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「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」 について

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「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」 について
「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」
について
2 2 安 委 決 第 2 4 号
平 成 2 2 年 8 月 9 日
原子力安全委員会決定
当委員会は、平成22年8月5日に放射性廃棄物・廃止措置専門部会で取りまと
められた標記の件について同専門部会より報告を受けたところ、審議の結果、これ
を決定する。
なお、「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」(昭和63年3月1
7日原子力安全委員会決定、平成5年1月7日、平成13年3月29日、平成21
年10月5日一部改訂)については廃止する。
平成22年8月9日
原子力安全委員会
委員長
班目
春樹
殿
放射性廃棄物・廃止措置専門部会
部会長 田中 知
「第二種廃棄物埋設の事業に関する安全審査の基本的考え方」
について
当専門部会は、標記の件について、別添のとおりとりまとめましたので報告しま
す。
別 添
第二種廃棄物埋設の事業に関する
安全審査の基本的考え方
平成22年8月5日
原 子 力 安 全 委 員 会
放射性廃棄物・廃止措置専門部会
1
まえがき
本基本的考え方は、放射性固体廃棄物の埋設施設の安全性を評価する際の考え方を取り
まとめた「放射性廃棄物埋設施設の安全審査の基本的考え方」
(昭和 63 年 3 月 17 日原子力
安全委員会決定、平成 5 年 1 月 7 日、平成 13 年 3 月 29 日、平成 21 年 10 月 5 日一部改訂)
に定めるところを基本に、廃棄物埋設施設の安全審査の経験、「放射性廃棄物処分の安全規
制における共通的な重要事項について」
(平成 16 年 6 月 10 日原子力安全委員会了承)にお
ける提言と、これに基づく「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方
(中間報告)
」(平成 19 年 7 月 12 日原子力安全委員会了承)及び「余裕深度処分の管理期
間終了以後における安全評価に関する考え方」
(平成 22 年 4 月 1 日原子力安全委員会了承)
の策定等を踏まえ、今般、当面の対象として考えられる廃棄物埋設施設を念頭において、
その埋設の事業の安全確保の考え方について取りまとめたものである。
なお、本基本的考え方については、今後、新たな知見と経験の蓄積により、必要に応じ
て見直しを行うものとする。
Ⅰ. 適用対象
本基本的考え方は、第二種廃棄物埋設の事業として、原子力施設から発生する放射性固
体廃棄物について、以下の方法により埋設し、その管理を段階的に軽減して行う最終的な
処分について適用する。
①
容器に封入し、又は固型化した放射性廃棄物(以下、「廃棄体」という。)を一般の地
下利用に対し十分に余裕を持った深度において人工バリアを設置した廃棄物埋設地に
処分(以下、
「余裕深度処分」という。)する場合
②
廃棄体を、人工バリアを設置した廃棄物埋設地に浅地中処分(以下、「ピット処分」と
いう。)する場合
③
容器に固型化しない放射性固体廃棄物(以下、「非固型化放射性固体廃棄物」という。)
を人工バリアを設置しない廃棄物埋設地に浅地中処分(以下、
「トレンチ処分」という。)
する場合
Ⅱ. 用語
本基本的考え方において使用する用語の意義は、次のとおりである。
(1)
廃棄物埋設地
放射性固体廃棄物を埋設するために又は人工バリアを設置するために土地を掘削
した場所、及び放射性固体廃棄物を埋設し、埋め戻した場所をいう。なお、人工バ
リアを設置する場合は、その人工バリアを含む。
1
(2)
廃棄物埋設施設
廃棄物埋設地及びその附属施設をいい、附属施設としては、放射性固体廃棄物受
入れ施設、放射線管理施設、坑道等がある。
(3)
段階管理
段階管理とは、公衆の受ける線量を合理的に達成できる限り低く抑えるため、埋
設した放射性固体廃棄物の放射能が時間の経過に伴って低減すること等によって、
放射性物質の生活環境に及ぼす影響が安全上支障のないレベル以下になることを確
認するまでの間、放射性固体廃棄物の種類、放射能レベル等に応じて廃棄物埋設地
の管理を段階的に行うことをいう。
(4)
人工バリア
人工バリアとは、埋設された放射性固体廃棄物から生活環境への放射性物質の漏
出の防止及び低減を期待して設置する人工構築物をいう。
(5)
天然バリア
天然バリアとは、人工構築物又は埋設された放射性固体廃棄物の周囲に存在し、
埋設された放射性固体廃棄物から漏出してきた放射性物質の生活環境への移行の抑
制等が期待できるような岩盤または地盤等をいう。
Ⅲ. 基本的立地条件
廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺において、大きな事故の誘因となる事象が起こると
は考えられないこと。また、万一、事故が発生した場合において、その影響を拡大するよ
うな事象も少ないこと。
Ⅳ. 基本的安全対策
4-1
廃棄物埋設地の設計
廃棄物埋設地の設計に当たっては、処分方法に応じて、以下のような点を考慮し、現状
の技術で合理的に達成できる範囲において、公衆の受ける線量が低くできるように設計す
ること。
(1)
閉じ込め
一定の期間、放射性物質を廃棄物埋設地の限定された区域に閉じ込める機能を有
する設計であること。
(2)
移行抑制
放射性物質の廃棄物埋設地から生活環境への移行抑制を考慮した適切な対策が講
じられていること。
(3)
離隔
2
埋設した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定される放射性物質の生活環
境に及ぼす影響が安全上支障のないレベル以下になるように適切な深度に放射性固
体廃棄物を埋設すること。
(4)
その他の考慮事項
廃棄体の発熱、含有する化学成分等による廃棄物埋設地への影響が考えられる場
合には、これを適切に考慮した設計がなされていること。
4-2
放射線の管理
(1)
放射線防護
①
廃棄物埋設施設は、直接ガンマ線及びスカイシャインガンマ線等の散乱ガン
マ線により公衆の受ける線量が合理的に達成できる限り低くできるように放
射線遮へいがなされていること。
②
放射性物質の飛散の可能性がある場合は、これにより公衆の受ける線量が合
理的に達成できる限り低くできるように対策が講じられていること。
③
廃棄物埋設施設においては、放射線業務従事者の作業条件を考慮して、適切
な放射線遮へい、換気等がなされていること。
(2)
放射線被ばく管理
廃棄物埋設施設においては、放射線業務従事者の線量を十分に監視し、管理する
ための対策が講じられていること。
(3)
放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物の放出管理
廃棄物埋設施設においては、廃棄物埋設地の附属施設から発生する放射性気体廃
棄物及び放射性液体廃棄物を適切に処理する等により、周辺環境に放出する放射性
物質の濃度等を合理的に達成できる限り低くできるようになっていること。
(4)
放射線監視
①
廃棄物埋設施設においては、廃棄物埋設地の附属施設から放出する放射性気
体廃棄物及び放射性液体廃棄物の放出の経路における放射性物質の濃度等を
適切に監視するための対策が講じられていること。
また、放射性物質の放出量に応じて、周辺環境における放射線量、放射性
