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Eco Technologies for Wastewater Treatment 2012(その3)
調調査報告 査 報 告 ウィーン Eco Technologies for Wastewater Treatment2012(その3) 6 月 25 日~27 日にスペイン・サンチアゴで開催された Eco Technologies for Wastewater Treatment2012(ecoSTP2012)に関する会議について、最終回となる今回は、Greenhouse gases emission(温室効果ガス排出量)および Emerging Contaminations(汚染物質の生成) のセッションで紹介された研究成果を報告する。 この会議は、今後のグローバルな取組みによって廃水処理が直面するであろう新たなプ ロセスと技術的課題について、排出物(量)、経済面および環境面での分析対し、統合された 視点を持ちながら、関係者が一緒になって検討していくことを目的としている。 また、2007 年から 2011 年に文部科学省の補助により行われていた“NOVEDARConsolider project(21 世紀の下水処理プラントの構想)”を締めくくる会議でもある。 5.微細藻類を用いた分離液からのバイオガスの改質と栄養素除去の組合せによる廃水処理 施設からの CO2 フットプリント減少への効果 Raul. Muñoz Torre 氏他、University of Valladolid(Spain) 5.1 はじめに 汚泥の嫌気的消化から発生するバイオガスは、廃水処理施設から得られる価値あるエネ ルギー資源として認識されている。その中に25~50%含まれているCO2ガスを減少させるこ とは、廃水処理施設からの温室効果ガス抑制に貢献する。また、0~2%の硫化水素(H2S)ガ スの減少もH2Sガスの強い腐食性、毒性と腐卵臭から、より良いバイオガス管理のためには 重要である。物理化学的または生物学的な方法に基づく他の処理方法は、バイオガスに含 まれるCO2とH2Sの除去に対して採用されてきたが、両方のガスの同時除去に関する実証例 は殆ど無かった。世界的に上昇するエネルギーコストとCO2排出量削減のシナリオに基づけ ば、バイオガスは持続可能な廃水処理施設における重要な役割を期待されており、それに 向けた改善は、ガスの利用増加と施設からのCO2フットプリントの減少に貢献できる。 「藻類-細菌プロセス」は、最小限のエネルギーコストで両方の汚染物質を同時に処理 ができる数少ない技術のうちの一つである。これらのシステムにおいて、微細藻類(または、 ラン藻類)は、光合成によってバイオガスからのCO2をバイオマス本体に固定し、O2を生成 するために太陽エネルギーを利用する。そして、このO2はH2Oを硫酸(SO2)へと酸化するた めに硫黄酸化細菌によって利用される。この技術のもう一つの興味深い面は、バイオガス(= エネルギー)の発生に向けて、上記の細菌の成長を維持することとバイオマスを大量に生成 するために廃水または分離水からの余剰栄養素を利用するので、廃水処理からのCO2フット プリントのさらなる削減につながる。 本研究では、外付けのCO2-H2S転送装置を接続した小型の高効率藻増殖池(High Rate Algal Pond、以下HRAP)を基本とした革新的プロセスを使用し、分離液からの栄養素除去 とバイオガスからのH2SとCO2の同時除去を組み合わせた微細藻類-細菌の集合体の適用に ついて調査した。密封したカラムと泡立てたカラムの両方で、CO2転送についての予備的な ― ― 調査報告 ウィーン 特徴付けを行った。最初に、ラン藻類のスピルニナ(Spirulina platensis)と合成ミネラル塩 媒体(synthetic mineral salt medium 以下、MSM)を使用して操作し、その後、希釈した分 離液による操作に切り替えた。最終的に、藻類-細菌バイオマスによるバイオメタン(CH4) 生成の可能性を評価した。 【スピルリナ(Spirulina platensis) 】藻類の一種で、微細藻類藍菌門に属する。古くはアフリカ中央部に あるチャド湖に自生するスピルリナを付近の住民が天日乾燥してダイエと称し食用としていた。中米や アフリカのアルカリ塩水湖に広く自生し、クロロフィルを持ち光合成を行う。