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商業施設の差入れ保証金を巡る課題と今後の方向

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商業施設の差入れ保証金を巡る課題と今後の方向
商慣行改善行動計画策定研究「小売業に関する商慣行改善調査研究」
商業施設の差入れ保証金を巡る課題と今後の方向
平 成 1 2 年 8 月
通 商 産 業 省
産業政策局流通産業課
1.SC開発・経営における保証金とは?
(1) 保証金の役割 (2) 保証金の差入れ及び返還方法
DV(デベロッパー)は、SC(ショッピ
ングセンター)の建設・運営のために調達す
る資金として、銀行からの借入れ金や自己資
金等の他、出店するテナントから預かる「保
証金」に大きく依存してきた。
これまで、我が国では、SC出店の際、一般に月
額賃料の40∼50ヶ月分に相当する高額の保証
金を差し入れることが慣行となっていた(アンケート結
果)。 (
敷金は20ヶ月分程度)
保証金の差入れ・返還方法については様々な方式があるが、多いのは以下のような方式(アンケート結果)
。
①テナントは、契約の際に、DVに一括して保証金を差し入れる。
②保証金は、10年間、無利息で据え置かれる。
③DVは、その後10年間でテナントに均等返済。この期間も無利息の場合が多い。
【DV】
保証金
②10年間据え置き
(無利息)
③10年間で均等返済
①差入れ
(多くは無利息)
SC建設資金調達方法割合(アンケート結果 )
民間金融機関
その他
16.1%
自己資金
18.1%
資金
金融機関
借入
31.8%
資金
(3) 保証金の法的位置付け
保証金と同じく、テナントが出店時にDVに差し入れる金員として、いわゆる「敷金」があるが、
両者は以下のように区分され、法的性格を異にするものである。
保証金
34.0%
資金
DV
【テナント】 保証金
テナント
資 金
ショッピングセンター建設・
運営
敷金
保証金
・敷金は、賃料や損害金等の担保を目的とするもの。
賃貸借契約の内容の一部をなすものであり、通常、
その終了とともに返還される。
・保証金は、一般に賃貸借契約の一部とはみなされ
ず、建設協力金としての消費貸借を目的とするもの
と解される。従って、返還時期は賃貸借契約の終了
時期とは必ずしも連動しない。
・DVが倒産した場合でも、抵当権が設定されるより ・DV倒産時には、通常、資産価値はほとんどなくな
先に登記等が行われ、対抗要件を具備していれば、
る。また、競売先にも当然には承継されない。
債権は保全可能。競売先にも承継される。
※ なお、
「保証金」と同様の内容の金員であっても、敷金、建設(建築)協力金、預託金といった様々な名称
が用いられることがある。
2
2.保証金を巡る問題
近年、保証金差入れに関する弊害や紛争の増加が指摘されてきている。これらの弊害や紛争には様々な内容のものがある
が、主に指摘されるのは以下のような問題である。(下図中①∼④はその主な要因にあたる部分)
○保証金は、多額かつ据え置き・返済期間が長期(要因①)に渡っており、これがテナントの財務体質の悪化や新規参入の阻害をもた
らしている(→ⅰ)。
○近年、長期に渡る不況等を背景にDVの資金繰りが悪化(要因②)しており、倒産等による債務不履行の発生が増加。保証金は、DV
の倒産時には、資産価値は一般にほとんど失われるため(要因④)、差し入れた多額の保証金が返還されないケースが増加。また、S
Cの売却や競売があった場合、保証金は当然には承継されず、出店を続けようとすれば、さらに保証金差入れが必要となる場合もある。
(→ⅳ)
○契約書において、契約内容が不明確なことが多く(要因③)
、SCリニューアルの際の追加保証金負担の是非や、テナントが契約期間
終了を待たずに中途退店した場合の保証金の返還時期、ペナルティ率(保証金返還額のカット率)を巡って紛争が発生(→ⅱ、ⅲ)。
なお、こうした紛争の増加には、②に示したデベロッパーの返済能力の低下も影響。
出店契約
契約終了
SCがリニュー
アルした場合
テナントが中途
退店した場合
① 多額の保証金
差入れが必要
② デベロッパーの資金繰りの悪化
デベロッパ ー が
倒産した場合
③ 契約書上の契約内容が不明確
④ 一般に保証金は法的に保全されない
ⅰ) テナントへの
負担が大きい
ⅱ )追 加 保 証 金 の 支
払いを巡 るトラブル
ⅲ)
