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研究成果 - アクセス空間 - Keio University

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研究成果 - アクセス空間 - Keio University
P-3
実世界実時間ネットワーク通信工学
プロジェクトリーダ:
山中 直明
開放環境科学専攻
教授
笹瀬 巌
開放環境科学専攻
教授
天野 英晴
開放環境科学専攻
教授
大槻 知明
開放環境科学専攻
教授
中川 正雄
開放環境科学専攻
教授
浜田 望
総合デザイン工学専攻
教授
重野 寛
開放環境科学専攻
准教授
眞田 幸俊
総合デザイン工学専攻
准教授
矢向 高弘
総合デザイン工学専攻
准教授
西 宏章
総合デザイン工学専攻
准教授
山口 正泰
特別研究教員
准教授
安達 宏一
開放環境科学専攻
訪問研究員
清水 翔
開放環境科学専攻
後期博士課程 3 年
稲森 真美子
総合デザイン工学専攻
後期博士課程 3 年
M. Liyanage
開放環境科学専攻
後期博士課程 3 年
A. Fung
開放環境科学専攻
後期博士課程 3 年
S. Bouk
開放環境科学専攻
後期博士課程 3 年
O. Souihli
開放環境科学専攻
後期博士課程 2 年
C. Sertthin
開放環境科学専攻
後期博士課程 2 年
浅田 順之
開放環境科学専攻
後期博士課程 2 年
M. Sann Maw
開放環境科学専攻
後期博士課程 2 年
菊田 洸
開放環境科学専攻
後期博士課程 1 年
X. Guan
開放環境科学専攻
後期博士課程 1 年
B. Norharyati
開放環境科学専攻
後期博士課程 1 年
西村 晴輝
総合デザイン工学専攻
後期博士課程 1 年
事業推進担当者:
研究推進協力者:
RA:
I
研究の概要
(1) 背景
人間の感覚に対して、十分に支援をしうるアクセス空間を実現するため、より
感覚に近い形での通信を行なう基盤的環境が必要となってきている。そのため、
ユビキタスなアクセス空間を、人間の感覚やアプリケーション、及びワイヤレス
技術を含めたネットワークの基盤技術より検討する。
(2) 目的、計画
本プロジェクトの目的は、「連携」をキーワードに、特にアクセス空間である
ことを意識して研究を行なうことである。つまり、アプリケーションとネットワ
ークとの連携、知覚と通信の連携、ネットワークとデバイスの連携、産業界とア
カデミアの連携、国際連携である。これらを実現するために、大局的に以下の計
画として進める。
H19(初年度)

プロジェクトの立上げ

連携プロジェクトルーム整備

RA を中心とした連携とコミュニケーション

高度国際連携の立上げ
H20(昨年実績)

アクセス空間技術、ワイヤレスネットワーク技術の国際連携

上記分野の海外研究者の招聘

コアパートナーとのワークショップ等の連携の開始(5 日)

NoE(Network of Excellence)の拡大とワークショップの開催

RA の海外インターンシップの拡大

プロジェクト内での RA、教員による定期的なワークショップ

ダブルスーパーバイザの実施
H21(今年度実績)

連携中間のサマリー

レビューによる計画の見直し

NoE(Network of Excellence)との連携の強化(Ghent 大学)

NoE(Network of Excellence)の拡大とワークショップの開催

RA の 6 カ月から1年程度の海外研究活動の実施

短期(1か月程度)の RA のインターンシップ実施

学位論文の英語化

ダブルスーパーバイザの本格的実施
H22、H23(計画)

プロジェクトとしてのコアパートナーとキーパーソンの招聘

海外拠点化、及び海外からの拠点誘致

ダブルスーパーバイザ

海外での博士指導と連携
(3) 意義
本プロジェクトは、他プロジェクトと連携して、アプリケーションとインフラ、
デバイス技術を融合させるものである。個々は、技術に対して垂直に深掘りをし、
分野、産業、技術、国際の連携を水平に行なう「T 字」型のプロジェクトが特色
である。国外では、Ghent 大学、及びインペリアルカレッジ、国立交通大学(台
湾)、シドニー大学とすでにタイトな関係を作り、ワークショップや共同研究を実
施し、研究の連携を行なっている。また海外研究活動のため RA を国際連携拠点
へ派遣した。そして、多くの著名な外国人教授、エンジニアを招聘してレクチャ
ーや共同研究を行なってもらい、グローバルな能力が高い Ph.D.の育成に努める。
本プロジェクトの成果は、単にアカデミアとして論文等で発表するだけでなく、
産業界へのトランスファーを行なっており、
「可視光通信コンソーシアム」、
「フォ
トニックインターネットラボ」、「けいはんなオープンラボ」等、産学プロジェク
トへつなげた。
(4) 研究成果概要
実時間、実空間ネットワークの研究は、ネットワークのインフラ技術に関する
ものから、無線のアーキテクチャ、電磁波伝搬、さらには新しい協調通信や、ア
プリケーションに及ぶ。まず、ブロードバンドモバイルワイヤレス通信に関して、
以下の研究成果をあげた。第1に、CQI (Channel Quality Indicator)に基づくサ
ブチャネル割り当て法及び OVSF (Orthogonal Variable Spreading Factor)符号
割り当て法を提案した。計算機シミュレーションにより、rate adaptation を用い
た OFDMA-CDM において、提案のサブチャネル割り当て及び OVSF 符号割り当
て法がフェージングの影響を低減できることを示した。第2に、OFDMA-CDM
(Orthogonal Frequency Division Multiple Access-Code Division Multiplexing)
において、フェージング変動による拡散符号の直交性の崩れから生じる SI (Self
Interference)を抑制する重み付けを活かすサブチャネル割り当て法を提案した。
第3に、定常状態のカルマンゲインを用いてチャネル推定を行うことで計算負荷
を大幅に削減することを試みた。カルマンフィルタは理想的には定常状態で用い
ることが必要であるため、定常状態のカルマンゲインを用いることにより、フィ
ルタの収束性の影響を受ける従来法よりも良い特性を示した。第4に、マルコフ
過程に基づいて、サブキャリアおよび電力を動的に割り当てる方法を提案した。
提案はサブキャリア数すなわち状態数が多い場合に適用することを想定している。
次に、QoS ベースの MIMO システムにおいて、変調方式と偏波面を適応的に
制御して、システムスループットを最大にする方法を提案した。また、MLSTBC
に お け る Segment LLL を 基 に し た LR aided SIC 検 出 Multi-Layered
Space-Time Coding (MLSTC)アーキテクキャにおいて新しい格子基底縮小アル
ゴリズムを用いた LR aided Successive Interference Cancellation (LR aided
SIC)検出方式を提案した。
アドホックネットワーク、センサーネットワークに関する研究としては、
WSANs において、(RT)2 におけるリアルタイム性とアクタの動作の信頼性を保
ちつつ、制限時間内にアクタに到達することができない冗長なパケット送信を制
御することにより、電力消費を低減するトランスポートプロトコルを提案した。
さらに、無線アドホックネットワークにおける最少ホップ数のバックアップ経
路と Packet Salvage 機能を持つマルチパスルーチング方式として、経路の選択
基準を変更することで、バックアップ経路のホップ数を減らすと同時に、packet
salvage が確実に行える環境を作成するマルチパスルーチング方式を提案した。
さらに、MANET において、クラスタリング構造を維持するための制御パケッ
トのオーバーヘッドを減らし電力効率を高めるクラスタリング方式を提案し、加
えてモバイルアドホックネットワークにおける auto configuration 方式を提案し
た。MAMET に関する研究としては、他にも MANET (Mobile Adhoc NET work)
および既存のネットワークを相互接続するために、残存電力、速度、ノードのホ
ップ数などの複数メトリックを考慮した最適ゲートウェイ選択法の提案や、
End-to-End の QoS パラメータである稼働時間、ルータの容量および遅延等を考
慮して、ゲートウエイの候補となるノードからゲートウエイを選択する方法を提
案した。
新しい無線通信方式である協調通信に関しては、IEEE802.11 を用いた協調通
信においてリレー方式を適応的に選択することにより、伝送特性を向上させる方
式 を 提 案 し た 。 す な わ ち リ レ ー 方 式 と し て は 、AaF(Amplify-and–Forward)、
DaF(Decode-and-Forward)が候補として考えられ、これにリレーしないでノード
間で直接通信を行う direct transmission を加えて、この 3 者の中からリレー方
式を適応的に選択することで伝送特性の向上を図るものである。また、一般に分
散アドホックルーティングでは、ノード間が協調することによるダイバシチ効果
により、特性損失の補償を図っている。本研究では、各々のホップでエネルギー
消費を低減するように Source がリレーノードを選択する分散アドホックルーテ
ィングを提案する。モバイルアドホックネットワークの重要な問題である極小問
題に対して位置・速度・方角情報を用いた改良型 Greedy Forwarding により、
位置情報を利用したルーチングプロトコルに共通の問題である極小問題を事前に
回避する Greedy ルーチングプロトコルを提案した。また、Peer-to-Peer ファイ
ル共有システムにおけるファイル検索手法として提案されている Skip Graph に
おいて、Skip Graph 上の論理アドレスである Membership Vector(MV)を隣接ノ
ードのものと比較し、MV の一致する桁数が多いノード同士が近い位置に集まる
よう MV を交換することにより、少ないホップ数でファイルを検索する手法を提
案した。アクセス技術の高度化には基礎的な無線の技術やレーダの応用が考えら
れる。具体的には、放送波を用いたバイスタティックレーダにおける MUSIC 法
を用いた移動目標検出法を検討した。また、地上デジタルテレビジョン放送を 用
いたバイスタティックレーダにおいて、送信局から受信局へ直接伝播する直接波
等の不要波の抑圧について検討した。さらに、伝搬問題としても協調ダイバーシ
チを用いた MIMO 通信におけるキーホール問題の解決法を検討した。さらに、
障害物によって生じるセンサノードの空白領域を避けるプロトコルとして、各ノ
ードの周囲情報を用いて空白領域を避けるための利得を定義し、それを用いたゲ
ーム理論に基づくプロトコルを提案した。計算機シミュレーションにより、提案
プロトコルは空白領域の問題を解決した。新しいセンシング技術としては、汎用
パーソナルコンピュータをベースとした低コストで操作の容易な多地点雷観測シ
ステムの実現を目標として、その構成法の研究を進めた。
また、アクセス技術の高度化と無線技術との連携の検討として、高度ダイバー
シチ技術、分数間隔サンプリング MIMO-OFDM 受信機、時間シフトサンプリン
グ受信方式における干渉除去、分数間隔サンプリングにおけるサンプルレート変
換、マルチユーザ環境における Alternative Spreading Code を用いた分数間隔サ
ンプリング OFCDM システム、サブキャリアベース最大比合成を用いた分数間隔
サンプリング Coded OFDM システムにおける Metric 重み付け法、FS-OFDM 受
信機における非等間隔サンプル点選択法、FS-OFDM におけるプリコーディング
送信パスダイバーシチ技術について検討した。
アプリケーション及び上位レイヤに関する研究としては、ブロックのレアリテ
ィを考慮した効率的な P2P ファイル共有手法の検討を行った。
また、音声・画像の多元的処理に関する応用研究として、DCT 符号化圧縮画像
に対する高速・高精度 SR 技術 Context-Aware なネットワークプロセッサに関す
る研究としては、インペリアルカレッジで行われた GCOE ワークショップで発表
した。重要な部位は論理回路記述を終えているが、継続して全体の論理回路設計
を行っている。まったく新しい研究として、エネルギーを最小化するネットワー
クの設計手法として、通信品質を考慮したエネルギー消費を減少させる通信網再
構成手法を検討した。
ネットワークの応用技術として、複数経路を用いた無線通信に対する MDC の
適用と評価では、複数の通信経路を同時並行に用いることができるネットワーク
環境において、それらの通信経路を効率的に利用するための通信方式として多重
記述符号化(Multiple Description Coding: MDC)を用いることを検討した。
最後に、システム化技術としてインタコネクションネットワークの研究開発を
行ない、それの応用として、KNIVES のもう一つの特徴として、RAN(Room Area
Network)の統合がある。KNIVES と接続可能な ZigBee 端末を開発し、センサネ
ットワークを構築することで、配線工事の手間を解消し、各種センサを無線化す
るといった設置の容易性、さらにセンサを複数配置し耐故障性を確保することに
よる計測精度の向上を実現する。特に環境情報の測定においては、その場所の環
境を最もよく反映する場所にセンサを設置することが望ましいが、その場所の配
線環境がいつもよいとは限らない。そこで、ZigBee、あるいは WLAN、Bluetooth
などを用いたリモートセンシングを行う。また、より精度のよい計測と制御を実
現するために、コンセント毎の電力使用量をリアルタイムに計測できる一般家庭
用分電盤ライフィニティに KNIVES を搭載することで、さらなる効率の良いエ
ネルギーマネジメントを実現した。
(5) 国際連携実施状況
日
時:4/20(月)13:00-14:30
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者と題目:
①13:00-13:50
Prof. Jae Koo Lee at Pohang University of Science and
Technology “Alexander and Temujin”
②13:50-14:30
東北大学流体科学研究所、寒川誠二教授「究極のトップダウン加
工が拓く先端ナノデバイス」
日
時:5/14(木)14:45-16:15
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者:Prof. Mohammad Ghavami、ロンドン大学キングスカレッジ校
題
目:“UWB Fundamentals, Applications and Advanced Topics” and UWB
activities at King’s College London
日
時:7/2(木)14:45-16:15
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者:Prof. Mohammad Ghavami、ロンドン大学キングスカレッジ校
題
目:“UWB Fundamentals, Applications and Advanced Topics” and UWB
activities at King’s College London
日
時:7/9(木)13:00-14:30
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者:Assistant Prof. 小林麻里氏、Supelec (Gif-sur-Yvette, France)
題
目:“Physical layer security in broadcast channels : overview and practical
approaches”
日
時:7/8(水)9:00-10:30
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者:Associate Professor Aleksandra Apostoluk at Lyon Institute of
Nanotechnology
題
目:“Activities on Lyon Institute of Nanotechnology”
日
時:7/28(火)16:30-18:00
場
所:セミナールーム 4 (14-204)
講演者:Associate Professor Maksim Skorobogatiy at Ecole Polytechnique de
Montreal
題
目:“Merging Nanotechnology and Photonics – new generation of
photonic crystal fiber devices”
日
時:7/30(木)15:00-16:30
場
所:ディスカッションルーム 9 (14-219)
講演者:Prof. Yshai Avishai at Ben Gurion University
題
目:“Spin-orbit Effects in One Dimensional Wires”
日
時:9/24(木)11:00-12:30
場
所:ディスカッションルーム 1(14-211)
講演者:Dr. Marco Cristani at Dipartimento di Informatica, Universita degli
Studi di Verona, Italy
題
目:“Geolocation of Images and Generative Modelling of Dialogs”
日
時:9/25(金)14:45-16:15
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者と題目:
①Mr. Hsiao-Wuen Hon, Managing Director at Microsoft Research
“MSR Asia Research Overview”
②Mr. Yasuyuki Matsushita at Microsoft Research
“The Latest Works in Visual Computing Group”
③Mr. Tetsuya Sakai at Microsoft Research
“The Latest Works in Web Intelligence Group”
日
時:11/10(火)13:00-14:30
場
所:11 棟 41 号室
講演者:北九州市立大学・国際環境工学部・情報メディア工学科、
イヴァン・ゴドレール教授
題
目:「捩りワイヤを用いた関節駆動方式とロボット指の駆動への応用」
日
時:11/26(木)13:30-16:00
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
①13:30-14:30
Prof. Bir Bhanu at University of California, Riverside
“Human Recognition in a Video Network”
②14:40-15:20
Assistant Professor Julien Pilet at Keio University
“Scalable Multiple Object Tracking”
③15:20-16:00
Dr. Francois de Sorbier at University Paris-Est/Keio
University
“Visual Approaches to Improve Presence in Virtual Reality”
日
時:11/27(金)14:45-16:15
場
所:セミナールーム 3 (14-203)
講演者:Mr. Tae Won Ban, Ph.D. candidate at KAIST
題
目:“Fundamental Characteristics and Performance of Underlay-based
Spectrum Sharing System”
日
時:12/3(木)13:00-14:30
場
所:セミナールーム 4 (14-204)
講演者:Dr. Hasnain Lakdawala at Intel Labs., Intel Corporation
題
目:“Design Challenges in Multi-Radios in Scaled CMOS”
日
時:12/21(月)10:45-12:15
場
所:ディスカッションルーム 1 (14-211)
講演者:Prof. Rong Wang, Illinois Institute of Technology, USA
題
目:“Probing Biological Systems on the Nano-Scale”
日
時:2/4(木)13:30-15:00
場
所:ディスカッションルーム 1 (14-211)
講演者:Prof. Didier Colle, Ghent University, Belgium
題
目:“Energy-Efficiency in Telecommunications Networks: Link-by-Link
versus End-to-End Grooming”
(6) 企業に対する連携強化活動
今年度は、アドバイザーの指導に基づき、広く企業のメンバーとの連携交流を
図った。具体的には、企業のメンバーを入れた技術討論会として PhD フォーラ
ムと企業訪問セミナー各 1 回を開催した。PhD フォーラムは、矢上キャンパスで
のプレゼンテーションやポスターセッションによる技術的な交流である。企業訪
問セミナーは、博士のキャリアパスとしても最重要な、日立中央研究所において、
企業の実際の研究者との技術討論を図った。
PhD フォーラム
開催日時:
2009年5月7日(木) 14:30~19:00
会場:
慶應義塾大学 矢上キャンパス 創想館(14棟)
フォーラム:
マルチメディアルーム(地下2階)
懇親会:
フォーラム(7 階)
プログラム:
14:00 開場
14:30~14:50
挨拶/グローバル COE プログラムの活動概要
大西 公平(拠点リーダ 総合デザイン工学専攻)
14:50~16:50
研究紹介とポスターセッション(ポスター17 件、次項参照)
以下の6名については、口頭発表も行います。
G-COE 研究員(博士課程学生)