物質の濃度等を適切に監視するための対策が講じられていること。
②
廃棄物埋設施設においては、一定の期間、廃棄物埋設地から地下水等に漏出
し、生活環境に移行する放射性物質の濃度等について、適切に監視するため
の対策が講じられていること。
4-3
その他の管理期間内の安全対策
(1)
地震に対する設計上の考慮
廃棄物埋設施設は、設計地震力に対して、適切な期間、安全上要求される機能を
3
損なわない設計であること。
この設計地震力は、「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」における耐震
設計上の重要度分類に基づき、耐震クラスに応じて定めること。
(2)
地震以外の自然現象に対する設計上の考慮
廃棄物埋設施設は、敷地及びその周辺における過去の記録、現地調査等を参照し
て、予想される地震以外の自然現象を考慮して、適切な期間、安全上要求される機
能を損なわない設計であること。
(3)
湧水に対する考慮
坑道及び処分空洞等の中で発生する湧水を適切に排水し、かつ、万一の突発的な
湧水時にも廃棄体からの放射性物質の漏出が過大とならないための適切な対策が講
じられていること。
(4)
火災・爆発に対する考慮
廃棄物埋設施設においては、火災・爆発の発生を防止し、かつ、万一の火災・爆発
時にも施設外への放射性物質の放出が過大とならないための適切な対策が講じられ
ていること。
(5)
電源喪失に対する考慮
廃棄物埋設地の附属施設においては、外部電源系の機能喪失に対応した適切な対
策が講じられていること。
(6)
準拠規格及び基準
廃棄物埋設施設の設計、建設・施工等については、適切と認められる規格及び基
準によるものであること。
Ⅴ. 管理期間内に係る安全評価
5-1
平常時評価
平常時における公衆の受ける線量は、段階管理の計画、廃棄物埋設施設の設計、並びに
敷地及びその周辺の状況との関連において、合理的に達成できる限り低いものであること。
5-2
事故時評価
技術的にみて想定される異常事象が発生するとした場合、公衆に対し、過度の放射線被
ばくを及ぼさないこと。
Ⅵ.管理期間の終了
被ばく管理の観点から行う廃棄物埋設地の管理は、有意な期間内に終了しうるとともに、
管理を終了しても安全が確保されることを示すこと。
4
なお、管理期間終了時点において、廃棄物埋設地に関する記録等を国又は国が指定する
機関に引き渡すこと。
Ⅶ. 管理期間終了以後に係る安全評価
管理期間終了以後に係る安全評価(以下、本章で用いる「安全評価」は「管理期間終了
以後に係る安全評価」をさす。)においては、処分方法に応じて、周辺住民あるいは特定の
接近者個人が受ける線量として、基本シナリオ、変動シナリオ、稀頻度事象シナリオ、人
為事象シナリオの 4 区分のシナリオを評価し、それぞれのシナリオに対する「めやす」を
満足することを示すこと。
(1)
評価シナリオ
①
自然過程によるシナリオ
自然過程によるシナリオは、人工バリアと天然バリアの機能に影響を与える可
能性のある事象及びこれらによる各バリアの状態の変化に関する要素を体系的に
収集・分析し、網羅的、包括的に選定すること。
1)
基本シナリオ
科学的に確からしいシナリオ想定に基づく評価によって、埋設した放射
性固体廃棄物に起因して発生すると想定される放射性物質の生活環境に及
ぼす影響が、無視できるほど軽微であることの科学的蓋然性を示すこと。
発生の可能性が高く、通常起きるものと考えざるをえないようなシナリ
オを設定し、確からしい状態設定のもとで確からしいパラメータを用いて
評価すること。
放射性物質が生活環境へ移行する経路に応じて、以下のシナリオに分類
すること。
ⅰ)
基本地下水シナリオ
ⅱ)
基本ガス移行シナリオ
ⅲ)
基本土地利用シナリオ
基本地下水シナリオ及び基本ガス移行シナリオは、管理期間終了以後の
時間の経過に応じた長期的な状態設定の考え方に基づき、期間を区分して
評価すること。
基本土地利用シナリオは、汚染域の利用可能性の観点から、隆起・侵食、
海水準変動に伴う地形変化を考慮して利用可能な土地ごとに区分して評価
すること。
2)
変動シナリオ
基本シナリオに対する変動要因を考慮した変動シナリオを想定しても、
埋設した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定される放射性物質の
5
生活環境に及ぼす影響は、限定的であることを示すこと。
基本シナリオを基に、確からしい事象の進展に基づく確からしいパラメ
ータの変動要因を分析すること。
安全評価上重要な変動要因を網羅的に組み入れた変動シナリオを設定し、
最新の科学技術的知見に基づき、適切な保守性を加味した上で、科学的に
合理的と考えられる範囲のパラメータを使用して評価すること。なお、パ
ラメータ間に相関関係がある場合には、これを勘案した上で保守性が確保
されるように設定すること。
また、長期の安全性が、バリアの一つの機能に過度に依存していないこ
とを、バリアの一部の機能を無視した変動シナリオを設定して評価するこ
とにより示すこと。
基本シナリオと同様に、放射性物質が生活環境へ移行する経路に応じて、
以下のシナリオに分類すること。
ⅰ)
変動地下水シナリオ
ⅱ)
変動ガス移行シナリオ
ⅲ)
変動土地利用シナリオ
基本シナリオと同様に、変動地下水シナリオ及び変動ガス移行シナリオ
は、管理期間終了以後の時間の経過に応じた長期的な状態設定の考え方に
基づき、期間を区分して評価すること。
基本シナリオと同様に、変動土地利用シナリオは、汚染域の利用可能性
の観点から、隆起・侵食、海水準変動に伴う地形変化を考慮して利用可能
な土地ごとに区分して評価すること。
3)
稀頻度事象シナリオ
変動シナリオにおいてもなお想定しがたいほどの稀頻度の事象を敢えて
想定しても、埋設した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定される
放射性物質の生活環境に及ぼす影響は、放射線防護上の特別の措置を必ず
しも必要とする状況に至らないことを示すこと。
長期にわたって火山・火成活動、地震・断層活動による廃棄物埋設地の
力学的な破壊、火山・火成活動による極端な熱的・化学的な劣化の可能性
を排除することが困難な地域においては、変動シナリオの想定を超える複
数バリアの機能の同時喪失又は低下を仮想的に考慮した長期的な時間枠で
の稀頻度事象シナリオを念のため評価すること。
②
人為事象シナリオ
人為事象の発生の可能性を減ずる対策を講じたとしても、なおその発生可能性
を否定しがたい人為事象シナリオについては、人の行為を様式化した上で、埋設
した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定される放射性物質の生活環境に
6
及ぼす影響が、周辺住民と特定の接近者個人のそれぞれに対して、放射線防護上
の特別の措置を必ずしも必要とする状況に至らないことを示すことにより、人為
事象シナリオを含む安全評価に対して十分な頑健性を有することを示すこと。
放射能濃度、処分の区画単位の放射能量、人工バリアによる放射性物質の移行
抑制に係る廃棄物埋設地の設計の妥当性、生活環境からの離隔の妥当性等を示す
ことを目的に以下のシナリオを評価すること。
(2)
ⅰ)
ボーリングシナリオ
ⅱ)
トンネル掘削シナリオ
ⅲ)
大開発土地利用シナリオ
評価期間
埋設した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定される放射性物質の生活環
境に及ぼす影響を、シナリオごとに周辺住民あるいは特定の接近者個人が受ける線
量として評価した値の最大値が出現するまでの期間を評価期間に含むこと。
(3)
状態設定
①
地質環境に係る長期変動事象の状態設定
地質環境に係る長期変動事象を、プレート運動に起因する事象、気候変動に起