1970年代に紹介されて以 来、その栄養の豊富さから「未来の食糧」などとして注目を浴びたが、近年では同じ微細藻類であるク ロレラと並んでいわゆる健康食品として市販されている。しかしその有効性について科学的な情報が十 分に蓄積されているとはいえない。なお、スピルリナ色素は既存添加物に指定されている。 (http://www.linkdediet.org/hn/modules/pico/index.php?content_id=281) 5.2 材料と方法 (1)微細有機物と培養条件 スピルニナはSAG培養コレクション(ドイツ)から入手し、そして、好アルカリ性のH2S酸化菌の集合体は、メトロポリタン自治大学(Universidad Autónoma Metropolitana、メ キシコ)のSergio Revah博士から譲り受けたものを使用した。活性汚泥は、スペインの Valladolid市の廃水処理施設から入手した。CO2転送の特性評価と初期段階のHRAPの操 作の間、MSMを使用した。 MSMの組成は下記のとおり(単位:g/L)とし、SAG推奨のスピルニナに従い、強力なキレ ート剤であるエデト酸(EDTA)と5ミリリットルの微量栄養素を調合した。30%のCO2、 500、1000、5000ppm のH2SそしてN2(危険なCH4の変わりに)から成る合成バイオガス を準備した。 NaHCO3 :2.0 Na2CO3 :0.5 K2HPO4 :2.5 NaNO3 :1.0 K2SO4 :1.0 NaCl :0.2 MgSO4·7H2O :0.04 CaCl2·2H2O :0.01 FeSO4·7H2O :0.08 (2)実験装置と運転条件 30%のCO2と70%のN2から成る合成ガスからのCO2除去のために、2つの吸着用カラム (内径40mm×高さ500mm)の評価を行った。 一つ目の吸着用カラムには、4mmのガラス製ラシヒリング(直径と長さが等しい中空の充 填物)を封入し、合成バイオガスを上向きに流した。そして、異なるpH(7、8、9、10)を 持つ新しいMSMを異なる流速(20、40、60、70、80mL/min)でカラム頂部から散水した。 二つ目の吸着用カラムは、装置の底部に設置されたセラミック製の多孔分散管に付属 ― ― 調査報告 ウィーン された気泡塔で構成されており、上昇するバイオガスと並行に流れる上記のpHと流速で 新しいMSMを供給した。全ての試験を20℃で50mlガス/minの条件で行った。 CO2とO2の濃度は、吸着用カラムの入口と出口でガスクロマトグラフ-熱伝動度検出器に よって監視した。 図5-1に示すように、0.63リットルの気泡塔が接続された深さ150mmで180リットルの HRAPをバイオガスの発生のために使用した。 6枚の撹拌羽根により10rpmで連続的にHRAPを撹拌(液体の再循環速度は20cm/sec)しな がら、15個のGro-Lux(紫色の光を発する)蛍光灯によって3,500ルクスの照度で、24時間 連続で照らし続けた。HRAPにはスピルニナとアルカリ性の集合体を接種した。 図5-1に示すように、泡立てたカラムには、20ml/minの速度で HRAPから循環する藻類 の培養液を供給し、それと並行する流れとなるように20ml/minの速度でカラム底部から 合成バイオガスを分散した。30%のCO2、69.5~70%のN2そして下記濃度のH2Sから成 る合成バイオガスによって試験を行った。 H2Sガス濃度:500ppm 138~153日の期間 1000ppm 154~197日の期間 5000ppm 198~518日の期間 最初に、HRAPには23日間の水理学的滞留時間にて70日~251日までMSMを供給した。 そして、252日から518日の間、アンモニア(NH3)による微細藻類の阻害を避けるために 硝化活性汚泥の接種を行いながら、MSMの供給はValladolid市の廃水処理施設からの分 離液によって7倍に希釈しながら行った。 【水理学的滞留時間】容積を流入水量で除した水量としての滞留時間。 CO2の吸着を増加させるために、341日目に泡立てたカラムの高さを1.9mに伸ばし、 433 日目にpHを7.5から8.5へと高めた。CO2、O2とH2Sの濃度は、泡立てたカラムの入口と 出口において、ガスクロマトグラフ-熱伝動度検出器によって定期的に測定した。 液体試料もまた定期的にHRAPから抜き取り、溶解した有機炭素(TOC)、無機炭素(IC)、 SO4-、NO3-、NO2-、NH4+とバイオマス濃度の確認を行った。 【有機炭素】水中に含まれる有機物の量のこと。