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第 117 南極特別保護地区管理計画
南極半島、マルグリット湾、エイヴィアン島
はじめに
南極半島、マルグリット湾にあるエイヴィアン島(南緯 67 度 46 分、西経 68
度 54 分、0.49km2)が南極特別保護地区(ASPA)に指定された主な理由は、
環境的な価値と島の多様な海鳥の繁殖地として保護するためである。
エイヴィアン島は、南極半島中央の西側のアデレイド島の南 400m にあるマル
グリット湾北西に位置する。ここは、当初、英国の提案を経て、1989 年の勧告
XV-6 で SSSI No30 として指定された。島の北西海岸にある避難小屋近くにあ
る一画を除いて、島と潮間帯が含まれた。当初の指定での保護すべき価値は、
島にいる豊富で多様な海鳥の繁殖であった。つまり、ミナミオオフルマカモメ
(Macronectes giganteus)のコロニーは、この種の繁殖南限として知られている
うちの 1 つであること、ズグロムナジロヒメウ(Phalacrocorax atriceps)も南限
に近いこの島で繁殖していることであった。このようなことから、本地区は、
鳥類学的に極めて重要であり、不必要な人為的な攪乱から保護するのに値する
と考えられた。
エイヴィアン島は SSSI として指定されたが、最終的には英国の提案の後に
1990 年の勧告 XVI-4 により SPA No21 として再指定された。境界について
は、当初の SSSI と近かったが、北西海岸の避難小屋近くの区画も除外するこ
となく島全体とその潮間帯を含むものであった。決定1(2002)により ASPA
No.117 として再指定されたのち、ASPA 管理計画が措置1(2002)によって承
認された。
本地区は南極保護地区システムの範疇では、干渉に敏感な反応を示すオオフル
マカモメを含む7種の海鳥の繁殖地を保護する考えに基づいている。周辺の
ASPA でこのように多様な海鳥繁殖を保護している地域はない。決議3(2008)
で、南極保護地域を系統的に環境—地理的なフレームワークを用いて分析する動
態モデルであり、議定書付属書 V の 3(2)項に記載されている環境ドメイン分析
を行うことを推奨した(Morgan et al., 2007 も参照のこと)。このモデルによると、
エイヴィアン島はドメイン E(南極半島とアレクサンダー島主氷原)と記述さ
れる。同じカテゴリーでは、ASPA No. 113、114、126、128、129、133、134、
139、147、149、152、ASMA 1 及び 4 がある。しかしながら、エイヴィアン島
の大部分は氷原ではないため、このドメインは必ずしも本地区の代表的な環境
を含んでいる訳ではない。Morgan et al.に特別に記載されてはいないが、エイ
ヴィアン島はドメイン B(南極半島中部−北部地方地質)を代表とする地域とし
て分類される方が適当かもしれない。ドメイン B を含む他の地域は ASPA No.
108、115、129、134、140、153 と ASMA 4 である。その ASPA は南極保護生
物地理区(Antarctic Conservation Biogeographic Region, ACBR)3、北西南
極半島の域に入る(Terauds et al., 2012)。
1. 保護を必要とする価値の記述
ASPA 指定理由となる本地区の特筆すべき環境価値は以下の通り:
・パーマー領域で最大である 77,515 のつがいのアデリーペンギン(Pygoscelis
adeliae)のコロニーがある。
・670 つがいのズグロムナジロヒメウ(Phalacrocorax atriceps)のコロニーは繁
殖南限に近く、南極で知られているコロニーのうちで最大のものの 1 つである。
・たった 1 つの小さな島に 7 種の海鳥が互いに非常に接近して高密度に繁殖
し、夏期間は繁殖する鳥たちで島全体が占有されるという特性を有する、南極
半島で知られている唯一の場所であること。
・ミナミオオフルマカモメ(Macronectes giganteus)のコロニーが、南極半島
にある 2 つの大きなコロニーのうち 1 つであること。
・ミナミオオセグロカモメ(Larus dominicanus)のコロニーも大きく、繁殖南限
に近いこと。
・エイヴィアン島は、蘚苔類 Warnstorfia laculosa の生育範囲としては南限で
あること。
2. 目的
本管理計画の目的は以下の通り:
・本地区に不必要な人為的攪乱を生じさせないようにすることにより、本地区
の価値を損ねず、大きなリスクをもたらすことを避けること。
・外来の植物、動物、微生物を本地区内に持ち込むリスクを最小限にすること。
・本地区内における動物相に病気を引き起こす可能性のある病原菌を持ち込む
リスクを最小化すること。
・他の場所ではできないやむを得ない場合に、本地区の自然生態系システムを
損ねないよう科学調査ができるようにすること。
・将来の研究のため、自然生態系を保護すること。
3. 管理活動
本地区の価値を保護するために以下に示す管理活動を講じなければならない。
・本管理計画のコピーを、カルバハール基地(チリ;南緯 67 度 46 分、西経 68
度 55 分)、ロゼラ研究基地(英国;南緯 67 度 34 分、西経 68 度 07 分)、サ
ン・マルティン基地(アルゼンチン;南緯 68 度 08 分、西経 67 度 06 分)で
入手可能にしておく。
・管理計画は少なくとも5年毎にレビューし、必要に応じて改訂する。
・訪問団体は、管理計画に記載されている本地区の保護すべき価値、予防措置、
緩和策について国家当局から十分に報告を受けること。
・本地区で行われる全ての科学的・管理的活動は環境影響評価の下、環境保護
に関する南極条約議定書付属書Ⅰの条件に従って行うこと。
・管理計画のコピーは本地区近辺を訪問する船舶や航空機でも入手可能にして
