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STF2013 seminar text 2
2013.9.26 スマートテクノロジーフォーラム2013 @電気通信大学 センサーネット最前線: 福島復興のための農地モニタリングシステム (土壌センサーを用いたフィールドモニタリング) 溝口勝 東京大学大学院農学生命科学研究科教授 ふくしま再生の会理事 東京大学「福島復興農業工学会議」 土壌物理学会長 1 はじめに • 篤農家は複雑な土壌の状態を経験的に診断し、作物 にとって最適な環境を作る技術を持っている。 • 農業の素人はこうした技術を一朝一夕に習得できるも のではない。 • しかしながら、適当な土壌センサーがあれば素人で あっても経験に裏打ちされた篤農家の技術に近づくこ とができるかも知れない。 • そうした期待感が最近のICT農業ブームの背景にある。 • 本発表では、土壌センサーの種類や特徴、それらを 実際の圃場で利用するためのモニタリングシステムに ついて概説する。 土壌センサー • 土壌水分や温度などの土壌情報を電気信号 に変換する装置 • 通常、電気信号を記録するためのデータロ ガーと一緒に利用される。 • 土壌水分センサーは農業分野におけるキ ラーセンサーである。 Soil sensor http://www.decagon.com/ • Soil moisture sensors measure – volumetric water content accurately and economically – the dielectric permittivity of the soil • Benefits include: – TDR-level performance at a fraction of the cost – Very low power requirement – Easy installation at any depth and orientation 体積含水率センサー • 土壌水分は通常、体積含水率で表示される。 – 土の体積当たりの水の体積パーセント • 最近の土壌水分センサー – 土粒子と水の誘電率の違いを利用したTDR法やADR法の原 理に基づく – 土壌にセンサーを挿入するだけで簡単に数値が得られる • この数値の解釈には注意が必要 – – – – 土壌を構成する土粒子の種類(砂や有機物の含有量) 土の詰まり方(乾燥密度) 微生物によって有機物量が分解 肥料によって土壌溶液中のイオンの種類や濃度が変化 • 農業の現場ではあくまでも一つの指標と考えるべき Broken soil sensor in field タイのホウレンソウ畑での使用例 マトリックポテンシャル(MP)センサー • 植物にとって重要なのは土壌中の絶対的な水分 量ではなく、土壌中の水分を利用できるかどうか • 土壌は砂を多く含むか、粘土を多く含むかで、 “水もち“が異なる。 – たとえば、砂質土壌では降雨や灌漑水がすぐに浸 み込みすぐに抜ける – 粘土質土壌では浸み込みが遅く排水が遅い。 • 植物の根はこうした土壌から水分を吸収する – 吸水のしやすさは体積含水率では表せない。 • 植物に対する土壌水の利用のしやすさ – マトリックポテンシャルという指標(kPa)で表す – 吸引圧、水分張力、テンションと呼ばれることもある – イメージとしては注射器で土壌中から水分を吸い取 るのに必要な吸引圧 マトリックポテンシャル(MP)センサー • 一般的に使われるMPセンサー – セラミック管に水を入れたテンションメータ – 封入された水の圧力をセンサーで測定することでMPを表 示 • テンションメータ – 作物が必要とする、体積含水率では表示しきれない微妙 な土壌水分の状態を検出できる(利点) – 土壌水分とセラミック管内の水の平衡状態を前提としてい るので、急激な土壌水分の変化には追従できないこと、土 壌が乾燥しすぎるとセラミック管内に空気が侵入し、セン サー機能が低下する(欠点) • この欠点を補うものとして最近はさまざまな間隙をもつ 既知のセラミックの体積含水率を誘電率法で求めMP に換算するセンサーも開発されている。 フィールドモニタリング • 圃場の土壌環境計測では土壌センサーとデータ ロガーを組み合わせたシステムが使われる。 • 遠隔地にこのシステムを設置した場合、この稼 働状況を確認できると便利である。 • これは、現地に設置したデータロガーやWebカメ ラを一時的にインターネットに接続するだけで実 現できる。 • 著者はこれをフィールドモニタリングシステム (FMS; Field Monitoring System)と名付け、それ に必要な要素技術を開発してきた Setup images of FMS Ina, Nagano Prefecture in Japan Field Monitoring System (FMS) フィールドルータ(FR) • FRは現地データをインターネット経由でサーバに転送する 機器である。 • FRはリアルタイム性を多少犠牲にして日単位でデータにア クセスするのが特徴である。 • FRはタイマーにより1日に30分だけ電源がONになる • 6 W程度の太陽パネルで稼動する。 • 電源がONになると、Webカメラの現地画像と各データロ ガーのデータがインターネット経由でサーバに送信される。 • 日本国内ならほとんどの地域でFRを利用できる。 • 海外であれば、対象とする地域でGSM/3Gの携帯電話が 使えることを確認した上でその国内のSIMカードをUSBモデ ムに挿入するだけでFRを利用できる。 