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438.マイクロソフト創業者の百年事業は「脳 - a

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438.マイクロソフト創業者の百年事業は「脳 - a
438.マイクロソフト創業者の百年事業は「脳」 ポール・アレン氏の探求心
日本経済新聞2012.10.4.
小部屋の暗幕のなか、チタン・サファイア・レーザー光線が、ある小さな、非常に驚くべき対象に照
射される準備が整っていた。生きたマウスの頭蓋骨に外科的に埋め込まれた0.5ミリほどのガラス
窓である。もし成功すれば、マウスが白いランニング・ボールのような丸い装置の中でコンピュータ
ー画面を見ながら走る間、レーザーは1000兆分の1秒間、照射される。特殊な彩色加工によっ
て、マウスがある特定の脳細胞を使うと、そこが緑色に光る。それを光子1個のレベルで検出でき
るカメラでとらえるのだ。
ポール・アレン氏は有人宇宙旅行の次に脳科学で革命を起こそうとしている。
(アレン脳科学研究所内で)
まるでスタートレックのような技術である。マウスの頭蓋骨内に絡まったように存在する小さな組
織で、このげっ歯動物の目から入ってくる神経インパルスによって相互作用が発生する。この過程
を解読できれば、科学者たちはほ乳類の脳が世界を認識する様子を初めて目の当たりにすること
になる。
二次的な成果もある。この奇妙な機械を見つめるポール・アレン氏は珍しいことに満面の笑みを
たたえていた。ポール・アレン氏、59歳。マイクロソフトの共同創始者であり、IT分野での草分け的
存在としての功績をまるで矮小(わいしょう)化するかのような、医学分野の「マンハッタン計画」、ア
レン脳科学研究所に5億ドルをつぎ込んでいる。同研究所はシアトルのフリーモント地区の3棟の
ビルに分かれて入居しており、主にマウスのレーザー装置のような研究装置の開発に注力してい
る。このマウスのレーザー装置があれば、科学者は人間の頭蓋骨の中の柔らかい肉質が、どのよ
うに人の心という深淵で神秘的な創造力を生み出すのかを理解できるのだ。
「かつてプログラマーだった者として、私は今でも脳がどう働き、情報がどう伝達されるのか、本当
に興味がある」。運河の見える会議室で行われた久方ぶりのインタビューの中で、アレン氏はこう
説明した。「神経科学を少しでも勉強すると、すべての事象はすべての他の事象とつながっている
ことに気づく。脳は、脳の中の“収納箱”にたまっている物をすべて使っているようなのだ。収納箱の
中にあるのは、例えば、今見ているものや聞こえるもの、温度、過去の経験などだ。脳はこうした素
材すべてを駆使して、動物として次にどう行動すべきかを決定している。それはマウスでも人間で
も同じだ」。
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好奇心と科学的な野心に支えられた大きな仕事だ。命には限りがあり、神経細胞ははかないという
事実に彼自身が直面してきたこともあり、アレン氏の意欲はますます高まっている。6月、学校の教
師でアレン氏に本と学問への情熱を教え込んだ母、フェイ・アレンさんがアルツハイマー病を患った
末に他界した。アレン氏は声を詰まらせながら語った。「愛する人が、人格や人としての存在を形作
るものをゆっくりと失っていくのをみても、私たちには何もできないんだ」。アレン氏自身もステージ
4の非ホジキンリンパ腫と戦っている。致死率の高い血液のがんで、現在は小康状態という。取材
の最中にも自分が所有するスポーツチームに関する電話をかけるなどアレン氏はエネルギーに満
ちあふれ、自身の功績を力説してみせた。
アレン氏がアレン脳科学研究所で最初に1億ドルをつぎ込んだのは、マウスの脳内の遺伝子の
働きを示すコンピューター上の巨大なマップだった。これを駆使し、科学者たちは人間の多発性硬
化症や記憶、摂食障害の原因となる遺伝子の位置を正確に指し示した。次に1億ドルを投入したの
は、同様のマップの人間の脳版で、脳の働きに関する新しい理論の構築に役立っているほか、発
育途中のマウスの脳と脊髄についても同様のマップを作成した。これらのマップは、現在では世界
中の神経科学者の必須アイテムとなっている。
アレン氏は現在、米国で20番目の富豪で150億ドルの資産を保有する。彼は同研究所で単なる
研究装置の開発にとどまらず、トップレベルの神経科学者を数人雇って、3億ドルをかけたプロジェ
