Comments
Description
Transcript
笑いの効果に関する一考察
創 摘 大 学教 育 学 論 集 第62号:岡 本 ・鈎P53∼65 教 師 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 と 笑 い の 効 果 に関 す る一 考 察 大 瞬 素 史 ※'・矢 島 紳 男 ※2 研 究の 蟹的 本 稿 で は,学 校 教 育(こ こで は主 に 小 学 校 ・中 学 校 ・高 等 学 校 に お け る教 育 を対 象 とす る)の 諸 問題 を解 決 す る に あ た り,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 向 上 を 目的 と して,笑 い の 効 果 に 関 す る考 察 を行 う もの で あ る 。 まず,口 本 の 社 会 全 体 と教 育 現 場 にお け る 笑 い の 認 知 の 動 向 を概 観 し,次 に,社 会 の コ ミュ ニ ケ ー シ 麗 ン能 力 低 下 に関 す る諸 問 題 の 解 決 と笑 い の効 果 につ い て ま と め る 。 ひ るが え って 学 校 教 育 に お い て も 同 様 の ま とめ を行 い,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ 灘 ン能 力 と笑 い の 効 果 との 関 係 性 を 明 ら か に した い 。 1薦 本 の 社 会 お よ び 教 育 現 場 に お け る笑 い の 関 心 の 高 ま り 人 が 笑 う とい う現 象 は,常 に 謎 め い た もの と して,は るか 昔 か ら 国 内外 を問 わず あ らゆ る 人 物 が 関 心 を抱 き な が ら,そ の 謎 の 解 明 に 取 り組 ん で き た 。1976年 に ノ ー マ ン ・カ ズ ンズ が 自 らの 闘 病 記 『笑 い と治 癒 力 』 に お い て,笑 い{}〉 が 入 間 の 自然 治 癒 力 を 高 め る こ と を主 張 す る ωと,笑 い の 効 能 につ い て も,特 に 医 学 界 に お い て 関 心 の 高 ま り を見 せ た 。 ノー マ ン ・カ ズ ンズ の 著 書 が 出 版 さ れ て か ら6年 後 の1982年,ア メリ カ で 「笑 い療 法 学 会 」 が 設 立 さ れ た 。 一 方 日本 の 医 学 的 な 関 心 は そ の 動 きに10年 ほ ど の 遅 れ を取 っ て 始 ま っ た 。 笑 い に 関 す る多 角 的 な研 究 が 進 み,さ ま ざ ま な効 能 が 明 ら か に な る と,今 度 は そ れ ら を活 用 す る た め に,各 分 野 に 分 化 した研 究 ・実 践 が 行 わ れ る よ うに な る。!994年 に は,井 上 宏 を 会 長 と して,「 日本 笑 い 学 会 」が 設 立 され た(;`/。 「鷺本 笑 い 学 会」 で は,笑 い の 文 化 的 発 展 に寄 与 す る こ と を 臼的 と し,笑 い とユ ー モ ア に 関 す る 総 合 的 な 研 究 が 行 わ れ て い る。 現 在 で は1000入 超 の 会 員 と17の 支 部 を 持 ち,笑 い に関 す る 学 会 と して は最 も大 き な組 織 で あ る 〈`t>。 ま た 笑 い と医 学 に 特 化 した 研 究 を行 うた め,2006年 に 「笑 い と健 康 学 会 」(会 長:澤 ※k創 価大 学教 育学 部教 授 ※2創 価大 学 大学 院博 士 前期 課程1年(文 田 隆 治)が 設 立 され た 。 さ 学研 究科 教育 学專 攻教 育学 專修) 一53一 教 師 の コ ミュ ニケ ー シ 癬ン能 力 と笑 いの 効 果 に 関す る 考 察 ら に2007年 に は新 た な 学 術 領 域 の創 出 を 目 的 と して,「 ユ ー モ ア ・サ イエ ンス 学 会 」 (会長:木 村 洋 二)が 設 立 され た 。 「ユ ー モ ア ・サ イ エ ン ス学 会jは,笑 (ア ッハ)"を い の 単 位"a経 用 い て 笑 い の 量 を 測 定 す る 「笑 い 測 定 機 」 を 開 発 した こ と で,さ らに 幅 広 い 笑 い の 数 値 化 や 実 験 を 可 能 に した(9'}。 この よ うな 社 会 の流 れ と絹 挨 っ て,教 育 現 場 に お け る笑 い の 関 心 も,2!世 て か ら高 ま っ て い っ た。 青 砥 弘 幸(2007)に よ れ ば,笑 紀 に入っ い と教 育 を交 え た 先 行 研 究 は,幻 世 紀 以 降,飛 躍 的 に増 加 した こ とが わ か っ て い る ㊨。 こ れ は,「 笑 い が 人 間 に とっ て 膚 益 で あ る」 と い う社 会 的 認 知 が,「 目本 笑 い 学 会 」 設 立 以 降 の 様 々 な研 究 に よ り,明 らか に な っ た か らだ と考 え られ る。 な お,20世 紀 に 見 られ る先 行 研 究 で は, 国 語 科 教 育 の枠 組 み か ら子 ど も の ユ ー モ ア 能 力 育 成 の た め の 単 元 構 想 を提 案 した大 村 は ま(ユ992)や,「 今,臼 本 の 教 育 に何 が足 りな い か とい え ば,『 ユ ー モ ア の セ ン ス』 だ と い え る押 と指 摘 し,ユ ー モ ア あ ふ れ る教 師 は 入 問性 に も優 れ て い る と 主 張 した 有 田和 正(!993)な ど が 挙 げ ら れ る 。200ユ年,「 お 笑 い 教 師 同 盟 」(代 表:上 條 晴 夫) が 設 立 され る と,現 場 の 教 師 を 中心 と した会 員 が,笑 い を活 か した 学 級 経 営 ・授 業 実 践 を 中 心 に,意 見 交 換 や 実 践 例 紹 介 を 行 う よ うに な っ た 。 ま た青 砥 弘 幸(2009)は, 学 校 教 育 にお い て ユ ー モ ア が 才 能 や 入 格 特 性 と して 扱 わ れ て き た た め に,能 力 育 成 と い う観 点 で の考 察 が 遅 れ た と し て,「 ユ ー モ ア能 力 」とい う 定 義 を行 っ だ$)。 これ は, 大 村 の 提 案 を研 究 レベ ル で 考 察 した もの で もあ り,ユ ー モ ア を感 覚 と して と らえ た 織 }:lll正 吉(!979)の 考 え に も似 て い る(Sl>。 さ らに 文 部 科 学 省 は2010年 度 か ら,児 童 ・生 徒 の 「対 話 力 」 向 上 を狐 い と し た,落 語 家 や 劇 団 員 の 学 校 派 遣 事 業 を開 始 す る こ とが 決 ま っ た(鋤。 以 上 の よ う に,社 会 全 体 お よび 教 育 現 場 に お い て,笑 いの関心が 高 まっ て い る こ とが わ か る 。 黛 コ ミュ ニ ケ ー シ 鷺 ン能 力 向 上 と笑 い の効 果 と の 関 連 性 α) ∼社 会 に見 ら れ る諸 問 題 か ら∼ 2-1。 