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PDF 4.21MB - IATSS 公益財団法人国際交通安全学会
子どもから高齢者までの自転車利用者の心理行動特性を踏まえた安全対策の研究
平成21年度研究調査プロジェクト
報告書
子どもから高齢者までの
自転車利用者の心理行動特性を踏まえた安全対策の研究
報告書
平成 年3月
22
国際交通安全学会
(財)
平成22年3月
財団法人 国際交通安全学会
International Association of Traffic and Safety Sciences
研 究 組 織
プロジェクトリーダー: 蓮 花 一 己(帝塚山大学心理福祉学部)
研 究 委 員
:
岸 田 孝 弥(中京大学心理学部)
喜 井 美 雄(鈴鹿モビリティ研究会)
鈴 木 美 緒(運輸政策研究所)
多 田 昌 裕(ATR 知能ロボティクス研究所)
中 西 盟(ホンダ安全運転普及本部)
矢 野 円 郁(中京大学心理学部)
山 本 俊 行(名古屋大学工学研究科)
オブサーバー :
舟 渡 悦 夫(大同大学工学部)
向 井 希 宏(中京大学心理学部)
事 務 局 :
清 野 恒 昭(財団法人国際交通安全学会)
メンバーは 50 音順
目 次
第 1 章 問題
1
第 2 章 質問紙調査
2−1 目的 2
2−2 方法 2
2−2−1 サンプルの構成
2
2−2−2 調査環境及び質問項目について
3
2−3 結果
4
2−4 考察
9
第 3 章 行動観察調査
3−1 目的
10
3−2 方法 11
3−2−1 サンプルの構成
11
3−2−2 調査方法及び分析項目について
12
3−2−3 調査地点の交通量
17
3−3 結果
20
3−4 考察
44
第 4 章 ジャイロセンサ調査 4−1 目的
45
4−2 方法
45
4−2−1 サンプルの構成
45
4−2−2 調査方法及び使用機材
45
4−3 結果
46
4−4 考察
50
第 5 章 総合討議
51
第1章
問題
日本の自転車の事故率は欧米よりも高く、事故件数全体に対する比率も平成 19 年で 2 割
を超えた。今後の交通事故のさらなる減尐を図るためには、歩行者事故と並んで自転車事故
の防止が必須の課題となっている。しかしながら、自転車の利用実態や利用者の心理行動特
性の研究はきわめて尐ないのが実情である。本研究では、1)自転車事故の属性別の分析、2)
公道での自転車利用者の行動観察調査、3)自転車用ドライブレコーダやジャイロセンサによ
る行動およびインシデント分析、4)利用者意識の質問紙調査を組み合わせることで、現在の
自転車利用者の心理行動特性と利用実態を明らかにすることを目的としている。
とくに、年齢別負傷者数の構成率で 7 割に近い中学校児童を中心に、小学校から高校生を
第一のターゲットに、構成率で 2 割を超える高齢者を第二のターゲットにしてその事故要因
を推定する。図 1-1 に示すように、年齢別で中学生の自転車による負傷者数は全体の 69.7%
を占めており、65 歳以上の高齢者の増加傾向も顕著である。今年度はとくに比率の高い中学
生への調査を主として実施した。
80
69.7
70
44.3
33.3
21.0
10
11.2 9.6 9.2
13.2
9.6 10.4 10.7 11.6
35-39歳
15.6
20-24歳
負 60
傷
者 50
の
比 40
率
( 30
%
) 20
24.4 25.1
16.4
0
75歳-
70-74歳
65-69歳
60-64歳
55-59歳
50-54歳
45-49歳
40-44歳
30-34歳
25-29歳
16-19歳
13-15歳
7-12歳
-6歳
年齢層
図 1-1.
年齢層別の自転車負傷者の比率(平成 19 年)
さらに、研究成果を踏まえて、本研究では、自転車利用者への安全対策を立案・提言する
ことを目的とした。具体的には、道路環境面の整備、自転車の利用、自転車利用者への啓発
活動、子どもや高齢者への交通安全教育プログラムの開発である。このうち、本年度(平成
21 年度)には、中学生への教育プログラムのあり方について検討を行い、いくつかの提言を
行うものである。
1
第2章
2-1
質問紙調査
目的
岸田(1998)は、高崎市内の小・中・高等学校と大学および短大の学生および私立幼稚園
の父母等に対して質問紙調査を実施し、自転車利用者の行動と事故との関連性を指摘した。
質問項目は、自転車の形状について、自転車利用時の行動について、自転車利用時の事故に
ついての 3 つの分類から成る 45 項目であった。当該研究では、過去1年以内に事故を含む
未然事故の経験がある調査対象者は約 35%であり、未然事故の経験者群では過去1年を除く
無灯火事故の経験が未然事故の未経験者群よりも多いことを示した。また事故経験者の分析
から、左側通行を守るかどうか、無灯火走行をするかしないか、二人乗りをするかしないか
が自転車での事故と関連があると指摘した。特に中学生の男子では5段以上の変速機付き自
転車に乗り、二人乗り走行をし、時々左側通行をする生徒や過去に無灯火で未然事故の経験
がある生徒が、女子でも時々二人乗りをする生徒や過去に無灯火で未然事故の経験がある生
徒が事故に関わっていた。高校生については、無灯火走行をする男子高校生、女子でも無灯
火走行をする生徒が事故に関わっていた。
本研究では、岸田(1998)の用いた質問項目を基本として、時代変化に伴い新たな問題と
なった携帯電話の使用や傘差し走行などの質問項目、自転車の種類などの質問を加えた質問
紙を作成し、中学校、高校、大学で調査を実施した。問題設定としては、第一に、中学生、
高校生、大学生の意識と行動の違いを明確にすることを目的とした。第二に、男性と女性で
の意識と行動面での違いを検討した。第三に、事故経験群と未然事故経験群、無事故群での
違いを検証した。
2-2 方法
2-2-1
サンプルの構成
質問紙調査は、平成 20 年 11 月~平成 21 年 11 月にかけて、三重県鈴鹿市の中学生 377 名、
三重県四日市市の高校生 137 名、奈良県及び愛知県の私立大学生 209 名に対して実施された
(Fig.2-1)。このうち、男性が 351 名(中学生 205 名、高校生 61 名、大学生 85 名)、女性
が 372 名(中学生 172 名、高校生 76 名、大学生 124 名)であった。
250
200
人
数 150
(
人 100
) 50
男性
女性
0
中学生
高校生
図 2-1.
