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0035
Campylobacter in the food supply. (食品供給におけるカンピロバクター)
Jacobs-Reitsma, W., U. Lyhs, and J. Wagenaar.:In, Campylobacter, 3rd Edition. I. Nachamkin, C.
M. Szymanski, and M. J. Blaser (Eds.). American Society for Microbiology, Washington, D.
C., 627-644 (2008)
ヒトにおけるカンピロバクター感染症は、主として食品媒介と考えられ、動物由来
の食品が重要な役割を果たす。食品に関連した症例の他に、依然未知の要因に加えて
ペット動物との濃厚接触及びレクリエーション水域関連の活動が、カンピロバクター
による毎年の多数のヒト疾患の一因となる症例がみられる。
大規模な地域発生は、カンピロバクターの疫学では比較的稀であるが、関与する原
因は疫学的及び微生物学的に生の乳汁及び未処理の地表水と確認されている。大部分
のカンピロバクター感染症は、散発性(単一)の症例あるいは小規模の家族内での発
生であり、これらのタイプの感染症の実際の原因が微生物学的に同定されることはほ
とんどない。患者に加えて疑わしい原因からの(同一タイプの)カンピロバクターの
培養による微生物学的証明は、達成が容易ではない。本来の疑わしい食品は、完全に
消費されているか、疾病の時点までには、残存物がもはや利用不可能な場合が多い。
さらに、長期保管後は、関係する食品からのカンピロバクターの分離が困難な場合が
ある。
疫学(症例対照)研究により、ヒトにおけるカンピロバクター感染症と生あるいは
加熱が不十分な鶏肉の取り扱い及び消費との間に有意な関連性が認められている。鶏
肉消費が、ヒトのカンピロバクター症の原因となる程度は、まだ正確には知られてい
ないが、2つの新たなエビデンスにより、鶏肉がヒト感染の重要な原因であるという
仮説が裏付けられている。ベルギーでは、ダイオキシン汚染のため、1999年の夏に鶏
肉と鶏卵を市場から回収する必要があり、これと同時に、ヒトのカンピロバクター症
例が40%減少した(Vellinga 及び Van Loock、2002年)
。アイスランドでは、1996年に
鶏肉の販売が、主として冷凍から冷蔵に変更され、その後ヒトのカンピロバクター感
染症が著しく増加した。予防策の併用後に良好な結果が得られ、2000年に再び症例数
が著しく減少した(Stern ら、2003年)
。
鶏肉及び鶏肉製品は、依然ヒトのカンピロバクター感染症の主要な原因とみなされ
るという不確かな光栄に浴しているため、多くのカンピロバクター研究は、鶏肉に関
連している。実際に、新鮮な鶏肉製品及び冷凍の鶏肉製品でさえ、その大部分でカン
ピロバクター汚染が確認される可能性がある。汚染レベルは、屠体により log 2~log 6
CFU の範囲である。カンピロバクターについて報告されるような500 CFU の比較的低
い感染用量と組み合わせても、鶏肉製品は、調製中に誤った処理をされるか、調理が
不十分な場合は、消費者に深刻な危険をもたらす可能性がある。カンピロバクターは、
41
未殺菌牛乳、豚肉、牛肉、子羊肉及び水産物などの食品からも分離されているため、
鶏肉の他にその他の食品(主として動物由来)も潜在的な感染源とみなす必要がある。
未処理水あるいはレクリエーション水の摂取も、意図的か否かにかかわらず、カンピ
ロバクター感染の重要なリスクファクターと考えられる。
本章では、広範な異なるタイプの食品におけるカンピロバクターの検出及び保有率
について説明する。この病原体によるヒト疾患のリスクを最小限に抑える可能性を説
明する。食品媒介関連のカンピロバクター症は、依然主として耐熱性カンピロバクタ
ー種(C. jejum 及び C. coli 及び程度は小さいが C. lari)に関係するため、耐熱性種に
言及する。
0036
Campylobacter jejuni infection as a hospital problem: an overview. (院内問題と
しての Campylobacter jejuni 感染:概説)
Butzler, J. P., and H. Goosens.:Journal of Hospital Infection (1988) 11 (Supplement A),
374-377
Campylobacter jejuniは現在ではヒトの胃腸炎の主因の1つと認識されている。C.