社 会 の 諸 問題 と コ ミュ:ケ ー シ ョ ン能 力低 下 との 関連 性 2004年 か ら厚 生 労 働 省 が 開 始 し た 『若 年 者 就 職 基 礎 能 力 修 得 支 援 事 業(¥ESプ グ ラ ム)』(2009年 度 で事 業 終 了)に ロ よれ ば,就 労 基 礎 能 力 と して の コ ミュ ニ ケ ー シss ン能 力 を 「意 思 疎 通 」 「協調 性 」 「自己 表 現 能 力 」 の3点 に定 義 した"1)。ま た村 松 賢一 (ll998)は,「 対 話 能 力 」 「入 問 関係 維 持 能 力 」 と定 義 し(IL'),齋 藤 孝(2004)は,相 と 自分 自 身 の 経 験 世 界 と を絡 み 合 わ せ,1つ 手 の 文 脈 を作 り上 げ,双 方 の 思 索 の 展 開 を 理 解 す る能 力 で あ る と した 麟 。 以 上 の よ う に,コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 は 「情 報 の 伝 達 」 とい う狭 義 の 意 味 合 い 以 外 に も,「 相 互 の信 頼 関 係 を促 す 態 度 ・言 動 」 と い う広 義 の 意 味 合 い を 含 ん で 用 い られ て きた 。 現 代 社 会 に お い て コ ミュ ニ ケ ー シ 滋 ン能 力 は 大 きな 関 心 事 とな って お り,特 に子 ど も を 含 む若 年 層(こ 一54一 こで は39歳 まで とす る)を 創 価 大 学 教欝 学 論 集 中 心 と した,コ 第62号:大 購 ・矢島 ミュ ニ ケ ー シ 蕊 ン能 力 低 下 の 問 題 を 懸 念 す る声 が 高 ま っ て い る。 こ こで 問 題 の 主 要 部 分 と考 え られ る3点 を 挙 げ て お きた い。 まず1点 目に,携 帯 電 話 ・イ ン タ ー ネ ッ トな どの 普 及 に よ る,対 面 型 コ ミュ ニ ケ ー シ 欝 ンの 減 少 で あ る。 文 部 科 学 省 が2008年 に行 っ たr子 校2年 生 の95.9%が ど もの 携 帯 電 話 等 の利 用 に関 す る 調 査 」 に よれ ば,高 携 帯 電 話 を所 持 して お り,申 学2年 6年 生 で もお よそ4人 生 で ほ ぼ 半 数 の45。9%,小 学 に1人 の24。7%が 所 持 して い た。 さ ら に 中 学 生 の 携 帯 所 持 者 の う ち2割 が 建1に メー ル を50件 以 上 や り取 りす る こ と,高 校2年 生 の2割 近 くが 入 浴 申 に,6割 近 くが 授 業 中 に 利 用 して い る こ とが 分 か っ たf"1)。 携 帯 電 話 や イ ン ター ネ ッ トに代 表 され る非 対 面 型 コ ミュニ ケ ー シ 欝 ンの 広 が りは,生 活 の 中 で 依 存 性 が 高 ま る 一 方 ,対 面 型 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンの機 会 を失 わ せ て い る。 1点 目 に,論 理 的 思 考 力 や 語 彙 力 を 中 心 と し た 言 語 能 力 の 低 下 で あ る。 小 野 博 (2004)の 調 査 に よれ ば,33大 と こ ろ,国 立 大 生 の6%,私 学 ・短 大 の 学 生 約1万3000入 立 大 生 の20%,短 大 生 の35%が の 日本 語 基礎 力 を調 べ た 中 学 生 レベ ル の 学 力 で あ る こ とが 分 か っ た"r,)。こ れ は携 帯 電 話 や イ ン タ ー ネ ッ トの 普 及 に加 え,「mixi(ミ ク シ イ)」 や 「Twi{ter(ッ イ ッ タ ー 一)」 とい っ た ソ ー シ ャ ル ・ネ ッ トワ ー ク ・サ ー ビ ス, プ ロ グが 流 行 した こ とで,親 しい 間 柄 で行 わ れ る や り取 りに 時 間 が 奪 わ れ,打 ち込む 文 章 の 短 文化 や,丁 寧 な 文 章 表 現 や 語 彙 に 関 す る熟 慮 が な さ れ な くな っ た こ とが 原 因 だ と して い る 。 この よ う な問 題 は,申 高 時代 か ら大 学 へ,ま 寄 せ を生 み,各 3点 自 に,コ た 大 学 か ら企 業 へ の しわ 所 で 再 教 育 の 場 を 提 供 しな け れ ば な らな い 状 況 に あ る。 ミュ ニ ケ ー シesン 能 力 の 不 足 に よ る,心 的 ス トレス の増 加 で あ る。 転 職 サ イ ト 『リ クナ ビ』 が 行 っ た 調 査 に よ れ ば,実 際 に企 業 を 退 職 した 経 験 の あ る396 入 の う ち,「 入 闘 関 係 」 を理91に した 退 職 が 最 も 多 く,4人 にi入 の 割 合 に上 る こ と が 分 か っ た 。 こ の う ち,事 実 を打 ち 明 け て 退 職 した の は3割 に も満 た な か っ た ⑯ 。 話 し合 い に よ る 問 題 解 決 に消 極 的 で,相 談 相 手 が い な い こ とか ら,事 実 を打 ち 明 け ず に 職 場 を 後 にす る 人 が 多 い よ う だ。 さ ら に,厚 生 労 働 省 の 『患 者 調 査 』 に よ れ ば,う つ 病 患 者 は2008年 に は100万 人 を 超 え,1999年 い 世 代 の うつ 病 が 増 加 し,1999年 の 患 者 数 の2倍 以 上 に増 加 した 。 特 に 若 に比 べ,20代 倍 以 上 とな っ た(乏7)。 神 庭 重 信(2007)は,若 の 患 者 は,男 性 で は2倍,女 性 で は3 年 層 の うつ 病 は,中 高 年 層 と は違 う性 質 を持 つ 「デ ィス ミチ ア親 和 型 うつ 病 」 で あ る と指 摘 した。 神 庭 は新 型 の 特 徴 と して, ① 役 割 抜 きで の 強 い 自己 愛 と漢 然 と した 万 能 感 を持 ち,② 挫 折 に 際 して は他 罰 的 傾 向 を示 す 。 ③ も と も と仕 事 熱 心 で は な く,④ 社 会 的役 割 で成 功 す る前 に 回 避 的 とな る こ と を挙 げ た く18)。 つ ま り,戦 前 に 比 べ 恵 ま れ た 環 境 と1ξ1由 を尊 重 す る風 潮 の 中 で 育 っ た 若 年 層 は,社 会 に 出 て 早 々 と挫 折 を味 わ う と,困 難 な状 況 を切 り抜 け る た め の 人 間 関 係 の 構 築 が う ま くい か ず,代 わ りに他 罰 的 な 感 情 を抱 き逃 避 的 に な る。 こ こ に 叱 責 と 葛 藤 の 悪 循 環 が 生 ま れ,「 デ ィ ス ミチ ア 親 和 型 うつ 病 」 を 引 き 起 こす と い う の で あ る 。 