...

資料4-2 検討課題補足資料(PDF形式:2557KB)

by user

on
Category: Documents
23

views

Report

Comments

Transcript

資料4-2 検討課題補足資料(PDF形式:2557KB)
資料4-2
1.微生物遺伝資源の情報付加への対応
【論点】
これまでに整備された微生物遺伝資源の利用を促進するため、分類情報、安全情報、遺伝子情報等を充実・強化することが重要で
ある。今後は「質の充実」の観点を踏まえた微生物遺伝資源に対する情報付加が望まれている。
以上の状況を踏まえ、
① 情報付加としては、遺伝子情報を解析するゲノム解析、タンパク質を解析するプロテオーム解析、代謝産物を網羅的に解析するメ
タボローム解析等が想定される。ゲノム情報は生物の地図であり普遍性があることから、知的基盤として整備すべき情報としてもっ
とも優先すべきではないか。
② 情報付加にあたっては、これまでのNBRC株の主な用途である「品質管理」、「比較・参照」、「研究・開発」の3つの用途について、そ
れぞれの利用者の実態を踏まえつつ整備を行うべきではないか。
・品質管理用途(JIS、薬局方等の公定法で定められた試験、社内での品質管理等に利用)
・比較・参照用途(分離株を同定・比較するための分類学的な基準、機能面の比較・参照用として利用)
・研究・開発用途(遺伝子・タンパク質・二次代謝産物の取得、新規発酵食品・健康食品の開発等に利用)
③ 国内外の微生物遺伝資源機関においては、分類学的な基準となる微生物を対象としてゲノム情報を整備するプロジェクトが進め
られている。「比較・参照用途」の利用者ニーズに対応するため、分類学的基準株等にゲノム情報を付加することは、整備された微
生物遺伝資源の利用促進の観点から適当かどうか。
④ 知的基盤として整備したゲノム情報について、国内での利用を促進し日本の産業競争力を高めるためにはどのような利用促進方
策が望ましいか。
例えば 「研究・開発用途」については、幅広い微生物に対する利用者ニーズがあることから、整備された微生物遺伝資源を機能
の面から検索できるよう、以下のような機能遺伝子情報を検索対象とすることが適当ではないか。
・二次代謝産物の生合成遺伝子クラスター(抗生物質、色素等)
・利用の可能性の高い産業酵素遺伝子(醸造や食品加工用酵素等)
・物質生産に係る遺伝子(石油成分、バイオプラスチック用ポリ乳酸、不飽和脂肪酸、アミノ酸等)
・物質変換に係る遺伝子(不斉反応酵素、水酸化酵素等)
・合成生物工学研究開発に必要な遺伝子(代謝マップ、発現制御・促進等)
1
1-1.知的基盤として重視すべき情報付加について
• ゲノム情報は生物の地図であり普遍性があり、基礎的な情報。どこにどのような資源
(遺伝子)があるのかを示している。地図がなければ多くの資源は発見されず、その活
用及び研究開発が進みにくい。
・トランスクリプトーム(遺伝子発現)、プロテオーム(タンパク質発現)、
メタボローム(代謝産物)などのゲノム以外のオミックス情報は、発現
条件により異なる動的な情報である。
・生物は様々な環境変化(栄養条件、温度、外敵等)に対応するため
環境条件によって発現する(働く)遺伝子が変化する。トランスクリプ
トームやプロテオームはこの変化をとらえるための情報であり、利用
の前提としてゲノム情報が必要。
生体の科学 59(1) 20-32, 2008
公的機関として情報付加を行うべき情報は?
