意に増加していたことが観察されている [3,6,9-11]。 12 Suzuki ら[14]は、持久的走行トレーニン グを行うと、組織の酸素需要増大に対する適応 として、まず毛細血管密度や C:F 比(筋線維 1 本当たりの毛細血管数)の増加が起こり、そ の後、酸化酵素活性(コハク酸脱水素酵素)が 増加すると報告している。本研究においても、 持久的走行トレーニングによって、第 1、第 2 週目に微小循環系の適応が起こり、その後第 3 週目以降に酸化酵素活性(HAD、CS)が増加 したものと推察される。このことから、脂質代 謝系の適応は、微小循環系の改善後に起こるも のと考えられる。運動時には、血中から取り込 まれた脂肪酸が内因性のものよりもより酸化さ れることから、毛細血管網の増加が脂質代謝の 亢進に深く関与していると考えられる。 Tremblay [15]らは、ヒトを対象に、持続的 走行トレーニングを負荷した群と高強度の間欠 的走行トレーニングを負荷した群に分け、トレ ーニングが脂質代謝系に及ぼす効果を比較した ところ、持続走群の運動中の総エネルギー消費 量は間欠走群の約 2 倍であったにも関わらず、 間欠走群の方が HAD 活性が増加し、皮下脂肪 が顕著に減少していたことを観察した。この結 トレーニングによる HAD 活性の変化過程 果から、持久的トレーニングでは、運動強度が 高いほど脂質代謝系の適応を促進すると報告し ている。5 週齢の Wistar 系雄ラットに約 60 % VO2max 強度の持久的走行トレーニングを 6 週 間負荷した先行研究では、ラスト 2 週間の運動 時間は 120 分にも及んだが、トレーニング後、 HAD 活性の有意な増加は観察されなかった[16]。 本研究では、第 1 週から第 3 週までの 1 日当た りの運動時間は 10∼52 分であった。また、本 研究とほぼ同週齢で同系統のラットを用いた Brooks ら[2]の研究から、本研究の運動強度を 推測すると、最大酸素摂取量の約 82 %以上、 最大心拍数の約 90 %以上になるものと考えら れる。これらのことから、運動時間は短くても 高い運動強度であれば脂質代謝系の適応を引き 起こすと考えられる。 本研究の安静対象群では、有意差は認めら れなかったが、5 週間の実験期間中 HAD 活性 は緩やかに漸増していた(図 1) 。しかし、CS 活 性にはほとんど変化はみられなかった(図 2) 。 また、HAD/CS 比は第2週目以降、第 1 週目に 対して有意に高い値を示していた(P<0.05;図 3)。これらの結果は、通常の成長過程では、有 酸素的エネルギー代謝量はほとんど変化しない が、脂質のエネルギー貢献率は成長とともに増 大することを示唆するものである。 本研究と同週齢で同系統のラットを用いた 先行研究で、持久的トレーニング後、type IIa fiber の横断面積が増大することが観察されてい る[14]。この研究では、本研究と同じ運動強度 のトレーニングを負荷したことから、高強度の 持久的トレーニングが type IIa fiber の肥大を促 進したものと考えられる。本研究では、Tr 群の ヒラメ筋重量が第 5 週目に有意に増加していた。 (P<0.05;表 1)また、ヒラメ筋重量/体重比も 第 3、第 5 週目に有意に増加していた(P<0.05; 表 1)。この結果は、本研究の持久的走行トレ ーニングによって、type IIa fiber 組成が約 20 % であるヒラメ筋が肥大したことを示しており、 上述した報告を支持するものと考えられる。一 方、安静対象群では、5 週間通してヒラメ筋重 量は緩やかに漸増していたが、ヒラメ筋重量/ 体重比には変化がみられなかった(表 1)。こ の結果から、対象群のヒラメ筋重量の増加は、 成長過程に伴う体重の増加に比例して起こった ものと考えられる。 本研究では、持久的走行トレーニングの初 期段階において、HAD 活性がどのように変化 するのか、その適応過程を明らかにすることを 目的とした。その結果、第 3 週目以降に HAD 活性が有意に増加したことを観察した。このこ とから、本研究で用いた高強度の持久的トレー ニングでは、第 3 週目以降に脂質からのエネル ギー供給量が増大することが示唆された。また、 β酸化の亢進とクエン酸回路の活発化が同時に 観察され、これはエネルギー基質としてより多 くの脂肪酸を動員するために不可欠な適応性変 化と考えられる。 参考文献 1. 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