jejuni感染の臨床像に関しては近年多くの知見が得られている(Butzler et al., 1973;
Karmali & Fleming, 1979; Skirrow, 1977)。発展途上国では、C. jejuniは生後2年間の最大
の疾病原因である。発展途上国においてC. jejuniはすべての年齢群、特に小児におけ
る急性下痢の重要な原因である。症状は、少量の軟便から腹部仙痛、高熱及びtoxic
appearanceを伴う劇症血性下痢に至るまで様々である。腹痛が唯一の症状の場合もあ
るが、ときとして腹痛が虫垂炎のように激しくなる場合もある。
疾 患 に関 連し た 種が ヒト か らい くつ か 分離 され て いる が( 表 I)、 C. jejuniが
Campylobacter属の中で断然最も重要である。
C. jejuniのin vitro感受性及び非対照下の臨床所見に基づいて、エリスロマイシンが
C. jejuni感染治療の第一選択薬として推奨されている。これらの研究で臨床作用がな
かった原因は、細菌学的転帰の時期が遅い結果としての治療開始の遅延であると考え
られえた。最近の研究(Salazar-Lindo et al., 1986)では、細菌学的転帰が得られる前
に発症直後に治療を開始した。急性カンピロバクター性下痢におけるエリスロマイシ
ンの有効性を評価するために、170例の患者を二重盲検下でエリスロマイシンまたは
プラセボの投与に無作為割付した。プラセボ群では細菌の糞便中排泄及び下痢症状が
長期間持続していた。
カンピロバクター腸炎は世界的な人獣共通感染症である。動物が感染の主要リザー
バーであり、ヒトは直接伝播または間接伝播の比較的重要性が低いリザーバーである。
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Campylobacterは家禽、豚、ヒツジ、ウシ、イヌ及びネコの片利共生生物として多く存
在する。動物からヒトに感染が伝播する経路は多様であると考えられるがまだ明確に
なっていない。大半の散発感染は生肉(特に家禽肉)から汚染された食品の摂取によ
って発生すると考えられる。汚染肉の取り扱いあるいは生肉や加熱不良肉によっても
感染が起こる。ビーフハンバーガー、ソーセージ及び特定の家禽肉が食品媒介感染に
関与するとされている(Blaser, Taylor & Feldman 1983)
。
一方、ときに数千人の患者を生み出す大規模感染が生乳や殺菌不良乳あるいは処理
不良水の流通によって起こることが報告されている(Blaser et al., 1983)。
Campylobacterの院内伝播は様々な理由からまれである。第1に、Campylobacterは大
気中酸素や乾燥にさらされると非常に速く死滅する。第2に、感染は500個程度の細菌
の摂取で起こる可能性があるが、一般には感染量はそれよりはるかに高い。これは、
ヒトからヒトへの伝播がほとんど起こらないことを意味する。しかし、条件によって
は特に新生児室内で院内伝播が起こることが報告されている(Karmali & Fleming,
1979; Anders, Lauer & Paysley, 1981; Vesikari, Huttunen & Maki, 1981; Buck et al., 1982;
Chan, 1983; Karmali et al., 1984; Terrier et al., 1985; Goossens et al., 1986; Hershkowici et
al., 1987; Rusu & Lucinescu, 1987)
。新生児のCampylobacter jejuni感染は通常は出生過程
で母親から獲得される(Karmali & Tan, 1980; Anders et al., 1981; Vesikari et al., 1981;
Buck et al., 1982; Karmali et al., 1984)
。事実、罹患児は生後2~3日に下痢を発症するが、
これはカンピロバクター腸炎の標準的な潜伏期間と合致する。Karmaliら(1984)の
研究では、新生児室内の新生児4例が5日以内にカンピロバクター腸炎を発症した。こ
れらの新生児は2つの理由によって母親からの分娩中に感染を獲得した可能性がある。
4例中3例では母親にも糞便にC. jejuniの存在が確認され、各新生児は異なる血清型に
感染し、培養陽性であった各母親は自分の新生児と同一の血清型を持っていた。しか
し、新生児室内での真の院内流行も報告されている(Chan, 1983; Terrier et al., 1985;
。イスラエルでの
Goossens et al., 1986; Hershkowici et al., 1987; Rusu & Lucinescu, 1987)
流行ではヒトからヒトへの伝播の可能性が示唆された(Hershkowici et al., 1987)
。こ
の流行では、集中治療室内の新生児7例からC. jejuniが分離され、7例中5例に同一の血
清型が認められた。著者はヒトからヒトへの伝播の可能性を示唆した。他の4つの流
行において共通の原因が示唆された(Chan, 1983; Terrier et al., 1985; Goossens et al.,
1986; Rusu & Lucinescu, 1987)
。Chan(1983)は新生児室内での院内カンピロバクター
腸炎流行について報告した。直腸体温計の汚染が伝播の媒介体である可能性が示唆さ