おくこと。
・本地区に上陸する、または上空を通過する航空機のパイロットは本地区の位
置、境界、制限について通知されること。
・研究目的あるいは管理目的として本地区内に立っている目印、看板、その他
の建造物は、安全かつ良好な状態を保ち、必要がなくなった際には除去される
こと。
・環境保護に関する南極条約議定書付属書Ⅲの条件に従って、廃棄された装
置や物品は出来る限り地区の環境へ負の影響を与えないように除去されること。
・本地区で行われる国家レベルの南極プログラムは上記の管理活動を確実にす
るため、互いに相談し合うこと。
4. 指定の期間
指定の期間は無期限である。
5. 地図及び写真
地図 1: ASPA No. 117 のエイヴィアン島とマルグリット湾。カルバハール(チ
リ)、ロゼラ(英国)、サン・マルティン(アルゼンチン)の位置を示している。マル
グリット湾内のその他の保護地区(ASPA No. 107 のエンペラー島(ディヨン諸
島))、ASPA No. 115 のラゴテルリ島、ASPA No. 129 のロゼラ岬)の位置につい
ても示している。挿入図は南極半島におけるエイヴィアン島の位置を示してい
る。
地図 2: 地形図。地図の仕様は、 投影法:ランベルト正角円錐図法、標準緯線:
第 1 南緯 67 度 30 分 00 秒 第 2 南緯 68 度 00 分 00 秒、中央経線:西経 68
度 55 分 00 秒、緯度原点:南緯 68 度 00 分 00 秒、測地基準系:WGS84、
データ:平均海抜、等高線の間隔:5m、精度:±5m(水平方向)、±1.5m(垂直
方向)。
地図 3: 繁殖を行なう生物の分布図。巣とコロニーの位置は±25m の誤差があ
る。Poncet (1982)より。地図の仕様は、 投影法:ランベルト正角円錐図法、標
準緯線:第 1 南緯 67 度 30 分 00 秒 第 2 南緯 68 度 00 分 00 秒、中央経線:
西経 68 度 55 分 00 秒、緯度原点:南緯 68 度 00 分 00 秒、測地基準系:
WGS84、データ:平均海抜、等高線の間隔:5m、精度:±5m(水平方向)、±
1.5m(垂直方向)。
6. 本地区の概要
6(i)地理学的経緯度、境界の標示及び自然の特徴
概要
エイヴィアン島(南緯 67 度 46 分、西経 68 度 54 分、0.49km)は、アデレ
イド島の南西端の南 400m にあるマルグリッド湾の北西に位置する(地図 1)。
島は長さが 1.45km、幅が最大のところで 0.8km、形はおおよそ三角形である。
また、島は岩が多く、北部は一般的に 10m 以下の低地、中央は約 30m、南部
は 40m まで上り、ここで岩や氷の斜面が最大 30m 海に急降下する。北部や東
部の海岸には立ち入り可能なビーチもいくつかあるが、海岸線は不規則で沖合
の多くの小島も含めて岩が多い。島には夏、大抵氷がなく、繁殖を行う多くの
鳥類にとっては特に適した生息地となっている。水はけのよい北斜面はズグロ
ムナジロヒメウ(Phalacrocorax atriceps)に適している。砕けた岩や割れ目のあ
る丸石は、アシナガウミツバメ(Oceanites oceanicus)のような小さな巣を作る
鳥に適している。岩の多い高地は、ミナミオオフルマカモメ(Macronectes
giganteus)に適している。雪のない地面が広がっているところではアデリーペン
ギン(Pygoscelis adeliae)に適している。後者の条件は、ナンキョクオオトウゾ
クカモメ(Catharacta antarctica)やナミオオトウゾクカモメ(C. loennbergi)、ミ
ナミオオセグロカモメ(Larus dominicanus)の生息にも適している。
境界線
指定区域は、エイヴィアン島全体、潮間帯、沖合の小島や岩、本島の海岸線
より 100m 以内の周辺海域のバファーゾーン(海水がある時はこれを含む)から
なる(地図 2)。境界については、海岸が海域の境界と一目でわかるので設置して
いない。
気候と海氷
エイヴィアン島についての広範囲な気象学的記録はないが、1.2km はなれた
アデレイド基地(英国、現在はチリのカルバハール基地)1962-74 年の記録か
らは、2月の日平均気温が3度(最高 9 度)、8月は-8 度(最低-44 度)である
ことが報告されている。1978-79 年の通年観察からも、似た傾向が報告されて
いる(Poncet and Poncet, 1979)。この年の島の降水は主に雪であり、大部分は
8月から10月の降雪であるが、夏にも時々降雪や降雨がみられる。
マルグリット湾は冬は凍っているが、程度と海氷の性質は季節間変動がある。
本地区の海氷の規模と頻度、持続性にもかかわらず、エイヴィアン島近辺でポ
リニアが頻繁にみられ、10月以降局地的に不凍域が観察された。加えて、周
辺の強い潮流が、エイヴィアン島の1年のほとんどを不凍地帯にし、複数の種
が地表にアクセスしエサを得ることを可能にしている。本島は特に強風地帯で
はなく、1978-79 年は平均 10 ノットであった。しかし、アデレイド島からの強
い斜面下降風が月に1〜3日に間に数回あり、積雪量の減少を促し、海氷を沿
岸から遠ざけるように移動させている。また、ポリニア形成にも役立っている。
比較的不凍環境が多いことは鳥類コロニー形成に重要な意味を持つ。
地理、地形及び土壌
エイヴィアン島の岩盤は、アデレイド島の南西端に一部断層作用で下降した一
帯があり、地層の間に挟まれた石質と長石に富む火山砕屑物の砂岩から成る。
層状の凝灰質砂岩、火山性石質の小石状の砂岩、火山性の砂粒角礫岩もみられ
る。後者は主に火山性沈殿物であるが、他は主に火山由来の物質が改変されて
形成されている。これら一連の物質は、おそらく後期白亜紀にアデレイド島リ
オタード山構造の一部を形成した(Griffiths, 1992; Moyes et al,m 1994; Riley
et al., 2012)。岩盤の露出以外では、地表は主に永久凍土で凍結粉砕した岩から