因する事象及びプレート運動と気候変動の両者に起因する事象に大別し、それぞ
れに関して基本シナリオ及び変動シナリオにおける状態を適切に設定すること。
②
将来における生活環境の状態設定
廃棄物埋設地周辺の生活環境で最大の被ばくを受けると合理的に想定される個
人を評価対象とすること。
生活環境を構成する将来の人間の生活様式については、廃棄物埋設施設の敷地
周辺の現在の関連する情報のほか、我が国で現在認められる一般的な生活様式を
考慮して様式化すること。
将来の生活環境の状態変化をもたらす可能性のある自然事象については、シナ
リオに応じた変化を考慮すること。
③
廃棄物埋設地の状態設定
廃棄物埋設地の特性に着目して、管理期間終了以後の時間の経過に応じた長期
的な状態設定を行うこと。
廃棄物埋設地は周囲の地質環境の影響を受けることから、地質環境に係る長期
変動事象に対応して、廃棄物埋設地に生ずる物理的・化学的現象の評価を実施し、
状態設定を行うこと。
Ⅷ.品質保証
8-1
管理期間終了までの品質保証
7
設計及び建設・施工から管理期間終了に至るまでの各作業を的確に遂行するために必要
な品質保証活動及びそれを実施する体制の構築に関する方針が適切に示されていること。
8-2
モデル及びパラメータに係る品質保証
管理期間終了以後に係る安全評価に用いるモデル及びパラメータは、評価の目的に対し
て妥当であることが示されたものであること。
8-3
管理期間終了以後に係る安全評価の更新
管理期間終了まで繰り返し行う管理期間終了以後に係る安全評価の更新及びその評価に
反映する廃棄物埋設地に係る情報等を含む新しい科学技術的知見の収集について、その作
業方法によって、管理期間終了以後の安全性を低下させないように留意したうえで、計画
の策定・更新に関する方針を示すこと。
8
解
説
まえがきについて
第二種廃棄物埋設の事業として行われる埋設の方法のうち浅地中に埋設する最終的な処
分についての安全確保の考え方については、
「低レベル放射性固体廃棄物の陸地処分の安全
規制に関する基本的考え方について」(昭和 60 年 10 月 24 日原子力安全委員会決定)に示
されたところであるが、これは、原子力施設から発生する放射性固体廃棄物を浅地中に埋
設した後、放射能の低減により被ばく管理の観点からは埋設した場所の管理を必要としな
いものと認められるまでの間、公衆に与えるおそれのある放射線被ばくの程度等を勘案し
ながら所要の管理を行い、安全に処分しようというものである。
一方、管理期間のうちに十分な放射能の減衰が見込まれない長寿命の放射性物質を含む
放射性固体廃棄物の埋設における安全確保の考え方については、
「放射性廃棄物処分の安全
規制における共通的な重要事項について」
(平成 16 年 6 月 10 日原子力安全委員会了承)で、
長期の予測の不確かさを考慮した安全規制の基本的な考え方が示され、その考え方に基づ
き、「低レベル放射性廃棄物埋設に関する安全規制の基本的考え方(中間報告)」(平成 19
年 7 月 12 日原子力安全委員会了承)及び「余裕深度処分の管理期間終了以後における安全
評価に関する考え方」(平成 22 年 4 月 1 日原子力安全委員会了承)が整理された。
本基本的考え方は、これらを基に、第二種廃棄物埋設の事業の安全確保の考え方につい
て示すものである。第二種廃棄物埋設の事業は、段階的な管理を経た後、最終的には、管
理を必要としない段階へ移行することを予定しているので、有意な期間内に管理を必要と
しないような状況へ移行可能か否かについてあらかじめ審査を行い、このことについて見
通しを得ておく必要がある。
本基本的考え方については、その適用上留意する必要がある事項、あるいは判断する際
のめやすを明らかにしておく必要がある事項等があると考えられるので、以下にその解説
を掲げることとした。
Ⅰ.適用対象について
「原子力施設」とは、原子炉施設及び核燃料サイクル施設をいう。また、「原子力施設か
ら発生する放射性固体廃棄物」とは、原子力施設の運転及び保守管理、並びに原子力施設
の附属施設である廃棄施設における放射性廃棄物の処理等に伴って発生する放射性固体廃
棄物のうち第二種廃棄物埋設の事業に係るものをいい、原子力施設の解体に伴って発生す
るものも含む。
なお、ウラン系列核種が主な核種となるいわゆるウラン廃棄物については、自然起源の
放射性物質を主たる組成とする放射性廃棄物であり、長期にわたり放射能の減衰が期待で
9
きず、かつ、安全性の判断に当たり自然環境中の放射能との関連等も考慮する必要がある
と考えられることから、本基本的考え方の適用対象外とする。
Ⅱ.用語について
(3)
段階管理について
廃棄物埋設施設において講じられる管理は、通常の原子力施設において採られて
きたものと異なり、放射能の低減等に応じてその内容を段階的に変更していくこと
が考えられる。
各段階における管理の具体的な内容は、埋設処分する放射性固体廃棄物の形態、
放射性固体廃棄物中に含まれる放射性物質の種類及び放射能濃度、人工構築物の設
置の有無、埋設深度等に応じて異なり、それぞれ主に以下に示すようなものである。
①
余裕深度処分を行う場合
1)
埋め戻しまでの段階
人工バリアにより放射性物質が人工バリアの外へ漏出することを防止する
とともに、人工バリアから放射性物質が漏出していないことを監視する必要
がある段階をいう。
この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するととも
に、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
また、廃棄物埋設地に設けた人工バリアから放射性物質が漏出していない
ことを放射性物質の漏出等の監視によって確認するとともに、人工バリアが
設計どおりに建設・施工されていること等を確認する。
万一、漏出あるいは人工バリアに異常が認められた場合には、その補修等
所要の措置を講じる。
なお、埋め戻しまでの段階とは、坑道の埋め戻しが完了するまでの期間を
いう。
2)
埋め戻し後の段階
人工バリアと天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制する
とともに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある
段階をいう。
この段階では埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施するほか、当該
区域での計画外の掘削等の特定行為の禁止又は制約を行う。
また、廃棄物埋設地から漏出し、生活環境に移行する放射性物質の濃度等
を地下水の測定の実施等により監視する。
②
ピット処分を行う場合
1)
第 1 段階
10
人工バリアにより放射性物質が人工バリアの外へ漏出することを防止する
とともに、人工バリアから放射性物質が漏出していないことを監視する必要
がある段階をいう。
この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するととも
に、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
また、廃棄物埋設地に設けた人工バリアから放射性物質が漏出していない
ことを放射性物質の漏出等の監視によって確認するとともに、万一、漏出が
認められた場合には、その補修等所要の措置を講じる。
2)
第 2 段階
人工バリアと天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制する
とともに、放射性物質の人工バリアからの漏出及び生活環境への移行を監視
する必要がある段階をいう。
この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するととも
