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配布資料 - 福山大学
地方都市におけるまちなかスタジアム建設の現状と課題 画像出典:サンフレッチェHP 福山大学 経済学部経済学科 藤本倫史 ■自己紹介 藤本倫史(ふじもと のりふみ) 1984年広島市生まれ。 2007年 広島国際学院大学 現代社会学部 卒業 2010年 同大学院現代社会学研究科 博士前期課程修了 2008年 立命館大学スポーツマネジメントスクール修了 スポーツマネジメント会社を経て、スポーツプランナーとして 独立。 2013年NPO法人スポーツコミュニティ広島 副理事長就任 2015年福山大学経済学部経済学科へ 担当はスポーツ経営学、スポーツ社会学など 福山地区にも様々な動き 様々な動き 出典:右 福山市 左 福山SCC 1.研究の背景と目的 日本において、都市部の商業業務集積地(=街なか)にスタジアムを整備する構想が 近年増加 山形 山形市が2013年に新スタジアム建設構想を表明。山形市内の商業団体等からは山形 駅隣接地への整備を要望する意見あり。 富山 富山経済同友会が2013年度から「まちなかスタジアム構想」の検討に着手。 吹田 千里万博公園内に整備。民間からの寄付金で建設され、完成後に吹田市に寄贈。 2016年から供用開始予定。 広島 広島市中心部の旧市民球場跡地や、郊外の広島みなと公園等を想定した様々な構想あり。 2013年度から学識経験者らによる「サッカースタジアム検討協議会」を設置し建設を議論。 徳島 徳島ニュービジネス協議会が2011年度に「街中スタジアム構想」を提言。徳島駅に 隣接する場所を想定。 北九州 北九州市がPFI事業で建設。JR小倉駅から500mの場所に建設。PFI事業入札を2014 年に実施。2017年から供用開始予定。 長崎 長崎の街に賑わいを創出するスタジアム建設をめざし「(仮)茂里町スタジアム」プロ ジェクト実行委員会が署名活動等開始。 那覇 繁華街近接の奥武山公園陸上競技場をサッカー専用スタジアムとして建て替える方向で 市が検討中。 Jリーグにおいても、欧州視察等を踏まえ、、、 ◆ 街の集客装置としてのまちなかスタジアム ◆ スタジアム・ビジネスを重視し、収益力・稼働率向上を をめざす多機能複合型スタジアム 等を提唱。 ・みんなを満足させ、街の誇りとして愛され続けるスタジアム ・文化的にも経済的にも地域社会に貢献するスタジアム ・プロスポーツにふさわしいビジネス環境としてのスタジアム を指向 ※ Jリーグ(2014)『J.LEAGUE NEWS 特別編 「スタジアムの未来」 ↓ 「地域経営」の視点から、スタジアムの効果的活用に着目 しかしながら、自治体によるスタジアム整備(特に、街なかスタジ アム)の円滑な事業化には、様々な課題が想定される。 ◆ 財源の確保 ◆ 土地の確保、建設に係る各種法規制のクリア ◆ ステークホルダーとの合意形成 ◆ 市民、地域団体等との合意形成 ◆ 観戦に適し、かつ街ににぎわいをもたらす事業計画・ 施設計 画づくり、及び運営体制などのソフト面の構築 など 日本のスタジアム整備の事業主体の多くは地方自治体 •地方自治体は厳しい 財政状況に直面して いる。 特に、公共施設整備 に対しては厳しい意 見も多い その下でスタジアム を整備するにあたっ ては… 従来以上に地域社会、 地域経済の活性化に 寄与することが必要。 図2 地方財政の借入金残高の状況 (出典)総務省資料 問題意識 ◆ 日本における「まちなかスタジアム整備」を一層円滑に推進 するためには、どのような視点、手法、政策が必要なのか? ◆ 地域経済の活性化に資するスタジアム整備とは、どのようなものか? →そのあり方が提示できると、合意形成も円滑化するのでは? ◆ 北九州や広島などの事例から、他地域の事業推進に資する視点を提供で きないか? 