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LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発

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LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
技 術 報 告
LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
Development of LNG Boil Off Gas Compressor
平 隼也
児嶋 伸士
宮本 寛志
立山 省吾
Toshiya Taira
Shinji Kojima
Hiroshi Miyamoto
Shogo Tateyama
要 旨
近年、シェールガス革命や地球環境問題に関連し、天然ガスへの注目が高まっている。産出された天然ガスの貯蔵・運
搬には大きく分けて二通りあり、1つは気体として利用する方法、もう 1 つは液体として利用する方法である。
本報では、液化貯蔵・運搬時に必要となるボイルオフガス圧縮機の開発に際し、実施した検討内容について紹介する。
Synopsis
Recently, in connection with shale gas revolution and global environment problem, natural gas is increasingly attracting attention.
The methods to store and transport natural gas are roughly divided into two use modes, gas and liquid.
In this paper, we present recent achievements in the development of Boil Off Gas compressor needed to store and transport
liquefied gas.
1. 緒 言
近年、圧縮機の技術進歩に伴い、その使用用途は多様
化している。その中でも、地球温暖化などの環境問題によ
り注目されている液化天然ガス(Liquefied Natural Gas こ
れ以降 LNG と表記)の運搬・貯蔵時に使用されるボイル
オフガス圧縮機(これ以降 BOG 圧縮機と表記)は、世界
的な LNG 需要増加とともに市場が拡大している。
図 1 に LNG 用 BOG 圧縮機の使用系統図を示す。
① LNG をタンク内に貯蔵している。
②タンクへの外気からの熱侵入、またはLNGを再液化装置
に用いた際に熱が加わるため、BOG が発生する。
③ BOG を圧縮機により圧縮する。
④圧縮した BOG は用途によって、ガスとして使用されるか、
あるいは再液化装置に送られる。
⑤送られたガスは再液化装置内で、さらに冷却されることで
液化され、タンクに戻る。
図 1 BOG 圧縮機の使用系統図
LNG 用 BOG 圧縮機では気化したガスの温度が -150 ~
-120℃と極低温であり、従来の圧縮機構ではラビリンス機
能が保持できない為、ラビリンス機能が可能となる LNG
用 BOG 圧縮機の開発を行った。
広島製作所 産機部
Industrial Machinery Dept., Hiroshima Plant
(102)
日本製鋼所技報 No.65(2014.10)
LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
2. 構造検討
LNG 用 BOG 圧縮機は -150℃の極低温ガスを取り扱うた
め、接ガス部に使用される材料は、低温脆性を考慮し慎重
に選定することが必要である。
また、極低温用圧縮機の構造としては低温ガスの温度
影響を配管・シリンダ等のガス流路部のみに留めることで、
駆動部を従来のまま使用できる構造とした。
2.1. シリンダ構造について
2.1.1 従来のシリンダ構造
ラビリンス式圧縮機は、ピストンとシリンダの間に隙間を
持たせ、ピストンに刻まれたラビリンス溝によって、非接触
のガスシールを行うことが可能である。また、この非接触
図 2 圧縮機の基本構造
シールがガスのクリーン性とメンテナンス間隔の向上に寄与
しており、これがラビリンス式圧縮機の長所である。
従来のシリンダの構造は図 3 の通りシリンダ内に冷却水の
流路(これ以降はシリンダジャケットと表記)を設けた構造
となっており、その理由として、下記の 2 点が挙げられる。
①吸入ガスと吐出ガスの温度差によって発生する熱変形
を防ぐ。
(隙間変化による処理量減、ピストンとの接触を防ぐ)
②ガス圧縮に伴う温度変化がシリンダに伝わり、さらにフ
レームに伝わらないようにする。
2.1.2 極低温用シリンダ構造
-150℃のガスを圧縮する場合、吐出ガスの温度は圧縮比
によって若干変動するが -50℃近傍となる。そのため、シリ
ンダの温度としては、吐出温度で安定したとしても、-80℃
図 3 シリンダ(ジャケット有)
程度になり、従来の構造を使用した場合、シリンダジャケッ
ト内にどのような流体を流しても凍結してしまい、温度維持
ができず、熱変形を防ぐことができない。また、凍結膨張
によりシリンダジャケットが破壊する可能性も考えられる。
そこで、極低温下でも使用できる材料の中でも製造容易