清水 翔(山中研究室)

稲森 真美子(眞田研究室)

SOUIHLI, Oussama(大槻研究室)

伊熊 雄一郎(津田研究室)

内山 英昭(齋藤研究室)

矢代 大祐(大西研究室)
16:50~17:00
アンケート
17:00~18:00
研究室見学会
(齋藤研究室、西研究室、眞田研究室、大西研究室)
18:00~19:00
懇親会
内容: 30 名以上の企業のエンジニア、研究者を集めて、PhD フォーラムを開催
した。GCOE の概要と研究動向に続き、ポスターセッションによる各人
の研究成果報告を行い、企業との接点を求めた。特に、基礎研究における
大学の研究の重要性は高い一方、研究成果が社会に(企業に)直接貢献で
きていない点が、指摘されており、共同研究や、受託研究等を通して、今
後産官学の接点を探す。また、PhD の学生にとっては、アカデミアだけ
ではなく、企業の研究者としてのキャリアパスを見つけることが出来た。
今後は、無線の分野も含めた先端企業へのフォーラムの展開が必要である。
企業訪問セミナー
日立中央研究所技術討論会
日時:
7 月 13 日
月曜日
集合:
正門 9:15
時間厳守(現地集合)
時間:
9:30~11:30
ディスカッションアイテム:
光加入者系技術 10GEPON
ルータアーキテクチャ
内容: 主に、光アクセスシステムの技術のチュートリアルと、10GEPON の標準
化のレクチャを受けた。その後、研究室で現在開発中の 10GEPON シス
テムの実験の説明を受け、世界標準への取り組みを紹介された。日立製作
所は 300 名を超える PhD を雇用し、技術的な先導性の確保を目指してお
り、GCOE のメンバーに大きな刺激となった。
ポスター発表者とタイトル一覧 G-COE 研究員(博士課程学生)
1. 清水 翔 (山中研究室) “International Interoperability trail of GMPLS
controlled carrier grade Ethernet between Japan and Belgium,” “日本-
ベルギー間における GMPLS 制御キャリアグレードイーサネットの国際相互
接続実験”
2. 稲森 真美子 (眞田研究室) “ギガビットデータ伝送のための Fractional
Sampling MIMO-OFDM 受信機”、“Fractional Sampling MIMO-OFDM
Receiver for Gbps Data Transmission”
3. FUNG, Alex (笹瀬研究室) “光ネットワークにおけるマルチキャスト木の波
長 割 り 当 て 方 法 ”、 “Wavelength Assignment for Light Tree in WDM
Network”
4. BOUK, Safdar Hussain (笹瀬研究室) “Energy Efficient and Stable Weight
Based Clustering for Mobile Ad-Hoc Networks”
5. LIYANAGE, Maduranga (笹瀬研究室) “Channel Esstimation for OFDM in
Fractionally-Spaced Channels”
6. 浅田 順之 (笹瀬研究室) “デジタル波を用いたバイスタティックレーダの研
究”、“Study on the Bistatic Radar Using Digital Waves”
7. SOUIHLI, Oussama (大槻研究室) “Cooperative Diversity Can Mitigate
Keyhole Effects in Wireless MIMO Systems”
8. SERTTHIN, Chinnapat (中川研究室) “Indoor Positioning System”
9. 菊田 洸 (山中研究室) “Establishment of VLAN Tag Swapped Path on
GMPLS controlling Wide Area Layer-2 Network”
10. GUAN, Xin (大槻研究室) “Game-Theoretic Approach based Routing
Protocol for Wireless Sensor Networks with Obstacles”
11. SANN MAW, Maung (笹瀬研究室) “Adaptive Polarization and Bit Loading
with SVD for The Practical MIMO Communication Channel Environment”
12. 久保田 良輔 (斎木研究室) “InAs/InP 量子ドットのナノ光物性探索:量子暗
号通信に向けた単一光子源”、“Investigation of nano optical properties in
InAs/InP quantum dots: single photon source for quantum cryptography”
13. 伊熊 雄一郎 (津田研究室) “アレイ導波路回折格子と集積型レンズを用いた
可変光分散補償器”、“Tunable Optical Dispersion Compensator Using
Integrated Lenses in an Arrayed-Waveguide Grating”
14. 新津 葵一 (黒田研究室) “無線通信技術を用いた三次元プロセッサの開発 ~
誘導結合リンクを用いた 90nm マルチコア・プロセッサと 65nm SRAM の三
次元システム集積~” “A 3D Processor using Wireless Communication ~A
3D System Integration of a 90nm CMOS Multi-Core Processor and a 65nm
CMOS SRAM~”
15. 岩村 俊輔 (池原研究室) “Lossless-to-lossy unified image coding using
lifting based filter banks”
16. 内山 英昭 (齋藤研究室) “拡張現実に基づく地図を用いた GIS データの可視
化”、“Geovisualization with a 2D Map by Augmented Reality”
17. 矢 代 大 祐 ( 大 西 研 究 室 ) “ 触 覚 通 信 の た め の デ ー タ 伝 送 方 式 ”、 “Data
Transmission Scheme for Haptic Communication”
(7) ワークショップ報告国際連携実施状況
ワークショップ(1)
シドニー大学-慶應大学ワークショップ
日
時:2010 年 2 月9日
場
所:シドニー大学(オーストラリア)Electrical Engineering
概
要:今回は次世代ネットワークアーキテクチャ、次世代モバイルネットワー
クアーキテクチャおよび無線、モバイル技術についてワークショップを
行った。今回はシドニー大学との初めてのワークショップであるため、
GCOE の RA と先方の研究グループとの間で講演形式により情報交換を
行った。先方の研究グループは Prof. Abbas Jamalipour が率いる、ワイ
ヤレスネットワーキンググループ(WiNG)である。WiNG ではワイヤレ
ス LAN や携帯システムなどのモバイルネットワークのアーキテクチャ
設計およびプロトコルに関する研究や、アドホックネットワーク、ワイ
ヤレスセンサネットワークやアドホックネットワークのルーチングに
関する研究などが行われており、8 人の PhD 学生が研究に従事している。
以下に、今回のワークショップでの先方の講演に関し、1 点だけ抜粋す
る。
i) A Cooperative Cellular Architecture with Emphasis on Traffic Load
Balancing, 発表者:Nejla Ghaboosi
次世代のネットワークシステムでは、バースト発生したパケットが負荷
集中によるネットワーク輻輳を引き起こし、一部のユーザーの通信障害
を招いてしまう。本研究ではデバイスのアドホックとしてのインタフェ
ースを利用し、モバイル端末同士を協調的に作用させることによって負
荷分散を行い、ネットワークの輻輳を解決する。シミュレーションの結
果、1 つのセルにおいておよそ 27%のブロック率が改善された。
また、相互の講演の後、WiNG の見学、研究室の見学を行った。
出席者:From Keio University:
Prof. Naoaki Yamanaka, Prof. Masayasu Yamaguchi, Prof. Yukitoshi
Sanada, Mr. Sho Shimizu, Mr. Alex Fung, Mr. Maduranga Liyanage,
Mr. Junji Asada, Mr. Oussama Souihli, Mr. Chinnapat Sertthin,
Mr. Kou Kikuta, Mr. Maung Sann Maw, Mr. Haruki Nishimura
From the University of Sydney:
Prof. Abbas Jamalipour, Dr. Kumudu Munasinghe,
Mr. Fazirulhisyam Hashim, Mr. Farshad Javadi, Mr. Yaozhou Ma,
Mr. Fan Bai, Mr. Tadeusz Wysocki, Ms. Nejla Ghaboosi
プログラム:
9:15 - 9:30
Opening
9:30 - 11:00
Technical Session 1
1. Cloud Control Plane (Cloud C-plane): New Network
Architecture for Reducing the Energy Consumption of
Networks (Sho Shimizu)
2. Ecologically-Inspired Adaptive Network Resource
Management Framework for NGMN (Kumudu Munasinghe)
3. Multicast Routing and Wavelength Assignment for Dynamic
Multicast Sessions in WDM Network Using Minimum Delta
(Alex Fung)
4. Biologically Inspired Security Framework for Complex
Heterogeneous Networks (Fazirulhisyam Hashim)
11:30 - 12:30 Technical Session 2
5. Secure Opportunistic Content Dissemination in
Intermittently Connected Mobile Ad Hoc Networks (Yaozhou
Ma)
6. Statistical Analysis of Quantization Noise in an End-to-End
OFDM Link (Maduranga Liyanage)
7. A Cooperative Cellular Architecture with Emphasis on
Traffic Load Balancing (Nejla Ghaboosi)
8. Moving Target Detection with MUSIC for the Bistatic Rader
Using Digital Broadcasting Signals (Junji Asada)
12:30 - 14:00 Networking Lunch
14:00 - 15:30 Technical Session 3
9. An Ecologically Inspired Intelligent Agent Assisted Wireless
Sensor Network for Data Reconstruction (Fan Bai)
10. On Keyhole Effect Mitigation Through Cooperative Diversity
in Wireless MIMO Systems (Oussama Souihli)
11. FLASH: A Fast and reLiAble meSH Routing Protocol
(Farshad Javadi)
12. Indoor Positioning System (Part-II) Multiband Received
Signal Strength Fingerprinting Based Indoor Location
System (Chinnapat Sertthin)
13. Establishment of Point-to-Multi-Point path in GMPLS
Controlled Wide Area Ethernet (Kou Kikuta)
15:30 - 16:00 Coffee Break
16:00 - 17:00 Technical Session 4
14. Pricing of cognitive radio rights to maintain the risk-reward
of primary user spectrum investment (Tadeusz Wysocki)
15. Reduced Complexity in Antenna Selection for Polarized
MIMO Communication Channel Environment (Maung Sann
Maw)
16. Non-uniform Sampling Point Selection in OFDM Receiver
with Fractional Sampling (Haruki Nishimura)
17:00 - 17:10 Closing
ワークショップ(2)
CSIRO 技術討論
日
時:2010 年 2 月 10 日
場
所:CSIRO(Commonwealth Scientific and Industrial Research
Organization), Cnr Pembroke and Vimiera Roads, Marsfield New
South Wales 2122, Australia
概
要:GCOE の研究概要と、特に OFDM 及び物理レイヤの技術に関するタイ
トな議論を行った。CSIRO はオーストラリア政府に属するオーストラリ
ア最大の研究機関であり 2000 名弱の研究者、技術者が勤務している。
今回はその中の一組織である ICT Centre を訪問した。CSIRO ICT
Centre では、1)Wireless communication, 2)Information engineering,
3)Autonomous system, 4)E-health を重点分野として研究を行っている。
その中でも、今回は、無線通信に関する議論を行った。オーストラリア
政府のブロードバンドを各家庭に普及させるという政策に対して、国土
が広く人口密度が低い地域が多いオーストラリアでは、FTTH(Fiber To
The Home)だけでは、各家庭にブロードバンドを普及させることがコス
ト的に難しいため、オーストラリアの国土の実情に適応するブロードバ
ンドネットワークの有力な候補としてワイヤレスを目指していること
が紹介された。その実現方法として、オーストラリア国内の放送波のデ
ジタル化に伴い、そのデジタル放送波に情報を多重化させてダウンリン
クを構成し、デジタル化に伴い周波数帯域幅が有効活用されて生じる空
き帯域をアップリンクに用いる方法が有力であることが紹介された。
CSIRO では鈴木氏のグループがこの方式の検証のための実験を行って
いることが紹介された。
CSIRO の研究は、デジタル化前に行われており、オーストラリアの放送
政策および情報通信政策に直接的に研究成果が反映されることがよく
わかった。放送用の映像伝送にかかわる帯域は、ヨーロッパやわが国の
例をとっても6MHz から8MHz 程度であるので、放送用の伝送帯域は
地域によらずほぼ一定であると考えられる。そのため、このようなネッ
トワークを構成できるポテンシャルは各国ともに同等であると考えら
れる。しかし、オーストラリアでは政策決定前に徹底的に技術的研究お
よび考察を行い、ポテンシャルを最大に引き出そうしているのが切実に
感じられた。このような形で自国民に研究成果が目に見える形で還元す
る姿勢には敬意を表したい。
また、OFDM の帯域外輻射のキャンセルに関する技術、OFDM の PAPR
低減に関する技術、OFDM のサブバンド割り当てに関する技術について
特許を有しており、これらは無線 LAN を実現する上での基本的な特許
となっている結果、年間 200 万ドル以上の特許利用料収入があるとのこ
とであった。また、無線を用いた位置測定システムの研究を行っており、
1/3 メートルの精度で測定可能とのことであった。
普段はセキュリティが厳しいが、GCOE の趣旨に賛同して特別に実際の
PhD を取得している研究者が行っている実験室、居室の見学を許可して
くれた。MIMO の実験を行っており、キャリアパスを見極める絶好のチ
ャンスとなった。
II
研究成果
(1) ブロードバンドモバイルワイヤレス通信に関する研究成果
(1) Rate Adaptation を用いた OFDMA-CDM において Self Interference を
低減するサブチャネル割り当て及び OVSF 符号割り当て
OFDMA-CDM(Orthogonal Frequency Division Multiple Access - Code
Division Multiplexing)において、チャネル状況や QoS(Quality of Service)に応
じて送信レートを柔軟に変化させる技術として、rate adaptation がある。rate
adaptation では、拡散符号の多重比率を変化させることで送信レートを柔軟に変