街なかスタジアムと地域経済に係る論点 〔文献調査より〕 スタジアム整備の潮流 ①国体会場「するスポーツ」の場としてのスタジアム整備【郊外、公園】 →1970年代 ②サッカーW杯誘致のためのスタジアム整備 【郊外、巨大】 →1990年代 ③地域資源を活かすための、身の丈にあったスタジアム整備 【中心市街地、または近辺】 →2000年代 表 1 日本のスタジアム分類(都市政策的観点) 主たる 想定利用者 国体型 スポーツを 「する」人 W杯型 スポーツを 「 す る 」 「みる」人 ま ち な か 市街地中心部 ス ポ ー ツ を 型 付近あるいは 「 す る 」 ( ま ち な 近傍 「 み る 」 かスタジ 「支える」 アム) 人 タイプ 立地場所 の特徴 郊外(運動公 園) 郊外(大規模 施設) 視点、財源 ・スポーツ環境の整備 ・国費依存大 ・大規模イベント誘致 ・国や地方自治体等による公費 整備 ・地域資源活用、まちづくりの 視点重視 ・財源は基金、地方自治体、民 間(市民、企業)など多様化 出典:南博、藤本倫史「都市政策の観点から見た日本の地方都市にお ける「まちなかスタジアム」整備の特長と課題」 現在のまちなかスタジアム構想に大きな影響を与えていると考えられる提言等 ① Jリーグ「スタジアムの未来」に掲げられた9つの哲学 (出典)Jリーグ(2014 ※初出:2011)「スタジアムの未来」 ※執筆 傍士銑太 ◆ 文化 ◆ シンボル ◆ コミュニティー ◆ ホスピタリティ ◆ 街の集客装置 (街なかスタジアム) ◆ 多機能複合型 (スタジアム・ビジネス) ※ 周辺施設と連携した「多機能複合化」の視点も付記 ◆ 環境 ◆ プロフェッショナル ◆ 防災拠点 ② 日本政策投資銀行が提唱する 「スマート・ベニュー概念」 § 日本政策投資銀行が2013年に提唱。これからのまちづくり及びコンパ クトシティの中核施設となる「周辺のエリアマネジメントを含む、複合的な 機能を組み合わせたサステイナブルな交流施設」を示す造語。 § 特に、スタジアム等を核とした多機能複合型スポーツ施設を街なかに整 備することの重要性を説く。 (図表出典)日本政策投資銀行(2013)『スポーツを核とした街づくりを担う 「スマート・ベニュー」~地域の交流空間としての多機能複合型施設~』 参考 (出典)日本政策投資銀行(2013)『スポーツを核とした街づくりを担う 「スマート・ベニュー」~地域の交流空間としての多機能複合型施設~』 表2 スタジアム整備効果と事業化に向けた課題 期待される 事業化に際して想定される課題例 整備効果 ・相応面積の土地を既成市街地内で確保することが必要 ・スタジアムに集まった観戦者による、周辺商店街や観光地等での消費喚 起策、回遊促進策が必要 ・市街地中心部の低・未利用地は、埋蔵文化財等の存在、土壌汚染(工 場跡地の場合)の問題等の状況に直面しやすい 地域内外から多くの観戦 者を定期的に集客するこ とによる経済効果 (市街地の賑わい増進) 再開発プロジェクトの核とな る機能 多機能複合型の施設として 高い稼働率・収益率を 有する公的施設としての整備 ・地権者の合意形成、計画策定および計画に対する市民の合意形成等に長い 時間が必要 ・スタジアムが商業施設、飲食施設などを併設して魅力の高い施設になると、 既存商店街等にとって“脅威”となる。 → スタジアム内への消費者の囲 い込みへの懸念 ・スポーツ施設と周辺施設が連携した多機能化は日本においては事例が少ない 出典:南博、藤本倫史「都市政策の観点から見た日本の地方都市における「まちなかスタジアム」整備の特長と課題」 世界のスタジアム ◆ フォルクスワーゲン・アレナ(ドイツ) キッススペース、視覚障碍者シートにはヘッドフォン、試合当日には 公共交通機関は無料 ◆ザンクド・ヤコブ・バルク (スイス) 高齢者住宅と地下に巨大なショッピングモール、スカイボックス(企業接待) ◆ シュタディオン・マテクブルグ(ドイツ) ドイツ4部リーグ。ラウンジを完備。ゲームだけでなく、グルメも完備 (メインスタンド観戦チケット+食事約14000円) ◆ アムステルダム・アレナ(オランダ) 周辺に商業施設が増え、まちのシンボルとなり、新たな都市開発の一端を 担っている。 傍士銑太「ヨーロッパは思想を持ってスタジアムを作っている」 マツダスタジアム 2015年の観客動員数 211万人(2004年 98万人) →経済効果 256億円(エネルギア研究所)、今期は278億円を試算 →コンセプト「三世代が楽しめるボールパーク」 画像出典:広島東洋カープHP 広島駅周辺再開発にも貢献 →まちの「ブランド力」向上 出典:広島市 事例研究 「まちなかスタジアム」の類型化 ①スポーツ団体・行政主導型ー北九州市 ②プロクラブ・サポーター提唱型ー広島市 ③経済界提唱型-富山市 →今回は広島市を中心に 北九州市 2007年にサッカー、ラグビー関連団体から建設要望 →行政主導と言える形で検討が進んだ。 →行政主導ではあるが、大規模公共事業の必要性や投資効果等を客観的に 評価する公共事業評価システムを市は新たに導入 →第三者機関による評価やパブリックコメントの実施等によって透明性を保って 事業化に向けた検討が行われた。 →手順を踏んだ結果として、2013年夏に事業化が事実上決定するまで一定の 時間を要した。 →建設場所はJR小倉駅近くに位置し、周辺のコンベンション施設等と一体とな り賑わいをもたらすことを重視している点が特徴的 →スタジアムとして日本初となるPFIで整備され、2017年供用開始予定である。 ・新幹線停車駅からの近さ全国1位 ・海に隣接するスタジアムは全国初 (北九州市HP) エリアマネジメント 建設予定地面積が狭い(2.3ha) スタジアム単体で「多機能複合型」を目指すのではなく、隣接する施設も活かして地 域一帯で「多機能複合ゾーン」を目指す発想。 動員数1万5千人→将来的に2万人へ増設可能 私どもの研究では 「多機能複合型」→「多機能複合化」がポイント 富山市 富山経済同友会地域活性化委員会が2015年4月、富山市の特徴であるコン パクトシティ施策に資する点に着目 →富山市中心部の富山城址公園内を主候補地とした多機能複合型のまちな かスタジアムの整備を提唱 →雪国の特性を踏まえ開閉式屋根を持つスタジアムを想定 →詳細な検討も行われた意欲的な構想であるが、行政や市民等との合意形 成には課題を残す。 →徳島の経済団体の提唱でも徳島城址が建設場所に想定されており、地方 都市の中心部における城址のあり方は論点の一つと言えよう。 富山まちなかスタジアム案(富山経済同友会HP) 広島の現状と課題 広島広域公園陸上競技場 "エディオンスタジアム広島" § 開場 1992年9月(修繕1998年、芝、諸施設) § 所有者 広島市 § 運用者 広島市スポーツ協会 § グラウンド天然芝(107m×73.3m) § ピッチサイズ 105m×68m § 収容能力 50,000人 § アクセス アストラムライン、バス、乗用車 § 建設目的 1994年アジア競技大会および1996年第51回国民体育大会 の主会場地区として整備。 また、周辺地域「西風新都エリア」のシンボル機能としても期待された。 →交通インフラ整備も含めて約4000億円を投入。今も250億円以上の負債 を抱える。 課題 当初の役割を担えない、期待できない →ここ5年で毎年平均約3億円の赤字経営 →ハード、ソフトともに多くの問題を抱える →現状維持すら危うい 1.交通アクセス性の課題 ・中心市街地から遠く、長く、高い ・公共交通が少なく、輸送能力が低い ・周辺の交通流に支障をきたしている ・絶対的な駐車場不足 ・シャトルバスの利便性が低い 2.立地性の課題 ・回遊性できる地理的条件でない ・集客性に欠ける恐れがある 3.構造・設備上の課題 ・トラックがあり、観戦しづらい ・客席の大部分に屋根がない ・空席が目立ち、選手と観客の一体感が薄い ・背もたれがなく、リラックスして観戦できない ・大型映像映像装置の故障 4.運営上の課題 ・日程等の調整が困難 ・大型イベントを開催できる可能性を活かせて いない これらの問題点から、、、 Jリーグのクラブライセンス スタジアムランキング 51位 競技面だけでなく地域資源としても多くの問題を抱える しかし、なぜ建設ができないのか? スタジアム建設の動き 2003年4月 スタジアム推進プロジェクト設立 2003年10月 広島市財政非常事態宣言 2006年6月以降 スタジアム推進プロジェクト事実上休止 2009年3月 マツダスタジアム完成 2009年10月 スタジアム推進プロジェクト再開、数年後事実上休止 2011年1月 建設要望署名活動開始 2012年8月 県サッカー協会・サンフレッチェ広島・同球団 後援会は建設要望書を県および市に提出 2013年1月 369,638件の建設要望署名を県および市に提出 2013年6月 県・市・商工会議所・県サッカー協会協議会設置 クラブと市民の後押し(クラブ・サポーター提唱型) 何度も推進活動が休止になっているが、サポーターや市民などが 自主的にフォーラム開催やネットでの情報発信し、復活 事例 約5か月間で約37万人の署名活動を集める →世論調査でも高い支持率、クラブも2012,13年と連覇 →公的なスタジアム検討協議会設置まで結びつける 1.サッカースタジアム検討協議会 1年で終了する予定だったが、半年間延長。