成る。鳥類の影響を受けた土壌が特に北に広がっており、土壌の有機ピートは
実質的に存在しないが、存在するところは十分に発達しておらず、コケ類の生
育と関係している。いくつかの隆起海岸が見受けられるが、地形学的に記載は
されていない。
河川と湖沼
エイヴィアン島はいくつかの一時的淡水沼があり、その合計は 10,000m2 で深
さはおよそ 40cm、最大の沼は東海岸海抜 5m の沼と、北西海岸の海水位にある
沼である。数多くの小規模の水たまりと雪解け水によって生じた川があり、小
川は沼の近辺の谷を流出する。沼も雪解けの水たまりも冬期には凍る。島の淡
水系は海鳥などの糞堆積物によって有機的に栄養価が高くなり、多くの沼が夏
には葉脚亜網 Phyllopoda、 カイアシ類 Copepoda、 線形動物 Nematoda、 原
生動物 Protozoa、 輪形動物門 Rotifera や緩歩動物門 Tardigrada などの動植物
藻類ベントスで豊富になる。数多くの甲殻類 Branchinecta sp.が観察されてい
る(Poncet and Poncet, 1979)。島の淡水生態系は未だ十分に研究されていない。
鳥類の繁殖
エイヴィアン島には7種の鳥類が繁殖し、これは南極半島の他の地域と比べ
て遥かに多い。いくつかの種は常に高密度で生息し、南極半島で最大の個体数
がこの島に生息している種もある(地図3)。全種の通年に渡る詳細データが
1978-79 年にとられているが、その他のデータは散在している。従って、下記
の記述は主に1季節の観察に基づくものであり、必ずしも長期的な個体群傾向
を示すものではないことを強調しておく。しかし、これが現在入手可能な最良
の情報である。
アデリーペンギン(Pygoscelis adeliae)コロニーは島の北半分と中央東海岸に生
息している(地図3)。当初の管理計画ではこのアデリーペンギンコロニーを「南
極半島最大で当地域の1/3の個体が繁殖している」と記載されていた。ただ
し、近年のデータからはこれは実証されなかった(例:南極半島では1コロニ
ーあたり 12,000 ペア(Woehler, 1993))。しかし依然パーマー領域において最
大の繁殖個体群の一つであることは間違いない。近年の研究ではアデリーペン
ギン個体数がほぼ全域で減少していると述べている(Lynch et al., 2012)。しか
し、エイヴィアン島のアデリーペンギンは、1978 年 11 月 11 日には 36,500 ペ
アであったのが、最近得られたデータからは、77,515 ペア(±5%、2013 年 1
月)と推測された(W. Fraser 私信、2013;Sailley et al., in press)。アデリー
ペンギン個体数の推測は 1998 年 12 月に撮影された空中写真から算出された
87,850 羽(±0.16 S. D.)に基づいている。
1978-79 年の観察からは、アデリーペンギンは10月から4月末まで生息し、
産卵は10月から11月、孵化は12月中旬である。雛の保育集団は1月中旬
で、最初に巣立つ雛は1月の末ごろであった。ほとんどの換羽中成鳥と独立し
た雛は2月の3週目までに島を出発したが、一団は3月から4月に戻ってくる。
島の南西海岸先端には、ズグロムナジロヒメウ(Phalacrocorax atriceps) の巨大
コロニーが3つの集団で記録された(地図3)。しかし、2011 年 1 月 26-27 日
の訪問では、より北の2つの集団は存在しておらず、巣の盛り土の状態も芳し
くなかったため、これらのサイトは放棄されたと考えられる。Stonehouse(1949)
は 1948 年 10 月にはおよそ 300 羽いたと記録しており、1968 年 11 月中旬の記
録でも同じような数であり、そのほとんどは繁殖中であった(Willey, 1969)。
Poncet and Poncet (1979)は 1978 年に 320 ペア、1989 年 1 月 17 日におよそ
670 ペアを確認した(Poncet, 1990)。2001 年の 2 月 23 日には 185 羽の雛が記
録されたが、いくらかの雛は既にその地を出発した可能性が高い。巣はおよそ
250 個確認された。2013 年 1 月中旬から後半は、302 ペアが記録されている(W.
Fraser 私信、2013)。1968 年は、ズグロムナジロヒメウは島に 8 月 12 日から
生息し、11 月から産卵、孵化は 12 月であった(Willey, 1969)。1978-79 年に
は9月から6月まで観察され、産卵は 11 月から最初の孵化が起こる 1 月にかけ
て、雛の巣立ちは2月の 3 週目であった(Poncet and Poncet, 1979)。
オオフルマカモメ(Macronectes giganteus)はエイヴィアン島の南シェットラン
ド諸島の南のコロニーが知られているが、これは南部南極半島地域の繁殖個体
群に生息する2つの大規模コロニーのうちの一つであり、かなりの大きさと考
えられる(1999/2000 年 1190 ペアと推定;Patterson et al., 2008)。1979 年に
は、オオフルマカモメの4つの個体群は主に島の中央と南半分の、隆起した岩
場の先端に生息していた(地図3)。島に生息する個体数について表1に示す。
表1: エイヴィアン島に生息するオオフルマカモメ (Macronectes giganteus) 個体数。
年
個体数
ペア数
雛数
出典
1948
~100
n/a
n/a
Stonehouse, 1949
1968
400
163
n/a
Willey, 1969
1979
n/a
197
n/a
Poncet and Poncet, 1979
1989
n/a
250
n/a
Poncet, 1990
2001
n/a
n/a
237
Harris, 2001
2013
n/a
470
n/a
W. Fraser, 私信, 2013
n/a – データなし.