クトに乗り出している。その1つが、マウスの脳の視覚野の働きを分析し、神経細胞が脳全体でどう
働いているかを解明するというものだ。他のプロジェクトでは、脳のすべての細胞を隔離し、幹細胞
の発達を観察するという。科学者たちによると、おそらく1000 個の構成要素があるとみられるが、
全体像はまだ解明されていない。「ソフトウェアの世界でのリバース・エンジニアリングの手法だ」と
アレン氏は説明する。
脳科学のプロジェクトへ強い投資意欲をみせるアレン氏の元には、科学者たちが次々と集まって
きている。「ポールは僕のヒーローですよ」と語るのは、デビッド・アンダーソン氏。カリフォルニア工
科大学の教授でアレン氏にマウスのマップ作りを最初に提案した人物だ。「科学の分野で、ほとん
どの慈 善家がやらないようなことを、ポールはしてくれている。彼は科学の力を信じており、好奇
心の赴くままに動いている」。
しかし、彼の新しい壮大な計画が何か実を結ぶのか、保証の限りではない。「アレン研の第1段階
の案件は本当にうまくいった」と語るのは、マサチューセッツ工科大学教授として広範囲にわたる脳
研究に携わり1987年にノーベル賞を受賞した、利根川進氏だ。しかし、アレン氏の産業界流のア
プローチで、脳が意識というものをいかに生み出すのかという謎を解き明かすことができるのだろ
うか。「これは脳の研究のなかで、最も大きな未解決のテーマの一つだ 」と利根川氏は 言う。「解明
できるかどうか、私にもわからない」。
この30年間、健康問題がアレン氏のキャリアに影を落としてきた。アレン氏は1982年、ホジキン
リンパ腫を克服した後でマイクロソフトを去り、戻ることは無かった。ビル・ゲイツ氏がマイクロソフト
を20世紀の最も重要な位置を占める企業に育て上げた一方で、アレン氏は、同社の株式を大量保
有したまま、何10億ドルもの大金を様々な分野に投資してきた。プロスポーツ・チーム(バスケット
ボールのポートランド・トレイル・ブレイザーズとフットボールのシアトル・シーホークス)、ケーブル
テレビ会社(チャーターコミュニケーションズで、アレン氏は80億ドルの損失を被った)、そして研究
機関(営 利目的で設立されたインターバル・リサーチ。2000年に閉鎖)である。世界初の民間有人
宇宙船の会社や地球外生物の探査会社もあった。シアトル名物の1つ、EMP音楽博物館にも投資
した。同博物館はもともとエレキギターの熱狂的ファンがシアトル出身の故ジミ・ヘンドリクスを記念
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して設立したものだった。 世界最大級のヨット「タトゥーシュ」は300フィート(約90メートル)の大き
さを誇り、水深6フィート(約2メートル)の日よけ付きプールを備え、フランス産大理石の暖炉付きと
いう豪華仕様。これにも投資した。
アレン氏が神経科学の大プロジェクトを検討し始めたのは1990年代の終わり頃だった。彼はそ
のころ、シアトルのバイオ技術企業への投資で少々損失を出していた。その1つはロゼッタ・インフ
ァーマティクス社という会社で、アレン脳科学研究所のマウス脳のマップ「マウス・ブレイン・アトラ
ス」 作りの前身といえる遺伝子研究をしていた。がん研究者で同社の経営責任者であったステファ
ン・フレンド氏は、「アレクサンドリア図書館の脳研究データ版」について延々議論したことを覚えて
いる。フレンド氏はDNA構造の発見でノーベル賞を受賞したジワトソン氏がアレン氏の背中を押し
たようだ。ニューヨークのロックフェラー大学かサンディエゴのソーク研究所のような研究機関を作
ったらど うか。そして優れた科学者を集めるんだ、とワトソン氏はアレン氏にアドバイスした。アレ
ン氏は少しためらった。というのも10億ドルという金額もあるし、インターバル・リサーチを閉鎖した
記憶もあったからだ。インターバル・リサーチでアレン氏は科学者を集め過ぎ、各プロジェクトを完
成できなかったのが、失敗の理由の一つだった。
しかし、産業界も無視できない力をもつヒトゲノム配列の研究に刺激され、アレン氏は何か似たよ
うな研究に投資したいと思うようになった。 「私は自分自身のことを、世界中の科学者の研究が一
気に前に進むようなことをやってのける能力がある人間だと思っている」――。アレン氏は自らこう
述べる。
アレン氏はいわゆるブレーン・ストーミング会議を主催することを決めた。最初はシアトルで、続い
て科学者たちと一緒に巨大ヨット「タトゥーシュ」に乗船して2回のクルーズを実施した。このときの
