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1 バルク乳細菌検査を用いた安全・安心な高品質乳生産 に向け
1 バルク乳細菌検査を用いた安全・安心な高品質乳生産 に向けた取り組み 中央家畜保健衛生所 石丸 憲二・田中 英隆 養頭数の8割を占めた(表-2)。 食品の安全性に対する消費者の要求が高い なか、酪農においては体細胞数に代表される生 表-2 調査方法 乳中の衛生的な乳質改善の重要性が増してい る。 そこで平成 21 年度から関係機関などと連携 1.調査期間: 平成21年4月∼ 2.対象農場: 平成21年度 :乳用牛群検定農場7戸 平成22年度∼ :飼養規模20頭以上の 酪農家16戸 し、バルク乳検査成績を活用して管内酪農家の 乳質改善に取り組んだ。 (検定農家7戸も含む) 3.調査項目: 1 月2回実施されるバルク乳検査成績よ り体細胞数を調査 バルク乳検査体制(表-1) 4.指導対象農場: 体細胞ペナルティを受けた農場 県内におけるバルク乳検査体制では、各項目 ごとにペナルティがあり、体細胞数は 30 万個 /ml 以上になるとペナルティが科せられる(表 −1)。 3 調査項目 (1)体細胞数 表-1 バルク乳検査体制 バルク乳中の体細胞数成績については、長崎 検査主体: 長崎県酪農業協同組合連合会 県酪農業協同組合連合会が実施した検査成績 検査頻度: 毎月2回(前半、後半) を用いた。 検査項目: 乳脂肪、乳蛋白、乳糖、無脂乳固形、全 固形、体細胞数、細菌、MUN、氷点 (2)聞き取り調査 連絡方法: 各農家へFAXで通知 体細胞の増加などによりペナルティが科さ れた農家については、原因などについてその都 ペナルティ: 体細胞数は、30万個/ml以上 単価 30∼ 40万: -3円 40∼ 50万: -5円 50∼ 70万: -10円 度聞き取り調査を実施した。 (3)乳汁中の細菌検査 70∼100万: -20円 農家から検査依頼があった、農家で実施され たCMT検査で異常がみられた乳汁等につい 2 て個体別に細菌検査を実施した。 調査方法 (4)牛舎内風速測定 調査は平成 21 年4月から実施した。対象農 家は、当初管内牛群検定農家7戸としてしたが、 県央振興局地域普及課と連携し、風速計を用 1 年間調査・指導を実施した結果、ペナルティ いて牛舎内の風速を測定した。測定は送風機直 回数や検出率に効果が認められたことから、平 下、通路、牛床から 50、130cm の4ヵ所で実施 成 22 年度には飼養規模 20 頭以上の酪農家 16 した(図-1)。 戸まで対象を拡大した。この 16 戸で管内の飼 -1- 表-3 聞き取り調査成績 調査戸数 4戸 項 目 件数 由 調査方法 風速計を用い牛舎内の 風速を測定 混入 乳房炎乳の混入 11 管理不足 簡易検査で気付かなかった 乳房炎の再発に気付かなかった 21 3 測定場所 •送風機直下 •各通路 •牛床から50・130cm 人為的ミス ヘルパーが搾乳 搾乳器具の不備 大丈夫と思った 3 1 9 不明 ミルカートラブル 翌日には300千個/ml以下に低下 1 1 その他 乳頭に傷 1 風速測定器 図-1 夏季における牛舎内風速の測定 4 理 (3)個体別細菌検査 指導体制 検査成績は酪農組合連合会から農家へ直接 調査開始前の平成 20 年度の検査件数は 196 FAX されており、家保は迅速かつ的確な指導を 件であったが、調査を開始した平成 21 年度に 行う目的で、成績が判明した時点で、組合から は、積極的な調査と、乾乳前検査を開始したこ 入手できるようにした(図-2)。 とで 280 件と前年に比べ件数が増加した。なお、 家畜保健衛生所 県央振興局 即座に入手 平成 22 年度は口蹄疫発生のため、8月までほ 感受性成績 とんど依頼が無く、179 件と減少した。 •聞き取り調査 •乳房炎検査 長崎県酪農業協同組合 連合会 異常乳検査 乾乳前検査 バルク乳成績 •暑熱対策 分離された細菌は、3年間を通して、ブドウ 球菌が最も多く、ついでレンサ球菌であった。 診療獣医師 風速測定 •硝酸態窒素測定 F A X また、細菌検査成績や薬剤感受性試験成績につ 治 療 いては、農家と診療獣医師ともに直接連絡し、 管内酪農家 早急に対応、治療ができる体制づくりを整えた 飼養規模20頭以上の16戸 (図-3、図-4)。 (検体数) 300 図-2 調査・指導体制 250 200 5 成績 150 (1)体細胞数 100 管内全体のペナルティ検出率は 14%から 10% 50 にまで減少した。また、1 農家当たりの平均検 0 H20 出回数は、指導前の 3.2 回から 2.3 回にまで減 H21 H22年度対象農家 H21年度対象農家 少した。 H22 乾乳前検査 図-3 細菌検査依頼の推移 (2)聞き取り調査 乳房炎乳の混入や簡易検査で気付かなかっ たなどの管理不足や大丈夫と思って混入した H20 SA CNS など人為的なミスが多く目立った(表-3)。 H21 H22 0% 20% SA CNS 40% レンサ球菌 (4)牛舎内風速測定 60% 大腸菌 80% その他 図-4 個体乳細菌検査結果 -2- 100% 分離陰性 指導開始 (回) 風速 1.5m/s 以下になると、乳牛はストレス を受けると報告されている。今回の調査から、 3.5 14 調査を実施したすべての農家で風速 1.5m/s 以 3 11.7% 12 2.5 10 下の場所が存在した(表−4、図−5)。 指導開始 (回) 16 2 10.0% 8 1.5 表-4 測定成績 6 送風機前 通 牛 路 50cm 1 管 内 4 県全体 床 0.5 2 130cm 0 0 H20 H21 H22 H20 H21 農家A 2.2∼5.7 1.4∼3.2 0.0∼0.4 0.0∼0.4 管内全体 農家B 2.2∼2.6 0.4∼4.7 0.0∼1.6 0.0∼1.3 図-6 ペナルティ検出率の推移 農家C 2.4∼4.3 0.0∼3.3 1.1∼2.8 2.3∼5.3 農家D 2.0∼5.3 1.0∼4.0 0.0∼2.3 0.4∼1.7 H22 農家個別 ・早期治療と的確な有効薬剤を使用 (単位:m/s) ・ペナルティ検出率は10.0%にまで減少 体細胞ペナルティ検出回数の減少 ・暑熱対策の必要性を認識 送風機前: 2.0∼5.3m/s 通 路:1.0∼4.7m/s 牛 床: 0.0∼5.3m/s ・硝酸態窒素濃度はすべて 検出限界以下 図-7 指導の成果 全ての牛舎でヒートストレス を確認 7 重点指導農家への対応 調査指導の結果、管内では以前より高品質乳 が生産されるようになったが、ペナルティが高 図-5 調査成績 率に検出される農家があり、個別指導を実施し 6 た。 指導の成果 (1)農家概要 調査後は調査農家ごとに風速が十分なとこ 重点指導農家の概要は表-5 のとおりで、平成 ろと不足している部分を色分けした資料を作 21、22 年度のバルク乳体細胞の成績では、7回 成し、農家に目視的に説明したところ、農家自 づつのペナルティが発生しており、特に梅雨時 身が暑熱対策の必要性を認識した。また、農家 期や季節の変わり目に多発していることが確 と一緒に暑熱対策を検討した結果、寒冷紗など 認された(表-5、図-8)。 を活用して暑熱対策を行う農家も認められた。 2 年間、聞き取り調査や迅速に細菌検査など 表-5 農場の概要 の継続した指導を実施した結果、乳房炎対策と して早期治療と的確な有効薬剤が使用される 飼養頭数 搾乳牛31頭 ようになった。そのため、年間の検出率は 10% 労働力 本人、両親の3名 にまで減少し、1戸あたりのペナルティ検出回 飼養形態 つなぎ牛舎 数も 2.3 回にまで減少した(図−6、図−7)。 搾乳方法 パイプライン 平均乳量 7,402kg/頭/年 (H22年10月∼H23年9月) -3- (千個/ml) 表-7 搾乳立会の結果 600 項 500 目 成績 搾乳前の準備 400 作業分担しているか 300 未実施 前搾りの実施 200 100 なし 乳頭のみ拭いているか ○ 搾乳前にペーパータオルなどで乳頭を乾かしているか × 搾乳手順と搾乳衛生 前搾り後1分前後でティートカップを装着しているか 0 4 10 4 H21 10 ライナースリップの有無 (月) H22 搾乳は5分前後で終了しているか クォーターミルカーを使用しているか 図-8 バルク乳体細胞数成績 ポストディッピング ○ なし ○ ○ スプレー (4)指導内容 (2)対策 前搾りを行わない場合、乳汁中にどのような 原因を調査するため、搾乳立会を実施した。 