性を考慮し、線膨張係数の小さい材料を用いることで熱変
形を最小とし、図 4 に示すようなシリンダジャケットを取り
除いた構造とした。
しかしながら、このシリンダ構造では、フレームへの熱
影響を防ぐことができない。そこで、シリンダとフレームと
の間に熱的防護のための流体を流すことができるサーマル
バリアを設置する構造を採用した。
図 4 シリンダ(ジャケット無)
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LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
図 5 に従来構造と極低温構造の違いを示す。
②設計プログラム改造のための性能確認
現在、当社の圧縮機の設計には独自の計算プログラムを用
いている。そこで、新構造に対しても同プログラムを使用で
きるようにするために、極低温ガスにおける圧縮機の型式
選定に用いる吸入圧力および吸入温度、圧縮比を変化させ
た場合の温度変化および圧縮機性能の指標の 1 つである
流量変化を測定し、プログラムを改訂した。
表 1 極低温試験用圧縮機の仕様
図 5 従来構造と極低温構造の違い
3. 検証試験および結果
3.1 新構造の妥当性の確認
2 項にて説明した新構造を採用した試験機で極低温運転
2 項の対応を行った極低温試験用圧縮機の仕様を表 1 に
示す。これにより、低温窒素ガス(液体窒素)を使用流体
として、以下の 2 点の検証試験を行った。
を行った。
図 6 は極低温運転を行った際の温度と圧力であり、図 7
は運転中のシリンダを示す。図 6 にあるように実際の LNG
用 BOG 圧縮機と同等の -150℃で圧縮運転を行い、カバー
①新構造の妥当性の確認
等よりガスの外部への漏れもなく、フレーム温度も 0℃以上
熱変形の影響を考慮した構造にて、極低温運転を行い、
であったことから、運転は可能であると判断した。そこで、
運転前後の各部の寸法および摩耗状況を比較し、健全性
次に新構造の妥当性を確認するため、ラビリンス式圧縮機
を確認することで、各部で検討した熱収縮対策の妥当性を
の性能を左右するピストンとシリンダとの隙間の評価を行っ
確認した。
た。方法としては、試験前後のピストンおよびシリンダの内
径を比較検討することで評価した。
図 7 シリンダ(運転試験中)
図 6 運転試験時の温度および圧力変化
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日本製鋼所技報 No.65(2014.10)
LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
3.1.1 ピストンとシリンダの摩耗状況
運転試験前後でシリンダには摩耗はほとんどなく、製作
時の許容寸法内に収まっていたが、図 8 に示すようにピスト
ンスリーブの上部に偏摩耗が確認された。
このピストンスリーブの偏摩耗の原因は、低温運転時の
シリンダの熱変形によりスリーブが部分的に接触したものと考
えられる。
図 9 は冷却によるシリンダの熱変形を FEM 解析した結
果である。
図 8 運転試験後のピストンスリーブ
上部のみが偏摩耗した理由としては、ガスの圧縮により
吐出側のガスは暖められ、吸入側に撓むように収縮したシ
リンダとピストンの吐出側が接触したことによるものと考え
られる。
また、運転前後の各寸法を確認したところ、偏磨耗があ
った上部は若干の隙間増加があったものの、値としては小
さいことから、現状の設計でも問題ないと判断した。
3.2 設計プログラムへの低温補正導入
設 計 時に一番 重 要となる圧 縮 機 の 流 量を確 認した。
図 10 は図 6 の運転における推定理論流量と実測流量である。
ガス温度が低下していくにつれて、従来構造に関する流
図 9 冷却によるシリンダの熱変形
量算出式で推定した理論流量と実測流量に差が生じ、実
測流量が理論流量より最大で約 20%少ない値となった。
試験後の圧縮機の各部を確認し、構造的な問題が起き
ていないことから、この流量減少の原因として、ガス起因
とする圧縮機の吸込み不足が考えられ、要因として以下 2
点が考えられる。
上述の隙間が増加して、ラビリンスのシール機能が低下
すれば、この漏れガスが増加し、圧縮機の吐出流量が減
少することになる。
2 つ目はシリンダを通過するガスの温度上昇である。低
温ガスがシリンダの各部を通過する際に熱をもらい、ガス
1 つ目は漏れガスの増加である。漏れガスとは、ピストン
は温度上昇および膨張を起こす。しかし、ピストン径は温
とシリンダとの隙間を通って、圧縮・吐出行程の圧縮室か
度上昇・膨張前の圧力・温度条件を基に設計されているた
ら吸入・膨張行程の圧縮室に流れ込むガスである。
め、必要な処理量を出せなくなる。
図 10 運転試験時の推定理論流量および実測流量
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LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
この温度上昇は図 11 に示すように大きく分けて 4 箇所で
次に、②および③の圧縮室内での温度上昇を考える。そ
の温度上昇が考えられる。各部での温度上昇の原因は異な
こで考えられる原因は大気との間の熱授受、ガス圧縮によ
り、各弁室① , ④での温度上昇は大気との間の熱授受、圧
る発生熱、圧縮昇温された漏れガスである。大気との間の
