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中国2030年の経済・エネルギー・環境に関する 計量経済分析
第16回エネルギーシステム・経済・環境コンファレンス講演論文 中国2030年の経済・エネルギー・環境に関する 計量経済分析 長岡技術科学大学 李 志東 (財)日本エネルギー経済研究所 伊藤浩吉 中国国家発展計画委員会能源研究所能源効率中心 戴 彦徳 はじめに 中国は経済成長大国であると同時に、エネルギー需給大国、環境汚染大国でもある。その未来像 を適切に把握し、関連問題と解決策を検討することは、中国だけではなく、世界の持続可能な発展 の実現にとっても有意義である。従来の研究では、定性的検討が多く、計量経済分析が少ないこと、 エネルギー需給に関する分析が多く、経済・エネルギー・環境を整合的に取り扱う研究が少ないこ と、分析期間を2010年ないし2020年か2100年とするものが多く、その中間に関する研究が少ないこ と、などの特徴が見られる。本研究では、統合型計量経済モデルを用いて2030年を目標年次とする 経済・エネルギー・環境に関する計量経済分析を目指しているが、ここでは、研究の第一段階で得 られた主な結果を中心に紹介することにしたい。 1 統合型計量分析モデルについて 1.1 概要 (1) モデルの構造。本研究ではマクロ経済モデルとエネルギー需給モデルおよび環境モデルからな る統合モデルを構築した。図1はその全体構造を示す。 図1 中国の長期統合型計量分析モデルの全体構造 <人口要因> 人口およびその構成 <海外要因> 世界貿易、為替レート,等 <政府要因> 消費、投資、等 マクロ経済モデル <各種価格指標> GDP関連デフレーター、WPI,CPIなどの一般物 価指数、エネルギー価格関連指標、など <各種活動指標> GDP関連指標、経常収支指標、産業構造指 標、粗鋼生産量など産業活動指標、旅客と 貨物の輸送料指標、その他指標 <各種効率指標> 電源別発電効率、車 総合燃費、など <汚染物質係数> 硫黄含有率と発生係数、 炭素排出係数、など <エネルギー生産量> 石炭、石油、天然ガス、 原子力、水力、その他 エネルギー・環境モデル <エネルギー需給関連指標> 部門別源別最終需要、発電用燃料投入、源別一次需 給バランス、エネルギー純輸入外貨負担率 凡例: 外生変数 モデル 1 <環境汚染物質指標> 部 門 別 源 別 S O 2 発 生 量 と C O 2排 出量、その他関連指標 内生変数 まず、マクロ経済モデルでは、世界貿易、世界工業品輸出物価指数、原油価格など海外関連指標、 人口、労働力、高齢化率など人口指標、政府消費と投資など財政指標を外生変数として与える。そ れらを前提条件にして、GDP関連指標、経常収支、産業活動指標と産業構造、各種物価指数などを 内生変数として求める。次に、エネルギー需給モデルでは、マクロ経済モデルの結果に加え、電源 別発電効率や自動車燃費など各種効率指標、一次エネルギー生産量などを外生変数として与える。 それらを前提条件にして、「部門別エネルギー源別の最終需要→発電用燃料需要→一次エネルギー 需要→一次エネルギー需給バランス→エネルギー純輸入の外貨必要量と負担能力」が順序に推定さ れる。最後に、環境モデルでは、マクロ経済とエネルギー需給モデルの結果に加え、各種汚染物質 の発生係数と排出係数などを前提条件にして、汚染物質の発生量や排出量および環境質、環境被害 などが推定される。ただし、現段階では、エネルギー需給に起因するSO2発生量、CO2排出量など国 内環境と地球環境に関連する環境指標の推定に止まる。 (2) データ。国内マクロ関係は主に『中国統計年鑑』、 "World Development Indicators"、『中 国固定資産投資年鑑1950-1995』、『中国労働統計年鑑』、『中国工業経済統計年鑑』等から、海 外関係は『エコノメートデータファイル』(東洋経済新報社)から、エネルギー需給関係はIEA統計 から取った。資本ストックと稼働率及びエネルギー価格は各種資料を参考に整備した。エネルギー 消費起因のSO2発生量とCO2排出量は次のように推定した。 CO2(t-c)=1.080×石炭(toe)+0.837×石油(toe)+0.641×天然ガス(toe) SO2(t)= 石炭(toe)×2(原炭トン/toe)×1.15%×0.8×2+{国産原油×0.3%+輸入原油×1.0%}×2 (3) モデルの規模と推定期間。