以 上 の こ とか ら,コ ミュ ニ ケ ー シ 蕩 ンが う ま く取 れ な い こ と に よ る心 的 ス トレス 一55一 教 師 の コ ミュニ ケ ー シ ョン能力 と笑 い の効 果 に関 す る一考 察 は,若 年 者 の 精 神 疾 患 の 増 加 を生 ん で い る こ とが わ か る 。 2-2.諸 問題 の 解 決 と笑 い の 効 果 井 上 宏(2004)は,対 面 型 コ ミュ ニ ケ ー シasン で は 表情 の 果 た す 役 割 は大 き く,笑 顔 は 敵 対 心 が な い こ と と,緊 張 を緩 和 さ せ る 働 き が あ る と し て い る 囎。 こ の 働 き は,!996年 に リ ゾ ラ ッテ ィが 発 見 した 「ミラ ー ニ ュ ー ロ ン仮 説 」 に も 関係 し,茂 木 健 … 郎(2009)は ,笑 い に も この 仮 説 が 成 り立 つ と して い る(2G/。ま た 井 上(1984)は, 笑 い の 親 和 作 用 は周 囲 の 入 々 を引 き付 け る作 用 を持 つ と して,こ 用 」 で あ る と して い る 伽 。 中 村 真(1994)は,デ れ を笑 い の 「誘 引 作 ィ ンバ ー グが 行 っ た 表 情 筋 の 実 験 を 紹 介 して い る 。 そ れ に よれ ば,相 手 の 表 情 を 見 る時,自 分 の 表 情 筋 も 同 じ表 情 パ タ ー ン を作 る と い う もの で,「 相 手 が 笑 っ て い れ ば そ れ を 見 て い る ほ う も 笑 い の 表 情 パ ター ン をつ く りだ して し ま う」 の だ と述 べ て い る(22>。 中 島 英 雄(2007)が で は,笑 行 った実験 う こ とで 脳 を活 性 化 させ る ア ド レナ リ ン ・ノ ル ア ド レナ リ ン と,癒 しの 効 果 を与 え るセ ロ トニ ン の血 中 量 が 増 加 した こ とが 分 か っ だ2:;)。 つ ま り脳 の 働 きが 活 発 に な り,リ ラ ッ ク ス効 果 も もた らす とい う こ とで あ る。 井 上 と中 島 の 指 摘 か ら,笑 顔 を見 せ る,人 を笑 わ せ る と い っ た 行 為 が,コ ミュニ ケ ー シ 灘 ンを 円滑 に行 う上 で,相 手 の 緊 張 感 を ほ ぐす こ と に効 果 的 で あ る こ とが わ か る。 緊 張 感 が ほ ぐれ る こ とで 親 近 感 が 湧 き,さ ら に脳 が 活 発 に動 く こ と で,ス ム ー ズ か つ 忌 揮 な い 意 見 が 交 わ され る よ うに な る だ ろ う。 す な わ ち,笑 顔 で 相 手 と話 す 力, 機 転 を 利 か せ て ユ ー モ ア 的 表 現 を用 い るカ は,コ れ る べ き もの で あ る。 この よ う な効 果 を,笑 ミュ ニ ケ ー シ 滋 ン能 力 と して 認 め ら い の"親 和 効 果""緊 張 緩 和 の 効 果"と 言 う こ とが 出来 る 。 ま た 各 企 業 ・医療 現 場 で は,笑 い の"親 和 効 果""緊 張 緩 和 の 効 果"に 着 目 し,具 体 的 な 笑 い の 実 践 を行 っ て い る と こ ろ もあ る。 企 業 で は,大 手 芸 能 プ ロ ダ ク シ ョ ンの 吉 本 興 業 が,2005年 か ら ロ ミュ ニ ケ ー シssン 能 力 を 高 め る こ と をR的 と し た 「漫 才 ワー ク シ 濁 ップ 」 を 実 施 して い る 。 ワ ー ク シ ョ ップ は 企 業 の 研 修 や 大 学 の 授 業 に 利 用 さ れ,参 加 者 が 漫 才 の ネ タ作 りか ら披 露 まで を体 験 し,笑 い の ス キ ル か ら コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン術 を学 ぶ と い う もの で あ る ⑯ 。 ま た,中 「ユ ー モ ア コ ンサ ル タ ン ト」 とい う職 業 も注Hさ 初 の 入物 で あ る と され,ア 小 企 業 の 経 営 力 向 上 を 目的 と した, れ て い る 。 ク シ ュ ナ ー(1992)が 最 メ リ カ ・オ ー ス トラ リア で は90年 代 か ら職 業 の 存 在 が 認 知 さ れ て い る⑳ 。 目本 で は矢 野 宗 宏 が,学 生 時 代 に 落 語 研 究 会 で 磨 い た笑 い の 技 術 と, 銀 行 員 時 代 に笑 い の ス キ ル で 営 業 成 績 を ア ップ させ た 経 験 を 生 か し,年 間200以 ヒの 講 演 を行 っ て い る くL'(1)。 医 療 現 場 で は,癒 しの 環 境 研 究 会 を 中心 と した 「笑 い 療 法 士 」 の 輩 出,映 画 ゼパ ッチ ・ア ダ ム ス 』と して も有 名 な 「ホ ス ピ タル ク ラ ウ ン」の 活 動 が, 院 内 の 生 活 で 塞 ぎ込 み が ち な患 者 の 識 ミュ ニ ケ ー シ 欝 ン能 力 の 低 下 を抑 制 し て い る 。 一56一 創 緬 大学 教 育 学 論集 3コ 第62号:大 嫡 ・矢 島 ミ ュニ ケ ー シ ョ ン能 力 向 上 と笑 い の 効 果 との 関 連 性 価) ∼ 教 育 現 場 に 見 ら れ る 諸 問 題 か ら∼ 3-1.教 育 現 場 の 諸 問 題 と教 師 の コ ミ ュ ニ ケ ー シnン 能 力 教 師 に求 め られ る 資 質 と して,?ミ ュ ニ ケ ー シSン 能 力 に 関す る 記 述 は,平 成9年 の 文 部 科 学 省 ・教 育 職 員 養 成 審 議 会 第!次 答 申 に よ る 「新 た な 時 代 に向 け た教 員 養 成 の 改 善 方 策 に つ い て」 に 見 られ る 。 答 申 に よれ ば,変 化 の 時 代 を 生 き る社 会 入 に求 め られ る 資 質 能 力 と して,人 間 関係 に 関 わ る もの の 中 に,コ ミュ ニ ケ ー シ 滋 ン能 力 が 位 置 づ け られ て い る 鵬。 確 か に教 師 は 児 童 生 徒 と学 校 生 活 を共 に しな が ら,直 接 の ふ れ あ い を も と に 子 ど もの 成 長 を サ ポ ー トす る 責 任 が あ る。 そ の た め に は,子 ず,教 師 間,保 どもに限 ら 護者 問 との 会 話 の 中 で,相 手 の 意 思 を汲 み 取 り,思 い や りを持 っ て接 す る こ とが 重 要 とな る 。 時 に は カ ウ ンセ リ ン グ の よ う に,雰 囲 気 に応 じた 表 情 や声 の 調 子,ま た は話 し書 葉 の 選 択 を行 わ な け れ ば な らな い 。 し か し,コ ミュ ニ ケ ー シ 欝ン能 力 に不 安 を抱 い て い る教 師 は多 い。河 村 茂 雄 (2002)は,教 師 の 感 覚 と子 ど も の実 態 との ズ レ を指 摘 し,現 代 の子 ど も を前 に した 時,今 まで の や り方 で は上 手 くい か ず,自 信 を 失 く して い る 教 師 が 少 な くな い こ と を 指 摘 した く28)。 