ペナルティの支払
いを巡るトラブル
ⅳ)保証金が返還・
承継されない
3
(
補論1)
デベロッパー・テナントの位置付け及び定義について
一口に「デベロッパー」、「テナント」と言っても、両者が重複している場合やDVが土地のオーナーを兼ねている場合等、様々な形があり、
それぞれ所有権や賃借権等の権利関係、資金提供の内容や方法、リスク引き受け主体等が異なってくる(例えば、あるDVが小売業を兼業で
営んでいる場合、その会社はDVとしての利害とテナントとしての利害の両方を併せ持つこととなる)
。以下では、そのいくつかを例示する
(当然、この他にも様々なケースがある)
。
【ケース1】小売業(テナント)がDV事業を兼業で行っており、かつ土地のオーナーでもある場合
小売業兼業DVは、土地を購入し、そこに建物を建設。自らキーテナントとして小売業を営むとともに、一般テナントを出店させ、その際、差し
入れられた保証金を、先の土地購入及び建物建設の資金として充当。なお、キーテナントとDVが別法人である場合、両者で賃貸借契約を結び、さ
らにその店舗スペースを一般テナントに提供する形が取られることも多い。
出店スペース賃借
土地買入
土地所有者
購入代金支払い
DV
||
キーテナント
賃料支払い
一般テナント
保証金差入れ
【ケース2】DVは専業でSC運営に当たっており、土地を所有せず、小売業も営まない場合
DVは、自ら土地や十分なキャッシュといった資産を持たず、一般テナントから差し入れられる保証金によって、土地賃借の際の差入れ保証金や
建物の建設資金又は建物を賃借する際の保証金を確保。
出店スペース賃借
土地賃借
土地所有者
賃料支払い
専業DV
保証金差入れ
賃料支払い
一般テナント
保証金差入れ
【ケース3】ケース2と同様だが、一般テナントからは保証金を求めない場合
DVは、一般テナントからの保証金に依らずに資金を調達して土地を賃借し、一般テナントに店舗スペースを賃貸。保証金差入れ負担及び回収不
能リスクはDVだけが負う。なお、こうした形でのDVの役割をリース会社が担っている場合も多い。
土地賃借
土地所有者
賃料支払い
保証金差入れ
出店スペース賃借
専業DV
一般テナント
賃料支払い
4
(
補論2)
保証金がテナントに与える負担の大きさ
保証金は多額かつ据え置き・返済期間が長期にわたっており、
これが、以下のような弊害をもたらしているとの指摘がある。
①本来、人材育成や在庫投資等に投入されるべき資本が、直接
的には利益を生まない固定資産として長期にわたって寝かせ
られてしまうことにより、テナントの財務体質を悪化させる要
因となっている。
②初期投資時に集中する負担の大きさが、将来性はあるが、信
用力に乏しい中小テナントの新規参入を難しくしている。また、
海外小売業者が我が国流通市場に進出しようとする際の障壁
となっている。
【財務会計上の整理】
テナントにとって、保証金は、直接売上
や利益を生み出さず、資本として有効に利
用されないにも関わらず、
・貸借対照表において、総資産をかさ上げ
し、ROAや総資本回転率等の財務指標
を悪化させる
・保証金が回収不能となるリスクが発生す
る
こととなる。
この結果、金融機関の格付けが低下する
など企業の信用を低下させ、資金繰りを悪
化させるなどの影響を及ぼす。
貸借対照表の例(抄)
(資産の部)
(負債の部)
流動資産
・現金・預金
・在庫
…等
流動負債
・買掛金
…等
固定資産
・建物
・出資金
・差入保証金
…等
固定負債
・長期借入金
・社債
…等
(資本の部)
(参考)
・ROA=利益/総資本(資産)
・総資本回転率=売上高/総資本(資産)
(
補論3)
保証金差入れに伴うリスク
高額かつ長期にわたる保証金の差入れを行うことは、前述のように、DVが倒産した場合、保証金の資産価値が一般にほとんど
失われるため、テナントにとって、大きな貸し倒れリスクを負うことを意味する。
【一般的な上場企業における事業投資の場合】
・ 投資を受ける企業は、一般にある程度のリスク情報(会計情
報等)を開示しているため、投資家にとってリスク管理は比
較的容易。
・ 投資家は、通常、十分な与信管理を行っている。
→ 通常、投資リスクそのものが問題視されることはない。
十分な与信管理
銀 行
証券市場
・一般に、抵当権設定等により
債権保全可。
・リスク情報はある程度入手可
【
SCのテナントによる保証金差入れの場合】
・SCのDVは、リスク情報の開示が不十分であることが多い(特に非