◆ゲノム情報は最も基礎的情報(情報がない株は使わ
れにくいのではないか。)
◆トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボロームは、
発現条件により変化する。発現条件は研究目的によっ
て異なるため、基礎的情報とはなりにくい。
◆発現情報や生理活性情報を整備しても、ユーザーが
独自に解析するものと重複するのではないか。
ゲノム情報整備に関するユーザーの声
 国としては参照となるような正しいゲノ
ム情報を提供して欲しい。現在のゲノム情
報は種類に偏りがあり広範囲な生物種でゲ
ノム情報が整備されると良い。
 微生物の病原性評価や機能向上にゲノ
ム情報を活用すべき。
2
1-2.NBRC株の利用目的の割合(10年の実績)
・国内での利用目的※1は、最も多いのが③研究・開発用途(50%)が最も多い。
次いで、①品質管理用途(37%)、②比較・参照用途(10%)であった。
(単位:本)
分譲本数
構成比%
①品質管理
②比較
③研究
④その他
用途
・参照用途 ・開発用途
25,640
6,906
34,704
1,743
37.2
10.0
50.3
2.5
計
68,993
100.0
④その他 2.5%
③研究
・開発用途
50.3%
①品質管理
用途
37.0%
②比較
・参照用途
10.0%
※1 NBRCへの分譲依頼における利用目的の記入は、株ごととなっていないため、本来の目
的に合致していない分類が少数含まれる。
◆①品質管理用途(37.0%)
殺菌剤、抗菌剤、抗カビ剤、殺菌装置、
殺菌方法等の効果の判定、日本薬局方
(局方)、日本工業規格(JIS)等で定
められた試験(公定法)、社内での品
質管理等。
◆②比較・参照用途(10.0%)
NBRC株を標準品として、分離株と
の比較や同定に用いる。
◆③研究・開発用途(50.3%)
スクリーニング材料として用いる場合、
遺伝子の取得、タンパク質、二次代謝
産物の取得、薬剤の開発、新規発酵食
品、健康食品の開発など。
◆④その他(2.5%)
大学・高校等の授業の教材、展示用な
ど。
3
1-3.海外等のBRCにおけるゲノム情報付加への取組み
・海外の微生物遺伝資源機関(BRC)においても比較・参照用途(主に分類学的
基準株)に対するゲノム情報の付加は積極的に取り組まれている。
【 ドイツDSMZ 】 (DSMZ:「ドイツ微生物細胞培養コレクション」)
欧州を代表するBRC
米国のゲノム解析機関であるJGIと共同で、バクテリアおよびアーキアの分類学的基準株
を網羅的にゲノム解析するプロジェクトGEBA (Genomic Encyclopedia of Bacteria and
Archaea) を実施中。第1期では約200株を解析。昨年から開始された第2期ではさらに約
1,200株を解析の予定。
世界最大の真菌保存施設
【オランダCBSほか】(CBS:「オランダ微生物株保存センター」)(NRRL:「米国ARC微生物コレクション」)
CBSやNRRLなどが参加する研究チームは、米国のJGIと共同で、真菌の各科を代表する
株のゲノム解析を実施中。最終的には1,000株の解析を目指している。
【理研JCMおよび岐阜大GTC】
文科省のバイオリソースプロジェクトの一環として、保有微生物各300株程度のドラフトゲノ
ム解析を実施予定(シーケンスは東大および遺伝研が担当)。加えて、理研JCMは他機関
でゲノム解析された同等株約350株のデータをweb上で公開。
【NITE】
超好熱菌、麹菌、酵母、放線菌などの産業有用株及び分類学的基準株を中心に36株のゲ
ノム情報を公開。
4
1-4.分類学的基準株等のゲノム情報の活用
・分類学的基準株や標準的に利用されている株にゲノム情報を整備することにより、
