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「或る青年の物語」 劇団「ままごと」

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「或る青年の物語」 劇団「ままごと」
「或る青年の物語」 劇団「ままごと」
小豆島坂手港で不思議な青年に出会い、坂手のまちを歩いて案
内されました。
坂手で生まれ、育ったそうです。年は 32 歳だそうです。一
度も小豆島坂手を離れたことがないそうです。とても明るく、
溌剌とした好青年でした。
彼は、早速、坂手のまちを歩いて、思い出話をしながら私た
ちを案内してくれました。迷路のような町並みで、丘から見下
ろす海が、とてもきれいで、雄大で、こころをなごませてくれ
ます。
町並みは、彼がこどものころと違って、4 軒から 5 軒に 1 軒
は空き家になっています。どこのうちにも井戸があると教えて
くれました。家々の石積みが時代時代で違っていると彼は教え
てくれました。この地域で石がとても大切にされていることが
わかります。
彼は、初恋の同級生の女の子の思い出を話してくれました。
勝気な女の子は、夕暮れどきに、沖の赤い灯台まで、一人で泳
いでいきました。泳ぎの得意でない彼は、ただ呆然心配して見
守るだけでした。
中学、高校と同じ学校に進みながら、二人は話すこともなく
時は過ぎ行きました。高校生になったあるとき、学校帰りの夕
暮れどき、自転車で一緒になり、彼は彼女に突然話しかけられ
たそうです。
小豆島を離れたいと思っているが、どう思うかと。彼は、も
ちろん、本当はずっと小豆島にいてほしいと思っていたのに、
おもわずうなずいてしまいます。
それが彼女と会った最後となりました。その日の夜、豪雨に
よる土砂災害があり、たまたま親戚に泊まっていた両親が亡く
なり、彼女は、福岡県の親戚に引き取られ、小豆島を離れたか
らです。彼は、その後も小豆島を離れることがありませんでし
たが、何十年もたったある日、彼女から手紙をもらいます。
赤い灯台があった場所、そこは今は埋めたてられ、ちょうど
ヤノベケンジさんの作品の巨大なミラーボールが立っている場
所まで来たとき、彼は、その手紙を読んで聞かせてくれました。
あなたに相談した夜、豪雨による土砂崩れで両親が亡くなり
ました。小豆島を離れたいばかりに、これで小豆島を離れるこ
とができるとこころの中で思ってしまいました。
病気になった今、思い出すのは、坂手の赤い灯台と海のこと
です。あの赤い灯台は今もありますか。海は凪いでいますか。
赤い灯台に泳いでいったとき心配してくれてありがとう。相談
したとき、小豆島に残ってほしいと言ってほしかったのに。ば
ちあたりの私は、もう小豆島には帰れませんと。
読み終えると、海に向かって、彼は、二度、三度と大きな声
で叫びました。
「帰ってこいよ。帰ってこいよ」
その声を聞いて、私はもう涙がこぼれて止まりませんでした。
どこからか、彼女が赤い灯台をめざして泳いだとき、彼に小豆
島を離れたいと相談したとき、流れていた行政放送の「夕焼け
小焼け」のメロディーが流れていました。
そう言えば、彼は、もう何十年も前の話だと言っていました。
しかし、彼は、32 歳の好青年でした。人は亡くなると、年が
半分になって生きるのだと、誰かが言っていました。いったい、
私たちを案内してくれた、あの青年は何者だったのでしょうか。
振り向くと、もう青年はいなくなってしまっていました。
(平
成 25 年 4 月 8 日)
劇団「ままごと」
、スタート
青年の案内に
ついて行く一行
丘を登る一行
手紙を読む青年
丘から望む景色
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