公開会社)ため、テナントにとってリスク管理は困難。
・また、そもそも一般にSCのテナントでは、保証金について十分なリ
スク管理が行われていないことが多い(特に中小テナント)
。
→ 保証金の差入れリスクがテナントの存続に重大な影響を及ぼす。
十分なリスク管 理 は 行
われず
・一般に、DV倒産時に債
権は保全されない
・リスク情報は入手困難
リスク
リスク
企 業
投資
【
(
例えば設備投資の際の)
事業資金の提供】
D V
テナント
投資
【
DVのSC事業資金の提供】
5
3.なぜ従前は保証金差入れ慣行は機能してきたか
保証金差入れ慣行は、従前は経済成長等の背景を前提条件として概ね円滑に機能しており、一定の合理性を持つものであった。
一方、こうした前提条件が崩れる事態は想定されることがなかったため、(a)∼(d)の課題が積み残された。
経済成長 →市場の拡大、売上の伸び
テナントの出店競争→有望な場所の先取り
保証金等に係る契約の手法
建物を建設する者(DV)
(建設協力金としての)
差入れ
保証金
・初期段階でのキャッシュが必
要。
・(旧借家法の規制等もあり入
居期間が長期間に渡るため、
相応の担保が必要。(不測の
事態に備えた敷金的な保証の
必要性)
)
返済
建物を利用する者(テナント)
市場の拡大を前提とした収支計画
①出店さえすれば、売上の確保の見込み
→優良地を他店に先駆けて確保するこ
とが必要。
②保証金差入れ期間が長期に渡っても焦
げ付く心配なし。
(10年後 から)
良好な資金調達環境
一定の合理性
DVの資金繰りに余裕があり、保証金
の返還が期待できるため、保証金差入れ
慣行そのものが問題視されるような致命
的な問題は生じず。
・したがって、保証金の法的位置付けに関す
る厳密な整理や出店契約等の精査は不要。
・むしろ、人間的な信頼関係に基づく契約
は、柔軟なSC運営を可能にした。
…両者の意向は合致
【積み残されてきた課題】
(b)DVの不測の事態が想定されていな
い。(→リスク管理が不十分なまま)
(a)DVによる他の資金調達方法の検討・導入が十分になされず
(→DVは資金調達にあたって、保証金に依存)
(c) 法的位置付け
は不明確のまま
(d)契約内容は不
明確なまま
6
4.問題の顕在化
その後、従来の保証金差入れ慣行が有効に機能するための前提となっていた経済情勢等は大きく変化。(a)∼(d)の積み残され
てきた課題について対応策が講じられていなかったこともあって、保証金を巡る弊害や紛争が発生。
経済成長から長期不況へ →市場の縮小、売上低迷
テナント間の出店競争は緩和へ
保証金等に係る契約の手法
(建設協力金としての)
建物を建設する者(DV)
差入れ
保証金
・高額の保証金確保は困難に。
・(定期借家制度の導入等もあ ×
り、入居期間が長期間に渡る
ことを理由とした担保は根拠
を失う)
返済
建物を利用する者(テナント)
市場の拡大を前提とした収支計画は見
通しが立たなくなる。
①出店しても、売上の確保の見込みな
し。
× ②保証金差入れ期間が長期に渡る場
合、焦げ付く可能性大に。
(10年後 から)
資金調達環境は悪化
合理性に疑問
DVの資金繰りの悪化等により、保証
金の返還そのものに支障が生じるような
事態が発生。
実際に問題が生じた場合、処理に当
たっては、契約内容が重要なポイントと
なる。
…両者の意向は不一致に
【積み残されてきた課題】
(b)DVの不測の事態が想定されていな
い。(→リスク管理が不十分なまま)
(a)DVによる他の資金調達方法の検討・導入が十分になされず
(→DVは資金調達にあたって、保証金に依存)
問題の顕在化
(c) 法的位置付け
は不明確のまま
(d)契約内容は不
明確なまま
問題の顕在化
7
5.今後の課題
従来の保証金差入れ慣行が依って立つ前提条件が変化した以上、これを所与の条件として、 前述(a)∼(d)の課題を克服して
いくことが必要となる。具体的には、以下のような対応を取ることが必要であると指摘されている。
今後の課題
検討の方向性
必要とされる対応
必要となる環境整備
保証金に大きく依存した従来通
りの資金調達は、今後困難になる
と予想される。従って、SCの開
発・運営に当たっては、保証金へ
の過度の依存を避け、資金調達方
法の多様化を図るとともに、SC
の収益力の向上を図ることが必
要。
(DV 又はテナントが取るべき対応)
・不動産の小口証券化や債権流動化等による新たな資金
調達方法の導入
テ ナ ン ト は 、 投 資 を 行 う に 当