大学生
調査対象者の内訳
2
2-2-2
調査環境及び調査項目について
質問紙は、フェイスシート、日常の自転車利用時における交通行動、自転車利用時におけ
る交通安全に対する意識、事故の経験、自転車の形状の 5 種類から成る質問紙をそれぞれの
学校で授業中もしくは講義中に配布し回答してもらった。
フェイスシートでは性別、年齢、運転免許の有無とその種類、自転車の保有台数、使途、学
校教育における交通安全教育経験の有無と教育当時の年齢、1 日の自転車走行距離、乗車前
点検の頻度を尋ねた。走行距離は「1 ㎞未満」
「1 ㎞~3 ㎞」
「3 ㎞~5 ㎞」
「5 ㎞以上」の 4 段
階で尋ねた。乗車前点検は「いつもする」
「たまにする」
「まったくしない」の 3 段階とした。
交通行動では傘差し走行、並走、左側通行、無灯火走行、二人乗り、携帯電話を使用しな
がらの走行、左右の安全確認、後方確認、信号無視、一時停止、イヤホン等を使用しながら
の走行、ハンドルに荷物をぶら下げての走行、自転車通行不可である歩道の走行、犬などペ
ットを連れての走行、スピードを出しての走行、喫煙しながらの走行、飲酒運転、幼児を乗
せて走行、以上 18 項目について「まったくしない」を 1 点とし「いつもする」を 5 点とす
る 5 件法を用いて尋ねた。
交通安全に対する意識では、右側通行、左側通行、並走、無灯火走行、傘を手でさしなが
らの走行、傘を自転車に固定しての走行、二人乗り、携帯電話を使用しながらの走行、イヤ
ホン等を使用しながらの走行、安全確認をしないこと、一時停止をしないこと、ハンドルに
荷物をぶら下げての走行、車道の走行、喫煙しながらの走行、飲酒運転、幼児を乗せての走
行、以上 20 項目について危険と思うかどうかを「まったく思わない」を 1 点とし、「強くそ
う思う」を 5 点とする 5 件法で尋ねた。
事故の経験については、過去 1 年の間に事故やヒヤリハットの経験の有無、またその詳し
い状況を自由記述で尋ねた。なお、右側走行時の事故、無灯火走行時の事故、傘差し走行時
の事故、飲酒運転時の事故、携帯電話使用時の事故、幼児同乗中の事故については期限を設
けずに事故経験の有無のみを尋ねた。
自転車の形状では、ハンドルの形状、変速機の有無とその段数、傘を固定する器具の有無、
前照灯の有無と形状、後方を確認するミラーの有無、電動アシスト機能の有無、尾灯、もし
くは赤色反射板の有無、ベルの有無、幼児用座席の有無と設置位置を尋ねた。また、ライト
の形状では、タイヤにダイナモを接触させることで発電し走りが重くなるブロックダイナモ
型ライト、充電池や乾電池を用いて点灯する懐中電灯型ライト、前輪ハブにダイナモを内蔵
することで発電の負荷を軽減したハブダイナモ型ライト、ハブダイナモ型ライトを発展させ
た常時点灯型ライト、そしてライトが故障しているか設置されていないライト不備、及びそ
の他の 6 郡に類型化した。また中学生と高校生には飲酒、喫煙、幼児を乗せての走行に関す
る項目は調査しなかった。
3
2-3
結果
各世代での事故の経験と未然事故の経験の比率を図 2-2 に示す。未然事故の経験は全ての
世代で男性よりも女性の方が多く、事故の経験は高校女子の比率が高かった。
70.0%
60.0%
50.0%
構
成 40.0%
率
( 30.0%
%
) 20.0%
未然事故
24件
84件
58件
18件
事故
40件
18件
10.0%
16件
30件
21件
6件
.0%
9件
7件
中学女子 中学男子 高校女子 高校男子 大学女子 大学男子
図 2-2.
各世代の男女別事故経験の比率
各世代のライト形状の構成率を図 2-3 に示す。世代が上がるほどハブダイナモライトは減
尐し、ブロックダイナモライトの比率が上昇する。特に女性の変化が著しく、中学生・高校
生と比較して大学生では最もハブダイナモライトが尐なくブロックダイナモライトが多いこ
とが示された。また、わずかではあるが電池式のライトは世代が上がるにつれて比率が増え
る傾向にあった。
100%
90%
80%
70%
構
成
率
(
%
)
60%
その他
50%
常時点灯
ハブダイナモ
40%
電池
30%
ブロックダイナモ
20%
ライト不備
10%
0%
中
学
女
子
図 2-3.
中
学
男
子
高
校
女
子
高
校
男
子
大
学
女
子
大
学
男
子
各世代の男女別にみたライト形状の構成率
4
図 2-4 に走行中の携帯電話使用状況について世代間の差を把握するため、世代と性別を要
因とした独立 2 要因の分散分析を行った結果を示す。世代では高校生が最も走行中に携帯電
話を使用し、中学生が最も使用しなかった。世代に 1%水準で有意な主効果が確認され( F
(2,697)=25.615, p<.01)、多重比較を行った結果全ての世代の間の差が 1%水準で有意であ
った。性別では女性の方が使用し、主効果は 1%水準で有意であった( F(1,697)=7.502, p<.01)。
単純主効果の検定を行った結果、男女それぞれで世代による差を比較すると、男性では高校
生と大学生の差が有意でなく、女性では中学生と大学生の差が有意でなかった。また世代ご
とに性別による差を比較したところ、大学生でのみ性別による有意な差が無かった。
このことから、走行中の携帯電話使用は特に高校生で顕著であり、若年者のうちは女性の
方が使用する傾向があると示された。
図 2-4.
世代ごとの走行中における携帯電話使用頻度の比較
図 2-5 に傘差し走行についての結果を示す。世代が上がるほど傘差し走行の頻度が上昇す
ることが示され、世代に 1%水準で有意な主効果が確認された( F(2,697)=84.759, p<.01)。
また世代ごとに性別による差を比較したところ、中学生で女性の方が高い頻度を示し、その
差は 5%水準で有意であった。高校生と大学生では性別による有意な差が無かった。このこと
から、傘差し走行は世代が上がるほど頻繁になり、中学生では女性の方が傘差し走行頻度が
高く、世代が上がると男女差が減尐するか逆転する可能性が示された。
5
図 2-5.
世代ごとの傘差し走行頻度の比較
図 2-6 にライト形状別の無灯火走行頻度を示す。ライト形状に主効果が見られた(F(4,671)
=22.207, p<.01)。ライト不備群が最も無灯火頻度が高く、ブロックダイナモ群、電池群、ハ
ブダイナモ群、常時点灯群の順に無灯火走行が減尐していた。中学生と大学生ではライト不
備群やブロックダイナモ群に比べてハブダイナモ群や常時点灯群のライトを使用する調査対
象者で無灯火走行が減尐していた。しかし、高校生ではライトの形状による差は有意でなか
った。
図 2-6.
ライト形状別無灯火走行頻度の比較
6
各危険行動について主因子法、プロマックス回転による因子分析を行った結果を表 2-1 に
示す。因子数は解釈可能性を考慮し 4 因子(累積寄与率 40.24%)であった。第 1 因子は傘
差し、二人乗り、携帯電話使用、ヘッドホン、無灯火、信号無視に負荷が高く、リスク行動
の因子と命名した。第 2 因子は左右不確認、後方不確認、一時不停止、右側通行に負荷が高
く、基本スキル欠如の因子と命名した。第 3 因子は並走に負荷が高く、並走の因子と命名し
た。第 4 因子は高速走行、歩道走行に負荷が高く、走行パターンの因子と命名した。
表 2-1.
危険行動の因子分析表
因子
リスク行動 基本スキルの欠如
並走
走行パターン
傘差し
二人乗り
携帯電話使用
.789
.734
.603
-.025
-.002
-.046
.046
.142
.258
-.097
-.076
.032
ヘッドホン
無灯火
信号無視
左右不確認
後方不確認
一時不停止
右側通行
並走
高速走行
歩道
.584
.476
.434
-.080
-.181
.197
.061
.043
-.149
.068
-.148
.037
.347
.634
.608
.511
.393
.058
.039
-.110
-.067
-.209
-.166
.170
.106
-.058
-.136
.744
.072
.022
.130
-.092
.106
-.035
-.097
.116
-.004
.057
.633
.492
因子ごとに中学生、高校生、大学生の因子得点を比較すると、リスク行動因子では、無事
故群、未然事故群、事故群のいずれにおいても中学生がもっとも低く、大学生が高かった。
群別では、中学生や大学生で事故群の因子得点が高い傾向を示した。(図 2-7)
基本スキルの欠如の因子では、中学生と大学生の因子得点が低い結果であった。中学生の
事故群でとくに得点が高く、左右不確認や一時不停止など基本スキルの欠如傾向を示した。
(図 2-8)
並走因子では、男女別に異なる傾向を示したため、男女別に図示した。並走傾向は中学生
がもっとも高く、大学生が低かった。(図 2-9)また、男性よりも女性の方が高い並走傾向を
示した。走行様態の因子では、世代別には中学生がやや低く、高校生や大学生が高いものの、
事故群、未然事故群、無事故群別に複雑な結果を示した。大学生の事故群で高速走行や歩道
上走行の走行パターンが高いことが示唆された。(図 2-10)
7
図 2-7.