れた。スイスでも同様の流行が発生したが(Terrier et al., 1985)
、流行の原因は明確に
特定できなかった。
我々は、 新生児にお ける C. jejuni髄膜炎の 非常にまれな院内流行を報告し た
(Goossens et al., 1986)。C. jejuni感染の院内流行において新生児11例(女児7例、男児
4例)が髄膜炎を発症した。この流行は単一のC. jejuni株によって発生したことが、バ
43
イオタイプ判別(バイオタイプI)
、血清型分類(熱安定性抗原でLAU 7/PEN 18、熱不
安定性抗で新しい血清型)
、ドデシル硫酸ナトリウム/ポリアクリルアミドゲル電気泳
動での同一の感受性パターン及び外膜タンパク質プロファイルによって明らかにな
った。流行株に対する特異的抗体(酵素結合免疫吸着法及びウエスタンブロット)が
すべての新生児で生じた。これらの患者をゲンタマイシン及びアンピシリンで治療し
た。髄膜炎後に左側脳室の中等度の拡大を生じた1例を除く全例が良好な回復を示し
た。感染の原因は明確に特定できなかった。
結論すると、C. jejuniは重大な院内感染を引き起こす可能性があり、特に新生児及
び易感染者における原因不明の髄膜炎の病原体と推定される。
0037
Characterization of a new enterococcal gene, satG, encoding a putative
acetyltransferase conferring resistance to streptogramin A compounds (ストレプト
グラミン A 化合物に対する耐性を与える推定アセチルトランスフェラーゼをコードする新た
な腸球菌遺伝子 satG の特性決定)
Werner, G., and Witte:Antimicrob. Agents Chemotherpy 43,No37, 1813-1814 (1999)
ストレプトグラミン系抗生物質は、ブドウ球菌、連鎖球菌、腸球菌などの病原性グ
ラム陽性菌に対してin vivoで相乗的に作用する2つの化学的類縁性のないA及びB化合
物の混合物である(8, 11)。B化合物に対する耐性は腸球菌に非常に広く蔓延しており、
マクロライド-リンコサマイド-ストレプトグラミンB耐性を与えるermB遺伝子クラス
ター(例えばTn917上のもの)によって媒介される(7)
。ストレプトグラミンA及びB
の相乗的混合物はB化合物に対する耐性には対抗できるが、A化合物に対する耐性に
は無効である。腸球菌におけるストレプトグラミンA耐性について唯一判明している
メカニズムは、ストレプトグラミン・アセチルトランスフェラーゼSatAによって媒介
されるということである(9)
。ヒト及び動物由来サンプルからsatA媒介性の耐性をも
つEnterococcus faecium株が分離されており、このことは耐性遺伝子または耐性菌が異
なる生態系を通じて広まっている可能性を示唆している(10)。
私たちはドイツの下水処理場からキヌプリスチン-ダルホプリスチン耐性E.
faecium UW1965株を分離した。そして、その耐性決定因子を感受性レシピエントに移
入し、接合完了体UW1965K1を作出した。UW1965K1はキヌプリスチン-ダルホプリス
チン(MIC≧16 µg/mL)とバージニアマイシンM(A化合物;MIC、16 µg/mL)に対
して耐性であるが、レシピエントについての各抗生物質のMICは1 µg/mLであった。
satA遺伝子に関するPCR増幅は陰性であった。
ブドウ球菌のストレプトグラミンA化合物耐性は2つのメカニズム、すなわち(i)
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アセチルトランスフェラーゼ(Vat、VatB、VatC[1-3]
)を介したストレプトグラミン
Aのアセチル化及び(ii)ABC輸送体(Vga、VgaB[4, 5])による排出によって媒介
される。vat、vatB、vatC及びvga遺伝子に関するPCR増幅では何の産物も得られなか
った。ブドウ球菌と腸球菌における既知のストレプトグラミン・アセチルトランスフ
ェラーゼの推定タンパク質配列には3つの保存モチーフが含まれている(2)。対応す
るプライマーであるsatIとsatJが作出されており、そこからvat、satA、vatBについて144
~147 bpの断片が得られている(2)。これらのプライマーを用いたPCRにより
UW1965K1についての約150 bpの断片が得られた。増幅した断片のジゴキシゲニン標
識プローブを調製し、接合完了体からのEcoRI消化プラスミドDNAの5.5 kbpの断片と
のハイブリッドを作出した。対応するプラスミド断片をpUC18にクローニングし、配
列決定を行った。
得られたDNA配列(図1)は、GenBankから入手した他の遺伝子配列とDNAレベル
での有意な同一性を示さなかった(6)。ひとつの適合するオープン・リーディング・
フレーム(ORF)が見つかり、214アミノ酸(214-aa)の推定タンパク質が得られた。
アミノ酸相似性についての比較分析では、ストレプトグラミン・アセチルトランスフ
ェラーゼとSatGと命名された新たな推定アセチルトランスフェラーゼとの間にかな
りの相同性があることが示された(図2)。satGに対応する配列に基づき、satG1及び
satG2という2つのプライマーが設計されている。ストレプトグラミン耐性腸球菌(E.