統合モデルはマクロ経済モデル81本、エネルギー需給と環境モデ ル256本、計337本の方程式によって構成される。推定期間は原則として、マクロについては1979∼ 97年の高度経済成長期、エネルギーと環境については1971∼96年とした。 1.2 推定結果の意味 (1) 成長会計からみる高成長の要因。高成長要因を把握するために、労働、資本とタイムトレン ド(技術進歩の代理変数)を説明変数とするGDP生産関数をマクロモデルに組み入れた。資本分配 率は0.33、労働分配率は0.67、技術進歩率は4.4%と推定された。成長会計をみると、80∼97年の年 平均経済成長率10.1%のうち、資本ストックの寄与は3.4%、労働投入の寄与は2.0%、全要素生産性 (残差)の寄与は4.7%となる。表1には成長会計に関する総合比較を示す。 表1 経済の成長会計の推定結果に関する総合比較 中国に関する推定結果 日本に関する推定結果 本モデル 世界銀行 経済企画庁 中谷巌氏 1980-97 1985-94 1980-1995 1955-61 1965-90 1965-72 1973-80 1981-90 経済成長率 10.1% 10.2% 10.2% 13.0% 5.3% 9.0% 3.9% 3.8% 資本ストックの寄与 3.4% 6.6% 3.2∼3.6% 2.9% 3.0% 5.2% 2.7% 1.8% 労働投入の寄与 2.0% 1.0% 1.7% 3.4% 0.4% 0.3% 0.3% 0.7% 全要素成長率(残差) 4.7% 2.2% 5.4∼5.0% 6.8% 1.9% 3.5% 0.9% 1.4% (注) 世界銀行と経済企画庁は中兼『中国経済発展論』1999,pp.110-112,補論2中国経済の成長会計による. 日本に関する推定は中谷巌『入門マクロ経済学第3版』1995,pp.163-166による. 2 (2) 輸出入関数。表2は輸出入の所得弾力性と価格弾力性に関する推定結果を示すものである。① 輸出入に係わらず、所得弾力性が価格弾力性より大きいこと、②輸出入の所得弾力性と価格弾力性 は時間とともに低下していること、③輸出入弾力性の大きさと順序関係は、中国が日本よりも韓国 とより一致していること、が確認された。 表2 輸出入の所得弾力性と価格弾力性に関する日中韓比較 中 国 日 本 韓 国 輸出 輸入 輸出 輸入 輸出 輸入 所得弾力性 短 期 長 期 1985 1990 1995 1985 1990 1995 1985 0.73 0.58 0.38 2.10 1.66 1.09 0.49 1.35 1.52 0.68 1.35 1.52 0.68 0.51 0.98 1.20 1.57 1.42 価格弾力性 短 期 長 期 1990 1995 1985 1990 1995 0.20 0.11 1.40 0.58 0.33 0.73 0.38 0.51 0.73 0.38 1.90 1.10 0.41 0.55 (注) 中国は本モデルの推定結果であり、日本と韓国は湘南エコノメトリクス室田康弘先生の研究 による (3) エネルギー需要の所得弾力性と価格弾力性(表3)。以下の傾向が読み取れる。①一般的に、 所得弾力性が高く、価格弾力性が低い。世界エネルギー需要の共通傾向が中国にも当てはまる。② エネルギー源別にみると、電力がその他エネルギーと比べると、所得弾力性が高い。クリーンで便 利なエネルギーとしての電力がより好まれるという世界共通の傾向は中国でも確認された。③部門 別にみると、家庭部門、業務部門の所得弾力性がその他部門より高い。全人口の7割を占める農村 人口は薪、藁など非商品エネルギーから商品エネルギーへの転換を行っていること、家庭電器が全 国範囲で急速に普及されていること、第三次産業の急成長、OA機器と冷暖房設備の急速な普及など はその背景であろう。 表3 主要エネルギー需要の弾性値 エネルギー需要 所得・ 活動要因 同弾性値 鉄鋼業の石炭需要 粗鋼生産量 0.60 化学業の石炭需要 アンモニア生産量 0.78 窯業の石炭需要 セメント生産量 1.11 鉄道の電力需要 鉄道輸送総トンキロ量 1.06 家庭の電力需要 1人当たり実質GDP 1.88 家庭のガス需要 〃 1.21 業務の電力需要 〃 1.72 価格要因 同弾性値 備考 石炭価格/WPI 0.34 弾力性が一定 石炭価格/WPI 0.14 弾力性は可変,1995年 石炭価格/WPI 0.88 弾力性は可変,1995年 電力価格/WPI 0.52 弾力性は一定 電力価格/WPI 0.41 弾力性は可変,1995年 弾力性は一定 弾力性は一定 1.3 マクロ経済政策の効果分析 (1) 公共投資の乗数。