招待客には、ワトソン氏や、神経科学者でノーベル賞受賞者のリチャード・アクセル氏、リーランド・
ハートウェル三世らがいた。科学者たちはそれぞれ自分の関心事項に近いアイデアを提案。心理
学者で言語学者でもあるスティーブン・ピンカー氏は「社会分子」研究所で神経学と行動学を研究す
ることを提案した。他の科学者たちは線虫やら霊長類を使った動物実験に注力したいと主張した。
アイデアが採用されたのは、カリフォルニア工科大の神経科学者で遺伝学者、アンダーソン氏。
内容は「マウスの脳における遺伝子の働きを示すマップ作成」。マウスも人間も同様に、1つの細胞
には2万の遺伝子が存在する。心臓の細胞が脳の細胞と異なるのは、遺伝子の使われ方が違うか
らだ。科学者は、コンピューターがハードディスクを読み込むようなイメージで、遺伝子コードを読み
解くことができる。1つの遺伝子コードを活用するには、細胞は中心に存在するDNAにある遺伝子
コードを伝令RNAに変換する。科学者たちはRNAのレベルでの解析を進めていた。つまり、マウ
スの脳のどの部位がどの遺伝子を使っているのかを解明することは、神経科学者が遺伝子の役割
を研究するにあたり、大いに参考になる。
ェイムズ・ワトソン氏とアレン氏を引き合わせたのだった。
アレン氏によると、参加した科学者たちは、それぞれに自分の見解はもっていたにも関わらず、こ
のプロジェクトに賛同した。「これは面白そうだと思ったのは、この研究には今までに誰も挑戦した
ことが無く、達成できそうだと思われたし、もしデータベースが完成すれば、世界中の神経学者に大
きな恩恵をもたらすと考えたからだ」とアレン氏は指摘する。これはまさしく、マイクロソフトでアレン
氏が果たした役割に似ている。彼はマイクロソフトで、ソフトウエア作成を助けるエミュレータを開発
したのだが、今回は神経科学者向けに開発ツールを作成したのだ。
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アレン氏の母は大の本好きで、好きな本を100冊挙げてと言われても、165冊までしか絞り込め
なかった人だった。クロスワードパズルも楽 しんでいた母はある日突然、今しがた言ったことさえ
忘れてしまうようになった。2003年はじめに、アレン氏の母はアルツハイマー病と診断された。ア
レン 氏は日記に「胸が痛い」と記し、すぐに1ルを寄付してアレン脳科学研究所を開設した。
慈善家の中には、資金を建物やインフラに投ずる人もいる。それ以外の慈善家は、資金を必要と
する人に直接投資する。アレン氏は脳科学に関しては、才能に投資しているようだ。手始めに、ア
レン氏はロゼッタ社で遺伝子研究をしていたアラン・ジョーンズ氏を引き抜いて採用、マウス脳のマ
ップ「アレン・ブレイン・アトラス(アレン版脳マップ)」作成に従事させた。それから間もなく、アレン氏
はロゼッタ社を買収した。
著名教授たちを呼び込む代わりに、ジョーンズは大学院を休学中だとか大学での学問を終え企業
へ就職する前の若い科学者たちを60人集めた。マウスの脳は冷凍され、自動化された機械で薄く
裁断された。裁断された脳一枚ずつは、顕微鏡のプレパラートにうまくセットできた。技術者たちは
裁断された脳を一枚ずつ、RNA溶液に浸す。この溶液に浸すことで、あるRNA配列をもつ細胞が
特定の色に染色されていった。1枚から検出できる遺伝子は一つだけ。1匹分の脳からは6つだけ
である。つまり、アレン版脳マップを完成させるには4000匹のマウスが必要だった・こうして2004
年12月、アレン版脳マッ プはウェブ上で無料公開され、2006年に本格的な完成をみた。完成版
では25万カットの脳の裁断面の8500万枚の画像が見られる。これは600テラバイトにのぼるデ
ータベースで、2003年の全インターネットと同水準のデータ量だ。
マウスの脳マップは産業界でも学問の世界でも、あっという間に神経科学者たちの標準的なツー
ルとなった。2006年には、アレン脳科学研究所の外部の科学者がこのマップを使って、人間の多
発性硬化症、摂食障害、記憶障害にかかりやすくする原因となる遺伝子を見つけた。ジョンソン&
ジョンショ ンの脳科学研究開発責任者、フセイニ・K・マンジ氏は、同社の研究者たちはこのマップ
の遺伝子データを活用してプロジェクトを完成させたと話す。MITのエド・ボイデン氏は、マップ上の
遺伝子をチェックして、どんな実験をするべきかを判断できるという。アレン脳科学研究所のマウス