1978-79 年は、オオフルマカモメは9月中旬から6月頃まで生息していた。こ
の期間、産卵は10月後半から11月末まで、孵化は1月で巣立ちは4月まで
であった。1978-79 年の南半球夏期には、10月の求愛期に繁殖しない個体が
100 羽いたが、その数は季節が進むにつれ減っていった。
1978-79 年、
エイヴィアン島にはおよそ 200 羽のミナミオオセグロカモメ(Larus
dominicanus)成鳥が記録されている。これらは広範囲に生息し、主に隆起した
島の中央部と南部に生息している(Poncet and Poncet, 1979)
(地図3)。1978-79
年の南半球夏期には、大多数の繁殖鳥が10月初めに到着し、11月中旬に産
卵、1月後に孵化していた。詳細なデータは得られていないが、これは本種に
おいてはデータ取得のための人為的干渉が繁殖行動の深刻な妨げとなることを
懸念した上のことである。しかしながら、1979 年1月末ごろには、最大 12 羽
の雛しか確認できず、この時期の繁殖実績は低かったと考えられる。人為的干
渉を含む原因の特定はできなかった。1967 年には、19 ペアと 80-120 羽が記録
されている(Barlow, 1968)。
1978-79 年の計算では、アシナガウミツバメ(Oceanites oceanicus)の島の個体数
は少なくとも数百ペアと算出されている(Poncet and Poncet, 1979)。島のアシ
ナガウミツバメは11月2週目から見られ、産卵と抱卵はおそらく12月中旬
までである。成鳥と巣立ち雛の出発は3月末までにはほぼ終わる。島の北部半
分、岩盤の露出部のほとんどと、南部の平坦な岩場の傾斜がこの種の望ましい
生息地である。
1978-79 年 に は 25 か ら 30 ペ ア の オ オ ト ウ ゾ ク カ モ メ (Catharacta
maccormicki)がエイヴィアン島で繁殖している。オオトウゾクカモメの巣は島
全体に広がっているが、主に島の中央から東側の、アデリーペンギンコロニー
が見渡せる傾斜に存在する(地図3)。非繁殖個体の大きな集団(およそ 150 羽;
Poncet and Poncet, 1979)が島東側の浅い湖周辺に集まっていたことが観察さ
れている。Barlow(1968)は 1968 年には非繁殖個体は約 200 羽であったと報
告した。2004 年には、880 ペアが記録された(Ritz et al. (2006)内の W. Fraser
私信)。1979-79 年の南半球夏期には、オオトウゾクカモメは10月末から生息
し始め、12月初旬に産卵し、孵化は 1 月末までに終えていた。巣立ち雛と成
鳥は3月末までには出発したが、一部繁殖の遅れた個体については4月中旬ま
で当地に生息していた。同期間の繁殖成功率(1雛当たりの巣数)が記録され
ている。Barlow(1968)は 12 ペアのチャイロオオトウゾクカモメ(Catharacta
loennbergi)を観察したが、この数にはオオトウゾクカモメも含まれているかも
しれない。1979-79 年の南半球夏期、島の南西で繁殖個体1ペアが記録されて
いる。この記録は本種繁殖において南極半島南限の記録である。数羽の非繁殖
個体が同季節に記録されている。
他の鳥類種は、マルグリット湾の他の地域での繁殖が認められており、エイヴ
ィアン島にもしばしば訪れることがわかっている。そのような種はナンキョク
アジサシ (Sterna vittata)、 シロフルマカモメ (Pagodroma nivea)、 ギンフル
マカモメ (Fulmarus glacialoides)であるが、これらはエイヴィアン島での巣作
り は 確 認 さ れ て い な い 。 少 数 の ナ ン キ ョ ク フ ル マ カ モ メ (Thalassoica
antarctica)が数回目撃されている。1948 年 10 月にはマダラフルマカモメ
(Daption capense) が観察されている(Stonehouse, 1949)。単独行動のキングペ
ンギン (Aptenodytes patagonicus)とヒゲペンギン (Pygoscelis antarctica) が、
それぞれ 1975 年と 1989 年に目撃されている。
陸上生物
エイヴィアン島の植生はまばらであり、植物相は詳細に記載されていない。
顕花植物は島にはなく、限られた隠花植物と、豊かな地衣類相が見られる。今
日までに、本地区では9種のコケ類と11種の地衣類が同定されている。
記 載 さ れ た コ ケ 類 は
Andreaea depressinervis 、 Brachythecium
austro-salebrosum 、 ギ ン ゴ ケ Bryum argenteum 、 オ オ ハ リ ガ ネ ゴ ケ B.
