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新年度を迎えて

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新年度を迎えて
たなか醫院診聞 136 号
方。様々です。そのほとんどが筋力の衰えが進み、私と看護師のリハビリではとて
2012.4.1 発行
新年度を迎えて
も間に合いません。何とか理学療法士が、我がチームに入ってもらって、リハビリ
を専門的にやってもらう。(実際 50 数名の患者さんを抱え、回るだけでも手いっぱ
いな状況を何とかしたい)そして、これは新しい取り組みですが、昨年の 3.11 の教
訓に踏まえて、「独居老人・高齢者夫婦」への緊急時への対応を始める。一つは災
害時にあらかじめ作っておいたリストに従い、安否確認を、更には 24 時間私につな
それなりの雪の降りた 4 月 2 日を迎えました。新しい年度の始まりで、何となく
がるホットラインをつなぐ、あるいは置き薬を準備していただく、来院が途絶えた
緊張した気分の朝です。3 月 15 日に新しい看護師さんを迎えました。鳥谷部あき子
ら、連絡を取ってみる。こんな事業を始めました。いずれ賛同者が増えたら五戸町・
さん。ずっと東京の救急・24 時間管理を要する新生児室で働いてきたベテランの方
新郷村とも手を組んで、役場・医療機関・福祉施設の連携の輪を作る。この他、子
です。おっとりとした、思慮深い、柔らかい言葉と態度で患者さんに接する方のよ
宮頸癌のワクチンと合わせて、コンドームの使用法など性教育を。更に、保育園・
うです。どうかよろしく。20 歳を過ぎたばかりの医療助手高谷さんは、朝の患者さ
幼稚園・小学校の健診、障害者施設との連携。やらなければならないことを書き始
んへの挨拶にも少し慣れてきました。「暑さ寒さも彼岸までと言いますが・・・」
めればまだまだありそうです。あまり大風呂敷を広げ過ぎてもと、思いますが。
一生懸命考えて、少し頬を赤く染めて、i-ticket の順番と、診察の順序が違う事と
を大きな声で話してくれます。時々患者さんから、拍手をもらいながら。
ところで、2 月終わりごろから「田中医院が閉院と聞きましたが」というお話を、
何人かの患者さんや、そのご家族から、「こんなことを聞いていいのでしょうか」
昨年度は震災があり、新しい年度の方針も決めずに走り続けました。二年ぶりに
という前置きをつけて、伺いました。どうも「田中は大腸癌になった、脳卒中らし
「田中医院の方針」を作りなおしました。Human nature,cure and care カッコよ
い、認知症かも。」「十和田に家を買った」「郷里に帰るらしい」「代わりの先生
く英語で書けばこんなことでしょうか。「人と人との関わりを土台に、大事にしな
は○○先生」と。ある時は、前日夜遅くまで、ご家族のことで悩まれた方と話し込
がら治療と看護にあたらせていただく」訳せばまあこんなことです。目標の第一は、
んでいたのですが、翌日その方が、町の図書館前から電話を「とてもそこまで行く
患者さんをトータルに診させていただく。赤ん坊から人生の最期を迎える方まで。
勇気がないのでお聞きしますが、やめるのですか」と涙声で訴えたと、事務の者か
心の問題を抱えた方も、身体の悩み・痛みを持った方も、気付かない隠れた病を持
ら伺いました。どうしてこんなうわさになったのか。去年の夏から秋にかけて確か
った方も、さまざまな角度から丸ごと患者さんを診てゆく。第一は癌。第二は血管
に気力体力とも衰え、外来で何となく「疲れました」と言ったことが元かもしれま
の病気(心筋梗塞・脳卒中に発展する血圧・コレステロール・糖尿病)、そして第
せん。今年 65 歳を迎え、「高齢者」の仲間入りをする私としては、今のような実働
三は、認知症。この 3 つの病気を中心に早期発見・診断・治療に当たらせていただ
11 時間の生活スタイルの維持には、いずれ無理が来ることは感じております。しか
く。癌の早期発見は極めて大事なことで、気付かないうちに、発生し大きくなる。