に、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
また、廃棄物埋設地から漏出し、生活環境に移行する放射性物質の濃度等
を地下水の測定の実施等により監視する。
3)
第 3 段階
主として天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとと
もに、特定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階
をいう。
この段階では埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施するほか、当該
区域での農耕作業等の特定行為の禁止又は制約を行う。
③
トレンチ処分を行う場合
1)
埋設段階
放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、放射性物質の廃棄物
埋設地から生活環境への移行を監視する必要がある段階をいう。
この段階では周辺監視区域を設け、当該区域への立入りを制限するととも
に、埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施する。
また、廃棄物埋設地から生活環境に移行する放射性物質の濃度等を地下水
の測定の実施等により監視する。
なお、埋設段階とは、埋設作業開始時から覆土が安定するまでの期間をい
う。
2)
保全段階
天然バリアにより放射性物質の生活環境への移行を抑制するとともに、特
定の行為の禁止又は制約をするための措置を講じる必要がある段階をいう。
この段階では埋設保全区域を設定し、巡視及び点検を実施するほか、当該
11
区域での農耕作業等の特定行為の禁止又は制約を行う。
したがって、管理期間内に係る廃棄物埋設施設の安全性の評価は以上に述べたよ
うな段階管理の内容に応じて、また、廃棄物埋設地の設備は時間の経過に伴ってそ
の機能が低下することを考慮して、実施する必要がある。
(4)
人工バリアについて
余裕深度処分及びピット処分を行う場合の人工バリアとは、以下のものをいう。
なお、人工バリアは、立地点及びその周辺の天然バリアの機能、並びに放射性固体
廃棄物中に含まれる放射性物質の種類及び放射能濃度等を勘案して、同等の安全を
確保することができる場合には、以下の構成以外による事業申請も可能である。ま
た、放射性固体廃棄物を容器に固型化する場合に使用する固型化材料及び容器を含
む。
①
余裕深度処分を行う場合においては、埋設された放射性固体廃棄物から生活環
境への放射性物質の漏出の防止及び低減を期待して廃棄体を埋設するために地下
に掘削される空洞(以下、
「処分空洞」という。)に設けるコンクリートピット(放
射性固体廃棄物を埋設するに当たり、その空隙の充填に用いるモルタル、土砂等
の充填材を含む。)、低拡散層、低透水層等の人工構築物をいう。
②
ピット処分を行う場合においては、埋設された放射性固体廃棄物から生活環境
への放射性物質の漏出の防止及び低減を期待して設けられるコンクリートピット、
放射性固体廃棄物を一体的に固型化して埋設するいわゆるモノリス等の人工構築
物をいう。
Ⅲ.基本的立地条件について
大きな事故の誘因を排除し、また、万一事故が発生した場合における影響の拡大を防止
する観点から、廃棄物埋設施設の敷地及びその周辺における以下のような事象を考慮して、
安全確保上支障がないことを確認する必要がある。
(1)
自然環境
①
地震、火山、津波、地すべり、陥没、台風、高潮、洪水、異常寒波、豪雪等の
自然現象
②
地盤、地耐力、断層等の地質及び地形等
③
風向、風速、降水量等の気象
④
河川、地下水等の水象及び水理
(2)
社会環境
①
近接工場等における火災、爆発等
②
河川水、地下水等の利用状況、農業、畜産業、漁業等食物に関する土地利用等
の状況及び人口分布等
12
③
石炭、鉱石等の天然資源
Ⅳ.基本的安全対策について
4-1
廃棄物埋設地の設計について
(1)
閉じ込めについて
本項でいう「一定の期間」とは、少なくとも、余裕深度処分を行う場合は埋め戻
しまでの段階、ピット処分を行う場合は第 1 段階までをいう。トレンチ処分を行う
場合は、閉じ込めは求めない。
(2)
移行抑制について
「移行抑制」とは、余裕深度処分を行う場合は埋め戻し後の段階以降、ピット処
分を行う場合は第 2 段階以降、及びトレンチ処分を行う場合は埋設段階以降におい
て、放射性物質の廃棄物埋設地から生活環境への移行を安全上支障のないレベル以
下になるように抑制することをいう。
現状の技術で合理的に達成できる範囲において、処分方法に応じて、下記のよう
な基本設計の方針をとるものとする。
①
現状の技術で確実に建設・施工が可能な範囲において、十分な性能を付与す
ること。
②
劣化・損傷に対する抵抗性を考慮すること。
③
劣化・損傷が生じた場合にも機能ができるだけ維持できる構成・仕様を採用
すること。
④
バリアの一つの機能に過度に依存しないこと。
また、地表と廃棄物埋設地を接続する坑道は、物理的・化学的に安定した材料に
よって、坑道内部の空間に有意な隙間がなく、管理期間終了以後に係る安全評価に
おいて想定していない放射性物質の移行経路を形成することがないように埋め戻さ
なければならない。
(3)
離隔について
「離隔」とは、廃棄物埋設地への偶発的な人間の侵入の可能性を低減するために、
一般的な地下利用に対して安全な深度に埋設することをいい、余裕深度処分を行う
場合において考慮しなければならない。
隆起や侵食等に伴い廃棄物埋設地が地表付近に接近することが想定される場合で
も、埋設した放射性固体廃棄物の放射能が安全上支障のないレベル以下に低減する
まで生活環境から離れた場所に廃棄物埋設地が位置するように、十分な離隔を確保
しなければならない。
(4)
その他の考慮事項について
「廃棄体の発熱、含有する化学成分等の影響」とは、廃棄体の発熱、含有する化
13
学成分等が人工バリア及び周辺の天然バリアの機能に与える影響をいい、その影響
を緩和する設計上の対策や人工バリアに影響を及ぼさない配置上の対策等を講じる
必要がある。
なお、非放射性の有害物質そのものの環境影響については、本基本的考え方で評
価を要求するものではないが、必要に応じ国あるいはその他関連する機関が定める
規定に準じて別途考慮されなければならない。
4-2
放射線の管理について
(1)
放射線防護について
放射性物質の飛散の可能性については、閉じ込めを要求しないトレンチ処分を行
う場合において、考慮しなければならない。
(4)
放射線監視について
余裕深度処分を行う場合においては、坑道及び処分空洞からの排気についても、
適切に監視するための対策を講ずる必要がある。
本項でいう「一定の期間」とは、余裕深度処分を行う場合は埋め戻しまでの段階
及び埋め戻し後の段階、ピット処分を行う場合は第 1 段階及び第 2 段階、並びにト
レンチ処分を行う場合は埋設段階をいう。
4-3
その他の管理期間内の安全対策について
(1)
地震に対する設計上の考慮について
本項でいう「適切な期間」とは、余裕深度処分を行う場合の廃棄物埋設地にあっ
ては埋め戻しまでの段階、ピット処分を行う場合の廃棄物埋設地にあっては第 1 段
階の期間とし、廃棄物埋設地の附属施設にあっては廃棄物埋設事業を適切に進める
上で必要とされる期間とする。
また、「安全上要求される機能を損わない」とは、廃棄物埋設地にあっては、閉じ
込め等が失われないものとする。
廃棄体の取り扱い中の落下事故あるいは一時貯蔵時の転倒事故等を想定しても、
放射性固体廃棄物が容器に固型化されており容易に飛散する恐れがない場合、含有
する放射性物質が飛散することがないように放射性固体廃棄物が封入されるよう廃
棄体が設計されている場合、あるいは取扱う放射性固体廃棄物の放射能濃度が公衆
の被ばくの観点から十分に低い場合には、耐震設計上の重要度分類のCクラスの施設
