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素材の可能性を探求 常陸大黒

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素材の可能性を探求 常陸大黒
素材の可能性を探求 ~常陸大黒(ひたちおおぐろ)~
茨城県大子町
素材の可能性を探求
常陸大黒(ひたちおおぐろ)
「地域社会への貢献」という理念のもと、地域の生
産者とともに地域独特の食文化を保護・継承し、全国
に発信して行く活動として進められている「フードア
ルチザン(食の匠)」。
この活動を応援する「食の匠推進委員会」では、各
委員が現地を訪問し、地域の取組に寄与するための
ミッションを展開しています。委員の一人である、ス
タジオナッツを主宰する小田真規子さんは、茨城県産
常陸大黒の素材が持つ新たな食べ方の可能性に着目し、
これから地域が作り上げて行くべき、新たな食文化の
形成に向けた検討を行いました。
常陸大黒の概略
常陸大黒(ひたちおおぐろ)の誕生は、昭和63年に茨
城県の農業総合センター生物工学研究所が、「花豆白
在来」と他の「在来種」を同時に栽培したところ、自然
交雑が起こり、平成5年に収穫した豆の中に黒一色の
個体を発見したことに始まります。
昭和63年、県内の農家から集めた、白いベニバナイ
平成10年に育成が完了し、農林水産省に品種登録出
ンゲン「花豆白在来」と、まだらな豆を同時に栽培し、
願を行い、茨城県のオリジナル品種として平成14年に
収穫した「花豆白在来」を保管して、平成5年に種を
品種登録されました。
採ろうとして再び栽培したところ、収穫した13株の中
に、ただ一つだけ黒一色の豆をつける株を見つけまし
常陸大黒(ひたちおおぐろ)は、日本で唯一の黒一色
た。 通常であれば、これは「混ざりもの」ですから、
のベニバナインゲン品種、その名の通り、一粒の重さ
除いて処分するところですが、当時の担当者は、
が2g以上と極めて大きい黒一色の花豆品種です。黒
「真っ黒なベニバナインゲンは今まで見たことがない。
一色の豆類の中では、国内最大級の大きさを誇ります。
これを元にして黒一色の品種が作れないだろうか。」
と考えました。
現在「常陸大黒」の種子は、専用の圃場で採種し、
純度を保ったまま生産者に配布されています。
そこでまず、黒い豆だけを選んで栽培しましたが、
主に茨城県北部の中山間地域の農家の皆さんが心を
収穫した豆は、黒一色にならず白い豆やまだらな豆が
込めて生産しており、他県にはない茨城県を代表する
できました。そこで、なるべく他のベニバナインゲン
特産品です。従来の花豆にはなかった、大粒で 光沢の
の花粉がかからないようにしながら、黒くて形の良い
ある美しい漆黒の外観と、その癖のない上品な味わい
豆をつける株を選んで栽培しました。この操作を5
を活かし、和菓子や洋菓子など数多く使われています。
回・5年ほどくり返した結果、黒一色の性質を固定す
ることに成功しました。
※以上、文章はイオンリテール(株) フードアルチザン
WEB掲載の文章引用。 詳しくは以下をご覧ください。
http://www.foodartisan.jp/products/hitachi/
1
食の匠推進委員による「フードアルチザン(食の匠)」応援ミッション
食の匠推進委員会 委員
常陸大黒・豆っ子くらぶとミッション
小田 真規子
イオンリテール株式会社では、2012年5月23日、大
(おだ まきこ)
有限会社スタジオナッツ 代表取締役
子町、茨城県、大子町商工会、JA茨城みどり、常陸大
料理家、栄養士、
フードディレクター
黒生産者の会との連携により、「常陸大黒・豆っ子く
「オレンジページ」「きょうの料理」
「ESSE」などの料理関連雑誌、企業
のPR誌に、オリジナルの料理やお菓
子のレシピを発表している。NHK
「きょうの料理」「おかずのクッキン
グ」など、TV料理番組への出演も多い。
らぶ」を設立しました。地域と連携した活動では、
「地域の貴重な食材である常陸大黒の生産・加工・流
通・販売を一体となって取組み地域の資源を活用した
産業の振興と活性化を推進すること」を目的に活動が
展開されています。
常陸大黒は平成14年に登録された新しい品種です。
大子町へ ~産地を歩く~
茨城県特産品として品種保護が進められ、現在県北の
