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教育、保健・医療、放送 - JICA報告書PDF版
№ アフガニスタン国 カブール市緊急復興支援調査 (教育、保健・医療、放送) 事前調査報告書 平成 14 年4月 国 際 協 力 事 業 団 社 調 一 JR 02−108 序 文 日本政府はアフガニスタン・イスラム国暫定政権の要請に基づき、同国の首都カブール市にお いて長年の紛争により疲弊した社会経済面の復興に係る調査を実施することを決定し、国際協力 事業団がこの調査を実施することと致しました。 当事業団は、本格調査に先立ち、本件調査を円滑かつ効果的に進めるため、平成14年3月1日 から3月15日までの15日間にわたり、在アフガニスタン・イスラム国日本大使館 駒野 欽一 臨時 代理大使を団長とする事前調査団(I/A協議)を現地に派遣しました。 調査団は本件の背景等を確認するとともに、同国暫定政権の意向を聴取し、かつ現地調査の結 果を踏まえ、本格調査に関するI/Aに署名しました。 本報告書は、今回の調査を取りまとめるとともに、引き続き実施を予定している本格調査に資 するためのものです。 終わりに、調査にご協力とご支援を頂いた関係各位に対し、心より感謝申し上げます。 平成14年4月 国際協力事業団 理事 泉 堅二郎 目 序 次 文 調査対象地域地図 現地調査写真 事前調査の概要 ……………………………………………………………………………… 1 1−1 要請の背景 ………………………………………………………………………………… 1 1−2 事前調査の目的 …………………………………………………………………………… 1 1−3 事前調査団の構成 ………………………………………………………………………… 2 1−4 調査日程 …………………………………………………………………………………… 4 1−5 協議の概要 ………………………………………………………………………………… 8 本格調査への提言 …………………………………………………………………………… 21 2−1 対象地域の概要 …………………………………………………………………………… 21 2−2 各分野の現状と課題 ……………………………………………………………………… 21 第1章 第2章 2−2−1 教 育 ……………………………………………………………………………… 21 2−2−2 保健・医療 ………………………………………………………………………… 42 2−2−3 メディア・インフラ ……………………………………………………………… 51 2−2−4 経済インフラ ……………………………………………………………………… 71 2−2−5 難民、国内避難民(IDP)の帰還・再定住支援 ……………………………… 106 2−3 現地建設業者技術力調査 ………………………………………………………………… 113 2−4 調査の基本方針及び留意点 ……………………………………………………………… 116 2−5 調査対象範囲 ……………………………………………………………………………… 117 2−6 調査項目とその内容・範囲 ……………………………………………………………… 117 2−7 調査フローと要員構成 …………………………………………………………………… 121 付属資料 1.I/A、M/M…………………………………………………………………………………… 125 2.主要面談者リスト ……………………………………………………………………………… 134 3.Questionnaire(チェック・リスト) ………………………………………………………… 140 4.協議議事録 ……………………………………………………………………………………… 179 5.現地のコンサルタント、コントラクター、NGO等のリスト……………………………… 206 6.収集資料一覧 …………………………………………………………………………………… 241 第1章 1−1 事前調査の概要 要請の背景 (1) アフガニスタン・イスラム国(以下、 「アフガニスタン」と記す)では、1979年から繰り返 された紛争により、100万人以上の国民の生命が奪われ、約70万人もの人々が肉体的、精神的 な障害を負ったとされている。インフラ設備の多くは、戦争による被害や予算、技術者等の 欠如からその機能が停止している状態である。さらに、1999年から3年に及ぶ深刻な旱魃被 害が発生しており、同国の社会経済基盤は危機的状況に陥っている。 (2) 2001年12月22日のアフガニスタン暫定政権の発足を受け、我が国は経済協力調査団を同月 23日より現地に派遣し、関係7閣僚(外相、財務相、復興相、公共事業相、保健相、教育相、 高等教育相)と復興計画に関する協議を実施した。先方からは、特に、人道支援から復旧支 援、更に復興支援への継ぎ目のない我が国の協力につき要請があった。 (3) (2)の協議のなかで緊急開発調査の必要性が確認されたのは、教育、保健・医療、放送分野 等におけるサービス機会の回復・拡充であり、先方より実施に係る要請がなされた。これら の分野への協力の重要性は、緒方特別代表の同国訪問の際にも確認されている。 (4) なお、2002年1月に開催された「アフガニスタン復興支援国閣僚級会合」において、我が 国は「和平プロセス・国民和解のための支援」、「将来を担う人づくりに対する支援」を支援 方針とし、具体的に「地域共同体の再建」、「教育」、「保健・医療」、「女性の地位向上」、「地 雷・不発弾除去支援」、「メディア・インフラ」の各分野への協力を表明した。本調査は地雷 関連以外の5分野に寄与するものである。 1−2 事前調査の目的 本調査の目的は、先方暫定政権に要請内容の確認を行うとともに、現地踏査、資料収集、本格 調査の基本方針の協議、及び先方受入体制の確認を行うことである。また、その結果を受け、ア フガニスタン側の実施機関とI/A(Implementing Arrangement)の協議・署名を行うことである。 −1− 1−3 番号 事前調査団の構成 氏 名 担当分野 所 属 派遣期間 (dep.-arr.) 1 Kinichi KOMANO 駒野 欽一 Leader 総 括 Charge d’ Affaires ad Interim Administration 1/Marof Afghanistan 以後、現地 アフガニスタン臨時代理大使 滞在 2 Masami KINEFUCHI 杵渕 正巳 Sub Leader 副総括 Director, Country Planning, Economic 1/MarCooperation Bureau, 8/Mar Ministry of Foreign Affairs 外務省経済協力局国別計画策定室室長 3 Takanori JIBIKI 地曳 隆紀 Rehabilitation Planning Managing Director, 復興計画 Social Development Study Dep., JICA 国際協力事業団社会開発調査部部長 4 Eiji Technical HASHIMOTO Cooperation Planning 橋本 栄治 技術協力計画 1/Mar11/Mar Managing Director, 1/MarRegional Department IV (Africa, Middle East 8/Mar and Europe), JICA 国際協力事業団 アフリカ・中近東・欧州部部長 5 Akihiro TAKAZAWA 高澤 昭博 Grant Aid Cooperation Staff, Grant Aid Division, Economic 資金協力 Cooperation Bureau, Ministry of Foreign Affairs 外務省経済協力局無償資金協力課 1/Mar15/Mar 6 Masayuki EMOTO 江本 正行 Aid Coordination 援助調整 1/Mar11/Mar 7 Akira MURATA 村田 晃 Education Cooperation Deputy Managing Director, 1/Mar15/Mar Planning Institute for International Cooperation, JICA 国際協力事業団国際協力総合研修所次長 教育分野協力計画 8 Yoshikazu YAMADA 山田 好一 Director, Third Project Management Division, 1/MarEquipment 15/Mar Procurement Planning Grant Aid Management Dep., JICA 機材供与計画 国際協力事業団無償資金協力部 業務三課課長 9 Kazumasa ENAMI 榎並 和雅 Media Infrastructure Reconstruction Planning メディア・インフラ再 建計画 Engineering Controller, Engineering Administration Dep., NHK 日本放送協会技術局 技術主幹 1/Mar15/Mar 10 Osamu YAMADA 山田 理 Education & Medical Facility Reconstruction Planning 教育、保健・医療施設 再建計画 Senior Advisor, Institute for International Cooperation, JICA 国際協力事業団国際協力総合研修所 国際協力専門員 1/Mar11/Mar 11 Hiroshi TAKAHASHI 高橋 央 Health Cooperation Planning 保健・医療協力計画 Senior Advisor, Institute for International Cooperation, JICA 国際協力事業団国際協力総合研修所 国際協力専門員 1/Mar15/Mar Staff, Humanitarian Assistance Division, Multilateral Cooperation Department, Ministry of Foreign Affairs 外務省国際社会協力部人道支援室 −2− 12 Tomohiro ONO 小野 智広 Coordinator 調査企画/事前評価 Staff, First Development Study Division, Social Development Study Dep. , JICA 国際協力事業団社会開発調査部 社会開発調査第一課職員 1/Mar15/Mar 13 Ken KUMAZAWA 熊沢 憲 Economic Infrastructure 経済インフラ ALMEC CORPORATION 株式会社アルメック 1/Mar8/Mar 14 Kazuhiro ABE 阿部 一博 Medical Equipment Planning 医療機材計画 International Techno Center CO., Ltd. 株式会社国際テクノ・センター 1/Mar15/Mar 15 Hikaru NISHIMURA 西村 光 Road Maintenance Equipment Planning 道路整備機材計画 CENTRAL CONSULTANT INC. セントラルコンサルタント株式会社 1/Mar15/Mar −3− 1−4 調査日程 月日(曜) 行 程 Mar.1(Fri) 13:55 Lv. Tokyo (PK853) 21:50 Ar. Islamabad Mar.2(Sat) (1) Meeting with the Japanese Embassy and the JICA Pakistan Office (2) Collecting safety information from UNOCHA (3) Information Collecting at ANCB Mar.3(Sun) Lv. Islamabad (UN aircraft) Ar. Kabul Mar.4(Mon) (1) Meeting with the Ministry of Foreign Affairs (Receiving visa, requesting arrangements for appointment with related organizations) (2) Meeting with UNDP (3) Meeting with the Ministry of Education (4) Meeting with the Ministry of Health Mar.5(Tue) (1) Meeting with the Ministry of Higher Education (2) Meeting with the Ministry of Information and Culture (3) Meeting with other related organization Mar.6(Wed) (1) Field Survey (Broadcasting station, Hospital, University, Primary schools, etc.) Mar.7(Thu) (1) Discussion on I/A and M/M 宿泊地 Islamabad Islamabad Kabul Kabul Kabul Kabul Kabul (For Mr. KINEFUCHI and Mr. HASHIMOTO) Lv. Kabul (UN aircraft) Ar. Islamabad (1) Report to Japanese Embassy and the JICA Pakistan