...

サントリー天然水奥大山ブナの森工場における 温排熱を利用した潜熱

by user

on
Category: Documents
16

views

Report

Comments

Transcript

サントリー天然水奥大山ブナの森工場における 温排熱を利用した潜熱
―― 実 施 例 ――
サントリー天然水奥大山ブナの森工場における
温排熱を利用した潜熱蓄熱システムの導入事例
三機工業㈱ 技術開発本部 研究開発部 建設設備グループ 山 下 植 也
サントリー天然水㈱ 奥大山ブナの森工場 エンジニアリング部 山 本 浩 也
■キーワード/蓄熱システム・温排熱利用・環境配慮型工場・運転実績
同社ミネラルウォーター事業の新たな生産拠点として,
1.はじめに
ペットボトル容器成型から充てん包装・品質管理までを
省エネルギー,CO2排出抑制の観点から排熱の回収利
一貫して行っている。
用は有効な手段である。一方,熱の発生時間と利用時間
同工場は,環境配慮型工場の実現をめざして,生産ラ
は必ずしも同じというわけではなく,利用できない熱は
インで利用される高温度の温熱から,生産ラインへ導入
余剰排熱として捨てられてしまう。このような余剰排熱
される外気の温調や,冬季に事務所エリアの暖房で使わ
を有効利用するためには,エネルギーの調整装置として,
れる低温度の温熱までを一貫して利用する『熱のカスケ
蓄熱槽がシステムに有効な構成要素となることが知られ
ード利用』を計画した。生産ラインで再利用された後,
ている。
屋外に放出されていた温排熱の一部を定置式の潜熱蓄熱
今回,排熱の有効利用を目的とし,ミネラルウォータ
システムを利用して蓄熱し,低温度の事務所空調や生産
ーの製造工場に潜熱蓄熱システムを導入した。潜熱蓄熱
ラインに再利用している。生産ラインの排熱発生
(回収)
システムは,潜熱蓄熱材(phase change material,PCM)
と加熱要求(利用)の時間的な「ずれ」を蓄熱によって吸
を充てんした蓄熱槽に排熱を高密度に蓄熱し,排熱回収
収・調整できるため,年間を通して安定した温排熱の有
における熱の発生と利用との間の時間的・熱量的なずれ
効利用が可能となる。
を解消するシステムである。
本報では,同工場に導入した潜熱蓄熱システムの概要
と運用実績について報告する。
<工場概要>
工場所在地 鳥取県日野郡江府町大字御机字笠良原
敷 地 面 積 約27万fl
2.工場概要と計画コンセプト
完 成 2008年5月9日
大山隠岐国立公園の南側に位置するサントリー天然
水・奥大山ブナの森工場
(写真−1)
は,西日本における
生 産 能 力 年間1,500万ケース
生 産 品 目 「サントリー天然水<奥大山>」
(2Î,500È)
写真−1 建物外観
ヒートポンプとその応用 2009.3.No.77
― 14 ―
―― 実 施 例 ――
熱回収系統では温水が循環されており,排熱の発生時
3.潜熱蓄熱システム
に三方弁を開き,65∼80℃の高温水を熱交換器へ供給
3−1 システム概要
する。蓄熱槽系統では,熱交換器と蓄熱槽との間で熱媒
潜熱蓄熱システムは,生産装置で発生する排熱を回収
し,ボイラ予熱と暖房用温水として利用する。暖房用熱
油が一定流量で常時循環されており,排熱回収時には蓄
熱,排熱利用時には放熱が行われる。
源として通常はボイラを使用しているが,排熱を回収利
熱利用系統では空調要求時に温水を循環し,三方弁を
用することでボイラの負荷を低減することができる。ま
開くことにより,回収した熱を約55℃の温水として利
た,蓄熱槽を利用することで,生産装置の稼働中に排熱
用することができる。また,熱交換器を介して熱回収系
を蓄熱し,生産装置が稼働しない夜間や休日などに蓄え
統から熱利用系統へ直接熱利用を行うことが可能である。
られた熱を暖房用温水として利用することが可能となる。
この場合,蓄熱槽が熱のバッファとなり,回収熱量が利
3−2 システムフロー