公共投資を98年から3年間1000億元ずつ増やす場合、実質GDPは2439∼2637 億元増加し、増加率は3.2∼3.0%となる。つまり乗数効果は2.5前後である。97年以降のアジア通貨 危機による景気減速を防ぐために、中国政府が公共投資の拡大を断行した。景気刺激策として公共 投資の拡大が効果的であることはその理由であろう。 (2) 元レートの切り下げ。為替レートを98年から3年間5元ずつ切り下げる場合、輸出が1.0∼1. 2%増大し、輸入が3.2∼1.5%減少する。実質GDPは2.4∼1.8%上昇する。元の切り下げは経済成長を 誘発する結果となっている。しかし、アジア通貨危機の時、中国政府が元の切り下げを実施しなか った。危機拡大に歯止めをかけ、世界経済秩序を安定させようとの狙いがあったからである。今後 3 については、アジアの景気回復と中国の輸出不振という状況が併存となる場合、元の切り下げも景 気対策の重要な選択肢であろう。 2 中国2030年のマクロ経済 2.1 前提条件 (1) 人口要因。2030年に、中国の総人口は97年の12.4億人から15.1億人、都市人口率は29.9%から 54.5%、高齢化率(65歳以上)は7.0%から14.7%になると仮定した。 (2) 海外要因。世界経済は日本の長期不況とアジア通貨危機の影響で低迷しているが、2000年ま でに回復すると想定した。それに基づき、バレル当たりの原油価格は97年の18.8ドルから2030年の60 ドルへ、世界貿易は年率3∼4%で増加し、世界工業製品輸出物価指数は年率2.5∼3.0%で上昇すると 仮定した。一方、中国通貨元対ドルの為替レートは現状維持と仮定した。 (3) 政府要因。政府消費は80∼97年に年率7.8%で推移してきたが、98年からの組織再編と人員削 減に伴って、伸びが鈍化する可能性が大きいので。ここでは2000年までに年率2.7%、以降年率3.0 ∼3.5%で推移すると想定した。一方、政府投資は1980∼97年に年率10.5%(GDP弾性値は1)で増大 してきたが、インフラ整備を中心とする公共事業をさらに行う必要があることから、今後もGDP成 長率とほぼ同率で増大すると想定した。 2.2 マクロ経済の未来像 (1) 年率6%台の成長が可能。中国はすでに20年間高成長を維持した。シミュレーションの結果を みると、2000年以降、年平均成長率は10年毎に約1.0ポイント低下し、2020∼30年までは5%へ鈍化 していく(表3)。2030年までに年率6%台の成長が維持されるという結果である。もし、6%以上の成 長率の維持を高成長と呼ぶならば、中国の高成長がさらに20年近く続くことになろう。高成長の継 続期間は日本の26年間(47∼73年、9.7%)、韓国と台湾の33年間(62∼95年、8.8%)を上回ることに なる。また、中国国内では、「中国の経済離陸過程は全体として、およそ30∼40年間続くだろう。 今後(98年以降)さらに10∼20年間にわたって、年率8∼10%前後の成長を続けられる」という見方 もあるが、本研究の結論と比べると、極めて楽観的である。 (2) GDP成長会計。資本投入の寄与は97年までの3.4%から2020年代に2.0%へ、労働投入の寄与は2. 0%から-0.1%へ、全要素生産性の寄与は4.7%から3.2%へ低下する。経済成長の原動力は技術進歩に 起因する全要素生産性の向上である。 表4 2030年までの中国経済の成長会計の推移 経済成長率 資本ストックによる成長率 労働投入による成長率 全要素生産性(残差) 経済成長への寄与率 資本ストックによる寄与率 労働投入による寄与率 全要素生産性寄与率(残差) 1980-97 10.1% 3.4% 2.0% 4.7% 100.0% 33.8% 19.9% 46.4% 1997-2000 8.3% 3.8% 1.1% 3.4% 100.0% 46.3% 12.9% 40.8% 4 2000-10 7.1% 2.9% 0.8% 3.4% 100.0% 41.1% 11.3% 47.6% 2010-20 6.1% 2.4% 0.3% 3.4% 100.0% 38.6% 5.5% 56.0% 2020-30 5.1% 2.0% -0.1% 3.2% 100.0% 39.0% -1.3% 62.3% (3) 民間需要中心の成長パターンへの転換。