19回まで開催。(2014年11月まで) サッカー関係者、経済界、学識経験者などがメンバー 旧広島市民球場跡地と広島みなと公園が最終候補に 2.スタジアム建設候補地(広域公園を除く) 候補地① 旧広島市民球場跡地 広島駅 原爆ドーム 中心市街地 候補地② 広島みなと公園 現在の状況 2015年4月12日 広島市長選挙 当時、サンフレッチェ広島の社長であった小谷野薫氏が 市長選へ立候補 →しかし、現職の市長に約20万票の差をつけられ、落選 →活動は停止 →現在、広島県や市がスタジアム建設の調査(旧広島市 民球場跡地とみなと公園)のために予算を取得している →その後、4者会談などを行う →第3の候補地 広島市中央公園を検討 →具体的な建設の見込みは立っていない なぜ、建設が進まないのか? ①スタジアムを建設する理由と意識の変化 2002年の日韓ワールドカップの試合開催やキャンプ誘致失敗 →新スタジアム建設 →ここでの当事者やサポーターの意識としては、快適なスタジアムを作るという ことに集中 →ワールドカップを契機に、郊外へ巨大なスタジアムを建設することが主流 →人口規模やアイデンティティを創出するまちづくりの意識は薄かった。 →現に、この時期に地方都市に作られた宮城や大分のスタジアムは利用方法 や経営で非常に苦しむ →現在、Jリーグなどが提唱しているまちの中心部や繁華街を起点として、まち の活性化を目的とした「まちなかスタジアム」という概念が出てきた。 →スポーツを観戦することの少ない人々のスタジアムイメージや意識は、都市 郊外型の大規模施設であり、スポーツをするための総合運動公園 この10年間でそのような議論が整理されないまま、混同し、市民をはじめとした 利害関係者いわゆるステークホルダーが混乱しているままではないか。 =広島市全体がまちづくりやスポーツ文化への意識が、未成熟である なぜ、建設が進まないのか? ②広島市の長期ビジョン欠落 →企業でも、「このような会社にしたい」というものがあって、企業活動をする。 →広島市はそのようなビジョンが皆無に等しい。 →極論、「このようなまちにしたい!」というビジョンがあり、旧広島市民球場跡 地へ文化施設や緑地公園にするならば、理解できる →しかし、そのようなものは存在しない。 →「とりあえずスタジアムを作ればいい」=血税の無駄 広島市が国際平和文化都市というものを謳うのであれば、、、 →国際平和や国際交流PRし、まちを活性化させるツールとしてスポーツを活用 事例:マツダスタジアム →行政はあらゆるスキームを用いて、建設を推進 →このあたりにも矛盾を抱えている。 →市民やファンに関しても、圧倒的に旧広島市民球場跡地の建て替え案を支 持していたが、建設が決まった途端、そのことは忘れ去られている。 →このような経緯をみても街全体のビジョンが欠落している。 →その場しのぎの都市計画や都市政策となっている なぜ、建設が進まないのか? ③リーダーシップの欠如 この問題はずっと誰がリーダーシップをとるのかがはっきりとしない。 →マツダスタジアムに関しては秋葉前市長が、リーダーシップを発揮 ・クラブやサポーターの熱意で、2011年に本格的に活動が再開 ・署名活動を積極的に行い、2013年に約37万もの署名を集めた ・行政も2013年6月に公的なサッカースタジアム検討協議会を発足 しかし、 責任の所在は? 何を話し合い、誰が決断をし、建設を推進していくのか? →これが、曖昧なままで、協議会が進行 →何を検討するのかが明確にならないまま、進行された →2016年3月末までに、候補地を選定し、建設を決定する予定 この理由に関して、、、 →3月初旬に開催されたサンフレッチェ広島の久保会長の会見の影響 まとめ クラブがそこまで追いつめられたのは、なぜ? →日本の場合、大規模施設を建設する時に行政との連携は不可欠 →クラブは今回の会見は一種の賭け →広島県や広島市はクラブにとって重要なステークホルダーであり、協力を得られ なくなってしまう可能性がある。 ゆえに、 リーダーシップの欠如が原因。 →サンフレッチェをまちと市民をつなぐコミュニティ形成や醸成できるもの =ソーシャルキャピタル(社会関係資本)として捉えられるかどうかである。 そのためには・・・ スポーツの機能が高いだけでなく、都市を発信あるいは表現する場所 どれだけ戦略的に「魅せる」ことができるか そのためにはビジョンとスキ-ムが必要 ご清聴ありがとうございました