有機物を構成する炭素の量を測定し、有機物の量に関 連付けることで、水質汚濁の監視や上水道、製薬用水の水質を管理する指標として広く採用されており、 下水処理では BOD と相関があるとされており、迅速な BOD の管理指標として用いられている。 HRAPの温度、pHそして溶存酸素はオンラインで記録した。 そのプロセスで発生する残留した藻類-細菌バイオマスによる中温性生物化学的メタンの 可能性を、90mlの微細藻類(藻類濃度:20gVS/L)および異なる比率 (1、0.5、0.25 gVS/gVS)の活性汚泥で訓化された嫌気的接種で満たされた160mlのガラ ス製フラスコで評価した。 ― ― 調査報告 ウィーン 出口側ガス 吸着用 カラム 合成ガス シリンダー 撹拌羽根 沈殿槽 供給用ポンプ MSM 供給用タンク 高効率藻増殖池(HRAP) 処理水 タンク 汚泥 出典:ecoSTP2012会議資料 Raul. Muñoz Torre氏他、University of Valladolid(Spain) 図5-1 研究に使用した連続式バイオガス発生装置の概念図 5.3 結果と考察 両方のカラムは、同等のCO2除去能力を示した。図5-2に示すように、全体的にCO2の除 去効率は液体の流速とpHの増加に伴い上昇した。両方のシステムにおいて、殆ど完全なCO2 の除去が、高いpHでの酸性ガスによる強い濃度勾配のための流速に関係なく、pH=10で得 られた。逆に、出口ガス中の酸素濃度は、pHに関係なく、20ml/minでは0.3%、80ml/min では1.2%のように流速に伴い直線的に増加した。 このO2は、最適なバイオメタンの品質を確保するために注意深く監視された。 2つのカラムで同様の成果が得られたことと目詰まりの問題が無く運転が容易だったこと CO2 除去率(%) CO2 除去率(%) から泡立てたカラムを採用してさらなる実験を行うことにした。 流速(ml/min) 泡立てたカラム 出典:ecoSTP2012会議資料 流速(ml/min) ラヒシリングを封入したカラム Raul. Muñoz Torre氏他、University of Valladolid(Spain) 図5-2 流速とCO2除去率の関係 (■pH7、◆pH8、▲pH9、●pH10) 図5-3に示すように、MSMを連続運転する条件において、HRAPと吸着カラムの複合システ ムによってバイオガス中の全H2Sの除去と酸化させることができた。 H2SのSO42-への無機化が、溶解したSO42-濃度の安定した増加(138日目の750ppmから251 ― ― 調査報告 ウィーン 日目の1500ppm)によって確認された。 希釈した分離液 MSM CO2/H2S 除去率(%) 500 1000 5000ppm pH:8→5 O2 濃度(%) カラム高さ:1.9m 凡例 ◇:CO2 △:H2O □:O2 時間(日) 出典:ecoSTP2012会議資料 Raul. Muñoz Torre氏他、University of Valladolid(Spain) 図5-3 装置出口におけるCO2とH2Sの除去効率とO2の関係 希釈した分離液 MSM 5000ppm バイオマス濃度(g/L) 凡例 ▲:バイオマス ■:無機炭素 カラム高さ:1.9m pH:8→5 無機炭素濃度 (mg-C/L) 500 1000 時間(日) 出典:ecoSTP2012会議資料 Raul. Muñoz Torre氏他、University of Valladolid(Spain) 図5-4 バイオマス濃度と無機炭素濃度の関係 図5-4に示すように、バイオガス中にあるCO2の80~90%が、MSM中に存在する無機炭素 と1~1.4g/Lの安定したバイオマス濃度によって効率的に除去された。HRAP温度の上昇に伴 う水分の蒸発損失の増加による、無機炭素濃度の緩やかな増加が、138日から251日の間で 認められた。希釈した分離液を使用した運転では、H2Sの除去効率の低下は認められなかっ た。しかし、430日目には、予期しないpHの低下(pH=8→5)とH2S除去率の低下が認めら れた。431日目までのようにpHを8.5に制御することで、安定したH2Sの除去性能に戻った。 しかしながら、安定した分離液の条件時にカラムの高さを1.9mまで長くしたとしても、緩 やかなCO2の除去性能の低下(90%→40%)は認められた。この低下は、培養液内のイオン強 度の急激な低下によって生じており、バイオガスから循環している培養液へのCO2の物質移 動係数の劇的な低下によるものである。