に対応するものとして定め、これに適合しない場合には、耐震設計上の重要度分類
のBクラスの施設に対応するものとする。
また、遮へいを有する設備については、地震等に伴う破損によって、公衆に過大
な放射線被ばくを与える可能性がない場合には、耐震設計上の重要度分類のCクラス
の施設に対応するものとして定め、これに適合しない場合には、耐震設計上の重要
14
度分類のBクラスの施設に対応するものとする。
(2)
地震以外の自然現象に対する設計上の考慮について
本項でいう「適切な期間」とは、余裕深度処分を行う場合の廃棄物埋設地にあっ
ては埋め戻しまでの段階、ピット処分を行う場合の廃棄物埋設地にあっては第 1 段
階の期間とし、廃棄物埋設地の附属施設にあっては廃棄物埋設事業を適切に進める
上で必要とされる期間とする。
また、「安全上要求される機能を損わない」とは、廃棄物埋設地にあっては、閉じ
込め等が失われないものとする。
(3)
湧水に対する考慮について
余裕深度処分を行う場合においては、廃棄物埋設地において廃棄体を定置し、充
填材を施工するまでの間、廃棄体と湧水との接触を防止すること、あるいは廃棄体
が水密性を有すること等の対策を講じるものとする。
Ⅴ.管理期間内に係る安全評価について
5-1
平常時評価について
平常時における廃棄物埋設地からの放射性物質の漏出又は移行、廃棄物埋設地の附属施
設からの放射性気体廃棄物及び放射性液体廃棄物の放出等に伴う公衆の受ける線量が、法
令に定める線量限度を超えないことはもとより、合理的に達成できる限り低いことを段階
管理の計画、設計、並びに敷地及びその周辺の状況との関連において評価する。
5-2
事故時評価について
(1)
廃棄物埋設地については、事業の長期性に鑑み、平常時評価において考慮した事
象を超えるような事象が仮に発生するとしても公衆に対し安全上支障がないことを
確認するため、廃棄物埋設地からの放射性物質の異常な漏出又は移行を科学技術的
見地から仮定して公衆の受ける線量を評価する。
(2) 廃棄物埋設地の附属施設については、以下のような事故の発生の可能性を検討し、
公衆の被ばくの観点から重要と思われる事故を選定して公衆の受ける線量を評価す
る。
①
誤操作による放射性固体廃棄物の落下等に伴う放射性物質の飛散
②
配管等の破損、各種機器の故障等による放射性物質の漏出
③
火災等
(3)
線量の評価に当たっては、事故発生後、その影響を緩和するための対策が講じら
れる場合は異常を検知するまでの時間、作業に要する時間等を適切に考慮し、事故
が収束するまでの間に漏出若しくは移行し、又は放出された放射性物質等により発
生するおそれのある公衆の受ける線量を評価する。
15
(4)
「公衆に対して、過度の放射線被ばくを及ぼさないこと」とは、事故等の発生頻
度の兼ね合いを考慮して判断しようとするものであり、判断基準は、
「公衆に対して
著しい放射線被ばくのリスクを与えないこと」とするが、その具体的な運用は以下
によるものとする。
ICRP の 1990 年勧告によれば、公衆の被ばくに対する年実効線量限度として、
1mSv を勧告しているが、特殊な状況においては、5 年間にわたる平均が年当たり
1mSv を超えなければ、単一年にこれよりも高い実効線量が許されることもありうる
とされている。これは平常時の放射線被ばくについての考え方であるが、これを発
生頻度が小さい「事故」の場合にも適用することとし、周辺公衆の実効線量の評価
値が発生事故当たり 5mSv を超えなければ「リスク」は小さいと判断する。
Ⅵ.管理期間の終了について
廃棄物埋設施設の安全性は、長期的には管理に依存したものであってはならないことか
ら、有意な期間内に管理が終了しうる必要がある。
余裕深度処分及びピット処分を行う場合は、少なくとも放射性固体廃棄物中に含まれる
放射性物質のうち放射能量の多いコバルト 60、セシウム 137 等の減衰に配慮し、
「有意な
期間」としては、300 年~400 年をめやすとして用いるものとする。
トレンチ処分を行う場合は、もともと放射能レベルの低い非固型化放射性固体廃棄物を
埋設対象としているため、「有意な期間」としては、埋設段階及びその後の 50 年程度の保
全段階をめやすとして用いるものとする。
「管理を終了しても安全が確保されることを示すこと」とは、Ⅶ.管理期間終了以後に係
る安全評価に記した「処分方法に応じて、周辺住民あるいは特定の接近者個人が受ける線
量として、基本シナリオ、変動シナリオ、稀頻度事象シナリオ、人為事象シナリオの 4 区
分のシナリオを評価し、それぞれのシナリオに対する「めやす」を満足することを示すこ
と。」をいう。
安全審査では、各シナリオの評価結果がそれぞれに対する「めやす」を満足することを
示すことをもって、管理を必要としない段階へ移行できることについて科学的根拠がある
と判断する。なお、実際の管理期間の終了は、人工バリアの機能に応じて、管理期間終了
までに得られた廃棄物埋設地に係る情報を含む新しい科学技術的知見を反映した評価結果
に基づき判断される。
また、国又は国が指定する機関が、公衆が廃棄物埋設地に係る情報を容易に入手できる
状況で記録を保存することによって、廃棄物埋設地の存在を認知できずに生じる偶発的な
人為事象の発生する可能性を低減することが期待できる。そのため、管理期間終了時点に
おいて、廃棄物埋設地に関する記録等を国又は国が指定する機関に引き渡すことができる
ようにしておく必要がある。
16
Ⅶ.管理期間終了以後に係る安全評価について
管理期間終了以後に係る安全評価(以下、本章で用いる「安全評価」は「管理期間終了
以後に係る安全評価」をさす。)の結果は、以下に示す「めやす」を満足する必要がある。
基本シナリオについては、その安全評価の結果が 10μSv/年以下になる可能性が十分
①
にあることに関する科学的蓋然性を示すこと。
変動シナリオについては、その安全評価の結果が 300μSv/年以下であることを示す
②
こと。
稀頻度事象シナリオについては、その安全評価の結果が 10mSv/年を超えないこと、
③
さらに保守的な条件設定を行った場合でも 100mSv/年以下となることを示すこと。
④
人為事象シナリオについては、人間の行為を様式化した上で、それに関連して生じ
る自然過程の事象についてできるだけ確からしい想定と不確かさを考慮した保守的
な想定を行って評価し、前者の想定に基づく周辺住民への影響については 1mSv/年
以下、後者の想定に基づく周辺住民への影響については 10mSv/年以下であることを
示すこと。同様に、前者の想定に基づく特定の接近者個人への影響については 10mSv
以下、後者の想定に基づく特定の接近者個人への影響については 100mSv 以下であ
ることを示すこと。
なお、ウラン系列の放射性物質であるラドンの影響については、自然起源の放射性物質
の規制の考え方を部分的に適用し、自然放射性物質のクリアランスのための国際基準濃度
よりも低くなる場合は、散逸するラドンによる被ばくを考慮する必要はない。
(1)
評価シナリオについて
シナリオとは、埋設した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定される放射
性物質の生活環境に及ぼす影響を評価する観点から、廃棄物埋設地の埋設直後の状
態を基に、長期間のうちにその状態を変化させる可能性のある一連の現象を想定し、
これらを組み合わせて廃棄物埋設地及びその周辺の長期挙動を描いたものをいう。
「リスク論的考え方」に基づく安全評価の考え方は、管理期間終了以後の安全評
価における長期の予測の不確かさや想定すべき事象の発生の蓋然性を考慮して、安
全評価のためのシナリオを区分し、それぞれに対応した「めやす」との比較を行う
というものである。この考え方は、ある事象の影響として生ずると考えられる線量
とその事象の発生確率の積であるリスクがほぼ等価になるように、シナリオを区分