Office 22:55 Lv. Islamabad (PK852) Mar.8(Fri) (For the other member) (1) Field Survey In-flight (For Mr. KINEFUCHI and Mr. HASHIMOTO ) 12:50 Ar. Tokyo Mar.9(Sat) (1) Signing I/A and M/M Mar.10(Sun) (For the first group) Lv. Kabul (UN aircraft) Ar. Islamabad (1) Report to Japanese Embassy and the JICA Pakistan Office Lv. Islamabad (PK852) 22:55 (For the second group) (1) Information Collecting at ACBAR and other related NGOs Mar.11(Mon) (For the first group) Ar. Tokyo 12:50 (For the second group) (1) Meeting with the other donors, NGOs Mar.12(Tue) (1) Meeting with the other donors, NGOs Mar.13(Wed) Lv. Kabul (UN aircraft) Ar. Islamabad (1)Information Collecting Mar.14(Thu) (1) Report to the JICA Pakistan Office 22:55 Lv. Islamabad (PK852) Mar.15(Fri) 12:50 Ar. Tokyo Tokyo −4− Kabul Kabul In-flight Kabul Tokyo Kabul Kabul Islamabad In-flight Tokyo 〈事前調査日程(詳細)〉 ※時刻に重複等があるのは、団内で手分けして面談に望んだため。 月日(曜) 行 3月4日(月) 10:00 程 外務省次官 13:30 アミン教育大臣 15:00 シディック保健大臣 16:00 ノート・オズビーUNDP次席代表 3月5日(火) 10:00 ファイェーズ高等教育大臣 10:30 公共事業大臣 11:00 ムバーレズ情報文化省次官 12:00 テレビ機材引き渡し式典 14:00 パイマン計画省次官 15:00 シャーヒディ復興省次官 16:00 アルサラ財務大臣 17:00 フィリップ・グランデUNHCR代表 3月6日(水) 09:00 10:00 HABITAT(水道、道路担当) UNESCO(放送担当) 保健・医療分野関係者 (ラフマン・ミナ病院、チャハレストン病院、結核病院な ど視察) 放送分野関係者 (カブール・テレビ局など視察) 13:30 ラスール民間航空大臣 13:30 女性大臣 16:00 調整庁ガーニー氏 16:00 UNDP 3月7日(木) 12:00 14:00 UNSMA 計画省 3月8日(金) 現地視察 3月9日(土) 09:30 11:00 3月10日(日) 10:00 12:00 I/A協議 I/A署名(外務省において) Dfid UNSMA 3月11日(月) 引き続き協議、現地視察 3月12日(火) 駒野臨時代理大使への報告 −5− 〈保健・医療チーム日程〉 月日(曜) 行 程 3月1日(金) 14:00 21:50 成田発 イスラマバード着 3月2日(土) 15:00 日本大使館表敬・協議 3月3日(日) 10:20 14:30 16:00 UNHAS イスラマバード発 カブール着 3月4日(月) 09:00 10:30 15:00 16:00 燈台(NGO) 旧National Tuberculosis Institute (NTI) MoPH UNDP 3月5日(火) 08:40 10:00 13:00 14:00 16:00 燈台(NGO) MoPH Ali Abad Hospital Antani Hospital Med Air 3月6日(水) 08:40 09:00 10:00 15:00 燈台(NGO) National Tuberculosis Institute (NTI) Antani Hospital Wazir Akber Khan Hospital 3月7日(木) 09:00 11:00 12:00 MoPH結核担当 Jamhoriat Hospital Antani Hospital 3月8日(金) 09:00 11:00 旧National Tuberculosis Institute (NTI) Antani Hospital 3月9日(土) 10:00 15:00 17:00 National Tuberculosis Institute (NTI) Peshawar Medical Service Shuhada Organization 3月10日(日) 08:40 09:00 10:00 11:00 MoPH Wazir Akber Khan Hospital Jamhoriat Hospital Intermediate Medical School 3月11日(月) 10:00 MoPH 3月12日(火) 09:00 10:00 10:30 11:00 14:30 National Tuberculosis Institute (NTI) Wazir Akber Khan Hospital MoPH Intermediate Medical School MoPH 3月13日(水) 11:00 12:30 カブール発 イスラマバード着 3月14日(木) 22:55 イスラマバード発 3月15日(金) 12:50 成田着 −6− 〈経済インフラチーム日程〉 月日(曜) 時 間 訪 問 先 3月4日(月) 10:30-11:30 航空・観光省 16:00-17:00 UNDP 面 談 者 訪 問 目 的 副大臣 省の組織、事業概要等の聞き取り 現地副代表 緊急復興プロジェクト内容の聞き取り 3月5日(火) 10:00-11:00 公共事業省 大臣、副大臣、ア 大臣表敬、省の組織、概要等の聞き取り、 ドバイザー 幹線道路の状況確認 3月6日(水) 09:00-10:00 UN HABITAT 技術アドバイザー HABITAT実施プロジェクトの確認 13:30-14:00 航空・観光省 大臣、副大臣部 14:30-15:30 カブール市役所 副市長、計画部部 市の事業概要、他援助機関のプロジェク 長 ト確認 16:00-17:00 ペシャワール会 現地代表、日本人 会の活動、井戸掘りプロジェクトの実施 スタッフ 状況確認 3月7日(木) 09:00-10:00 水力電力省 大臣表敬、航空協定現状確認 副大臣、計画部部 省の組織、事業概要等の聞き取り 長 11:00-12:00 航空・観光省 カブール空港長 カブール空港施設 14:00-15:00 水力電力省 計画部部長 援助要請内容の確認 16:00-17:00 灌漑・水資源省 副大臣 省の組織、事業概要等の聞き取り 3月8日(金) 09:00-16:00 現地踏査 3月9日(土) 08:30-09:00 公共事業省 道路、電力施設などインフラ状況現地踏査 副大臣、アドバイ 援助要請内容の確認 ザー 09:00-10:00 水道下水局 局長 事業概要等の聞き取り 11:30-12:00 航空・観光省 副大臣 援助要請内容の確認 12:00-13:00 運輸省 副大臣、バス公社 事業概要等の聞き取り、援助要請内容の 総裁等 確認 15:00-16:00 軽工業省 大臣、副大臣等 大臣表敬、事業概要等の聞き取り 16:00-16:30 公共事業省 大臣、副大臣 援助要請内容の確認 18:00-19:00 ADB 道路担当者 ADB調査団の調査内容聞き取り 3月10日(日) 08:30-09:30 水力電力省 10:30-11:30 Dfid 計画局局長、訓練 電気訓練センター視察 センター長 所長 Dfidの援助内容確認 12:00-13:00 住宅・建物・ 都 副大臣、アドバイ 事業概要等の聞き取り、援助要請内容の 市計画省 ザー 確認 14:00-15:00 灌漑・水資源省 水利局局長、深井 援助要請内容の確認、材料製作工場視察 戸開発局局長等 16:00-17:00 航空・観光省 副大臣、ICAO代表 援助要請内容の確認 3月11日(月) 09:00-10:00 カブール市役所 計画局副局長、ワ 援助要請内容の確認、ワークショップ視 ークショップ長 察 11:30-14:00 公共事業省 副大臣、ワークシ ワークショップ視察 ョップ長 11:00-12:00 バス公社 バス公社総裁 事業概要等の聞き取り、ワークショップ 視察 15:00-16:00 灌漑・水資源省 水利局局長 援助要請内容の最終確認 15:00-16:00 軽工業省 副大臣 工場視察 計画局局長 援助要請内容の最終確認 3月12日(火) 08:30-09:00 カブール市役所 11:00-12:00 航空・観光省 副大臣、ICAO代表 援助要請内容の最終確認 −7− 1−5 協議の概要 本調査団は、3月12日アフガニスタン暫定政権(調整庁、計画省、復興省、教育省、保健省、 情報文化省、公共事業省等)との協議を終了し、各省次官との間でI/A及びM/Mの署名を了 した。協力内容については、時間が限られており、更なる検討が必要と判断されることなどの理 由から明記するのは避けたが、現時点で想定される我が国の協力概要は以下の表1−1のとおり である(次頁以降の各セクター内容も参照)。 表1−1 ステージ 分野 アフガニスタン復興支援プロジェクト概要案 緊 急 短・中期 ・衛星を用いた放送実験 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・テレビ塔の建設 ・機材供与 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・Aba zar Ghafari小・中・高校改修 ・Qlah Bakhtiar小・中学校改修 ・Minwis Hotaky小・中学校改修 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・その他の小・中・高校再建 ・カブール大学国際協力研修センター建設 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) 保健・医療 ・国立結核研究所及びカブール結核研究所 (Dar la man Campus)の本館修復 ・ポリ・クリニック(計20か所程度)の井戸 の掘削 ・Emergency Medical Kitの供与 ・医療機材供与 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・医療機材整備計画作成 ・国立結核研究所及びカブール結核研究所 (Dar la man Campus)のサナトリウム(療 養所)再建(治癒後の職業訓練を含む) ・その他の保健・医療施設の再建 ・麻薬対策 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ジェンダー ・Afshar女子小・中・高校修復(Grade1∼6 まで共学、それ以上Grade12まで女子中・高 校) ・Durkhnae女子小・中・高校修復(Grade1∼ 6まで共学、それ以上Grade12まで女子中・ 高校) ・Sufy Aslam女子小・中学校改修(Grade1∼ 6まで共学、それ以上Grade9まで女子中学 校) ・Malali産科病院への医療機材供与 ・母子保健クリニックの井戸の掘削、医療機 材供与 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・カブール大学女子寮再建 ・コンピューター・トレーニング ・縫製技術トレーニング(ユニフォーム作り 等) ・伝統織物製造支援(カーペット等) ・女性のincome generation ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・空港のセキュリティ機材供与 ・大統領府プレス・センターへの機材供与 ・給水車供与 ・建機供与 ・バス供与 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) ・市南西部地域復興計画、緊急公共交通改善 計画作成 ・空港整備 ・建機供与 ・上下水道整備 ・交通施設、機材供与 ・灌漑施設整備 ・技術協力(専門家派遣、研修の実施等) 放 教 送 育 インフラ等 −8− 教 育 分 野 1.緊急支援 教育省関係分 1) Afshar女子小・中・高校修復(小1∼高3)(ジェンダー配慮案件) 小1∼小6男女共学、中1∼高3女子校、3階建て36教室修復 2) Aba Zar Ghafari小・中・高校修復(小1∼高3) 小1∼高3男女別学、1階建て30教室修復(新築) 3) Qlah Bakhtial小・中学校修復(小1∼中3) 小1∼中3男女別学、15∼20教室新築 4) Minwis Hotaky小・中学校修復(小1∼中3) 小1∼中3男女別学、1階建て25教室修復 5) Sufy Aslam女子小・中学校修復(小1∼中3)(ジェンダー配慮案件) 小1∼小6男女共学、中1∼中3女子校、1階建て44教室修復 6) Durkhany小・中・高校修復(小1∼高3)(予算に余裕ある場合取り上げる) 小1∼小6男女共学、中1∼高3女子校、2階建て28教室修復 その他:技術協力(専門家派遣、研修員受入れ) 2.