分類、リスク評価及び有用機能のもの差し・参照として活用が可能。
分類への活用
・ 利用者が分離した微生物が
どのような分類であるのかを比
較・参照するために利用。
・ゲノム解析によって、より多く
の遺伝子を指標とした精密な
同定が可能。
リスク評価への活用
・微生物の安全性は、どの種
に該当するのかを基準に判断
されている。このため、分類学
的基準株との比較が重要。
・病原菌などの有害菌と、そ
の近縁にある微生物を病原遺
伝子などの有無を比較・参照
することによって区別し、リス
ク評価として利用。
有用機能への活用
・有用な物質を生産すること
がわかっていても、そのメカニ
ズムが不明であることが多い。
分類学的基準株のゲノム情
報を活用することで働いてい
る遺伝子が特定され、微生物
による物質生産における生産
性の向上などに利用。
・例)DOGANで公開しているゲノム情報
を活用し、生産性向上に必要な遺伝子
情報や生産向上のしくみを解明し、調味
料製造に最適な麹菌を得ることができ
た。【公開番号】特開2010-75131
(P2010-75131A)
:分類学的基準株や標準的に
利用されている株
:同じ属種に属する株
5
1-5.「研究・開発用途」に対するユーザーニーズ
・ゲノム情報を研究活動の第一歩として利用しようとする研究者が増えている一方、ゲノム情
報の膨大なデータ量の前に圧倒され、何をして良いのかわからないという声も多い。
・生合成や物質変換など物質生産に関わる遺伝子情報へのニーズがある他、近年、話題の合
成生物学への関心も高いことが見受けられた。
1.ヒアリングによるユーザーニーズ結果
整備された微生物から必要なものが見つけられない。
多くの微生物が整備されているが、一方でたくさんありすぎ
て何を基準に選んで良いかわからない。
どんなデータがどこにあるのかわかりづらい、微生物一つを
とってもいろいろなところにデータが分散している。
数多く整備されているデータベースについて何が自分の目
的に合っているのか解らない。
2.アンケート調査結果
 JBAの会員企業に対し、NBRC株へどのような情報付加を行
うべきかアンケート調査を行った。
 約40%の企業から「二次代謝産物の生合成遺伝子クラスター
(医薬品等)と合成生物工学研究(その他)に必要な情報が、
約30%の企業から物質変換に係る遺伝子(化学、化粧等)、
物質生産に係る遺伝子(化学、その他)、利用の可能性の高
い産業遺伝子(食品、その他)に係る情報付加が有用である
と回答されている。
塩基配列情報と遺伝子の機能に関する情報をリンクすると、
機能別に検索できるので利用しやすい。
重要な遺伝子や機能の情報は利用者が予測精度を上げら
れるように国が公共財として永続的にこつこつと作る必要が
ある。
研究開発や産業で利用される遺伝子情報として、2次代謝
産物の生合成遺伝子、産業酵素遺伝子、物質生産遺伝子、
物質変換遺伝子、合成生物工学に利用される情報等がよい。
6
1-6.ゲノム情報の利用促進に向けた具体的方策
・ゲノム情報の活用には、様々なステップがあり、情報処理技術が必須となっている。
・近年、大学においてもバイオインフォマティクス(生命情報科学)の講座を新設する傾向もある
が、当該分野の人材が不足しており、特に、中小企業にとっては、ハードルが高いのが現状。
・「研究・開発用途」へのニーズに対応するため、酵素名や機能名から微生物を属・種横断的に
検索が可能な「機能検索DB」を構築し、ユーザーの利便性を向上させる。
ゲノム情報の利用は実は大変
「石油分解能」を持つ微生物を探す
には、石油の生分解経路やそれに
関わる遺伝子セットなどの情報を、い
ろいろなDBを利用して検索・抽出し、
菌株毎のゲノム情報と照らし合わせ
て、その機能を持っている可能性を
自分で判断し、さらに近縁の菌株を
検索し・・・非常に大変!