ま た,山 脇 由 貴 子(2008)は,モ ンス タ ー ペ ア レ ン トが 増 加 した 原 因 の … つに ,学 校 と保 護 者 間 との コ ミュ ニ ケ ー シ 欝 ンの 減 少 を挙 げ,コ ミュ ニ ケ ー シ 灘 ン が 減 る こ と で,互 い が 「ど うで もい い 存 在 」 へ と変 化 して しま う と論 じだ2%モ ンス ター ペ ア レ ン トが 増 加 す れ ば,教 師 と保 護 者 との 関係 が 悪 化 し,良 識 あ る保 護 者 との コ ミ ュ ニ ケ ー シ 潔 ン も行 わ れ な くな る,と い う悪 循 環 が 生 ま れ る。 「子 ど もや 保 護 者 との 灘 ミュ ニ ケ ー シ お ン に 自信 が 持 て な い 」 と い う 状 況 が,ま さに教 師 の コ ミュニ ケ ー シ 謝 ン能 力 の 危 機 的 状 況 を 物 語 っ て い る と い え よ う。 モ ンス ター ペ ア レ ン ト以 外 に も,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ 旨 ン能 力 に 関 連 す る と考 え られ る,学 校 教 育 の 主 要 な 問 題 を3点 挙 げ て お きた い 。1点 の 立 ち 直 りの 遅 れ で あ る。 小 浜 逸 郎(200!)に よ れ ば,子 る 「権 威 を権 威 と して 承 認 す る 無 意 識 の 合 意 」 が,70年 目 に教 師 の 権 威 失 墜 か ら ど も ・保 護 者 の 教 師 に対 す 代 の 後 半 か ら徐 々 に失 わ れ た こ とが権 威 失 墜 の 理 由 だ と した 。 背 景 に は,欧 米 並 み の近 代 化 と い う大 目標 が 達 成 さ れ,生 活 が 豊 か に な っ た こ とで,「 学 校 に通 い 教 師 の 言 う こ と を 聞 き,一 一 生 懸命勉 強 して 貧 困 を脱 した い 」 とい う倫 理 的気 風 の 喪 失 が あ っ た 。 小 浜 は,少 子化 と恵 まれ た 養 育 環 境 に よっ て,「 都 会 的 な個 人 主 義 的 感 性 が 育 ち,か つ て の 学 校 空 間 に お け る よ うな 集 団 主 義 の 気 風 に な じ ま な い,繊 細 で傷 つ きや す く,気 難 しい 心 性 の子 ど もが 大 量 に 出 現 した」 た め に,教 師 の 権 威 に服 す る こ とが,感 明 した(3。/。 ま た 上 條 晴 夫(2000)は,「 事 を して き ま し た(中 略)し 覚 的 に納 得 で き な い の だ と説 こ れ まで 先 生 は 徽 師 の 権 威 』 に 守 られ て 仕 か し時 代 は変 わ り,子 ど もた ち は先 生 に もテ レ ビ タ レ ン 一57一 教 師 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ 製 ン 能 力 と 笑 い の 効 果 に 関 す る 一考 察 トの よ うな 個 性 を 求 め る よ うに な っ て き ま し た。 知 識 だ っ て,楽 い や,楽 し く教 え て ほ しい 。 し くな い もの な ん て ほ し くな い,と 主 張 して い る の で す 。」醜 と述 べ て い る。 小 浜 と上 條 は,そ れ ぞ れ で 教 師権 威 の失 墜 を指 摘 しな が ら,そ れ らが 学 級 崩 壊 の 問 題 に 繋 が っ て い る と も主 張 して い る。 さ らに 村 瀬 学(1996)は,ビ ー トた け しの 芸 風 に 触 れ なが ら,タ ブ ー の 解 禁 や 秩 序 の 破 壊 が 笑 い と して 持 ち込 まれ た こ とで 子 ど もの 笑 い の 志 向性 が 変 わ り,教 師 と子 ど も と の 人 間 関 係 に も影 響 を 与 え た と指 摘 す る(32)。 上 條 と村 瀬 の 主 張 か ら,テ レビ を 中 心 と した 大 衆 文 化 が,子 ど もへ の 理 想 の 教 師 像 を変 え た もの と考 え られ る 。 教 育 現 場 の 現 状 を 見 る に,教 師 の 権 威 失 墜 が 叫 ば れ る 中 で, 教 師 と 芋 ど も と の新 しい コ ミュ ニ ケ ー シ 葺 ンの 方 法 を 見 出 し,立 ち直 ろ う とい う動 き が 組 織 的 に 活 発 に行 わ れ て い る所 は少 な い 。 年 々 多忙 に な っ て い る教 師 に と っ て,時 代 の 変 化 に 適 応 す る た め の 余 裕 が 残 さ れ て い な い の か も しれ な い,, 2点 目に,教 師 の授 業 力 を め ぐ る問 題 で あ る。 よ い 授 業 を行 うた め に は,ま ず 専 門 的 な 教 科 の知 識 と事 前 の 授 業 準 備 が 不 可 欠 で あ る。 しか し,表 現 力 や 意 思 疎 通 とい っ た コ ミュ ニ ケ ー シ 翼 ン能 力 が あ っ て こ そ,知 識 と準 備 は 生 か され る。 つ ま り,子 ど も の興 味 ・関心 や 内 容 の 理 解 度 を コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンに よっ て 随 時確 認 し,状 況 に あ っ た 指 導 を行 う こ とで,教 師 自 身 の 専 門 的 な 知 識 が 十 全 に 発 揮 さ れ る と い う こ とで あ る 。 逆 に,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ 霧 ン能 力 が 欠 如 して い れ ば,子 ど も に納 得 の い く指 導 を 行 う こ とが 出 来 な い だ け で な く,授 業 の モ チ ベ ー シgン を も損 な っ て し ま う。 ゆ え に,コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 は授 業 力 に お い て 外 せ な い 土 台 とな る。 しか し90年 代 か ら現 在 に至 る まで,こ の 土 台 が 大 き く揺 れ て い る。 原 因 の 一 一つ に,子 学 ぶ と こ ろ」 の 場 と して の 学 校 へ の 抵 抗 が あ る 。 家 本 芳 郎(1990)は,子 ど もの 「公 瓢 ど もの 私 語 の増 加 に触 れ,そ の 原 因 が,少 子 化 や 受 験 戦 争 に よ り,子 ど もた ち に と っ て の 「私 置 遊 ぶ と こ ろ」 の場 が 消 滅 し,学 校 とい う 「公 篇学 ぶ とこ ろ 」 の 場 に 侵 入 した た め で あ る と述 べ た 翻。 つ ま り子 ど もた ち は,失 わ れ た 遊 び場 を今 度 こそ は 消 滅 させ まい と, 「公 嵩学 ぶ と ころ 」 の 場 へ の 抵 抗 を行 い 始 め た とい う こ とに な る。 