短・中期支援 教育省関係分 1) Rahman Babar男子小・中・高校修復(小1∼高3) 2) Koshar Khan男子小・中・高校修復(小1∼高3) 3) Abul Hanifa小・中・高校修復(小1∼高3) 4) Ariana Afghan High School小・中・高校修復(小1∼高3) 5) Sayed Jamarden教員養成校 以上、一般無償資金協力での対応を検討する。 その他:技術協力(専門家派遣、研修員受入れ) 高等教育省関係分 1) カブール大学女子学生寮修復(ジェンダー配慮案件) 2) カブール大学国際協力研修センター建設 以上、一般無償資金協力での対応を検討する。 その他:技術協力(専門家派遣、研修員受入れ) −9− 保 背 健 分 野 景 アフガン暫定政権の発足以来、ISAF等の貢献によりカブール市内の治安は改善した。 カブール市の保健分野における、緊急・復旧・復興支援活動を開始するにあたり、最も緊急の優 先課題を実地調査した。 実地調査 保健分野の専門家(高橋、阿部)がカブール市内の主要な保健医療施設を訪問して、優先度の 高い事案を選択・評価した。過去に日本から支援で立ち上げられた施設については、特に修繕と 復旧の可能性について調査した。 結 果 保健分野において優先度の高い事案として、以下のものがあげられた。 1.アフガニスタン保健省より要請のあった、結核対策プログラムへの包括的な支援 2.保健大臣より言及のあった市内総合病院への医薬品供給と医療機材の強化 3.市内の総合病院、総合診療センター(ポリクリニック)、母子保健センターの機能強化 4.保健医療従事者(特に女性)の育成支援 提 言 上記の優先課題に対して、緊急開発調査並びに緊急無償援助を利用して、以下の対応を緊急に 実施することを提言した。 1−1.市内南西部のダラマン・キャンパスに残存する国立結核研究所とカブール結核研究所の 緊急修繕 1−2.国立結核研究所の検査技師(1∼3名)の日本での短期研修 1−3.保健省と国立結核研究所の結核専門家(各1名)の日本での結核対策協議 2.カブール結核研究所を含む4病院への重点的な医薬品・医療機材の供与 3.上記以外の総合病院、総合診療センター、母子保健センターへの基本的医療機材と医薬品供 与、並びに安全水と発電設備の強化 4.医療短大への医学教材の供与 −10− 放 概 送 分 野 要 放送は、国家安定、国民の教育レベル向上等にとって極めて重要なメディアである。放送のう ちラジオについては、欧米各国からの支援が期待されるため、我が国はテレビ放送を中心に支援 する。特に今回の支援では、6月25日に予定されている国民会議「Loya Jirga」(ロヤ・ジルガ) の模様をアフガニスタン全土で見られるようにする緊急的な支援と、爆撃で破壊された送信所の 復旧や老朽化した放送機材の供与を行う。また、日本における放送技術、番組制作の研修に人材 を受け入れる。 アフガニスタンにおけるテレビ放送の現状 国営ラジオ・テレビ放送局であるRadio&Television Afghanistan(RTA)は、カブール市に本局、 5つの大きな都市に地域放送局をもつ。数年前まではロシアの通信衛星を使って地域放送局に番 組を送っていたが、パラボラアンテナが破壊され、現在はVTRテープの運搬により番組配信して いる。 ・カブール放送局:カブール市における視聴者世帯数は、10%以下。裕福な家庭は、外国からの 衛星放送を受信している。RTAは、毎夜4∼5時間、ニュース中心に放送している。市の中心 にあるアサマイ山の頂上にある地上テレビ送信所は、完全に破壊されている。現在、イランの 支援による暫定的な小電力送信機で細々と放送している。演奏所における番組制作機器は、1978 年に日本の支援により導入した機器がいまだに使われているが、老朽化しており頻繁に故障し ている。 ・地域放送局:各局とも日に2時間程度放送している。自局の番組とカブール放送局等からの番 組を半々で放送している。地方では、各家庭で持っていた受信機はタリバン時代に破壊され尽 くしており、視聴者は極めて少ない。また、各地域局の制作・送信設備もロシア製の古いもの で、故障がちであるとともに、100Wという小電力で放送している。 諸外国の支援の動向 英国、フランス、イタリア、ドイツ、デンマーク、ロシア、イラン、米国、UNESCO、アジア 放送連合(ABU)など多くの国々の調査団が毎日のようにRTAを訪れ、支援の申し入れをしてい るようである。そのなかで、イランは上記のようにいち早くテレビ送信機とアンテナを供与し、 ラジオも500kWの送信機を供与しようとしているが、反米プロパガンダになるとしてRTA側は敬 遠している。また、英国BBCはジヤーナリストの研修を現地で行ったり、放送分野として100万ポ ンドの支援金を支払うなど積極的である。UNESCOやABUなどは、番組提供や人材育成のための −11− 研修を提案している。 機材設備面での支援についてRTA側は、ラジオは60数年前にドイツの援助で、テレビは日本の 援助で進めてきたことから、この関係を大事にしたい意向である。特に日本からの援助は積極的 に受け入れたい。ラジオについては、どこからの支援を受けるか未定とのこと。 支援策 ・緊急開発調査:国民会議「Loya Jirga」(ロヤ・ジルガ)の中継を中心に、カブール放送局から 通信衛星を使って、アフガニスタン全土及び難民のいる隣国に放送する。また、地域放送局で は衛星からの電波を地上波で再送信する。カブール市の送信状態も不安定なことから、簡易な 地上送信機を設置する。受信可能な世帯が少ないことから、衛星受信機とビデオプロジェクタ を映画館などに設置する。これらは、試験放送の位置づけとし、必要機材はリースで行う。試 験放送の結果を、一般無償での本格支援に反映させる。 ・一般無償:通信衛星へのアップリンク設備の本格整備や老朽化した番組制作機器、電源空調設 備の供与、カブール市の送信所の復旧を行う。なお、通信衛星の使用料についてはRTA自らが 工面して支払うとの約束を取り付けている。 ・技術協力:日本で行われる6月下旬からの放送技術研修、番組制作研修(いずれも約9週間) にRTAから各1名を受け入れる。 −12− 経済インフラ 1.公共事業省(Ministry of Public Works) (1) 組織の概要 公共事業省は、大臣、副大臣2名、アドバイザー3名、7部局、6公社で構成される組織 で、全国の道路(ただし、カブール州内のカブール市域はカブール市が担当)、上下水道、営 繕、集合住宅の建設、維持補修を行っている。職員は約5,000人。 (2) 現在の状況 ・家具、機器が非常に足りない状況で、パソコンは大臣室の1台に限定されている。 ・道路は内戦により疲弊しており、主要幹線道路の多くは緊急の補修が必要であり、また、 主要幹線道路上の橋梁の多くは、内戦時に爆破され、簡易橋で通行を確保している状況で ある。 ・建設機械に関しては、内戦時にワークショップとともに大部分が破壊され、現在は臨時の ワークショップにわずかな数の建設機械を保有しているのみであるが、それら現有の機械 もスペアパーツの欠如から使用不可能となっている。現在の臨時ワークショップは面積が 狭く、当面の使用には破損機械の撤去が必要。一方、カブールワークショップの再建には、 周辺地域の治安回復が前提。 ・既存の日本製ダンプ3台(日産製で、一部のスペアパーツ不足で使用不可)の有効利用の ため、当該車両のスペアパーツ供与も考慮すべきか? ・カブール市内の上水道は、上水道は地区によって未整備で、井戸に頼っている地域も多い。 上水管敷設については、KfWがコミット済み。 ・カブール市内の下水道は、未整備の状態。 (3) 想定される援助形態 1) 無償資金協力 a)短 期 ・カブールワークショップへの建設機械(道路維持補修機械)及びワークショップ用機 器供与 ・公共事業省への機器供与(パソコン、コピー機等) b)中長期 ・カブールワークショップの再建 −14− 2) 開発調査 a)中長期 ・他のドナーが手を付けない幹線道路改良 F/S(危険度が下がるという前提) 3) 技術協力 ・研修員受入れ ・ワークショップのメカニックのパキスタンにおける第三国研修 ・短期専門家派遣(道路維持補修、建設機械) 2.運輸省(Ministry of Transport) (1) 組織の概要 運輸省は、大臣、副大臣2名、7部局、4公社で構成される組織で、カブール市内及び都 市間のバス輸送、都市間のトラック輸送の管理、並びに自家用車、タクシーを含む車両登録 を行っている。人員は省全体で3,000人、その他バス公社には200人のメカニック、100人のド ライバーがいる。 (2) 現在の状況 ・カブール市内では、1991年までは800台のバスとその他トロリーバスが提供されていたが、 内戦によるバスの破壊等で、現在は70台のバス(インド製TATAが主体)で20路線でのサ ービスに限定されている。 ・その他、朝及び午後の出勤・退勤時には、13の省の職員送迎用にバスを提供している。 ・インドが50台のバスを供与する話がある。 (3) 想定される援助形態 1) 無償資金協力 a)短 期 ・バス公社(National Bus Company)へのバス及びワークショップ用機器供与 2) 開発調査 a)中長期 ・カブール市内公共輸送改善計画 3) 技術協力 ・研修員受入れ −15− 3.民間航空省(Ministry of Civil Aviation) (1) 組織の概要 民間航空省は、大臣、副大臣2名、関係部局で構成され右組織で、カブール空港及び全国 の空港の運営・管理を行っている。 (2) 現在の状況 ・カブール空港は、30年前に旧ソ連によって建設されたターミナルビルをはじめ各種施設の 老朽化・破壊が著しく、ISAFにより滑走路、誘導灯等の修復並びに消防車の貸与により、 軍使用レベルで当面の運動を確保している。 ・インドとは航空協定を締結し、また、パキスタン、イラン、オーストリア等との航空協定 の交渉中。また、巡礼からの帰国用には、サウディ・アラビアからチャーターしたB747が 使用されている。 ・ICAOの専門家が入り、当面B747の運行可能な最低レベルのための空港施設、機材のリハ ビリ計画を立案。この計画に基づき、世界銀行(世銀)、アジア開発銀行(ADB)が協力予 定。 (2) 想定される援助形態 1) 無償資金協力 a)短 期 ・冬季安全確保用機材(建設機材等)及び空港保安用機器供与 b)中長期 ・空港ターミナル改修計画(新ターミナル建設) 4.電力省(Ministry of Water and Power) (1) 組織の概要 電力省は、大臣、副大臣2名、7部局、5公社で構成される組織で、全国の電力供給を行 っている。職員数は6,581人で、うち3,500人が技術関係。 (2) 現在の状況 ・カブールへの給電に関しては、3か所の水力発電所、2か所のガスタービン発電所から供 給されているが、1か所のガスタービンはガスの供給ストップで未利用、もう1か所のガ スタービンも非常用としてディーゼルを使用している。 ・既存の水力発電所はリハビリが必要。また、将来の電力需要に対応するため、新たに2か 所のダム建設の計画がある。 −16− ・高圧線に関しては、1系統が完全に機能していないが、この系統に関してはKfWが援助す る。市中の低圧電線に関しては、多くが切断されている。 ・市内の3か所の変電所のうち、完全に機能しているのは1か所のみ。その結果、電線の切 断と相まって、カブール市内で電気が供給されているのは50%に限定されている。 (3) 想定される援助形態 1) 無償資金協力 a)短 期 ・電気工事関連機材(建設機械等)供与 ・電気工訓練センター及び設計公社用機器供与 ・高圧線、定圧線用ケーブル供与 ・変電所、分電施設用変電機器供与 2) 開発調査 a)中長期 ・ダム建設計画 F/S 3) 技術協力 ・研修員受入れ ・専門家派遣 5.灌漑・水資源省(Ministry of Irrigation and Water Resources) (1) 組織の概要 灌漑・水資源省は、大臣、副大臣2名、アドバイザー2名、14部局、2公社で構成される 組織で、全国の灌漑用施設の建設、維持管理を行っている。 (2) 現在の状況 ・アフガニスタンは農業国であるが、5年前に最大の旱魃の被害を受け、それ以来、毎年旱 魃が発生し、農業生産量は以前の半分に落ち込んでいる。 ・旱魃の主な原因は、冬季における山岳部の降雪量の減少であるが、同時に内戦中に大部分 の灌漑施設が破壊されたことが旱魃被害を大きくしている。 ・既に、日本大使館宛に灌漑施設リハビリのプロジェクトの要請書を提出(うち1案件のみ カブール州内) −17− (3) 想定される援助形態 1) 無償資金協力 a)短 期 ・灌漑施設建設用建設機械等並びに資材供与 2) 開発調査 a)中長期 ・灌漑用施設建設計画 F/S 3) 技術協力 ・研修員受入れ ・専門家派遣 6.住宅・建物・都市計画省(Ministry of Housing,Building and Town Planning) (1) 組織の概要 住宅・建物・都市計画省は、大臣、副大臣1名、アドバイザー1名、6部局で構成される 組織で、都市部の都市計画作成、建築関係の規制等を行っている。職員数は1,000人。 (2) 現在の状況 ・カブール市の都市計画については、同省が計画を立案し、カブール市が実施する。 ・難民帰還対策として、東部及び北部シェルター用施設の設置を検討している。 (3) 想定される援助形態 1) 開発調査 a)中長期 ・カブール市内緊急土地利用計画及び南部地域復興計画立案 2) 技術協力 ・研修員受入れ ・専門家派遣 7.軽工業食料省(Ministry of Light Industry and Food) (1) 組織の概要 軽工業食料省は、軽工業の育成・監督を行っている。 −18− (2) 現在の状況 カブール市内の工場の多くは内戦により破壊され、再建が必要。また、外国からの投資誘 致が課題。 (3) 想定される援助形態 1) 技術協力 ・研修員受入れ 8.