用熱量より大きければ蓄熱槽への蓄熱が行われ,利用熱
図−1に当工場における温排熱利用の概念図を,図−
量が回収熱量より大きければ蓄熱槽からの放熱を行う。
システムの特長を以下に示す。
2に潜熱蓄熱システムのフローを示す。生産装置からの
排熱を回収する熱回収系統,回収した熱を蓄熱・放熱す
A
熱の回収・利用が同時に可能である
る蓄熱槽系統(1,400kWh×2基),および暖房用温水と
専用の熱交換器を中心に熱回収側と利用側それぞれ
して熱を利用する熱利用系統で構成されており,各系統
の温熱ループを接続することで,熱の回収・利用を同
は専用の熱交換器によって接続されている。
時に可能とする。
高
120℃ 温
生産装置
コンプレッサ
回収
(1,400kWh×2基)
熱回収ループ
ポンプ
潜熱蓄熱槽
80℃
蓄 放
熱 熱
ポンプ
ポンプ
56℃∼62℃
熱利用ループ
利用
潜熱蓄熱槽で回収・利用の時差を調整し,
今まで捨てられていた温排熱を事務所・
生産エリアの空調熱源やプロセス予熱に
有効利用する
生産装置 空調機
55℃
低
24℃ 温
写真−2 潜熱蓄熱槽外観
図−1 温排熱利用の概念図
熱媒油の流れ
蓄熱槽系統
蓄熱槽
1,400kWh
熱媒油
生産装置
ポンプ
熱回収系統
蓄熱槽
1,400kWh
熱交換器
潜熱蓄熱材
(酢酸ナトリウム三水和物)
熱利用系統
空調機
図−3 潜熱蓄熱槽
図−2 システムフロ−図
― 15 ―
ヒートポンプとその応用 2009.
3.
No.77
―― 実 施 例 ――
B
蓄熱できる。蓄・放熱時の熱交換は,蓄熱槽内と熱交換
熱回収側のループでは,生産装置の温排熱と,これ
器の間で熱媒油を約30„/hで循環させ,蓄熱槽下部から
まで捨てられていたコンプレッサの冷却熱を高温(約
供給された熱媒油とPCMが直接接触による熱交換を行
80℃)
で回収する。
うことにより行う。蓄熱材と熱媒体の直接接触による熱
C
生産ラインの温排熱を回収
時間的変動を調整
交換では,PCM中を液滴状となった熱媒油が上昇して
熱回収側と熱利用側の,温度と熱量の時間的な変動
いくため,熱交換面積を大きくとることが可能であり,
を吸収・調整でき,熱利用側へ安定した熱供給が可能
高い熱出力を得ることが期待できる。
である。
D
夜間・休日でも対応可能
4.運転実績
潜熱蓄熱材の高密度蓄熱によって,生産装置の稼働
4−1 蓄熱運転
図−4・5に,蓄熱運転時の温度と蓄熱速度を示す。
しない夜間や休日など,熱回収ができない場合も,温
データ間隔は5分である。熱回収系統の約60∼78℃の温
熱を長時間利用することができる。
水と,蓄熱槽内を循環する熱媒油が熱交換し,熱媒油温
3−3 蓄熱槽
写真−2と図−3に本システムに設置した潜熱蓄熱槽
度は55℃から72℃まで上昇している。熱媒油温度が約
を示す。潜熱蓄熱槽にはPCMと熱媒油が充てんされてお
62℃まではPCMの潜熱域での蓄熱と考えられ,温度上
り,比重差により下部にPCM,上部に熱媒油が位置して
昇が緩やかである。62℃以上では顕熱域の蓄熱となり,
いる。蓄熱槽内には,加熱時と冷却時におけるPCMと熱
温度の上昇量が大きくなる。蓄熱運転は約45時間行わ
媒油の体積変化を補う空隙を設けている。PCMは融点
れ,蓄熱槽2基を合計した蓄熱速度は約50∼100kW,積
が約58℃である酢酸ナトリウム三水和物(CH 3 CO 2 Na・
算蓄熱量は約3,000kWhである。
3H2O)を使用しており,70℃程度の低温排熱を効率よく
(℃)
(℃)
85
70
熱回収系統
熱交換器入口温度
80
65
75
70
55
温
50
度
60
45
50
45
6:00
熱媒油
熱交換器出口温度
60
温
65
度
55
熱媒油
熱交換器入口温度
熱媒油
熱交換器出口温度
40
熱回収系統
熱交換器出口温度
熱媒油
熱交換器入口温度
12:00 18:00 0:00
6:00
12:00 18:00
35
0:00