FieldRouter(FR) ネットワークアダプタBluetooth (NABT) • NABTは、シリアル通信ポートを持つデータロ ガーにBluetooth通信機能を付加する機器 • 2 W程度の太陽パネルで稼動 • シリアル接続可能な全てのデータロガーや Webカメラに対応 • 最近普及しているAndroid携帯アプリから データを取得することも可能 • フィールドでは中継器(repeater)を用いること で数百mまで接続距離を延長可能 Soil sensor Data logger Radiation sensor FieldRouter (FR) Meteoro-sensor Water level sensor Repeater NetworkAdapter Web camera Smart phone Site2 NABTx2 Webcam x1 200m repeator Site1 NABT x 8 Webcam x3 FR データサーバ(DS) • FRで転送された現場データはデータサーバ (DS)に保存される • ユーザはWebのポータルサイトからDSにアク セスするだけで、遠隔地のデータにアクセス でき、FRやデータロガーの電池の消耗具合な どを確認できる http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/ View of individual site • Weather and soil data can be downloaded in CSV format – The data can be processed freely using EXCEL Calendar view function Site 1-3 Site2 Site 1-2 Site 1-1 Paddy field in Iitate, Fukushima Japan (2013.3.4) 福島県飯舘村のモニタリング 研究者としての立場 東京大学 大学院農学生命科学研究科 福島復興農業工学会議 サークル 溝口 までい 福島復興農業工学会議 国立大学法人 ボランティア組織 社会 平日:大学人、週末:「ふくしま再生の会」 「ふくしま再生の会」のミーティング 東京大学「福島復興農業工学会議」(2011.9.4) 土壌学の基礎 • 土は何でできているのか? – 土粒子、水、空気 • 土粒子の分類 – 大きさで分類される – 砂、シルト、粘土 • 粘土の性質 – 水に沈みにくい – 水を含むとドロドロ – 乾くとカチカチ ペットボトルの土粒子沈降実験 25 Hydrophobic sites 放射性セシウムは粘土表面の穴に (grey) 落ちている! Hydrophilic Sites (red) 「粘土表面の放射性セシウムの吸着 特性とその挙動」の資料より抜粋 by Prof. C.T Johnston @Purdue Univ. 26 放射性セシウムはカリウムと交換して 粘土に固定される 卵パック=粘土粒子 白卵=カリウム 赤卵=セシウム 27 放射性セシウムを理解するポイント • 粘土粒子と一体化して考える • 粘土の移動に注意する Cs 粘土 • 粘土の除去を考える 28 飯舘村役場横の斜面の放射線量測定 (2011.6.25;溝口・登尾) 2.5 μSv/h 3.5 μSv/h 7.0 μSv/h 29 道路わきの値が高い(2011.6.25;溝口・登尾) 30 放射性セシウムの濃度(2011.5.24) 実線:不耕起水田,破線:耕起水田 塩沢ら:福島県の水田土壌における放射性セシウムの深度別濃度と移流速度, RADIOISOTOPES誌,8月号,2011 より引用 31 農地の除染法 農地除染対策の技術書概要 【調査・設計編、施工編】 表土削り取り 水による土壌撹拌・除去 平成24年8月 反転耕 32 行先はどこ? 汚染土の入ったフレコンバック ①表土削り取り後の汚染土 飯舘村草野地区(2012年6月24日) 飯舘村菅谷地区(2013年8月17日) 33 中山間地の水田除染をどうするのか? サルの害 雑草の処理 (2013年8月3日) イノシシの害 (2012年4月14日) 34 板状で剥ぎ取られた凍土(2012 年 1 月 8 日) 動画 地表面からの放射線量(コリメータ付)が1.28μSv/hから0.16μSv/hに低下 河北新報 (2012.1.17) 東京新聞 (2012.1.19) 削 除 都市と地方の 認識のずれ 田車による除染実験(2012年4月) 37 田車代かき掃出し法の効果 ふくしま再生の会 http://www.fukushima-saisei.jp/ 38 2012.6.24 排水溝の泥水は地下浸透によ り自然に減容化される 2012.4.29 田車除染法で掃き出した泥水 を排水溝に貯める 2012.8.26 泥水が排水溝表面に捕捉された ことを示す粘土特有の亀裂 2012.8.26 排水溝の土壌採集。これを1cmご とに袋に詰め、放射性セシウム濃度を測定。 39 土壌中の放射性セシウム濃度 2012.7.29 (B) From wall Cs-137 15 cm Ditch Ditch 20 cm (B) 25 cm (A) Sampling direction Soil Cs-134 Cs-134 cm Cs-137 (A) From bottom 汚染土は素掘りの穴に埋めれば良い Bq/kg(dry soil) Distance from the bottom, cm 40 土の濾過機能 泥水は砂の層を通るだけで透明になって出てくる。放射性セシウムのほとんどは粘土粒子に 強く吸着(固定)されているので、セシウムだけが水中に溶け出ることはない。 農地の下の土はこの実験の砂の層よりも厚い上に、砂よりも細かい粒子で構成されているこ とが多いので、放射性セシウムを固定した粘土はそれらの粒子の間に次々に捕捉される。 