常陸大黒の生産者さん、常陸大黒をはじめ地域の食
4市1町で生産されているのみで、他県での生産は行
材を使った料理研究をされるお母さんグループ、常陸
われていませんし、生豆での流通もできません。
大黒を素材に和菓子や洋菓子など作れられている事業
近年、各種メディアで取り上げられなど、その存在
者さん、そしてこれらの活動を支援する行政関係や業
が注目を集め、和菓子や洋菓子などを中心に商品が作
界団体のみなさんなど、地域には多くの関わりを持っ
られてはいますが、地域内も含めまだまだ認知度は低
た方々がいらっしゃいます。
く、さまざまな利用のシーンが生まれているわけでは
ありません。
そこで今回は、平成27年度食の匠推進委員会「委員
平成27年9月1日、収穫には少し早い時期ではあり
ましたが、産地を見て、現地のみなさんからお話を聞
き、現地で販売されている商品を食べることを目的に、
ミッション」として、委員の一人である料理研究家 小
常陸大黒の産地である茨城県大子町を訪問させていた
田真規子さんにご協力いただき、常陸大黒が素材とし
だきました。
て持つ可能性に着目し、新たな食べ方提案について検
討を行っていただくとともに、そのレシピを地域のみ
なさんに使っていただき、これから、「大子町と言え
ば常陸大黒!」と言わるなど、食材をとおした郷土の
食文化つくりに貢献するためのミッションを遂行する
ことと致しました。
常陸大黒の生産者(鈴木さん)の圃場を訪問し意見交換
常陸大黒は赤い花をつけていました。
常陸大黒を使った和菓子・洋菓子の試食
写真左・中央は奥久慈屋 吉餅さんの常陸大黒大福
写真右は、お菓子の麻呂宇土さんの大黒豆ロール
地域のみなさんとの意見交換の様子
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素材の可能性を探求 ~常陸大黒(ひたちおおぐろ)~
産地訪問の最後に、大子町文化福祉会館をお借りし、
地域のみなさんとの意見交換会を実施しました。
このような視点整理を行い、地域との合意形成を進
め、常陸大黒食べ方提案のミッションが実施されるこ
ととなりました。
大子町は、袋田の滝をはじめとした奥久慈の観光地
として毎年多くのお客様が来られます。地域には、和
菓子や洋菓子など、既にいくつかの人気商品も存在し
ますが、宿泊のための観光ホテルでは、まだまだ常陸
大黒を食材として提供することは少ないようです。
また、地域のみなさんが、常陸大黒をご家庭で日常
的に食べるには、現状では生豆での販売ができないな
ど、課題も残されています。
このように、常陸大黒は、これまで地域で食されて
きた経緯は少なく、また、食べるにしても「甘く煮
る」以外の検討はあまり行われてこなかったようです。
意見交換の結果、小田さんからは、常陸大黒が持つ
色彩(黒は神秘性や高級感を持つ)、素材としての大
試食提案会の開催
平成28年1月14日、スタジオナッツにて「フードア
ルチザン 常陸大黒試食提案会」が開催されました。
試食提案会には、奥久慈味の研究会(益子 きよ子さ
ん)、下金沢加工組合代表(田沢 美智代さん)、袋田
食品株式会社 袋田温泉関所の湯 料理長(伊藤 洋文さ
ん)、JA常陸大子営農センター(吉成 朝之さん)、
茨城県県北農林事務所(稲葉 精一さん)、大子町農林
課特産品販売室長(藤田 貴則さん)、大子町農林課農
林担当(高瀬 和幸さん)にご参加いただきました。
試食会で提案いただいた内容は、先ず基本の煮豆と
して
きさ(一つでもしっかりと食べられる・食べごたえが
*A* 常陸大黒のシンプル塩煮
ある)などに特徴や他との差別性があるのではないか
*B* 常陸大黒のあっさり甘煮
と提案をいただきました。
このAもしくはBをベースに以下のメニューのライ
そのうえで、現在は一般購入などに課題もあります
が、将来に向けた展開の準備として、「甘く煮る以
外」の食べ方(例えば、スパイシーなもの、酸味があ
るもの)など、これまで検討されていない、意外な組
み合わせの食べ方などに焦点をあて、検討を行ってい
ただくこととなりました。
ンナップとなりました。
1:常陸大黒のピンチョス
常陸大黒のスペインバル風一口ステイック
2:常陸大黒のカナッペ
常陸大黒とトマトをジェノバーソースに絡め、バゲット
にのせたカナッペ
3:常陸大黒のピクルスマリネ
