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欧州の水利用に関する報告

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欧州の水利用に関する報告
情 報 報 告
ウィーン
欧州の水利用に関する報告
欧州の水産業に関する業界団体である欧州水協会(European Water Association)が 2016
年 3 月 30 日に発行した年次報告書「Yearbook 2016/2017」より、欧州の水利用の状況を
以下に報告する。
1.
はじめに
水は我々が所有する最も貴重な資源の一つである。これは経済と社会の発展のためには
基本的かつ不可欠な要素である。清潔で安全な水へのアクセスは、人間の尊厳と基本的人
権により保護されるべきである。欧州水枠組み指令(EWFD)によると、水は商業製品ではな
く、むしろ保護されなければならないものとされている。我々の水の取り扱い方は我々の
社会の成熟度と責任を示している。持続不可能な水利用と無責任な水管理に対処しないと、
今後の世代に重大な脅威を引き起こし、将来的に開発目標を達成するために大きな闘争の
原因となり得る。
欧州の水資源は気候や人口構造の変化、農業活動の集中化、天然資源の枯渇及び劣化と
いった、様々な課題に直面している。これらの傾向はアクセスを次第に制限しその品質を
劣化させることにより、資源を保護する生態系や環境を脅かしている。この点で重要な課
題は、EU の法的枠組みと政策がこれらの課題や水資源に影響を与える変動的な傾向に対し
適切な回答を提供できるかということである。
2.
欧州における水の課題の枠組み
2.1 気候変動
気候と水は密接に関係している。気候システムの変動は水の循環に変化を引き起こして
いる。地球の温度が上昇すると、水の循環の激しさが増加し海面の上昇や降水パターンの
変化、洪水や干ばつ等の異常気象の周期が増加することに繋がる。
欧州南部や地中海地域が水不足や干ばつの増加に苦しむ一方で、北部地域は洪水の影響
を受けやすくなっている。今後数十年の気候変動では安全な水へのアクセスの安全性を危
険にさらす洪水や干ばつの両方の地理的拡大と頻度の増加が予測されている。
2.2 人口構造の変化
人口動向の変化、すなわち世界人口の増加は人口の年齢構成を変化させ、都市部の急激
な広がりは環境にとって重要な課題となっている。さらに、移住者の増加により、欧州は
欧州外からEUに流入する人々の増加に直面しており、高齢な移住者は北から南にかけ増加
している。これは新しい住宅地の開発や観光リゾートの無計画な開発だけでなく、乾燥地
における水の消費量に影響を与えている。急速に成長する都市人口はまた、不均質な水需
要を引き起こしている。土地利用の変化は我々の生態系の機能と分布に影響を与えている。
土地の断片化と持続不可能な利用は生物多様性を脅かし、欧州の自然災害と気候変動への
脆弱性を高めている。また、それは土壌劣化と砂漠化を進めている。
高齢者人口の増加といわゆる「第2の居住地」を得ようとする動きは欧州のもう一つの厳
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しい現実となっている。
2.3 農業への影響
農業は抽出された淡水のほぼ半分(44%)を消費しており、欧州で最も水を使用する分野と
なっている。農業は地下及び地表水の化学的及び定量的な状況に影響を及ぼしており、水
部門に対し複数の課題を提示している。
前世紀に渡っての灌漑を含む農薬、栄養素や家畜生産システムは農業生産の拡大を促進
してきた。農業生産におけるこれらの支援的な資源の利用はあまり効率的ではなく、土壌
の劣化、土地からの水はけの増加や他の変化を引き起こし、自然環境の変化をもたらして
きた。
他の人間活動(都市化、貯水池を利用した水力発電、洪水防止、採鉱、漁業、観光等)と共
に農業は土地の物理的な改変を引き起こし最終的に水資源の変化をもたらす恐れがある。
これらの変化または水理形態学的変化(hydromorphological alterations)は地表水の自然流
況と構造の変化である。これらの圧力の結果は水生生態系の動植物に影響を与える可能性
があり、今後大幅に水利用の状況に影響を与える可能性がある。
3.