41 までい工法 • 農水省が推奨する除染工法 – ①表土剥ぎ取り、②代かき、③反転耕 • までい工法 – 農地に穴を掘り、剥ぎ取った汚染表土を埋設 – 表土剥ぎ取りと反転耕の組み合わせ工法 – 反転耕より丁寧に上下の土を入れ替える 「までい(真手い)」=飯舘村の方言で「手間ひまを惜しまず」、 「丁寧に」、「時間をかけて」、「心を込めて」という意味 42 までい工法(実践) 汚染土の埋設 よいとまけ(土の締固め) 2012.12.1 43 埋設図 草の根も含む汚染土は50-80cmの深さに収まった 表土の放射性セシウム濃度=7000Bq/kg 監視用センサの埋設 • 監視(観測)項目 – 土壌(センサ) – 地下水位(観測井) – 現地気象 – 現地画像 • 遠隔モニタリング – データをサーバに毎日転送 – インターネット上に公開 45 土壌中の放射線量モニタリング • 土壌放射線計 – GM管(GMT) – 防水型 – 1日2回60分間のカウント – データロガーに記録 46 Cs土埋設水田の田植え(佐須, 2013.6.8) 47 土壌放射線と地下水位の変化 Soil radiation dose (cpm) 1 C Ground level Water depth A (cm) B 4 2 3:故障 水田湛水に伴う観測井戸水位(cm)と土壌放射線量(cpm)の変化 48 長期?モニタリング Cs汚染土中 水の侵入によりGM管が故障 60cm下 49 泥水強制排水法 (小宮, 2013.5.18) 定点カメラ画像(2013.7.6) (動画) 土壌採集 正面(その1)、正面(その2) 側面 50 The FMS with a radiation sensor Pocket-radiation sensor (non-profit project “radiation-watch.org”, 2011) Calibration in Iitate Village (Mizoguchi,2011.7.9) 1,850 Yen http://www.radiation-watch.org/ 飯舘村内の環境モニタリング 庭先 1.2 m 空間線量 気温 相対湿度 降水量 日射量 風向風速 土壌水分量・地温・電気伝導度 森林内 森林伐採地 飯舘村モニタリングポータルサイト 村内の放射線量モニタリング Forest area Deforest area 1/19 1/22 Garden of a house Field monitoring reveals: 1. Snow cover decreases radioactive dose of village 2. Radioactive dose is high on a fine and low humid day 協働による再生への道 本来持っている自立再生への力 地元環境についての経験・知識・技術 伝統、文化、知恵 村民間の協働 村民 基盤となる公共サービス 大規模なプロジェクト ビジョンとリーダーシップ 協働 行政 (国・県) メディア 産業界 行政内の (組織を超えた) 協働 専門知識 技術 人脈 大学・研究機関 専門家 NGO NPO ボランティア 所属を超えた 協働 土壌科学 柔軟な対応・きめ細かいケア 多様な層の参加による活力 専門知識・技術、職業経験、人脈、広い視野 菅野宗夫さん(飯舘村農業委員会会長)のスライド 56 飯舘村ーNPO法人ー大学の連携(継続中) 農業委員会 福島復興農業工学会議 農学生命科学研究科 (農学部) RI施設 サークル までい こうした関係を学会・学術レベルでどう築くか? 57 群盲評象 学術だけで個々の知見を繋いで象を動かせるのか? http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/e/e1/Blind.JPG 58 謝辞 • • • • • • 飯舘村農業委員会/ふくしま再生の会 東京大学「福島復興農業工学会議」 明治大学震災復興支援・防災研究プロジェクト 東京大学 救援・復興支援室 東京大学大学院農学生命科学研究科 サークル「までい」 – 東大農学部教職員サークル 59 参考資料 • 「福島復興農業工学会議(土壌除染の農業工学的研究)」活動報告 – http://utf.u-tokyo.ac.jp/2013/07/post-43c5.html • 地域社会と専門家の連携-大学にできること-(2013.8.10) – http://www.iai.ga.a.utokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/fsoil/130810mizo.html • ICRPダイアログセミナー「飯舘―問題の認識と対応―」(2013.7.6-7)「ふくし ま再生の会」の発表資料 – http://www.iai.ga.a.utokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/saisei/icrp130707/icrp130707.html • ふくしま再生の会 – http://www.fukushima-saisei.jp/ • 福島土壌除染技術 – http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/fsoil/ • 飯舘村モニタリング – http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/monitoringsite.html • 飯舘村現場写真集 – http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/edrp/fukushima/photoindex.html • 震災復興関連セミナー情報 – http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/mizo/seminar/seminarlist.html 60