pseudotriquetrum、ヤノウエノアカゴケ Ceratodon purpureus、ツヤヘチマゴ
ケ Pohlia cruda、ヘチマゴケ P. nutans、Sanionia georgico-uncinata、カギハ
イゴケ S. uncinata、 Syntrichia magellanica 及び Warnstorfia fontinaliopsis
である。後者の種は知られている限りエイヴィアン島が生息南限である(Smith,
1996)。コケの発達は、アデリーペンギンかズグロムナジロヒメウが繁殖してい
ない箇所に限定され、湿ったくぼみか、雪解け水の水たまりに見られる。地区
南の丘にある小さな沼(海抜およそ 30m)の周りには最大 100m2 ほどのコケが
生育している。緑色葉状藻類 Prasiola crispa が島の湿地に広く見られ、コケ類
Cephaloziella varians も確認されている。
エイヴィアン島で確認された地衣類は、Acarospora macrocyclos、コナジョウ
ゴゴケ Cladonia fimbriata、C. gracilis、Dermatocarpon antarcticum、Lecanora
dancoensis 、 Lecidea brabantica 、コフキシロムカデゴケ Physcia caesia 、
Rinodina egentissima、Siphulina orphnina、Thamnolecania brialmontii 及
び Usnea antarctica である。ほとんどの群生は島南部の露出した岩場に見られ
る。
島の小型無脊椎動物相、菌類、バクテリアに関しては十分調査されていない。
ツブトゲダニ科の1種 Gamasellus racovitzai が唯一記載されているのみであ
るが(BAS Invertebrate Database, 1999)、未だ同定されていないトビムシ類
Collembollan (springtail)とダニ目数種が観察されている(Poncet, 1990)。数
多くの線形動物種(主に Plectus sp.) (Spaull, 1973)と菌類1種(Thyronectria
hyperantarctica)が記録されている。
ほ乳類の繁殖と海洋環境
1978-79 年にはウェッデルアザラシ(Leptonychotes weddellii)が一般的にみ
られた。冬期には少なくとも 12 頭以上残り、沿岸氷に上陸していた(Poncet,
1990)。1978 年 9 月最終週には、数頭の子どもが産まれていた。ゾウアザラシ
(Mirounga leonina)は 1969 年 10 月 10 日に島の北東沿岸で子どもを産んでいた
ことが報告されている(Bramwell, 1969)。1998 年 12 月 15 日の空中写真から、
182 頭のゾウアザラシの一団が上陸し、ほとんどが沼の近くにいたことがわか
っている。1978 年の冬には、ヒョウアザラシ(Hydrurga leptonyx)は海岸線に
沿って観察され、1頭は浜上がっていた。数多くのナンキョクオットセイ
(Arctocephalus gazella)が 1997 年 3 月(Gray and Fox, 1997)と 1999 年の 1 月
末(Fox, pers. comm., 1999)、2011 年の 1 月に島上で記録されている。2001 年
2 月 23 日には特に島の中部と北部の浜上と低地に少なくとも 700 頭は生息して
いた(Harris, 2001)。カニクイアザラシ(Lobodon carcinophagus)はマルグリッ
ト湾で通常みられるが、エイヴィアン島では報告されていない。エイヴィアン
島周辺の海洋環境については未だ調査されていない。
人間活動とその影響
エイヴィアン島での人間活動は散在している。最初の訪問は 1948 年の 10 月
で、その時に、英国ストニントン島探検隊がエイヴィアン島の巨大なアデリー
ペンギンコロニーを発見した。その後の訪問は、科学調査、基地滞在人員のレ
クリエーション、ツアー、ロジスティック活動(調査他)などである。1957 年
と 1962 年、それぞれアルゼンチンとチリによって避難場所が設置された(6(iii)
項を参照)。
1968 年には、島の南東に地質学調査隊の2つのグループがおよそ 10 日滞在し
た(Elliot, 1969)。同年、英国海軍水文地理調査隊が島の東海岸に夏中滞在した。
調査用船舶を停泊させるための鎖と輪が北西海岸の小さな湾に設置され、1989
年時点でそれはまだ残っている(Poncet, 1990)。
1969 年、調査隊がひと月ほど島に滞在し、一般的な風邪ウィルスの研究を行っ
た。予防接種した犬を同行させ、基地に戻った(Bramwell, 1969)。エイヴィア
ン島英国基地で行われる調査の期間中しばしば犬が同行するが、その影響はわ
かっていない。
1978-79 年には、2名が1年を通して、ヨットダミアンⅡ号に滞在し、この地
で過ごした。島の自然環境と鳥類相その他の詳細な生物学的調査を行うためで
ある(Poncet and Poncet, 1979; Poncet, 1982; Poncet, 1990)。ヨットは島の北
西海岸の小さな入り江に停泊していた。このヨット調査隊は SPA 指定までの 12
年以上定期的に島に訪問していた。
地図作製調査と空中写真が島全体を対象に 1996-98 年(Fox and Gray, 1997,
Gray and Fox, 1997)及び 1998-99 年(Fox 私信、1999)に行われた。
これらの活動がもたらした影響については知られていないが、繁殖中の鳥類へ
の短期間の干渉、野営地、足跡、時折排出されるごみ、人間由来の汚物、科学
調査用サンプリングと標識など、比較的些少な影響に限られると信じられてい
る。干渉は一時的であるにもかかわらず、人間の訪問により巣の放棄やこの機
会に便乗した捕食者の影響が原因となって卵や雛の損失があったことが報告さ
れている。オオフルマカモメとミナミオオセグロカモメなどのいくつかの種は
