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観光客ヴェネツィア

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観光客ヴェネツィア
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履修授業名:
コミュニケーション論
レポート課題:
MANGA,ANIME を通して論じる比較文化
ANIME、MANGA は、日本文化独自の表現様式(メディア)として、世界中に
受け入れられつつあります。そのことの意味を、アニメ作品の分析を通し
た比較文化論として論述してください。
理論設計の基軸として、授業で取り上げた、●大人向け、●暴力、性表
現、●科学技術もの、●様式化された表現、などの評価視点(比較の軸)
を参考にして、自分の論点を明確にし、ユニークな日本文化論となるよう
にチャレンジしてください。
論じることを楽しみましょう!
量の目安:
A4 版(1200 字程度/ページ)×5 ページ
構成:
1) 取り上げる対象の解説 (アニメにかかわる、具体的な作品や社会現
象など)
2) 比較研究の軸 (自分はどのような観点から対象を取り上げるか)
3) 導かれる、日本文化の基本構造についての解釈 (論述の本体)
4) 全体についての反省
学 籍 番 号 :0718548
氏
名
:山崎 美佳
提 出 日 :2009 年 8 月5日
<目次>
内容
1.ARIA ......................................................................................................................... 2
a)作品解説 ...................................................................................................................... 2
b)作者について............................................................................................................... 2
2.マンガ技法から見る ARIA 作品論 ................................................................................ 2
a)リアルな世界観 ........................................................................................................... 2
b)視線誘導 ...................................................................................................................... 3
c)登場人物の視点 ........................................................................................................... 5
d)圧縮と解放 .................................................................................................................. 5
3.導かれる日本文化の基本的構造について ....................................................................... 6
4.結び ................................................................................................................................. 6
参考文献・引用 ...................................................................................................................... 7
2
1.ARIA
a)作品解説
『ARIA』
(アリア)とは日本の漫画家、天野こずえの代表作である。
『月刊コミックブレ
イド』
(マッグガーデン)にて連載されていた作品で、単行本は全 12 巻。ドラマ CD・アニ
メ・小説・ゲーム等のメディアミックス展開が行われている。2005 年にアニメ化され、2006
年には第 2 期が、2008 年 1 月~3 月まで第 3 期がテレビ東京などで放送された。OVA 等も
発売されている。2008 年 7 月 26 日には、ドラマ CD・読切り漫画付でアニメ第三期のパー
フェクトガイドブックが発売された。また、英語版、イタリア語版、ドイツ語版、スペイ
ン語版、中国語版、韓国語版、インドネシア語版、タイ語版も出版されている。アメリカ
でも『ARIA』が ADV Manga により出版されていたが、売り上げが伸びず迷走状態が続き、
最終的に『ARIA』3 巻までで翻訳が打ち切られてしまったが、その後のファンの要望で
TOKYOPOP が英語版とドイツ語版を AQUA も含め翻訳出版することが決定した。
単行本 1 冊で 1 つの季節を描く形態をとっており、1 冊には本編 5 話と巻によっては番外
編(Special Navigation)が収録される。緩やかな季節、時間の流れこそあるものの、基本
的に 1 話完結(各話完結)型である。
ARIA の舞台は、イタリアのヴェネツィアをベースに造られた未来都市ネオ・ヴェネツィ