faecium、E. hirae、E. durans)について検索した予備的結果から、下水からの分離菌
23株中9株、ボイラーサンプルからの24株中6株、そして鶏糞からの17株のすべてに
satG遺伝子が存在することが明らかになった。ドイツの病院で分離された62株のキヌ
プリスチン-ダルホプリスチン耐性E. faecium(QDREF)のうち9株がsatG陽性であっ
た。鶏肉及び鶏糞から多くのsatG陽性QDREFが分離されたことは、飼料添加物として
のバージニアマイシンの使用によるこれらの細菌の選択が原因であると考えられ、食
物連鎖を介して耐性がヒトに広まる可能性が非常に高いと言える。この仮説について
は現在調査中である。
0038
Characterization of erythromycin resistance in Campylobacter coli and
Campylobacter jejuni isolated from pig offal in New Zealand. (ニュージーランドにお
いて豚の内臓から分離された Campyrobacter coli 及び Campyrobacter jejuni の特徴)
Harrow, S. A., B. J. Gilpin, and J. D. Klena.:J. Appl. Microbiol 97, 141-148 (2004)
目的;ニュージーランド、サウス・カンタベリーにおける人及び環境由来
Campyrobacter分離株の薬剤耐性の程度と機序を調査する。
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方法及び結果:ディスク拡散法を用いて合計251株のCampyrobacter分離株のシプロフ
ロキサシン、エリスロマイシン。ナリジクス酸及びテトラサイクリンに対する感受
性を調べた。豚臓物由来の5分離株はエリスロマイシンに高度の耐性を示し、最小
発育阻止濃度は≧256 µg/mLであった。これらの分離株の23SリボゾームDNA
(rDNA)のヌクレオチド配列はCampyrobacter coliのエリスロマイシン耐性に関与
することが示されているEscherichia coliの部位2059でA→Gであった。パルスフィー
ルドゲル電気泳動を用いた制限酵素分析によるとこれらの分離株は非クローン性
であった。
結論;サウス・カンタベリーにおけるCampyrobacter分離株のほとんどは臨床的に広
く用いられている抗菌剤に感受性を示した。我々の試験結果が23S rDNAの特異的
変異がエリスロマイシン耐性に関与するという他の研究報告を支持するものであ
る。
本試験の意義及び影響:本試験は サウス・カンタベリーにおけるCampyrobacter分離
株の抗菌剤に対する耐性の基線頻度を定め、本菌のエリスリマイシン耐性のあり得
る分子的機序を考察するものである。これらの分離株のエリスロマイシン耐性は
Campyrobacterの優勢クローンに関連するものではなく、選択的抗菌性の圧迫に暴
露される別の遺伝系列で独自に発生するものと思われる。
0039
Characterization of erythromycin-resistant isolates of Staphylococcus aureus
recovered in the United States from 1958 through 1969. (1958~1969 年に米国
で回収された Staphylococcus aureus のエリスロマイシン耐性分離株の解析)
Nicola, F. G., L. K. McDougal, J. W. Biddle, and F. C. Tenover.:Antimicrob Agents Chemother
42:3024-3027. (1998)
我々は、1958~1969年に米国で入院患者から回収されたS. aureusの16株のエリスロ
マイシン耐性臨床分離株について、PCRによってermA、ermB及びermCの有無を評価
した。16株のうち15株に最低1コピーのermAがあり、クリンダマイシン耐性も持つ残
りの分離株にはermBがあった。ermAを持つ15株のうち8株(すべて誘導型)には染色
体内に1コピーの遺伝子があり、残りの7株には2コピーの遺伝子があった。ermBは、
プラスミドがコードして媒介するエリスロマイシンに対する構成型耐性であった。
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0040
Characterization of vancomycin-resistant Enterococcus faecium isolates from
the United States and their susceptibility in vitro to dalfopristin-quinupristin (米国
からのバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム分離株の特性評価及びその in
vitro におけるダルホプリスチン・キヌプリスチンに対する感受性)
Eliopoulos, G. M., Wennersten, C. B., Gold, H. S., Schulin, T., Souli, M., Farris, M. G., Cerwinka,
S., Nadler, H. L., Dowzicky, M., Talbot, G. H., and Moellering, R. C., Jr.:Antimicrob. Agents