化させるため、多重比率を小さくすることにより、付加的な周波数ダイバーシチ
効果を獲得することができる。しかし、rate adaptation では、多重する拡散符号
数を減らし、送信信号の信頼性を向上させる場合にも、フェージングの影響はシ
ステム上の拡散符号長に依存する。さらに、OFDMA 特有のマルチユーザダイバ
ーシチ効果を獲得するサブチャネル割り当て法も提案されていない。そのため、
rate adaptation の効果を十分に獲得しているとは言えない。そこで本論文では、
CQI(Channel Quality Indicator) に 基 づ く サ ブ チ ャ ネ ル 割 り 当 て 法 及 び
OVSF(Orthogonal Variable Spreading Factor)符号割り当て法を提案した。計算
機シミュレーションにより、rate adaptation を用いた OFDMA-CDM において、
提案のサブチャネル割り当て及び OVSF 符号割り当て法がフェージングの影響
を低減できることを示した。
C1,1
L=1
C2,1
L=2
C2,1
={C1,1 C1,1}
L=4
C4,1
C2,2
={C1,1 -C1,1}
C4,2 C4,3
C4,1 1
-1
C4,4
C4,3
C8,1
C8,2
図1
...
L=8
Orthogonal
1
-1
C2,2
OVSF コードの構造
図2
ターゲット BER が 10-3 の時の特性
(2) OFDMA-CDM において Self Interference を抑制する重み付けおよびサ
ブキャリア割り当て
OFDMA-CDM(Orthogonal Frequency Division Multiple Access - Code
Division Multiplexing)において、フェージング変動による拡散符号の直交性の崩
れから生じる SI(Self Interference)を抑制する重み付けを活かすサブチャネル割
り当て法を提案した。提案方式では各サブチャネルのチャネル利得の最小値で重
み付けすることから CIR(Carrier to Interference Raito)の最小値が最大であるユ
ーザに割り当てることにより、高いチャネル利得での重み付けを実現し、重み付
けの効果を高めると共に、OFDMA 特有のマルチユーザダイバーシチ効果により
フェージング変動の影響を抑制することができると考えられる。計算機シミュレ
ーションにより、提案の重み付けを活かすサブチャネル割り当てがフェージング
変動の影響を低減し、BER(Bit Error Rate)特性を改善できることを示した。
10
0
0
10
proposed (weight max L=8)
proposed (weight ave L=8)
proposed (weight min L=8)
10
10
2
-2
BER
10
BER
10
1
-1
10
10
3
-3
10
4
-4
10
conventional (User=4 L=16)
proposed (Weight User=4 L=16)
10
5
-5
0
2
4
6
8
10
12
14
16
18
10
20
SNR in dB
図3
OVSF コードの構造
図4
0
5
10
SNR in dB
15
20
荷重の決定方法の相違による特性
(3) OFDM システムにおけるレイリーフェージング下でのカルマンフィルタ
を用いたチャネル推定
従来、チャネル推定にはカルマンフィルタが用いられることが多いが、サンプ
ルごとにフィルタを適用する必要があるため計算量が多くなる欠点があった。そ
こで本研究では定常状態のカルマンゲインを用いてチャネル推定を行うことで計
算負荷を大幅に削減することを試みた。カルマンフィルタは理想的には定常状態
で用いることが必要であるため、定常状態のカルマンゲインを用いることにより、
フィルタの収束性の影響を受ける従来法よりも良い特性を示す。
また、良好な環境でカルマンフィルタを使用するためには、ドライビングノイ
ズに関する情報が事前に必要であるが、現実の環境では取得するのが難しい。そ
こで上述の定常状態のカルマンゲインを用いたチャネル推定法を拡張して、受信
SNR を用いてドライビングノイズに関する情報を推定し、チャネル推定特性を改
善できる方法を提案した。これらを計算機シミュレーションによって評価し、従
来法に比べ十分な改善が得られることを示した。
図5
ノイズに対するフィルタ特性
図6
受信 SNR に対するフィルタ特性
(4) OFDM システムにおけるマルコフ過程を用いた動的リソース割り当て法
OFDM システムにおいてマルコフ過程に基づいて、サブキャリアおよび電力を
動的に割り当てる方法を提案した。提案はサブキャリア数すなわち状態数が多い
場合に適用することを想定している。リソース割り当ての方法として
Hughes-Hartogs アルゴリズムのような最適解を与える方法もあるが、サブキャ
リア数が多い場合、計算負荷が膨大となる問題がある。そこで、このアルゴリズ
ムよりも低計算負荷で効率的に準最適解を与えるリソース割り当て法を提案した。
提案方式では、マルコフ過程に基づき手動的にリソースを割り当てるが、この方
法 で は リ ソ ー ス の 状 態 間 の 遷 移 確 率 が 必 要 と な る 。 こ れ を Reinforcement
Learning を用いて求める方法を併せて提案している。計算機シミュレーションを
用いて性能を評価し、提案方式が低演算量で最適解に近い準最適解を与えること
を示した。
図7
マルコフ過程に基づく状態遷移
図8
Reinforcement Learning を用いた割り当て解の収束性
(5) MIMO チャネルにおける特異値分解を用いた適応偏波制御法
QoS ベースの MIMO システムにおいて、変調方式と偏波面を適応的に制御し
て、システムスループットを最大にする方法を提案した。この方法ではチャネル
行列を特異値分解した結果を基に通信に使用する偏波を決定し、併せてビット割
り当てを行う。計算機シミュレーションにより特性を評価した結果、提案方式が、
BER と送信電力に関する一定の条件の下、スループットが向上することを示した。
12
MIMO channel will be selected by selection algorithm
based on channel condition and available RF chains.
Tx
Rx2hr
Tx3Vt
Feedback link for
antenna selection
and bit loading
図9
(6)
Cross Polarized
Uni Polarized
Proposed
8
Output data
d
Mux & RF chain
Input data
Demux & RF Chain
Tx2hr
10
Rx
Rx3Vt
Channel estimation and
computations for antenna selection
and bit loading with SVD
提案における MIMO 通信モデル
Capacity
Rx1Vt
Vt
1
Tx
6
4
2
0
5
10
15
20
25
SNR [dB]
図 10
提案方式による通信容量
MLSTBC における Segment LLL を基にした LR aided SIC 検出
Multi-Layered Space-Time Coding(MLSTC)アーキテクキャにおいて新しい
格 子 基 底 縮 小 ア ル ゴ リ ズ ム を 用 い た LR aided Successive Interference
Cancellation(LR aided SIC)検出方式を提案した。提案方式は、格子基底縮小(LR:
Lattice-Reduction)アルゴリズムに基底行列を分割し、セグメント毎に基底縮小
を 行 う Segment Lenstra、 Lenstra and Lov’asz (Segment LLL)を 用 い る 。
Segment LLL は、基底行列をセグメント化しセグメント単位で直交化操作を行
うため基底縮小の正確性は劣化するものの演算量を低減することができる。計算
機シミュレーションにより特性評価を行った結果、提案方式は、従来の LR aided
SIC に比べて、BER 特性は僅かに劣化するが基底縮小アルゴリズム演算量を低減
可能とし、BER 特性と演算量のトレードオフが実現可能であることを示した。
図 11.
セグメント化の様子
図 12.
BER 特性比較(16-QAM)
(2) アドホックネットワーク、センサーネットワークに関する研究成果
(1) センサアクタネットワークにおける冗長なパケット送信制御による低消
費電力トランスポートプロトコル
WSANs において、(RT)2 におけるリアルタイム性とアクタの動作の信頼性を保
ちつつ、制限時間内にアクタに到達することができない冗長なパケット送信を制
御することにより、電力消費を低減するトランスポートプロトコルを提案した。
提案方式では、センサノードが、過去の送信から得られた1ホップ間の遅延値と
アクタまでのホップ数をもとに、パケット到達遅延を予測する。算出されたパケ
ット到達遅延が、制限時間における残り時間を超過している場合は、冗長なパケ
ット送信になると判断してパケットの発生を自粛する。さらに、遅延算出には、
キューイング遅延を考慮せず、実際の遅延値よりも小さく予測することで、本来
到達するはずであるパケットを制御してしまう事態をさけ、冗長なパケット送信
のみを制御する。計算機シミュレーションの結果、提案方式の有効性が示したも
のである。
図 13
提案方式における時間経過に伴う生存ノード数の変化
(2) 無線アドホックネットワークにおける最少ホップ数のバックアップ経路
と Packet Salvage 機能を持つマルチパスルーチング方式
MANET(Mobile Ad hoc NETworks)におけるマルチパスルーチング方式として、
Split MultiPath - Dynamic Source Routing(SMP-DSR)が提案されているが、作
成するバックアップ経路のホップ数が長くなり、電力効率が悪化する問題がある。
一 方 、 電 力 効 率 を 改 善 す る 方 式 と し て 、 Shortest Multipath Source
Routing(SMS)が提案されているが、ノードが独立しない経路を選択することが
生じるため、packet salvage を行うことができない。そこで本論文では、経路の
選択基準を変更することで、バックアップ経路のホップ数を減らすと同時に、
packet salvage が確実に行える環境を作成するマルチパスルーチング方式を提案
した。提案方式では、切断リンク以降の経路が独立したバックアップ経路を作成
することによりホップ数を低減すると共に、作成した経路情報を中間ノードに与
えることで、確実に packet salvage を行うことが可能となる。計算機シミュレー
ションの結果、提案方式は、パケット損失数を大幅に低減し、電力効率も改善で
きることを示した。
図 14
提案方式の概要
(3) モバイルアドホックネットワークにおける効率的なクラスタリング方式
MANET において、クラスタリング構造を維持するための制御パケットのオー
バーヘッドを減らし電力効率を高めるクラスタリング方式を提案した。提案方式
では、QoS の指標となる複数メトリックを考慮した各ノードの重みを算出し、重
みに基づいてクラスタリングを行っている。計算機シミュレーションによって特
性評価を行った結果、提案方式はオーバーヘッドと電力消費を小さく保ちつつ、
より少ないクラスタ数でネットワークを構築できることを示した。
60
1.6
DWCA - Weights:User Defined, Speed: 1m/s
DWCA - Weights: User Defined, Speed: 5m/s
DWCA - Weights: Average, Speed 1m/s
DWCA - Weights: Average, Speed 5m/s
EE-SWBC -Weights: User Defined, Speed 1m/s
EE-SWBC - Weights: User Defined, Speed 5m/s
EE-SWBC -Weights: Average, Speed 1m/s
EE-SWBC - Weights: Average, Speed 5m/s
1.2
gy
40
1
30
0.8
20
g
Avg. No. of Clusters
50
DWCA - Weights:User Defined, Speed: 1m/s
DWCA - Weights: User Defined, Speed: 5m/s
DWCA - Weights: Average, Speed 1m/s
DWCA - Weights: Average, Speed 5m/s
EE-SWBC -Weights: User Defined, Speed 1m/s
EE-SWBC - Weights: User Defined, Speed 5m/s
EE-SWBC -Weights: Average, Speed 1m/s
EE-SWBC - Weights: Average, Speed 5m/s
1.4
0.6
10
0.4
0
50
70
90
110
130
150
170
190
210
0.2
230
50
Transmission Range (Tr)
70
90
110
130
150
170
190
210
230
Transmission Range (Tr)
図 15
図 16
クラスタヘッド数と通信距離
消費電力と通信距離の関係
の関係
(4) モバイルアドホックネットワークにおける autoconfiguration 方式
モバイルアドホックネットワークにおける autoconfiguration 方式を提案した。
提案方式では、マルチホップ経路が、階層的なトポロジとなることに着目し、ノ
ードがネットワークに加入する際に、必要な IP アドレスやルーチング情報の割
り当てを、前もって選ばれたリーダーノードが代行する。計算機シミュレーショ
ンの結果、提案方式は、オーバーヘッドを低減し、スケーラビリティに優れてい
ることを示した。
400000
D is ta nc e <= r_hops
Conventional Scheme : r = 1-Hop
Conventional Scheme : r = 2-Hops
Conventional Scheme : r = 3-Hop
P roposed Scheme : r = 1-Hop
P roposed Scheme : r = 3-Hops
P roposed Scheme : r = 3-Hop
350000
H ELLO {msg#, Status, ID, Parameters}
t2
t3
C oordinator
N ode
Lea der
N ode
t., P a ra m eters }
a. Select Coordinaor with less distance.
b. Form Tentative Address:
[Prefix : leader_ ID : Rand (member_ID)] (in case of member)
[Prefix : Rand (leader_ID) : 00 ]
(in case of leader)
300000
Control Overhad
t1
250000
200000
150000
100000
t4
JOIN_REQ {msg#, Type, Tentative Address, RDS_ID, Parameters }
t5
JOIN_REP {msg#, Type , Target Address, RDS_ID, A = 0 or 1, Parameters }
50000
0
50
100
150
200
250
300
400
500
Network Size (# of Nodes)
図 17
提案するシーケンス
図 18
ネットワークサイズとオーバーヘッド
(5) モバイルアドホックネットワークにおける複数メトリックを考慮した最
適ゲートウェイ選択法
MANET(Mobile Ad hoc NETwork)および既存のネットワークを相互接続する
ために、残存電力、速度、ノードのホップ数などの複数メトリックを考慮した最
適ゲートウェイ選択法を提案した。提案方式では、最適なゲートウェイノードを
選択するために、Simple Additive Weighting (SAW)を用いて複数メトリックを
考慮した各ノードの重みを算出し、各ノードのうち最大の重みを持つノードを最
適ゲートウェイとする。計算機シミュレーションによって特性評価を行った結果、
提案方式はネットワーク全体のスループット特性を改善できることを示した。
70
Best
Avg. Packet Delivery Ratio _
60
50
40
30
20
10
0
2
図 19
4
6
Node Speed (m/s)
8
10
提案方式のフローチャートとパケット到達率特性
(6) モバイルアドホックネットワークにおける End-to-End の QoS を考慮し
たゲートウエイ選択法
End-to-End の QoS パラメータである稼働時間、ルータの容量および遅延等を
考慮して、ゲートウエイの候補となるノードからゲートウエイを選択する方法を
提案した。End-to-End へ伝搬する QoS パラメータの正確な評価を行うことで、
QoS を考慮したゲートウエイ選択を実現している。“hybrid gateway discovery
algorithm”を用いて提案を評価した。その結果、提案法はスループット、パケッ
ト到達率が向上し、かつ従来の選択法に比べて遅延量も改善することを示した。
0.8
Internet
0.7
Avg. Success Ratio
0.6
Cellular Network
0.5
0.4
0.3
0.2
Gateway Node
0.1
Ad-hoc Network Node
0
1
2
MANET
図 20
3
Node Speed (m/s)
4
5
提案方式の概念とノードの移動速度に対する送信成功率