カブール市(Kabul Municipality) (1) 組織の概要 カブール市は、市長、副市長4名、13部局で構成される組織で、カブール市及びカブール 州内の道路(道路に関してはカブール市内に限定)、建築関係の建設及び維持補修等を行って いる。 (2) 現在の状況 ・カブール市内の道路に関しては、一部幹線道路以外は破損がひどく、特に地区内道路の多 くは未舗装の道路が多い。 ・GTZがアスファルトプラント及びクラッシュングプラント1基ずつの供与をコミット。 ・既存橋梁の修復は緊急ではないが、新たに1橋の建設を計画中。 ・南部地域にICRCが6,000戸の難民帰還用住宅建設をコミット。 (3) 想定される援助形態 1) 無償資金協力 a)短 期 ・カブール市内道路維持補修用建設機械及びワークショップ用機器供与 2) 開発調査 a)中長期 ・カブール市内緊急土地利用計画及び南部地域復興計画立案 ・カブール市内緊急交通管理計画立案 ・カブール市内公共輸送改善計画 3) 技術協力 ・研修員受入れ ・ワークショップのメカニックのパキスタンにおける第三国研修 −19− ・短期専門家派遣(道路維持補修、建設機械) 9.協力に関しての留意点 ・各ドナーとの調整に関して、それぞれオファーしているものの、ほとんどは実現化に至って いないとのことであり、かつ、援助を必要とするコンポーネントはたくさんあることから、 先にコミットする国を歓迎するとのことである。ついては、開発調査、無償資金協力、技術 協力を組み合わせ、まず早急に必要な機器の供与等から開始し、ここ10年間くらいは切れ間 のない援助が必要と思われる。 ・役所のインフラ整備(建設機材、コンピューター、バス供与等)のインスチィチューショナ ル・ビルディングを期待する役所がほとんどであった。共通するコンポーネントは一括し、 同規模をパッケージにし、なるべく早い時期に供与することも一案と思われる。ただし、各 役所から要望されているバス等については、以後のサステナビリティー(メンテナンス、オ ベレーション)を考慮し、国営バス会社に集約する工夫が必要である。 ・いずれの役所も、日本の技術力に期待しており、JICAの研修員受入れ、専門家派遣は有効で あると思われる。 −20− 第2章 2−1 本格調査への提言 対象地域の概要 カブール市は、アフガニスタンの首都である。地理的に、ヒンドゥー・クシ山脈の南麓に位置 し、中央アジア∼インド間の通商上の要地に位置している(北緯34度33分、東経69度13分、標高 1,791m)。人口は1988年当時、142万4,000人という記録が残っているが、現在は200万人以上が居 住しているといわれている。 首都ということもあり、各民族が混在している。主要な民族は、パシュトゥーン人、タジク人、 ハザラ人、ウズベク人である。 高原上に位置しているため、夏季は過ごしやすく、紛争以前は著名な避暑地であった。 「中東の パリ」と呼ばれていた時代もあった。ただし、冬季は気温が氷点下になり、厳しい寒さが到来す る(事前調査直前に−10℃を記録していた日もあった)。1961∼1990年平均では、1年を通しての 最高気温が25.1℃、最低気温が−1.8℃で、年平均が12.5℃であった。また同様に、雨量に関して は1年の平均が294.2mmで、最も多いのが3月の73.1mm、最も少ないのが6月の1.1mmであった。 2−2 各分野の現状と課題 2−2−1 教 育 (1) 教育施設 カブールには教育省管轄の後期中等学校以下の学校が158校あるといわれている。内戦 により、特に市南西部地域で校舎の破壊が甚大であるが、市北部では被害は大きくはない ようにみられた。本調査では教育省初等教育局副局長(Deputy Director of Primary School) の案内で、主として市の南西部の学校を現地調査した。 本調査により、カブールの初等・中等教育施設を、構造別に大きく分けて以下の3つの タイプに分類することができた。 1) 鉄筋コンクリート造 比較的新しい時代に建設されたものと考えられ、学校を用途として建設されたもので ある。構造計算などを行って設計されたと考えられる。通常3階建て中廊下式で、内部 にトイレ等の設備を有する。内戦により損傷を受けているとはいうものの、主要構造部 は比較的堅牢な状態で残っており、破壊された積石造の内外壁を改修し、電気・給排水 設備を整えることにより、そのまま使用することは可能であると考えられる。 2) 積石造(焼成レンガ造) かなり以前(50年以上前と考えられる)に建てられたものが多く、もともと学校の用 途を目的として建設されたものかどうかは不明である。主要構造部である壁は焼成レン −21− ガによる積石造であり、壁厚も厚い。しかし内戦により、壁に大きな穴が開いたり、一 部崩れかかっているものも見られ、また床や屋根スラブ等は老朽化が激しく、全般的に みて損傷の大きなものは、修繕を加えたとしても教室として今後長期的に使用するには 危険が伴うと考えられる。 3) 積石造(泥レンガ造) 日干しレンガを積み上げ、外側は仕上げに泥を塗り固めている。屋根は梁間方向に丸 太を渡し、その上に泥を入れて架構する。構造耐力上平屋造である。土間は通常土のま まが多く、降雨時には湿ってしまう。応急的に復旧されたものの多くはこのタイプであ り、あくまでも現地の廉価な在来構法である。 積石造である、2)、3)については、構造上窓が小さく、内部の自然採光は十分では ない。また、3)では降雨により土間が湿り、そこに直接座って授業を受ける光景も見ら れ、全般的にみてこれらの教室の現状は、教育環境としては必ずしも適当とはいえない。 2)については、損傷が軽微であれば、改修により再利用可能であると思われるが、現 在我が国にはこうした構造の学校はほぼ皆無であり、本邦コンサルタントにはその技術 的判断が難しい面もあると思われる。よって、その必要がある場合、判断にあたっては 現地エンジニアとの協議が必要と考えられる。 なお、1教室当たりの面積については、2)、3)については特に決まった広さがあるわ けではないが、学校の用途として設計されている、1)については約42㎡程度であり、お よそ1クラス当たり35名の生徒を収容することを念頭に置いたものと考えられる。 調査対象校のなかから緊急開発調査による緊急リハビリ事業の対象として選定した6 校の概要については、表2−1のとおりである。 表2−1 緊急リハビリ事業の対象として選定した6校の概要 グレード M F Durkhnae High School 1∼6年 1∼12年 Abu Zar Ghafari High School 1∼12年 1∼12年 Afshar High School 1∼6年 1∼12年 Qlah Bakhtiar Secondary School 1∼9年 1∼9年 Minwis Hotaky Secondary School 1∼9年 1∼9年 Sufy Aslam Secondary School 1∼6年 1∼9年 学 校 名 1 2 3 4 5 6 教員数 M F 16人 64人 25人 59人 0人 95人 10人 33人 4人 48人 15人 75人 ― ― 22 生徒数 M F 900人 1,200人 2,500人 2,500人 200人 2,500人 500人 1,000人 1,520人 780人 650人 950人 教室 の 構造 28教室 2) (13は使用不可) 3) 26教室 2) 教 室 数 36教室 1) 4教室 +屋外スペース 25教室 3) 44教室 2) 2) なお、選定に際しては以下の条件を勘案した。 ・3月下旬に授業の始まる学校であること ・比較的破壊の激しい市南西部にあること ・破壊によりまともな教室が確保されていないこと ・現地で生徒・教員が確認できたこと ・工事に必要なアクセスが確保されていること ・新築再建の場合は、十分な敷地が確保されていること ・改修の場合は、工事期間中仮設教室が必要ではあるものの、冬までに工事が完了する 見込みのあるもの ・緊急開発調査案件として、著しく規模の大き過ぎないもの(予算、工期上の制約のた め) ・土地は教育省のものであること また表2−2の特殊校2校については、教育省より再建の協力要請が述べられたが、 具体的な規模(面積、教室数等)については触れられなかった(教育省でも正確に把握 していないと考えられる)。いずれも地方からの生徒を受け入れる全寮制の学校であり、 校舎の破壊により以前から機能は停止していたと考えられる。 また他の一般校と異なり、 3月下旬に再開しないこと、またいずれも規模が大きく改修に費用がかかり過ぎること などから、緊急開発調査での復旧には適さないと判断される。 表2−2 教育省より再建の協力要請があった特殊校2校 学 校 名 1 Rahman Babar High School 2 Koshar Khan High School グレード M F 1∼12年生 (男子のみ) 1∼12年生 (男子のみ) 構 造 教室、その他の施設とも2) 教室は1)、その他の施設は2) なお、初等・中等学校の施設再建への他ドナーの動向については、一部軽微な改修等 への協力が実際に行われているものの、恒久的な教室の新築を含んだ本格的な再建は始 まっていない。また、そうした協力内容の実施計画があることも確認できなかった。 a) Kabul Higher Teachers’ Collage 教育省教員養成局局長(Director of Teachers Training Institute)より、再建について の要望があった。本校はカブール大学に近い所にある教員養成校で、建物は100年近く ― ― 23 経った老朽化した建物であり、損傷もかなり激しいため現況を利用し修復で対応する には無理があり、再建は新築が主になると思われる。しかし局長の説明では、構内に 建物が何棟あるのかはっきりせず、教育省としても現在の状態を正確に把握している かどうか疑問である。 既に20教室程度については、複数の他ドナーによる再建支援が開始されているとい うことであり、またどれだけの施設再建が今後必要なのか明らかでない。今回の緊急 リハビリ事業の対象には含めていない。 b) カブール大学女子寮 高等教育省より再建の要請があがった。平面はアルファベットのKの字状で、鉄筋 コンクリート、4階建て、延べ床面積は約1万8,000㎡程度と推測される。収容人員 は、275室×4人=1,100人を予定していた。完成間際に内戦により破壊され、現在は 躯体が残るのみである。この躯体自身も部分的に主要構造部である柱や大梁の損傷が 著しい。高等教育省の試算によれば、再建に必要な費用は500万ドルということであ る。規模が緊急開発調査による緊急リハビリ事業には大き過ぎる、と判断された。ま た、仮に再建できたとしても、完成後の先方の維持管理能力についての検討が必要で ある、と思われる。 c) カブール大学国際協力研修センター 高等教育大臣より、アフガニスタンへ帰国した教員あるいは客員教員のための宿泊 施設(ゲストハウス)の建設支援要請があった。先方の試算では、1ブロック31室(2 階建て、建延べ面積1,428㎡)×5ブロック=155室(7,140㎡)の規模で、事業費は350 万ドルである。既にトルコのコンサルタントによる平面図ができている。 宿泊施設に限定せず、研修施設等を併設する方法での協力は考えられる。 d) 教育機材 内戦による略奪で、今回訪れたすべての学校で教室内には黒板を除き教育機材は見 ることができなかった。聞き取りによると、以前は机、椅子を用いて授業が行われて いたということである。現状では生徒は床に直接座り、不自由な格好でノートをとら ざるを得ない状況にある。再建に際しては、生徒用の椅子・机、教卓程度の機材は必 要と考えられる。 (2) 教育システム 1) アフガニスタンの教育の現状 アフガニスタンの教育の普及は世界でも最低の水準であり、識字率、初等教育総就学 率共に非常に低く、最も開発の遅れた国々〔後発開発途上国(LLDC)〕の平均も大幅に ― ― 24 下回る(表2−3参照) 。 表2−3 アフガニスタンの基本教育指標 指 標 アフガニスタン イラン 成人識字率 36.3 74.4 (全体) 同(男子) 51.0 83.7 同(女子) 20.8 64.8 初等教育総就 49 98 学率(全体) 同(男子) 64 102 同(女子) 32 95 パキスタン タジキスタン ウズベキスタン LLDC平均 43.3 99.2 99.3 51.9 57.6 27.8 65 99.6 98.9 95 99.3 99.1 78 61.6 41.9 71.5 87 42 96 94 79 76 80.6 62.3 出所:UNESCO, Statistical Year Book 1999 、UNDP, Human Development Report 2001等 注)データは各国とも1990年代の数値。アフガニスタンの識字率及び初等教育総就学率については上記よ りもはるかに低い数値のデータも存在し、いずれにしろ世界最低水準であることに変わりない。 2) 教育システム アフガニスタンの公的教育システムは1973年のアフガニスタン共和国の建国後数度の 変更を経て、1990年に現在の6−3−3制(初等教育6年:7∼12歳、前期中等教育3 年:13∼15歳、後期中等教育3年:16∼18歳)に落ち着いている。後期中等教育のあと は大学等の高等教育である。初等教育の6年間は義務教育であり、また後期中等教育ま では基本的に無償で提供されるというのが原則であるが、無償教育サービスは事実上存 在しないといわれている。また公的教育システムのほかに、コミュニティーを基盤とす るコミュニティー・スクール、個人篤志家宅で行われるホーム・スクール等のノン・フ ォーマル教育やモスク、マドラッサ(イスラム学校)で提供される宗教教育なども大き な役割を果たしてきた。