図 2-8.
年代別の「リスク行動」の因子得点
年代別の「基本スキルの欠如」の因子得点
図 2-9.
年代別の「並走」の因子得点
8
図 2-10.
2-4
年代別の「走行パターン」の因子得点
考察
結果から見て、中学生はリスクの高い行動傾向が他の世代より低く、携帯電話を使用して
の走行、ヘルメット未着用、傘差し運転などもしない傾向であった。その一方で、一時不停
止や左右不確認など基本的な走行スキルに問題がある傾向を示した。また、通学時の自転車
走行が多いことから並走傾向を示した。
大学生はリスク行動の傾向が強いだけでなく、基本スキルの欠如という傾向も中学生と並
んで高かった。高校生はリスク行動傾向が中学生よりも高いものの、基本スキルについては
年代でもっともよい傾向を示した。
一般的に述べて、中学生は学校で決められたルールを守るように行動しているもののリス
クが分かっているわけではないことが推測できる。ハブダイナモなどのライトとして機能の
向上した装置を利用しているのは中学生がもっとも高かった。これも学校のルールで決めら
れていると考えられる。中学校ではルールを決めて守られることに主眼が置かれており、自
転車の運転スキル向上の教育が不足している可能性がある。
高校生になると、走行中のリスクが分かりつつあり、それゆえ、基本スキルを理解してく
る一方で、自転車走行時のルールを無視して携帯電話や傘差し走行などをする傾向も強まっ
てくる。大学生になると、単独で走行するので並走状態はなくなるものの、全体的にルール
無視やリスク行動面で年代別でもっとも悪い結果であった。
質問紙の回答に基づく事故群、未然事故群、無事故群での比較や男性と女性という性別の
結果からは事故原因に関するいくつかの推測が可能であるが、事故内容についての記述が乏
しいため、今後さらに慎重で詳細な分析が必要である。
9
第3章
3-1
行動観察調査
目的
質問紙調査に基づく中学生の行動傾向をさらに詳細に分析することを目的として、観察調
査が実施された。中学生の行動傾向、とりわけ、違反行動に関する基礎資料を収集するとと
もに、実際の交通状況でのヒヤリハット事例(交通コンフリクト)の収集と分析を試みた。
観察調査地点である白子中学校と創徳中学校の校区で発生した中学生の自転車事故の分布
を図 3-1 と図 3-2 に示す。
図 3-1.
白子中学校区で発生した中学生の自転車事故(平成 16~20 年報告分)
10
図 3-2.
3-2
創徳中学校区で発生した中学生の自転車事故(平成 16~20 年報告分)
方法
3-2-1
サンプルの構成
行動観察調査は三重県鈴鹿市の中学校 2 校(白子中学校、創徳中学校)において平成 21
年 7 月 8 日と 9 日に実施された。観察対象者は白子中学校が延べ 1,539 名、創徳中学校が延
べ 1,548 名(高校生 90 名、一般人 174 名を含む)であった。各学校の調査場所を図 3-3 に
示す。
図 3-3.
三重県鈴鹿市の地図
11
3-2-2
調査方法及び分析項目について
調査方法
通学路の無信号交差点に数箇所(白子中学校 5 箇所、創徳中学校 3 箇所)のビデオカメラ
(SONY
VX-2000 を3台、SONY
DCR-HC96、SONY
TRV-950 を各1台)を設置し、
登校時(8 日~9 日 7 時から 8 時半まで)と下校時(8 日:14 時半から 18 時まで、9 日:15
時 50 分から 18 時まで)をそれぞれ撮影した。
観察地点とカメラについて
1)白子中学校
図 3-4 に白子中学校の観察地点を示す。図に示すように、登校時 2 カ所、下校時 3 カ所で
観察を行った。各地点のカメラの設置状況と画角を図 3-5 に示す。
下校2
下校3
登校2
登校1
下校1
図 3-4.
①
白子中学校の観察地点
登校 1 カメラ
図 3-5.
②
登校 1 カメラ画角
白子中学校の各地点のカメラの設置状況と画角
12
③
⑤
登校 2 カメラ
④
登校 2 カメラ画角
下校 1 カメラ
⑥
下校 1 カメラ画角
⑦
⑧
下校 2 カメラ画角
下校 2 カメラ
図 3-5.
白子中学校の各地点のカメラの設置状況と画角(続き)
13
⑨
下校 3 カメラ
図 3-5.
⑩
下校 3 カメラ画角
白子中学校の各地点のカメラの設置状況と画角(続き)
白子中学校の各地点の分析対象者について、登校 1 地点は学年によって校門が違うため、
左折する学生と右折する学生がいた。そのため、両方を対象とした。登校 2 地点は、白子中
学校へ行くには右折しなければならないので、右折する学生のみを対象とした。下校 1 地点
は、登校 1 地点と場所は同じだが、カメラの位置を変えた。直進する学生は観察対象から除
き、右折する学生のみを対象とした。下校 2 地点は、直進する学生がほとんどで、右左折す
る学生はわずかだった。下校 3 地点は、下校 2 地点と同様に直進する学生がほとんどであっ
た。また、当該地点はジャイロセンサ調査の終着地点のため、ジャイロセンサ調査対象者は
観察対象から除いた。
14
2)創徳中学校
図 3-6 に創徳中学校の観察地点を示す。図に示すように、登校時 1 カ所、下校時 2 カ所で
観察を行った。各地点のカメラの設置状況と画角を図 3-7 に示す。
A 地点
C地点
B地点
図 3-6.
創徳中学校観察地点
A地点(登校カメラ)
図 3-7.
A地点(登校カメラ)画角
各地点のカメラの設置状況と画角
15
B地点(下校 1 カメラ)
B地点(下校 1 カメラ)画角
C地点(下校 2 カメラ)画角
図 3-7.
各地点のカメラの設置状況と画角(続き)
16
分析項目
1)白子中学校
撮影したビデオを見ながら地点ごとに中学生の交差点での確認行動(左右確認の回数と一
時停止行動)、走行人数(単独走行か集団走行)、走行形態(並走、会話、脇見、立ちこぎ、
蛇行、片手運転、腕組運転等)、走行位置、ヘルメット着用有無、登校時間の違いによる走行
速度の観察を行った。
左右確認の回数は、カウンタを使用し、テレビ画面登場時から交差点の直前までを、頭部
を左右どちらかに 1 度振ると 1 回と数えた。左右の確認を行った場合は 2 回と数えた。一時
停止行動は交差点直前で停止、徐行、不停止、の 3 つの行動に分類し、観察した。走行人数
については、一人での走行を単独走行、縦横 2 人以上が同じタイミングで同じ場所を走行し
ている場合を集団走行と判断した。しかし、集団を追い抜くために一時的に同じ場所を走行
した生徒は単独走行とした。また、2 人以上が横に並んで走行していた時を並走とした。そ
の際、最も左側を走行している生徒は通常の走行であるとし、並走とは数えなかった。また、
確認と明らかに違う頭部の動きや会話に伴う振り向きを脇見として数えた。会話、立ちこぎ、
蛇行、片手運転、腕組運転は交差点の直前で行っていた生徒のみを数えた。走行位置は交差
点直前位置で道路を道幅により 3~6 分割し、進行方向を向いて左側を 1 とし、右に行くに
つれて 2.3.4 と設定した。ヘルメット着用有無はあご紐ありの着用、あご紐なしの着用、あ
ご紐不明の着用、不着用、の 4 項目で分類した。登校時間の違いによる走行速度では始業予
鈴時刻(8 時半)の 5 分前以降に登校した学生と 8 時ごろに登校した学生を無作為に抽出し、
ビデオのコマ数と道路の距離によって時速を算出した。
2)創徳中学校
ビデオテープに録画された映像をパソコンに取り込み、自転車、歩行者、自動車、自動二
輪の通行と自転車の違反及び危険行動をチェックした。チェックした自転車の危険行動及び
違反行動の項目は走行位置(5~3分割)、自転車の並走、一時停止不履行、左右確認不履行、
歩道通行、脇見運転、ヘルメット不着用、傘差し運転、片手運転、蛇行運転、特に危険な場
面であった。
3-2-3
調査地点の交通量
1)白子中学校
各調査地点の5分ごとの平均交通量は図 3-8~3-12 のとおりである。8 時前(登校 1 地点)
と 16 時台(下校 1 地点)の歩行者の増加は生徒の部活動によるもので、登校 2 地点は小学
生の集団登校によるものである。自転車での登校は 8 時 15 分から 8 時半にかけて集中する。
下校時は 18 時半から 19 時までが一番多い。
17
70
50
60
45
50
台
数 40
/
人 30
数
20
自転車
歩行者
車
40
35
自転車
歩行者
車
30
台
25
数
20
15
10
10
5
0
6
:
5
6
~
7
:
0
0
7
:
0
1
~
0
5
7
:
0
6
~
1
0
7
:
1
1
~
1
5
7
:
1
6
~
2
0
7
:
2
1
~
2
5
7
:
2
6
~
3
0
7
:
3
1
~
3
5
7
:
3
6
~
4
0
7
:
4
1
~
4
5
7
:
4
6
~
5
0
7
:
5
1
~
5
5
時間
図 3-8.