そ う な る と,教 師 に は今 まで 以 上 に 柔 軟 な コ ミュ ニ ケ ー シ 欝 ン能 力 が 求 め られ る よ うに な る。 具 体 的 に は,多 少 の 私 語 を受 け止 め,楽 が 必 要 と な る。 しか し現 状 は,先 しい 雰 囲 気 を継 続 させ,子 ど も た ち を集 中 させ る 能 力 ほ どの 河 村 の 指 摘 通 り,こ の よ うな 子 ど もの 変 化 に う ま く対 応 で きず,自 信 を 失 う教 師 が 多 い 。 3点 口に,精 神 疾 患 に よ る 休 職 者 の増 加 で あ る 。 これ は,社 会 の諸 問 題 と も重 な る 部 分 で あ る。 文 部科 学 省 の 「病 気 休 職 者 数 等 の推 移 」 に よ れ ば,公 立 教 員 の 精 神 疾 患 に よ る休 職 者 は,平 成U年 度 の1924入 か ら,平 成20年 度 は5400人 と な り,お よ そ3倍 弱 に増 加 した こ とが 分 か っ た/34)。さ らに 保 坂 亨(2009)が,あ る 市 で 年 闘30日 以 上 の 病 気 休 暇 を 取 得 した小 中 学 校 教 員 の 実 態 を調 査 した と こ ろ,1年 以Lの 病 気 休 暇 取 得 者 の 割 合 は 小 中 学 校 全 体 で4.2%にkっ 間 の休 職 者 数 ・30日 た こ と が 分 か っ た ㈱。 こ れ は教 師 全 体 の お よそ25人 に1人 が 病 気 休 職 者 で あ り,精 神 疾 患 の 予 備 軍 も多 い こ と 一58一 創価 大 学 教 育 学 論集 第62母:大 購 ・矢 島 を示 して い る。 文 部 科 学 省 は,⑦ 教 育 内 容 の 変 化 に つ い て い け ない,② 教 員 同士 の コ ミュ ニ ケ ー シ 鷺 ンが 減 り,相 談 相 手 が い な い,③ 要 望 が 多 様 化 して い る保 護 者 らへ の 対 応 が 難 しい な ど,複 数 要 因 が 絡 ん で精 神 疾 患 に 至 る ケ ー ス が 増 え て い る と述 べ て い る 融。 ② と③ の 要 因 は ま さ に コ ミ ュ ニ ケ ー シ 欝 ン能 力 の 問 題 で あ る。 ① は そ の 周 辺 で,教 師 の 業 務 を 多 忙 に し,コ ミ ュ ニ ケ ー シ 葺 ンの 機 会 を 圧 迫 して い る と考 え られ る。 3-2。 新 しい教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シMン 能 力 の在 り方 以 上 の 諸 問 題 か ら考 察 す る に,学 校 教 育 の 諸 問 題 が,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ 翼 ン能 力 低 下 に よ って 引 き起 こ さ れ た,と す る に は論 理 飛 躍 の 感 が残 る 。 こ こ で は,多 様 な 社 会 的変 化 が 要 因 とな っ て,新 た な コ ミュ ニ ケ ー シ ョンの 在 り方 を求 め られ る よ うに な っ た,と 考 え る の が 妥 当 で あ ろ う。 そ の た め に は,権 威 に 守 られ た 旧 来 の コ ミュ ニ ケ ー シ 灘 ンの 取 り方 か ら脱 却 し,教 師 自身 が 子 ど もに 歩 み 寄 らな くて は い け な い。 歩 み 寄 りの例 と して,私 語 に よ る 授 業 妨 害 を見 て み た い 。 旧来 で あ れ ば,静 か に させ る こ とが 当 然 で あ り,権 威 に よ る抑 圧 も効 果 が あ っ た 。 しか し,こ の よ うな 「支 醍 一 服 従 の 関係 」 の コ ミュ ニ ケ ー シ 欝 ンが 効 果 を持 つ 時 代 は 終 焉 を迎 え た よ うに 思 う。 こ れ か ら は,子 ど もの"し ゃべ りた い 丹"楽 しい場 に した い 野 と い う気 持 ち を優 先 し,そ の エ ネ ル ギ ー を授 業 内 で の 活 気 へ と転 換 させ る能 力 が 必 要 に な っ て くる。 これ は,授 業 内 に 限 っ た こ とで は ない 。 家 本 の 指 摘 した 通 り,子 ど も の 「私 瓢遊 ぶ と こ ろ」 の場 が 消 滅 した 今,学 校 は 子 ど もに と って 「公 繍学 ぶ と こ ろ」 の場 で あ り 「私 鉱遊 ぶ とこ ろ 」 の 場 に も な っ て い る。 そ して 子 ど もた ち は,学 校 に あ る種 の 楽 しさ と 自由 を求 め る よ う に な っ た 。 こ の 変 化 に対 応 す る た め に は,教 師 は 聡 ご ろ か ら,子 ど も に 「学 校 は とて も楽 しい と こ ろ だ 」 「あ の 先 生 が い るか ら学 校 に 行 きた い」 と思 っ て も ら え る よ う な存 在 で な け れ ば な ら な い 。 つ ま り,子 ど もへ の 安 心 感 と楽 し さ を優 先 し,そ の 信 頼 関 係 か ら指 導 を成 立 させ る,「 協 調 の 関 係 」 の コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョン 能 力 が 必 要 に な って きて い るの で あ る 。 学 校 教 育 の 諸 問 題 解 決 に は,「 新 しい コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 の 在 り方 を模 索 す る」 と い う視 点 を忘 れ て は な らな い だ ろ う。 3-3。 教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 と笑 いの 効 果 社 会 の諸 問 題 解 決 の 時 と 岡様,2-2.で 述 べ た"親 和 効 果"と"緊 張緩和 の効果 鱒 は,学 校 教 育 の 諸 問題 解 決 と して も外 せ な い だ ろ う。 笑 顔 とユ ー モ ラス な喬 動 は,コ ミ ュニ ケ ー シ 灘 ンの 第 一 歩 と して,子 ど もに 親 近 感 を 与 え,授 業 内 の 発 言 や 教 師 に対 す る遠 慮 か ら くる 緊 張 感 を取 り除 く こ と が 出 来 る か らで あ る 。 ま た,"教 向 上 効 果"も 見 込 ま れ る 。 中 島英 雄(2007)が 師の授 業力 行 っ た 実験 に よ れ ば,男 女 高 齢 者 に寄 席 を見 る前 と後 で 「か な 拾 い テ ス ト」 を行 わ せ た とこ ろ,32入 申24人 が,寄 席 を見 て 笑 っ た後 の ほ うの 正 答 率 が 高 い こ とが 分 か っ だ37>。教 師 の 指 導 力 ・授 業 力 に お い て, 一59一 教 師 の3ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 と 笑 い の 効 果 に 関 す るt-一"考 察 ユ ー モ ア や 楽 し さ とい っ た 笑 い の 要 素 は,子 ど も の理 解 力 や 学 習 意 欲 に とっ て も,大 切 な も の だ とい え よ う。 