EUの水管理
3.1 全体的な法的枠組みとしての水枠組み指令(WFD)及び関連指令
欧州及び国家水政策の主な目的は、良質な水を十分な量、人および環境に提供すること
を保証することである。そのEUの水に関する法令の最初の取組みは70年台初頭に遡る。そ
の時の主な焦点は入浴や飲料で用いられる水の品質基準に重点が置かれていた。第2段階
としては、水質汚染の主要な発生源に対し焦点があてられた。これらの最初の取組み以来、
EUは水管理の分野における水に関する法令を調整する際に重要な進歩を遂げている。
2000年10月に採択された水枠組み指令(WFD)とその関連指令はEUが水資源の品質の管
理、保護、改善に対するEU全体での枠組みを確立することを可能にした。水枠組み指令に
よると、“水の状態”の概念は5つの異なるレベルから構成されているとされ、それは“高”、
“良い”、“中程度”、“不良”、“悪い”のレベルから構成される。水枠組み指令の第
4条の主な目的は、全ての地表水及び地下水は2015年までに“良い”状態を維持し、2021
年までさらなる改善を継続することである。
水枠組み指令の主な革新は河川及び湖を自然な地理的及び水理的単位として管理する、
河川流域管理計画(RBMPs)の導入が挙げられる。水枠組み指令は8つの指令と水利用の特
定の面を規制する重要な欧州委員会の決定により構成されている。8つの指令とはつまり、
地下水指令、環境基準指令、都市廃水指令、硝酸塩に関する指令、水遊びに適した水に関
する新指令、飲料水指令、洪水指令、海洋戦略枠組み指令が挙げられる。
水の化学的状況に関しては、水枠組み指令は化学物質に関するREACH規制や産業施設に
対する統合汚染予防管理に関する指令といった他のEU法に関係している。
3.2
EUの水の法律~課題と施行~
2015年までに行ってきた様々な努力にも関わらず、欧州の地表水は既に25年前よりもは
るかに清潔になっているものの、欧州の水の約50%は依然として貧しい生態系の状態を維
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持している。2012年までは河川流域管理計画の作成と実施は比較的初期の段階であった。
予定された河川流域計画の75%が欧州委員会に報告されたにも関わらず、加盟国により提
出される情報は適切な評価及びモニタリングを行うには十分に詳しいものではなかった。
加盟国は現在の水利用の水準を正当化するため水枠組み指令の下で設定されたガイドラ
インからの適用除外の利用を過度に行った。今日、河川流域計画と農業や洪水管理といっ
た他の政策分野及び法律との繋がりは依然として欠けている状態である。もう一つの問題
はEUレベルでの汚染物質の排出量を制御する措置の導入のギャップが挙げられる。
3.3 法的枠組みの見直し
最近までの40年間でEUは様々な人間の利用や異なる水環境での利用を想定した野心的
な水利用に関する法律を制定した。水利用に関する法律の適応度を確認することを目指し、
欧州委員会は飲料水指令と水枠組み指令をREFIT計画と呼ばれる委員会のワーキングプラ
ンに組み込んだ。欧州委員会は水資源の効率的な利用を確保するため、新循環経済パッケ
ージの下、水の再利用の分野での法的措置を提案することを計画している。
4.
正しい方策の模索
淡水の品質と量を確保することへの圧力は気候及び人口の変化、全ての集中的な人間活
動の課題を鑑み、急速に増大している。水はEU市民が有する健全な環境を享受する権利の
一部となっている。従い、水に関連する問題の解決は大きな公共の利益に繋がる。欧州全
土の約190万人により支持された“水への権利”の取組みでの最初の成功により、一層明ら
かなものとなっている。水枠組み指令はEUの水に関する法令の最も包括的な要素である。
それは多くの長期的かつ野心的な目標を定義しており、関連指令により完成され、EUレベ
ルでの効率的で持続可能な水管理のための完全な法的枠組みを提供している。残念ながら、
水政策立法の施行は極めて遅く、欧州全体では矛盾が生じているのが実情である。
欧州大陸は様々な要素により気候変動及び人口構造の変化に直面している。南部の国は
水不足に苦しみ、北部の国はこれまでより多くの降水量となるなど、極端な気象現象に直
面している。人口構造の変化もまた大陸に不均一な影響を与えている。その結果、南部の
国における水資源の需要の増加と北部の国における水消費量の減少が並行して進むことと
なっている。これらの変化パターンと課題に対処するには、異なる水政策間での効率的な
相関関係だけでなく、水部門と水に関する政策間での一貫性が重要となる。
欧州の制度は欧州法の明快さ、相互運用性及び執行力を確保する上で重要な役割を果た
している。加盟国が水に関連する法案を適切に移行する必要がある一方で、条約の守護者
としての役割を担う欧州委員会は実装プロセスを強化し加盟国間での協力を改善するよう
働きかける必要がある。共同立法者としての欧州議会は具体的な問題に焦点を当て、個別
に解決策を見つけるために貢献する必要がある。
そのためには迅速な実施が重要となる。欧州の政策立案者と全ての関連する利害関係者
は法的枠組みの見直しと更なる開発が公衆の懸念を取り込み、課題の解決に向け前進する
よう保証する必要がある。
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4.1 より良い水管理のための道しるべ