機能検索DB
「石油分解能」というキーワード
で検索すると、石油分解に関わ
る遺伝子セット情報やその機能
遺伝子をもっているNBRC株のリ
ストが表示され、容易にNBRC株
の選定ができる。
PubMed: 米国国立医学図書館国立生物工学情報センター(NCBI)により運営される医学・生物学分野の学術文献DB
KEGG: 京都大学により運営される遺伝子、タンパク質、代謝などに関する生命システム情報統合DB
7
BioCyc: 米国SRIインターナショナルにより運営される代謝経路/ゲノム情報DB
UM-BBD: 米国ミネソタ大により運営される微生物の生体触媒反応・生分解経路に関するDB
1-7.情報付加の具体的な波及効果
・微生物遺伝資源にゲノム情報を整備することにより、微生物の機能遺伝子が様々な産業分野
に利用されることが期待される。
石油代替産業
例:バイオプラスチック開発
創薬企業
例:抗生物質
創薬リード化合物開発
物質
生産
二次
代謝
産物
産業用
酵素
環境
浄化
土壌汚染等浄化産業
例:微生物による汚染土壌
の浄化(バイオレメディエーション)
酵素産業
例:バイオエタノール製造向けセル
ロース分解酵素
物質
変換
バイオテクノロジーによる生産産業
(化学プロセスからバイオプロセスへ)
例:従来の化学プロセスでは困難な物
質の変換。
8
1-8.情報付加への具体的な対応
◆比較参照用途株の情報の充実
・分類学的基準株や標準的に利用されている株は、研究開発等を行う際の比較・参照する株であり、ゲノム
情報が付加されていない株は今後使われにくくなることが想定されることから、基準、もの差しとして、ゲノ
ム情報を整備する。
・その他、文献情報を整備する。
◆研究開発用途株の情報の充実
・研究開発の支援のため、ユーザーニーズを踏まえて、下記の機能の可能性を有する微生物株の検索が
可能な支援ツール(機能検索DB)を整備する。
○二次代謝産物の生合成遺伝子クラスター(抗生物質、色素等)
○利用の可能性の高い産業酵素遺伝子(醸造や食品加工用酵素等)
○物質生産に係る遺伝子(石油成分、バイオプラスチック用ポリ乳酸、不飽和脂肪酸、アミノ酸等)
○物質変換に係る遺伝子(不斉反応酵素、水酸化酵素等)
○合成生物工学研究開発に必要な遺伝子(代謝マップ、発現制御・促進等)
・その他、機能に関する情報を整備する。
◆品質管理用途株の情報の充実
・品質管理試験など公定試験に定められた菌株については、コロニーの形態、
胞子の形成能、培養性状といった微生物の表現性状に関する情報付加の
ニーズがあり、これを整備する。
(例)大腸菌(NBRC 3972)は日本
薬局方で指定された培地で特徴
的な色を示す。
◆その他
・定期的なアンケート調査、ヒアリング調査の実施
9
2.生物多様性条約への対応
【論点】
1993年の生物多様性条約(CBD)の発効により、生物遺伝資源に関する主権的権利が資源提供国に認められ
た。これにより遺伝資源提供側の途上国の関心が一気に高まり、遺伝資源の取得と利益配分に関する国際的な
ルールの整備が進められ、日本企業が途上国を中心とした各国が保有する遺伝資源を取得し、利用することが
困難となった。このため、NITEは、インドネシア、ベトナム、モンゴル、タイなどのアジア各国との協力関係の構築や
アジア地域内の微生物遺伝資源機関の連携を実施し、CBDの原則に則った微生物遺伝資源の利用促進に対応し
ている。
また、2010年に名古屋議定書が採択されたことにより、各国は遺伝資源の取得と利益配分に関する必要な措置
について検討を開始し、EUや豪州なども批准へ向けた準備が進められている。今後は、特に、本議定書に基づき
途上国を中心に遺伝資源の取得や利用に関して厳しい措置を講じる可能性がある。
以上の状況を踏まえ、
① 現在NITEは、相手国の状況に応じた協力を実施することで、海外の微生物遺伝資源を取得し、利用したい日
本企業等に対し、直接相手国との交渉を行わずとも資源の利用が可能な枠組みを提供している。今後も引き続
き、我が国産業界が円滑に海外微生物遺伝資源を取得、利用できるようにするためには、このような微生物遺