するものであるが、管理期間終了以後に係る安全評価では事象の発生確率の定量的
予測が困難であるため、あらかじめ、シナリオをおおよその蓋然性と想定すべき条
件に基づいて、自然過程によるシナリオを基本シナリオ、変動シナリオ、稀頻度事
象シナリオの 3 区分に分類するとともに、人為事象シナリオと併せた 4 区分として
設定し、それぞれのシナリオに対して評価を行うものとする。
17
①
自然過程によるシナリオについて
1)
基本シナリオについて
基本シナリオは、発生の可能性が高く、通常起きるものと考えざるをえな
いようなシナリオであり、過去及び現在の状況から、廃棄物埋設地とその周
辺の地質環境及び被ばく経路の特性、並びにそれらにおいて将来起こること
が確からしいと予見される一連の変化を考慮し、廃棄物埋設地の基本設計及
びその方針について、その影響として生ずると考えられる線量が、可能な限
り低く抑えられるように配慮されているかどうかを評価するために用いるも
のである。
確からしいパラメータとは、十分な統計的データが存在し確率分布が特定で
きる場合には、例えばその確率分布の中央値等を意味し、それが困難な場合
には、その不確かさが評価結果に及ぼす影響を勘案し、実験値、実測値、及
び理論的な推測値等の信頼できる複数のデータを評価した上で、合理的で尤
もらしく、それぞれのシナリオに対して適切な範囲で保守側になるように設
定することを意味する。ただし、これらの不確かさの影響は変動シナリオで
詳細に評価されるので、基本シナリオにおいては過度に保守的に設定する必
要はない。
「基本地下水シナリオ」とは地下水を介する経路のシナリオ、「基本ガス移
行シナリオ」とは廃棄物埋設地で発生した放射性ガスが移行する経路、ある
いは非放射性のガスの発生に起因して放射性物質が移行する経路のシナリオ、
「基本土地利用シナリオ」とは廃棄物埋設地やその周辺の岩石あるいは地下
水の移行経路や生活環境への流出先の岩石・土壌に残存する放射性物質に直
接的・間接的に接触する経路のシナリオをいう。なお、ガスの発生量が極め
て少なく、例えば、地下水への溶解度限界を超えないことが明らかな場合に
は、基本ガス移行シナリオを設定する必要はなく、基本地下水シナリオとし
て地下水に溶解した放射性ガスの影響を評価する。
余裕深度処分を行う場合においては、基本地下水シナリオ及び基本ガス移行
シナリオの評価は、時間の経過に応じて、過渡的な期間、多重バリアの機能
に期待する期間、主に天然バリアの機能に期待する期間、廃棄物埋設地が地
表付近に近接することが想定される期間の 4 つの時間段階に分けて行うこと
を基本とする。
過渡的な期間とは埋設施設及び周辺の地質環境の状態変化が安定的な状態
に移行する期間、多重バリアの機能に期待する期間とは長期的に安定な地質
環境のもと埋設施設の状態変化が緩慢に変遷していく期間、主に天然バリア
の機能に期待する期間とは埋設施設の状態設定において排除・低減が難しい
内的・外的要因による影響が顕在化する期間、廃棄物埋設地が地表付近に近
18
接することが想定される期間とは隆起・侵食、海水準変動に伴い埋設施設が
地表付近に近接することが想定される期間である。基本地下水シナリオ及び
基本ガス移行シナリオにおいては、これらの期間の特徴を的確に考慮した状
態設定に基づいて評価する。
なお、ピット処分及びトレンチ処分を行う場合における安全評価の時間段階
は、余裕深度処分を行う場合を参考に設定するものとする。
基本土地利用シナリオの評価は、 現在の土地の利用、海水準変動に伴い利
用可能となった土地の利用、廃棄物埋設地の下流域に再堆積した土地の利用
及び廃棄物埋設地が地表付近に近接した際の土地の利用に区分して行うこと
を基本とする。ピット処分及びトレンチ処分を行う場合においては、地表付
近に処分するものであることを踏まえて基本土地利用シナリオを評価する。
なお、基本土地利用シナリオにおいて、土壌等に残存する放射性物質が有意
な影響を及ぼす可能性がない場合は評価しなくてもよい。
2)
変動シナリオについて
変動シナリオは、発生の可能性は低いが、安全評価上重要な変動要因を考慮
したシナリオであり、廃棄物埋設地及び被ばく経路、並びにそれらにおける
基本シナリオで選定した以外の様々な変化における変動の範囲を網羅的に考
慮したものである。
多くの変動要因が考えられる場合には、一つの基本シナリオに対して複数の
変動シナリオが想定される場合もある。例えば、気候変動等の状態設定から
複数の変動シナリオが想定される場合には、それぞれの状態設定における変
動シナリオを独立に評価する。
安全評価においては、地質環境等の特性の変化や廃棄物埋設地に関する劣化
事象の進展等、様々な不確かさと変動要因が想定される。したがって、変動
要因の抽出に際しては、安全評価に影響する重要な変動要因を網羅的に含む
ことが重要であり、それぞれの因子を分析した上で、被ばく評価の結果に及
ぼす影響を把握して変動シナリオに組み込む必要がある。このための方法と
しては、特質(feature)
、事象(event)、プロセス(process)の分析(以下、
「FEP の分析」という。)等を用いた状態設定の手順を適用することができる。
「科学的に合理的と考えられる範囲」とは、着目する特性に関する十分な統
計的データが存在する場合には、97.5%片側信頼区間の値を用いて設定するこ
とができる。十分な統計的データが整備されていない場合には、得られてい
る科学技術的知見を最大限活用し、適切な保守性を持たせて設定する必要が
ある。また、複数のパラメータが評価結果に重要な影響を及ぼす場合には、
全てのパラメータの不確かさを保守的に組み合わせるのではなく、これらの
パラメータを確からしい確率分布に基づき設定するといった方法も用いるこ
19
とができる。
「バリアの一部の機能を無視した」とは、安全評価の不確かさとの関連にお
いて無視する範囲を定めることであり、既に十分な信頼性が実証されている
ものや材料等の固有の特性で環境の変化等を勘案しても十分信頼できるよう
な材料特性までも無視する必要はない。
変動ガス移行シナリオにおいて、ガスの発生量が極めて少なく、例えば、地
下水への溶解度限界を超えないことが明らかな場合には、変動ガス移行シナ
リオを設定する必要はなく、変動地下水シナリオとして地下水に溶解した放
射性ガスの影響を評価する。
変動地下水シナリオ及び変動ガス移行シナリオの評価は、基本地下水シナリ
オ及び基本ガス移行シナリオの評価と同様に時間段階に分けて行うことを基
本とする。また、変動土地利用シナリオの評価における土地の利用区分は、
基本土地利用シナリオの評価の区分と基本的に同一のものとする。なお、変
動土地利用シナリオにおいて、土壌等に残存する放射性物質が有意な影響を
及ぼす可能性がない場合は評価しなくてもよい。
3)
稀頻度事象シナリオについて
稀頻度事象シナリオは、発生の可能性が著しく低い自然事象であり、想定さ
れる事象に対して、廃棄物埋設地の設計が放射線防護上の観点からその影響
を適切に緩和しうるものであるか否かを確認するために、すなわち、発生の
可能性が低いと考えられるシナリオを想定してもなお残る不確かさの存在を
勘案し、それを考慮しても、放射線防護上の特別な措置が必要となるもので
はないことを確認するために用いるシナリオである。
余裕深度処分を行う場合においては、長期的な時間枠での稀頻度事象シナリ
オとして、念のため以下のシナリオについて評価し、その影響の大きさを把
握する。
ⅰ)
地震・断層活動による力学的な破壊
ⅱ)
火山・火成活動による力学的な破壊
ⅲ)
火山・火成活動による熱的・化学的な劣化
火山・火成活動によるマグマの貫入あるいは噴出により廃棄物埋設地及び廃
棄体が直接破損等の力学的な破壊が生じる可能性とマグマにより熱せられた
高温の地下水の廃棄物埋設地への流入等による廃棄物埋設地の熱的・化学的