分離液での運転は、0.6g/Lの定常値にバイオマス濃 ― ― 調査報告 ウィーン 度の緩やかな低下と、400日以降の無機炭素が殆ど完全に枯渇するまでに至る減少の原因と なる。 たとえ110mg-N/Lの定常NO3-濃度が実験終了時に確認されたとしても、HRAP内のNH4+ が常時1.5mg-N/L以下であったので、接種された硝化菌群はNH4+の酸化には効果がある。 分離液の補充は、スピルリナの緩やかな消失と藍藻類のフォルミジウム(71%)、原虫のオー シスト(20%)と微胞子中門(9%)から構成される安定した生物個体群の形成という結果とな った。 【フォルミジウム】藍藻類の一種。水道水の異臭味の問題となるカビ臭を発生する。 【オーシスト】原虫の生活環におけるステージの1つ。接合子嚢とも呼ばれる。接合子の周囲に被膜、被殻 が形成されたもの。水源等が汚染され、しばしば飲料水や水道水に混入して集団的な下痢症状を発生さ せることがある。上水道の残留塩素など塩素による消毒ではオーシストを不活化させることができない ため、先進国においてもしばしば集団感染が報告されている。 【微胞子中門】はさまざまな動物の細胞内に寄生する単細胞真核生物の一群で、これまでに1200種以上が 知られている。昆虫、甲殻類、魚類、ヒトを含む哺乳類などに感染する病原体が多く含まれている。 5.4 まとめ 藻類-細菌プロセスによるバイオメタン(CH4)生成の可能性について評価を行った。 ・メタンと乾燥有機物質量の比がCH4/gVS=1のとき0.27Lのメタンを発生した。 ・CH4/gVS=0.25と0.5のとき、0.21Lのメタンを発生し、その間に藻類バイオマスの嫌 気性分解が確認された。 ・これらは、混合された微細藻類の消化に対する他の研究結果と同様であった。 (参考資料) ・ecoSTP2012 会議資料 Raul. Muñoz Torre 氏他、University of Valladolid(Spain) ― ― 調査報告 ウィーン 6.廃水からの内分泌撹乱化学物質除去へのオゾン処理の適合性における生物評価法の効果 Matteo Papa氏他、University of Brescia(Italy) 【内分泌撹乱化学物質】 「内分泌系の機能を変化させることにより、健全な生物個体やその子孫、あるいは 集団(またはその一部)の健康に有害な影響を及ぼす外因性化学物質または混合物」と世界保健機構・ 国際化学物質安全計画(IPCS)では定義している。 6.1 はじめに 環境化学における近年の進歩に伴い、環境中に存在する人体に有害な物質に対して研究 されてきた。 これらの物質を含む化合物の濃度が、μg/L、ng/L そしてpg/L(“微量汚染物質”と呼ばれる) のレベルであったとしても、人体に及ぼす影響を無視することはできない。 それらのグループの一つに、内分泌撹乱化学物質(以下、EDCs) が存在し、「恒常性、生殖、 発達や行動の維持に寄与する体内の天然ホルモンの合成、分泌、輸送、結合、作用または 除去を妨害する外因性化学物質または混合物」として定義されている。特にエストロゲン効 果を生じることで知られているEDCsは、天然由来のステロイド性エストロゲンである。 (例)尿中排せつからのエストロン(E1:estrone)、 17β-エストラジオール(E2:17β-estradiol)、 エストリオール(E3:estriol) 避妊薬やホルモン治療等で使用されている合成エストロゲン (例) 17α-エチニルエストラジオール(EE2:17α-ethinyl-estradiol) また、エストロゲン受容体との相互作用性がある合成有機化合物には、次のようなものが ある。 (例)アルキルフェノール(AP:alkylphenol)類に分類される ノニルフェノール(NP:nonylphenol)、 オクチルフェノール(OP:octylphenol)、 エトキシレート前駆体(APnEOs:nは分子式のエトキシレート基の数で通常は1~3)、 フェノール化合物である多くのビスフェノールA(BPA) 特に、これらの分子はエストロゲン受容体への競争的結合により、エストロゲンによって 制御される調整機能を妨害する可能性がある。例えば、1998年にRoutledgeらは、1ng/L(エ ストラジオール等価(EEQ))以下のステロイドホルモンが魚類や他の水生生物で女性化を誘 発する可能性があることを報告している。2001年にWittersらは、雄と雌の魚における明確 な再生効果が10ng/L-EEQ以上のレベルで認められることを報告している。そして、非常に 低い濃度であっても、全てのキセノエストロゲンがエストロゲン効果を増長する可能性が あることが、2002年にRajapakseらによって報告されている。 