2016年はEUの水管理にとって重要な年である。つまり、EUの水枠組み指令の第2のサ
イクルの始まりを意味している。2016年3月に全ての加盟国は新しい河川流域管理計画を
報告しなければならず、その提出に合わせ、河川の状態を明らかにし、いつどのように良
好な状態にし、2016年から2021年にかけての期間にどのような措置が講じられるかを報告
しなければならない。
2010年から2015年にかけての最初の河川流域管理計画は、学習期間として位置づけられ
ていた。多くの場合、河川流域管理計画は一つまたはそれ以上の重要な要素を欠いている。
不十分な監視システムのために公共用水域への圧力に関するデータを提供することができ
なかったため、圧力の分析に欠陥が発生している。また、計画された措置は特定された問
題に対する対策としては非効率なものであった。初期の河川流域管理計画は通常通りのビ
ジネスを継続して行うシステムにおいて正式な活動として考えられていた。
新しい河川流域管理計画には多くの期待があり、2000年に採択された水枠組み指令では
良好な水の状態を保持しようとする目的は2015年末までに達成されるだろうと予見されて
いた。今日、加盟国がこの目標を達成していないのは明白である。しかし、国家プログラ
ムによる措置が行われた6年間は河川、湖沼、地下水の帯水層及び沿岸海域の状態を改善
していることは確かである。状態指標の複雑な特性のため、全体的な水の状態の点ではわ
ずかな改善があるが、加盟国が焦点を当てることを決定した主要な圧力に対応する部分指
標では大幅な進展があることが予測されている。全ての利害関係者が認識できるよう最初
の河川流域管理計画でこの進展について記載されることが重要である。
いずれの加盟国もEU法で設定された目的を達成していないということは、全ての加盟国
が将来的に免除を適用しなければならないことを意味している。免除は一定の条件の下で
の水枠組み指令で可能となっている。新しい河川流域管理計画は未達成の原因を分析し是
正に繋がる行動を提案することが求められている。幸い、これは加盟国が問題を分析し、
その戦略を修正することにより、施策のより完全かつ効果的なプログラムを提案すること
を促進している。
そのような手法により起こりうる結果として、加盟国は水の効率性を刺激し必要な投資
やその他の行動を行うための資金を生成する経済的手法を適用することである。不足した
資金に対する議論の場は多くの場合、計画された措置の実施がゆっくりとしたペースであ
ることを正当化されるために用いられる。一方、多くの国では水価格が適切に環境及び資
源コストに反映されていない水サービスが存在している。加盟国は資金不足のために免除
を適用すると同時に、コスト回収に関する水枠組み指令の第9条の規定の適用はなくなる。
別の結果として、加盟国は水の問題に対処する上でその解決策が、どの程度効果的な制
度であるかを理解する必要がある。縦割り型姿勢は最初の河川流域管理計画でも存在して
おり、また最近の分野別の戦略でも見ることができる。典型的な例としては、水域におけ
る農業汚染である。水管理当局は農家により実施されなければならない行動を計画するこ
とが困難であると判断したため、最初の河川流域管理計画では農業からの汚染物質の拡散
に取り組む措置はほとんど含まれていなかった。一方、EUの農業資金の利用のための農村
開発計画といった農業戦略は水に関する十分な措置が含まれていない。そのため、主な議
論として農家が水域の汚染を防止するに当たり非常に高い費用が必要となることに焦点が
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置かれている。同時に、いずれの加盟国も河川流域管理計画における特定の措置の実施に
対する農家へのEUの資金の支払いを可能にする、農村開発のための欧州農業基金に関する
規則の第30条を適用していない。
欧州委員会は、3つの方法で第2の河川流域管理計画の実施をすることで加盟国を支援
しようとしている。
第1の方法は、実施状況や達成された進捗内容を分析するために一連の研究を行おうと
していることである。最も重要な研究は第2の河川流域管理計画の評価であり、指令への
準拠、特にどのように介入ロジックが働き、対策プログラムがどの程度効果的かが評価さ
れる。この研究は他の関連政策がどのようにEUの水政策、経済的研究及び水の統治システ
ムの研究の実施に貢献または阻害するかの分析により補完される。これらの研究は2018年
春季に開催が予定されているEU水会議で発表される水枠組み指令の実施報告書といった
水平的な実施報告書だけでなく、二国間対話の形で加盟国にフィードバックされる予定で
ある。これはまた2019年に予定されている水枠組み指令の見直しの開始を意味している。
第2の方法は、欧州委員会が2016年から2018年の期間で合意されたワーキング計画に従
って、共通実施戦略の枠組みの中で加盟国と協力することである。
これに関連して数百人の専門家は各自の知識を共有し、最善の実施法に関する意見交換を
行うと共に現行のやり方の見直しを図っている。共通実施戦略はまた、水枠組み指令の様々
な側面について専門家が議論を行うためのプラットフォームとなっている。
第3の方法は、欧州委員会が水に関する欧州イノベーション・パートナーシップを通し
て水枠組み指令の実施を支援しようとすることである。水の再利用に関する取組は新たな
機会と脅威に対処し、将来的には他の行動により補完されることとなる。
5.