たちの遺伝子が、米国で最も有名なマウスたちになった。
研究所での仕事以外では、この時期はアレン氏にとっては暗黒期だった。2008年には不整脈で
人工弁置き換え手術を受けた。1カ月後、今度は肺に水がたまり再度手術を受けた。もう片方の肺
に水がたまってしまったころ、担当医から非ホジキンリンパ腫の診断を受けた。リンパ腫はリンパ
節に広がっていた。彼は化学療法によるひどい倦怠(けんたい)感に耐えながら、自身の回顧録
「アイデアマン」を口述筆記させた。同じ頃、彼が投資していたケーブルテレビ会社、チャーター・コ
ミュニケーションズは倒産に追い込まれた。
脳科学研究所が爆発的に拡大していったことで、彼は病気を一時的にだが忘れられた。アレン氏
は科学者たちに質問を浴びせ、研究の道筋を描い て行った。マウスの脳マップの成功を受け、彼
は再び1億ドルをさらに難しい研究に投じた。人間の脳マップ作成である。マウスに比べ300倍の
大きさで、細 胞の数は1000倍もある。
脳の裁断と彩色の装置は見直しが必要だった。もっと困難なのは人間の脳自体の入手がきわめ
て難しいということだった。1000人分の脳を使 うのではなく、マップは10人未満の脳で作成しなけ
ればならなかった。さらに、その脳はけがや病気でダメージを受けずに、寿命前に亡くなった人の
ものでなければなかった。
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4年後、6人の脳が寄贈され、4人分はある程度まで解析が行われた。このプロジェクトは 2012
年中に完了する予定だが、2010年にウェブ上に公開された最初の脳画像は、すでに科学的な研
究結果を生み出している。これまでのところ、最初の2人分の脳のデータはほんの少し異なってい
て、これが何を意味するのかを科学者が分析できるのではないかと期待されている。
どう解析していくのだろうか。カリフォルニア大学サンフランシスコ校の若い神経科学者、ブラッド
リー・ボイテック氏は科学文献に頻繁に登場する用語とアレン脳科学研究所の脳マップ上で遺伝子
が示されている場所とを符合させていった。例えば彼は、プロザックやゾロフトのような抗うつ剤を
投与したセロトニンを研究する科学者が、脳の2分野では化学反応がみられたのに、それに気づ
いていないということを発見した。片頭痛の研究にも有効かもしれない。こうしたデータに基づいた
アプローチで、脳のメカニズムを科学者が解明する新しい800ものアイデアが生み出され、計算法
を活用して我々の頭の中のコ ンピューターを解読できるようになると期待されている。
現時点で脳を理解しようとすることは、中世の鍛冶屋がジェット機をリバースエンジニアリングで
解析するようなものだ、とアレン氏は言う。翼が飛行機の胴体にどう付いているかがわからないと
か、エンジンの仕組みが分からないといったことだけではない。そもそも、風がどうやって機体を持
ち上げるのか、その理論が分からないというレベルの問題だ。「ムーアの法則に基づいたテクノロ
ジーのほうが脳科学よりずっと易しい」とアレン氏は言う。「脳のメカニズムはコンピューターとはあ
まりにも違う。コンピューターは非常に規則正しい構造をしていて、どのコンピューターも同じ構造
だ。大量のメモリーをもち、 計算を行う部分が少しあり、それらを組み合わせてどこかに保存して
おくという仕組みだ。実に単純なものだ」。
「今のところ、コンピューターのプログラムを学ぶことは、たいていの人ならできるだろう。だれで
もプログラミングは始められる。私は高校生のときにはできていた。私とビル・ゲイツ、他の友達も
やっていた。おそらく数カ月で私たちはプログラミングを覚え、数年のうちにはコンピューターの何
を理解すべきかを学んでいた」。
生物の進化の過程で作られた人間の脳では、すべての小さなパーツがすべて全く異なっている。
「それは恐ろしいほど複雑だ」とアレン氏は指摘する。そして、人間の脳を理解するには。「何10年
ものあいだ」研究を続けなければならない。「この過程で何十ものノーベル賞が生まれるだろうね」
と続ける。
とてつもない難題だが、アレン氏は果敢に挑戦している。これまでは若い、モラトリアム期にある
ような学者たちをそろえていたが、この1年半ほどは米の脳科学者のトップ3を採用した。研究者の
数も3倍に増やして200人とし、プロジェクトは倍増。新しい広い建物へ引っ越しもした。カリフォル
ニ ア工科大学にいた物理学者、クリストフ・コッフ氏は左腕に「アップルコンピュータ」のタトゥーを