廃水処理施設からの処理水はが、水生環境において上記化合物が放出される主要源と考 えられているが、従来型の廃水処理では全ての微量汚染物質の完全な除去には対応してい ない。そのため、追加の高度処理が必要となり、オゾン処理がEDCsの除去に適した技術と して採用されている。しかし、単一化合物の濃度/負荷の計測によるような一つの化学的根 ― ― 調査報告 ウィーン 拠だけで、オゾン処理の有益性を定量化することは困難である。化学分析ではEDCsの存在 を確実に明らかにできるが、一般的に関心のある基質内の対象物質だけを決定することに 特化している。廃水のような複雑な環境試料内に存在するEDCsは多いので、分析的手法で は本来のエストロゲン様活性を決定するのには不十分である。さらに、化学分析は、試料 全体の相互作用や生物学的影響を反映していない。もし二つの化学的相互作用(毒物動態学 または毒物動力学)があれば、拮抗するか相乗効果(それぞれ、期待される添加物質の効果の 減少または増加)を生じる可能性がある。 【毒性動態学】毒性物質の体内での動態(吸収、移動、代謝、排出による)を明らかにすること。 反対に、代替的かつ補完的な手法として、 “特別な”生物評価法を通してエストロゲン様活 性を直接計測する方法が考えられており、その生物評価法は、EDCsとエストロゲン受容体 の間の相互作用に基づいているので、個々の化合物の同定だけでなく、試料内の全エスト ロゲン様活性を計測することが可能である。さらに、目標とする生体異物化合物の除去は、 その分解プロセスが必ずしも解毒できることを意味していない。つまり、オゾン処理の有 害性は、さらに毒性が強く分解されない代謝産物に変換するだけでなく、その代謝物は、 分析方法によっては検出可能かまたは不可能な低レベルのものである。それとは逆に、生 物学的応答が非常に敏感であるとき、 “試験管内(in vitro)”微生物評価法では、検出限界値以 下の濃度で生物学的影響を与える化合物を評価することができる。結果として、それらは 初期の判別検査の手法として採用することが可能である。試験管内(in vitro)生物評価法に おける応答は、 “生体内(in vivo)”検査モデルでの利用を回避する動機付けになるかもしれな い。2009年にKaseらは慎重に適用性を調査し、水生系における内分泌撹乱物質と再生効果 の検査のために生物学的試験を検証した。この話題に関しては、現在、研究機関や経済開 発協力機構(OECD)のような国際機関が、試験管内および生体内の両方で12の生物的評価法 で構成するモジュール式生態毒性テストのプラットホームを提案している。つまり、重層 的な方法だけで、全人類を水域へ移住する時の廃水/混合物/物質の影響を監視することを可 能にするものである。一般的なエストロゲンの生物的評価法をまとめた結果を表6-1に示す。 表6-1 一般的なエストロゲン(発情性物質)の微生物評価法の要約 性 能 環境試料 EEQ E-Screen法 ER-CALUX法 MELN法 KBluc法 YES法 良い 非常に良い 普通 良い 普通 他の分析結果との類似性 非常に良い 非常に良い やや劣る 非常に良い 良い 方法の定量限界 非常に良い 非常に良い 非常に良い 非常に良い やや劣る 非常に良い 非常に良い 普通 良い やや劣る メリット/デメリット 環境試料の評価 使いやすさ 普通 普通 普通 普通 良い やや劣る やや劣る やや劣る やや劣る 良い 感度 良い 非常に良い 良い 良い やや劣る 頑強性 良い 良い 良い 良い やや劣る 再現性 良い 非常に良い 普通 良い 良い 非常に良い 良い 普通 普通 非常に良い やや劣る 良い 良い 良い 良い 単純なトレーニング 広範囲な使用 迅速な結果 出典:ecoSTP2012会議資料 Matteo Papa氏他、University of Brescia(Italy) ― ― 調査報告 ウィーン E-Screen法は、エストロゲン依存の乳がん細胞の増殖に基づき、ER-CALUX法、 MELN 法およびKBluc法は、哺乳類を用いたレポーター遺伝子評価法である。また、酵母エストロ ゲンスクリーニング(YES法)は、酵母を用いたレポーター遺伝子評価法であり、 それぞれにメリットとデメリットがある。 【レポーター遺伝子】ある遺伝子が発現しているかどうかを容易に判別するために、その遺伝子に組換 える別の遺伝子のこと。緑色蛍光タンパク質(GFP)が有名。 