さ ら に,教 師 とい う仕 事 の 使 命 の 重 要 性 を 考 え,笑 い の"人 る こ と を付 け加 え て お きた い 。 入 聞性 の 定 義 は 様 々 だ が,こ 間性 向 上 の 効 果"が あ こでは文部科学省 が中央 教 育 審 議 会 答 申 「新 しい 時 代 を拓 く心 を 育 て る た め に」(!998)の 「豊 か な 人 聞 性 」 の記 述 を参 考 に した い。 こ こで は,「 生 きる 力 」 の核 と な る 「豊 か な 入 間性 」 と は, i)美 しい もの や 自然 に 感 動 す る 心 な どの 柔 らか な 感性 ii)正 義 感 や 公 正 さを 重 ん じる心 iii)生 命 を 大切 に し,入 権 を尊 重 す る心 な どの 基 本 的 な 倫 理 観 iv)他 入 を思 い や る心 や社 会 貢 献 の 精 神 v)自 立 心,自 vi)他 者 と の 共 生 や 異 質 な もの へ の 寛 容 己 抑 制 力,責 で あ る と述 べ て い る 囎 。 この6点 の 違 い を 認 め,尊 任感 を基 に 考 え る と,入 間 性 とは"文 化 の 多様 性 や 性 格 重 し,理 解 す る こ との で き る性 質"と 書 う こ とが 出 来 る 。 入 と分 か り合 お う ・認 め 合 お う とい う精 神 は,物 事 を プ ラ ス ・マ イ ナ ス とい っ た 二 元 的 な もの で捉 え る 姿 勢 で は な い 。 ま た,固 定 観 念 や 先 入 観 ・思 い 込 み か ら脱 却 し,物 事 を 多 面 的 に捉 え る こ との で きる 柔 軟 な発 想 を持 つ こ とが 必 要 に な る。 これ に近 い 見 解 を示 し て い るの が 織 田 正 吉(1979)で あ る 。 織 田 は,世 の 中 す べ て の現 象 はユ ー モ ラス で あ り,そ れ ら をユ ー モ ア と判 断 す る 感 覚 を"ユ ー モ ア感 覚"と 名 付 け た 。 ち な み にユ ー モ ア 感 覚 とは,「 面 白 い 冗 談 が 言 え る」 「入 を よ く笑 わせ る」 とい う もの とは 違 い,よ り人 聞 の 内 面 に あ る笑 い の 感 覚 を表 す 。さ らに織 田 は,「 簡 単 に い っ て し まえ ば,ユ ー モ ア 感 覚 は,あ ら ゆ る 種 類 の 心 の 束 縛 か ら解 放 さ れ る た め の … つ の 能 力 で す 。 そ れ は,固 定 観 念 や先 入 観 を と りの ぞ き,ア イ デ ィア を ひ らめ か せ,表 れ な い で,か 面の現象 に とらわ く され た真 相 や 実 態 を 見 ぬ くこ との で き る知 性 の 一 一種 で す 。」鰯 と述 べ て い る 。 つ ま り入 闘性 は,ユ ー モ ア感 覚 と非 常 に 近 い 性 質 を持 っ て い る の で あ る 。 ユ ー モ ア感 覚 は,入 を 笑 わ せ る 能 力 と は違 っ て,実 技 的 な ス キ ル は 伴 わ な い 。iヨご ろ の 心 構 え と,数 多 くのユ ー モ ア 的事 例(ジ ョー クの 本 ・笑 い に 関 す る書 籍)に 触れ あ うこ とで 身 に付 け る こ とが で きる 。また,多 面 的 な 視 点 を手 に 入 れ る とい う 意 昧 で は,「 異 種 と の交 わ り」(生 ま れ た年 代 ・出 身 地 や 業 種 の 異 な る 入 との 語 ら い)も 効 果 的 で あ ろ う。 教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 向上 に お い て は,と りわ け"ユ ー モ ア感 覚"を 磨 き,入 間性 と して も子 ど もに魅 力 を 与え る教 師 を 目指 す べ きで は な い だ ろ うか 、 、 3-4。 事 例 に み る コ ミ ュ:ケ ー シ ョ ン能 力 と笑 い 「お 笑 い教 師 同 盟 」 で は,笑 3、で 示 した4つ い を 活 か した学 級 経 営 ・授 業 研 究 を 考 え る 中 で,3- の 笑 い の 効 果 を 総 合 的 に分 析 して い る 。 「お 笑 い 教 師 岡 盟 」 代 表 の 上 條 晴 夫 は 「授 業 づ く りネ ッ トワ ー ク」 の 代 表 で もあ る。 上 條 は教 師 の 話 術 に 関 す る著 一60一 創 価 大学 教 育 学 論集 書 を 多 数 出 版 し,テ 立 て,真 第62号:大 嫡 ・矢 島 レ ビで 活 躍 す る お 笑 い タ レ ン トを コ ミュ ニ ケ ー シ 鰯ンの 達 人 と見 面 属な 教 師 で も実 践 で き る 話術 を見 出 す ユ ニ ー ク な 著 書 もい くつ か 著 して い る。 そ の 申 で も,彼 が2000年 に 出版 した 『さ ん ま大 先 生 に学 ぶ一 子 ど もは 笑 わせ る に 限 る一 』 を紹 介 して お きた い 。 こ の著 書 で は,先 生 に扮 した 明 石 家 さん まが,小 た ち と トー ク を 繰 り広 げ る,フ 学生 ジ テ レ ビの 番 組 『や っ ぱ りさ ん ま大 先 生 』 『あ っ ぱ れ さ ん ま大 先 生 』 を 題 材 に,1999年 ∼2000年 ま で に 放 送 さ れ た 内 容 に 摂を 通 し,そ れ ら の 事 例 か ら子 ど もの 心 をつ か む 教 師 の 話 術 を以 下 の12の 項 目 に ま とめ て い る ⑳。 1 子 ど もの 話 を否 定 し な い 2 最 後 ま で 話 を 聞 き逃 さ な い 3 驚 き の リア ク シ 躍 ン を示 す 4 子 ど もの 前 で は イ ス に座 りっ ぱ な しに な らず,動 き躍 る 5 時 と場 合 に 応 じて,子 ど も と対 等 な立 場 に 立 つ 6 簡 単 な 「ネ タふ り」 をす る 7 「余 談 」 で 会 話 に はず み をつ け る 8 相 手 の 言 葉 を繰 り返 す 9 軽 い ッ ッ コ ミを 入 れ よ う () 1 本 気 で 瀞イ シ 隷 し よ う 倭 1 子 ど もの 話 に逃 げ 道 を作 る 9倫 1 お 約 束 の ギ ャ グ を作 る 上 條 は,子 ツ ッ コ ミ(フ ど もの 様 々 な個 性 を あ りの ま ま に 認 め,受 ォロ ワー)の け 入 れ る と 同 時 に,教 師は 立 場 に 回 り,子 ど もを 引 き立 て て い くべ きだ と 主張 す る。 この 著 書 で は,笑 い の 技 術 を も っ て,教 師 の 「協 調 の 関係 」 の コ ミュ ニ ケ ー シ 欝 ン能 力 に 関 す る考 察 が 十 分 に行 わ れ て い る だ けで な く,具 体 的 な 実 践 ア ドバ イ ス も示 され て い る 。 