細菌が確認されるかを畜主に理解してもらう また、搾乳衛生指導や代謝プロファイルテス 必要があると考え、前搾り前後の乳汁の細菌検 トを行うとともに、ペナルティ額を試算し、そ 査を実施し、薬剤感受性結果とともに出現した の損失額について畜主に説明し、意識の改善を 菌の状況を目視的に確認してもらい、前搾りを 図った(表-6)。 実施することで、乳汁中の細菌数が著しく減少 することを理解させ、その重要性を再認識させ 表-6 指導強化農場への対応 た。 また、ブドウ球菌は、前搾りだけでは効果が 1. 搾乳立会の実施 無く、PL テスターなどの乳汁検査法を活用し異 2. 搾乳衛生指導 正しい搾乳手順の理解 細菌検査成績の目視確認 常乳の早期発見をするようにあわせて説明し た(図-9、図-10)。 3. 代謝プロファイルテストの実施 4. ペナルティ額の確認 (3)問題点 問題として、前搾りが未実施でポストディッ ピングは浸漬ではなくスプレーを使用してい ・前搾り前後の細菌数を目視的に確認、重要性を認識 た。畜主は前搾りの有効性は理解してしたが、 図-9 搾乳衛生の改善指導 (目視的確認) 清拭をおこなっていること、面倒くさいという ことから、実施していなかった(表-7)。 ブドウ球菌について 図-10 搾乳衛生の改善指導 (乳汁検査法の活用) -4- 認められ損失額は約 22 万円減少した(図-13、 (5)代謝プロファイルテスト 表-8)。 GOT は図-11 のとおり指導前は基準値を逸脱 する個体が確認されたが、乾乳期のボディコン (円) ディションスコアの改善や定期的な強肝剤の 16,000 投与などを指導した結果、現在では全ステージ 14,000 12,000 でほぼ基準値内で推移した。なお、その他の項 10,000 目については差は認められなかった(図-11)。 8,000 GOT 6,000 4,000 GOT 200 2,000 0 200 180 180 160 160 140 140 120 120 100 100 80 80 60 60 40 40 H21 H22 指導強化農場 20 20 H23 (∼11月) 対象農場全体 0 0 -100 0 100 200 300 400 -100 -50 0 改善指導前 (H21年度) 50 100 150 200 250 300 図-13 1頭当たりのペナルティ額 改善指導後 (H23年度) 表-8 ペナルティ額の試算 *その他の生化学検査成績に差は認められなかった ペナルティ額 ペナルティ単価×ペナルティ期間の総乳量(kg) 図-11 代謝プロファイルテストの成績 平成22年度 ペナルティ単価 3円/kg×3回 = 87,750円 〃 5円/kg×4回 =195,000円 (6)バルク乳検査成績 本年は9月末および 10 月末にペナルティが 損失額 282,750円 平成23年度 発生したが、梅雨時期や夏場のストレスの多い ペナルティ単価 時期のペナルティは認められなかった。また、 3円/kg×2回 = 58,500円 ペナルティ額の減少 224,250円 20 万個/ml 以下の回数が過去2年間と比較して 多くみられるようになった(図-12)。 8 まとめ 今回、バルク乳検査成績を利用した農家指導 (千個/ml) と暑熱対策、細菌検査成績を農家の目に見える 600 搾乳立会 500 形での指導を行った結果、管内酪農家のペナル 400 ティ発生率は 10%にまで低下し、より良質な生 300 乳が生産されるようになった。 200 また、搾乳衛生に問題のあった 1 農場におい 100 ても個別指導を行い、搾乳衛生の重要性を理解 0 4 6 8 10 H21 12 2 4 6 8 10 12 2 4 H22 6 8 10 してもらうことで、ペナルティ回数が7回から (月) 2回まで減少した。 H23 図-12 バルク乳体細胞数成績 今後も関係団体や診療獣医師と連携し、効率 (7)ペナルティ額の試算 的な農家指導を実施することで、生乳の品質向 当該農場の1頭当たりのペナルティ額は、昨 上を図りたいと考える。 年度までは、他の対象農家以上の損失額が発生 していが、本年度の損失額は大幅に減少した。 また、年間のペナルティ額は、表-7 に示すペナ ルティ単価とその期間の総乳量で試算した。当 該農場のペナルティ回数は、前年度は7回で、 約 28 万円の損失があったが、今年度は改善が -5-