入れているが、大学の終身在職権を放棄するなんて、気がおかしくなったのではないか、と同僚た
ちには言われたそうだ。しかし、こうするしか、研究を成し遂げる方法はないという。脳科学の研究
所ならたくさんあるが、アレン氏の研究所ほど大きなテーマに取り組んでいるところはない。「ここ
には、大学ではできないような、10年分のプロジェクトがあるんです」とコッフ氏は力説する。
ハーバード大学の終身在職権を放棄してやってきたクレイ・リード氏は、マウスの脳の視覚野を研
究している。「次に何を研究しようか、大きな夢をもてる分野なのだが、他の場所ではそうした研究
はできない」。「マインドスコープ」と題した彼のプロジェクトは、レーザー顕微鏡のような装置を使
う。 冒頭で紹介したマウスの視覚の仕組みをコンピューターでモデル化するレーザー顕微鏡装置
のようなものだ。スタンフォード大学を休職しアレン研に合流したコロンビア人の脳科学者、リカルド
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・ドルメッシュ氏は、もう1つの挑戦的なプロジェクトをリードする。幹細胞を使って、脳が何でできて
いるのかを解明する研究だ。「もし整備士が車のパーツの数を知らなかったら、その整備士は信用
できないでしょう?」こんな皮肉を言うコッフ氏は現在使われている抗うつ剤や統合失調症の治療
薬の使われ方は、車の修理にたとえれば、まるで車の上からオイルをかけて、少しはモーターに
入ればいいか、というようなことだと指摘する。
こうした優秀な学者たちを集めたが、アレン氏はどこまでも起業家であり部外者である。彼は脇役
に徹している。ソフトウエア開発の草創期と同様に、科学の分野でも何百何千という研究者がそれ
ぞれに専念している。規模では上回るソーク研究所やロックフェラーのような研究所でも同じよう
に、しのぎを削っている。アレン氏の工業的ともいえる研究手法は、研究者の間では「大規模科学」
として知られ、一部には反感も呼んでいる。「脳科学分野の資金調達力は、かつてないほど悪い」と
ニューヨーク大学の脳科学者、トニー・モブション氏は打ち明ける。「小規模で、現場研究者主導の
やり方が、創造的なアイデアを生み出すベストな方法だと私は思う」。
アレン氏を最初に脳科学に駆り立てたヒトゲノム計画も、DNA配列技術の商業化を遅らせたとい
える。というのも、この分野ではアプライド・バイオサイエンスという1社が配列解析の装置を独占し
たからだ。プロジェクトが終了してやっと、新しくより安価な装置が登場、遺伝子研究にようやく新し
い 革命が起きた。
「スタンダードを設定し、大局的な視野に立ってシステマティックにやり遂げなければならないこと
があるものだ」。アレン脳科学研究所の最高経営責任者アラン・ジョーンズ氏は言う。「小規模の研
究所はそうしたことに向いていない」。物理学の世界では、皆が同じ土俵にたち、例えば欧州合同
原子核研究機関(CERN)の巨大加速器のような大プロジェクトに取り組むのが常識となっている。
心の謎を解こうというのに、宇宙の謎を解くよりも規模の小さなグループの方がいいわけがない。
ポール・アレン氏はまだまだやる気に満ちている。「私たちが今取り組み始めた新しい研究の成
果が出てくるのは数年先だろう」と彼は言う。彼 は5年後を見据えて3億ドルを投資したのだが、実
際アレン氏と彼のチームは5年後とか10年後を見ているのではなく、何10年も先を見ている。がん
闘病からも解放され体調も良いというアレン氏は、今後も科学者たちが活躍できるよう引き続き貢
献を続けて行くと言明。さらに、自分の死後も研究所に資金を提供できるよう体制を整えているとい
う。「私の遺産の大半はこうした未来を見据えた仕事に配分していきたい」とアレン氏は願ってい
る。
by Matthew Herper (Forbes Staff)
(c) 2012 Forbes.com LLC All rights reserved.
吉田祐起ノコメント:
・・・・どうやら81歳の爺ちゃんの脳ではついていけそうもありません。分ったようで、分からないよ
うな生半可な気持ちでアンダーラインしてみましたが、???です。
本稿は若い世代の人たちへの贈りものとして提供するにとどめさせていただきます。あしから
ず・・・。でも、サービス精神だけは一人前でしょう!
No.1(1-300)
No.2(301-400)
-6-
No.3(401-500)
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