7
:
5
6
~
8
:
0
0
8
:
0
1
~
0
5
8
:
0
6
~
1
0
8
:
1
1
~
1
5
8
:
1
6
~
2
0
8
:
2
1
~
2
5
0
8
:
2
6
~
3
0
6
:
5
6
~
7
:
0
0
7
:
0
1
~
0
5
7
:
0
6
~
1
0
7
:
1
1
~
1
5
7
:
1
6
~
2
0
7
:
2
1
~
2
5
7
:
2
6
~
3
0
7
:
3
1
~
3
5
7
:
3
6
~
4
0
7
:
4
1
~
4
5
7
:
4
6
~
5
0
7
:
5
1
~
5
5
時間
登校 1 の交通量
図 3-9.
7
:
5
6
~
8
:
0
0
8
:
0
1
~
0
5
8
:
0
6
~
1
0
8
:
1
1
~
1
5
8
:
1
6
~
2
0
8
:
2
1
~
2
5
8
:
2
6
~
3
0
登校 2 の交通量
30
50
45
40
台 35
数 30
/ 25
人 20
数
15
10
5
0
25
自転車
歩行者
車
台 20
数
/ 15
人
数 10
自転車
歩行者
車
5
1
5
:
4
6
~
5
0
1
5
:
5
6
~
1
6
:
0
0
1
6
:
0
6
~
1
0
1
6
:
1
6
~
2
0
1
6
:
2
6
~
3
0
1
6
:
3
6
~
4
0
1
6
:
4
6
~
5
0
1
6
:
5
6
~
1
7
:
0
0
図 3-10.
1
7
:
0
6
~
1
0
1
7
:
1
6
~
2
0
1
7
:
2
6
~
3
0
1
7
:
3
6
~
4
0
1
7
:
4
6
~
5
0
時間
1
7
:
5
6
~
1
8
:
0
0
1
8
:
0
6
~
1
0
1
8
:
1
6
~
2
0
1
8
:
2
6
~
3
0
1
8
:
3
6
~
4
0
1
8
:
4
6
~
5
0
0
1
8
:
5
6
~
1
9
:
0
0
1
5
:
4
6
~
5
0
下校 1 の交通量
25
20
自転車
歩行者
車
台
15
数
10
5
0
1
5
:
5
6
~
1
6
:
0
0
1
6
:
0
6
~
1
0
1
6
:
1
6
~
2
0
1
6
:
2
6
~
3
0
1
6
:
3
6
~
4
0
1
6
:
4
6
~
5
0
1
6
:
5
6
~
1
7
:
0
0
図 3-12.
1
7
:
0
6
~
1
0
1
7
:
1
6
~
2
0
1
7
:
2
6
~
3
0
時間
1
7
:
3
6
~
4
0
1
7
:
4
6
~
5
0
1
7
:
5
6
~
1
8
:
0
0
1
8
:
0
6
~
1
0
1
8
:
1
6
~
2
0
1
6
:
0
6
~
1
0
1
6
:
1
6
~
2
0
1
6
:
2
6
~
3
0
1
6
:
3
6
~
4
0
1
6
:
4
6
~
5
0
1
6
:
5
6
~
1
7
:
0
0
1
7
:
0
6
~
1
0
図 3-11.
30
1
5
:
4
6
~
5
0
1
5
:
5
6
~
1
6
:
0
0
1
8
:
2
6
~
3
0
1
8
:
3
6
~
4
0
1
8
:
4
6
~
5
0
1
8
:
5
6
~
1
9
:
0
0
下校 3 の交通量
18
1
7
:
1
6
~
2
0
1
7
:
2
6
~
3
0
時間
1
7
:
3
6
~
4
0
1
7
:
4
6
~
5
0
1
7
:
5
6
~
1
8
:
0
0
1
8
:
0
6
~
1
0
1
8
:
1
6
~
2
0
1
8
:
2
6
~
3
0
1
8
:
3
6
~
4
0
下校 2 の交通量
1
8
:
4
6
~
5
0
1
8
:
5
6
~
1
9
:
0
0
2)創徳中学校
各調査地点の日別交通量は図 3-13~3-18 のとおりである。登校時の自転車の通行量のピー
クは 8 時過ぎだった。7 時過ぎの生徒は部活動の早朝練習のために早く学校に向かう生徒と
考えられる。車は 8 時半にピークを迎えた。
図 3-13.
7 月 8 日A地点(登校)の交通量
図 3-14.
7 月 9 日A地点(登校)の交通量
下校時の自転車の通行量は、15 時前と 18 時前、18 時 30 分頃が多い。授業の終了と部活
動の終了がその時間にあたるためである。また創徳中学校は 18 時 30 分が完全下校時刻であ
る。15 時 40 分以降に車の通行量が増えるのは、付近にある保育園に子供を迎えに来る車両
が増えるためと考えられる。また、細い道路だが抜け道として利用する車が多かった。9 日
はテストによる時間割変動のため、授業直後の下校のピークは 16 時 20 分~45 分であった。
図 3-15.
7 月 8 日B地点(下校 1)の交通量
図 3-16.
19
7 月 9 日B地点(下校 1)の交通量
図 3-17.
7 月 8 日C地点(下校 2)の交通量
図 3-18.
7 月 9 日C地点(下校 2)の交通量
3-3 結果
1)白子中学校
停止率
男女別停止率を図 3-19 に示す。男女ともにほとんど停止しなかった。グループ別停止率を
図 3-20 に示す。グループ別に見ても単独でも複数でもほとんど停止しなかった。
不停止
停止
徐行
不停止
登校1
単独
下校2
下校3
登校1
登校2
下校1
徐行
登校2
下校1
下校2
下校3
登校1
複数
男
登校1
登校2
下校1
女
停止
登校2
下校1
下校2
下校2
下校3
下校3
0%
20%
図 3-19.
40%
60%
80%
100%
男女別停止率
0%
20%
図 3-20.
40%
60%
80%
100%
グループ別停止率
グループ順位別停止率を図 3-21 に示す。複数グループの中で、先頭と先頭以外を比較した
が、ともにほとんど停止しなかった。乗り方別停止率を図 3-22 に示す。乗り方の定義として、
一般運転を特徴が認められない普通の運転のこととし、遊び運転を立ちこぎ運転、片手運転、
ハンドルにひじをついた状態での運転(腕組運転)、会話をしながら運転、蛇行運転のことと
した。
一般運転、遊び運転ともにほとんど停止しなかった。
20
徐行
停止
不停止
登校1
登校1
登校2
登校2
一般運転
先頭
停止
下校1
下校2
下校3
登校1
登校1
登校2
登校2
下校1
下校2
下校3
不停止
下校1
下校3
遊び運転
先頭以外
下校2
徐行
下校1
下校2
下校3
0%
図 3-21.