伝資源機関を活用した枠組みを継続・強化していくことが重要ではないか。
② 今後、微生物遺伝資源機関が整備されていない国と新たに関係構築を行うにあたっては、生物多様性条約に
則ったアクセスと利益配分(ABS:Access and Benefit Sharing)に関する国内措置が明らかになっていることを前
提とし、ユーザーニーズを踏まえつつ、アジア地域の国々を中心に関係構築を進めるべきではないか。
③ NITEは、各国の国内措置や遺伝資源取得手続きに関する情報収集をアジアコンソーシアムなどの枠組みを
活用しつつ、積極的に行っていくべきではないか。
10
2-1.生物多様性条約(CBD)について
・1993年に発効した生物多様性条約では、各国は自国の生物遺伝資源に対して主権的
権利を有することが明記された。
・これにより、海外微生物遺伝資源の取得と利用が困難になってきている。
CBDの目的
1)生物多様性の保全
2)その構成要素の持続可能な利用
3)遺伝資源の利用から生ずる利益の
公正かつ衡平な配分



1993年12月29日に発効
193ヵ国が批准
米国は批准せず
遺伝資源へのアクセスの原則
第15条 遺伝資源の取得の機会
(Article 15. Access to Genetic Resources)
 原産国が遺伝資源への主権的権利を持つ
(国内法を制定する権利を有する)
 提供国と利用者間での事前の情報に基づく同意
(PIC)が必要
 利益は公平に配分する
 相互に合意する条件(MAT)で行う
提
供
国
事前の情報に基づく同意
(PIC)
PICの取得
相互に合意する条件
(MAT)
MATの取得
利
用
者
*遺伝資源の移動合意(MTA)
*公正かつ衡平な利益配分
11
2-2.NITEとアジア各国との協力関係の現状
・NITE(NBRC)は、アジア各国との間で包括的覚書(MOU)及び共同研究契約(PA)を締結し、
微生物遺伝資源の保全に関する各国の発展段階に応じた協力体制を実施している。
MOU、PAの締結先
企業
研究所
等
モンゴル
MOU
2006~
PA
契約
韓国
2009~
中国
2005~
MOU
ミャンマー
MOU
PA
ベトナム
2004~2006
2004~
MOU
PA
タイ
MOU
2005~
PA
ブルネイ
PA
インドネシア
MOU、PA: インドネシア科学院(LIPI)
ベトナム
MOU: 科学技術省(MOST)
PA: ベトナム国家大学ハノイ校(VNUH)
ミャンマー
MOU: 教育省(MEM)
PA: パティン大学(PU)
タイ
MOU、PA: 国立遺伝子工学バイオテクノロ
ジーセンター(BIOTEC)
中国
MOU: 中国科学院微生物研究所(IM-CAS)
モンゴル
MOU: モンゴル科学院(MAS)
PA: モンゴル科学院微生物学研究所(IBMAS)
ブルネイ
MOU: 産業一次資源省(MIPR)
PA: 産業一次資源省林業局(FD)
韓国
PA: 韓国農業カルチャーコレクション
(KACC)
※ 韓国との共同事業は終了し、新たな枠組みを検討中。
MOU
インドネシア
2003~
MOU
PA
12
2-3.海外微生物遺伝資源へのアクセスと利益配分
(NITEの構築した協力関係を活用した海外微生物遺伝資源の利用)
・ NITE(NBRC)は、生物多様性条約に則った海外微生物遺伝資源へのアクセスと利益配分を実現するた
め、アジア各国(海外資源国)との間で、包括的覚書(MOU)及び共同研究契約(PA)を締結し、下図
のようなスキームにより、日本国内の海外微生物遺伝資源の円滑な利用に貢献している。
・企業等の利用者が、直接資源国の事前の同意を取得したり、条件の交渉等を行う必要がない。
NITE(NBRC)を経由して条件の交渉や利益配分の手続きを行うことで、 企業等が現地で微生物を探索す
ることやNITE(NBRC)が国内に移動した微生物(RD株)を利用することができる。
海外資源国
政府関係
機関
研究機関
日本
MOU
(包括的覚書)
PA
(共同研究契約)
利益配分
(金銭的/非金銭的)
現地での探索
遺伝資源の移動
NITE
バイオテク