さ らに,個 性 を あ りの ま ま に 認 め,受 け 入 れ る とい う心 が,ま さ に教 師 の 人 間性 を 表 し て お り,笑 い に よ っ て そ の 向 上 が 見 込 まれ て い る 。 上 條 の よ う な,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 と笑 い の 効 果 に 関 す る 具 体 的 な事 例 が,今 後 よ り多 く集 ま る こ とを期 待 した い 。 4ま 社 会 と 同様,教 と め 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ おン能 力 の 問 題 を根 幹 に,そ の 枝 葉 と して,学 校 教 育 の 諸 問題 が 生 ま れ て い っ た。 さ ら に戦 後 か ら社 会 は様 変 わ り し,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ 欝 ンの 在 り方 に お い て も,問 い 直 しが迫 られ る よ う に な っ て い っ た。 しか し 現 状 は 遅 々 と して 進 ん で い な い 。 こ の 状 況 の打 開 を見 出す べ く,本 稿 で は笑 い の 効 果 と コ ミュニ ケ ー シ 野 ン能 力 との 関連 性 に つ い て 考 察 して きた 。 本 稿 を ま とめ る にあ た っ て,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能 力 と笑 い に 関 す る先 行研 一61一 教 師 の コ ミュニ ケ ー シ 融ン能 力 と笑 い の効 果 に関 す る一考 察 究 を見 て きた が,青 砥 弘 幸 の 論 文 か ら多 少 の 記 述 が あ る 程 度 で,そ れ以外 は見当 た ら な か っ た 。 一一方 で,「 お 笑 い 教 師 同 盟 」 を 中 心 と し て,現 場 レベ ル で の 事 例 は 日 々生 まれ て い る 。 今 後 は現 場 で の事 例 を基 に,コ ミュ ニ ケ ー シ 鷺 ン能 力 と笑 い との 関 係 性 を,理 論 と して 構 築 して い くこ とが 必 要 に な る。 ま た,笑 い の 効 果 に つ い て検 討 す る 申 で,笑 い 肉体 は 決 して 万 能 で は な い こ とを再 認 識 した 。 笑 い に は,親 和 性 を 伴 う笑 い もあ れ ば,攻 撃 性 を む き出 しに した 笑 い もあ る。 ま た,笑 い あ う こ とで 協 調 性 が 生 ま れ る裏 で,話 題 に入 れ ず 笑 う こ との で きな い 入 間 を 置 き去 りに す る排 他 性 を 持 っ て い る 。 こ れ を 「笑 い の両 義 的 効 果」 と い う こ と が 出来 る 。 子 ど もに 接 す る 際 に,相 応 しい 笑 い もあ れ ばそ うで な い笑 い(下 ネ タや 差 別 的表 現 な ど)も あ る。 こ れ ば か りは,過 去 さ ま ざ ま検 討 され て きた 笑 い の 分 類 を参 考 に,適 切 な活 用 をす る ほ か な く,や は り最 終 的 に は,笑 い を扱 う もの の"入 間性" で あ り,ユ ー モ ア 感 覚 が 問 わ れ て くる もの と考 え られ る。 最 後 に,子 ど もの 「私 灘遊 ぶ と こ ろ」 の 場 の ゆ くえが 気 に な る とこ ろ で あ る 。 笑 い が な く,教 師 に抑 圧 さ れ た学 校 空 問 で は,お そ ら く 「私 篇遊 ぶ と こ ろ 」 の 場 は 生 まれ な い 。 だ か ら と言 っ て,「 私 灘遊 ぶ と こ ろ」 の 場 が 消 滅 し た わ け で は な い 。 次 第 に 子 ど もは 教 師 の 臼の 届 か な い と こ ろ で 「私=遊 ぶ と こ ろ」 の場 を作 りhげ る だ ろ う。 家 庭 に も,教 師 に も 羅の 届 か な い 場 所 に あ る子 ど もの 楽 しみ … 。 そ れ は あ た か も,ノ ー トの切 れ 端 に そ っ と書 か れ た 落 書 き とい っ た もの か ら,学 校 裏 サ イ トや い じめ とい っ た もの を も連 想 させ る。 こ う した子 ど も の 問題 行 動 を含 め,教 師 の コ ミュ ニ ケ ー シ 瞬 ン と笑 い の研 究 が さ らに発 展 す る こ と を期 待 した い 。 註 (1)こ こ で は,「 人 間 が お か し み を 感 じ る 現 象 」 と い う 広 義 的 な 意 味 合 い で 用 い, ユ ー モ ア とほ ぼ 同 義 に 用 い る こ とに す る。 (2)『 笑 い と 治 癒 力 』(松 田 銑 訳.岩 ミ ン 剤 の 大 量 投 与 の み で,膠 ン ズ は 心 筋 梗 塞 で 倒 れ,そ 波 現 代 文 庫.!976)で は,大 い に笑 う事 とビ タ 原 病 を 完 治 した 体 験 談 が 書 か れ て い る。 後 に カ ズ の 時 も 同 様 の 方 法 で 克 服 し,そ の体 験 談 も書 籍 化 し た。 (3)2010年4月 (4)「 よ り,森 下 伸 也 が 会 長 と な っ た。 口本 笑 い 学 会 」 ホ ー ム ペ ー ジ に よ る も の 。(2010年10月 現 在) http://WWW.age.llejp/X/warai/index・html (5)関 西 大 学 ・2007年 度 重 点 領 域 研 究 モ ア ・コ ミュ ニ ケ ー シWン 「お お ら か な 信 頼 社 会 の 構 築 を め ざ し た ユ ー の 総 合 的 研 究 」(代 表:竹 内 洋)の 一 環 と して 開発 が 進 め られ た 。 (6)青 砥弘 幸 「「教 室 ユ ー モ ア 」 研 究 の 枠 組 み に 関 す る 考 察 」(広 島 大 学 大 学 院 教 育 一62一 創 価 大 学教 育 学 論 集 第62号:大 購 ・矢 島 学 研 究 科 紀 要 ・第 一 一 …部 ・56号.2007年.p!!9-k28所 収) (7)有 田和正 『 ユ ー モ ア 教 育 で 子 ど も を 変 え よ う 』 明 治 図 書.!993年 (8)青 砥弘幸 「学 校 教 育 に お け る 「ユ ー モ ア 性 」 の 育 成 に 関 す る 一 考 察 一 ア 能 力 」 と い う概 念 の 提 案 一 」(『笑 い 学 研 究 』(16)H本 p59-67矧 (9)織 「ユ ー モ 笑 い 学 会.2009年. テ∫1又) 田正吉 『笑 い と ユ ー モ ア 』 筑 摩 書 房 。!979年 ※ 引 用 は!986年 (10)日 。pl 出 版 の 文 庫 本 か ら の も の で,p246-248 本 経 済 新 聞(20!0年4月26日 夕 刊)「 学 校 に 落 語 家 ら 派 遣 」 (1ユ)聯://www舳lw。