特に干渉に敏感であり、巣作りサイクルのある時点では、100m 程度先の人間が
視界に入っただけで巣を放棄したことが報告されている(Poncet, 1990)
。ツア
ー客 100 名の船舶を含む、およそ 140 名が 1989-90 年の夏期にエイヴィアン島
を訪問したと記録にある。訪問者の増加と訪問規定が定まっていなかったこと
から、SPA 指定が迅速に進められた。
もっとも永続的で視覚的にも明らかな影響は、6(iii)記載の、2つの避難所と2
つの灯台であり、それらは繁殖鳥類の近くに設置してある。両方の避難所は 2001
年 2 月と、2011 年 1 月の環境管理訪問中に若干の修復がなされたが、さらなる
劣化が報告されている。2001 年 2 月と 2011 年 1 月鳥類やオットセイが避難所
のゴミの周りにいたことも報告されている。避難所は東海岸に 1957 年に建てら
れ(南緯 67 度 46 分 26 秒、西経 68 度 53 分 01 秒)、風に吹きさらしの状態で、
扉の蝶番は外れて落下しており、南側の壁の土台には大きな穴もある(およそ
0.25m2)。さびた錫や壊れたガラスが地上に散乱している。さびた金属部品(波
状の金属板、柵、張り網線などを含む)、分解された木材の破片、壊れたガラス
が避難所周辺に見られる。小屋の南には腐食した空の 205L ドラム缶が転がって
いる。
1962 年に北西に設置されたより大きい避難所(南緯 67 度 46 分 08 秒、西経 68
度 53 分 29 秒)の状態も芳しくない。この避難所は湿気のための劣化が激しく、
木材や骨組みが曲がり、壁や天井の素材に藻類が付着している。天井の大部分
が崩壊しており、上部に屋根が見える。扉は閉めることができず、密閉するこ
とができない。2011 年 1 月の訪問時、防水シートに覆われたかなりの数の木材
の束が小屋の中に保管されたがその目的はわからない。いくらかの木材と金属
片が小屋の東側に落ちている。
2つの灯台の古い方は使われておらず、その鉄製の建造物は建立しているが、
さびと劣化がみられる。新しい灯台は 1998 年 2 月に設置され、2011 年 1 月時
点では良い状態に保たれている。
6(ii)本地区へのアクセス
・小型ボートの上陸地点は中央部北西海岸(南緯 67 度 46 分 08.1 秒、西経 68
度 53 分 30.1 秒)か、または中央部東海岸(南緯 67 度 46 分 25.5 秒、西経 68
度 52 分 57.0 秒)とする(地図2)。上記地点の海や氷の状態が適当でないとき
は、海岸沿いの他の場所から上陸してもよい。
・海氷のあるときは車両を利用してもよいが上記の上陸地点を使用し、車両は
海岸に停めておくこと。
・小型ボートや車両の、海上の移動経路は特に指定はしないが、許可された活
動に必要な最短のルートを用いること。
・ボートや車両の乗組員は、許可証で認められていない限り、上陸地点近辺か
ら徒歩で移動することは禁じられている。
・一年を通して、航空機での地区への上陸は避けるべきである。
・ヘリコプターの仕様は、必要不可欠な目的のため必須であり(例:建造物の
設置、メンテナンス、除去)、他に実用手段がないときにのみ、認められる可能
性がある。このような場合には、許可証発行前に、繁殖中の鳥類への考えられ
る影響を適切に評価しなければならない。この許可証には、評価結果に基づい
たヘリコプター進入に関する条件を明確に記載しておくこと。
6(iii)本地区内及びその付近における建造物
本地区には 2 つの小さな荒廃した避難小屋と 2 つの灯台がある。避難小屋
の 1 つは 1962 年にチリによって建てられたもので、南緯 67 度 46 分 08
秒、西経 68 度 53 分 29 秒で島の北西の海岸に位置する。もう 1 つは、この
地点から南東へ 650m のところにあり、1957 年にアルゼンチンによって建て
られたもので、南緯 67 度 46 分 26 秒、西経 68 度 53 分 01 秒で東側の海
岸に位置する。2011 年 1 月時点で、両方の小屋ともに修復状況はよくなかっ
た。それらの荒廃がさらに進むと、営巣する鳥類に影響を与える可能性がある。
島の最高点近くの標高約 38m のところには、アデレイド基地の稼動期間中に
英国によって建てられ、ナビゲーション目的で使用されたと思われる古い鉄製
の枠組みがある(南緯 67 度 46 分 35.5 秒、西経 68 度 53 分 25.2 秒)。枠
組みはそのまま立って残っているがさびている。
1998 年 2 月には、チリによって新しい灯台が近くの同じような標高のところ
に建設された(南緯 67 度 46 分 35.3 秒、西経 68 度 53 分 26.0 秒)。これ
はおよそ 2.5×2.5m のコンクリートの土台に立ち、直径約 2m 高さ約 2.5m
の固いシリンダー状の鉄塔でペイントが施されている。もう 1 つの灯台は、保
護用の柵とソーラーパネルが上部に取り付けてある。島には、これら以外の建
造物はない。
1999 年 1 月 31 日に 4 つの調査の杭が設置された(地図 2)。最も南側の杭はナビ
ゲーション用灯台の近くにあり、ケルンで覆われた地盤にある調査用のびょう
からなる。同様の杭が島の北東側の海岸にある低い尾根の高所に設置されてお
り、これもケルンで覆われている。残りの 2 つの杭は調査用のびょうであり、
それぞれの避難小屋の尾根に取り付けてある。
最も近い科学研究用の基地は北西 1.2km のところのアデレイド島南部のカル
バハール(チリ)にある(南緯 67 度 46 分、西経 68 度 55 分)。この基地は
1982 年以降夏季限定施設として 10 月から 3 月までの間稼動してきた。この
期間、通常の収用人数は最大で 10 人であった。それ以前は、施設建設後の 1961
年から 1977 年までの間、英国によって運用されていた。
6(iv)本地区の付近にあるその他の保護地区の位置
エイヴィアン島に最も近い保護地区は、
・ASPA No.107 南極半島のマルグリット湾のディヨン諸島のエンペラー島。