ノロジー
センター
(NBRC)
RD
株
遺伝資源
の提供
(MTA付き)
研究機関
(基礎研究)
利益配分
遺伝資源
の提供
(MTA付き)
産業界等
(応用研究)
MTA(Material Transfer Agreement):微生物を基礎研究、応用研究に利用する際の条件等を定めた素材移転合意書
13
2-4.アジア・コンソーシアム(ACM)について
・2004年に多国間協力の枠組みとして、微生物資源の保存と持続可能な利用に関するアジア・コ
ンソーシアム(ACM)を構築し、 NITE(NBRC)が事務局として議論を主導している。アジア13か国
(22の研究機関等)が参加。
・タスクフォースにおける協力及び議論を行うとともに、参加各国との情報交換を行っている。
-微生物資源の保存と持続可能な利用に関するアジア・コンソーシアム-
Asian Consortium for the Conservation and Sustainable Use of Microbial Resources
<3つのタスクフォース>
アジアBRCネットワーク(ABRCN)
人材育成(HRD)
微生物移動管理(MMT)
IB-MAS
KCTC
KACC
KNRRC
IMCAS
NBRC
JCM
RIS-STEA
MTCC
MOST
VNU
PU
BIOTEC
TISTR
BEDO
MOE
BIOTECH
ERDB-DENR
NSRI-UPD
UST
MARDI
LIPI
第9回年次会合(2012年10月@タイ)
14
2-5.名古屋議定書について
・生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、遺伝資源へのアクセスとその利用
から生ずる利益の公正かつ衡平な配分に関する名古屋議定書が採択された。
・名古屋議定書に基づくと、たとえば日本の利用者が他国(第三国)の遺伝資源を利用し
たい場合、下図のようにかなり煩雑な手続きが求められることになる。
カナダ
モントリオール
※2013年1月15日現在、92カ国
が署名、批准は12カ国
CBD事務局(ABSクリアリングハウス)
①申請書の提出
⑤
第三国
各国
政府窓口
権限ある
国内当局
②相互に合意する条件
(MAT※1)の締結
③事前の情報に基づく同意
(PIC※2)の申請
④アクセス許可証の発行
機関
⑨
⑤CBD事務局への登録
⑥アクセス許可証→国際的に
認められた遵守証明書となる
遺伝資源
③
⑦遺伝資源の移動
④→⑥
⑧承認されたPIC、MAT情報
の通知
日本
⑧
①
②
チェックポイント
利用者
⑦
⑨CBD事務局への情報提供
※1:MAT: Mutually Agreed Terms
※2:PIC: Prior Informed Consent
※3:ABS:Access and Benefit
Sharing(アクセスと利益配分)
2-6.海外微生物遺伝資源利用に関するユーザーニーズ
海外微生物利用の難しさ
対象国について
• 多くの国の微生物遺伝資源の確保は、
コスト面(相手国選定のための調査、
手続き、施設整備面)から企業単独で
は困難
• 交渉を開始するための関係構築が最
初の大きな壁
• 未開拓な自然環境や食文化が残って
いる地域、日本と異なる環境
• 日本企業の資源利用に積極的である
国、研究施設の整備が可能なこと
海外微生物利用の条件
その他
• 生物多様性条約の遵守が絶対条件
• 利益配分、目的による使用可否の分
かりやすさ、商業化に制約や負担がな
いこと(企業は様々なリスクを背負って
おり、高額な利益配分は敬遠する傾
向)
• 利益配分の合意や利害対立に対する
リスクマネジメントがこれまで以上に必
要(新規契約を敬遠する可能性)
• 海外法規制等の調査は、NITEやJBAを
通じた情報提供は重要な調査手段
• 関係構築(人脈)、技術移転や能力開
発といった国際協力は非常に重要
2-7.生物多様性条約への具体的対応(案)
◆アジア各国との関係強化
○各国の発展段階に応じた協力体制の実施
◆多国間連携の推進
○アジア・コンソーシアム(ACM)を活用した多国間連携の推進