な劣化が生じる可能性とでは、相対的に力学的な破壊のほうがよりその発生
の可能性は低いと考えられることから、力学的な破壊に関する評価結果につ
いては、念のために考慮すべき稀頻度事象シナリオの中でも最大の影響を想
定した際に用いる「めやす」と比較するものとする。
なお、発生の可能性が著しく低く、かつ、そのプロセスによって生じる非放
20
射線学的な影響が、埋設した放射性固体廃棄物に起因して発生すると想定さ
れる放射性物質の生活環境に及ぼす影響を有意に上回るような、例えば、隕
石の落下等については、検討の対象に含まない。
②
人為事象シナリオについて
人為事象シナリオは、廃棄物埋設地の存在を認識できず、偶発的に発生する人
間活動により廃棄物埋設地及びその近傍の天然バリアに擾乱を与える行為を想定
したものであり、想定される事象に対して、廃棄物埋設地の設計が放射線防護上
の観点からその影響を適切に緩和しうるものであるか否かを確認するためのもの
である。すなわち、以下のような人為事象を低減化させる対策が講じられている
ことを前提とした上で、なお残る不確かさの存在を勘案し、それを考慮しても、
周辺住民と特定の接近者個人のそれぞれに対して放射線防護上の特別な措置が必
要となるものではないことを確認するために用いるシナリオである。
ⅰ)
国又は国が指定する機関による記録の保存等の管理
ⅱ)
鉱物資源がない等の立地上の考慮
ⅲ)
余裕深度処分を行う場合には、十分な埋設深度の確保や人工バリア等の
掘削に対する物理的抵抗性等の設計上の考慮
人為事象は、意図的な行為と偶発的な行為に分類されるが、廃棄物埋設地への
意図的な行為については、国際的にも安全評価の対象とはしていないことから、
廃棄物埋設地を認知しない偶発的な行為を評価の対象とする。
余裕深度処分を行う場合においては、ボーリングシナリオ、トンネル掘削シナ
リオ、及び大開発土地利用シナリオについて評価する。ボーリングシナリオとし
ては、廃棄体単位の放射能濃度の妥当性を確認するための直接掘削コア観察シナ
リオ、 処分空洞単位に埋設される放射能量の妥当性を確認するための仮想的な移
行経路短絡シナリオ、並びに処分空洞に埋設される放射能量及び人工バリアによ
る放射性物質の移行抑制に関する機能の有効性を確認するための仮想的な廃棄物
埋設地近傍掘削ボーリング孔地下水摂取シナリオについて評価する。また、トン
ネル掘削シナリオとしては、人工バリアによる放射性物質の移行抑制に関する機
能とその機能を有する期間の妥当性を確認するための廃棄物埋設地近傍トンネル
掘削シナリオ、人工バリアの物理的抵抗性とその機能を有する期間の妥当性を確
認するための廃棄物埋設地貫通トンネル掘削シナリオについて評価する。また、
大開発土地利用シナリオは、隆起・侵食、海水準変動に伴い廃棄物埋設地が地表
付近に近接することが想定される時点でもなお有意な量の放射能が廃棄物埋設地
の周辺に残存していないことを確認することを目的として評価する。
ピット処分を行う場合においては、ボーリングシナリオについて評価する。ボ
ーリングシナリオとしては、外周仕切設備又は低透水性等を有する内部仕切設備
で区切られた区画単位に埋設される放射能量の妥当性を確認するための仮想的な
21
移行経路短絡シナリオ、埋設される放射能量及び人工バリアによる放射性物質の
移行抑制に関する機能の有効性を確認するための仮想的な廃棄物埋設地近傍掘削
ボーリング孔地下水摂取シナリオについて評価する。
トンネル工事等を伴う大規模な地下空間の利用は、一般的にはボーリング調査
等を含む十分な事前調査が行われ、廃棄物埋設地の存在は認知されると考えられ
る。加えて、人工バリアが廃棄物埋設地で想定される掘削工法に対して十分な物
理的抵抗性を有し、掘削が技術的に困難と思われる間は、人工バリアは人間侵入
に対する防護が期待できると考えることができる。この物理的抵抗性は廃棄物埋
設地の岩盤と著しく異なる特性、例えば岩盤よりも強度的に勝る人工バリアの構
成部位によって担保され、その期間は金属腐食等による構成部位の劣化に依存す
る。また、この金属腐食等の劣化は廃棄物埋設地の地下水の化学環境に依存し、
人間侵入に対する防護機能を維持しうる期間は埋設深度に依存する。すなわち、
埋設深度が深い場合には、隆起・侵食、海水準変動を考慮しても、長期間にわた
り安定した地下水の流動場や化学的に安定した還元環境が維持されることが想定
され、人間侵入に対しても長期にわたり防護機能を有すると考えられる。したが
って、埋設深度を規定する代わりに、この物理的抵抗性を維持すべき期間が、埋
設する放射能の減衰と比較して、十分に長いと評価される場合には適切な埋設深
度を有しているものとする。このため、廃棄物埋設地で想定される掘削工法に対
して、人工バリアが物理的抵抗性を失い、人工バリアの認知性が喪失すると想定
される最も早い時期を想定して廃棄物埋設地貫通トンネル掘削シナリオについて
評価する。
また、廃棄物埋設地の上部の浅い地下空間は、管理期間の終了後の任意の時点
において利用に供されることが考えられる。廃棄物埋設地の上部空間にトンネル
が掘削された場合、そのトンネルに向かう地下水の流れが形成され、人工バリア
から放出される全ての放射性物質がトンネルへ集水され、一括して河川等に排水
されることが想定される。したがって、人工バリアはこのような観点からも、あ
る期間まで放射性物質の移行抑制に関する機能を有している必要がある。この期
間も地下水の化学環境等との関連で埋設深度に依存する。このため、人工バリア
による放射性物質の移行抑制に関する機能が喪失した時点で、掘削されたトンネ
ルとの離隔距離も失われると仮定して廃棄物埋設地近傍トンネル掘削シナリオに
ついて評価する。
(2)
評価期間について
管理期間終了以後の安全評価においては、最大線量が出現するまでの期間を評価
期間に含めるものとする。
基本シナリオが複数想定される場合には、それぞれの基本シナリオにおいて、最
大線量が出現するまでの期間を評価期間に含めることを基本とするが、評価結果が
22
「めやす」以下で推移することが明らかな場合には、必ずしも最大線量が出現する
までの期間を包絡する必要はない。なお、変動シナリオ、稀頻度事象シナリオ、人
為事象シナリオについては、それぞれの評価目的に応じて評価期間を設定するもの
とする。
(3)
①
状態設定について
地質環境に係る長期変動事象の状態設定について
基本シナリオにおける状態は、長期変動事象に関する過去の変動傾向とその要因
を踏まえ、できるだけ確からしいものを、変動シナリオにおける状態は、長期変動
事象に関する過去の変動傾向とその要因に関する不確かさを考慮したものを設定す
る。
プレート運動や気候変動は、それらの過去の変動傾向とその要因が今後も継続す
るとみなし、それらを外挿して設定することを基本とする。長期においては、設定
に伴う不確かさが増大すると考えられるが、そのような不確かさは、変動シナリオ
で考慮するものとする。ただし、将来にわたって現在のテクトニクスの変動傾向が
変化しつつあるという知見が得られている地域では、基本シナリオにおいても変動
傾向の変化を考慮して状態を設定する必要がある。
プレート運動に起因する事象として、火山・火成活動、地震・断層活動、隆起・
沈降運動、気候変動に起因する事象としては、海水準変動、気温・降水量変化、涵
養量変化、プレート運動と気候変動の両者に起因する事象としては、地形変化、地
下水流動、表流水流動を考慮する必要がある。なお、シナリオの状態設定において
これら以外にも考慮すべき事象がある場合には、それらも適切に設定するものとす
る。
②
将来における生活環境の状態設定について
生活環境の構成要素のうち、将来の人間の生活様式については、これを予測する
ことは本来的に困難であるため、管理期間終了以後に係る安全評価の目的が現世代
との相対的衡量にあることに着目し、現世代の人間の生活様式を前提に様式化する。