Chemother. 42,No.5, 1088-1092 (1998)
試験研究中のストレプトグラミン系抗菌薬ダルホプリスチン・キヌプリスチンによ
る臨床研究の過程で、バンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウムの分離株に
ついて、米国中から当検査室に照会があった。分離株の72%は、表現型及び遺伝子型
がVanA型であったが、28%はVanB型であった。ストレプトマイシンあるいはゲンタ
マイシンに対する高レベルの耐性が、それぞれVanA株の86及び81%で認められたが、
VanB株における耐性は、それぞれ69及び66%に過ぎなかった。これらの腸球菌は、ア
ンピシリン(試験した分離株の50%に対するMIC[MIC50]及びMIC90は、それぞれ
128及び256 µg/mL)及び試験したその他の承認済み薬剤(クロラムフェニコール
[MIC90:8 µg/mL]及びノボビオシン[MIC90:1 µg/mL]を除く)に耐性がみられ
た。提出されたすべての分離株について検討した結果、ダルホプリスチン・キヌプリ
スチンにより、その86.4%は1 µg/mL以下の濃度で抑制され、95.1%は2 µg/mL以下の濃
度で抑制された。しかし、各患者について提出された最初の分離株のみから構成され
たデータセットでは、株の94.3%は1 µg/mL以下濃度で抑制され、98.9%は2 µg/mL以下
の濃度で抑制された。これらのバンコマイシン耐性エンテロコッカス・フェシウム分
離株の間では多剤耐性が非常に多く認められたが、臨床的に意義のある濃度のダルホ
プリスチン・キヌプリスチンにより、その大部分が抑制された。
0041
Classification of macrolide antibiotics (マクロライド系抗生物質の分類)
Bryskier, A., C. Agouridas, and J.-C. Gasc. :p. 5-66. In: A. J. Bryskier, J.-P. Butzler, H. C. Neu,
P. M. Tulkens, (ed.), Macrolides chemistry, pharmacology, and clinical uses. Arnett Blackwell,
Boston, MA.(1993)
マクロライドクラスに属する抗生物質はほぼ40年前から用いられており、最もよく
忍容される抗生物質の1つとみなされている。適応症は主としてベータラクタム系抗
生物質にアレルギーを示す小児及び成人における上下気道ならびに皮膚及び皮膚構
造物の感染症、または細胞内微生物及びMycoplasma属などの「非定型」病原体による
47
感染症の治療である。1942年にGardnerとChainが1株のProactinomyces(Streptomyces
gardneri-Waksman, 1961)によって産生された抗細菌活性を持つ物質を発見し、これ
をプロアクチノマイシンAと名付けた。後にBrockmanら(1950)は、彼らがピクロマ
イシンと呼んだ苦味のある物質を産生する1株のStreptomyces felleusを分離した。この
著者らは、この分子の特性がプロアクチノマイシンAと非常によく似ていることに気
づ い た 。 ピ ク ロ マ イ シ ン の 発 見 ( Anliker et al., 1957 ) 以 降 、 Streptomyces 及 び
Micromonospora属のテルル含有株によって産生される約100種類の分子が分離、報告
された。その一部は今でも人体用及び/または動物用の治療薬として使用されている。
エリスロマイシンA及びその他のマクロライド系抗生物質は特徴的な抗菌スペク
トルを持っており、グラム陰性及びグラム陽性球菌だけでなく、H. influenzae、
Bordetella pertussis及びFranciscella tularensisを含むパルボバクテリア科にも有効であ
るが、エリスロマイシンが不活性のBrucella属には効かない(Hall, 1990)
。これらはま
た、Legionella属、Chlamydia属、Ureaplasma urealyticum、Mycoplasma pneumoniae、
Campylobacter属、Leptospira属、及び一部の非定型抗酸菌を含むある種の細胞内及び
非定型微生物にも有効である(Neu, 1988; Johnson et al., 1992)。これらは疎水性で高分
子量であるためにグラム陰性菌の外膜をあまり通過できないため、グラム陰性桿菌に
は不活性である。マクロライド系がもっと親水性になれば、この問題は解消される。
マクロライド系の主な問題は、薬物動態学的特徴が不良なために腸からの吸収の個
体間及び個体内のばらつきが大きいことである。新しい分子を探索するための方法と
しては、テルル含有株のスクリーニングとその発酵産物の分析、及び既知の化合物か
らの完全合成または半合成という3つのアプローチが可能である。
将来のマクロライド系の主な目標は以下のとおりである。
○抗菌スペクトルを広げて一般に感受性の種に対する活性を高めること;既存のマ
クロライドとの交差耐性をほとんどまたはまったく示さない新しい分子を開発する
こと(Bryskier et al., 1992; Kirst, 1991)
○細胞内への取り込みと、病原体が存在し得るさまざまな細胞内区画における生物
活性を高めること(Labro, 1989)
○スピラマイシンについては静脈内製剤が得られるように生薬処方を改善するこ