民間消費は97年の46%から2030年の47%へ微増となる が、政府最終消費は11%から4%台へ大幅に低下する。固定資本形成では、民間投資は17%から23%へ 大幅に上昇するが、政府投資は18%前後の横這いとなる。民間需要の役割が次第に大きくなる。一 方、輸出は21%から9%台へ、輸入は17%から5%台へ大幅に低下する。 (4) 所得水準の向上。所得水準は高成長と人口増加率の低下により、年率5∼7%で向上し、95年の PPP(購買力平価)表示の1人当たりGDPは、97年の3525ドルから2030年に2.2万ドルに達する。これ はフランスとドイツの95年水準(為替レート換算、名目)に相当する。一方、為替レート表示の所 得水準をみると、中国は2030年に約4200ドルで、95年のマレーシアなみ、80年代後半の台湾、韓国 なみとなる。一般に、為替レートによる評価は過小で、PPPによる評価は過大と言われている。し かし、もしPPPは為替レートの約1/5(1.6/8.35)ではなく、1/4と仮定できれば、所得水準は2030年 に1.68万ドル(4200×4)と計算され、93年の欧州OECD平均(16864ドル)とほぼ同じである。 (5) 産業構造の近代化。名目GDPに占める比率は、第1次産業が97年現在の19%から2030年の8%へ、 第2次産業が49%から44%へ低下し、第3次産業が32%から49%へ上昇する。 (6) エネルギー多消費製品の急増。粗鋼生産量は1.1億トンから2.1億トンへ、セメント生産量は5. 1億トンから10.8億トンへ、エチレン生産量は359万トンから2000万トン台へ、アンモニア生産量は 3000万トンから6700万トン前後へ、それぞれ増加する。また、自動車保有台数が98年の0。13億台 から2030年に3.78億台へ急増し、普及率は1.0%から25%前後に達する。 3 中国2030年のエネルギー需給と環境 2030年に向けて、前述した経済成長が維持される場合、エネルギー需給と環境にどのような問題 が生じ、どのような対策が必要となるのか。以下では、問題発見と対策検討のためのシミュレーシ ョン分析を表4のケースについて試みる。 表5 ケース名 ①ベース ②非火力発電促進 ③発電効率向上 ④脱石炭化 ⑤総合脱石炭化 ケース設定 前提条件の特徴 従来の傾向(構造変化と効率向上等)がそのまま続く.2030年の発電効率は石炭47%, 石油と天然ガス49.5%,非火力発電導入量は原子力5000万kW,水力2.5億kW(開発可能 量3.8億kWの66%),風力2000万kW(開発可能量1.6億kWの12.5%). 2030年に水力と風力の導入量は開発可能量の80%,原子力他はベースケースの2倍 とする.他は同ベースケース. 2030年の火力発電効率はベースより5ポイント向上(石炭火力47%→52%,石油と天然 ガス49.5%→54.5%).他は同ベースケース. ベースケースでの2000年後の石炭需要の増加分を石油と天然ガスで代替(代替率は 発電・化学工業・窯業土石・その他工業で,石油0.5:ガス0.5,民生部門で石油0.3: ガス 0.7.石炭1.0に対する代替効率は,産業部門で石油0.7,ガス0.6,民生部門で石油0.8, ガス0.5) .他は同ベースケース. ②非火力促進+③発電効率向上+④脱石炭化.他は同ベースケース. 3.1 破局に向かうベースケース(表6) ベースケースでは、一次エネルギー需要は96年の8.9億TOEから2030年の37.4億TOEへ増加し、年平 均伸び率は4.3%となる。エネルギー構造をみると、石炭が76%から51%へ低下するのに対し、石油が 20%から27%へ、天然ガスが2%から16%へ上昇する。一方、一次エネルギー生産量は96年の8.9億TOE から2030年に17.1億TOEにまでしか増加しないと見込まれる。そのため、エネルギーの自給率は現 在の100%から2030年の46%にまで低下する。その内、石油自給率は91%から18%へ低下し、純輸入量 は8億TOEを超え、そのための外貨負担率(原油輸入額/財とサービスの輸出額)は40%台になる。