20%
40%
60%
80%
100%
0%
グループ順位別停止率
20%
図 3-22.
40%
60%
80%
100%
乗り方別停止率
確認回数
男女別確認回数を図 3-23 に示す。男女ともにほとんど確認をしなかった。グループ別確認
回数(図 3-24)、グループ順位別確認回数(図 3-25)、乗り方別確認回数(図 3-26)におい
て、ほとんど確認をしなかった。
1回
2回
3回
0回
4回
登校1
登校2
登校2
単独
登校1
下校1
下校2
下校3
下校3
登校1
登校1
登校2
登校2
下校1
下校2
下校3
下校3
20%
図 3-23.
40%
60%
80%
0%
100%
男女別確認回数
20%
図 3-24.
21
2回
3回
4回
下校1
下校2
0%
1回
下校1
下校2
複数
女
男
0回
40%
60%
80%
100%
グループ別確認回数
1回
2回
3回
4回
0回
登校1
登校1
登校2
登校2
一般運転
先頭
0回
下校1
下校2
2回
3回
4回
下校1
下校2
下校3
下校3
登校1
遊び運転
登校1
先頭以外
1回
登校2
下校1
下校2
登校2
下校1
下校2
下校3
下校3
0%
0%
図 3-25.
20%
40%
60%
80%
20%
40%
60%
80%
100%
100%
グループ順位別確認回数
図 3-26.
乗り方別確認回数
走行位置
登校 1
登校1地点の走行位置を特定するために、道路幅を 6 つまたは 7 つに区分した(図 3-27)。
0 は歩道走行をさす。走行位置 2 の地点では歩道を通行するものはいなかった。走行位置1
は、交差点手前約 41mの地点で、右側に集合住宅への横道があった。走行位置 2 は交差点直
前である。
図 3-27.
登校 1 地点の走行位置番号
22
右折者の走行位置 1 と走行位置 2 の結果を図 3-28.と 図 3-29.に示す。
(
(
80
人
人 80
)
70
70
)70
69
60
60
50
50
40
40
27
30
30
20
20
16
15
1
0
0
1
2
0
図 3-28.
3
1
2
7
10
6
10
4
5
3
走行位置1
0
6
4
1
7
5
3
0
6
登校 1 地点右折者の走行位置 1
図 3-29.
2
3
4
走行位置2
0
0
5
6
登校 1 地点右折者の走行位置 2
左折者の走行位置 1 と走行位置 2 の結果を図 3-30.と 図 3-31.に示す。交差点の進行方向
にかかわらず多くの学生が道路左側(1)を通行した。
(
人
250
(
213
)
人
200
250
)
207
200
150
150
100
100
50
47
82
46
12
1
1
1
45
56
67
50
24
0
01
2
1
23
4
3
1
走行位置1
図 3-30.
6
1
1
3
4
走行位置2
5
6
0
登校 1 地点左折者の走行位置 1
図 3-31.
23
2
登校 1 地点左折者の走行位置 2
登校 2
登校 2 地点の走行位置を特定するために、道路幅を 5 つに区分した(図 3-32.)。その結果
を図 3-33.に示す。多くの学生が道路の左側(2)を通行した。
(
人
)
80
74
70
60
50
40
30
20
14
13
10
4
1
0
1
図 3-32.
登校 2 地点の走行位置番号
2
図 3-33.
3
4
5
登校 2 地点の走行位置
下校 1
下校 3 地点の走行位置を特定するために、道路幅を 3 つまたは 5 つに区分した(図 3-34.)。
交差点手前を走行位置 1 とし、交差点通過後を走行位置 2 とした。結果を図 3-35.と 図 3-36.
に示す。走行位置 1 では道路中心から右側(2 または 3)を通行しているが走行位置 2 では
道路の右側(5)を通行する学生がほとんどだった。
図 3-34.
下校 1 地点の走行位置番号
24
(
)
250
(
人
人
195
200
)
266
250
200
137
150
300
150
100
50
82
100
46
50
0
0
1
2
3
0
3
1
2
27
3
図 3-35.
4
5
走行位置2
走行位置1
下校 1 地点の走行位置 1
図 3-36.
下校 1 地点の走行位置 2
下校 2
下校 2 地点の走行位置を特定するために、道路幅を 5 つに区分した(図 3-37.)。その結果を
図 3-38.に示す。並走でひろがって通行する学生が多かった。主に道路の中央を通行していた。
(
114
人 120
) 100
97
80
60
47
51
37
40
20
0
1
図 3-37.
下校 2 地点の走行位置番号
2
図 3-38.
25
3
4
走 行 位 置
5
下校 2 地点の走行位置
下校 3
下校 3 地点の走行位置を特定するために、道路幅を 5 つに区分した(図 3-39.)。その結果
を図 3-40.に示す。下校 2 地点と同様で広がって通行していた。特に道路中央から右より(3
または 4)と左端(1)に多かった。
(
人
)
90
85
80
70
60
60
54
50
41
40
35
30
20
10
0
1
2
3
4
5
走 行 位 置
図 3-39.
下校 3 地点の走行位置番号
図 3-40.
下校 3 地点の走行位置
違反行動
一時不停止、左右不確認、並走、脇見運転、左側以外の通行、片手運転、ヘルメット不着
用の項目を違反行動とし、登校 2 地点と下校 2 地点で観察した。図 3-41.と図 3-42.にそれら
が行われている割合を示す。(
)内は人数である。
登校時(登校 2 地点)では一時不停止が最も多く、次いで左右不確認が多かった。下校時
(下校 2 地点)では一時不停止と左右不確認も多かったがそれ以外にも左側以外の通行や脇
見運転、並走なども観察された。しかし、両地点で片手運転やヘルメット不着用は比較的尐
なかった。
図 3-41.
登校 2 地点における違反行動の割合
26
図 3-42.
下校 2 地点における違反行動の割合
並走
下校 2 地点で学生の並走状況について観察した。並走とは 2 人以上が横に並んで走行して
いる時を指す。観察の結果を図 3-43.に示す。男女 111 組の並走を観察できた。ほとんどが 2
人組による並走であったが 3 人や 4 人による広がった並走も約 15%あった。
16組
14.6%
1組
0.9%
2人
3人
4人
94組
84.7%
図 3-43.
n=111
下校 2 地点における並走人数の割合
駆け込み登校
登校時(登校 1 地点、登校 2 地点)に始業直前に登校する学生(駆け込み登校)と 8 時ご
ろに余裕をもって登校する学生(通常登校)の走行速度を比較した。駆け込み登校の学生は
登校 1 地点で 5 人、登校 2 地点で 2 人であったために通常登校の学生を 10 人ずつ無作為に
抽出した。その結果を図 3-44.に示す。駆け込み登校をした学生の速度の方が速かった( t
(25)=2.95,p≦.01)。
27
k 20.00
m
/ 18.00
h
16.00
18.93
14.52
14.00
11.50
12.00
10.00
8.71
8.00
6.00
4.00
2.00
0.00
駆け込み登校
通常登校
駆け込み登校
通常登校
登校1 登校2
図 3-44.
登校時における駆け込み登校の学生と通常登校の学生の速度比較
2)創徳中学校
走行位置
A地点
自転車に乗って通行した者を西から南進する中学生、別方向の中学生、高校生等(高校生
と小学生)、一般に分類した。A地点の走行位置は図 3-45.のとおりである。
北
右 真ん中 左
右
真ん中
左
1
2
3
4
5
右 真ん中 左
図 3-45.
A地点の走行位置の定義
28
西から南進の中学生の走行位置を図 3-46.に示す。9 割近くの学生が右側(5)から右側へ
の通行だった。それ以外の学生は、並走していたため走行位置が右側以外になったケースが
多かった。
図 3-46.