(7) リレー方式選択を考慮したハイブリッド協調通信
IEEE802.11 を用いた協調通信において、リレー方式を適応的に選択すること
により、伝送特性を向上させる方式を提案する。すなわちリレー方式としては、
AaF(Amplify-and-Forward), DaF(Decode-and-Forward)が候補として考えられ、
これにリレーしないでノード間で直接通信を行う direct transmission を加えて、
この 3 者の中からリレー方式を適応的に選択することで伝送特性を向上を図るも
の で あ る 。 マ ル チ キ ャ ス ト RTS と CTS を 用 い て 、 CSI(Channel State
Information)に基づき BER が最良となるリレー方式を選択することにより提案
を実現している。計算機シミュレーションで提案方式を評価し、AaF,DaF,direct
transmission を定常的に選択するよりも、提案方式が優れていることを示した。
図 21
提案方式の概要
(8) クラスタネットワークにおける分散アドホックルーティング
一般に分散アドホックルーティングでは、ノード間が協調することによるダイ
バシチ効果により、特性損失の補償を図っている。本研究では、各々のホップで
エネルギー消費を低減するように Source がリレーノードを選択する分散アドホ
ックルーティングを提案する。計算機シミュレーションにより提案方式の特性を
評価した結果、提案方式はエネルギー消費の面では優れているが、従来の方法を
比べて処理が複雑であり、トレードオフの関係にあることを示した。
図 22
提案方式の概要
(9) 冗長な受信を低減することによるフラッディングアルゴリズム
フラッディングにおいて Robust Broadcast Propagation (RBP)と同等の信頼
性を保ちつつ消費電力を低減するため、ボトルネックの箇所以外では ACK を用
いず、再送をしなくて良いと判断した時点で以降のパケットの受信を行わないフ
ラッディングアルゴリズムを提案した。提案方式では再送の閾値を元に、再送を
しなくて良いと判断されるブロードキャストの成功数をあらかじめ設定し、成功
数に到達した時点で以降のオーバーヒアリングを行わないことにより、各ノード
枯渇ノード数(個)
の消費電力を低減することができることを示した。
従来
提案
10
5
0
0
図 23
10
時間(分)
20
時間に対するバッテリが枯渇したノード数の関係
(10) モバイルアドホックネットワークにおいて方角情報を用いることにより
極小問題を事前に回避する Greedy ルーチングプロトコル
本研究では、位置・速度・方角情報を用いた改良型 Greedy Forwarding によ
り、位置情報を利用したルーチングプロトコルに共通の問題である極小問題を事
前に回避する Greedy ルーチングプロトコルを提案する。提案方式では、従来の
プロトコルに用いられていた位置・速度情報に加え、方角情報を用いることによ
りノードの空洞地帯を回避し、極小問題を事前に回避できる。計算機シミュレー
ションによる特性評価を行い、提案方式と従来方式における極小問題発生数、パ
ケット到達率、消費電力、及び経路効率特性を評価し、提案方式の有効性を示し
た。
図 24
提案方式の消費電力特性
図 25
提案方式の経路効率
(11) 無線アドホックネットワークにおいてノードの位置関係を考慮すること
により検索ホップ数を低減する Skip Graph
Peer-to-Peer ファイル共有システムにおけるファイル検索手法として提案され
ている Skip Graph において、Skip Graph 上の論理アドレスである Membership
Vector(MV)を隣接ノードのものと比較し、MV の一致する桁数が多いノード同士
が近い位置に集まるよう MV を交換することにより、少ないホップ数でファイル
を検索する手法を提案した。この提案により、ノードの移動する無線アドホック
ネットワーク上においても従来の Skip Graph と比較して少ないホップ数でファ
イルを検索することができ、また、所望のファイルを複数のノードが保持してい
る場合に検索者に近い位置にあるノードを発見することが可能となる。計算機シ
ミュレーションにより、提案方式が Skip Graph の維持に必要な制御メッセージ
数の増加を抑制しつつ、検索ホップが低減できることを示した。
Key(ファイル名など)
001
63
11
000
Level 2
50
011
Key(ファイル名など)
11
000
MV
Level 1
MV
38
100
56
Level 0
32
101
110
図 26
50
001
32
38
101
100
11
000
56
110
63
011
63
50
001
011
32
38
101
100
11
32
38
50
56
63
000
101
100
001
110
011
56
110
Skip Graph の概念
(3) レーダに関する研究成果
(1) 放送波を用いたバイスタティックレーダにおける MUSIC 法を用いた移
動目標検出法
放送波を用いたバイスタティックレーダでは、図 27 のように目標の位置標定
のために送信局から直接伝搬する直接波と目標に散乱されて受信局に到達する散
乱波の到達遅延時間を計測している。遅延時間は相互相関により算出されるのが
一般的であるが、この遅延プロファイルの幅は信号帯域幅で制限される。分解能
を向上するためには広帯域の信号を使用する必要があるが、放送波を利用するレ
ーダにおいては、信号諸元を制御することはできない。本研究では、放送波を用
いたバイスタティックレーダにおいて MUSIC(MUltiple SIgnal Classification)
法を用いた移動目標検出法を提案する。提案方式は受信処理のみで遅延プロファ
イルの幅を相互相関により算出したものより改善するものである。さらに
MUSIC 法を遅延時間算出に用いた場合、従来では固定目標からの散乱と移動目
標からの散乱が区別できなかったが、提案方式では、移動目標に起因する遅延が
生じさせる位相回転について、帯域内の周波数成分間の相関を低減させることに
より固定目標のみを抽出し、移動目標と固定目標の類別を実現している。帯域幅
5.57MHz の地上デジタルテレビジョン放送波を模擬した信号を用いて、計算機シ
ミュレーションにより特性を評価した。その結果、図 28 に示すように従来法
PMUA(t)では固定目標と移動目標の区別がつかなかったのに対して、提案法の結果
である s(t)では固定目標を抑圧しつつ、0.1μs 離隔し、それぞれの SNR が-10dB
である 2 つの移動目標を分離できていることを示した。
target
scattered signal
g (t )
R2
R1
R
transmitter
図 27
direct signal
receiver
f (t )
MUSIC SPECTRUM (arb. unit)
5
10
P MUA(t)
4
10
s(t)
1000
P MUB(t)
100
10
1
0.1
9
9.5
図 28
バイスタティックレーダの構成
10
delay(
)
10.5
2目標の分離性能
(2) 地上デジタルテレビジョン放送を用いたバイスタティックレーダにおけ
る不要波抑圧
地上デジタルテレビジョン放送を用いたバイスタティックレーダにおいて、送
信局から受信局へ直接伝播する直接波等の不要波の抑圧について検討した。提案
方 式 で は 、 同 放 送 信 号 に 含 ま れ る SP(Scattered Pilot)信 号 に 対 し て MUSIC
(MUltiple Signal Classification)処理を行い、高分解能で直接波およびマルチ
パス波等の到達遅延時刻を求め、帯域制限されたチャンネルにおいて、各サンプ
ル点での不要波のインパルスレスポンスを考慮して、不要波のレプリカ信号を作
成し、所望信号と不要波が混在した信号から、レプリカ信号を減算することで不
要波を抑圧し、目標を抽出する。計算機シミュレーションで特性評価を行った。
その結果、従来方法である FIR フィルタによる抑圧法では,抑圧性能の収束性に
問題があったが、提案方式ではこの問題は発生せず優れた特性を得ることができ
ることを示した。なお図中のμは FIR フィルタのステップサイズを示し、縦軸は
抑圧度、横軸は放送シンボル単位で記載した経過時間である。
Improvement (dB)
40
30
20
μ=0.01
μ=0.1
μ=1.0
proposed method
10
0
0
10
図 29
20
30
40
50
Symbol Number
60
不要波抑圧性能の収束性
70
11
(4) MIMO 方式の研究開発
(1) 協調ダイバーシチを用いた MIMO 通信におけるキーホール問題の解決法
近年、無線 LAN や携帯電話で高速大容量伝送を実現する手段として MIMO
(Multiple-Input Multiple-Output) が注目されている。MIMO では、複数の送信
アンテナで異なる信号を同時に送信する。通信路が十分な散乱を持ちマルチパス
が多い環境では、MIMO は送受信アンテナ数に比例した通信路容量を達成する。
しかし、図 30 に示すように、送受信機間通信路がビルとビルの間などの狭いと
ころを一部に含む場合、送受信アンテナ数を増やしても通信路容量が増えないキ
ーホール問題が存在する。
図 30
キーホール問題の発生例
これまでにキーホール問題の影響を解析した研究はあるが、その解決方法はほ
とんど示されていなかった。
本研究では、キーホール問題の解決に、図 31 に示すようにリレー局を用いた協
調ダイバーシチ法を提案した。そして、リレー局を置く場合、送信機から受信機
までや、リレー局から受信機までは、受信機が移動局の場合にキーホール問題が
存在するキーホール通信路になることがあるが、送信機とリレー局間の通信路は
キーホール通信路とならないようにリレー局を配置することが可能であることか
ら 、 図 32 の よ う な 場 合 を 考 え た 。 図 32 で は 、 Source-Destination 間 と 、
Relay-Destination 間の 2 つの通信路がキーホール問題の影響を受けている。そ
して、本研究では、そのような通信路において、キーホール問題を解決すること
ができる送信電力領域を理論解析により明らかにした。計算機シミュレーション
及び理論解析により、図 33 に示すように、提案法を用いて電力を適切に割り当
てると、送受信アンテナ数に比例して通信路容量が増えることを示した。また、
図 34 に示すように、提案法を用いて電力を適切に割り当てると、従来法よりも
通信路容量が大きくなり、送信電力が増えると、その差が増すことを示した。
図 31
図 32
リレー局を用いた協調ダイバーシチ法
リレー局を用いた協調ダイバーシチ法:通信路表示
図 33
SNR=10 dB のときの送信アンテナ数に対する通信路容量特性
図 34
4 x 4MIMO のときの SNR に対する通信路容量特性
(2) アドホック・センサネットワークにおける障害物回避ルーチング法
近年、近距離無線通信技術の発達によりセンサネットワークが注目を集めてい
る。センサネットワークとは、多数のセンサがネットワークを介してセンシング
した情報を共有するものである。センサでセンシングされた情報は、図35に示さ
れるように、センターまで自律分散的かつアドホック的に構築されるネットワー
ク上を転送される。自律分散的かつアドホック的に効率の良いネットワークを構
築し転送するには、そこで用いるプロトコルも多くの課題を解決する必要がある。
そのため、多くのプロトコルが提案されている。プロトコルが解決すべき問題の
一つに、図36に示すように、障害物やセンサノードのバッテリー切れなどで生じ
る、センサノードが存在しない領域をいかに回避して情報を転送するかがある。
図 35
図 36
センサネットワーク上の情報転送例
センサノードの空白領域が存在する環境
一方、近年、経済分野のみならず工学の分野においてもゲーム理論が注目され
てきている。ゲーム理論とは、目的を持つ複数の行為主体が、ある制約条件下で
それぞれ戦略を持ち、それぞれの目的達成に向けて行動する状況で、個々の主体
や集団としての振る舞いがどうなるかについて研究する学問である。
このゲーム理論を用いて、アドホック・センサネットワークの各ノードの情報
転送の際の振る舞い、すなわち転送する場合、どのセンサノードに転送するかを
明らかにしようとする研究が、近年報告されている。しかし、障害物によって生
じるセンサノードの空白領域を避ける情報転送法、すなわちプロトコルについて
は検討されていない。
本研究では障害物によって生じるセンサノードの空白領域を避けるプロトコ
ルとして、各ノードの周囲情報を用いて空白領域を避けるための利得を定義し、
それを用いたゲーム理論に基づくプロトコルを提案した。計算機シミュレーショ
ンにより、提案プロトコルは空白領域の問題を解決し、図 37、38、39 に示すよ
うに、従来プロトコルに比べ、パケットの平均転送時間やエネルギー消費量を低
減し、パケット転送率を改善できることを示した。
図 37
各プロトコルの平均転送遅延時間特性
図 38
各プロトコルのエネルギー消費量特性
図 39
各プロトコルのエネルギー消費量特性
(5) 実時間ネットワークセンシングの研究
(1) 簡易型多地点雷観測システム構成法
落雷被害を軽減することを目的として、気象予報会社や電力会社などへの雷観
測システムの導入が進んでいる。本研究では、汎用パーソナルコンピュータ(PC)
をベースとした低コストで操作の容易な多地点雷観測システムの実現を目標とし
て、その構成法の研究を進めている。これまでに、簡易型雷観測システムのプロ
トタイプを試作し、2 地点での同時観測実験を行い、雷パルス波形の観測と位置
推定が可能であることを確認してきた。
本年度は、観測地点を 3 つに増やして観測実験を進めるとともに、観測精度の
制限要因を分析し対策を検討した。図 40 は、試作システムによる雷パルスの観
測波形と落雷位置の推定例である。3 つの観測地点から 400km 以上離れた日本海
上が落雷の発生位置と推定された。観測日(2009 年 2 月 11 日)には日本海上で
多数の雷が発生していたことが気象情報サービス等で報じられており、遠方の落
雷であっても試作システムにより概略の落雷発生位置が推定可能なことが確認で
きた。また、観測精度の検討については、制限要因の一つである地点間の時刻同
期誤差を調べた。その結果、PC の内蔵時計の発振周波数誤差や NTP クライアン
トの実装に起因する同期確立誤差の影響により、30 分程度の観測時間であっても、
観測地点間で数秒程度の同期誤差が生じることが判明した。そこで、これらの影
響を低減するための対策として、事前に内蔵時計の相対誤差特性を把握しそれを
経過時刻の計算に組み入れるとともに、精度の高い NTP クライアントを採用し
た。これらの対策により、観測時間内の同期誤差を1秒以内に低減でき、落雷の
同定が容易になった。
E-W
S1
N-S
3:00pm, Feb. 11, 2009
North
Hachioji
58km
S3
30km
S1
Funabashi
34km
E-W
S2
Estimated Area
N-S
S2
Yagami
West
E-W
S3
3
1
2
East
N-S
4.5 ms
(a) Observation points
(b) Lightning pulses
観測地点S1, S2, S3で得られた東西方向、
南北方向の磁界強度の時間変化
図 40
Magnetic field directions
South
(c) An example of location estimation
観測地点S1, S2, S3を通る3本の方位線
(磁界方向に垂直)の交点付近
3 地点での雷パルス観測波形と落雷位置の推定例
(6) アクセス空間支援基盤技術の高度国際連携の研究開発
(1) アクセス技術高度化と無線技術との連携の検討
(a) 高度ダイバーシチ技術
(ア) 分数間隔サンプリング受信における受信フィルタの影響
アクセス技術の高度化にはリアルタイムな無線アクセスの実現が必要になる。
そのためリアルタイムな無線アクセスの実現には、ダイバーシチを用いた通信品
質の改善が必要となる。そこで OFDM 信号の分数間隔サンプリングによるダイ
バーシチ受信特性を検討した。特に受信フィルタの帯域幅と SN 比およびダイバ
ーシチ利得の関係を検討した。
分数間隔サンプリング受信機において受信フィルタの帯域幅を最小にすると信
号電力対雑音電力比(SN 比)は最大となるが、ダイバーシチ利得は得られない。
他方受信フィルタの帯域幅を広げると、SN 比は劣化するがダイバーシチ利得を
得ることができる。検討の結果受信帯域幅を広げた場合のほうが誤り率特性を
0.4~1.5dB 改善した。
受信フィルタ
受信フィルタ
信号
信号
従来方式
周波数
• SN比は最大
• ダイバーシチは得られない
• 隣接チャネル間干渉の影響:小
図 41
提案方式
周波数
• SN比は劣化
• ダイバーシチが得られる
• 隣接チャネル間干渉の影響:大
受信フィルタ帯域幅と SN 比およびダイバーシチ特性の関係
従来方式
提案方式
提案方式は
G=1において約3dB劣化
G=2,4においてダイバーシチ
利得により約0.4~1.5dB特性改善
図 42
ビット誤り率特性と SN 比の関係
(イ) 分数間隔サンプリング MIMO-OFDM 受信機
大 容 量 の 通 信 シ ス テ ム を 実 現 す る に は Multiple-Input Multiple-Output
(MIMO)技術の利用が不可欠である。MIMO システムの問題点は図 43 に示す
ようなマルチパスの遅延量が小さい環境において、分数間隔サンプリング受信機
ではダイバーシチ効果が得られないことである。そこで送信側に分数間隔の送信
遅延を挿入する方式を提案、評価した。図 44 は通信路容量とシンボルあたりの
SN 比の関係である。図より 2×2、4×4 の MIMO-OFDM システムにおいて分数
間隔遅延送信を用いたシステムのほうが通信路容量を改善していることを明らか
にした。また誤り率特性も改善する。