と(Frydman et al., 1988)
、及びプロピオン酸ジョサマイシンなどの小児用懸濁液の苦
味を隠して(Ikeda et al., 1986)生体内利用能も向上させること
マクロライドの定義
マクロライドという単語はマクロ(大きい)とオライド(ラクトン)に分けられ、
狭義または広義で使うことができる。Woodward(1957)が提唱した定義に少し修正
を加えれば、マクロライド系は大環状ラクトン核という共通の構造を持った分子と言
うことができる。マクロライドは脂肪親和性分子で、12~16原子を持つ特徴的な中心
ラクトン環を持ち、二重結合はあったとしても少なく、窒素原子は存在しない(後者
48
の特徴は、単純な9aのアザ-9-ホモエリスロマイシンであるアザライドが出てきたとき
にもう一度考慮しなければならない)。ラクトン環にはいくつかのアミノ糖及び/ま
たは中性糖が結合することができる。
Masamuneら(1977)を含む一部の研究者はマクロライドという用語の意味をあま
り限定せず、ポリエンやその他の大環状誘導体などにも使用している。彼らはこの薬
理学的クラスに「ポリオキソマクロライド」という用語を提唱している。
0042
Clinical prevalence, antimicrobial susceptibility, and geographic resistance
patterns of enterococci: results from the SENTRY Antimicrobial Surveillance Program,
1997-1999 (腸球菌の臨床的蔓延率、抗菌薬感受性、及び地理的耐性パターン:
1997~1999 年の SENTRY 抗菌薬サーベイランス・プログラムからの結果)
Low, D. E., Keller, N., Barth, A. and Jones, R. N.:Clin. Infect. Dis. 32 Suppl 2, S133-S145
(2001)
SENTRY抗菌薬サーベイランス・プログラムの一環として、1997年から1999年の間
に分離された合計4998株の腸球菌を処理した。種及び感染部位ごとの腸球菌感染症の
発生を分析し、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)ならびにそれらの耐性表現型及び
遺伝子型の発生も分析した。多様な薬剤(実験的化合物を含む)に対する抗菌薬感受
性の傾向も報告している。北米のすべての血流感染症(BSI)からの分離株のうち腸
球菌は9%超を占めていた。アンピシリンはラテンアメリカと欧州の菌株に対しては
有効であったが、米国とカナダの菌株には有効ではなかった。米国の分離株は、世界
の他地域の患者からの分離株よりもバンコマイシン耐性がかなり高度であった(1999
年には17%が耐性株)。VREの比率が最高だったのはBSI分離株であった(81.7%)。
VREに対して試験した薬剤のうち最も活性が高かったのは、キヌプリスチン/ダルホ
プリスチン、クロラムフェニコール、及びドキシサイクリンであった。本試験の結果
は、腸球菌の発生が増大しつつあるという世界的な傾向及びこれらの分離株における
抗菌薬耐性の新興パターンを確証している。
49
0043
Clinical prevalence, antimicrobial susceptibility, and geographic resistance patterns
of enterococci: results from the SENTRY antimicrobial surveillance program,
1997-1999. (腸球菌の臨床罹患率、抗菌薬感受性及び地理的耐性パターン:SENTRY 抗
菌剤耐性サーベイランス・プログラム、1997~1999 年の結果)
Low, D. E., N. Keller, A. Barth, and R. N. Jones.:Clin. Infect. Dis., 32, S133-S145 (2001)
SENTRY抗菌剤耐性サーベイランス・プログラムの一部として、1997~1999年に分
離された合計4998株の腸球菌を処理した。バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)の出現
及びそれらの耐性表現型及び遺伝子型と同様に、種及び感染部位別の腸球菌感染症の
発生について分析した。様々な薬剤(試験的化合物を含む)への抗菌薬感受性におけ
る傾向も報告された。腸球菌は、北米におけるすべての血流感染(BSI)からの分離
株の>9%を占めた。アンピシリンは、ラテンアメリカ及びヨーロッパからの株には活
性があったが、米国及びカナダからの株には活性がなかった。米国分離株は、世界の
その他の地域の患者からの分離株よりバンコマイシンに対する耐性の割合が大幅に
高かった(1999年には耐性株17%)。最も高いVREの割合は、BSI分離株で観察された
(81.7%)
。キヌプリスチン・ダルホプリスチン、クロラムフェニコール及びドキシサ
イクリンは、検査した中でVREに対して最も有効な薬剤であった。本研究の結果、腸
球菌発生の増加及びこのような分離株間の抗菌剤耐性の出現パターンにおける世界
的傾向が確認された。
0044
Cluster of erythromycin- and ciprofloxacin-resistant Campylobacter jejuni
subsp. jejuni from 1999 to 2001 in men who have sex with men, Quebec, Canada.