西から南進の中学生走行位置
別方向の中学生の走行位置を図 3-47.に示す。西から南進する学生と違い、同じ方向へ行く
場合でも走行位置はばらついていた。交差点の東側の道幅が狭いため、真ん中を通行する学
生も多かった。
図 3-47.
別方向の中学生の走行位置
29
高校生等の走行位置を図 3-48.に示す。中学生に比べて尐ないが、自転車で通行する高校生
は南へ向かうケースが多い。通行位置も、東または西から南進するケースでは、道路南側に
寄ってから交差点の内側を通行する学生が多かった。東へ向かった学生が交差点を出た際に
道路の右側を通行していたのは、道路が西側道路よりやや北側にずれているため、最短距離
で交差点を通行すると通行位置が右側になりやすいことが要因と考えられる。
図 3-48.
高校生等の走行位置
一般の走行位置を図 3-49.に示す。交差点に右側から進入したのは、交差点を右折するケー
スのみだった。一方、左折したケースは、全て交差点に左側から進入していた。
図 3-49.
一般の走行位置
30
B地点
東から北進の中学生、別方向の中学生、高校生等、一般に分類した。調査地点の走行位置
は図 3-50.の通りである。
左真右
ん
中
北
右
真ん中
左
左真右
ん
中
図 3-50.
B地点の走行位置の定義
東から北進の中学生の走行位置を図 3-51.に示す。男女 2 日間とも左側通行の割合が半数を
超えた。次いで真ん中を直進、右側通行が多かった。交差点進入時点での通行位置と、交差
点から出た時の通行位置が違う学生は 1 割未満だった。
図 3-51.
南から北進方向中学生の走行位置
別方向の中学生の走行位置を図 3-52.に示す。交差点に右側から進入したのは、交差点を右
折したケースのみだった。一方、左折したケースは、全て交差点に左側から進入していた。
ほとんどの学生が交差点を右側から出ている。右側または真ん中からの交差点進入が 9 割近
くを占めた。
31
図 3-52.
別方向の中学生の走行位置
高校生等の走行位置を図 3-53.に示す。2 日間の男女合計で、南進する学生しかおらず、両
端の通行がそれぞれ 4 割弱と多かった。
図 3-53.
高校生等の走行位置
一般の走行位置を図 3-54.に示す。全体の 6 割以上が左側通行をしていた。交差点進入時点
で通行位置が右側だったのは北から南進するケースのみだった。
図 3-54.
一般の走行位置
32
C地点
南から北進の中学生、高校生等、一般に分類した。調査地点の走行位置は図 3-55.の通りで
ある。
北
歩12345
道
通
行
1:左
2:真ん中左
3:真ん中
4:真ん中右
5:右
図 3-55.
C地点の走行位置の定義
南から北進の中学生の走行位置を図 3-56.に示す。約半数が左側を通行をしており、真ん中
から右を通行した学生は 1 割未満だった。また、歩道通行の割合は 2 割強だった。
図 3-56.
中学生の走行位置
33
高校生等の走行位置を図 3-57.に示す。全体で最も多かったのは南進の左側通行だった。次
いで、南進の場合は歩道が右側にあるが、歩道通行が多かった。
図 3-57.
高校生等の走行位置
一般の走行位置を図 3-58.に示す。北進の左側通行が半数近くを占めて最も多く、次いで歩
道通行が多かった。南進では左側通行が最も多く、次いで右側通行が多かった。
図 3-58.
一般の走行位置
違反行動
各調査地点で違反行動及び危険行動の観察を行った。A 地点並びに B 地点では左右確認不
履行と一時停止不履行、C 地点では歩道通行を調査した。各地点共通の項目として蛇行運転、
片手運転、ヘルメット不着用、脇見運転、並走を設けた。また、調査日のうち一日が雤天で
あったことから傘差し運転も観察項目に加えた。
34
A地点
図 3-59.は西から南進の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率である。ほとんどの学
生が一時停止不履行であった。左右確認不履行にも 65%の生徒が該当した。並走は 20%程
度であったが女子だけでは 30%を超える日もあった。
図 3-59.
A地点における西から南進の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率
図 3-60.は別方向中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率である。 並走が最も多く
19.6%であった。一時停止不履行は 7.8%と西から南進の中学生と比べあまり確認されなかっ
た。
図 3-60.
A地点における別方向中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率
35
高校生等の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-61.に示す。一時停止不履行が 20%
と最も多く、また、中学生と違い傘差し運転も多く見られた。片手運転の割合は A 地点の中
では一番高かった。また、通行者は高校生のみで高校生にヘルメット着用義務がないためヘ
ルメット不着用項目は観察しなかった。
図 3-61.
A地点における高校生等の違反行動及び危険行動の平均発生率
一般の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-62.に示す。一時停止不履行、左右確認不
履行、傘差し運転が確認された。一時停止不履行割合は 60%近くあった。
図 3-62.
A地点における一般の違反行動及び危険行動の平均発生率
36
B地点
東から北進の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-63.に示す。一時停止不履行
の割合が 95.2%と一番高く、次いで左右確認不履行が 74.6%と高かった。
図 3-63.
B地点における東から北進の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率
別方向の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-64.に示す。並走の割合が
22.6%と一番高かった。また、3 地点の中学生の中では片手運転の割合が最も高かった。
図 3-64.
B地点における別方向中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率
37
図 3-65.は高校生等(小学生を含む)の違反行動及び危険行動の平均発生率である。並走の
割合が 19%で最も高かった。片手運転とヘルメット不着用(小学生のみ)の割合も、他の調
査地点より高かった。
図 3-65.
B地点における高校生等の違反行動及び危険行動の平均発生率
図 3-66.は一般の違反行動及び危険行動の平均発生率である。片手運転の割合が一番高く
12.8%であった。
図 3-66.
B地点における一般の違反行動及び危険行動の平均発生率
38
C地点
南から北進の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-67.に示す。並走の発生率
が最も高く(32.3%)、次いで歩道の通行(27.2%)であった。脇見運転、ヘルメット不着用、
片手運転、蛇行運転はあまり確認できなかった。
図 3-67.
C地点における南から北進の中学生の違反行動及び危険行動の平均発生率
高校生等学生の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-68.に示す。歩道通行と片手運転
が最も多く確認された(24.1%)。並走の割合も全体を通して 20%程度であった。
図 3-68.
C地点における高校生等の違反行動及び危険行動の平均発生率
39
一般の違反行動及び危険行動の平均発生率を図 3-69.に示す。歩道通行の割合が最も高く
(13.8%)、次いで並走と片手運転の割合が高かった。
図 3-69.
C地点における一般の違反行動及び危険行動の平均発生率
並走
各調査地点で学生の並走状況について観察した。
A地点での観察の結果を図 3-70.に示す。男子 29 組、女子 30 組の並走を観察できた。ほ
とんどが 2 人組による並走であった。また、3 人以上の並走の割合は女子より男子の方多か
った。
男子並走
女子並走
3.45%
3.33%
20.69%
2人並走
2人並走
3人並走
3人並走
4人並走
75.86%
n=29
図 3-70.
96.67%
A地点における男女別並走人数の割合
40
n=30
B地点での観察の結果を図 3-71.に示す。男子 25 組、女子 36 組の並走を観察できた。
A地点同様、ほとんどが 2 人による並走だったが 3 人以上の並走の割合は男子より女子のほ
うが高かった。
男子並走
女子並走
4.00%
16.00%
33.33%
2人並走
3人並走
2人並走
5人並走
3人並走
66.67%
80.00%
n=36
n=25
図 3-71.
B地点における男女別並走人数の割合
B地点の南方向において観察した結果を図 3-72.に示す。男子 57 組、女子 35 組の観察が
できた。2 人での並走が多く 3 人以上の並走は男女ほぼ同じ割合であった。
男子並走
女子並走
8.57%
19.30%
11.43%
2人並走
2人並走
3人並走
3人並走
4人並走
80.00%
80.70%
n=57
図 3-72.