たっては、DVの倒産や債務不履
行が生じる可能性があることを前
提として、これまで以上にリスク
管理を行うことが必要。
(主にテナントが取るべき対応)
・リース会社の活用等によるリスクの少ない出店方式の
選択
・出店の際の DV の会計情報等の入手
・契約期間の短縮化
・抵当権の設定等による保全策の実施
・保証金に係るリスク管理手法に
関する情報・ノウハウ等の紹
介・普及促進
・保証金に係る保険の検討
・SCの評価手法の検討
(c) 保証金の法的
位置付けにつ
いての見直し・
再整理
DVに不測の事態が起こった場
合に、保証金の返還等を巡る紛争
が発生する可能性があることを前
提として、契約が締結されること
が必要。
(主にテナントが取るべき対応)
・消費貸借契約に基づく貸金としてふさわしい返済条
件、金利等の設定
・賃貸借契約の存続・終了と保証金預託の存続・終了と
が乖離することを避ける
・保証金の扱いについて、法制上
の明確化が図られることが望ま
しい
(d) 契約内容の精
査・明確化
テナントの中途退店やSCのリ
ニューアルが行われた場合に、契
約を巡る紛争が発生する可能性が
あることを前提として、契約が締
結されることが必要。
(主にテナントが取るべき対応)
・契約書上の約定の厳密化、契約内容の精査(必要に応
じて法律実務家の助言を受けることも有効)
・関係業界における標準的な契約
書の作成・普及
・契約及びそれに関連して発生し
た紛争に関する情報提供
(a)他の資金調達方
法の検討・導入
(b)リスク管理
→SPCを活用した不動産の小口証券化、リース会社を活用
して行うサブリース方式・保証金代理預託契約等の利用、
プロジェクト・ファイナンス方式の活用等
(主に DV が取るべき対応)
・DV 主導によるSCとしての競争力強化
→高度なマネジメント力を持つ専業 DV の育成等
・直接金融の導入を図るための、
DV からのさらなる会計情報の
公開
・新たな手法による資金調達方法
やSCマネージメント能力の向
上に関する情報・ノウハウ等の
紹介・普及促進
8
(参考)調査の方法
本調査においては、SCのDV、テナントから大規模なアンケート調査を行うとともに、企業の実務家等に対し、訪問面接調査を実施
した。また、学識経験者、会計・法律専門家、関連業界の実務家等から成る委員会を設置し、5回に渡り、多方面からの検討を行った。
委員会
学識経験者、会計・法律専門家、関連業界の
実務家等により構成。
事 務 局
委員会の開催(5回)
委員会の議論を踏まえ、
アンケートの方法・内容
等を検討
適宜アンケート結果を委
員会の議論にフィード
バック
報 告 書
委員長 菅原正博(宝塚造形芸術大学教授)
委 員 大竹秀達(麹町法律事務所/弁護士)
委 員 佐藤一雄(㈱SATASインテグレイト代表取締役)
委 員 中川純一郎(東京財務研究所/公認会計士)
委 員 村松靖彦(三菱地所㈱SC事業部長)
委 員 森川信雄(㈲アングル代表取締役)
委 員 渡邉 昭(渡邉法律事務所/弁護士)
平成11年11月∼12年3月
アンケート/訪問面接調査の実施
(財)流通システム開発センター
(アンケート方法)
○ 調査内容:保証金差し入れ慣行の実態を把握するため、保証金や敷金の差入れ・返還方法の実態及び今後の見通し、そ
れに関連して生じた紛争の実態や傾向、及びその要因として考えられる事項(契約の内容等)
、その他保証金差し入れ
慣行と密接に関係すると考えられる事項(賃料の実態等)等につき、SCのDVとテナントを対象に実施。
○ 調査対象
・デベロッパー調査 : 商業施設デベロッパー・・・505件(有効回収率:61.4%)
・テナント調査
: 〃 テナント ・・・808件(有効回収率:16.4%)
(注) ・デベロッパー調査のサンプル抽出(全国約2600カ所から約500カ所を抽出)に当たっては、無作為ではなく、層化
2段抽出を行い、同一GMS等が多数展開しているSCの同一の傾向だけが強く現れないようにした。
・テナント調査については、個別の店舗に対してではなく、それらの店舗の本社(あるいは本部)に対してのみ行っている。
(すなわち、全国に多数の支店がある企業の場合であっても、アンケートはその本社に対してのみ行われ、当該本社は、各
支店の平均値を回答する、という形の設問としている。
)
○ 委託先:
(財)流通システム開発センター
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