またカブールなど大都市には、公的教育の枠組みから外れてい る者(未就学者及び公教育退学者)を対象とした、私立の有料の塾的な教育機関も存在 する。 a) 教員養成 教員養成については後期中等教育修了者を対象として教育省所管の教員養成校(教 育期間2年)と高等教育省所管の4年制教員養成校の2種類あり、基本的には前者が 初等教育の教員を養成し、後者は中等教育の教官を養成することになっている。実態 としては特に地方部を中心に、正規の教員養成教育を受けずに教員になっている事例 が多いとされる。 b) 技術・職業訓練 技術・職業訓練校については分野別の各種省庁所管で、前期中等教育修了者を対象 とするもの、後期中等教育修了者を対象とするものが混在しているといわれている。 ― ― 25 一方、未就学者を対象とした技術・職業訓練センター的なものもNGO等で運営さ れており、女子向けには縫製、カーペット織り、刺繍など服飾関係、男子向けには木 工、印刷、自動車修理、洋服テイラーリング、電気工事等が人気のある科目といわれ ている。 またカブール市内では、最近ではコンピューター操作と英語を学習させる民間施設 が増加しているようである。今後は帰還兵や未亡人の雇用創出のための職業訓練ニー ズへの対応も喫緊の課題であろう。 c) 就学前教育 就学前教育(幼稚園等)も教育省の所管であるが、社会福祉の関連から労働・社会 問 題 省 が 所 管 す る 国 立 幼 稚 園 も あ る 。 調 査 団 が 訪 問 し た 国 立 幼 稚 園 ( Alfatah Kindergarten)は、働く母親のために生後3か月∼2歳半の乳幼児の預かりと2歳半 ∼6歳の幼児の預かり保育と就学前教育を行っていた。この種の保育施設は、タリバ ン政権下では女子の就労が禁止されていたために休止状態だったとされる。 d) 識字教育 過去に教育の機会を失した人たちへの識字教育も教育省の所管であるが、教育省の 行政能力には限界があり、政府のこの分野への関与は限定的で、NGOの支援が不可 欠とされる。 e) 学校教育 学校は初等教育から高等教育まで合わせ、アフガニスタン全国で4,000校、うちカ ブール市内では158校、教員は全国で6万人いるといわれる。 毎年、春分の日(3月21日)が小学校から大学まですべての学校の新学年の開始日 とされている。今年(2002年)はタリバン政権が崩壊して最初の新学年にあたり、特に 女生徒を中心に公的教育への需要が爆発的に急増しており、戦乱で破壊された学校の 緊急修復、教員の確保、教員再教育が緊急の課題である。タリバン支配地域では過去 6年ほど女子教育が抑圧されてきたこともあり、教育の機会を失っていた女生徒が大 量に今年(2002年)の新学年から学校に復帰するため、しばらくは10代の小学校低学 年生、10代後半の中学生というような年かさの大量の女生徒が正規の年令の生徒と一 緒に授業を受けることになるため、学校現場に与える影響は計り知れないほど大きい ものがある。現に調査団が訪れた学校のうち、共学校及び男子学級・女子学級併設校 においては男生徒より女生徒の方が多い学校が多かった。また学校での教育言語は、 ダリ語とパシュトゥン語の両方を教えるのが一般的のようである。 f) 学校形態 学校の形態については、カブールにおいては小、中、高校が別々に分かれているも ― ― 26 のよりも小、中学校併設あるいは小、中、高校併設が多いようである。男子専用校と 女子専用校のように対象が性別で明確に分かれている学校のほかに男女共学校もあり、 午前女子、午後男子と使い分ける学校もあって、多様である。 g) 高等教育 大学等の高等教育は高等教育省が所管している。 調査団が面談したファイェーズ高等教育大臣によれば、アフガニスタンに15ほどあ る高等教育機関のなかで、日本の援助がカブール大学に集中するのは好ましくないと しながらも、カブール大学ですら電力・給水システムの混乱、印刷機など各種備品・ 機器の不足・破損、通勤・通学の交通手段の確保の困難等の問題が山積みしており、 日本の支援があればありがたいとして、カブール大学女子学生寮の修復、教職員及び 学生の研修等における日本の協力に期待を表明した。 h) 教育行政 教育行政については、教育省が就学前教育、初等教育、中等教育を所管し、高等教 育省は中等教育以降の高等教育(大学等)を所管している。教員養成は前述のように 就業年限によって2つの省が別々に所管している。 教育省本省の機構は現在機構改変が進みつつある(Mr. John Quick教育大臣秘書 官談)といわれているが、現時点では大臣、行政担当次官、教育担当次官の下に視学 局、行政局、計画・国際関係局、宗教局、教員養成局、報道局、UNESCO局、放送教 育(ラジオ、テレビ)局、初等教育局、中等教育局、科学センター、雇用局、幼稚園 局、孤児院局、識字教育局、体育局、編集・翻訳局、職業訓練局、教育建設局、教育 出版局、カブール市学校局がある。 教育省の省員は局次長級以上の高官を除き午後1時ごろには一斉に帰宅してしまう (交通事情も一因とされる)ため、勤務時間としても長くなく、また行政能力にも限 界があり、現状では教育行政はかなり心許ない状況である。こうした背景もあり、調 査団に対しアミン教育大臣からEducation PlanningとEducation Methodologyの計2名 の専門家の派遣を求められた。前者については教育行政一般、教員養成制度、学校制 度等行政的側面へのアドバイス、後者についてはカリキュラム、教科書、試験制度な ど教育の技術的側面へのアドバイスを期待されている。また既にUNICEFから教育省 に専門家(Mr. Mahieddine Saidi, Advisor to the Ministry of Education)が派遣され ており、これら他ドナーの専門家と連携しての協力を大臣より要請された。 高等教育省は教育省よりも規模が小さく、行政能力については教育省と同様に多く を期待できないと思われる。 ― ― 27 i) 教育セクターの課題 アフガニスタンの教育セクターの主要課題は、以下のとおりである。 ① 学校、教員の絶対的不足 ② 統一されたカリキュラム、教科書、試験実施基準がないこと ③ 暗記中心の教授法:学校が面白くないこと(退学率の高さ) 小学校5年までに男生徒の56%、女生徒の74%が退学するといわれる。 ④ 教育省など関係省庁の予算不足 j) 他ドナーの動向 アフガニスタンの教育セクターへの支援をしている他のドナーの動向としては、概 略以下のものがある。 ・ADB:教育省のCapacity Building2年間で200万ドル(予定) ・UNICEF:教育省へのアドバイス、Back-to-School Campaignで教材配布、学校修復 (2002年中に全国で約100校)、学校のデータベース構築、教育ドナー会議の主催 ・WFP:100万人の生徒への食料配布(学校と地元ベーカリーの連携)、教員研修参 加の教員に食料配布、5万人のノン・フォーマル教育従事者への食料配布 ・UNHCR:教科書・教材の難民への配布、難民コミュニティー・スクール支援 ・USAID:NGO経由でノン・フォーマル教育支援、セサミ・ストリートのテレビ番組 の提供 ・米国ネブラスカ大学:初等・中等教育でのカリキュラム・教科書開発支援* ・ドイツGTZ:学校修復、教科書開発、教員再訓練 ・ドイツKfW:学校修復への資金提供 ・NGO:学校修復、学校のデータベース構築、教材配布、アドヴォカシー ・アフガニスタン国際治安支援部隊(ISAF):工兵隊による学校修復、カブール市内 の学校のインヴェントリー調査 * なお高等教育省ではネブラスカ大学とだけの特定の協力関係を結ぶことには消 極的で、むしろアフガニスタンの復興と将来の発展に役立つ農業、科学技術の分 野で強みを有する他の大学、例えば米国であればパデュー大学、ジョージタウン 大学、アリゾナ大学、カリフォルニア大学バークレイ校等とのコンソーシアム関 係を築きたい(ファイェーズ高等教育大臣談)とのことである。 k) 学校修復支援の動向 また学校修復に関しては、国連機関ではUNICEF、UNHCR、UNOCHA、NGOではCare International、Relief International、バイラテラルの援助ではドイツGTZ、ドイツKfW、 スウェーデンのNGOであるSwedish Committee for Afghanistan(SCA)等が実施している。 ― ― 28 日本からもJHP学校をつくる会、World Vision Japan等のNGOがUNICEFとの連携で学 校修復に参加しているようである。 UNICEFは学校修復にかける経費として1校当たり1万5,000ドルを上限目安として おり、これ以上の修復経費がかかる大規模校、破壊の程度が大きい学校は避けるよう 修復事業パートナーのNGOを指導している。 UNICEFは学校修復事業で満たすべき要件として下記のガイドラインを出しており、 同じく学校修復事業を予定しているJICAにも参考になる。ただし地域事情、修復事 業者の資力、能力もあり、すべての修復事業者がこの要件を満たせるかについては若 干疑問であり、あくまでも目安として考えるべきであろう。 ① 教室の壁、天井、ドア、窓、電気配線、コンクリート床、校舎屋根等のしかるべ き修理・修復 ② 衛生的な井戸の掘削・整備、又は水道へのコネクション、妥当な規模の貯水能力 を学校として備えること ③ トイレの整備、適切な排水と廃棄物処理システムの導入 ④ 学校運営への地元コミュニティーの参加の奨励 ⑤ 高さ2mの外壁又はフェンスの構築 ⑥ 可能であれば、冬季の教室へのストーブの供与、床に敷くマット、机、椅子、黒 板等備品の供与 ― ― 29 Abu Zar Ghafari High School 写真1 グレード 現状教室数 男子 1∼12年生 女子 1∼12年生 男子 1,500人 女子 2,500人 男 25人 女 59人 3.5m×2.9m×26教室 支援方法 隣接地で建て替え 建物・教室状況 レンガ造り、平屋建て、窓 枠なし、ドアなし。 1教室約10㎡。 生徒数に比し、狭隘すぎ る。 生徒数 教員数 写真2 〈写真1〉 学校内校庭 〈写真2〉 教室内授業風景 机、椅子、灯りなし。 写真3 〈写真3〉 教室内授業風景 机、椅子、灯りなし。 写真4 〈写真4〉 新校舎建設予定地(約8,000㎡) 先方が実施した工事が基礎工事で中断している (約30教室分)。 撮影時、生徒が邪魔で基礎工事部分が映って いない。 ― 30 ― Qla Bakhtiar Secondary School 写真5 グレード 現状教室数 男子 女子 男子 女子 男 女 4教室 支援方法 近隣地で建て替え 建物・教室状況 レンガ造り、泥塗装、平屋 建て 生徒数 教員数 写真6 1∼9年生 1∼9年生 500人 1,000人 10人 33人 〈写真5〉 現状校舎 (元サンダル工場を借り上げ) 〈写真6〉 現状教室内部 机、椅子なし。 床にマットを敷いて座る。 写真7 〈写真7〉 現状教室内部 椅子、机、窓ガラス、灯りなし。 写真8 〈写真8〉 現校舎近くの新校舎建設予定地(約1万㎡) 結核研究所近く。 ― 31 ― Afshar High School 写真9 グレード 男女共学 女子 生徒数 1∼6年生 7∼12年生 現状ゼロ 教員数 現状ゼロ 現状教室数 6.5m×6m×36教室 支援方法 修復 建物・教室状況 鉄筋コンクリート、3階建 て 写真10 〈写真9〉 現状教室の内部 〈写真10〉 現状教室の内部 写真11 写真12 〈写真11〉 現状教室の内部 机、椅子、電気配線等はすべて略奪され、埋 め込み式黒板だけが残った。 〈写真12〉 旧トイレの内部 ― 32 ― Minwis Hotaky Secondary School 写真13 グレード 男女共学 生徒数 支援方法 男子 1,520人 女子 780人 男 4人 女 48人 5m×3.5m×25教室 他10事務室等 修復又は建て替え 建物・教室状況 レンガ造り、平屋建て 教員数 現状教室数 写真14 1∼9年生 〈写真13〉 学校正門 〈写真14〉 破壊された教室の外で青空教室 井戸、トイレは機能せず。 写真15 写真16 〈写真15〉 晴天の日は外での授業が多い。 校舎の破損の程度がひどいため、修復か新築か 検討を要す。 学校敷地面積約6,000㎡。 〈写真16〉 教室内授業風景 教室内には机、椅子、床に敷くマットすらなし。 男女共学の様子がうかがえる。 ― 33 ― Sufy Aslam Secondary School 写真17 グレード 現状教室数 男子 1∼6年生 女子 1∼9年生 男子 650人 女子 950人 男 15人 女 75人 5.5m×3.8m×44教室 支援方法 修復又は建て替え 建物・教室状況 レンガ造り、平屋建て 生徒数 教員数 写真18 〈写真17〉 学校正門 写真19 〈写真18〉 校舎の破損の程度がひどいため、修復か新築 (隣接のMinwis Hotaky Secondary Schoolとの合 併も含め)検討を要す。 現状はレンガ造り、平屋建て、泥屋根。 学校敷地面積約7,000㎡。 〈写真19〉 破壊のひどい教室 写真20 〈写真20〉 まともな事務室・教員室もなく、外にたたず む女子教員たち ― 34 ― Durkhany High School 写真21 グレード 生徒数 教員数 現状教室数 支援方法 建物・教室状況 男子 1∼6年生 女子 1∼12年生 男子 900人 女子 1,100人 男 16人 女 64人 28教室 (う ち13教室 は既に 崩壊済み) 一部修復 一部建て替え レンガ造り、2階建て 写真22 〈写真21〉 校内の様子 〈写真22〉 教室内授業風景 机、椅子、窓ガラス、灯りなし。 写真23 写真24 〈写真23〉 既に崩落した教室群 レンガ造り、2階建て、泥屋根。 