9・.jp/gexieral/seid・/sy・kun・ (12)村 松 賢一 (!3)齋 藤孝 疑/yes/01.h翻 『い ま 求 め ら れ る コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能 力 』 明 治 図 書 。1998年 『コ ミ ュ ニ ケ ー シesン カ 』 岩 波 新 書.2004年.p22-28 (14)h£tl}://www.mex皇.go.jp/b -.meix}/houdo擁/21/02f-icsFiles/afieldfile/2009/02/26/i246124 コ 」.pdf (ユ5)産 経 新 聞(2007年5月1}ヨ)。 度 に 実 施 した 独 立 行 政 法 人 メ デ ィ ア 教 育 開 発 セ ン タ ー の2004年 「日 本 語 力 テ ス ト」 に よ る も の で あ る 。 (k6)『 退 職 理 由 の ホ ン ネ ラ ン キ ン グ/リ ク ナ ビNHXT』 h£tP://riktmab量 一xxext.yahoo.co,jP/Ol/hOitne/hOimel.hti:ril (17)http://www.mhlw。g・.jp/teukei/saikiRfhw/ka酬08鰯ex.h磁1 (18)メ デ ィ カ ル ・ ト リ ビ ュ ー ン/MedicalTrib#lle(2007奪 三7月26N付) Qg)井 上 宏 『笑 い 学 の す す め 』 世 界 思 想 社.2004年.p86-87 (20)茂 木健 ・ 郎 (2!)井 上 宏 『笑 い と 入 間 関 係 』 講 談 社 現 代 新 書 。 ヱ984年 。p200-203 (22)志 水 彰 ・角 辻 豊 ・中 村 真 (23)申 島英 雄 (24)詳 し く は 以 下URL「 『笑 う脳 』 ア ス キ ー ・メ デ ィ ア ワ ー ク ス.2009年 。p12-21 『入 は な ぜ 笑 う の か 』 講 談 社 、1994年.pユ48-!49 『脳 を 活 性 化 す る 「笑 い 」 の 力 』 小 学 館.2007年.p86-91 ガ イ ア の 夜 明 け ホ ー ム ペ ー ジjを 参照 の こ と http:〃www.tv-tokyo.co.jp/gaia/backRumber/previewO90929.html (25)マ ル コ ム ・ク シ ュ ナ ー 『笑 う ビ ジ ネ ス マ ン ー ア メ リ カ ン ・ユ ー モ ア の 極 意 』T8S ブ リ タ ニ カ.1992年 (26)矢 野宗 宏 『お 笑 い で 支 店 長 に な り ま し て 』 遊 タ イ ム 出 版 。2007年 (27)h亡tp://www.mext.go.jp/b..me}iu/shingi/12/yousei/toushin/970703。htm (28)河 村茂 雄 『教 師 の た め の ソ ー シ ャ ル ・ス キ ル 』 誠 信 書 房.2002年 (29)山 脇 由貴子 『モ ン ス タ ー ペ ア レ ン トの 正 体 一 ク レ ー マ ー 化 す る 親 た ち 一 』 中 央 法 規 出 版 。2008年 (30)小 浜 逸郎 論 社.2001年 (31)上 「 教 師 の 現 象 学 一 近 未 来 の 教 師 像 一 」(『 こ こ ろ の 科 学 』(98)・li本 評 。p3護 一39所 収) 條 晴 夫 『さ ん ま 大 先 生 に 学 ぶ 一 子 ど も は 笑 わ せ る に 限 る 一 』 フ ジ テ レ ビ 出 版 。 一63一 教 師 の 濃 ミ ュ ニ ケ ー シ 召 ン能 力 と 笑 い の 効 果 に 関 す る ・ 回考察 2000年 。P8 (32)村 瀬 学 『子 ど も の 笑 い は 変 わ っ た の か 』 岩 波 書 店 、 ヱ996年.p60-75 (33)家 本 芳 郎 『私 語 ・お し ゃ べ り の 教 育 判 学 事 出 版 。 ユ990年.p26-30 (34)hゆ:〃www.mext.go.jp/c・mp・Rent/a..lkaeit"/educati・n/detaH/」csE:iles/afielclfile/2009/ 12/25/1288{32__i3.pdf (35)保 坂 事 「教 員 の メ ン タ ル ヘ ル ス 問 題 を 構 造 的 に と ら え る 」(軸 紀 要 』(52)・ (36)毎 第 …・ 法 規.2009年.p129-133所 臼 新 聞(2009年12月26日)に (37)(23)とf司 て,文 収) 部 科 学 省 が 示 した 見 解 に よ る も の 警:。P70-76 (38)hゆ:〃www.lnext、9・,ipfbrmmeixi/shing/l.2/chuu・u/t・ (39)(9)と 同=書 。P304 (40)(3!)と 岡 霧勲。 縫shi鑓/980304.h纐 *本 稿 は,矢 島 が 執 筆 を担 当 し、 全 体 の 調 整 を大 噛 が 行 っ た。 一64一 本 教 育 経 営 学 会 Teacher's Teacher's communication and effects skills communication Motoshi skills Osaki Nobuo and of laughter Ca: of laughter Yajima There is an increasing interest in the effects of laughter not only in the Japanese society but also in the Japanese school education. In contrast, the decline of communication skills among Japanese has been becoming more serious since 1990's. Therefore, Japanese teachers are suffering from communicating with students and their parents. In this paper, I investigated the relation between the improvement in teacher's communication skills and the effects of laughter. In my opinion, just improving teacher's communication skills do not solve the current problems in Japanese education: what is required most is the reconsideration of the role of teacher's communication in education. As a result of the analysis, I found four effective effects; affinity, easing of tensions, improvement of teaching skills, and progress of human nature. — 65 —