欧州の水部門の課題~第11回EWA会議の報告書より~
2015年11月16、17日にかけドイツ、ブリュッセルでEWAが主催する会議「欧州における
水の課題」に22の国から約100名の参加者が集まった。会議は水管理に関する3つのセッシ
ョンに分けられていた。各セッションでは欧州委員会代表者のプレゼンテーションが行わ
れた。
5.1 セッション1:欧州の水の良好な状態を目指して
環境総局水部門のPavel Misiga氏は欧州の水を保護するための水枠組み指令による進捗
状況を発表した。結論として、全体的な状況は良いとするか悪いとするかは視点により変
化すると述べた。2015年末では欧州の地表水の53%は良好な状態に到達すると予測されて
いる。これは直近の6年間で約10%改善された結果であり、2009年時での現状を見直した
際には43%の値であった。Misigaは、合計では水の保護状況は水枠組み指令のおかげで大
幅に改善されたことを確認したと述べている。また、同氏は加盟国が互いに効果的な対話
を行っており、国境を越えた協力により改善してきていると述べた。しかし、同氏は欧州
全体での水が良好な状態に到達するには、まだ険しい道のりであることを強調した。
Anita Künitzer博士は欧州環境庁が発行した報告書“State and Outlook 2015”でのデー
タを用いて発表を行った。ベルギーの組織であるNatuurpuntのWim van Gils氏は市民の視
点からのベルギーの水管理の状況を発表した。同氏の非常に専門的なプレゼンテーション
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では水に関するトピックは市民にとって非常に重要であることを示した。さらに、同氏は
水に関する議論に国民を含めることは非常に賢明な方法だと主張した。
これに関して、同氏は構成で透明性のある水の支払い方法を提唱した。結論として、同
氏は自然との連携を強化し、以前よりもさらに集中的に生態系サービスを統合するよう求
めた。さらに、ルクセンブルク水協会会長のRaymond Erpelding氏は自治体の見解を示し
た。水枠組み指令の導入により、水部門では大幅な進歩があり、特に国境を越えた協力が
増加したと述べた。しかし、欧州における進歩を維持するために、彼は特に農業からの資
源の拡散に対処するよう求めた。また、エンド・オブ・パイプによる解決法ではもはやコ
スト効率的ではなく、大事なのは汚染物質の発生を回避することではなく、廃水処理を管
理する方法に集中することであると述べている。同氏の見解では“一つの過ちは全ての過
ちである”という原則を一般市民に伝えることは非常に困難だとしている。特に難しいの
は、汚染は遍在するために水の良好な状態に到達するのはほとんど不可能だという事実で
ある。結論的に、同氏は全ての場所で良好な状態に到達するためには水枠組み指令により
改善が行われた時間よりも何倍もの時間がかかるだろうと指摘した。
【エンド・オブ・パイプ】
工場内または事業場内で発生した有害物質を最終的に外部に排出しない方法を指す。
5.2 セッション2:欧州の水の良好な管理を目指して
欧州委員会の環境総局からのBruno Rakedjian氏による“欧州の雨水の反乱に関する現在
の規制の現状”と題されたプレゼンテーションは、参加者にその発表内容が欧州の水を良
好に管理するための正しい道筋であることを示した。また、同氏は欧州委員会が欧州の雨
水の反乱の状況を分析するための研究を開始したことを報告した。その研究は2015年1月
に開始され、同年12月に終了している。それは一方で欧州レベルでの法律や指令、及び個々
の加盟国での法的要件を含んでいる。
同氏は一般的な要件は都市廃水処理指令(91/271 EC, Article 10 (1), Annex 1)に記載され
ていることを示した。これに対する欧州の一貫したアプローチは明らかに存在せず、加盟
各国は雨水の反乱による水の汚染を防ぐため、国家レベルでの対策を行っている。
Rakedjian氏は加盟各国は国レベルで規制を行っているものの、その義務は枝分かれし、複
雑なものとなっていると述べた。
予想されるように、これを達成するための方法は同様にそれたものとなっている。氾濫
の数は多くの場合規制されている、もしくは勢いを弱体化させるための要件が設定されて
いる。全体では、いくつかの国のみが良好なデータを有してることが示されている。廃水
排出により引き起こされる汚染はほとんどの加盟国で概算することが可能である。結論と
して、Rakedjian氏はこの点において環境総局からのこれ以上の活動は計画されておらず、
研究が開始された後に活発な議論が沸き起こると予測していると述べた。その後、同氏は