なお、今回のミッションで小田さんにご検討いただ
いた料理のレシピは、ミッション実施後に大子町に管
理してもらい、「常陸大黒・豆っ子くらぶ」メンバー
常陸大黒とウズラ卵・パプリカを、酸味の効いたマリネ
液に漬け込む
4:常陸大黒の一口ちぎりパン
をはじめ、地域の皆さんに活用していただくことにな
常陸大黒の特徴ある彩りと形をアクセントにした一口サ
りました。
イズのちぎりパン
地域には、飲食店、ホテルなどの宿泊施設をはじめ、
生産者の奥様のグループが行う「おかあさんの味レス
トラン」などもあります。また「農業高校若い担い手
育成事業」など、大子町が主催し高校生が地域素材を
使った料理コンテストなども毎年開催されています。
例えば、農業高校の生徒さんとお母さんの味レスト
ランがコラボレーションし、今回の料理レシピやそれ
をもとにした商品の開発を行うなど、継続的な取り組
5:常陸大黒のパテ
挽肉ベースの生地に常陸大黒と野菜を加えて焼き上げた
パテ
6:常陸大黒のラタトゥユ
常陸大黒を角切りの野菜と一緒に煮込む
7:常陸大黒カレー
肉に代わって常陸大黒のほっくりした味わいと食べ応え
が主役のスパイシーカレー
8:常陸大黒のかき揚げ
みが進められることで、常陸大黒をテーマにした地域
常陸大黒と長ねぎ、にんじんなどの野菜にうす衣をまと
の食の継承など、波及的な展開可能性も広がります。
わせたかき揚げ
3
食の匠推進委員による「フードアルチザン(食の匠)」応援ミッション
写真左から順に「常陸大黒のカナッペ」「常陸大黒の一口ちぎりパン」「常陸大黒のかき揚げ」「常陸大黒の炊きおこわ」
写真左から順に「準備をするスタッフのみなさん」「試食提案会を楽しまれる参加者のみなさん」
「試食の感想を話されるイオンリテール岡澤本部長・佐々木副本部長」「試食提案会終了後に全体解説される小田さん」
9:常陸大黒の炊きおこわ
常陸大黒をもち米・米と一緒に炊き上げる
*デザート*
10:常陸大黒の赤ワイン煮・マチェドニア
今回のミッションで小田さんにご検討いただいたこ
とは、食材の新たな食べ方以外に、調理の簡便さなど
も工夫していただきました。
実際に、常陸大黒に糖水や塩水を入れ込むには手間
赤ワインで煮込んだ常陸大黒と果物を組み合わせたフ
と時間が必要です。しかし、その素材の特徴を精査す
ルーツカクテルのデザート
ることで、下処理の時間が格段に低減される可能性が
11:常陸大黒のチョコレートケーキ
常陸大黒にリキュールを絡め、ガナッシュと合わせて
チョコレートに包んで焼く
以上、ベースの煮豆、デザートを併せて13品、小田
さんのアイデアの結集といったご提案となりました。
ミッションのまとめ
今回のミッションでは、従来の甘煮に加え、新たに
塩煮の検討を行ったことで、これまでの菓子類への用
あります。
今回の試食提案会では、ご参加いただいたみなさん
のみ、小田さんが開発された常陸大黒の簡便な下処理
方法をお伝えしています。このような調理テクニック
を含め、今後、本ミッションの成果を地域のみなさん
にお渡しし、引き継いでいただく予定です。
常陸大黒の新しくビックリするほど美味しい料理の
数々を体験していただける場所、是非、大子町にお越
しください。
途以外に、和食、洋食、エスニックなど、幅広い料理
レシピへの展開可能性が広がりました。
近年、食の簡便化が叫ばれる中、家庭で調理をする
時間が年々少なくなっていると言われます。なかでも
豆類は、生豆から煮豆にするには、水戻したりするな
ど時間と手間を要する食材です。
実際にこれまで地域でも、常陸大黒を煮る前に水戻
しするには2日程度の時間が必要でした。その前準備
を行った上で、食べ方が甘く煮るだけでは、どれだけ
素材の特徴があっても、今後、一般への浸透は進まな
い可能性があります。
4
スタジオナッツのスタッフのみなさんが作られた
常陸大黒のポイントデコレーション
◆イオンフードアルチザン 常陸大黒◆
http://www.foodartisan.jp/products/hitachi/
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レポート作成:食の匠推進委員会事務局
(一般社団法人食品需給研究センター)長谷川 潤一
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