2送信アンテナ
受信信号
小さい遅延量
遅延
送信遅延
直接波
遅延
モバイルPC
Ts/2
反射波
異なるチャネル応答
Fractional Sampling
想定する伝搬環境と MIMO-OFDM 信号の分数間隔サンプリング
35
2
2
4
4
30
X
X
X
X
2 MIMO, G=2, Fractional Delay Transmission
2 MIMO, G=2, Conventional Transmission
4 MIMO, G=4, Fractional Delay Transmission
4 MIMO, G=4, Conventional Transmission
25
Capacity [bps/Hz]
図 43
20
15
10
5
0
0
5
10
15
20
25
E s /N 0 [dB]
図 44
通信路容量とシンボルあたりの SN 比の関係
30
(ウ) 時間シフトサンプリング受信方式における干渉除去
セルラーシステムにおいては同一周波数を用いる隣接セルからの干渉が問題と
なる。そこで図 45 に示すように複数の受信アンテナ間でサンプリングするタイ
ミングをずらす時間シフトサンプリングを提案した。複数アンテナで時間シフト
してサンプリングした信号を、最小二乗合成(MMSE)することによって干渉除
去ダイバーシチを両立する。
図 46 は提案するシステムのビット誤り率特性とビットあたりの SN 比の関係
である。図より SN 比を最大化する最大比合成(MRC)では特性が改善しない。
他方、信号対干渉および雑音電力比(SINR)を最大化する MMSE 合成は SN 比
の改善とともにビット誤り率を低減する。
LP filtering
+
A/D変換
OFDM復調
0
MMSE
合成
LP filtering
+
A/D変換
OFDM復調
delay
Clock
図 45
時間シフトサンプリング OFDM 受信機の構成
10 0
BER
Channel Model-2 MRC with TSS
Channel Model-2 MRC without TSS
Channel Model-2 MMSE with TSS
Channel Model-2 MMSE without TSS
10 -1
10 -2
0
図 46
5
10
15
20
E b/N 0 (dB)
25
30
35
40
時間シフトサンプリング OFDM 受信機の干渉抑圧特性
(エ) 分数間隔サンプリングにおけるサンプルレート変換
分数間隔サンプリング受信機においては、受信信号のクロック数とサンプリン
グ速度が必ずしも整数倍の関係にならない。そこで分数間隔のサンプルレート変
換が必要になる。そこでサンプル直接挿入式サンプルレート変換方式を提案し検
討した。図 47 は 7/5 サンプルレート変換の例である。挿入位相を変えた2つの
ブランチの平均が元の信号に近づく。図 48 は二乗誤差(MSE)と入力信号周波
数の関係を示す。平均化挿入ブランチのセット数を増加すると MSE が減少する
振幅
ことを明らかにした。
元の信号
2ブランチ平均
挿入ブランチ1
挿入ブランチ2
n=0
n=1
図 47
サンプル直接挿入式サンプルレート変換方式
図 48
n=2
n=3
n=4
n=5
サンプルインデックス
n=6
二乗誤差と入力信号周波数の関係
n=0
(オ) マルチユーザ環境における Alternative Spreading Code を用いた分数間隔
サンプリング OFCDM システム
高速・大容量通信を実現する方式として直交周波数符号分割多重(OFCDM)が
注目されている。分数間隔サンプリングを用いた OFCDM 受信機はパスダイバー
シチにより特性を改善する。しかし、サブキャリア数とオーバーサンプリング比
の増加によるノイズ間の相関はパスダイバーシチの効果に影響を与える。この問
題を解決するため、Alternative Spreading Code(ASC)の適用を検討してきた。
ASC を用いた OFCDM システムは相関のあるノイズ成分をキャンセルすること
ができるが、これまでの ASC は利用できる拡散符号数が半減する。また拡散数
が増えると必ずしも隣同士の拡散符号が正と負の交互にならない場合もある。そ
こで、マルチユーザ環境において ASC のブロックサイズと FS OFCDM システム
の特性の関係を計算機シミュレーションによって評価した。シミュレーション結
果より、特にオーバーサンプリング比が 4 のとき、拡散符号を増やした場合でも
ASC を用いることでノイズ成分の相関を抑え、BER 特性を改善することができ
た。また提案方法はユーザ数が増えると符号間干渉の影響を受け、ユーザ数が8
以下の場合に BER 特性を改善させることがわかった。
OFDM Symbol
第1パス
第2パス
OFDM Symbol
第3パス
OFDM Symbol
4ブランチダイバーシチ
合成
OFDM
受信機
図 49 分数間隔サンプリング
図 50 ノイズの相関
図 51
BER 特性
( カ ) サ ブ キ ャ リ ア ベ ー ス 最 大 比 合 成 を 用 い た 分 数 間 隔 サ ン プ リ ン グ Coded
OFDM システムにおける Metric 重み付け法
分数間隔サンプリングを用いた Coded OFDM システムは、オーバーサンプリ
ングすることによりダイバーシチ効果を改善するが、異なるサブキャリア間のノ
イズ成分の相関が Bit Error Rate (BER)特性を悪化させる。受信機においてノイ
ズはパルス整形フィルタ (ベースバンドフィルタ)を通るので、フィルタのインパ
ルス応答はノイズ間の相関を決定する。そこで本研究では5つのパルス整形フィ
ルタから計算された Frobenius ノルムを用いて Viterbi 復号器の Metric に重み付
けを行うことにより BER 特性を改善した。
図 52
図 53
白色化行列の Frobenius ノルム
BER 特性(重み付け前,G=4)
図 54
BER 特性(重み付け後 G=4)
(キ) FS-OFDM 受信機における 非等間隔サンプル点選択法
Fractional Sampling (FS)は OFDM 受信機において、マルチパスを分解し 1
アンテナ素子でパスダイバーシチを達成する技術として提案されている。通信品
質を改善するにはオーバーサンプリング次数 G を高く設定する必要があり、その
分 G 系列の復調回路を必要とする。そこで、本研究では、サンプル点間隔を固定
させずに非等間隔のサンプル点を選択する方式を提案する。FS によるパスダイ
バーシチの効果を得るには、隣接サンプル点間の相関が低くなくてはならない。
そこで図 55 に示すサンプル点同士の相関係数を求め、チャネル相関の高いサン
プル点の組み合わせを除外した。図 56 によりサンプル点選択ダイバーシチとサ
ンプル点選択における計算量の低減を達成することができた。
図 55
チャネル相関
オーバーサンプリング
次数が2でも従来の
FS システムより通信
品質が改善している。
図 56
ビット誤り特性
(ク)FS-OFDM におけるプリコーディング送信パスダイバーシチ技術
小型端末の信号処理の負担を軽減するため、マルチパスダイバーシチ合成の信
号処理を受信機ではなく送信機で行う prerake 技術が UWB や CDMA 通信シス
テムにおいて提案されている。一方 OFDM システムでは prerake は検討されて
お ら ず 、 一 本 の ア ン テ ナ 素 子 で パ ス ダ イ バ ー シ チ を 達 成 す る Fractional
Sampling が検討されている。しかしこの方式は受信信号を高いレートでオーバ
ーサンプリングする必要があり、小型受信端末に高速な A/D 変換器が要求される。
そこで OFDM システムにおけるプリコーディング送信パスダイバーシチ技術に
ついて提案した。提案方式のシステムブロックを図 57 に示す。図 58 により、本
方式は従来方式(prerake)よりも受信特性を改善することができた。
図 57
10
提案方式のシステムブロック
0
従来方式
提案方式
10
-2
BER
10
-1
10
10
10
-3
-4
-5
0
5
10
15
20
Eb/N0 [dB]
図 58
ビット誤り特性
25
30
(7) アプリケーション及び上位レイヤに関する研究
(1) ブロックのレアリティを考慮した効率的な P2P ファイル共有手法の検討
本研究では、P2Pファイル共有においてブロック収集効率を上げるためにブロ
ックのレアリティを考慮したブロックを効率的に分散させるP2Pファイル共有手
法CASを提案する。
(a) 研究背景と問題点
P2Pファイル共有では、対等な立場でネットワークに接続するピアの間で、フ
ァイルを分割した断片を交換する。この断片のことをブロックと呼ぶ。ピア間で
ブロック交換し、全ブロックを集めて元ファイルを復元することでファイル共有
を行う。P2Pファイル共有において、ファイルの復元が遅くなるブロックのレア
リティ問題が存在する。ブロックのレアリティ問題とは、ネットワークへの普及
率が低く入手が困難なブロックにより、ブロック収集効率が下がりファイル共有
が効率的に行えなくなる問題である。
ブロックのレアリティ問題の原因は、各ブロックのネットワークへの分散速度
に差が生じることによりブロック普及率がばらつくことと、ピアがネットワーク
から離脱する際にそのピアが所持していたブロックが消失することである。以下
で、ブロックのレアリティ問題に関係するブロックの分散速度によるブロック普
及率のばらつきとネットワークからのピア離脱の2点について説明する。
(ア)ブロックの分散速度とブロック普及率
ブロックの分散速度とは、ブロックがネットワークへ広がる速さである。ブロ
ックの分散速度は、そのブロックを所持するピアの性能に依存する。ピアの性能
とは、各ピアが使用可能なアップロード帯域とダウンロード帯域のことである。
ピアの性能が高いほどブロックがネットワークへ広がる速度が速くなり、ネット
ワークへ普及し易い。そのため、性能が高いピアを中心に広がったブロックは入
手困難になり難い。逆に、ブロックが性能の低いピアを中心に広がる場合がある。
これは、P2Pファイル共有ではピアによるブロック交換が分散的に行われるため
である。そのようなブロックは、ネットワークへ広がる速度が遅くなりネットワ
ークへの普及率が上昇し難くなる。 その結果、他のブロックと比べネットワーク
内に存在する数が少ないために、入手困難なレアリティが高いブロックとなる。
(イ)ピア離脱
ピア離脱は、ファイルの復元が完了したピアにより発生する。ファイルの復元
が完了したピアによる離脱は、ファイルを入手したピアがネットワーク内に存在
する理由がなくなるため起きる。レアリティが高いブロックの入手には時間がか
かるため、ファイルを復元してすぐにネットワークから離脱されるとそのピアは
短時間しかレアリティが高いブロックを提供しないことになる。その結果、レア
リティが高いブロックはネットワークへ分散し難く入手困難な状態が持続する。
(b) 提案手法の概要
本研究では、P2Pファイル共有においてブロックを収集の効率を低下させるブ
ロックのレアリティ問題に着目し、ブロックを効率的に分散させるP2Pファイル
共有手法CASを提案する。ブロックのレアリティ問題の原因は、ブロックの分散
速度によるブロック普及率のばらつきとネットワークからのピア離脱である。そ
こで、CASではブロックの分散速度とネットワークからのピア離脱に対処する。
(ア)ダウンロード帯域の有効活用とピア離脱の制約
ブロックの分散速度を速くするために、所持ブロック数が少ないピアのダウン
ロード帯域を十分に利用できるようにする。ピア離脱は、所持ブロック数の多い
ピアのダウンロード帯域を制限することで制約する。CASでは、新規ブロックを
ダウンロードするために他ピアに対して必要なアップロード数である必須アップ
ロード数を、各ピアの所持ブロック数によって動的に変動させ、ピアがダウンロ
ードできるブロック数を制限している。図59にCASにおけるピアの挙動を示す。
所持ブロック数が少ない時
所持ブロック数が多い時
ダウンロード帯域を有効活用し
必須アップロード数に従い
ブロックを収集する
他ピアへアップロードする
図59
提案手法CASにおけるピアの挙動
(イ)必須アップロード数
必須アップロード数が満たすべき最低条件は、所持ブロック数が少ないピアに
は必須アップロード数を少なく、所持ブロック数が多いピアには必須アップロー
ド数を多くすることである。ピア i の必須アップロード数を Nupi とした場合、Nupi
を式(1) により求める。
Nupi = Sxi − 1 (0 ≤ xi ≤ 1)
(1)
ここで、 S はファイル分割数、 xi はピア iのファイル復元に必要な総ブロック数に
対する所持ブロック数の割合である所持ブロック率を表している。式(1) で指数
関数を用いているのは、既存手法と比べ上記の条件をより強く満たし、簡単な式
で実現可能だからである。必須アップロード数が Sxではなく −1しているのは、
Sxだとブロックを1つも所持していない場合にブロックをダウンロードできない
からである。
(c)シミュレーション評価
CASのブロック収集効率の有用性を示すため、P2Pファイル共有ソフト
BitTorrentのファイル共有手法TFT(Tit-for-Tat)との比較評価を行った。評価
項目は、平均ファイル復元時間、ブロックの平均普及時間、悪意あるピアが存在
する場合の平均ファイル復元時間とする。平均ファイル復元時間は、ネットワー
クにピアが参加してからファイルの復元を完了するまでに要する時間の平均であ
る。ブロックの平均普及時間は、ブロックがピアに受け渡され普及するのに要す
る時間の平均である。悪意あるピアが存在する場合の評価とは、システムをクラ
ックすることで必須アップロード数を偽り、アップロード帯域を提供せずダウン
ロードだけ行うピアが存在する場合の評価である。
(ア)平均ファイル復元時間
図60に提案手法CASと既存手法TFTの平均ファイル復元時間比較を示す。図60
を見るとCASの方がTFTより全ピアがファイル復元を完了させるのにかかる時
間が短いのが分かる。しかし、ファイル復元の過程でCASよりもTFTの方がファ
イル復元を完了したピア数が多い時間帯が存在する。これは、CASがピア離脱の
制約を行うためである。ピア離脱の制約により、CASではレアリティが高いブロ
ックを待つピアが少なくなる。その結果、ピアがファイル復元をするのが容易と
なり全ピアがファイル復元を完了させるのに要する時間は短くなる。また、レア
リティが高いブロックを待つピアが少ないためCASでは大半のピアがファイル
復元に要する時間は大きく変わらない。シミュレーションでは全ピアが同時にブ
ロック交換を始めるので、全ピアが同時にファイル復元するのが理想である。上
記より、CASの方がファイル復元に要する時間差が短くピアによる格差が小さい
ため理想的な状況に近くなることを確認した。
File reconstruction rate(%)
100
CAS
TFT
80
60
40
20
0
0
500
1000
1500
2000
2500
Time(Round)
図60
平均ファイル復元時間の比較
3000
(イ)ブロックの平均普及時間
図61にCASとTFTのブロックの平均普及時間の比較を示す。ブロックの平均普
及率はCASの方がTFTより高くブロックの普及速度が速い。これは、CASでは所
持ブロック数の少ないピアがダウンロード帯域を有効活用しておりブロックの分
散速度が速いためである。普及率80~90% 辺りで普及速度が低下するがCASは
ブロックを効率的に分散させているためTFTより高いブロック復元率になるまで
普及速度が低下しないことを確認した。
100
Block penetration rate(%)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
CAS
TFT
0
0
図61
500
1000
1500
2000
Time(Round)
2500
3000
ブロックの平均普及時間の比較
(ウ)悪意あるピアが存在する場合
図62にCASにおいて悪意あるピアが存在する場合の平均ファイル復元時間を
示す。図62より、悪意あるピアが多いほどファイル復元時間が長くなるのが分か
る。つまり、悪意あるピアの比率が大きくなるほどファイル復元に要する時間が
長くなる。これは、悪意あるピアがリソースを提供しないためブロック交換の能
率が下がるためである。しかし、本シミュレーションでは悪意あるピアが30%存
在する場合でも、全ピアがファイル復元に要する時間はCASの方が悪意あるピア
が存在しない場合のTFTより短い。これらから、悪意あるピアが30%存在する場
合でもCASの方が悪意あるピアが存在しない場合のTFTよりもファイル復元時
間が短く、ブロックのレアリティを考慮することはブロックを効率的に収集する
手法として有用であることを確認した。
File reconstruction rate(%)
100
80
60
40
CAS-malicisous 0%
CAS-malicious 10%
CAS-malicisous 30%
CAS-malicisous 50%
TFT
20
0
0
図62
500
1000
1500 2000 2500
Time(Round)
3000
3500
4000
悪意あるピアが存在する場合の平均ファイル復元時間
(8) CT 符号化圧縮画像に対する高速・高精度 SR 技術
(1) 研究の背景と課題
高精細な画像・映像が医療、セキュリティ、リモートセンシング、マルチメデ
ィアなど様々な分野で求められ、近年、超解像(SR)技術が注目されている。超解
像画像復元は複数枚の観測画像から 1 枚の高解像度画像を推定する画像処理技術
である。
一方、映像の伝送と保存においては圧縮符号化が施され、それぞれのコスト低
減に不可欠の処理となっている。このような圧縮画像では、圧縮化の際に発生す
る量子化ノイズの影響で、上記の超解像技術を直接適用しても復元精度が低下し、
満足できる高精細な映像を得ることができない。
(2) 従来法の課題点
(a) 高速化アルゴリズム
従来の周波数領域 SR 最適化法は、推定精度を保つために離散化点近傍に対応