ア。主人公とされる水無灯里は、地球(マンホーム)から一人前のウンディーネ(水先案
内人:観光客向けのゴンドラ漕ぎ)を目指すため、ネオ・ヴェネツィアのある水の惑星 AQUA
(アクア)へやってきた。この物語は、水先案内人を目指す水無灯里と、その周りをとり
まく人々との四季折々の生活を描いた話である。
b)作者について
天野 こずえ(あまの こずえ、本名同じ、1974 年 5 月 26 日 - )は日本の女性漫画家。
旧ペンネームは天野 梢(読みは同じ)。代表作は『ARIA』・『浪漫倶楽部』など。2008 年
11 月より『あまんちゅ!』を連載中。
1993 年、『アース』にて第 6 回ビッグルーキー大賞佳作・ビッグステップ賞受賞。
1994 年、『前夜祭』(『フレッシュガンガン』春季臨時号)でデビュー。
2001 年、『月刊ステンシル』にて『AQUA』を連載。
2002 年、エニックスお家騒動時にマッグガーデンへ移籍。
同年、掲載誌を『月刊コミックブレイド』に移し『ARIA』と改題して連載を再開。
2005 年、アニメシリーズ第 1 期『ARIA The ANIMATION』放送。
2006 年、第 2 期『ARIA The NATURAL』放送。
2007 年、OVA『ARIA The OVA〜ARIETTA〜』発売。
2008 年、第 3 期『ARIA The ORIGINATION』放送。同時期に『ARIA』が全 12 巻で連載
終了。
同年、11 月より『月刊コミックブレイド』で『あまんちゅ!』を連載開始。
(一部 Wikipedia より)
2.マンガ技法から見る ARIA 作品論
a)リアルな世界観
この作品は背景がとても美しく、よく描き込んであり、実際にヴェネツィアに存在する
広場や、シンボル、イベント等が作品の中で使われている。例として『ARIA』Navigation03
ため息橋という話では、16 世紀に架けられたヴェネツィアの橋の 1 つであるため息橋や福
音史家マルコのシンボルといえる獅子の像などが描かれている。
3
右が ARIA の中に出てきたため息橋で、左が実際にヴェネツィアにあるため息橋である。
こうして比べてみると、とてもリアルで、細かく描き込まれているのが分かる。そしてこ
の美しい背景をみていると実際にその場にいるような感覚に陥ってしまう。これはもちろ
ん背景の美しさもあるのだが、その見せ方にも特徴があるということに気がついた。
b)視線誘導
惹き込まれる世界観、その理由を探るべく注意して ARIA を読んでいたら、あることに
気がついた。それは、ARIA は毎回必ず絵画のような見開き1ページから2ページの大きさ
のコマが入っているのだ。そしてこの大きなコマに向かって時間の流れが緩やかになって
いく。それは夏目房之介が提唱しているマンガの技法、視線誘導からも見取ることができ
たので解説してきたいと思う。
マンガでは、“コマの枠が人物や背景のもつ方向、街の中を右から左へ歩くとか、向こう
から手前にくるとかいった空間のありかたを支えている。逆に言うとコマは、読者の視線
を時間的・空間的に秩序だてて運ぶ支えである。”1)そして、そのコマの中にキャラクター、
セリフ、オノマトペ(擬音語や擬態語)等が入ることによって読者の視線は自然に、物語
が進む方向へと動いていく。
基本的な視線誘導の例として、このようなものがある。
同じコマ割りでも左側はのんびりとした印象を受け、右側の方はせわしない印象を受ける。
つまり読者が見る“視線ラインの角度でスピード感、意味合いが変わる”2)のだ。
これを ARIA に当てはめて考えていく。まずは、
『ARIA』 Navigation12満開の森の桜
の下より物語序盤のピクニックの目的地へ向かっている場面を見てみる。
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初めはキャラクター同士の会話も多く、この半ページだけで目的地に到着しかけているこ
とから分かるように時間の流れも速いことが分かる。また、視線誘導(右図)も細かく移
動しており、ピクニックへの楽しみ、ドキドキする気持ちが表れている。
次に1枚絵とその前のページを見てみる。
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コマ数も序盤と比べて減っておりセリフも少ないことが分かる。そして、視線の移動も大
きな移動ではなくゆるやかな移動となっている。また、木の所に行くまでが細かく描かれ
ており、何コマも使っていることから時間の流れが緩やかになってきていることが分かる。
そして、一枚絵だ。この一枚絵はページをめくった所に描かれており、セリフも書かれて
いない。この 1 枚絵のところで時間の止まったような奇妙な感覚になるのは、それまでの
セリフやオノマトペ、コマ数、コマの大きさが反映された視線誘導によって導かれたもの
だったのである。
c)登場人物の視点
『ARIA』は先にも書いたが、実際にその場でキャラクターとともに同じ場所で、同じも
のを見ているような感覚に陥る。それはキャラクターの主観を通してこの物語が描かれて
いるからではないだろうか。そしてキャラクターを用いてこの確立された ARIA の世界観
を描写していっているからではないだろうか。それらをマンガ論では同一化技法という。
同一化技法とは、漫画研究家である竹内オサムがその著作『マンガ表現学入門』の中で提
唱した言葉であり、映画の主観ショットという技術(カメラが映す映像を「登場人物の視
点から撮影したもの」として見立て、登場人物の視線の向きを、観客の視線とほぼ一致さ
せることのできるカメラワークを指す。)を漫画に援用したものだと定義されている。ARIA
の中でもこの技法はよく使われており、完璧な同一化技法ではないが、このコマはキャラ
クターの視点から見ているだろうと予測を立てることのできるコマはいくつもある。こう
した一人称視点の活用により、読者とキャラクターの目線が一致していく。また、同一化
技法をつかってマンガを描く、ということは、そのキャラクターを通して見た世界を描く