エネ 5 ルギー安定供給と安全保障問題が顕在化する。 表 6 2030年のエネルギー・環境 (ベースケース) 1980 一次エネルギー需要(億TOE) 4.1 構成比: 石炭 74.2% 石油 21.7% 天然ガス 2.9% 原子力 0.0% 一次エネルギー生産*(億TOE) 4.3 石油需要(億TOE) 0.9 石油自給率 120.3% 原油価格*(ドル/バレル) 34.6 石油純輸入量(億TOE) -0.2 石油純輸入額(億ドル) -46.2 石油純輸入の外貨負担率 -24.2% SO2発生量(百万トン) 11.8 CO2排出量(億T-C) 4.1 <GDP弾性値> 80-96 一次エネルギー需要 0.485 SO2発生量 0.502 CO2排出量 0.486 (注)“ *”はシミュレーションの前提条件である. 量・比率 1996 2010 8.9 16.2 76.2% 68.3% 19.5% 22.5% 2.1% 4.7% 0.4% 2.3% 8.9 12.5 1.7 3.6 90.7% 49.6% 18.8 25.0 0.2 1.8 25.3 336 1.6% 10.1% 26.3 45.4 8.8 15.2 96-2010 0.582 0.533 0.533 2020 24.2 58.2% 24.8% 10.7% 3.7% 15.5 6.0 35.8% 37.0 3.9 1046 19.7% 60.9 21.5 2010-2020 0.670 0.485 0.452 年平均伸び率 倍率 2030 80-97 97-2000 37.4 4.9% 4.30% 4.20 50.8% 26.8% 15.9% 3.80% 17.1 4.7% 1.90% 1.91 10.0 4.2% 5.30% 5.78 18.0% 60.0 -3.5% 3.50% 3.19 8.2 12.70% 41.00 3617 16.20% 142.96 43.7% 87.3 5.1% 3.60% 3.33 32.1 4.90% 3.90% 3.66 2020-2030 96-2030 0.879 0.677 0.729 0.565 0.810 0.611 一方、エネルギー起因のSO2発生量(排出量の上限)は年平均伸び率3.6%で増加し、2030年に87.3 百万トンに達する。96年現在、SO2発生量の約90%が排出されており、この比率が変化しないと仮定 すれば、2030年の排出量は8千万トン弱となる。国内の環境悪化と東アジア地域への酸性雨汚染の 拡散がさらに加速されよう。また、地球温暖化の主因であるCO2の排出量は年平均伸び率3.9%で増 加し、2030年に32.1億T-C(炭素換算トン)に達する。これは96年現在の世界総排出量の半分に相当 する規模である。 3.2 破局が避けられるのか(表7) (1) 非化石エネルギー導入の効果と限界(ケース②)。ベースケースと比べて、2030年に一次エネ ルギー需要は1.4%、化石エネルギー需要は7.6%減少し、エネルギー自給率は45.7%から52.0%へ高ま り、エネルギー輸入の外貨負担率が低下する。一方、SO2発生量とCO2排出量はベースケースより約 10%削減される。非化石エネルギー導入の効果を高めるために、開発可能量の拡大と変換技術の向 上をもたらす技術革新を促進しなければならない。 (2) 火力発電効率向上の効果(ケース③)。一次エネルギー需要は4.0%減少し、エネルギー自給率 は45.7%から47.6%へ僅かに高まり、エネルギー輸入の外貨負担率が低下する。一方、SO2発生量とC O2排出量はベースケースよりそれぞれ6.1%、4.9%削減される。これらは火力発電効率向上の効果で ある。同様な効果はその他分野での効率向上にも期待できよう。 (3) 脱石炭化の効果と問題(ケース④)。2030年に、一次エネルギー需要は2.2%減少し、エネルギ ー自給率は45.7%から46.7%へ僅かに高まる。一方、石炭需要の減少に伴い、SO2発生量とCO2排出量 はそれぞれ35.8%、13.9%削減される。脱石炭化の環境効果が極めて高いことが確認される。しかし、 このような長期間にわたる脱石炭化はエネルギー安全保障の問題をもたらす可能性が高い。脱石炭 化ケースでは、石油純輸入量はベースケースより5億TOE増え、13.2億TOEとなる。これほどの量を 物理的に調達できるのか、たとえ調達できても、中国に輸入航路の護衛能力があるのか、経済的に みて輸入負担能力があるのか─などの問題が生ずるだろう。 