する画素の個数を重みとしてかける。しかし、そのためには最適化計算の過程で
周波数領域から空間領域に戻す必要があり、フーリエ変換と逆フーリエ変換対の
計算をしなければならない。また、重み画像をかける操作はDCT符号化圧縮画
像に対してはほとんど意味のない操作であるばかりか、逆にSR精度を低下させ
てしまう要因となる。これは量子化誤差を考慮していないためである。また、空
間領域分割処理では境界条件の違いによる境界誤差が発生する。これを避けるた
めには最低でも、劣化プロセスでの PSF カーネルサイズのオーバーラップを施す
必要がある。
(b) 量子化誤差補償
従来法では量子化誤差モデルを 8×8 ブロック単位で仮定しているため、周波
数分解能が低くなり量子化誤差を精度よく補償できない。また、ガウス関数の分
散値を随時実験的に決める必要があり、この値は SR 精度に大きく影響すること
を考えると、実用的とは言えない。
(c) 位置合わせ手法
従来法では量子化誤差を考慮していないため、1 ピクセル周期についての検討
しか行われていないが、DCT 符号化圧縮画像に対する位置合わせは 8×8 ブロッ
ク単位での圧縮を考慮し、8 ピクセル周期での検討が必要になる。
(3) 提案法の概要
本研究では上記した従来法の課題を解決するため、高速化アルゴリズムと量子
化誤差の補償、DCT 符号化画像に対する位置合わせ手法の 3 つに対しての提案を
行う。
(a)高速化アルゴリズム
DCT 符号化画像は観測データが DCT 係数で与えられること、空間領域での畳
み込みが DCT 領域では要素ごとの積に対応することからDCT領域での SR 問題
を解く高速計算法を実現する。また、重みを DCT 領域でかけることで量子化誤
差に対してロバストになり、従来法の空間領域に戻す操作をなくすことができる。
このため、更なる高速化が可能になる。また、DCT 領域で分割処理を行うことで、
空間域でのようにオーバーラップすることなく境界誤差の発生をなくすことがで
きる。
図 63
提案法の高速化アルゴリズム
図 64、65 に、高解像度画像のピクセル数と乗算回数の関係、PSF カーネル数と
乗算回数の関係をそれぞれ示す。
図 64
高解像度画像の画素数との関係
図 65
PSF カーネル数との関係
(b)量子化誤差の補償
量子化操作は量子化行列に対して剰余算が行われるため、量子化誤差は量子化
行列の値に依存する。一般に、量子化行列の値は高周波成分ほど大きな値であり、
低周波成分よりも大きな誤差が発生するため、SR 精度を低下させる要因となる。
つまり、量子化誤差の小さい低周波成分を重点的に復元することで量子化誤差の
影響を抑えることができる。
そこで、提案法では分解能を高くするために画像全体の DCT 領域で最適化を
行い、量子化行列の要素ごとの逆数は低周波成分ほど大きな値を持つことを利用
して、量子化行列を線形補間し、要素ごとの逆数を重みとして掛けることで量子
化誤差の小さい低周波成分を重点的に復元できるようにする。
(c)DCT 符号化画像に対する位置合わせ手法
提案法ではフィッティングする際の評価値を推定誤差が発生しにくいように選択
することで推定誤差の低減を行う。
(4) 適用結果
(a)分割処理に対する実験
従来法と提案法の分散処理に対する実験を行った。対象画像は LR(128×128)
4枚使用→HR(256×256)、PSF はガウス型(サイズ: 9×9、分散: 1.5)とする。
図 66
図 67
分割数とPSNR
提案法の分割数と処理時間(相対量)
従来法の空間分割処理では境界誤差が発生するため、分割数の増加により復元
精度が低下しているが、提案法の分割処理では周波数成分ごとの分割であるため、
境界誤差の発生がなく精度の低下はほとんどない。また、提案法では分割により
最適化計算の収束が速くなるため、同じ反復回数であっても分割数の増加により
PSNR が向上している。また、処理時間も分割数に応じて減少していることが確
認できた。
(b)位置合わせの実験結果
従来法と提案法での位置合わせ精度の比較を行った。圧縮率は 0.25 から 1.5 ま
で 0.25 単位で変え、圧縮率 1.25 の時の位置合わせ結果と圧縮率ごとの MSE(平
均自乗誤差)を以下に示す。
図 68
位置合わせ結果の比較(圧縮率 1.25)
(5)まとめ
本研究では DCT 符号化圧縮画像に対する SR 法に関して、高速化アルゴリズム
と量子化誤差補償、位置合わせの手法について提案を行った。DCT 領域最適化に
よって PSF の計算回数を減らし、高速化を図った。また、DCT 領域での分割に
より、境界誤差の発生を抑えた分割処理を実現できた。フィッティングする際の
評価値計算のポイントを量子化誤差の影響を受けないように選択することで量子
化誤差に対してロバストな位置合わせをすることができた。
(9) 通信品質を考慮したエネルギー消費を減少させる通信網再構成手法
(1) 研究背景
近年、インターネットは、電気・ガス・水道と並ぶ生活インフラとして欠かせ
ないものとなっており、今後もさらに多くの国民と新たなサービスが加わること
により増え続ける需要に対応していく必要がある。また、加入者系(FTTH:光加
入者システム)の導入は 2600 万加入を超え、アプリケーションもその広帯域性
を利用するものでビデオをはじめどんどんとリッチになっている。そのため、イ
ンターネットを支えるネットワークやデータセンターの消費電力量は増加の一途
であり、日本国内でも原子力発電一基分に相当する電力がネットワークスイッ
チ・ルータで消費されようという勢いである。(標準的な大型原発の出力を 100
万 kW とすると1年で 87.6 億 kWh)
従来、低消費電力化に関する研究として、データセンターの物理的な低消費電
力化から、サーバやルータなど機器自体の省電力化、さらには低消費電力なプロ
セッサ開発までさまざまな取り組みがなされている。それらに対して、リンクの
低消費電力化に寄与することを狙ったアプローチとして、IEEE では、Energy
Efficient Ethernet (EEE)の策定が進められている。例えば、現在の PC では、
1Gbps のインタフェースが標準で搭載されていることが多く、100Mbps と比較
して 1 ポート当たり 2W(1 リンクで考えると 4W)消費電力が多いことがわかっ
ている。そこで、アイドル時やネットワーク負荷が少ない場合にインタフェース
速度を動的に落とす事によって消費電力を落とそうというものである。一方、光
ファイバーのインタフェース速度を、電気インタフェースのように動的に速度を
落とすことは技術的に困難であることから、ポートそのものを休止させるアプロ
ーチが必要である。これらの研究は、デバイスや装置自体の低消費電力化であり、
ネットワーク全体を低消費電力で最適に構成しつつ、品質を維持しながらルート
を選択するアルゴリズムは提案されていなく、また実用化にはそれを計算できる
計算ツールを早期に提供することが最重要である。
そ こ で 、 我 々 は 、 次 世 代 光 ネ ッ ト ワ ー ク の 低 消 費 電 力 化 を 狙 い 、 Path
Computation Element(PCE)と呼ばれる集中経路計算サーバを用いて、ポート
単位(あるいはスイッチ単位)で電源の ON/OFF を管理すること、およびそれを
実現するための計算手法やプロトコル実装に関して研究を進めた。
ネットワーク内には、多数のスイッチ、ルータが存在し、ポート単位で電源の
ON/OFF を管理する場合、どのポートを切断し、そこのトラヒックをどの別のア
クティブポートでまかなえば最も未使用リソースを増加させることができるかと
いう計算が必要となる。もちろんこれらにはネットワーク設計上重要な品質(ホ
ップ数)や信頼性(ディスジョイント)、最大波長数や最大許容帯域などの制約条
件もあり、変動するトラヒックを集約できるかどうかの判定も必要となる。これ
らの計算や判定は、これまでの単純なコストに基づいた最短経路探索と比較して、
組み合わせがポート数倍を超える勢いで増加するため計算量が膨大となり、従来
のフォンノイマン型計算アーキテクチャの計算機で現実的な時間で解くことは困
難である。しかしこれらの計算は最適化するとある特定の集合被覆問題に帰着で
き、数多くの組み合わせを、並列処理とパイプライン処理を用いて同時に計算す
る専用の計算ハードウェアを構想すれば設計時点で要素が決まっている問題につ
いては解決の見込みが示されている。
そこで、本論文では、並列データフロー型ダイナミックリコンフィギャラブル
プロセッサを用いた集合被覆計算エンジンに基づいた、低消費電力ネットワーク
を実現するための網再構成手法を提案する。
従来トレンドで LSI の低消費電力化が進むと仮定した場合の推移予測。
科学技術政策研究所が 2006 年 6 月に公開した資料を基に作成。(出典:IT Pro 2006/12/06)
図 69
(2)
国内のルータの総消費電力の推移
リコンフィグラブルプロセッサアーキテクチャ
本提案では、このような複雑な計算を、大規模プログラマブルロジックの一つ
として市場から認められつつあるアイピーフレックスの DAPDNA デバイスを用
いる。世界初の商用ダイナミック・リコンフィギャラブル・チップである
DAPDNA-2 は、1200 万ゲート相当分のトランジスタを集積化している純国産汎
用プロセッサである。設計ルールは富士通 130nm プロセスである。図 70 に示す
ように、内部は、DAP と呼ぶオリジナル設計の RISC プロセッサコアおよび、並
列データ処理可能な DNA と呼ぶ PE(プロセッシングエレメント)マトリックス
から構成される。PE(プロセッシングエレメント)は、加減乗算のような数値演
算および論理積/論理和/排他的論理和/ローテート/シフトのようなビット操作演
算を1つずつに対して独立してプログラミングできる論理要素であり、各々を並
列動作させることができる。さらに PE 間の配線もプログラマブルであり、アプ
リケーションに適した配分で、並列処理とパイプライン処理を組み合わせること
ができる。376 個の PE の並列パイプライン処理により、既存の高性能マイクロ
プロセッサ(Pentium4 3GHz)に比較して、動作周波数は 166MHz の約 1/20 に
抑えているため低消費電力でありながら高い処理性能(画像処理では約 40 倍)を
達成している。
本提案では、ネットワークに配置されたスイッチのポートごとに、どのポート
を、何ポート切断すると、ネットワークの性能を劣化させることなく、ネットワ
ーク全体の低消費電力化が図れるかを計算する。スイッチを 20 台、各スイッチ
のポートを 8 ポートとした場合、4 つのポートを OFF にする組み合わせだけでも
26294360 通りとなり、このすべてに関して、ネットワーク性能がある条件を満
たすかどうか判定する計算は、従来のプロセッサを用いて現実的な時間で解を得
ることは困難である。一方、我々の DAPDNA-2 は、先述の通り低消費電力なが
ら、柔軟性を兼ね備えており、並列演算とパイプライン演算により 30 倍のクロ
ックである Pentium を凌駕する性能を発揮する。
図 70
DAPDNA-2 の基本構成
(3) ローパワーネットワーク設計法
図 71 ターゲットとするネットワーク構成
現在のネットワークは、図 71 に示すような、ネットワークは AS と呼ばれる数
十台のルータで、構成されたネットワークが複数連なるトポロジーとなっている。
NGN の登場で、ネットワークに対してより厳密に品質が要求されるようになり、
偏波や光パワーなども含め、様々な制約条件を考慮した経路選択が必要とされて
いる。こうした計算は非常に複雑になるため AS 毎に PCE と呼ばれる経路計算サ
ーバを設置することが検討されている。我々のターゲットの一つとして、この
PCE へのローパワーネットワーク設計用オフローディングエンジンとしての搭
載である。
省電力ネットワークへのアプローチとして、ミクロには以下に示すようないく
つかの段階がある。
A)インタフェースの電源 OFF
1.1つの並列伝送しているリンクにおいて余剰なインタフェースを OFF(リンク
は維持)
2.リンクそのものを OFF(対向で2つのインタフェースを OFF)
B)ノードの電源 OFF
などである。これらをどう組み合わせることが最も低消費電力になるかという組
み合わせ計算は次章で示す。
ここではローパワーネットワークの効果を確認するための一例を示す。
図 72 は、並列伝送リンクにおいて、トラヒックに応じて余剰なインタフェー
スを OFF にする例である。光ネットワークでは、経済的なスピード(例えば
1Gb/s)を複数並列に使って、伝送リンクを作る。現在、こうした並列リンクで
は、すべてのインタフェースが ON として用いられているため、たとえ低トラヒ
ックであったとしても常に 10 個のインタフェースで電力を消費している。その
ため、提案方式では、トラヒックに応じて利用するインタフェース数をダイナミ
ックに変更させることを考える。
図 72
インタフェースレベルでの省電力化
次に、図 73 にネットワーク中の低負荷なリンクやノードを切断する省電力手
法について示す。どのリンクを切断するか否かの決定は、例えば、すべてのノー
ドの最短経路木に含まれていないルータを OFF にしたり、トラヒックが小さい
(経路木の多重度が小さい)リンクを OFF にしそれらを迂回することが考えら
れる。提案方式では、取りえる 2n(n はネットワーク内のリンク数)通りのトポロ
ジーすべてに関して、条件判定を行う。
 条件判定の項目としては、全てのリンクに関して波長数が足りるか?
 リンクの最大帯域は超えていないか?
 全てのノードに関して許容遅延(例えば、最短経路探索における最大遅延)
内で、全ての宛先に到着できるか
 許容ホップ数か?
 信頼性の制限であるダイバージェンスは確保できるか
などの制約条件を満足させる。
図 73
省電力ルート計算の例
図 74 は、最短経路木の重複を条件とした場合の省電力ルート計算の一例を示
す。○のノードはエッジルータであり、外部との接点となるため常時 ON である。
また、トラヒックはこのノード間で送受信される。●のノードはコアルータであ
り、場合によってはルータ自身の電源を OFF にすることも考えられる。ルータ
およびインタフェースで消費する電力は図中に示すように、10 と 1 としている。
各リンクは、並列伝送は用いていないとしており、リンク上の数字は最短経路探
索で用いるリンクコストを示す。
初期状態では、ネットワーク中の総使用電力は 76、ノード A、B、F 間での総
リンクコストは 34 となる。まず、ノード A、B、F を起点とする最短経路木を構
築し、そのいずれにも属さないルータが存在する場合は、そのルータは電源を
OFF にする。次に、利用率の低いリンク A-E-F を切断し、A-B-C-F へとトラヒ
ックを迂回させる。最終的にできたこのネットワークが上記条件を満たしていた
とすると、総使用電力を 46 と 4 割削減することが可能となる。この場合、A-E-F
を用いていたトラヒックは最短経路とならなくなるため、総リンクコストは 36
と 2 増加する。
図 74
最短経路木の重複を制約条件とした省電力ルート計算の一例
どのリンクを切断すればよいかが重要な研究課題であり、真の解を得るためには、
すべてのリンクに関して切断した場合の影響を算出する必要があり、これは先述
の集合被覆問題に帰着する。そのため、このようなアプローチは従来行われてき
ていなかったが、次章に示す集合被覆問題の高速解法エンジンを用いることによ
り、実現することが可能になる。
提案方式によるネットワークの構成を図 75 に示す。つまり、ネットワーク内
でできるだけ多くのリンクとできるだけ多くのノードの電源をオフにして、かつ
通信の品質は保証するものである。
図 75
(4)
提案の方式によるネットワークの概要
提案手法
省電力ネットワークを実現するためには、全リソースの中で休止するリソース
(光スイッチであれば光インタフェース)を最大化する必要がある。ネットワー
クインフラは、ピーク時需要にある程度のマージンを加えた量のデータ処理がで
きるよう設計されなければいけないが、一方で運用中の大半の時間ではピーク時
ほどの設備を必要としない。そこで、省電力情報ネットワークを実現するための
アプローチとして、我々はネットワークのリソース(リンクやノード)をトラヒ
ック状況に応じて休止させることを検討している。提案アプローチでは、1)ポー
ト単位で電源を ON-OFF 可能なネットワーク機器、2)機器へ命令するためのプロ
トコル、3)休止するリソースの決定手法、などさまざまな要素から成り立つ。
1)に関しては、技術的な問題はなく、ポート単位で電源を ON/OFF し、それを
管理する方式を確立する必要がある。また、2)に関しては、PCE との通信プロト
コルである Path Computation Element Communication Protocol (PCEP)の拡
張や Generalized Multi-Protocol Label Switching (GMPLS)などの拡張を検討し、
ワシントン DC で行われた MPLS2009 で Booth デモを行った[4]。
そこで本論文では、3)休止するリソースの決定手法について検討した結果を報
告する。省電力情報ネットワークを実現するために、ネットワーク機器のあるイ
ンタフェースを OFF にする場合、そのインタフェースを通過していたトラヒッ
クを別のインタフェース(リンク)を用いて転送する必要がある。トラヒックが
集約されることにより、ON であるインタフェースの使用効率が向上するが、イ
ンタフェースの速度以上にトラヒックが集約された場合は、ネットワークパフォ
ーマンスの低下が生じる。また、常に最短経路を用いた場合に比べ、別経路を通
ることにより、宛先までのホップ数(距離)が増大し、遅延やスループットが劣
化する可能性がある。そのため、ネットワークパフォーマンスの劣化を最小限に
抑えつつ、最大の省電力効果を得ることができる、インタフェースを選択して
OFF にすることが重要となる。OFF にできるインタフェース数は 1 つと限らな