各生物評価法がそれぞれ利点と限界を持っており、その限界と技術的要求を研究者が十 分に理解していれば、環境試料内のエストロゲン様活性を試験する際に適切にそれを利用 することができる。 表6-1に示すとおり、この試験方法のデメリットは、トレーニングの複雑さと迅速に結果が 得られない(4日以上必要)ということである。それとは逆に、酵母を用いた評価法(YES法) は、迅速な結果、安価そして簡単操作を目的として近年開発されてきた評価方法である。 つまり、新しい評価方法(nAES、新しいArxula adeninivorans酵母を用いたエストロゲン スクリーニング)は、細胞の溶解を必要としないエストロゲン様活性の評価が可能となって いる。さらに、同じ酵母菌株によって、試作のバイオセンサー(EstraMonitor©、QuoData 社、ドイツ)がエストロゲン様活性のオンライン評価(評価まで約4時間)の開発を進めている。 この評価方法は、簡単で安価な評価手段を提供し、最低限の実験に関する知識を要求する。 そして、エストロゲン様活性の決定に対する普遍的に適用可能な試験を提供するための本 質的な部分である。 本研究では、高いエストロゲン受容体濃度と感度からE-Screen法(ヒト乳がんMCF-7細胞 レポーター遺伝子評価法)を選択し、従来の活性汚泥法の処理水によって及ぼされるエスト ロゲン性を評価し、三次化学酸化(オゾン処理付き)の性能を調査した。さらに、エストロゲ ン様活性の生物評価法を用いた結果と化学分析による予測値との比較を行った。 実験は、下水と繊維産業からの廃水を処理する実際の廃水処理施設(処理流量:最大 40,000m3/日)を利用して行った。 6.2 材料と方法 (1) 廃水処理施設の仕様 イタリアにあるFino Mornasco廃水処理施設(計画容量は人口140,000人)は、下水と繊 維と印刷業からの事業用廃水を処理している。特に、事業系廃水の流入は、COD(化学的 酸素要求量)負荷基準で見た場合、全入口汚水量の50%に相当する。廃水が合流式下水道 によって収集されていることを強調する必要がある。さらに、越流水と浸透水が流入水 に合流している。図6-1に各流入水の流入量と廃水処理施設入口で測定したCOD濃度を示 す。 (2) モニタリング 3つの異なる試料のエストロゲン様活動(40日間)について、生物評価法を用いて三次オ ゾン処理の入口と出口において測定を行った。さらに、ノニルフェノール(NP)、モノエ トキシレート(NP1EO)、ジエトキシレート(NP2EO)、ビスフェノールA(BPA) の各 ― ― 調査報告 ウィーン EDCs(内分泌撹乱物質)を、ガスクロマトグラフ質量分析計によって調べた。 下水 事業系廃水 COD 濃度 処理水流量(m3/日) COD 濃度-廃水処理施設入口(mg/L) 越流水+浸透水 試料1 出典:ecoSTP2012会議資料 試料2 試料3 Matteo Papa氏他、University of Brescia(Italy) 図6-1 廃水処理施設入口の流量の内訳とCOD濃度 (3)エストロゲン様活性 ①生物評価法 ヒト乳がん細胞MCF-7(E-Screen法)を試料のエストロゲン様活動を評価するために採 用した。汚染物質の抽出と洗浄後、抽出物を1mLのDMSO(ジメチルスルホキシド)に再懸 濁させた。 【ジメチルスルホキシド】多くの化学物質を容易に溶かす無色の液体で、動植物の組織に浸透しやすい。 ヒト向けおよび動物向けの薬物や製薬に用いられている。 フィンランドのHormos Medical 社から提供を受けたERE-tK-LUC(エストロゲン応 答配列-チミジンキナーゼ-ルシフェラーゼレポーター遺伝子)を形質移入したMCF-7を、 DMEM(ダルベッコ・フォークト変法イーグル最小必須培地)内で、37℃と5%CO2の雰囲 気において10%のウシ胎児血清を補給しながら維持した。 汚染物質による処理の24時間前、DMEM(フェノールレッド不含)と5%の木炭剥離血清を 含んだ24ウェルプレートに2.5×105個/cm2の密度で、細胞を播種(はしゅ)した。 細胞を基準となるエストロゲン(E2)または汚染物質液体培地で処理し、37℃で24時間保 持した。調整は、汚染物質で処理された細胞をジメチルスルホキシドまたはエタノール だけで行った。 【DMSO(ジメチルスルホキシド)】無色のわずかに油っぽい液体で産業用溶剤として主として使用され ている。DMSOは、紙加工からの生産副産物として木から派生しており、硫化物とスルホンの型式の ようなDMSOの代謝物質(分解製品)は、自然に人体の中にある。 