豪雨によりどのように洪水が引き起こされるか、また洪水による被害をどのように軽減で
きるかについての方法を紹介した。
Harsha Ratnaweera博士はプレゼンテーションで廃水処理プラントと輸送システム間で
の最適化された相互作用は気象パターンのモデル化と予測により達成ができるという、ノ
ルウェーの研究プロジェクトを概説した。同氏はその措置は高度なレベルの下水システム
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と改善された降雨予測により達成できると結論付けた。これらの措置は被害を防止し最小
限に抑えることができる。豪雨はほとんどの場合局地的な事象のため、都市の排水システ
ム制御を用いることにより、利用可能な雨量を使用することができる。ベルギーのLeuven
大学のPatrick Willems教授は鉄砲水が発生した場合に起こりうる可能性について説明を行
った。同氏は気候変動の影響を含む高度な都市化、特に都市化による地形が隠れることを
取り上げた。同氏は開かれた緑豊かな町の重要性を示すと共に、都市計画者が自治体の排
水システム事業者と協力するための必要性を強調した。技術的措置、良い警報システムと
高い公共意識のおかげで、主な被害は防止できると述べた。
最後のセッションでは洪水のリスク管理に関するトピックが取り上げられた。欧州水協
会(EWA)の技術科学委員会メンバー及び欧州委員会のワーキンググループ“Flooding”に
おけるEWAの代表であるIain Blackwell氏は様々な洪水防止策を発表した。同氏は洪水予
測及び警報システムの確立が必要不可欠であり、部門全体の協力が極めて重要だと強調し
た。洪水を予測するためには同氏は3段階のアプローチを推奨している。最初に洪水の被
害を受けやすい地域を特定し評価されなければならない。第2に、特定された領域を詳細
に観察し、最後に洪水被害から保護するための対策を実施する。
5.3 セッション3:欧州の水の良好な状態のための管理及び経済的側面
最後のセッションでは水枠組み指令の経済的側面についての発表が行われた。このセッ
ションの最後のプレゼンテーションは“EUの地域(結束)政策からの水管理のための資金調
達の機会”というテーマで地域政策総局のSander Happaertsにより行われた。同氏は2014
年から2020年にかけて行われるこのプログラムの具体的な目標について述べた。EUの地域
政策に記載されている11の目標の内、特に3つの目標が直接水分野に関連している。地域
政策総局により資金供給を受ける水管理及び水資源保護に関連する全ての投資は河川流域
管理計画に基づいている。加盟国は下水汚泥を処分する方法、また気候変動による影響へ
の対処法について決定を行う必要がある。
さらに、問題になっているプロジェクトは資金的に持続可能であることを証明する必要
がある。Haepperts氏は資金調達条件は洪水防止対策や革新的な水プロジェクトに関して設
定されていると説明した。最後に、同氏は全ての関連出版物は欧州委員会のウェブサイト
で閲覧可能であると述べた。会議での次の発表者は水部門でのフルコスト回収を達成する
ための方法を調査している、パリのSorbonne大学のMaria Salvettiであった。水枠組み指
令の第9.1条に基づき、同氏は加盟国が環境及び資源コストをどのように考えているかとい
う難しい問題を含む、水事業におけるコスト回収に関する様々な側面を説明した。これら
のコストをカバーするため、同氏はほとんどの加盟国は税金や手数料の引き上げを通じて
資金調達を行っていると結論付けた。
税金や手数料がこれらの環境及び資源コストをカバーするのに十分であるという証拠は
加盟国から得られてはいない。さらに同氏は、家庭や産業界における水サービスに関する
コスト補填の原則は多かれ少なかれ適用されており、農業部門の水サービスの料金は非常
に低くなっていることを主張した。
会議の最後のプレゼンテーションでは、Aquabench社のFilip Bertzbach最高経営責任者
が水部門のベンチマークに関する一般報告書についての講演を行った。同氏はベンチマー
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クは主に経営レベルでの手法であり、水分野での公開討論の基礎として透明性を確保する
ために用いられるべきものではないことを強調した。また、同氏はベンチマークはランク
付けのツールとしてではなく学習プロセスとして使用した場合にのみ効果的であるという
事実を強調した。
全てのプレゼンテーションはEWAのウェブサイト上で閲覧が可能である。次の会議は
2016年11月8日にブリュッセルで開催予定である。
6.