いため、ネットワーク中に n 本のリンクが存在する場合、2n-1 通りの組み合わせ
について、省電力効果とネットワークパフォーマンスの両立が可能か否か判定す
る必要がある。
このような計算は、一般的に集合被覆問題と言われ、組み合わせ数が膨大とな
るため、真の値を現実的な時間で得ることは非常に困難とされている。集合被覆
問題とは、すべての条件を満たす最小のリソース組み合わせを発見する方法であ
り、具体的には、全ユーザに対して 10ms 以内でレスポンスするための最小サー
バ配置や、コンテンツサーバにおける最小レプリカ配置、さらには人口カバー率
が 99%とする場合の携帯電話の基地局配置問題などである。集合被覆問題におい
て真の解を得ようとした場合、組み合わせの数の増大に伴い計算量、計算時間が
膨大になることから、現実的な時間で真の解を得ることは困難とされている。具
体的には、32 ノードのネットワークにおいて、配置するレプリカ数を最小にする
レプリカ配置問題を解く場合、232 通りの配置パターンに関して、ある条件を満
たすか否かを判定する必要がある。そのため、省電力情報ネットワーク実現のた
めには、上記アルゴリズムだけでなく、それを現実的な時間で計算するための手
法も基盤技術として確立する必要がある。
リソース数変更
ループ
全パターン列導出
被覆判定
コスト計算
終了判定
各ノード間のショーテストパス計算
ホップリミット制限を満たし合計ホップ数がコスト
図 76
図 77
提案方式の概要
リンクを2進数で表現し、ON なら1、OFF なら0として数学的に扱う。
これまで、我々は、このような集合被覆問題を高速に解く手法として、レプリ
カ配置問題に関して、DAPDNA-2 を用い、組み合わせ計算を並列化、パイプラ
イン化する手法を提案し、これまでよりも数桁高速に計算することを証明済みで
ある。本研究開発では、それをインタフェースの省電力化に応用する。
本提案では、図 76 に示すように、全リソースのうち、使用するリソースの個数
を増加させながら、配置の組み合わせを高速で導出してそれぞれが制限条件を満
たし通信可能かどうかを検査する。光スイッチの台数を N 台、各スイッチにおけ
る光ポート数を P 個とすると、ネットワーク全体では N・P 個のリソースが存在
し、任意の 1 ポートを使用した場合、任意の 2 ポートを使用した場合、・・・と
すべての組み合わせに関して、それぞれパラレルサーチ法による最短経路計算を
行い、遅延や上限ホップ数、最大収容トラヒックなどの制限条件を満たすかどう
かを判定する。
(a)全組み合わせの導出
提案手法では、ネットワークリソースを配置する可能性のある場所(候補点)のう
ち実際にリソースを配置する場所を選ぶ組み合わせは、配置または機能している
候補点を 1、配置していないか休止している候補点を 0 とし、候補点数と同じビ
ット数で表現する。具体的には、図 77 に示すように 8 ポートのリソースがある
場合、01001000=ポート 2 とポート 5 を運転、となる。これを 2 進数とみるこ
とで、大小関係を設定することができ、例えば 2 ポート運転する場合の組み合わ
せは、00000011 から 11000000 までの 36 通りとなる。0 と 1 の数を揃えながら、
次に大きな組み合わせを得る方法として、図 78 に示すような Beeler らが考案し
たアルゴリズム(以下,Beeler 法と呼ぶ)がある。
図 78
図 79
Beeler 法の例
Beeler 法を実装した DNA で高速に組み合わせを算出
提案手法では、この Beeler 法を DNA 上にハードウェア実装し、図 79 に示す
ように、複数の計算起点を並列かつパイプラインで流し込むことによって、高速
にすべての組み合わせを算出する。並列計算およびパイプライン計算を行うため
には、計算の起点となるシードを算出する必要があるが、先述の Beeler 法では1
つ大きな組み合わせを得ることはできるが、任意の場所の組み合わせを得ること
はできない。そのためシーズとするとびとびの値を事前に計算してそれをシーズ
にして並列計算を行う。全体の計算の方法を図 80 に示す。計算では Beeler によ
り生成したネットワークトポロジーをそのトポロジー上で最短経路検索(これも
DAPDNA 上で行う)を行い、事前に与えられたトラヒックマトリックスから、
各リンクの帯域やホップ条件、信頼性の条件を評価するものである。DAPDNA-2
は 32 候補点の Beeler 計算であれば1クロックスループットのパイプラインを1
デバイスあたり4並列以上持てる。また、複数チップを接続して並列処理数を簡
単に増加させることができ、膨大な組み合わせ計算を一気に計算することが可能
となる。省電力ルーティングアルゴリズムをペンティアム(2GHz, RAM:1GB)
で計算した場合と、本オフロードエンジン(133MHz)を用いて計算した場合の性
能比較を示す。ペンティアムで計算した場合に 2 日間かかる計算を、図 81 に示
すように、本オフロードエンジンを用いることで数秒にまで改善できる。
図 80
制限条件も考慮した省エネルギー型ネットワーク設計の流れ
図 81
本オフロードエンジンとペンティアムの性能比較
(b)ネットワーク再構成制御プロトコルの開発
ネットワークで、上記のようなアプローチを行う場合、どのタイミングで行う
かが問題となる。トラヒックの増加具合によっては、一度 OFF にしたリンクや
機器を ON にすることも必要となる。そのために、PCE を中心として、グローバ
ルにトラヒックの状況を把握し、適切なタイミングでネットワーク全体の再構成
を行う。そのためには、各ネットワーク機器から MIB や OSPF といったプロト
コルを用いてトラヒック状況を収集する手法や、新規に経路を構築する場合に最
短経路ではなく、最小電力経路を取るなどのネットワーク制御プロトコルを開発
している。
(c)効果の定量化
簡単なネットワークモデルで効果を定量化した、モデルは米国 NSF モデルで
14 ノードのバックボーンネットワークである。ネットワークの使用率をパラメー
タにして、電力削減量をプロットした。当然ながらネットワークの使用率が小さ
いと大きくネットワークのエネルギーが削減できる。図 82 に評価結果を示す。
今後、ネットワークをより現実化して評価していく。
図 82
NSF ネットにおける電力削減効果
図 83
(5)
ネットワーク全体図
実験ネットワーク
本提案のネットワーク設計エンジンを使ったネットワークの実験システムを
検討した。図 83 に、実験ネットワークの概略を示す。ネットワークは、先に述
べた(1)設計エンジン(PCE)、(2)リモート ON/OFF プロトコル、(3)ポート単位
の ON/OFF 機能を有する Layer2 スイッチから構成される。
(2)のリモート ON/OFF プロトコルは、GMPLS の C-plane を利用して行なう。
図 84 に動作のコンセプトを示した。IP レイヤには、例えば 1Gb/s のパスとして
見えるが、物理的には ON となっている 1Gb/s の link と、OFF となっている 1Gb/s
の link がある。一方、IP レイヤで 2Gb/s のパスとするには、トラヒックの増加
に伴って物理リンクを 1 つ ON とし、2Gb/s の帯域を持つパスとなる。
図 84
リンクの構成図
レイヤ2スイッチとして、図 85 に写真とブロック構成を示す。本試作システム
を使って実験を行なっていく。
図 85
リモートコントロールレイヤ2スイッチ
(10) 広域レイヤ 2 ネットワークアーキテクチャに関する研究
(1) 背景
イーサネットは最も普及したネットワーク技術の一つであり、TCP/IP との親
和性が高い。また、近年 40Gbps や 100Gbps の規格の標準化が行われており、高
速なネットワークを安価に提供できる。そのため、通信キャリアから対費用効果
高く広域ネットワークを構成する技術として近年注目されている。しかしながら、
イーサネットは LAN(Local Area Network)から始まった技術であるため、広域ネ
ットワークで使用するにはスケーラビリティが不足しており、スケーラビリティ
を確保するための仕組みが求められている。
(2)
従来方式(タグ VLAN)
広域イーサネットでは、通常、タグ VLAN を用いてパスの確立が行われる。タ
グ VLAN では、VLAN タグと呼ばれる識別子を用いて仮想的な LAN が構築され
る。このことを用いて、広域イーサネットでは VLAN タグを用いてパスの識別を
行う。しかしながら、VLAN タグに割り当てられているフィールドは 12 ビット
であり、また VLAN タグはネットワーク全体を通してユニークである必要がある
ため、ネットワーク中に最大 4096 本のパスが収容可能であるが、広域ネットワ
ークでの利用を前提としたときには最大パス数が不足しているという問題がある。
(3)
提案方式(VLAN tag swapping)
広域イーサネットのスケーラビリティを確保するため、各スイッチにおいて
VLAN タグを置き換える VLAN tag swapping を提案する。図 86 に提案方式の
概要を示す。VLAN tag swapping では、各スイッチがフォワーディングテーブ
ルに従って、フレームの入力ポート、VLAN タグから出力ポート、VLAN タグを
決定する。各フレームの VLAN タグの値は、フォワーディングテーブルに従って
置き換えられる。そのため、リンクが異なれば同一の VLAN タグを再利用するこ
とが可能となり、タグ VLAN 方式でのネットワーク全体でユニークという制約が
なくなるため、最大収容可能パス数を増加させることができる。
(4) 実装および相互接続実験
提案方式である VLAN tag swapping 機能を備えたプロトタイプスイッチを実
装した。実装では、Click Modular Router を用い、VLAN tag swapping 機能を
実現するエレメント(Click Modular Router での処理ブロック単位)を作成する
こ と で ス イッチを実現した。我々が提案した VLAN tag swapping と同様に
VLAN タ グ を 各 ス イ ッ チ で 置 き 換 え る 方 式 で あ る ELS(Ethernet Lable
Swiching)をゲント大学 IBCN が提案・実装しており、ゲント大学 IBCN と VLAN
tag swapping 方式と ELS 方式の相互接続実験を行った。図 87 に実験環境を示
す。プロトタイプスイッチを慶應義塾大学側に 2 台、ゲント大学側に 4 台設置し、
さらに、慶應義塾大学側には端末を 2 台設置した。ゲント大学で折り返すような
パスを作成し、慶應義塾大学側に設置された端末両端で高品位ビデオの送受信、
ping による RTT の測定、iperf による UDP スループットの測定を行った。
図 86
(5)
VLAN tag swapping
図 87
相互接続実験の実験環境
実験結果
図 88、図 89 はそれぞれ ping による RTT の測定結果、UDP スループットの
測定結果を示している。平均 RTT は、575.5msec で、標準偏差は 0.64msec であ
ることから、VLAN tag swapping によって RTT への悪影響が出ていないことが
分かる。また、UDP スループットは高品位ビデオを送信するのに十分な帯域があ
ることが示せた。
図 88
ping による RTT
図 89
UDP スループット
(11) E-tree 確立に向けた GMPLS シグナリングの研究開発
(1) 概要
本研究では、次世代の広域イーサネットを想定し、複数拠点間接続サービスで
ある E-tree 実現ための P2MP(Point-to-MultiPoint)パスの確立を、独自実装した
プロトタイプの GMPLS プログラムを用いて実験ネットワークで確認した。
GMPLS シグナリングによる P2MP パスの確立手法は IETF の発行する標準化
提案 RFC4875 によって定められているが、具体的なノードの振る舞いなどにつ
いては言及されていない。そこで、本研究では RFC4875 に基づいて 拡張された
プロトタイプの RSVP-TE を実装し、具体的なノードの振る舞いを定義すること
で、GMPLS シグナリングによる P2MP パスの確立の結果を報告する。
(2) RSVP-TE シグナリングの検討
(a)拡張オブジェクトの追加
確立されるセッションが P2MP であることを表すための(I)P2MP LSP Tunnel
IPv4 (IPv6) SESSION オブジェクト、および(II)SENDER_TEMPLATE オブジ
ェクト、またそれぞれの Leaf ノード(EGRESS ノード)のアドレスを表す、(III)
S2L_SUB_LSP
IPv4
(IPv6) オ ブ ジ ェ ク ト 、 そ し て 経 路 を 表 す
(IV)SECONDARY_EXPLICIT_ROUTE オブジェクト (SERO)を、プロトタイプ
GMPLS プログラムへと追加した。
(b)メッセージの処理
メッセージを受け取った全てのノードは、全ての SERO をチェックし、1 ホッ
プ目が自分のアドレスを示していないか検査する。もし該当するなら、そのノー
ドは分岐ノードであり、分岐処理を行う。図 91 におけるノード C のように複数
の分岐を行う場合は特殊である。ノード G へと転送されるべきノード H やノー
ド I の SERO には、1 ホップ目が C を示しており、これを検出するために分岐ノ
ードは再帰的な処理が必要となる。その後、ERO の変換や Sub-Group Originator
ID および Sub-group ID の書き換えを行い、メッセージは適切に EGRESS へと
送信される。
(3) 実験および結果
プロトタイプの GMPLS プログラムを用いた GMPLS シグナリングにより、
P2MP パスは実験ネットワーク上に適切に確立された。確立の際に交換されたシ
グナリングメッセージは図 91 へと表される。
また、今回の実験を通し、次節で述べる新たな検討課題を明確化した。
図 90
P2MP シグナリングの例
図 91
シグナリングメッセージ
(4) MP2MP による E-LAN 確立技術の必要性
実験を通し、MP2MP LSP を確立する上で、次の 3 点を検討課題として挙げる。
(I)MP2MP LSP にて許容するトポロジが、スター型のトポロジか、それとも分散
される他のトポロジであるべきかを検討しなければならない。 (II)トラヒック帯
域表示について、MP2MP ではエッジ/リーフの各ノードから他のエッジ/リー
フノードへとトラヒックが発生することが一般的であり、これらを全て
RSVP-TE 上で表すためには、何らかの拡張が必要である。(II)LSP 生成/削除の
管理について、MP2MP LSP では、INGRESS ノード(Initiator)が LSP から離脱
した場合に、他のノード同士が通信するために LSP を残す可能性もある。よって
INGRESS 以外のノードも対等に LSP のステートを保持するなどの拡張が必要に
なる。
(5) 結論
本稿では、Native Ethernet 方式を用いた GMPLS 制御の広域イーサネットを
想定し、実験ネットワーク上にて P2MP LSP の確立に成功したことを報告した。
P2MP LSP 確立のための RSVP-TE 拡張は RFC4875 に基づいて行い、プロトタ
イプの RSVP-TE プログラムを用いて P2MP LSP を確立した。本実験結果により、
GMPLS 制御による広域イーサネット上にて、E-tree サービスを実現可能である
ことを示した。
(12)
複数経路を用いた無線通信に対する MDC の適用と評価
本研究では、複数の通信経路を同時並行に用いることができるネットワーク環
境において、それらの通信経路を効率的に利用するための通信方式として多重記
述符号化(Multiple Description Coding: MDC)を用いることを検討した。
複数の通信経路を有効活用する方法として、古くからトランク構成を組む方法
が一般化している。その一方で近年、MDC を用いて複数経路を活用する方法が
提案されている。MDC は、全ての記述子から元符号を復号できるだけでなく、
一部の記述子からでも不完全な元符号を復号することができるという特徴がある。
このため、パケットロスが生じやすい通信環境において、実時間性を要求する(す
なわち再送要求を実施できない)がビット誤りは許容可能な応用に対して適用す
ることで、帯域向上とパケットロスへの耐性強化が期待されてきた。しかし無線
環境などにおけるビット誤りに対する耐性についての研究はこれまでなされてい
なかった。そこで本課題では、センサネットワーク用として期待されている省電
力指向の無線通信規格 IEEE 802.15.4 (ZigBee)を複数チャネル同時使用すること
により、実時間性を保証しつつ帯域とビット誤り耐性を向上することを検討した。
(1) MDC のモデル
簡単のために、二つの通信路モデルを示す。図 92 は多重記述符号化のデータ
フローダイヤグラムである。符号器は、元符号 X から二つの記述子 Y1, Y2 を生成
する。 Y1, Y2 は各々通信経路 1, 2 にて転送される。
図 92
2 経路 MDC のモデル
ここで、両方の記述子が届けば中央復号器が X0 を復号し、一方だけが届けば側
復号器が X1 ないし X2 を復号するというのが MDC の基本的な枠組みである。
これまで幾つかの MDC 手法が提案されているが、本課題では相関変換法を拡
張した非対称相関変換法を提案している。従来の相関変換法は、元符号ベクトル
と同じ次数の正方行列の変換行列 T を左から掛けることで復号するものである。
この変換行列を経路の信頼性に応じて調整できるように拡張したものが非対称変
換行列 Tasy であり、次式で示されるように 2 つの調整パラメータ K と θ によって
決定される。
片方の記述子だけが受信できた際は、以下のように復号する。
ここで σ 1, σ 2 はそれぞれ Y1, Y2 の標準偏差である。このときの歪み D1 は次のよ