熱利用系統
熱交換器出口温度
熱利用系統
熱交換器入口温度
30
9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00 3:00
6:00
図−4 蓄熱時の温度変化
図−6 放熱時の温度変化
(kW)
300
(kW)
300
250
250
200
蓄
熱 150
速
度
100
200
放
熱 150
速
度
100
50
50
0
6:00
12:00 18:00
0:00
6:00
12:00 18:00
0:00
6:00
図−5 蓄熱速度
ヒートポンプとその応用 2009.3.No.77
0
9:00 12:00 15:00 18:00 21:00 0:00
図−7 放熱速度
― 16 ―
3:00
6:00
9:00 12:00
6:00
9:00 12:00
―― 実 施 例 ――
4−2 放熱運転
図−6・7に,放熱運転時の温度と放熱速度を示す。
5.おわりに
当工場は昨年の春から本格的な生産を開始し,中国・
熱媒油温度が放熱開始時の67℃から放熱終了条件の53℃
に低下するまで熱利用することができた。放熱開始後,
四国・近畿地方に製品を供給している。本システムによ
熱媒油温度が約57℃になるまでは熱媒油,PCMの顕熱域
る工場全体の年間排出CO2の削減効果は約4%(試算値)
であり直線的に下降する。その後,約1℃の温度上昇が
を想定しており,現在,運転データの収集・解析と運転
見られ,PCMの潜熱域に入る。潜熱域では,熱媒油温度
ノウハウの構築や効果の検証を継続的に行っている。
また,当工場内では冬季の積雪を雪室に貯蔵して冷熱
の下降速度は小さく一定温度での放熱が可能であるため,
熱利用系統の温水が約54℃で安定して供給されているこ
を利用する『雪冷房システム』も導入しており,温排熱
とが確認できる。放熱運転は約25時間行われ,蓄熱槽2
と自然冷熱の利用による環境負荷低減技術を通年で実施
基合計の放熱速度は約100kW,積算放熱量は約2,500kWh
している。なお,本システムの一部は,平成19年度環
であり,計画熱量に対する効果は約89%であった。
境省補助事業「地球温暖化対策技術開発事業」によるも
4−3 回収熱量と空調熱量
のである。
本システムは温度条件や放熱要求などを判断して蓄熱
と放熱が自動で行われており,生産装置の稼働中は熱回
収系統から熱利用系統へ直接熱利用している。
図−8は2008年3月の運転データの例で,1時間ご
との回収熱量と空調熱量を示す。回収熱量は,空調用と
して直接利用され,余剰分が蓄熱槽へ蓄熱されている。
<参考文献>
∏ 定塚徹治他:潜熱蓄熱搬送システム「トランスヒートコンテ
ナ」実施例,ヒートポンプとその応用,No.75,2008.3
π 佐々木賢知他:酢酸ナトリウム三水和物を用いた潜熱蓄熱槽の
性能試験,空気調和・衛生工学会大会学術講演論文集,2008.9
∫ 山根唱司他:潜熱蓄熱システムの導入事例,空気調和・衛生
工学会中国・四国支部技術発表会講演資料,2008.11
空調熱量が回収熱量を上回ると,蓄えられた熱を放熱し,
ボイラ負荷を低減している。また,利用熱量(蓄熱槽か
らの放熱+直接利用)は最大で約150kWである。このと
き,空調熱量の約68%を補っており,本システムによ
る排熱の有効利用が確認できる。
(kWh)
400
350
■ 回収熱量(蓄熱槽へ蓄熱)
□
□ 回収熱量(空調熱量へ)
■
300
回
収
熱
量
250
200
150
100
50
0
(kWh)
400
■ ボイラ負荷
□
□ 利用熱量(蓄熱槽から放熱)
■
□ 利用熱量(直接利用)
■
350
300
空
調
熱
量
250
200
150
100
50
0
12:00
18:00
0:00
6:00
12:00
18:00
図−8 回収熱量と空調熱量
(2008年3月)
― 17 ―
ヒートポンプとその応用 2009.
3.
No.77
Fly UP