エネルギーと水~切り離し不可な関係~
今日では、現在の工業化社会におけるエネルギー供給は水に大きく依存している。大規
模な発電所における冷却水の需要は一般家庭及び産業界の両方に供給する水の需要に比べ
著しく高くなっている。再生可能エネルギーもまた同様に水に依存している(例えば、灌漑
目的での再生可能原料など)。水は革新的なプロセスで用いられる不可欠な資源であり、既
存のエネルギーインフラ及び再生可能資源の両方にとって不可欠な存在である。
また、水の管理プラントそれ自体も大きなエネルギー消費者となっている。公共水の供
給および廃水処理のための既存のドイツの施設は年間6.6TWhの電力を消費しており、これ
に下水システムや雨水貯留ネットワークは含まれていない。この消費電力量は約160万世帯
に供給する年間電力量に相当する。これに関し、年間4.2TWhの電力を必要とする廃水処理
プラントは地方自治体部門における最大の電力消費者である。それらの電力に対するニー
ズは、例えば学校や街灯よりも高くなっている。
廃水処理プラント規模のエネルギー消費量に起因するコストは事業者にとって不可欠で
ある。エネルギー効率の増加によりコストは大幅に削減することが可能である。2010年に
ドイツ水、廃水及び廃棄物協会(DWA)により行われた調査では、廃水処理プラントの電力
消費の潜在的な削減量は25%まで可能と推定されている。90年台初頭に戻ると、廃水処理
プラントでのエネルギー消費を最適化する方法がドイツで求められていた。
結果として、ドイツのノルトライン・ヴェストファーレン州は1998年に体系的なエネル
ギー分析を行い、潜在性を保存する方法を表す方法を記述した総合的な参照規格を発行し
た。他の州は同様の参照規格を発行したものの、いくつかの場合において内容が分散して
いた。ドイツにおけるエネルギーのチェックや分析に関連して一貫性を確保するために、
“廃水処理プラントにおけるエネルギーの最適化(DWA-A-216)”に関する規格が確立され、
最終的に2015年にDWA主催のワーキンググループにより発行された。
ドイツの排水処理プラントにおけるエネルギー消費を最適化するため主な焦点は、電力
消費量の50~60%を占めるバイオ浄化のための曝気処理である。この場合、柔軟な酸素供
給やエアレータ列の更新や最適化、表面通気から圧縮通気への移行といった案が提案され
ている。他の関連する処理段階や廃水処理プラントの補助プラントは、理論的なエネルギ
ー分析を適用することによりエネルギー効率を最適化する大きな可能性を有している。廃
水処理プラントは電力を消費するだけではなくなっている、。
廃水は同様に潜在的なエネルギーも秘めている。現在エネルギーは下水汚泥の嫌気性消
化により主に生成されており、発生したバイオガスは熱電併給(CHP)設備で使用されている。
エネルギー分析を行うことにより、大幅に廃水からのエネルギー生成量を増加させる手法
が提供されている。加熱及び冷却用途に用いられる電気エネルギーと組み合わせた廃水か
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らのエネルギー回収はエネルギー効率の高い廃水処理システムには必須となっている。古
典的な手法に加え、水産業は常に革新的なアプローチを求めている。従い、水の電気分解
だけでなく、バイオガスからバイオメタンと水素を生産するために数年前から試験的な廃
水処理プラントが確立されている。この利点は生物処理の段階で通気を行うため、水素と
共に作成された純酸素を使用する点である。
処理プラントでのメタノール製造のための試験設備もまた同様に確立されつつある。水
部門での潜在能力を最大限に活性化させるため、近年連邦及び州規模で資金調達プログラ
ムが開始されている。その結果、“未来志向の省エネ・省資源水管理のための技術及び概
念(ERWAS)”と呼ばれる資金対策により、12の研究プログラムが約2700万ユーロの全体予
算で連邦教育研究省(BMBF)により支援されている。
資金提供を受けたプロジェクトの内、5つのプロジェクトは飲料水供給に関するもの、
4つのプロジェクトは廃水処理を支援し、3つのプロジェクトはバイオ燃料電池に焦点を
当てている。
また、以下のテーマについても注目されている。
・新鮮な水の貯蔵及び飲料水の処理
・飲料水供給ネットワーク内で減圧器に代わりタービンとしてのポンプの使用
・将来におけるエネルギーが最適化された廃水処理プラント
従い、これらの選択肢はエネルギー効率、エネルギー供給およびエネルギーネットワー
クとの相互作用に対する需要の増加を満たすために総合的に勘案される必要がある。さら
に、“エネルギー効率の高い廃水処理プラント”に関する環境革新プログラムの一環とし
て、12の革新的な大規模試験プロジェクトがドイツの連邦環境・自然保護・建設・原子炉