ACMにおけるネットワークの拡大
ACMのアジアBRCネットワークタスクフォースを活用した保有微生物の統
合情報DBの整備等
○アジア(ACM微生物移動管理タスクフォース)、欧州BRCとの連携を通じた課
題共有と解決策の検討
◆各国の法規制情報等の収集・整備
○名古屋議定書批准へ向けた各国の法規制情報等の収集・整備
17
3.微生物リスクへの対応
【論点】
微生物リスク評価情報基盤は、中間報告において、微生物を安全に産業利用できる環境を整備す
ることを目標に長期的な視点から取組むべき情報基盤に位置づけられている。
微生物のリスクに関する情報は、現在、国内外ともに微生物の病原性や毒素産生、分類に関する
研究・文献情報、法規制情報が分散しており、かつ、事業者が自ら行う評価に必要なデータは利用
される形で十分に整備されていない。
この状況を改善するべく、微生物のリスク・プロファイル(基礎的情報)の整備を実施することで、将
来的なリスクコミュニケーションを含むリスク分析(リスクアナリシス)が、段階を踏んで、着実に実施
できるよう支援することが重要である。
以上を踏まえ、
①リスク管理の初期作業及びリスク評価のための情報基盤整備として、今後5年程度を目途に、ま
ずは既知の微生物についてのリスク・プロファイル(基礎的情報)を整備し、データベース化すべき
ではないか。
②整備するリスク・プロファイル(基礎的情報)は、分類情報を含むゲノム情報、病原性などの文献
情報、関連する規制情報等のほか、食経験や産業利用の歴史など人間による利用経験等に関す
る情報も含めるべきではないか。
③当面整備するリスク・プロファイル(基礎的情報)は、微生物リスクに関する情報を一元
的に提供するとともに、「遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保
に関する法律」(カルタヘナ法)や「微生物によるバイオレメディエーション利用指針」
(バイレメ指針)におけるリスク評価に資するものを目指すべきではないか。
18
3-1.生物のリスク・プロファイルの先行事例
・生物の科学的なリスク評価のために、他省庁においても食品を中心に国際的
なガイドライン*に従った国内外の科学的知見を収集し、リスク・プロファイルを作成
*Codexのガイドライン。CodexとはCodex Alimentarius Commissionの略称で、国際食品規格を作成する政府間組織。FAO
とWHOが1963年に設置。
内閣府食品安全委員会
【対象】
食中毒原因菌など
【対象となる法規制】
食品衛生法
【内容】
食品衛生上の問題に関する
情報
・原因菌と食品の組み合わせ
・原因菌と対象食品の特性
・症状の特徴
・対象食品の生産、製造、流
通、消費の各段階における食
中毒の要因
厚生労働省
【対象】
自然毒(魚介類、キノコ、
高等植物の毒)
【対象となる法規制】
食品衛生法
【内容】
自然毒に関する情報
・有毒種、有毒部位
・中毒発生状況
・中毒症状
・毒成分
・中毒対策
・文献
リスク評価実施の基礎となる
19
3-2.リスク分析の概要
•リスク分析の枠組みの中で、リスク・プロファイルは、リスク管理の初期作業に位置づけられる。
リスク分析
微生物の使用等によって悪影響が生じる可能性がある場合に、
その発生を防止し、又はそのリスクを最小限にするための枠組み
リスク管理
すべての「関係者」と協議しながら、リスク低減のための政策・措置につ
いて技術的な実行可能性、費用対効果などを検討し、適切な政策・措置
を決定、実施、検証、見直しを行うこと
リスク管理の初期作業
リスク・プロファイルの作成
リスク評価
微生物の使用等によって、
悪影響が生じる可能性と程
度を科学的に評価すること
リスク管理措置の検討
リスク管理措置の実施
モニタリング・見直し
リスク・コミュニケーション
リスク分析の全過程において、「関係者」の間で、情報及び意見を相互に交換すること
20
3-3.微生物のリスク・プロファイルの整備と活用
•基礎的情報としてリスク・プロファイルを作成して、微生物リスクに関する情報