南緯 67 度 52 分、西経 68 度 42 分。南—南東へ 12.5km。
・ASPA No.129 アデレイド島のロゼラ岬。南緯 67 度 34 分、西経 68 度 08 分。
北東へ 40km。
・ASPA No.115 グレアム・ランドのマルグリット湾のラゴテルリ島。南緯 67 度
53 分 20 秒、西経 67 度 25 分 30 秒。東へ 65km(地図1)。
6(v)本地区内の制限区域
なし。
7. 許可証の条件
7(i)一般許可条件
本地区への立入りは適当な国内当局から発給された許可証に沿うものを除き
禁止されている。本地区への立入り許可証を発給する条件は次の通りである。
・他の場所ではできないやむを得ない科学的な理由、あるいは管理活動のみに
対して発給される。
・許可された活動は、管理計画と整合すること。
・いかなる管理活動も管理計画の目的を達成するために遂行するものである。
・許可された活動は地区の自然生態系システムを損ねないものであること。
・許可された活動が本地区の環境及び科学的価値の保護のため環境影響評価プ
ロセスを考慮していること。
・許可証は一定期間を対象に発給されること。
・本地区内では許可証あるいはそのコピーを携帯する。
7(ii)本地区への出入りの経路、経由及び本地区内での移動
・車両(スノーモービル、四輪バイク他)は地区内の上陸が禁止されている。
・全ての移動は徒歩によるものとする。徒歩用経路は許可された活動に沿って
最小限であり、踏査の影響を最小にするべく努力するべきである。
・歩行ルートは繁殖を行う鳥類に対する攪乱を最小にするようなルートとし、
この目的を達成するためにはより長いルートを通って目的地に行くことも必要
となる。
・島の中央部を横断して移動する必要がある場合は、徒歩用のルートを利用し、
最も影響を受けやすい鳥類の繁殖地を避けるようにする(地図 2)。訪問者は営巣
地が年によって変わる可能性があるため、推薦ルートを若干変えた方が好まし
い場合があることを念頭に置いた方がよい。つまり、ルートは案内用としての
ものであり、訪問者は自らがそこにいる影響を最小にするために正しく判断す
ることが求められる。その他の場所については、実行可能で安全な時には、通
常は本地区海岸線沿いのルートを利用することが望ましい。3つのルートが指
定されている(地図2)
:ルート1はチリとアルゼンチンの避難所を結ぶように
島中央部を横断する。ルート2は南の灯台までのアクセスと、そこから中央東
海岸を丘の東斜面までとしている。しかし、2011 年の管理訪問中このルートは
鳥類のコロニーがあることがわかった。その結果、ルート3が指定され、ルー
ト3はアルゼンチン避難所から島西側の細い入り江までを繋ぎ、南西の小渓谷
/傾斜を経て、ズグロムナジロヒメウの放棄されたコロニーのある平坦な地域
に至る(2011 年 1 月時点)。この地点から、ルート3は東の灯台まで続く。灯
台の北およそ 70m にある雪解け水の沼近くでは、コケ類の群生を踏みつけない
ように十分に注意すべきである。
・ミナミオオトウゾクカモメの営巣地(地図 3)への立入りについては、許可証に
示された目的の場合に限る。灯台へ立ち入る必要がある時には(例えばメンテナ
ンスのため)、訪問者はできるだけ指定ルートから外れないようにして営巣して
いる鳥類を避けるようにしなければならい。灯台につながる地区やその周辺の
多くは繁殖を行うミナミオオトウゾクカモメで占有されていることから、かな
り注意を払う必要がある。
・移動はゆっくりとし騒音は最小にし、できるだけ営巣中の鳥類から離れ距離
を保つようにする。
・訪問者は(鳥類の)興奮の兆候に注意し、もし重大な攪乱が認められた時には退
去しなければならない。
・本地区を通過する航空機は最低でも決議2(2004)に含まれる「鳥類集中地区近
辺の航空機運航ガイドライン」に従う必要がある。
7(iii)地区内で実施することのできる活動
・モニタリングを含む必要不可欠な管理活動。
・本地区内生態系に影響を及ぼさない科学的な研究であり、かつ他の場所では
できないやむを得ない理由によること。
・承認を得た研究プログラムに必要とされる最小限のサンプリング。
活動を実施できる回数に関する規制が地区内には適用される。これらは本管理
計画の関係する項に記載されている。
7(iv)建造物の設置、改築または除去
・建造物は地区内に建ててはならない。
・荒廃し崩れている即存の建造物は撤去あるいは修復したほうがよい。
・建造物の設置、修復、メンテナンス、撤去は繁殖中の鳥類に対する攪乱を最
小にするような方法で行なわなければならない。このような活動は繁殖期を避
けるために、2 月 1 日から 9 月 30 日の間に行なわなければならない。
・やむを得ない科学的または管理上の利用により許可された場合を除き、いか
なる構造物も地区に建ててはならない。許可証には前もって期間を記載してお
くこと。
・全ての標識、建造物、科学機器については、国、研究に携わる代表者の名前、
設置年と除去予定日が明らかにわかるようにしなければならない。
・このような物品には、生物や珠芽(例:種、卵、胞子)や非滅菌土(7 (vi)
参照)が付着していないこと。また地区への汚染を防ぐため、環境条件に十分
に耐久できる素材でできていること。
・許可証の期限が切れた機器の撤去も許可証を発行した当局の責任によるもの
であり、許可証の条件に含まれなければならない。
7(v)野営地の位置
本地区内における野営は避けるべきであるが、許可証で示されている目的の
ために必要な時には、一時的な野営については 2 ヵ所の指定野営地で可能であ
る。1 つは、島の中央部東海岸(南緯 67 度 46 分 25.8 秒、西経 68 度 53 分
00.8 秒)で、もう 1 つは本地区の中央部北西海岸である(南緯 67 度 46 分
08.2 秒、西経 68 度 53 分 29.5 秒)(地図 2)。
7(vi)本地区に持ち込むことのできる物質及び生物に関する規制
生きている生物、植物体や微生物を故意に地区内へ持ち込んではいけない。
植物相や生態学的価値の維持を確保するため、基地などの南極の他の地域や南