安全省(BMUB)により資金提供を受けている。そのような研究開発プロジェクトに資金提供
することにより、廃水処理プラントは継続的に自己のエネルギー消費量を減少させ自己消
費のレベルを上げるだけでなく、エネルギーインフラ事業者との相互作用によりドイツの
再生可能エネルギーへの転換に貢献することが可能となる。
一方、廃水処理プラントのエネルギー供給およびこれらのプラントでのエネルギー生産
の可能性はますますドイツ国外でもまた重要となってきている。2015年には3つの大規模
な会議が“水とエネルギー”をテーマに開催されている。それらはワシントンDCの“Water
and Energy”、ストックホルムの“World Water Week”、英国のエネルギー効率的な都
市の水管理に焦点を当てた“Water Efficiency”である。会議での発表内容から、処理プラ
ントでのエネルギー消費量及び廃水処理施設からのエネルギー供給が世界的に増加傾向に
あることは明らかである。しかし、エネルギーの監視と分析に基づく処理プラントのエネ
ルギー最適化は多くの場合、ドイツで行われているように体系的には行われていない。
上述の会議の間に行われた様々なプレゼンテーションは廃水処理プラント由来のエネル
ギーの最適化は温室効果ガス削減及び気候保護に大きく貢献していることが強調された。
この可能性を活用するため、廃水処理施設のエネルギー分析は常に提案された改善措置に
よる二酸化炭素削減量を示すようにするべきである。しかし、メタン及び亜酸化窒素の発
生量が増加していないかを確認することも重要である。気候変動に対処する際にはこれら
の措置は逆効果となる。
排水処理プラントでのエネルギーの自給を達成するには、エネルギー効率の強化と内部
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エネルギー生産の改善が重要である。しかし、水管理の中核事業は飲料水や廃水処理にピ
ントを合わせておく必要がある。
7.
水の栄養素汚染
1970年代での初期段階から、欧州の水政策及び法律は長年に渡り大きく発展してきた。
1996年のIPPC指令だけでなく、1991年の都市排水処理及び農業からの硝酸性汚染に関する
指令は排出量制御に関する指針を確立した。2000年には、全ての水の包括的な保護を目的
とした水枠組み指令が施行され、2015年までに原則として全ての河川流域を良好な状態に
する或いは維持しようとする目的が課せられた。2008年の海洋戦略枠組指令では、沿岸水
域外の海域に水枠組み指令の原則を反映することとなった。
欧州の水の現状及び動向や汚染源を鑑みると、汚染源及び拡散源の混合的な進歩或いは
二階級社会となるかのいずれかの結論に至る可能性がある。一方で、欧州の河川は疑いも
なく多くの場合品質が向上しており、ライン川はかつては“欧州の下水道”と呼ばれてい
たが、再度サーモンが戻ってくるまでになった。EEAの報告が示すように、オゾン層破壊
物質、アンモニア、リンによる汚染が大幅に減少している。一方、河川の硝酸性汚染は非
常に高いレベルで安定して推移しており、我々の地域の海の富栄養化が大きな問題であり
続けている。また、欧州の地下水は多くの場合硝酸値が規定値を超えており非常に汚染さ
れたままとなっている。
廃水や農業といった主な2つの水の栄養汚染源を見ると、非常に多様な原因が存在する。
最初に廃水に関しては1991年に12の加盟国で都市排水処理指令が採択されてからという
もの、1995年、2004年、2007年、2013年と拡大を続け、非常に広い政治的支援を受けてい
るように思われる。2016年の欧州委員会の報告書では、“都市排水処理指令の遵守のため
には未だ多くのすべきことが残されているが、欧州の都市排水の多くは環境へ放流される
前に適切な処理が施されるようになり、大きな進歩を遂げている。”としてまとめられて
いる。
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(%)
情報報告 ウィーン
注記:Article3は収集、Article4は汚水の標準処理、Article5はより厳格な処理法を示す。
EU15は2003年までの旧加盟国数、EU13は2004年から2013年までにEUに新しく加盟した国を示す
出典:Yearbook 2016/2017、March 2016、欧州水協会
図1 汚水の収集および処理義務に関する遵守の状況
特定の要素、嵐による雨水の氾濫からの汚染だけでなく、特に栄養分除去の要件は法的
手続き、最終的には欧州司法裁判所により両方の問題を明確にする必要がある。
長期間に渡る廃水処理義務の非遵守のため、欧州司法裁判所により多額の課徴金の支払
いが課されている。
第2に、上記とは対照的に農業汚染に関しては、硝酸塩指令に対する以下のような政治
的支援が長期間適応されている。