B地点南方向における男女別並走人数の割合
41
n=35
C地点において観察した結果を図 3-73.に示す。男子 47 組、女子 51 組が並走をしていた。
2 人の並走が最も多く、ついで 3 人の並走が多かった。男女 1 組ずつだが 5 人の並走も確認
できた。
女子並走
男子並走
2.13%
2.13%
1.96%
34.04%
27.45%
2人並走
2人並走
3人並走
3人並走
4人並走
5人並走
5人並走
70.59%
61.70%
図 3-73.
n=51
n=47
C地点における男女別並走人数の割合
3)観察地点でのインシデント
白子中学校では観察地点が学校付近であったために、自転車の台数が多すぎ、自動車の走
行を妨げるほどであったが、それゆえに観察調査の範囲内では、ヒヤリハットのようなイン
シデントはほとんどなかった。しかし、創徳中学校での調査では、中学校から離れた観察地
点でいくつかのインシデントが発生し、それぞれ並走や交差点での一時不停止に起因する交
通コンフリクトであった。その事例を紹介する。
図 3-74.
手をつないでの並走の様子
42
図 3-75.
並走がもたらすインシデント事例(1)
図 3-76.
並走がもたらすインシデント事例(2)
図 3-77.
一時不停止によるインシデント事例
43
3-4
考察
行動観察調査により、一時不停止、左右不確認、並走、脇見運転などの中学生の規則違反
傾向が明らかとなった。片手運転や携帯電話といったリスクの高い行動はしていないものの、
一時不停止など基本的な安全スキルの欠如傾向が明らかとなった。これらの結果は第 2 章の
質問紙調査での結果と一致しており、中学生の意識と行動で同様の傾向を実証できたことは
本研究の意義である。
中学生の場合、基本的に通学時の自転車利用が大半であり、そのために自転車の並走とい
う行動形態が習慣化している。並走は話をしながらの自転車利用であり、注意も会話に向け
られるため他の自動車の接近などに注意が払われない恐れがある。インシデント事例では、
手をつないでの並走や並走時の車両接触の可能性が示された。並走中には後ろから接近して
いる車があった場合、2 台の自転車が左右に分かれるという行動をとりやすい。そして車両
通過後に再び一緒になって並走を続ける。しかし、車両が連続していてそれに気がつかない
場合、後続車両に轢かれる恐れがある。こうした並走のもたらすリスクについて周知すべき
である。
また、実際の走行時には、自転車利用者のほとんど全員が一時停止規制の交差点でも止ま
っていない。それどころか左右の確認もしないままに交差点に進入する生徒がきわめて多い。
それでも事故にならないのは、自動車のドライバーがそれを知っていて徐行などのリスク回
避をしてくれているおかげである。自動車のドライバーは近所の住民が多いと推測でき、そ
のため、通学時の運転には細心の注意を払っていると考えられる。しかし、こうしたドライ
バーだけでなく、その道や交通状況を知らないドライバーが走行してきたら、あるいは何ら
かの理由であわてて走行してきたら、出会い頭事故の可能性が高まるのである。
今後、本調査のような行動観察調査によって、さらに多くの自転車の関係するインシデン
ト(交通コンフリクト)を収集することが自転車事故の発生メカニズムを解明するうえで重
要である。
44
第4章
4-1
ジャイロセンサ調査
目的
中学生の左右の安全確認行動を詳細に分析するために、ジャイロセンサ(角速度センサ)
を用いたフィールド調査を実施した。中学生の確認行動の実態を把握し、今後の教育手法を
構築する基礎資料とすることを目的とする。
4-2
4-2-1
方法
サンプルの構成
ジャイロセンサ調査は平成 21 年 7 月 8 日と 10 月 20 日に三重県鈴鹿市立白子中学校の選
抜された生徒、計 36 名を対象に行った。
4-2-2
調査方法及び使用機材
ATR が開発した無線ジャイロセンサ(本体:38.0 ㎜(W)×39.0 ㎜(H)×10.0 ㎜(D)、17.2g
アタッチメント:22.0 ㎜(W)×25.0 ㎜(H)×8.0 ㎜(D)、4.5g)を用い、確認に伴う挙動の計
測を行った。ジャイロセンサは本体で 2 軸、アタッチメントで 1 軸、計 3 軸の角速度計測が
可能で、最高 200Hz で取得した 3 軸角速度データを Bluetooth により PDA へリアルタイム
に無線送信することができる。また、コード類も無いため調査対象者の行動をほとんど阻害
せずに頭部運動データを取得することができる。下校する生徒にジャイロセンサ、小型カメ
ラ、GPS が装着された帽子(ヘルメット)をかぶり校門から 700mほどのコースを普段どお
りに自転車で走行をしてもらった。10 分置きに 1 名ずつ実施し、その挙動を分析した。ジャ
イロセンサのサンプリングレートは 25Hz であり、GPS のサンプリングレートは 1Hz であっ
た。図 4 -1.にジャイロセンサ本体とその装着状態を示す。走行コースは図 4 -2.のとおりであ
る。
① 小型カメラとGPS
② ジャイロセンサ
45
③
図 4-1.
ジャイロセンサ本体と装着時の状態
図 4-2.
4-3
装着時の状態
走行コース(白子中学校)
結果
ジャイロセンサにより得られた確認挙動の発生位置を図 4-3.に示す。青旗が左側の確認を
示し、赤旗が右側の確認を示している。数字はそこで確認を行った人数である。図 4-4.と図
4-5.は地点ごとの左右確認率である。
46
確認の多いところ(30%以上)
図 4-3.
確認挙動が計測された場所とその人数(白子中学校)
図 4-4.
地点別右側確認率
47
図 4-5.
地点別左側確認率
さらに、個人ごとの確認行動水準を分析するために、確認すべきポイントを 13 箇所に絞り、
各ポイントをはさみ手前 10mから後ろ 5mまででの確認を「安全のために必要な確認行動」
として分析した。36 人の平均確認回数は 4.25 回であった。また確認時の平均時速は 9.88k
mであった。13 箇所の各ポイントの位置は図 4 -6.のとおりである。
図 4-6.
確認すべき 13 箇所のポイントの位置
48
各ポイントについて左右それぞれ確認を行った人数とその割合を表 4-1.に示す。駐車場 2
での左確認の割合が最も多く、見通しの悪い交差点(第 6 交差点)と第 4 十字交差点では左
右両方の確認が多かった。また、公園前T字交差点(第 2 交差点)で確認した学生はいなか
った。
表 4-1.
ポイント別の左右確認人数と割合
チェックポイント
右確認(人)
校門前
1
第1交差点手前
10
第1交差点大回り
6
自転車置き場1
5
駐車場1
2
自転車置き場2
3
駐車場2
2
公園前T字交差点(第2交差点)
0
公園出入り口
1
公園先T字交差点(第3交差点)
5
第4十字交差点
9
駐車場3
5
第5T字交差点
2
見通しの悪い交差点(第6交差点)
11
%
2.8
27.8
16.7
13.9
5.6
8.3
5.6
0.0
2.8
13.9
25.0
13.9
5.6
30.6
左確認(人)
3
4
5
5
7
5
16
0
3
6
12
5
8
12
%
8.3
11.1
13.9
13.9
19.4
13.9
44.4
0.0
8.3
16.7
33.3
13.9
22.2
33.3
確認行動について個人差があるのか、すなわち、よく確認する者はどこでも確認する傾向
があり、その反対の者はどこでも確認しないという傾向があるかどうか、を検討するために
各ポイントを交差点と交差点以外の確認すべきポイントに分けて分析を行った。双方のポイ
ントでの確認回数の相関を算出したところ、r =.562 となり、中程度の相関が得られた。図 4
-7.にその散布図を示す。
次に、一か所で何回も確認を繰り返すことで回数が増えている可能性もあるため、各ポイ
ントでの確認を得点制にして分析を行った。校門前と各交差点では左右確認 2 点、左右どち
らか一方の確認 1 点、確認なしを 0 点とし、その他のポイントでは確認すべき場所が左側に
位置するため、左確認を 1 点、右確認は 0 点として 22 点満点で得点化を行った。交差点と
交差点以外の得点間の相関は r =.363 であった。図 4 -8.はその散布図である。
5
12
交
10
差
点
以 8
外
で 6
の
確 4
認
回 2
数
4
交
差
点3
以
外
の2
得
点
1
0
0
2
4
6
8
0
10
0
交差点での確認回数
図 4-7.