縮室②での温度上昇はガス圧縮による発生熱と大気との間
熱授受はシリンダ外表面に堆積した霜が断熱材として働く
の熱授受、漏れガス③は圧縮により昇温したガスが吸入ガ
ため、温度上昇への影響は小さい。また、圧縮・吐出行
スと混ざることが原因であると考えられる。
程の圧縮室から吸入・膨張行程の圧縮室に流れ込む圧縮
昇温された漏れガスは量的には少なく、これも温度上昇へ
温度上昇の可能性がある部位
の影響は小さい。したがって、この温度上昇の原因として
①吸入側弁室 ②圧縮室
ガス圧縮による発生熱が考えられる。この熱はガスの圧縮
③漏れガス ④吐出側弁室
行程によって発生するが、この発生熱によるシリンダ内での
温度上昇メカニズムを図 12 に示す。
シリンダ内での温度上昇のメカニズム
①圧縮により昇温したガスがシリンダ壁を加熱する。
②暖められたシリンダ壁は次に吸入されたガスを加熱する
図 11 シリンダ内で起きる温度上昇
図 12 温度上昇メカニズム
この 2 つの要因の内、1 つ目の漏れガスの増加は、運転
中に起きる熱収縮による隙間の増加量を算出したところ、
しかし、このガス圧縮による発生熱を取り去ることは難し
影響としては小さく、本項目が流量減少の主な原因とは考
いことから、温度影響を考慮した設計が必要となってくる。
え難い。
そこで、試験結果を基に温度上昇の推算式を作成した。推
そこで、2 つ目の通過時の温度上昇について、測定を行
算式の入力項目として設計時に判明している条件を採用し、
った。まず、図 11 における①および④となる各弁室の温度
実際の設計時にも使用できるものとした(1 〜 5)。図 13 は温度
測定を行ったところ、その温度に基づく理論流量は実測流
補正式を用いて流量補正した結果である。温度が安定する
量から大きく離れており、各弁室での大気との間の熱の授
までは実際の流量と大きく異なっているが、温度が安定す
受が温度上昇の主な原因とは考えられない。
ると実測流量に近い結果となった。
図 13 流量検討結果(温度補正式)
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日本製鋼所技報 No.65(2014.10)
LNG(液化天然ガス)用ボイルオフガス圧縮機の開発
3.3 実ガスでの運転
3.3.3 サーマルバリアの効果
当社内での検証試験が完了後、A 社のテストプラントにお
実ガス運転時に熱媒に汎用の不凍液を使用して、図 5 に示
いて天然ガスによる実ガス運転を行った。図 15 の通り、吸
したサーマルバリアの常時循環運転を行った。なお、不凍液
入圧力、吐出圧力、吸入温度を変化させた運転を行い、改
をヒータによる熱媒の加熱は行わず、低温運転におけるシリン
造を行った設計プログラムの信頼性、ラビリンス / コンタクト
ダ、サーマルバリア、フレーム各部の温度変化を測定した。
式ロッドパッキンのシール性、シリンダ/ フレーム間に設けた
サーマルバリアの効果を確認した。
吸入ガス、すなわちシリンダ入口温度が -100℃の際、シリ
ンダ底部外壁で -15℃、サーマルバリア外壁で +5℃、フレ
ーム上部では +15℃程度との測定結果が得られた。これによ
3.3.1 設計プログラムの信頼性
実ガス運転を通して改造した設計プログラムの信頼性を確
り、サーマルバリアによるフレームの冷却を抑制する効果が
実証できた。
4. 結 言
認することは必須項目であり、この運転において圧縮機の重
要な性能指標の一つである流量に関して検証を行った。
検証の結果、定常運転時の設計プログラムによる流量の
計算値と実測値との間に性能に影響を与えるような差異はな
かったことから、改造した設計プログラムの信頼性を確認す
本 報告では、LNG 用 BOG 圧縮機の開発を行った際
の検討事項および検討結果を紹介した。
この開 発 にて 新 構 造で の 運 転を実 証するとともに、
-150℃での実際の運転データに基づいた設計プログラム
ることができた。
の改造により、正確な圧縮機の設計を行うことができる
3.3.2 ラビリンス / コンタクト式ロッドパッキンのシール性
ようになった。
圧縮機のロッドパッキンには、ユーティリティの使用を可能
現 在は世界 的な需要 増 加に伴い、 拡 大 する LNG 用
な限り少なくするために、シールガスが不要なラビリンス / コ
BOG 圧縮機の市場に改造された設計プログラムを用い
ンタクト式を採用している。液化エチレンの温度域までのガス
て、対応している。
に対してそのシール性は実証されているが、LNG の温度域で
5. 参 考 文 献
は初めての試みである。そこで、実ガス運転時におけるロッド
パッキンのシール性を検証するため、シール性が損なわれると
圧力上昇を示すディスタンスピース内(図 14 を参照)の圧力を
1) 日本機械学会 編:機械学便覧基礎編 a2 機械工学、
P. 14 2 -147
測定した。
その結果、運転前後においてディスタンスピース内で圧力
上昇が見られなかったことから、シール性に問題がないこと
2)日本機械学会 編:機械学便覧応用システム編γ2流体
機械、P. 139-155
3)栗野誠一,葛岡常雄 著:伝熱工学、P. 26-66
が確認できた。
4)数森敏郎 著:新版圧縮機、P. 8-38
5)日本機械学会 著:伝熱ハンドブック、P. 364-426
図 14 シリンダ構造
図 15 実ガスでの運転データ
(107)
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