その後、細胞を採取しpassive lysis buffer(Promega社、イタリア)内で溶解した。 ― 10 ― 調査報告 ウィーン 溶菌液を回転磁石強度12,000gで15秒間攪拌し、ルシフェラーゼ活性測定装置(ルシフェ ラーゼ評価システム、Promega社、イタリア)に脱離液を投入した。 【ルシフェラーゼ】発光バクテリアやホタルなどの生物発光において、発光物質が光を放つ化学反応を 触媒する作用を持つ酵素の総称である。発光酵素 とも呼ばれる。 無水エタノールに溶解した基準エストロゲン(E2)は、生理的/準生理的用量に相当する濃 度、例えば検出下限に近いほど低い10-15~10-8M の検量線を決定するために使用した。 エストラジオールに対する標準曲線は、生物統計解析用のGraphpad Prism 5.0ソフトウ ェア(GraphPad Software社、アメリカ)を使用し、シグモイド関数(sigmoïdal function) で近似した。 ②生物評価法と化学評価法 化学分析から予測されるエストロゲンを、次の式から求めた。 予測値 = Σ(EEF × conc) ここで、EEE:相対的エストロゲン効果(エストラジオール等価係数) conc:ガスクロマトグラフ分析から得られた濃度 相対的効果の平均値は、この研究で採用した生物評価に関する文献に記載されているも のを使用し、特に、NPには4.0∙E-05、NP1EO には1.3∙E-07、NP2EOには1.4∙E-07 そ してBAPには3.0∙E-05をそれぞれ等しいとした。 6.3 結果と考察 (1)生物評価法 実験に先立ち、基準化合物E2への細胞応答性を確認し、補正曲線を作成した (図6-2(A)参照)。それは、E2濃度(用量)とエストロゲン様活動(応答性)間の典型的な “用量-応答性”パターンを示した。タンパク質1mg当りの放出される光の点(RLU)から、 3種類の試料のエストロゲンの働きは、図6-2(B)に示すとおりとなった。それから、これ らの値をエストラジオール等価濃度(ng/L-EEQ)として使用し、光の値(光度)の補正曲線に 基づいた濃度への変換結果と除去効率は、図6-2(C)に示すような結果となった。 評価するEEQの値は、3つの複製物(試料1と試料3の出口を除く)の平均値とした。そして、 統計資料として多くないことを考慮し、標準的エラーをデータのばらつきとして評価す るために選択した。 最初に、生物評価の結果は過去の研究で廃水処理施設からの処理水に対して報告され ている値と比較した。エストロゲン様活動の減少については、オゾン処理がエストロゲ ン様活動を少ししか減少させることができないことを図6-4(2C)は明確に示している。 全体的除去効率は約18%程度である。この値は、データとして本報告の中で提示していな いが、計算された負荷(gEEQ/日)に基づき得られた。結果として、全体的な除去効率は、 試料3が最も高かった。 ― 11 ― タンパク質(×107) RLU/mg 調査報告 ウィーン 178-エストラジオール濃度(logM) (A)基準エストロゲンE2による補正曲線 エストロゲン様活性 タンパク質(×107) RLU/mg 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 入口 出口 試料1 入口 出口 試料2 入口 出口 試料3 (B)タンパク質RLU/mg時のエストロゲン様活性の結果(オゾン処理入口・出口) 100 0.8 オゾン処理 入口 80 0.6 0.5 60 49.7% 0.4 40 0.3 0.2 15.3% 16.6% 試料1 試料2 20 0.1 0 0 試料3 (C)オゾン処理入口・出口におけるエストロゲン様活性と除去率(η) 出典:ecoSTP2012会議資料 Matteo Papa氏他、University of Brescia(Italy) 図6-2 各資料における試験結果 ― 12 ― 除去効率(%) エストロゲン様活性(ng/L-EEQ) 0.7 オゾン処理 出口 調査報告 ウィーン (2)生物評価と化学評価 上述の“材料と方法”の項で報告したとおり、各試料に対するエストロゲン様活性の予測 値を求めることは可能であった。図6-3(A)が示すとおり、NP(80%)とBPA(20%)がほとん ど全体のエストロゲン様活性を占めている。結果として、図6-3(B)に示すような、エスト ロゲン様活性の予測値と測定値の間には不一致が認められた。