1
2
3
4
5
6
7
交差点得点
交差点と交差点以外の
図 4-8.
確認回数の相関
交差点と交差点以外の
得点の相関
49
また、走行コースを駐車場 2 と公園前T字交差点(第 2 交差点)の間で分け、校門前から
駐車場 2 までの確認を前半確認回数、公園前T字交差点(第 2 交差点)から見通しの悪い交
差点(第 6 交差点)までを後半確認回数として前半と後半の相関を算出した( r =.455)。図
4 -9.にその散布図を示す。さらに、全ポイントの右側確認回数と左側確認回数の相関を算出
した( r =.380)。散布図を図 4 -10.に示す。以上のように、いずれの分類を行っても一定の
相関がみられた。
9
14
8
12
7
後6
半
確5
認4
回
数3
10
左
確
認
6
2
4
1
2
0
0
2
4
6
8
10
12
0
14
0
前半確認回数
図 4-9.
4-4
8
2
4
6
8
10
右確認
前半確認回数と後半確認回数の相関
図 4-10.
右確認回数と左確認回数の相関
考察
ジャイロセンサを用いた中学生へのフィールドでの走行実験により、第一に、中学生の安全
確保のための確認水準がきわめて低いことが明らかとなった。しかし、個人ごとに確認の仕方
には明確な違いがあり、交差点での確認や交差点以外での確認を、2 割から 3 割程度の生徒が
行っていたことも判明した。結果の第二は、こうした確認傾向の個人差がある程度一貫してお
り、確認をする生徒は交差点でも交差点以外のポイントでも確認をしており、確認しない生徒
はどこでもしないという傾向が相関分析から明らかとなった。
本研究では確認をする生徒としない生徒でどこが異なっているのかの基礎資料が不十分であ
り、学年や自転車の運転経験、自宅までの走行距離などの情報を得ることで、個人の違いがど
のような要因に基づいているのかを推定することが困難であった。今後可能な範囲で関連する
個人属性の情報を得ることで一層深い分析が可能となるので継続的な調査が必要である。
確認水準が不十分であり、個人差が大きいことは、中学生の確認行動を向上させる自転車安
全教育の必要性とその可能性を示しているといえる。自転車運転のリスクを正しく理解し、そ
れを回避するための技能を身につける教育、自分や友人の自転車走行の姿を見てどこに問題が
あり、何をするべきかを考えさせる教育が求められよう。
50
第5章
総合論議
本研究では、自転車利用者の意識と行動を質問紙調査や行動観察、フィールド調査を実施し
た。質問紙調査では、中学生、高校生、大学生への調査を実施して、因子分析等を行うことに
より、中学生の意識特性を明らかにした。さらに、行動観察やフィールド調査に基づいて、中
学生に多い行動特性として、交差点での一時不停止や不確認、並走などの問題行動が多いこと、
さらにその結果として、車との衝突リスクが高まっている実態を明らかにできた。とくに、フ
ィールド調査では、中学生の確認行動をジャイロセンサで記録・分析することにより、平均し
て確認不足の実態が明らかになると同時に、確認する傾向を持つ生徒から確認しない傾向を示
す生徒まで、個人差が大きいことが明らかとなった。
数多くの問題行動の理由として、1)安全運転に必要な知識を知らない、2)自分の行動の
リスクを理解していない、3)リスク回避のスキルを有していない、4)自分のしたいことを
優先する(リスク効用傾向)、5)周りの人の影響を受けやすい、6)安全確保への動機付けが
弱いといういくつかの点が考えられる。こうした問題行動の原因となる弱点を克服して、安全
確保のための行動を身につけるには、単一の教育手法では限界がある。そこで、 本研究では、
平成 21 年度には実際の教育プログラム開発には至らなかったものの、いつくかの教育プログラ
ムを設定することができた。平成 22 年度には、各教育プログラムを実際に開発して、実践研究
を実施する予定である。図 5-1 に今後設定可能な教育プログラムの概略を提示した。
図 5-1
中学生への自転車教育プログラムの素案
51
本教育プログラムでは、学年別のプログラムを設定した。まず、中学1年生には集団でのビ
デオによる講習を行うこととした。ここでは、ビデオ等を用いて、中学生の自転車利用実態を
示し、その危険性について解説する。いわば自転車教育の入門編である。次に、中学 2 年生に
は、ホンダが開発した自転車シミュレータを用いた行動訓練を実施する。一度に大勢がシミュ
レータに乗車できないのでクラスの代表に乗ってもらい、全員がそれを見て話し合うという形
式が想定できる。
中学 3 年生には生徒会を通じた自転車安全のための自主活動型のグループワークを提案する。
これは生徒会が学校周辺の事故マップや調査結果を参考にしてヒヤリ地図作りや教育案作りを
実施するというものである。さらに、希望者に対して、自転車運転自動評価装置を用いた「自
転車技能検定」による運転診断と個別指導を実施する。
これらの教育手法は問題要因解決のアプローチとの関連では表 5-1 のように設定できる。
表 5-1
講習形式と問題解決のアプローチの関連付け
第一に、集団式ビデオ講習は、①安全のための知識の習得と②自分の行動リスクの理解が中
心であり、より困難な課題である周りの人の影響を受けない行動についても教育可能である。
第二に、自転車シミュレータによる行動訓練はリスク回避のためのスキル習得にもっとも適し
ていると考えられ、さらに、安全のための知識習得や自分の行動リスクの理解にも効果がある
と想定できる。第三に、自主活動型のグループワークは様々な設定ができるので多くの問題に
効果を有する可能性があるものの、本研究では最低限の設定として、自分の欲求のコントロー
ルや安全確保への動機づけを目的とした。最後に、自転車技能検定では、結果のフィードバッ
クを通じて、自分の行動リスクを理解するとともに、技能コンテストの要素を含ませて競争心
を高めることで安全確保への動機づけとなることを目的とする。
これらの教育を組み合わせることで、中学校における息の長い自転車安全対策活動に結びつ
くことが期待できる。
なお、本研究は平成 22 年度も継続することが決まっており、中学生への教育プログラムの
開発と並行して、第一に高齢自転車利用者の事故実態や行動特性の把握、第二に、自転車関
連制度の見直しの提言を行う予定である。後者の関連制度には、 1)法制度とその運用(取り
締まり)、具体的には自転車整備、保険、道交法などの問題点の検討と、2)道路整備の現状と
課題とその対策を検討することとなっている。
52
非売品
子どもから高齢者までの
自転車利用者の心理行動特性を踏まえた安全対策の研究
報 告 書
発行日
平成 22 年3月
発行所
財団法人 国際交通安全学会
東京都中央区八重洲 2-6-20 〒104-0028
電話/03(3273)7884 FAX03
(3272)7054
許可なく転載を禁じます。
子どもから高齢者までの自転車利用者の心理行動特性を踏まえた安全対策の研究
平成21年度研究調査プロジェクト
報告書
子どもから高齢者までの
自転車利用者の心理行動特性を踏まえた安全対策の研究
報告書
平成 年3月
22
国際交通安全学会
(財)
平成22年3月
財団法人 国際交通安全学会
International Association of Traffic and Safety Sciences
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