(カナダ、ケベック州の男性と性行為を持つ男性における 1999 年〜2001 年のエリスロ
マイシン及びシプロキサシン耐性の Campyrobacter jejuni subsp. jejuni )
Gaudreau, C., and S. Michaud.:Clin Infect Dis., 37,
131-136 (2003)
1999年12月から2001年11月の間に、モントリオール市の男性の間で多剤耐性
Campyrobacter jejuni subsp. jejuni 遺伝子群の感染が疑われる腸炎が報告された。26~
40歳の男性9人にエリスロマイシン及びシプロキサシン耐性、テトラアイクリン感受
性のC. jejuniによる腸炎が報告された。さらに、1998年3月及び2000年2月に23歳及び
27歳の男性にエリスロマイシン耐性、シプロキサシン及びテトラサイクリン感受性の
C. jejuniによる腸炎が報告された。全ての分離株はパルスフィールド電気泳動及びフ
ラジェリン型別で同一と判定された。疫学データによると全ての患者は性交による腸
50
炎の感染が示唆された;限られた地域の流行株に感染した患者は全て男性で、性的指
向の情報が得られた8名の患者は男性と性行為を持つ男性(MSM)と申告し、3名の
患者からはMSM間での発症が証明されている性行為に起因するShigella sonneiが分離
された。8名の患者はモントリオール市の同性愛者多数居住区域あるいはその周辺に
居住し、うち6名はMSMと同定された。多剤耐性C. jejuniの出現が明らかなため、こ
れらの細菌の薬剤感受性試験を日常化する必要がある。MSMには性行為で感染する
腸管病原菌の予防に関する教育が必須である。
0045
Comparative In Vitro Activity of Doxycyline and Oxytetracycline against Porcine
Respiratory Pathogens (豚の呼吸器病原体に対するドキシサイクリン及びオキシテトラサイ
クリンの in vitro 活性の比較)
Bousquet E, Morvan H, Aithen I, Morgan JH:The Veterinary Record, 141, 37-40 (1997)
豚の気道から分離したPasteurella multocida 55株、Actinobacillus pleuropneumoniae
59株及びMycoplasma hyopneumoniae 26株に対するドキシサイクリン及びオキシテト
ラサイクリンの最小発育阻止濃度を測定した。追加して肺炎の豚から分離した一連の
P. multocida
76株を、それらのドキシサイクリンの最小発育阻止濃度について検査し
た。P. multocida及びA. pleuropneumoniaeはフランスで分離され、最小発育阻止濃度は
寒天希釈法により測定された。M. hyopneumoniaeは英国で分離され、最小発育阻止濃
度は連続液体希釈法により測定された。検査したすべての株が、ドキシサイクリンに
対して感受性があったが、P. multocidaの15%及びA. pleuropneumoniaeの22%は、オキ
シテトラサイクリンに対して耐性があった。ドキシサイクリンの90%阻止濃度は、P.
multocidaに対しては1µg/mL及びA. pleuropneumoniaeに対しては2µg/mLであった。ドキ
シサイクリンとオキシテトラサイクリンの最小発育阻止濃度の比率は、オキシテトラ
サイクリン感受性株については1/1~1/4の範囲、オキシテトラサイクリン耐性株につ
いては1/16~1/64の範囲であった。すべてのM. hyopneumoniaeは、ドキシサイクリン
及びオキシテトラサイクリンに感受性があり、株の90%を阻止する濃度は、それぞれ
1µg/mL及び2µg/mLであった。これらのデータにより、ドキシサイクリンは、オキシ
テトラサイクリンより豚呼吸器病原体に対するin vitro活性が高いことが確認される。
51
0046
Comparative in vitro activity of quinupristin/dalfopristin against multidrug
resistant Enterococcus faecium (多剤耐性 Enterococcus faecium に対するキヌプリ
スチン/ダルホプリスチンの in vitro 活性の比較)
Bonilla, H. F., Perri, M. B., Kauffman, C. A., and Zervos, M. J:Diagn. Microbiol. Infectious Dis.
25, 127-131 (1996)
欧州及び米国の13病院から集められたバンコマイシン耐性Enterococcus faecium
(VREF)82株(49株がvanA、33株がvanB)のin vitro感受性を試験した。複数の抗生
物質に関するMICは、バンコマイシン、アンピシリン、ゲンタマイシン、及びイミペ
ネムに対する高度の耐性を示していた。VREF株はすべてがキヌプリスチン/ダルホプ
リスチンに対して高度に感受性であり、vanA及びvanB表現型のいずれにおいてもMIC
90%は0.5 µg/mLであった。キヌプリスチン/ダルホプリスチン単独及びキヌプリスチ
ン/ダルホプリスチンと数種類の抗生物質(アンピシリン、ゲンタマイシン、シプロ
フロキサシン、リファンピン及びノボビオシン)の併用についてのVREFの時間-殺菌
及び相乗効果試験では殺菌活性は示されなかった。SF6550(VREF、vanA株)を用い
た誘導実験では、キヌプリスチン/ダルホプリスチンがバンコマイシン耐性の発現を
2.5時間遅らせた。本研究の結果は、キヌプリスチン/ダルホプリスチンが多剤耐性E.
faeciumに対して優れたin vitro活性を発揮することを示している。
0047
Comparative In-vitro Activity of Levofloxacin, against Chlamydia spp.