試料1と試料2(共にO3の入 口と出口)に対して測定されたエストロゲン様活動は予測値より約10倍大きく(グラフの 直線は予測値に10倍の係数を乗じていることに注意)、反対に、試料3では予測値と測定 値は殆ど完全に一致した。これは、全体のエストロゲン様活性が、試料3で極めて低いEEQ の値(検出限界値に近い0.1 ng/Lレベルの値)を示したとしても、検出された化合物による ものと結論付けることができる。さらに、影響の強いエストロゲンの減少が、EDCs濃度 の平均によって予測された値よりも明らかに低いことが分かった。(図6-4参照) 特に、きわめて低いEEQの値で特徴付けられる試料3を除き、全体的に半分以下であった。 これらの結果は、既に本報告でも述べている下記の理由から説明ができる。 NP1EO+ NP2EO BPA NP エストロゲン様活性の予測値(%) 100 80 60 40 20 0 入口 出口 試料1 入口 出口 試料2 入口 出口 試料3 (A)各試料の予測エストロゲン様活性への検出化合物の割合 エストロゲン様活性の評価値 (ng/L-EEQ) 1 0.1 0.01 0.01 0.1 試料1 ○:オゾン処理入口 試料2 ●:オゾン処理出口 試料3 評価値=予測値 評価値=10×予測 1 エストロゲン様活性の予測値 (mg/L-EEQ) (B)各試料のエストロゲン様活性の予測値と評価値の比較 出典:ecoSTP2012会議資料 Matteo Papa氏他、University of Brescia(Italy) 図6-3 オゾン処理入口・出口におけるエストロゲン様活性 ― 13 ― 調査報告 ウィーン ①化合物の混合物はエストロゲン様活動と相関がある。 分析された内分泌撹乱物質と比べて、オクチルフェノールのようなアルキルフェノー ルとステロイドホルモンは、全体のエストロゲン化に対してAPsより1,000倍以下の濃 度で生じるが、EEFsの1,000倍以上の強い影響を持っている。 ②相乗的増強効果は、化合物間で発生する。 ③酸化中間体または活性副産物は、オゾン処理により元の化合物よりもより有害な物質 を生じる。 このことは、測定された化学物質が試料のエストロゲン性を完全には示すことができな いことを示唆しており、最終的に他の検出されていない化学物質がエストロゲン性に寄与 しており、試料内の異なる内分泌撹乱物質の存在がMCF-7細胞への相乗エストロゲン効果 を持っているかもしれない。 オゾン処理 出口 除去効率(%) エストロゲン様活性(ng/L-EEQ) オゾン処理 入口 評価値 予測値 試料1 出典:ecoSTP2012会議資料 評価値 予測値 試料2 評価値 予測値 試料3 Matteo Papa氏他、University of Brescia(Italy) 図6-4 エストロゲン様活性の予測値、評価値、除去効率(η) 6.4 まとめ 本研究において、事業系廃水を含む廃水からの内分泌撹乱物質の除去に対するオゾン処 理の適正評価における生物評価の役割について調査した。特に、MCF-7の試験管生物評価 (E-Screen法)は、エストロゲン様活性の評価に適用可能であり、生物評価法による評価と化 学分析による予測との比較を行った。主な結果は以下のとおりである。 ①生物評価法の結果から、オゾン処理は部分的にしかエストロゲン様活性をほとんど減 少(20%未満の減少)させることができていない。 ②生物評価法による実際のエストロゲン様活性は、化学評価法から得られる予測値より ― 14 ― 調査報告 ウィーン も1桁程度高かった。 ③オゾン処理によるエストロゲンの削減効果は、予測される内分泌撹乱物質の減少より も極めて低かった。 最後に、化学評価法が内分泌撹乱物質の特定と監視に対して必要であるとしても、ここ で選択した生物評価法はエストロゲン様活性を決定するのに適切であり、廃水処理システ ムの環境適合性を評価する際に適用されるべき評価方法と考える。実験室で日常的に利用 されるための操作の実施手順と自動化の標準化は、確実に廃水処理施設からの処理水の状 態を把握するために有効なものである。これらの汚染現象を制御することによって、飲料 水の品質へのより安全なフィードバックだけでなく、新しく発生する水環境に関するいく つかの問題を適切に解決することに役立つ。 (参考資料) ・ecoSTP2012 会議資料 Matteo Papa 氏他、University of Brescia(Italy) ・内分泌かく乱化学物質HP、厚生労働省、(http://www.nihs.go.jp/edc/question/q2.htm) ― 15 ―