・加盟国による、2か月間分の肥料の貯蔵
・共通農業政策の下での“環境配慮要件(crosscompliance)”へ水枠組み指令を含めるこ
とに対する農業コミュニティによる激しい抵抗
この様な姿勢を例示することにより、肥料消費量に関するEurostatの統計データでは主
要な一定の消費量と継続的な窒素余剰量が示されている(キプロス及びルクセンブルクでは
余剰量が増加しつつある。)。
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総窒素余剰量(kg)
情報報告 ウィーン
出典:Yearbook 2016/2017、March 2016、欧州水協会
図2 EU28ヶ国及びノルウェー、スイスの利用農地1ヘクタール当たりの総窒素余剰量
また、地下水の硝酸塩濃度は50mg/リットル以上の必要品質基準を満たす多くの国で示さ
れている。ベルギーとスペインは基準(>20%)を超えた施設を監視する割合が最も高くなっ
ている。オーストリア、キプロス、チェコ、デンマーク、ドイツ、イタリア、オランダ及
びポルトガルは10~20%超過していると報告されている。
ライン川流域内では驚くことに地下水流の33%が依然として基準値以上に汚染されてい
ることが示されている。地下水汚染の動向に関し、硝酸塩指令に関する委員会の最新報告
書では、減少傾向を示す施設の割合と増加傾向を示す施設の割合はほぼ同じ割合(それぞれ
30.7%と26.6%)を示す一方で、ほとんどの施設では一定の傾向を示している(EUでは
42.7%)と結論づけられている。減少傾向が最も顕著な施設はアイルランドであり、最も安
定なのはラトビアである。また、増加傾向が最も顕著なのはエストニアと報告されている。.
硝酸塩指令の施行は正規の多国間及び二国間協力により行われる一方で、法的手続きや
判断は欧州司法裁判所に委ねられている。富栄養化(農業及び廃水の排出等による)の複数の
原因に対し、農業からの廃水の場合には並行した行動基準が設定されるという重要な判断
が行われている。長年に渡るそのような脆弱な分野での行動計画の指定と要求事項に対す
る議論の中で、行動計画の優先順位に関する詳細判定が2014年に定められている。
従い、法的拘束力のある措置(行動計画)と単なる提言(適正農業規範の規約)の間の境界線
は明らかとなっている。地下水汚染の域を超えて欧州地域の海の富栄養化は、北海の一部
だけでなくバルト海及び黒海で特に広範に環境悪化に関与する主要な環境問題となりつつ
ある。栄養排出量の更なる削減は水枠組み指令及び欧州の海洋戦略枠組み指令の目的を達
成するために必要となる。富栄養化は単なる環境の問題ではなく、生態系サービスの社会
経済的可能性を損なうことになる。
富栄養化の従来の資源の枠組みを超え、富栄養化に多大な貢献をする窒素大気沈着物に
ますます注力する必要がある。バルト海の人為的な総窒素負荷量は25%を占めている。ま
た、これはEUの法律下で施行中の硫黄削減義務に続いて、窒素に関する海運業界からの空
気排出量に関する法律を検討するために欧州委員会が2013年のClean Air Policy Package
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情報報告 ウィーン
に向けた準備を行うことに繋がっている。
基本となるそのパッケージの影響評価は、将来的な規制の下での優先目的として、海運
及び中規模燃焼プラントの分野での総排出量に対する主要な貢献者に対し焦点を当ててい
る。その評価では、汚染制御コストは英国海峡、北海及びバルト海といった、特に特定の
“窒素排出制御領域(NECAs)”における経済的に魅力的な選択肢としての、海上の窒素酸
化物の削減量を示していると結論づけられている。2015年のフィンランド及びオランダに
よる研究では海上の窒素排出量を削減する利点についてさらに詳しい説明がなされている。
空気の質や富栄養化に対処する上で、EUの政策立案者がいつ、どのようにこれらの事実
に取組むかはまだ不確かである。要約すると、水の栄養汚染に対する取り組みは1990年代
の都市及び産業排水処理と農業からの硝酸塩汚染に関する指令の採択以来、長い道のりを
たどってきた。多くの分野で依然として進展が無い一方で欧州環境庁(EEA)は2015年に発
行した報告書「The European Environment. State and Outlook 2015」の中で、欧州は水
政策目標を達成し、健全な水の生態系を達成するには遠く及ばないと結論づけている。そ
のため、我々EWAはこの達成のために多くの課題に対処しなければならない。
(参考資料)
・Yearbook 2016/2017、March 2016、欧州水協会(EWA)
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