ということだ。これは、そのキャラクターの内面を写しだすということにつながるのでは
ないだろうか。内面を写しだすということは、そのキャラクターに人間味を与えるという
ことだ。人間臭くなったキャラクターはより一層読者に近付く。よって、そのキャラクタ
ーになりきり、感情移入して読んでいた読者は、実際にはその場に居ないが、キャラクタ
ーと同じものを見ているような感覚に陥り、キャラクターが感動するところで同じように
感動を共感することができるのである。
d)圧縮と解放
c)では登場人物の視点と重なることによりキャラクターへの心理的移入が深まるとい
うことについて述べたが、読者を物語に引き込む技法としてはこのようなものもある。そ
れは、夏目房乃介が提唱するコマの圧縮と解放だ。先ほども使ったページで検証してみた
い。
まず最初のコマでは縦に開放されており読者の視点もキャラクター達の後ろから見るよ
うな形となっている。2 コマ目までは後ろから見ているような描き方であり、この2コマ目
での視点は、後ろのキャラクターの視点なのかもしれない。キャラクターたちと同じよう
な視点から見ることにより、読者は心理的にキャラクターになっていく。3、4コマ目は
一転してキャラクター達を前からとらえている。読者の視点がキャラクターの前に行くこ
とによって読者は興味をひかれていく。また、2~4コマ目は線路とキャラクターと木し
か描かれておらず、横に圧迫されているような感じがする。5コマ目で引き寄せられ、今
ま小さかったキャラクターが大きく描かれている。また、読者はキャラクターの表情やオ
ノマトペなどのコマ上の情報から、キャラクターの心に変化があったことを読み取り、意
識が集中し、次のコマへのさらなる期待を持つ。そしてめくった次のページで、1ページ
全て使った解放のコマがある。このコマでは人物は小さく描かれ、全体的に開放されてい
るような感じを受ける。この圧縮されたコマから解放されたコマへの流れによって読者の
視線は急に解放されたように感じ、時がとまったような不思議な感覚になるのである。
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解放
圧縮
解放
引きよせ
3.導かれる日本文化の基本的構造について
夏目房乃介は“日本のマンガは、ある意味で世界一社会的抑制の弱い状況で発展してき
たように見える。”とその著書『マンガ学への挑戦』で述べている。3)たしかに、日本に
あるマンガは、色々なジャンルのマンガがあるし、数も豊富だ。よって、あまり抑制はさ
れてこなかったのだろう。これは、海外のコミックスに対する社会的な考え方と比べるこ
とで明らかになることであるが、海外では規制されている表現が日本では抑制されていな
い。それにより、日本は独自のマンガ文化を築き上げてきた。日本の漫画家たちは、自由
に表現することができる社会で、各々の技術を駆使し、表現をする。また、読者も制限さ
れることなく各自が読みたいと思うマンガを読むことができる。これにより、マンガを読
みなれた読者は、その表情や言動などからキャラクターの気持ちや性格を理解する力が付
く。作者も、制限されることなくマンガを描くことで、さらに技術が高まり、読者に伝え
る力が強まる。これはやはり、マンガ文化の根底に自由に表現できる社会が確立している
からであろう。そういった社会的抑制の弱い状況が海外とはまた違った日本独自の文化を
つくりあげてきたのだ。
4.結び
全体の感想として、もう少し時間に余裕を持って取り組めばよかったと思った。また、
レポートを書く際にマンガの技法を研究し、その技法と実際に取り上げたマンガを比較し
てみるといった作業はとても楽しく、作者は全てを意識していなかったとしてもキャラク
ターと読者の視線を同一化させるような描き方をしていたり、コマを圧縮し解放させ感動
させるといった技術を使っているのはすごいと思った。また、セリフ、オノマトペ、コマ
の大きさや形、キャラクターの配置によってどれだけ読みやすく心理的移入のしやすいマ
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ンガになるのかということがわかった。絵だけで人気のあるマンガとは違い、本当に売れ
ていたり、人気があったりするマンガには少なからずこういった技法が組み込まれている
のだろうと感じた。そして私は今までマンガをただ眺めていただけだったのではないかと
感じた。背景の描き込みやマンガの造り込み方をよく見てマンガを読んでいくという事が
本当にマンガを読む、ということなのだと思った。こうして勉強できたので次回からは、
そういった観点にも気をつけて読んでいきたい。
参考文献・引用
1) 夏目房乃介(1997)『マンガはなぜ面白いのか‐その表現と文法』-P135
2)「黒猫」
http://ameblo.jp/kuroneko-side-b/entry-10155036290.html 漫画描方 ②視線誘導より
3)夏目房乃介(2004)『マンガ学への挑戦』-P145
書籍
夏目房乃介(1997)『マンガはなぜ面白いのか‐その表現と文法』
夏目房乃介(2004)『マンガ学への挑戦』
竹内オサム(2005)『マンガ表現学入門』
山本おさむ(2008)『マンガの創り方‐誰も教えなかったプロのストーリーづくり』
牧野圭一、上島豊(2007)『視覚とマンガ表現』
web
「Wikipedia-ARIA」
http://ja.wikipedia.org/wiki/ARIA
(2009/7/30アクセス)
「Wikipedia-天野こずえ」
http://ja.wikipedia.org/wiki/天野こずえ
(2009/7/30)
「黒猫」
http://ameblo.jp/kuroneko-side-b/entry-10155036290.html
(2009/8/2)
「マンガナビ」
http://manganavi.jp/featured/susume/20070921/index.php?p=1
(2009/8/3)
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