を一元的に提供し、カルタヘナ法やバイレメ指針などにおけるリスク評価に活用
微生物の
分類情報
病原因子
情報
薬剤耐性
情報
動植物への
病原性情報
学術論文及び
関連する法律
等の情報
食経験・産業
利用の歴史
一元的整備
リスク評価に必要
な情報がワンストッ
プで収集できるの
で、リスク評価を行
うユーザーの負担
を軽減
微生物のリスク・プロファイル
データベース
人間による利用
経験等の情報も
付与することで、
長期間にわたる
安全な利用実績
に関する情報が
簡単に入手可能
ワンストップでの情報提供
バイオセーフティ
レベル(BSL)
カルタヘナ法における
リスク評価
バイレメ指針における
リスク評価
組換え微生物を扱うユーザー
バイレメ菌を扱うユーザー
カルタヘナ法:遺伝子組換え生物等の使用等の規制による生物の多様性の確保に関する法律
その他の
リスク評価
バイレメ指針:微生物によるバイオレメディエーション利用指針
21
3-4.バイレメ指針、カルタヘナ法に基づくリスク評価項目と整備項目
・バイレメ指針とカルタヘナ法にける環境影響評価(リスク評価)で求められている情報
には共通点が多い
・リスク・プロファイルとして整備することにより、それぞれの影響評価に貢献
作成するリスク・プロ
ファイルの整備項目
微生物によるバイオレメディエーション利
用指針(バイレメ指針)
生態系等への影響評価に必要な情報
遺伝子組換え生物等の使用等の規制
による生物の多様性の確保に関する法
律(カルタヘナ法)
「遺伝子組換え生物等の第一種使用等
による生物多様性影響評価実施要領
(告示)」における生物多様性影響の評
価に必要な情報
•微生物の分類情報
•分類情報
•分類情報
•病原因子情報
•薬剤耐性情報
•動植物への病原性
情報
•病原性
•有害物質を作る性質
•病原性
•有害物質を作る性質
•学術論文及び関連
する法律等の情報
•自然環境における生息場所
•機能的な特徴
•生育条件
•寄生性又は共生性
•生存に有利な胞子形成などの特徴
•自然環境における生息場所
•機能的な特徴
•生育条件
•寄生性
•増殖の仕方
•食経験・産業利用の
歴史
•使用の歴史及び現状
•使用等の歴史及び現状
22
3-5.微生物のリスクや法規制に関するユーザーニーズ
微生物の病原性評価や機能性向上にゲノム情報を活用すべき。
微生物の学名が決められていない場合には、病原菌との区別ができ
ない。
海外における微生物に関する規制情報を整備、提供すべき。
どんなデータがどこにあるのかわかりづらい、微生物一つをとっても
いろいろなところにデータが分散している。
遺伝子組換え技術に対する国民理解が進んでいない。
23
3-6.今後の具体的な整備方策(案)
Ⅰ.病原菌及び日和見菌に関する情報
1.微生物の分類情報
① 病原菌、日和見菌の抽出
病原菌及び日和見菌の菌株ベースでのリストアップ(細菌1,200株程度を想定)
② 上記微生物の16S rDNA*情報の整備
細菌の分類で利用されている16S rDNAの情報を先ずは整備
③ 上記微生物のdnaJ、gyrB、rpoB*等の情報の整備
1.②で判断が難しい菌について、dnaJ、gyrB、rpoB等のハウスキーピング遺伝子と呼ば
れている遺伝子を利用した分類情報整備
2.病原菌の病原因子情報日和見菌の薬剤耐性情報の整備
3.動植物病原菌文献情報の整備
4.学術論文及び関連する法律等の情報
① 国内法規制情報の整備
感染症予防法、家畜伝染病予防法、植物防疫法、外為法、カルタヘナ法など
② 海外法規制情報の整備
4.①と同様の法律の情報を海外について調査及び整備
Ⅱ.食経験及び長期産業利用経験のある微生物に関する情報の整備
該当する微生物のリストアップとその食経験及び産業利用の歴史に関する情報の整備
Ⅲ.データベースの整備
上記の情報をまとめて、データベース化
*細菌の分類に使われている指標遺伝子。16S rDNAが最もよく使われていて、情報蓄積量も多い。dnaJ、gyrB、rpoB等も分類に使われる指標遺伝子であ
るが、16S rDNAだけでは分類が難しい場合に、さらなる分類情報を与えるために使われる遺伝子。
24
Fly UP