修復については一部建て替えも含め検討を要す。 〈写真24〉 黒板上の天井の崩落の危険性の高い教室 いつ黒板前の教員を直撃してもおかしくない。 ― 35 ― Rakhman Babar High School 写真25 グレード 男子校 1∼12年生 生徒数 男子 現状ゼロ 教員数 現状ゼロ 支援方法 一般無償で検討 建物・教室状況 カブール南西部 Tribal Area出身者の子弟のた めの男子校、学生寮付き。 大規模校。破壊の程度大。 既に何年も存在しない学 校。緊 急開 調で の対 応はし ない。 部族地 域出 身子 弟の 教育政 策要確認。 レンガ 造り 、1 階建 て及び 2階建て。 〈写真25〉 比較的破壊程度の小さい校舎 写真26 〈写真26〉 破壊の程度大。 隣接してISAF英国軍部隊の駐屯地あり。 ― 36 ― Koshar Khan High School 写真27 写真28 グレード 男子校 1∼12年生 生徒数 男子 現状ゼロ 教員数 現状ゼロ 支援方法 一般無償で検討 建物・教室状況 カブール西部 Tribal Area出身者の子弟のた めの男子校、学生寮付き。 大規模校。破壊の程度大。 既に何 年も 学校 とし ての実 体がない。 緊急開調での対応はしな い。 部族地 域出 身子 弟の 教育政 策要確認。 鉄筋コ ンク リー ト、 3階建 て及び レン ガ造 り、 2階建 て。 〈写真27〉 破壊程度の大きい鉄筋コンクリート、3階建て 校舎 〈写真28〉 レンガ造り、2階建ての校舎 大規模校にして破壊の程度も大。 ― 37 ― Ariana Afghan High School 写真29 グレード 1∼12年生 生徒数 現在男子校 (元女子校) 男子 教員数 男 20人 支援方法 一般無償で検討 350人 建物・教室状況 写真30 写真31 写真32 カブール市中心部 元女子校。タリバン時代の 女子教育抑圧のため、現在 男子校。事務棟はガラス窓 も入り、ほとんど問題な い。新学期から女生徒も入 学してくる予定。緊急開調 での対応はしない。 〈写真29〉 〈写真30〉 事務棟 〈写真31〉 レンガ造り、2階建て、6教室の校舎をタリ バン時代にトルコの援助で1階部分だけ修復 済み。我が国には2階部分の修復の要請。 援助の整合性要検討。 〈写真32〉 トルコによる修復済みの教室内部 均平な床が印象的。 ― 38 ― Sayed Jamardin Higher Teachers College グレード 写真33 教員養成校 生徒数 高3終了後 2年制 現状ゼロ 教員数 現状ゼロ 支援方法 一般無償で検討 建物・教室状況 カブール市南西部 レンガ造り、2階建て。 大規模校。銃砲弾による破 壊の程度大。 緊急開調では対応しない。 〈写真33〉 銃砲弾による破壊の激しい校舎 写真34 〈写真34〉 破壊の程度大の教室群 写真35 〈写真35〉 屋根のほとんど抜け落ちた校舎 ― 39 ― Kabul University Female Students Dormitory 写真36 建物種類 収容能力 支援方法 建物・教室状況 写真37 大学女子 学生寮 女子 約1,000人 現状はゼロ 一般無償で検討 鉄筋コンクリート、4階建 て。1980年代後半に完成直 前に内戦に巻き込まれ、破 壊、略奪が進み、現在は躯 体のみ残っている。 〈写真36〉 カブール大学女子学生寮 鉄筋コンクリート、4階建て。 破壊程度大。規模も緊急開調には大きすぎる。 〈写真37〉 破壊、略奪の跡 写真38 〈写真38〉 損傷の激しい柱 写真39 〈写真39〉 女子学生寮のすべての壁が撃ち抜かれ、修復 規模は極めて大きい。 ― 40 ― Mir Ahmad Shahid School 写真40 〈写真40〉 ドイツKfWの資金によりRelief International (NGO)が修復中のMir Ahmad Shahid Schoolの工事現場看板 写真41 〈写真41〉 Mir Ahmad Shahid School 塀の修復風景。 教室もドア、窓が修復された。 写真42 〈写真42〉 窓枠修復工事中のMir Ahmad Shahid School 写真43 〈写真43〉 ゆがんだ教室天井を根本的に修理することな く、新たに教室内につっかい棒柱を立てた簡 便工法。 ― 41 ― 2−2−2 保健・医療 (1) 保健・医療施設 カブール市内の医療施設は、保健省(Ministry of Public Health)傘下の44施設のほか、 国防省(Ministry of Defense) 、民間、NGOがそれぞれ運営している34施設を加え、合計78 施設ある。病院は専門病院を含めて24施設(保健省傘下は16施設)あり、その他、我が 国が支援した結核研究所、血液銀行、放射線研究所など保健省傘下の6専門施設がある。 また、総合診療所は48施設(保健省傘下は20施設)あり、うち14施設が母子保健センタ ーで保健省、NGO、民間がそれぞれ運営している。なお、母子保健センターの一部の施 設では家族計画や健康教育などが合わせて実施されているなど、これらが1次医療とプ ライマリー・ヘルスケアを担っている。 本調査では、1979年に我が国無償資金協力事業の基本設計調査を経て建設された旧国 立結核研究所(National Tuberculosis Institute)を含む5病院と、母子保健センターを含 む4か所の総合診療所及び医療短期大学を訪問した。調査結果は次のとおりである。 1) 施設の多くは1970年代以前に建設されたもので、内戦後、補修もままならず、銃痕 も生々しく、電気、給排水設備を含めて、老朽化が著しい。 2) 保健省傘下の施設では、給料遅配によるモラルの低下、医薬品の不足、医療設備の 老朽化という共通した問題を抱えている反面、NGOが直接運営する施設は職員の給与 を含めて最低限の保証がなされていること、 医薬品の供給が安定していることなどから、 規模の大小にかかわらず比較的良好な運営状態にある。 3) 発電器をもたない病院では、頻繁に起こる停電時の対応と電圧変動が問題となって いる。発電器を所有していても、ディーゼル燃料(1万アフガニ/l 、約40円)が購入 できないため、発電できないこともある(これについては滞在中、保健省次官が燃料の 安定供給に努めると言及した)。視察した病院の暖房は、電気パネルによるものと薪ス トーブによるものが主流であった。薪は保健省だけでなく国際赤十字からも配給されて いるが、厳寒期の暖房対策としては脆弱である。 4) 総合診療所と母子保健センターの多くは電気と水道設備をもたない。また敷地内に 井戸を有する施設もあるが、浅井戸のため、最近の旱魃で水源は枯渇している施設もあ り、深刻な問題となっている。 5) 各病院の出入口はガードマンにより警備と銃器の持ち込み規制がされており、院内 の治安はおおむね良好である。 a) 旧国立結核研究所・カブール結核研究所 1979年に日本の無償資金協力により建設された平家建て(一部2階建て)、延べ面積 −42− 約2,500㎡の建物で、アフガニスタンにおける結核対策に係る治療・研究のための中心 的役割を担っていた。アフガール保健省予防医学局局長(カブール大学医学部教授を 兼任)は、同国の結核対策要点の優先順位を、①国立カブール結核研究所の復旧、② カブール市内の結核治療施設(サナトリウム等)のダラマン・キャンパスへの集中再 建、③地域結核研究所をカブール以外の5地域(カンダハル、ヘラート、ネンガール、 クンデュス、バルク)に再建するという3点を強調し、国立結核研究所の復旧は最優 先案件に位置づけている。 この施設は特に内戦により破壊の著しいカブール市南西部のダラマン(Dar la man) 地区に位置したため、その機能を失い建物本体も躯体を残してすべて略奪され尽くし た状況にある。現地調査で、建具、手すり、設備機器、電気の配線など取れるものは すべて取り尽くされた状態であることを確認した。ただし、残された躯体は、内部表 面はススで汚れているものの、これは建物の占拠者が内部で煮炊きをした際にできた ものであり、建物自体が火災にあってできたものではないため、特段に構造体に影響 があるわけではなかった。総体的にコンクリートも密実であり、構造体自体も全体と して堅牢であることが判明した。先方もできるだけ早い再建を望んでいることから、 この躯体を利用し、本研究所を再建することが適当と判断される。 なお、あくまでも利用可能なのはコンクリート躯体のみであり、不要・破壊部分の 撤去(外壁仕上げ、壊された内部間仕切り等)、屋根の新設、内部造間仕切り壁の新設、 仕上げ工事、建具の取り付け、設備(電気・衛生)の更新等は必要である。特に電気 設備に関しては、竣工当時は商用電力が利用可能であったが、現在では供給されてい ないと思われることから、電力供給の現況・見通しについて調査し、適切な対応をと ることが必要であると考えられる。 b) サナトリウム アフガール局長より、旧国立結核研究所と同一敷地内に300∼400床程度のサナトリウ ムの再建と手術部門の併設について要請があった。アフガニスタン側がサナトリウムの 建設を希望する場所には70∼80年前に建設された女性専用のサナトリウムの建物の残 骸があり、まずこれを撤去する必要がある。また300床程度の男子・女子・小児サナト リウムに外科手術部門を併設すると、その面積は6,000㎡程度になることが予想され、 緊急リハビリ事業の対象としては規模が大きすぎる。このため本案件については一般無 償案件として、同国の結核対策戦略を協議したうえで、再建するのが適当と考えられる。 c) 現国立結核研究所 旧国立結核研究所が破壊されたあと、2度移転しており、1997年より市内中心部 DistrictⅠに位置し旧ソ連時代に建設された総合診療センター(Polyclinic)に「間借り −43− 状態」にある。診断治療施設は最低限の機能しかなく(菌培養は設備もなく不可能)、 研修機能は存在しない。旧カブール結核研究所が担っていた市内における結核治療は、 約1,300人の患者を対象に1999年より活動を開始しているスウェーデン(Med Air)と ドイツ(GMS)のNGOに依存している状況にある。 d) アリ・アバード(Ali Abad)病院 カブール大学医学部の教育病院の1つで、かつて男子サナトリウムを有した市内最 大級の病院(250床)であったが、破壊されて現在の場所に移設された。現在は脳外科、 精神神経科の専門病院となっており、40名の医師と60名の看護婦(士)が勤務してい る。4室の手術室と回復室が1室あるが、ICUはない。視察時にはフランスのNGO (Action Hunamintarie France)が支援を展開中で、病院機能は向上中であった。 e) アンタニ(Antani)病院 アンタニとはダリ語で「伝染性」という意味である。この病院は感染症のナショナ ル・センターにあたる。スタッフは総勢60名(うち医師は18名)おりながら、設備と 機材は市内の総合病院中では最も劣悪で、特に隔離病棟などは著しく老朽化している。 2002年1月に活動を再開したばかりのため、本格的な活動には至っていない(外来受 診者は50人/日程度)。しかし結核性髄膜炎をはじめ、マラリア、腸チフス、破傷風、 ブルセラ症、炭疽、コレラ、赤痢、ウイルス性肝炎など様々な感染症を治療している。 UNICEFからの少量の薬剤配給と赤十字からの燃料用薪の配給があるのみで、保健大 臣から重点的に支援してくれるよう要請があった。 f) ワジール・アクバル・ハーン(Wazir Akbar Khan)病院 1967年からJICAの前身であるOTCAが支援していた病院で、外科、整形外科、内科 の入院施設があり、ベッド数は250床である。120名の医師、120名の看護婦(士)及び その他スタッフとして210名が勤務している。2室の手術室で5∼10件/日の手術、外 来患者は100∼150人/日で医療機能は比較的保たれ、患者搬送用の大型エレベータも 稼働している。タリバン崩壊後は銃創や地雷外傷は減少しているとのコメントがあっ た。結核性の脊椎カリエスは、現在でも主要な整形外科領域の疾患となっている。 g) ジャムホリエ(Jamhoriat)病院 救急部を有する総合病院(240床)で、男性・女性の病棟はそれぞれ120床である。 カブール大学医学部の教育病院にもなっているが、施設と設備はやや劣悪である。手 術は木、金曜日を除いて毎日3∼6例実施されている。医師は36名、看護婦(士)45 名のほか、90名のスタッフが従事している。 h) マラライ(Malali)病院 産婦人科の専門病院(250床)で、妊婦健診は1日平均150∼160人、検査受診は80 −44− ∼100人、分娩は70∼80件(うち3∼4件は帝王切開術)と多くのカブール市民が利用 している。ただし、医療システムが未確立のため、専門病院より末端の医療機関で対 応できるものも多数含まれている模様である。保健次官より超音波診断機器を含む機 材支援の要請があった。 i) 医療短期大学(Intermediate Medical School) 全国に6か所ある看護婦、保健婦、助産婦、放射線技師、臨床検査技師、薬剤師、 歯科助手などパラメディカルの人材を共学で養成している短大である。他国ドナー、 NGOより支援を受けており、訪問時、施設内の補修を行っていた。 j) カブール市内診療所・母子保健センター等 ① 燈台クリニック 我が国の草の根無償が実施されている日本のNGOである燈台が運営するクリニ ックである。リーシュマニア症に罹った女性と子供の患者に特化して診断・治療活 動を1995年より展開中で、毎月2,800∼3,200人の患者を治療している。カブール市 外から受診する患者が全体の9割を占める。治療完了率は75∼80%と高いが、医薬 品の不足から受診者全員を治療できない(関節に有痛性症状のある者、顔面に病変 のある者のみ治療対象とし、新規患者は毎日10名まで)のが問題である。 ② ラーマン・ミナ(Rahman Mina)診療所 日本のNGOであるペシャワール会(PMS)が2001年4月から支援している保健省 管轄の診療所である。カブール地域への帰還民と旱魃による国内避難民の流入によ ってスラム化しつつある地域に、タリバン政権がPMSに支援を提案した経緯がある。 1日100∼120人の受診者があるが、歯科や産婦人科は医師がいるにもかかわらず機 材が不足しているため、歯科健診や正常分娩など基本的なサービスが実施できずに いることと、診療所従事者の給与の遅配が最大の問題である。 ③ チェルスツゥン(Chehlsoton)診療所 PMSが上記の事情を支援をしている施設で、木造2階建ての民家を借り受けて診 療している。カブール市内の診療所の共通した問題は、電気がないばかりでなく、 近年の旱魃で井戸が枯れて、安全な水の供給ができなくなったことである。 ④ シュハダ(Shuhada)診療所 現地NGOであるシュハダが運営する女性と子供のための診療所で、1日80∼90人 が受診し、そのうち40∼45人が女性である。シュハダが医薬品を独自に調達してい るので、医薬品の不足はほとんどない。シュハダはこのほかに、女性へのコンピュ ーター教育や英語教育を実施している。 −45− (2) 保健・医療機材 調査の結果、カブール市内の主な医療施設の医療機材の状況は次に述べるとおりである。 1) 医療機材のみならず基本的な医療器具(聴診器、血圧計、打腱器、包交車、その他診 療器具等)も不足している。 2) 訪問した施設の既存医療機材のほとんどは20年以上経過したもので、中古品もあり、 故障しているものも多く見られた。 3) カブール市内に医療機材の製造業者の代理店はなく、交換部品が入手できず保守も難 かしい。 4) 同様の理由から純正品としての試薬、消耗品の入手ができない。 5) 停電も含めて電源が安定しておらず、水も硬質で各機材に悪影響を与えている。 6) 注射筒と注射針は、ディスポーザブル(単回使用)のものが煮沸滅菌されて繰り返し 使われている。これは医療器具を介した感染(ウイルス性肝炎等)や麻薬乱用を助長す る危険性がある。 a) 現国立結核研究所 旧ソ連時代に建設された総合診療センター(Polyclinic)にある医療機材を利用して おり、X線撮影装置については旧ソ連諸国で多くみられるハンガリー製の一般撮影用 装置が故障がちではあるが稼働している。また現像は手現像で、現像液、定着液も入 手しにくく、手を拭くタオルも入手できず我が国へ要請したいという話であった。ま た検査部門には培養する機材がなく、顕微鏡2台と遠心器1台があるのみである。さ らに教育用の視聴覚機材もなく、絵を使って教育しているのが現状である。 b) アンタニ(Antani)病院 本施設は、再開して間もないこともあり、医療機材といえる機材は聴診器、血圧計 のほか、煮沸消毒器、検査部門では遠心器、感熱滅菌器、天秤があるがほとんど故障 しており、稼働していない。 c) ワジール・アクバル・ハーン(Wazir Akbar Khan)病院 一般病棟はベッドしかなく、集中治療室でも故障したままの無影灯、吸引器と一部 ギャッジベッドがあるだけで、普通病棟となんら変わらない状況であった。一方、検 査部門では双眼顕微鏡、遠心機、分光光度計、冷蔵庫、感熱滅菌器があるが、双眼顕 微鏡と遠心機以外は故障しているとのことであった。また、放射線部門ではドイツ製 (シーメンス社)の一般撮影装置及び旧ソ連製の可動式撮影装置は故障した状態であ ったが、東芝製の1980年代に製造された一般撮影装置は稼働していた。 一方、洗濯部門には大型の洗濯機が5台、厨房に電気式調理器があるなど、調査で −46− 唯一エレベーターが稼働している施設でもあったことから、施設設備は比較的整備さ れていた施設であるといえる。 d) ジャムホリエ(Jamhoriat)病院 検査部門では他の施設と同じように双眼顕微鏡、遠心器、分光光度計、冷蔵庫、感 熱滅菌器のほか、低温フリーザー、血液用冷蔵庫もあり、放射線部門ではハンガリー 製の一般撮影装置があり、稼働していた。また手術室は3室あり、中には手術台、無 影灯のほか、麻酔器、吸引器、人工呼吸器などあり、比較的設備が整った施設であっ た。なお、日本製の麻酔器があったが、部品が不足しており稼働していないというこ とで、帰国後調査した結果、動物用の麻酔器であることが分かった。 e) マラライ(Malali)病院 母子保健センターの中心的な機能をもつ施設であるが、宗教上、男性が分娩室に入 れず、限られた部門のみの調査であった。新生児室においては、光線治療器、開放型 保育器は故障していたが、中古ながら閉鎖式保育器は3台稼働していた。なお、この 施設の薬剤部門に大量の医薬品、試薬などが保管されており、UNICEFをはじめとし て支援が十分にされているように思われるが、医療機材・器具は不足しているという。 f) 医療短期大学(Intermediate Medical School) NGOなどからの支援として、筆記用具等の供与はあるが、教育用の人体模型、スラ イド、ビデオ、視聴覚機材並びに検査技師養成のための顕微鏡などは十分でない。 g) カブール市内総合診療所・母子保健センター 日本のNGOの燈台、PMS及び現地のNGOのシュハダが運営している施設の機材の状 況は、分娩台、双眼顕微鏡、卓上型蒸気滅菌器、乳児用体重計、冷蔵庫(ケロシン) があるものの基礎的な医療器具も含めて不足しており、歯科医師がいても、機材がな く、治療できない状況にある施設もある。それぞれのNGOの支援により、スタッフの 給与のほか、医薬品については十分ではないが支援が継続しているものの、医療機材・ 器具には資金が不足している状況にある。 (3) 保健・医療システム アフガニスタンにおける公立の医療施設の医療、診察、入院、投薬、検査、病院食など は原則無料である。しかし、施設の医薬品の著しい不足より、投薬だけは医師の処方箋を 外部の薬局に持参して処方を受け、それを自宅又は病院で使用する状況にある。これは一 般市民には大変な経済的負担となっている。例えば、アンタニ(Antani)病院で細菌性髄 膜炎の集中治療を受けると、1日当たりの経費は10万アフガニ(約3,200円)とのことだ った。民間の医療機関ではすべての医療行為が実費である。例えば医師に腹部超音波検査 −47− を受けると、診察のみで4,000アフガニ(約130円)、感熱紙への画像印刷を含めると1万 2,000アフガニ(約390円)程度かかる。 一方、アフガニスタンの医療教育は7年制(予科2年、専門5年)で、カブール大学医 学部では各学年に180名が在籍している。タリバン政権下では女子の在籍が認められなか ったが、それ以前は全学生の約3割が女性であった。大学教育は共学である。 看護婦は2年間、助産婦は更に1年間、その他放射線技師、臨床検査技師、薬剤師、歯 科助手などパラメディカルは2年から3年の教育を医療短大(Intermediate Medical School) において共学で養成される。このような短大は全国に6か所ある。看護士・婦の場合、タ リバン時代まではおおむね4割が女性であった。医学部学生は、大学卒業後に医師国家試 験を受け、合格者は教育病院で臨床研修を受ける。研修修了後はほとんどが地方の病院勤 務か開業医となる。なお、本調査で訪問したジャムホリエ(Jamhoriat)病院、ワジール・ア クバル・ハーン(Wazir Akbar Khan)病院、アリ・アバード(Ali Abad)病院はカブール 大学医学部の専門課程3、4、5年次における教育病院である。 2002年3月現在、ドラフトとして発表されている保健省(Ministry of Public Health)の 組織図を次項図2−1に示す。なお、医療・保健分野の支援の窓口は、保健省の国際課 (International Relations Department)、治療医学局(Bureau of Curative Medicine)、予防医 学局(Bureau of Preventive Medicine)の3部署で、協議の決済は技術次官(Deputy Minister, Technical and PHC)が大臣を補佐している。 −48− National Advisory Board Training & Research Institute Minister Deputy Minister, Technical and PHC Secretariate Deputy Minister, General Management Diaster, Emergency Preparendness & Response Forensic Medicine Policy, Planning Statistics Quality Control H.R Develop Dept. Essential Drug Affairs Regional Health Directorates Focal Point International Relations Dept. Pharm Product Director General, Curative Director General, Preventive Admin, Personnel, Finance Central Laboratory Basic Health Services Logistic, Procurement, Supply, Transport Referral & Teaching Hospital EPI Construction Specialized Hospital Mental Health Legislation Diagnostic Dept. Communicable Diseases Maintenance & Engineering Rehabilitation TB & Leprosy Blood Bank Malaria & Leshmaniasis Health Insurance Health Promotion Education MCH/EP Environment Water & Sanitation 図2−1 アフガニスタン保健省組織図(2002年3月時点での予定) −49− なお、国連機関やNGOを交えて保健医療全般における作業部会(Task force group)が 設立されようとしているが、保健省担当者の経験不足もあり、効率的な会合となっていな い。 現地では保健大臣並び技術次官より、保健医療のあらゆる分野において援助が必要なこ とが強調されたが、特に結核対策の支援、市内の総合病院と診療所(母子保健センター) の設備強化、予防接種事業の支援が特に言及された。また現在、医療従事者への研修は、 NGOが実施している小規模なものしかなく、網羅的でなく、日本やパキスタンでの短期研 修はほとんどの病院スタッフが希望していた。 (4) 他ドナー・国連機関の動向 1) Med Air 1996年10月からカブールで活動開始。保健省、WHOらとDOTS(ストレプトマイシン、 リファンピン、イソニアジド、ピラジナミドを用いた対面投薬)プログラムを設立し、 カブール市内のほか全国4か所で実施中。 2) 燈 台 リーシュマニア症に罹った女性と子供の患者に特化して、診断・治療活動を1995年よ り展開中。アフガニスタン国内の長老組織と良好な関係を保ってきたため、タリバン時 代も撤退することなく活動が続けられた数少ないNGO。現在、麻薬中毒者への活動がア フガニスタンにはいまだないため、将来の活動の可能性を調査中である。 3) UNDP 日本政府が資金を拠出しているITAP(Immediate and Transitional Assistance Programme for the Afghan People 2002)活動のうち、カブール市内の路肩や河川に堆積した汚泥やゴ ミの回収除去、街路樹の植木などが、市内の塵埃軽減や地下水汚染防止に貢献している。 4) WHO 現在稼働中の保健医療機関を全国的にマッピング作成しているところ。緊急の医薬品 供給は本格的に実施していない。本調査団が行う市内医療施設への緊急無償援助が高く 評価された。 5) UNICEF 栄養補給、学校教育の再構築、小児の集団予防接種を中心に活動中。先般、日本政府 から支出された500万ドルあまりに予防接種担当者から感謝の意が伝えられた。なお予防 接種活動を全国的に展開するにあたり、30台程度の四輪駆動車が必要との支援要請があ った。 −50− (5) その他の情報 民間の診療所は、開業医によって運営されているものと、公立病院の医師が午後の時間 帯だけ運営するものとに分けられる。民間のクリニックには超音波検査機材など、公立病 院では維持管理できない医療器材を導入しているところもある。 最近ペシャワールなど近隣の国外から本国帰還する医療従事者が増えており、市内の病 院に500名もの応募者があったという。カブール市内の医療従事者の不足を指摘する意見 は聞かれないが、その技量については研修や再訓練が必要という意見があった。タリバン 政権時代に女性従事者の多くが失職したが、これら女性の復職が十分に進んでいない。 血液供給は、献血が絶対的に不足しているため、患者の親族が提供することになる。親 族の血液型が適合しない場合は、その血液を赤十字血液センターの適合する在庫と交換す る条件で提供が受けられる。 麻薬患者を収容・矯正する施設は、カブールのみならずアフガニスタン全土に存在しな い模様である。麻薬患者の矯正システムがないことは、保健上のみならず社会治安上も問 題である。 2−2−3 メディア・インフラ メディア・インフラ、特に放送は、社会・文化の進展、国民の教育・生活レベルの向上など にとって欠くべからざるものである。内戦が長く続いたアフガニスタンの場合、民主的で安定 的な国家を築き上げていくうえで、放送は極めて重要な役割を果たす。