将来の生活環境の状態変化をもたらす可能性のある自然事象として、氷期-間氷
期サイクルによる気候変化、隆起・侵食、及び海水準変動による地形変化等が挙げ
られ、これらは生活様式自体、あるいは生活環境への放射性物質の流出地点やそこ
での水量を設定する上で重要な構成要素であり、これらについては、地質環境に係
る長期変動事象の設定に応じてその変化を適切に考慮することを基本とする。
被ばく経路は、その起因事象が自然事象である自然過程による被ばく経路と、起
因事象が人為事象である人為過程による被ばく経路の 2 種類に分けて設定する。
自然過程による被ばく経路の様式化は以下の考え方に基づき設定する。
ⅰ)
生活環境への放射性物質の移行経路ごとに被ばく経路を設定し、最大の被
ばくを受けると合理的に想定される個人を設定する。
23
ⅱ)
特定の個人は複数の移行経路から被ばくすることも想定されるが、最大の
被ばくを受けると合理的に想定される個人を設定する際には、それぞれの
移行経路において、年間を通して被ばくする可能性がある個人を代表とし
て設定する。
ⅲ) 生活環境の状態の時間的・空間的な変化を考慮して、移行経路を設定する。
ⅳ)
それぞれの移行経路ごとに、生活環境における重要な構成要素を特定する
ために FEP の分析等を行い、合理的な範囲での保守性を考慮した被ばく経
路を設定する。
ⅴ)
被ばく経路を設定する上で必要となる将来の人間の生活様式は、現在と環
境条件等が同じ、もしくは類似していると想定される場合は同一の状態を
想定してもよい。
ⅵ)
各被ばく経路の具体的な内容については、その被ばく経路に様々な人間の
生活様式が係る場合には保守性に配慮して、それらの重ね合わせを想定す
る。ただし、生活様式として同時に存在することの合理性がないものにつ
いては、こうした重ね合わせを考える必要はない。
人為過程による被ばく経路の様式化としては、埋設地の存在を認識できず偶発的
に生じた行為の結果、地下水あるいは掘削され地上に運搬された掘削土等を介して
周辺住民が被ばくする場合と、偶発的に地下にある放射性物質に汚染された物質に
接近した当事者である特定の接近者個人が被ばくする場合を想定する。
③
廃棄物埋設地の状態設定について
人工バリアの構成部位が有する低透水性、低拡散性、収着性、低溶出性、その他
の特性に着目して状態を設定する。その他の特性には人為事象として想定される掘
削時の物理的抵抗性や掘削時の廃棄物埋設地の認知性が含まれる。
廃棄物埋設地の長期的な状態変化を設定するに当たって考慮すべき物理的・化学
的現象は、FEP の分析、熱-水理-力学-化学にわたる複合的プロセスの評価・解
析等により、できるだけ網羅的、かつ、体系的に抽出・整理が行われ、廃棄体や人
工バリア、天然バリア等との相互の関連性を適切に評価する。
廃棄物埋設地の状態設定は、坑道の埋め戻しの前後、もしくは覆土前後の大きく 2
つの段階に分けるとともに、埋め戻し後及び覆土後の段階については、評価の不確
かさの程度や廃棄物埋設地の様態により、必要に応じてさらに適切な時間段階に分
けて行うことを基本とする。
建設・施工及び操業期間に廃棄物埋設施設で行われる行為及び同期間において受
ける地震等の自然事象の作用などが、廃棄物埋設地の長期的な状態に与える影響を
考慮しなければならない。これらの影響は、設計上の配慮により排除もしくは抑制
されていることが望ましい。
また、廃棄物埋設地の状態設定に当たっては、地震動が施設の物理的状態に与え
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る影響を考慮する必要がある。地震動の影響は、廃棄体及びそれを包含する人工バ
リア、並びに周辺の岩盤または地盤の相互作用を考慮した応答解析を実施し、その
結果に基づき検討を行うものとする。その際、地震以外の現象による廃棄物埋設地
の状態変化の影響が考慮されなければならない。なお、解析に用いる地震動及び発
生時期等については、人工バリアの移行抑制及び掘削に対する物理的抵抗性を期待
する期間等を踏まえ設定するものとする。
放射化金属等の放射性固体廃棄物にあって、廃棄体からの放射性物質の溶出率を
設定する場合には、廃棄物埋設地内部の環境とその変遷を勘案して設定するものと
する。
廃棄体に含まれる化学成分等が、人工バリアの機能に影響を与えると考えられる
場合には、その影響を勘案して廃棄物埋設地の状態を設定するものとする。
Ⅷ.品質保証について
8-1
管理期間終了までの品質保証について
品質保証活動及びそれを実施する体制により、廃棄物埋設施設が設計どおりに建
設・施工されていること等を確認し、それらを記録した文書を作成するものとする。
また、建設・施工等の各段階を通じて各種モニタリングを行い、管理期間終了以後
の地質環境及び廃棄物埋設施設の状態設定と、これに基づく管理期間終了以後に係
る安全評価の前提条件や入力情報の妥当性を確認することができるよう文書として
記録するものとする。
8-2
モデル及びパラメータに係る品質保証について
管理期間終了以後に係る安全評価において各シナリオの評価を行うために用いら
れるモデル及びパラメータは、地質環境及び廃棄物埋設地の状態設定に関する最新
の科学技術的知見等に基づいて設定され、その信頼性及び科学的合理性が適切に示
されなければならない。
以下の情報に基づき、評価の目的に対してモデル及びパラメータが妥当なもので
あることを確認するとともに、その内容を文書として記録しておくことが必要であ
る。
①
地質環境調査の結果や埋設施設の設計
②
状態設定に基づくモデル上の単純化、仮定、制限等を含むモデルの妥当性に
関する説明
③
モデルの検証及び妥当性確認の履歴を含む開発プロセスの説明
④
モデルの入力パラメータに対する感度
⑤
入力されるパラメータの設定値の妥当性に関する科学技術的根拠
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8-3
管理期間終了以後に係る安全評価の更新について
人工バリアの機能に応じて、管理期間終了までは、新しい科学技術的知見を反映
した管理期間終了以後に係る安全評価を更新することで、評価結果に基づく判断
(「めやす」を満足するか否か)の変更不要性、すなわち判断の根拠に係る不変性を
確認する必要がある。これは、個々の項目の数値的な厳密性というより、判断の根
拠に係る「めやす」を満足していることをいう。
安全審査の段階においては、管理期間終了まで繰り返し行う管理期間終了以後に
係る安全評価に反映する新しい科学技術的知見の収集について、計画の策定・更新
に関する方針が示される必要がある。
なお、具体的な計画を策定する際には、管理期間終了以後に係る安全評価の更新
に反映する新しい科学技術的知見に、以下を含めるものとする。
①
廃棄体に関するデータ
②
管理期間終了までに蓄積される人工バリア、天然バリアの状態に関するデー
タ
③
各種モニタリングにより得られる地下水の流動や水質等を含む地質環境及び
廃棄物埋設地の状態に関するデータ
④
実際の埋設施設と同等の条件を模擬した類似環境下での原位置試験あるいは
それを補完する室内試験等の間接的な方法により取得された廃棄物埋設地の
状態設定に関するデータ
計画に基づき収集された新しい科学技術的知見は文書として保管し、管理期間終
了以後に係る安全評価の更新における前提条件及び入力情報の妥当性の確認等に用
いるものとする。
地下水の流動や水質等を含む地質環境及び廃棄物埋設地の状態に関する各種モニ
タリングに当たっては、更新した管理期間終了以後に係る安全評価の結果等を参考
に測定項目を選定し、これに基づいて計画を見直す必要がある。モニタリングには、
測定期間及び使用環境に適応した性能を有する設備・機器を用いるものとする。
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