極外から偶然に微生物や無脊椎動物、植物が持ち込まれることを避けるための
特別の予防措置が取られなければならない。地区に持ち込まれるサンプリング
装置や標識は清潔に滅菌されていること。可能な限り、靴や他の装置は地区に
立ち入る前に清潔に保こと。CEP 外来種マニュアル(CEP, 2011)や南極にお
ける陸上科学研究環境行動規範(SCAR, 2009)に、さらに詳しい規範が記載さ
れている。鳥類の繁殖コロニーが地区内に存在することを視野にいれ、未調理
の乾燥卵入りの食品、鶏肉製品やそれらの廃棄物を本地区あるいは海域へ放出
することはできない。
除草剤及び殺虫剤を持ち込んではいけない。許可証に明記された科学的、管理
的な目的で持ち込む可能性のある化学物質(放射性核種や安定同位体を含む)は、
許可証で許可された活動の終了前又はその時点で地区内から除去しなければな
らない。放射性核種や安定同位体の回収不能の環境への放出は避けるべきであ
る。燃料や他の化学物質は、許可証で許可された場合を除き、地区内で保管し
てはいけない。これらは環境へ放出される危険を極力下げるように保管し取り
扱われなければならない。持ち込んだ物質は指定期間のみとし、指定期間前ま
たは終了時までに除去する。万一物質が放出され、地区へ影響を及ぼすようで
あれば、物質を放置するより撤去するほうが影響が少ない場合に限り、撤去す
ることが望まれる。承認された許可証に含まれていない漏洩や放置が生じた場
合は適当な当局に告知する必要がある。
7(vii)在来の植物及び動物の採捕又はこれらに対する有害な干渉
南極条約環境保護議定書付属書 II に基づいて発給された許可証で認められて
いる場合を除き、在来の植物及び動物の採捕又はこれらに対する有害な干渉は
禁止する。動物に対し採捕または有害な干渉を行う場合は、SCAR の「南極地
域における科学目的のための動物の利用に関する行動規範」
(2011)を最低限の
基準として従う必要がある。
7(viii)許可証の所持者によって地区に持ち込まれた以外の物の収集又は除去
本地区で物品を収集または除去する場合は、許可証に沿っており、また科学
的、管理目的に必要な最低限の範囲で行われるべきである。本地区の価値を害
する人工の物品で、許可証保持者や当局によって持ち込まれたもの以外の物品
は除去されるべきである。ただし、地区内に放置するよりも除去する方の影響
が少ない場合に限る。このような場合は国家当局に通知し、許可を得ること。
提案された土壌や土着の動植物相のサンプリングが、エイヴィアン島のそれら
の分布や量に重要な影響を与える懸念がある場合、許可証は発行されるべきで
はない。死んで見つかった動植物個体サンプルは、分析や査察のため、許可証
に事前許可がなくても除去してもよい場合がある。
7(ix)廃棄物の処理
人間の排泄物を除く全ての廃棄物は、本地区から撤去しなければならない。
望ましくは人間の排泄物は地区から撤去すべきである。それが不可能な場合、
海洋投棄してもよい。
7(x)管理計画の目的の達成が継続されることを確保するために必要な措置
1.許可証は、科学調査、モニタリング及び査察の実施を目的にした本地区への立
入りに対して発行すること。分析や保護措置を行うため少量のサンプル採取す
ることを含む。
2. 全ての長期モニタリング地点は適切に表示され、マーカーや標識を維持する
こと。
3. 科 学 調 査 は SCAR の 「 南 極 に お け る 陸 上 科 学 調 査 の 環 境 行 動 規 範 」
(SCAR2009)に沿って行われる必要がある。
7(xi)報告に必要な事項
各訪問に際し、許可証の代表者が活動内容を記載した報告書を可能な限り早
く、遅くとも訪問後6ヶ月以内に適当な当局に提出すること。この報告には、
ASPA 訪問報告書フォーム、南極特別保護地区管理計画準備ガイド(付属書2)
に推奨されている内容を含むこととする。国家当局は、地区内で行われた、許
可証に含まれない活動/措置について報告を受ける必要がある。可能な限り、
国家当局は、管理計画に従って、訪問報告書コピーを締約国に提出し、管理計
画のレビュー及び本地区の管理に役立てる。締約国は可能な限り、利用記録を
保管し、管理計画のレビュー及び地区の科学的な利用に役立てられるように、
原本あるいはコピーを公的に利用可能な公文書保管所に保管する。
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地図 1: ASPA No. 117 のエイヴィアン島とマルグリット湾。カルバハール(チ
リ)、ロゼラ(英国)、サン・マルティン(アルゼンチン)の位置を示している。マル
グリット湾内のその他の保護地区(ASPA No. 107 のエンペラー島(ディヨン諸
島))、ASPA No. 115 のラゴテルリ島、ASPA No. 129 のロゼラ岬)の位置につい
ても示している。挿入図は南極半島におけるエイヴィアン島の位置を示してい
る。
地図 2: 地形図。地図の仕様は、 投影法:ランベルト正角円錐図法、標準緯線:
第 1 南緯 67 度 30 分 00 秒 第 2 南緯 68 度 00 分 00 秒、中央経線:西経 68
度 55 分 00 秒、緯度原点:南緯 68 度 00 分 00 秒、測地基準系:WGS84、
データ:平均海抜、等高線の間隔:5m、精度:±5m(水平方向)、±1.5m(垂直
方向)。
地図 3: 繁殖を行なう生物の分布図。巣とコロニーの位置は±25m の誤差があ
る。Poncet (1982)より。地図の仕様は、 投影法:ランベルト正角円錐図法、標
準緯線:第 1 南緯 67 度 30 分 00 秒 第 2 南緯 68 度 00 分 00 秒、中央経線:
西経 68 度 55 分 00 秒、緯度原点:南緯 68 度 00 分 00 秒、測地基準系:
WGS84、データ:平均海抜、等高線の間隔:5m、精度:±5m(水平方向)、±
1.5m(垂直方向)。
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