うに与えられる。
(2) 理論解析
調整パラメータである K と θ を適切に設定するための評価指標として、画像デ
ータを元符号として送信し、復号符号を画像データとして復元した際の PSNR を
用いることにした。経路 1, 2 のパケット棄却率をそれぞれ 0.1, 0.2 の組み合わせ
として与え、θ を 0 からπ/2 まで変化させたときの PSNR を図 93 に示す。グラ
フより、パケット棄却率の比に対して最適な θ や K が存在することが確認された。
図 93
θ に対する PSNR(左)と、 K に対する PSNR(右)
(3) ZigBee による複数経路通信
複数経路通信をビットエラーの生じる無線環境下で実施するために、Uniband
Electronic Corporation 製の ZigBee モジュール UZ2400 が搭載された NEC エレ
クトロニクス製 TK-78K0R/KG3+UZ ボードを 4 枚利用し、2 台の PC に 2 枚ず
つ接続することにより、2 経路の無線通信環境を構築した。本ボードの設定とし
て、MAC 層での再送を停止し、同一パケットは一度しか送信しないようにする
ことで、ビット誤りを許容する通信経路を実現した。
単一チャネル(11ch)での通信性能を測定した結果、通信帯域 55.9kbps、パケッ
トロス率 2.69%であった。2 チャネル同時並列に利用した際の合計通信帯域を、
組合せたチャネル毎に測定した結果を図 94 に示す。
図 94
11ch と組合せたチャネル番号と合計帯域の関係
ZigBee は隣接チャネルとの干渉が生じないように設計されているが、測定結果か
ら実際にはチャネル間の相性が存在することが示唆された。
次にパケットエラーが互いに独立に生じたかどうかを確認した結果を図 95 に
示す。これは 2 つのチャネルにほぼ同時に送信したパケットが、どのように受信
したかを分析したものであり、Good は両経路のパケットが正しく届いたことを、
Acceptable は片方の経路のパケットが正しく届いたことを、Bad は両経路のパケ
ットが失われたことを示している。
図 95
MDC を適用した際のパケットロス率
これより、利用チャネルを適切に選択することにより、単一経路では 2.69%のパ
ケットが失われる状況において、2 経路を並列利用することによりほぼ 100%の
確率で少なくとも一方のパケットが伝送可能であることが示された。このことは、
周期的に伝送するような実時間応用に対して MDC を用いた場合、データの歪み
を生じる可能性はあるものの、ほぼ確実に周期的伝送を達成できることを示して
いる。
(4) 画像伝送に基づく実測評価
MDC を用いて実際の画像データを複数記述子として表現し、ZigBee の複数チ
ャネルを介して伝送し、受信できた記述子だけを用いて復号した際に、どの程度
の誤差が生じるかを確認した。図 96 にこの結果を示す。
図 96
複数経路で送信し、1 経路の情報から復元した結果の画像
左の画像が元画像であり、中央の画像は複数経路をトランク利用した際に一方の
経路が 100%ロスした場合の復元画像である。この例では単純に圧縮した後にト
ランクの一方がパケットを失うと画像全体が復元できないため、無圧縮を仮定し
た。右の画像は MDC を利用して複数記述子に分けた後、一方の記述子が 100%
ロスした場合の復号画像である。通信量の半分がロスしているにも関わらず、
PSNR は約 35dB と良好な画像を復元できていることが示された。
以上のことから、パケットロスだけでなくビット誤りが生じる通信経路上で
MDC を用いて複数経路通信することは可能であり、再送することなくパケット
棄却率を低減でき、また帯域を向上させる効果が得られることが分かった。今後
の課題として、実時間応用への適応、マルチメディア応用だけでなく数値制御へ
の応用などが考えられる。
(13)
インタコネクションネットワークの研究開発
(1) Network On Chip の検討
マルチコア、メニーコアの時代に入り、コンポーネント間の接続ネットワーク
(インタコネクションネットワーク)は、いまや筐体間、基板間、チップ間の接
続からチップ内の接続用ネットワーク、すなわち Network On Chip(NoC)の時
代に移っている。NoC は、従来のネットワークと異なり、以下の要求仕様を満足
しなければならない。
(a) 従来のチップ内バスやワイヤの代わりに利用されるため、低レイテンシィ
転送が重要である。
(b) チップ内では面積が制限される点、ネットワークが接続の対象とするノー
ドは、メモリや I/O など単純な構成で面積も小さいものも含まれることか
ら、ルータの構造は単純でなければならない。
(c) チップ全体としての消費電力が重要であることから、ルータ、ネットワー
クで消費される電力も小さくなければならない。
一方で、以下の特徴があり、最適化に利用可能である。
(d) チップ内は基板、筐体に比べて配線資源は豊富に利用可能である。
(e) 同一クロックが利用可能で、隣接ルータの情報を利用するのが容易である。
(f) ノード間の交信パターン、データ量などが予測可能である。
我々は、国際的にも早い時期から、低遅延、低消費電力の NoC の開発に取り
組み、前年度に引き続き今年度は以下の研究を行った。
(a) 予測を取り入れた低遅延ルータ
前年度の研究により基本構造を評価した予測ルータは、その性能を発揮するた
めにはいかにパケットの進路を予測するかのアルゴリズムが重要であることがわ
かった。そこで、今年度は、(1)パケットが常に直進するものと予測する(SS)、
(2)ユーザが指定する(Preferred)、(3)前回の転送で使われたパスが今回も使われ
ると予測(Latest)、(4)過去の履歴から今度のチャネルを予測する(FCM)、(5)
パターンマッチングを用いる方法(SPM)を評価した。この結果、SS および Latest
が簡単なハードウェアの割には多くの交信パターンで有効であることがわかった。
(b) 可変パイプラインルータ
最近の NoC ルータは 1-4 段のステージのパイプライン構造を持つ。このパイプラ
インが短ければ転送遅延時間は小さくなるが、動作周波数が低くなってしまう。
一方、パイプラインステージ数が多いルータは、動作周波数を高くすることは可
能だが、転送遅延が大きく、消費エネルギーも大きくなってしまう。そこで、状
況に応じてパイプライン構造を自由に切り替えられる可変パイプラインルータを
提案した。このルータは、いくつかのパイプラインを融合して動作することが可
能であり、図 97 に示すようにパイプラインを融合することにより 1 段、図 98 に
示す構成で 2 段、図 99 に示すようにレジスタを置くことで 3 段まで構成を状況
に応じて変更できる。評価の結果、2 段構成はメリットがないことがわかり、1
段と 3 段の可変により、5.8%の面積の増加に対して最大 46%消費電力を節約で
きることが明らかになった。
図 97
可変パイプラインルータの 1 段構成
図 98
可変パイプラインルータの 2 段構成
図 99
可変パイプラインルータの 3 段構成
(c) オンチップルータのランタイムパワーゲーティングの研究
NoC は、特に共有メモリ型のマルチコアプロセッサのキャッシュ制御に用いら
れる場合は、リンクによって利用される時間が集中している。このため、細粒度
ランタイムパワーゲーティングを行うことで、リーク電力を削減することが可能
である。しかし、この方法はスリープ状態から復帰するのに時間が掛かるため、
パケットが到着してから電源を ON にすると、待ち時間が生じて性能が低下する。
そこで、予測ルータの手法を利用して、パケットが到着する以前に起こしておく
手法を(1)LookUp 方式、(2)Wakeup-packet 方式、(3)Buffer Window 方式の三つ
を提案した。評価の結果、LookUp 方式の効果が大きく、図 100 に示すように消
費電力を 57.6%削減可能なことがわかった。一方で、Buffer
Window 方式は、
Router leakage power (normalized) [%]
効果は 20%程度に限定されるが、コストがほどんどかからないという利点がある。
100
80
look-ahead
wakeup-pkt
buf-window
60
40
20
0
a
b
c
d
e
f
g
h
Benchmark programs
図 100
i
j
k
Ave.
ルータの消費電力削減効果
(2) Infiniband におけるリンク ON/OFF ポリシーの実装
1-c)では、NoC におけるリンクをシャットダウンする研究を行ったが、NoC で
はなく PC クラスタで用いられる SAN(System Area Network)においても同様に
シャットダウンを行うことで電力を削減することができる。しかし、SAN におい
ては、動的に行わず、アプリケーションの性質に応じて静的に行うのが有効であ
る。また、SAN ではリンク上で送るパケット数を増やしても電力はほどんど増え
ない。上記の条件を考え、PC クラスタ用の SAN として一般的に用いられている
Infiniband のトラフィックの少ないリンクの電源をシャットダウンすることに
より電力を節減するアルゴリズムを提案して、実装を行った。この手法はトラフ
ィックの少ないパスをシャットダウンし、自動的にパスを変更する。図 101 にそ
のイメージを示す。このアルゴリズムを APM(Automatic Path Migration)と呼ぶ。
この手法により、性能低下を起こさずに、13%の電力を削減することができた。
X
Y
0
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
31
32
33
34
35
図 101
リンク切断のイメージ図
(14) 新世代インターネットに関する研究開発
(1) 分散協調型エネルギーマネジメントシステム
(a)
概要
地球温暖化問題を解決するためには、エネルギー需要予測と、予測に基づく制
御によるリアルタイムな需要供給バランスの確保が重要である。大口需要家では
BEMS(Building Energy Management System)の導入を含む様々な技術の導入
が進む一方で、我が国の全 CO2 排出量の 4 分の 1 を占める家庭部門におけるエ
ネルギー需要の管理削減技術は、まだ開発途上である。類似する家庭用システム
として HEMS(Home Energy Management System)が提案されているが、導入コ
ストが高くその回収が困難であるため普及に至りにくい。これは、家庭用電力消
費機器の制御方法や仕組みが一般化されていないことや、需要予測が困難である
こと、ライフスタイルや趣向の差が大きいことがあげられる。家庭部門のエネル
ギー消費量は年々増大しており、我が国 CO2 削減目標達成への大きな障害とな
っている。我々は家庭固有の問題も勘案し、
1. ネットワーク、特にインターネットを利用した分散協調型エネルギーマネジメ
ントシステムの構築
2. 環境情報の取得とその利用による効率化
3. 各需要家の制御と、マイクログリッド内の分散制御、さらにマイクログリッド
間の制御といった階層的なネットワークシステムの構築
4. 快適性や利便性の確保や電気機器制御における制限事項の遵守
5. 正確な需要予測
6. ダイナミックにその形態を変化させながら統括管理
これらを実現するシステムの確立を目指している。
(b)
成果
我々は、独自の分散協調型総合エネルギーマネジメントシステム
KNIVES(Keio Network Integrated Versatile Energy Saving System)を構築し
た。KNIVES は環境情報を利用した制御とインターネットを利用した協調型デマ
ンド・サプライコントロールシステムであり、電気機器や分散電源をインターネ
ットにより統合管理し、対象となる全電力供給家と全電力需要家を総合的に制御
することによって、より安価かつ安定した電力供給と電力需要、さらにはより進
んだ省エネ・環境への配慮、CO2 削減を実現するシステムである。特に従来導入
が困難であった小口電力需要家への導入を目指している。実際に KNIVES はレ
ストラン、ホテル、学校、ケアセンター、一般企業に導入され、いずれも 3 年で
導入コストを回収し、さらに電力使用量を 10%から 20%程度削減した。今年度は
特に湘南藤沢キャンパスにも導入し、キャンパスエリアの分散協調制御に取り組
んだ。
インターネットを利用した大規模システムであるため、障害発生時に対応する
安定性、取得した様々なデータや制御情報の改竄・漏洩・紛失から守る安全性、
設置が容易でインターネット接続環境を選ばない可用性、小規模システムから大
規模システムまで自由に構築できる拡張性も充実させた。リアルタイムに環境を
計測し、エネルギー需給の同時同量を実現ため、センサとして電力センサ、温度・
湿度・照度センサ、CO2 センサ、コジェネレーションシステム用温度アレイセン
サ、電気機器制御モジュール、アナログ入力、パラレル I/O などを備える。また、
通常の LAN への接続のほかにも一般携帯通信網を利用したワイヤレス接続環境、
特定小電力無線通信にも対応する。
KNIVES では、XML ベースの制御言語 KNIVEML を新たに開発し利用してい
る。KNIVESML を利用することで可読性を高め、多様なアプリケーションへの
応用を容易としている。応用および拡張が容易であるとともに、XML データベ
ース等とも親和性が高い。KNIVES のサーバアプリケーションは SQL データベ
ースを利用し、TCP/IP を利用して他のサーバもしくは端末と通信する。サーバ
と端末を木構造でくみ上げることで、大規模なシステムを構築可能である。
KNIVES の制御アルゴリズムはおおよそ次の通りである。通常の協調制御モー
ドでは、需要家 i における予想消費電力量を PCi 、需要家 i における電力消費量
の制限値を LCi 、全体の電力消費量制限値を OL とすると、
1. ∑PCi < OL
∧
PCi < LCi
となる場合、新たな運転抑制は行わなず、制限中の電源供給を回復する。
2. ∑PCi < OL
∧
PCi ≧ LCi
となる場合、他の端末のマージンを電力超過の端末に割り当て、当該端末におけ
る新たな運転抑制は行わない。
3. ∑PCi ≧ OL
∧
PCi < LCi
となる場合、超過分を削除するためにデマンドコントロールを行うと共に代替閾
値をコスト方程式から計算する。コスト方程式は過去の運転履歴や、収集した環
境測定値に基づく快適性指標の積分値、人数、優先順位等にそれぞれ重み係数を
かけた値の総和の比較によって算出される。
4. ∑PCi ≧ OL
∧
PCi ≧ LCi
となる場合、各端末がそれぞれの閾値を満たすようにデマンドコントロールを行
う。つまり、各端末は独立制御モードと同じ動作を行う。
予想消費電力量を PCi の算出方法について、KNIVE では
システム全体の想
定最大動作遅延に合わせた 5 秒同時同量と、現在の電力料金における基本使用料
の算出スロットである 30 分同時同量の 2 つの予測を利用し、いずれも線形予測
を基本としている。
5 秒同時同量に関して PC  PC now  ( PC now  PC prev )  (endtime  now) /( now  prev )
30 分同時同量に関して PC  PC now  ( period /(now  starttime)) により算出する。
図 102
この計算は、KNIVES サーバにおいて行われ、階層の KNIVES サーバに情報
が伝達する。まずはピークシフトにより解決を試み、それでも電力消費制限値を
満たせない場合は、ピークカットを行う。居住者の快適性を考慮に入れるためヘ
テロジニアス・ピークシフトおよびピークカット手法を新たに取り入れた。ヘテ
ロジニアスなピークカットでは、同様に各消費グループの応分で制限値を決定す
る。
全体消費電力
制限値
図 103
実際には、ヘテロジニアスなピークシフトとピークカットを同時に利用しかつ
リアルタイムに制御することで、効率よく同時同量を実現した。
また、KNIVES においては、人数をもとにした制御についても考慮に入れてい
る。CO2 センサを利用することで、特に燃焼を伴う暖房や調理器具がない環境で
あれば、CO2 は特に人間が特徴的に排出するため、CO2 濃度を測定することで
人数を推定することができる。CO2 を含む汚染物質の濃度を示す次の式から、M
を一人あたりの CO2 排出量×人数として推定した。
この式に基づき、実際に大学の教室環境について人数推定を行った。黒線は実際
に目視により計数した人数、赤線は CO2 濃度により推定した人数である。2 つの
線はよい一致を示しており、CO2 濃度が人数係数手段として利用できることが明
らかとなった。この結果を利用することで、安価な計測手段による人数推定に基
づくデマンドコントロールの可能性を示すことができた。現在人感センサと融合
したさらに測定精度の高いセンサを開発し評価している。
図 104
CO2 濃度計測に基づく人数測定結果
KNIVES のもう一つの特徴として、RAN(Room Area Network)の統合がある。
KNIVES と接続可能な ZigBee 端末を開発し、センサネットワークを構築するこ
とで、配線工事の手間を解消し、各種センサを無線化するといった設置の容易性、
さらにセンサを複数配置し耐故障性を確保することによる計測精度の向上を実現
する。特に環境情報の測定においては、その場所の環境を最もよく反映する場所
にセンサを設置することが望ましいが、その場所の配線環境がいつもよいとは限
らない。そこで、ZigBee、あるいは WLAN、Bluetooth などを用いたリモートセ
ンシングを行う。また、より精度のよい計測と制御を実現するために、コンセン
ト毎の電力使用量をリアルタイムに計測できる一般家庭用分電盤ライフィニティ
に KNIVES を搭載することでさらなる効率の良いエネルギーマネジメントを実
現した。
図 105
端末
端子別電力消費量測定端末
図 106
CO2 を含む RAN 用環境情報取得
Fly UP