し、今のところ癌もないし、麻痺もない、ましてボケてもいない(?)。10 数年来
医院のコンピューターに患者さんごとの検査記録があり、町の健診か、二年ごとの
の持病を抱えていますが今のところ薬を飲んで、再発はない。あと 10 年くらいは今
当院での検査をと思っています。血管の病気も、それぞれのコントロールばかりで
のスタイルでやろうと腹をくくっています。出来れば安心して、外来に通ってくれ
なく、頸動脈の厚さをはかることで心筋梗塞・脳梗塞への進展が、ある程度分かる
ている患者さんを任せることのできる先生を見つけようと努力はしていますが。い
ようになってきています。これを定期的に行う。認知症は増加傾向にあり、簡単な
つか書いたことがありますが、外来と検査をその先生に任せ、私は在宅中心に。そ
テストを行い、早期発見、進行してしまった方は、南部病院の金山先生を見習って
うなれば良いなと、淡い夢を描いています。ひょっとして 80 までもつか、いや 85
趣味の日記をつけてもらう。第四は在宅。今 50 数名の方が、家で療養されています。
までと、居直った心境です。いずれにせよ「楽しい医院」「気楽な田舎の医院」で
癌の末期の方、難病の方、60 代前半で脳卒中に倒れた方。呼吸機能や心機能の悪い
あればと思っています。
この間連載を続けて頂いた中路先生が弘前大学医学部の学部長になられ(それに加
えて、そろそろ種切れらしく・・・中路先生、失礼!)今回 2 通のお便りを最終稿
としていただきました。長い間ありがとうございました。(紙面の都合上文字が小
さくなりました)
て思うことがあります。「何が変わったのか・・」と。
■つい 2,3 年前のことだと思います。親友の田中先生からたなか醫院診聞になにか書いてみませんか」とお誘
いを受けました。それでこの「長崎人の青森見聞録」を書かせていただくようになりました。これまで約 20
回くらい書かせていただきましたが、この辺でピリオドを打たせていただこうと思います。大して楽しくない
長崎人の青森見聞録(最終回)
私の文章に長い間お付き合いいただき大変感謝しています。有難うございました。実は私、この 2 月 1 日から
「東日本大震災と閉塞感」
「お世話になりました」
弘前大学医学部社会医学講座 中路重之
弘前大学の医学部長(医学研究科長)を拝命しました。弘前大学医学部全体のかじ取りをする立場になったの
■ため息まじりや、悲しそうな表情で下を向きながら「しかたねえなあ」と言うことが、日本人には多いと思
育です。しかし、この学生教育ほど難しいものはありません。県外から来ている学生もたくさんいます。半数
いませんか。
「しかたない」を英語で言えば There's nothing I can do(できることは何もないんだ→仕方ない
以上が県外出身者です。現代っ子・新人類(この言葉最近ではあまり使わなくなりましたが)の学生もたくさ
んだ)とか、I couldn’t do anything to help(救うことはできなかったんだ→仕方なかったんだ)とか、 I had
んいます。金髪に染めてくる学生もいます。挨拶がなかなかできない学生もいます。このような医学生に、一
no choice(他に選択肢はなかったんだ→仕方なかったんだ)などいくつもあるらしいです。先の東日本大震災
生懸命勉強して、この医師不足の青森県にたくさん残ってもらわなくてはいけません。そのためには、まずは
の直後、多くの人が口にした「しかたないなあ」という言葉はこの英語の意味に近いだろうと思います。原発
青森を好きになってもらい、なおかつ、医師として強い使命感を持ってもらう必要があります。西津軽郡の深
事故を除けば・・。しかし、日本で我々日本人がよく使う「しかたないなあ」はだいぶ意味合いが違うような
浦町に関診療所という小さな診療所があります。大阪から来られた柳善佑先生(もう 70 歳に近くなられました)
気がします。極端に言えば、英語の「しかたない」は本当にどうしようもないことを表し、日本の「しかたな
が奥様と二人で守っておられます。もともと大坂の和泉(いずみ)市立病院で外科医として活躍しておられま