特にテレビ放送は、教 育効果があがる、国家のリーダーの顔が見えるといったことで一層重要である。 後述するように、放送のうちラジオについては欧米各国からの支援が予定されるため、我が 国はメディアとしてより重要なテレビ放送を中心に調査した。 (1) 国営放送 ラジオ・テレビ・アフガニスタン(RTA) アフガニスタンには、国営ラジオ・テレビ放送局であるRadio & Television Afghanistan (RTA)1局あるのみである。RTAは、カブール市に本局、5つの大きな都市に地域放送 局をもつ。地域放送局は、Mazare Sharif、 Heart、 Kandahar、 Badakhshan、 Jalalabadの5つ の市にある(添付資料1参照)。そのほか、無人の中継所を十数か所程度有している。 RTAの組織図を図2−2に示す。 −51− (5) その他の情報 民間の診療所は、開業医によって運営されているものと、公立病院の医師が午後の時間 帯だけ運営するものとに分けられる。民間のクリニックには超音波検査機材など、公立病 院では維持管理できない医療器材を導入しているところもある。 最近ペシャワールなど近隣の国外から本国帰還する医療従事者が増えており、市内の病 院に500名もの応募者があったという。カブール市内の医療従事者の不足を指摘する意見 は聞かれないが、その技量については研修や再訓練が必要という意見があった。タリバン 政権時代に女性従事者の多くが失職したが、これら女性の復職が十分に進んでいない。 血液供給は、献血が絶対的に不足しているため、患者の親族が提供することになる。親 族の血液型が適合しない場合は、その血液を赤十字血液センターの適合する在庫と交換す る条件で提供が受けられる。 麻薬患者を収容・矯正する施設は、カブールのみならずアフガニスタン全土に存在しな い模様である。麻薬患者の矯正システムがないことは、保健上のみならず社会治安上も問 題である。 2−2−3 メディア・インフラ メディア・インフラ、特に放送は、社会・文化の進展、国民の教育・生活レベルの向上など にとって欠くべからざるものである。内戦が長く続いたアフガニスタンの場合、民主的で安定 的な国家を築き上げていくうえで、放送は極めて重要な役割を果たす。特にテレビ放送は、教 育効果があがる、国家のリーダーの顔が見えるといったことで一層重要である。 後述するように、放送のうちラジオについては欧米各国からの支援が予定されるため、我が 国はメディアとしてより重要なテレビ放送を中心に調査した。 (1) 国営放送 ラジオ・テレビ・アフガニスタン(RTA) アフガニスタンには、国営ラジオ・テレビ放送局であるRadio & Television Afghanistan (RTA)1局あるのみである。RTAは、カブール市に本局、5つの大きな都市に地域放送 局をもつ。地域放送局は、Mazare Sharif、 Heart、 Kandahar、 Badakhshan、 Jalalabadの5つ の市にある(添付資料1参照)。そのほか、無人の中継所を十数か所程度有している。 RTAの組織図を図2−2に示す。 −51− ラジオ局 テレビ局 地方担当局 制作担当 会長補佐 文化芸術局 イスラム局 軍担当局 会 長 Abdul Hafiz Mansoor 管理局 政策担当 会長補佐 海外局 送信局 技術担当 会長補佐 Abdul Ghani Safi 中継局 技術計画部 テレビ技術局 制作技術部 ラジオ技術局 保 全 部 M. Yahya Sayed Bashir Hamagani RTAの組織図 図2−2 (2) テレビ放送の現状 タリバン時代にはテレビ放送が禁止されていたが、2001年11月に再開された。テレビ放 送が禁止されていた時代に働いていたテレビ放送局員は、ラジオ局に勤めたり海外に避難 したりしていたが、再開された現在は徐々にテレビ局に戻ってきている。以前70名ほどの 技術者がいたが、現在は40名程度である。各支局は放送要員、技術要員合わせて十数名で ある。 1) RTAカブール本局における送信設備 市の中心にあるアスマイ山の頂上にある地上テレビ送信所は、タリバンの要塞の近く にあったため、米軍の空爆で完全に破壊された(添付資料4参照)。現在、イランの支援 による暫定的な小電力送信機(出力パワー200W:これは本来の1/5であり、サービス エリアが極めて小さい)で放送している。毎夜4∼5時間、ニュース中心に放送してい る。 −52− 2) RTAカブール本局における番組制作機器 1978年に日本の支援により導入した機器がいまだに使われている(添付資料5参照)。 しかし、老朽化しており頻繁に故障している。RTA技術者自らが修理しているが、スペ アの部品が手に入らなくなっているとのことである。このように新しい機器への更新が 強く求められている。 3) 地域放送局 数年前まではロシアの通信衛星を使って地域放送局に番組を送っていたが、パラボラ アンテナが破壊され(添付資料6参照)、現在はVTRテープの運搬により番組配信してい る。また、各地域局の制作・送信設備もロシア製の古いもので、故障がちであるととも に、100Wという小電力で放送している。各局とも一日に2時間程度放送している。自局 制作の番組とカブール本局等からの番組を半々で放送している。 4) 国内で使用しているテレビ方式が異なっている。カブール市はPAL方式、それ以外は SECAM方式である。これは、日本の支援によりカブール市の放送局が確立されたが、そ のあと革命が起き、旧ソ連の影響が大きくなったためである。 (3) 受信世帯数 受信世帯数は正確に把握できないが、カブール市のアンテナの数やカブール本局局員の 話を総合すると以下のようである。 1) 地上放送 カブール送信所の近くでは、ほぼ10軒に1軒の世帯が地上放送受信アンテナを立てて いる。それより少し離れた所では、電波が届かないため地上放送受信アンテナはみられ ない。地方でも同じ傾向であると考えられるが、タリバンの影響が大きかった地域では 受信機を壊されたと聞いており、視聴世帯はこれより少ないであろう。 2) 衛星放送 旧ソ連の影響が大きかった時代(タリバン以前)には、アフガニスタン国内から地方 への配信をリアルタイムに行う衛星放送が実施されていた。しかし、カブール本局にあ った送信パラボラアンテナが破壊され、現在は実施していない。 3) 外国からの衛星放送 BBCやCNNなど外国の放送が見られる衛星放送受信機は、タリバン時代でも密かに存 在していた。視聴が自由になった現在、その衛星受信機は急激に普及している。カブー ルのマーケットでは数千台の衛星受信機を用意して、需要に応えようとしているという。 カブール市内を見てみると、衛星放送用のパラボラアンテナを立てている世帯は、30∼ 50軒に1軒である。この傾向は、地方でも同じと考えられる。しかし、アフガニスタン −53− 自国民による放送はされていないため、外国から見た情報しか得られない。また、パキ スタンやイランなどに避難している難民は、どちらかといえばタリバンから逃れた富裕 の民もいる。こうした難民は、衛星放送受信機を購入し、情報を得ているようである。 (4) 他ドナー等の支援の動向 こうしたアフガニスタンにおける放送の状況に対し、各国からの支援の手がさしのべら れている。英国、フランス、イタリア、ドイツ、デンマーク、ロシア、イラン、米国、UNESCO、 アジア放送連合(ABU、本部マレイシア)など多くの国々の調査団が連日RTAを訪れ、支 援の申し入れをしている。また、UNESCOのカブール事務所でも支援の状況を取材した (P.63∼70は、UNESCO事務所からもらったUNESCOが考えている支援策である)。 1) UNESCO 8人のアフガニスタン人教師をABUに派遣し最新の放送技術を学ばせたり、RTAに対 する番組制作に技術協力している。 2) 英国BBC 100万ポンドの資金援助を表明している。ジャーナリストの研修をRTAで行ったり、ラ ジオ局の整備、FMラジオ送信機の供与を行いたいとの申し入れを行っている。 3) イラン 上記のようにいち早くカブールテレビ送信機とアンテナを供与し、ラジオも500kWの 送信機を供与しようとしているが、反米プロパガンダに使用されるのではないかとして RTA側は敬遠している。また、ヘラート等の地方局の支援を進めようとしている。 4) イタリア 既に数回RTAを訪問し、テレビ局の再建に興味をもっている。 5) 米VOA ラジオ機材の供与を申し出ている。 6) ドイツ ラジオ、テレビ双方で機材供与、番組制作協力について申し出ている。RTA側は、ラ ジオは62年前の第2次世界大戦中にラジオを建設しており、ドイツへの技術的な信頼が 高く、その援助を受け入れたい意向である。 7) デンマーク 政府レベルでなく、NGOがラジオの番組制作に協力している。 8) ロシア テレビ局支援について、日本と協力をシェアしたいと申し出ている。 これ以外にも多くのドナー国からの支援申し出があるが、日本との協力の歴史と技術力 −54− にかんがみ、テレビ局の援助については日本から受けたいとして、マンスールRTA会長か ら支援の要請文をもらった(P.61∼62参照)。 (5) 支援策及び課題 以上のように、放送局の設備は老朽化しているとともに、送信所は破壊されている。ま た全国ネットのための機能も失われている。これらへの復興支援は、効果的に行うことが 必要である。以下、支援策と課題を列挙する。 1) 支援策 a) 添付資料7に支援の総合イメージ図を示す。また、添付資料8に支援計画のスケジ ュールを示す。 b) RTAの新技術の受入能力や、欧米からの援助のあるなかで日本が間断なく支援する ことがRTA側の信頼を得ることができることから、添付資料8に示すように支援はス テップを踏んで行うことが重要である。 c) ステップ1は、今回の事前調査時のてNHKからの取材機器や編集機材の無償貸与や 教育番組の供与である。これによって、日本からの支援が本物であることを印象づけ た。 d) ステップ2は、緊急開発調査項目である(添付資料9)。6月に開催される国民会議 緊急ロヤ・ジルガの中継を中心に、カブール放送局から通信衛星を使って、アフガニ スタン全土及び難民が生活している隣国に放送する。このとき、地域放送局ではこの 衛星からの電波を地上波(VHF)で再送信する。これにより、衛星放送の直接受信の ほか地上放送用の通常の受信機で視聴できるようになる。さらに、受信機を持たない 人たちのために緊急ロヤ・ジルガ開催中は、衛星受信機とビデオプロジェクターを地 方の映画館などに設置し、街頭テレビの現代版としてのシアターテレビで上映する。 また、中央アジア、中近東へも衛星電波が届くことから、他国のアフガニスタン難民 へも情報が届けられる。 これらは、試験放送の位置づけとし、必要機材はリースで行う。試験放送の結果を、 一般無償での本格支援(ステップ3)に反映させる。また、カブール市の送信状態もイ ラン提供の送信機が不安定で小出力であることから、特にロヤ・ジルガ開催にあたり 日本の地上送信機を仮設でもよいから設置してほしいとの強い要請があり、予算、納 期が合えば対応することが望ましい。 e) ステップ3は、一般無償による支援である。全国ネットの本格整備、番組制作機器 の更新、カブール送信所の復興である。支援予定機材リストを添付資料10に示す。な お、放送会館については28年前に建設されたものであるが、躯体としてはしっかりし −55− ており、まだ使用可能と考えられる。しかし、トイレ等のサニタリー設備、空調、電 源、自家発電設備は更新することが望ましい。 f) ステップ4は、カブール市以外の地域放送局の復興支援である。しかし、そのニー ズは理解できるが、今回の調査範囲外であった。今後の調査に期待したい。 g) また、技術協力として、日本での研修生受入れと日本人専門家の派遣支援がある。 今回の調査で、2002年度予定されているテレビ放送技術研修と番組制作研修(いずれ も6月25日から9月14日まで)にRTAから各1名受け入れることを決定した。日本人 専門家については、新機材が導入された段階で逐次派遣することが望ましい。 2) 支援に当たっての課題 a) リカレントコスト CSアップリンクを使った全国放送では、当然のことながらCSトランスポンダの借用 料が必要である。一般に年間で3,000万∼5,000万円の経費がかかるが、この費用をど のように捻出するかが課題である。このリカレントコストについては、日本からの供 与は困難であり、RTA自らが努力して調達することが重要であり、マンスールRTA会 長の手紙でこれを約させている(P.61∼62参照。)。 b) 支援機材をまとめて一挙に導入するのでなく、製造できた機材から徐々に導入して いくこによって、研修を行えるため、受入能力に合わせられると考える。 c) 機材等のハードウェア的な支援や放送技術や制作技術面での研修だけでなく、収入 源の確保など放送局のマネージメント研修や教育、教養番組の提供なども必要であろ う。経営形態としてNHKやBBCのような受信料制度やコマーシャル放送など、国営放 送からの脱却できるシステムの導入も言論・報道の自由にとって重要である。 d) PAL・SECAMが混在する混乱したテレビ放送事情を解決するには、デジタルハイビ ジョンを導入することが望ましい。日本、米国などでは、国際標準化されたハイビジ ョン化へと転換している。この機会に、ハイビジョン機材によって整備することは無 駄な二重投資を避けられる。また、日本・米国・欧州との番組交換の点からもふさわ しい。ハイビジョン機器での整備は、標準テレビでの整備とコスト的にもほとんど変 わらない。まずは、制作システムをハイビジョンで整備し、電波に発射していく部分 でアナログPALに変換して放送することが効果的であろう。 −56−