6 表7 シミュレーション結果のケース間比較(2030年) 96年 実績 ケース比較(①=100) 2030年の結果 ケース①ケース②ケース③ケース④ケース⑤ ② ③ ④ ⑤ 一次エネルギー需要(億TOE) 8.9 37.4 36.9 35.9 36.6 34.8 98.6 96.0 97.8 93.2 構成比:石炭 76.2% 50.8% 44.8% 49.0% 21.3% 21.9% 石油 19.5% 26.8% 26.7% 27.6% 41.0% 37.6% 天然ガス 2.1% 15.9% 16.1% 16.5% 31.0% 27.4% 原子力 0.4% 3.8% 7.7% 4.0% 3.9% 8.2% 水力 1.8% 2.0% 2.4% 2.0% 2.0% 2.5% 新エネルギー 0.0% 0.8% 2.3% 0.8% 0.8% 2.4% 化石エネルギー需要(億TOE) 8.7 34.9 32.3 33.4 34.1 30.3 92.4 95.8 97.7 86.6 一次エネルギー生産(億TOE) 8.9 17.1 19.2 17.1 17.1 19.2 112 100 100 112 一次エネルギー自給率 100% 45.7% 52.0% 47.6% 46.7% 55.1% 114 104 102 120 石油純輸入量(億TOE) 0.2 8.2 8.0 8.1 13.2 11.3 97.7 98.7 160 137 石油純輸入の外貨負担率 1.6% 43.7% 42.7% 43.1 70.0% 60.0% SO2発生量(百万トン) 26.3 87.3 77.9 82.1 56.1 51.7 89.2 93.9 64.2 59.1 CO2排出量(億T-C) 8.8 32.1 29.3 30.5 27.7 24.7 91.2 95.1 86.1 77.0 (注) 生産量はシミュレーションの前提条件である. (4) 総合脱石炭化の効果と問題(ケース⑤)。一次エネルギー需要は6.8%、化石エネルギー需要は 13.4%減少し、エネルギー自給率は45.7%から55.1%へ高まる。一方、SO2発生量とCO2排出量はベー スケースよりそれぞれ40.9%、23.0%削減される。単一対策のその他ケースと比べて、本ケースのエ ネルギー抑制効果と環境効果が最も高い。しかし、①エネルギー安全保障問題は単一脱石炭化ケー スと比べて緩和されるが、ベースケースを含むその他ケースよりも悪化していること、②環境汚染 物質がその他ケースよりも低く抑えられるとはいえ、現状と比べると大きな増加となっており、環 境悪化の可能性は極めて大きいこと、などの問題が依然として未解決である。 終わりに 以上の分析から次のことがいえよう。(1)中国は2030年までに年平均6%台の高度経済成長を維持 する可能性が高く、それに伴ってエネルギー需要の急増と環境悪化の可能性が大きい(ケース①)。(2) エネルギー需要の急増と環境悪化を抑制する対策として、非化石エネルギーの導入促進(ケース②)、 発電効率の向上(ケース③)、脱石炭化の促進(ケース④)という個別対策も有効であるが、それらを同時 に推進する総合脱石炭化対策(ケース⑤)の方が効果は最も高い。(3)脱石炭化の場合、石油・天然ガ スの輸入増大が見込まれ、輸入負担能力と安全保障の問題が顕在化する。これは脱石炭化を石炭の クリーン利用技術が飛躍的に進歩するまでの期間に限定する必要があることを意味する。(4)省エ ネ対策、石油と天然ガスを中心とする短中期的な脱石炭化対策、中長期的な非化石エネルギー導入 対策と石炭クリーン利用技術の開発促進対策を中心とする総合エネルギー政策が求められる。 今回の分析を踏まえて、より幅広いシミュレーション分析を行い、持続可能な発展経路を検出す ることは、本研究における今後の課題である。 謝辞:本研究は日本科学技術振興事業団(CREST)の援助を受けて行ったものである。記して謝意を表する。 <主要参考文献> 経済企画庁経済研究所編『21世紀中国のシナリオ:中国の将来とアジア太平洋経済』研究報告書、1997年。 日本エネルギー経済研究所計量分析部『石油代替エネルギー計量分析調査』1999年3月。 7 ポール・R・クルーグマン「まぼろしのアジア経済」『中央公論』1995年1月号。 李志東『中国の環境保護システム』東洋経済新報社、1999年4月。 8