い」は本当は何とかできるんだけれど(何とかしなければならないのだけど)
、いろんな人間的しがらみやシス
した。柳先生が青森に来られて間もない頃、お会いしたことがあります。その時、開口一番「中路先生、青森
テムの欠陥があって前に進めない。だから「くやしい」
「悲しい」ということを表しているんではないでしょう
の患者さんはどうして“めまい”が多いんですか?」と聞かれました。私は、キョトンとして答えることがで
か。そんな気がしてなりません。免許書き換えに免許センターに行きます。そこで講習を受けます。必ず新し
きませんでした。でもあとで分かったことがあります。柳先生は和泉市立病院で外科を担当しておられたので、
いテキストが渡されます。それきり二度と読むことはなく、ごみ箱行きとなります。隠れたベストセラーでし
めまいの患者さんを見ることは少なかったのです。ところが、関診療所の患者さんのほとんどが高齢者ですか
ょう。それにしてもなぜ? しかたない、ですか?日本車は世界一故障が少ないことで知られています。それ
ら、めまいを訴える方が大変多かったのです。このように、環境が異なる深浦町に乗り込んできた柳先生です
なのに世界一高車検にお金を費やしているのはなぜでしょう? しかたない、ですか?お上(かみ)からもら
が、とにかく一生懸命診療をしておられます。また、柳先生は率直で真摯で飾らない方です。分からないこと
った予算。つい数年前までは年度内(3 月一杯)で使いきらなければならなかったです。余らせるということ
があったら、患者さんの前でも臆することなく医学書を開くそうです。なによりも人間として立派な方です。
は許されませんでした。したがって、あわてて不本意な所に出費せざるをえないこともありました。そう言え
私は毎年 6 年生の学生に対し「関診療所見学コース」を設けています。1 泊 2 日で関診療所を訪れ、柳先生の
ば、3 月の温かい日に、暖房をガンガン入れていたのはなぜでしょう? しかたない、ですか?政治家の先生
診療風景を見学させるのです。翌日帰ってきた学生は一人残らず大感激です。まったく例外はありません。
「は
が、週末にセッセと地元に帰って冠婚葬祭に顔を出し、お酌をして回らなければ当選できないのが民主主義な
じめて感動する人間に出会えた」という学生もいます。このような学生たちの反応を見るにつけ、若者という
のでしょうか。一体勉強はいつしておられるのでしょう。しかたない、ですか?みんながみんな「しかたない
のは、新人類とかなんとか言われるけど、やっぱり熱い部分を持ってるんだなあとつくづく感じます。あると
なあ」と思うことがたくさんあって、それでも大声で議論することなく我慢しているのが我々日本人なんだと
き柳先生が大真面目な顔で私に向かって言われました。
「若い奴と言うのは。こちらが一生懸命やればやるほど
思います。そのため、ストレスはどんどんたまっていきます。大酒を飲んでしまいます。日本で自殺が多いの
変化するし、向かってくるし、かならず自分の所に帰ってくる。だから中路先生、若者には一生懸命、大真面
もそのためかもしれません。情報が一瞬にして広まってしまう現代では、子供の情報量も並大抵ではありませ
目で付き合わなくてはいけませんよ」。近年、これほど心に染みた言葉はありません。ということは、私ももっ
ん。昔とは大違いです。大人が「しかたない」で過ごしていたら、子供に教え導くものは出てこないと思いま
ともっと、熱く若者に接していかなければならないということです。青森県の医療が活気づいたら「ひょっと
す。子供は大人を鋭く観察しているからです。今の日本の教育問題の根元がここにあるような気さえします
すれば中路が頑張っているかもしれない」と思ってください。長い間本当にお世話になりました。
昨年の東日本大震災が何かを変えてくれるような気がして、それがせめてもの救いで、望みでした。一年たっ
です。弘前大学医学部には、やらなくてはいけない社会的使命があります。その中で一番大きなものが学生教
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