(Chlamydia 属に対するレボフロキサシンの in vitro 活性の比較)
Donani M, Rumpianesi F, Marchetti F, Sambri V, Cevenini R:J Antimicrob Chemother 1998; 48:
670-671
クラミジアは偏性細胞内寄生のグラム陰性細菌であり、これまでにChlamydia
pneumoniae(肺炎クラミジア)
、Chlamydia psittaci(オウム病クラミジア)
、Chlamydia
trachomatis(トラコーマ・クラミジア)及びChlamydia pecorum(反芻動物クラミジア)
の4種が特定されている。C. pneumoniaeと、C. psittaciは気道感染症を引き起こす一方、
C. trachomatisは上下気道、尿生殖路及び結膜の感染症に関係する。C. pecorumの病原
性は不明である。
クラミジア感染患者の治療にはテトラサイクリン系が第一選択薬とみなされてい
る。しかし、C. psittaciでは症状の再発がよく報告され、標準的治療薬に対する耐性発
生の可能性ならびにエリスロマイシン、テトラサイクリン及びこれらと同種の薬物に
対する異型耐性を示す菌株の存在から、代替薬の探索が促されている。新しいフルオ
52
ロキノロン類は、Mycoplasma、Legionella及びChlamydia属を含む広域の微生物に対し
て強力なin vitro活性をもつことを特徴とする2,3。特にオフロキサシンはChlamydia属
感染症の患者の治療薬として有効で、しかもよく忍容されることが示されている4。
ラセミ型オフロキサシンのl-異性体であるレボフロキサシンは、オフロキサシンの約2
倍の活性をもつとともに1日1回の投与で済む薬物動態特性も備えている5。今回の研
究では、クラミジアの3種に属する菌株に対するレボフロキサシンのin vitro活性を、
オフロキサシン及び3つのテトラサイクリン系のものと比較した。
C. trachomatis 3株(それぞれ、血清型D、E及びLGV2-434/Buに属する)
、C. psittaci 1
株(6BC)ならびにC. pneumonia 1株(IOL-207)を用いた。これらの菌を、10%ウシ
胎仔血清を添加したイーグル最小必須培地を用いたカバースリップ培養で増殖させ
たLLC-MK2細胞(アカゲザル腎組織由来の連続細胞株)の24ウェル・マイクロタイ
タープレートで増殖させた。レボフロキサシンとオフロキサシンはHoechst Marion
Roussel社から提供されたもので、テトラサイクリン、ミノサイクリン及びドキシサイ
クリンはSigma Chemical社から入手した。MICは、シクロヘキシミド(1 mg/L)とグ
ルコース(5 mg/L)を含有する増殖培地に、各菌株の5×106封入体形成単位(ifu)/L
を含む懸濁液を接種することによって測定した。この接種済み平板を1700 gで1時間
遠心分離してから培地を除去し、代わりにシクロヘキシミドと、各抗生物質を段階2
倍希釈で含有する新鮮培地を入れた。35℃で48時間培養後、カバースリップを取り除
いて菌体をメタノールで固定し、以前の報告のとおりに属特異的リポ多糖抗原に対す
るモノクローナル抗体で染色した。菌体を400倍のZeiss UV顕微鏡で検査し、封入体
が見られなくなった各抗生物質の最低濃度をMICと定義した。MBCは以前の報告のと
おりに測定し、抗生物質無添加培地の単層でさらに48時間にわたり再培養したときに
封入体が見られなくなる各抗生物質の最低濃度と定義した。
レボフロキサシンのMICは0.5~1 mg/Lの範囲で、オフロキサシンの2分の1から4分
の1の間であった。この2つのキノロン類のMBCはそれぞれのMICと同一であった。試
験したテトラサイクリン系のうちミノサイクリンとドキシサイクリンは同等の活性
を示し、テトラサイクリンよりもわずかに優れていた(前者のMICは後者の2分の1で
あった)。キノロン類と違って、テトラサイクリン系のMBCはそれぞれのMICの2~8
倍であった。各供試菌株に対する各抗生物質のMICの差異は、2倍希釈1段階分にしか
過ぎなかった。
本研究の結果は以前の研究のものと一致しており、レボフロキサシンとオフロキサ
シンがMICと同一の濃度での1回の増殖サイクルでクラミジア菌株に対して殺菌活性
を示すことを確証している。一方、テトラサイクリン系の殺菌活性はMICの最大8倍
の濃度で達成された。クラミジア感染症患者の治療薬としてのレボフロキサシンの有
効性を評価し、テトラサイクリン系の有効性と比較するようデザインされた研究が現
在進行中であり、異なるグループに属する抗生物質の活性をこの臨床条件で比較する
53
手段は、現在のところ対照臨床試験のみとなっている。
0048
Comparative Killing Kinetics of Methicillin-Resistant Staphylococcus aureus by
Bacitracin or Mupirocin (バシトラシンあるいはムピロシンによるメチシリン耐性黄色ブドウ
球菌の死滅動態の比較)
Chapnick, E.K., Gradon, J.D., Kreiswirth, B., Lutwick, L.I., Schaffer, B.C., Schiano, T.D. and Levi,
M.H.:Infection Control and Hospital Epidemiology, Mar-96, 178-180 (1996)
バシトラシンとムピロシンのin vitro活性を、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌の異な
る7つの株で比較した。7株のうち6株は、0.5~1.0単位//mLのバシトラシン最小発育阻
止濃度(MIC)を示し、7株すべてのムピロシンMICは0.5~2 µg/mLであった。時間死滅試験において、バシトラシン(4単位//mL)に感受性のある株の24時間における
2.6~4.5 logの減少及びムピロシン(16 µg/mL)による0~2.2 logの減少が認められた。
高い殺菌効果があり低コストであるため、バシトラシンのin vivo試験をさらに検討す
るべきである。
0049
Comparison of antimicrobial resistance phenotypes and resistance genes in
Enterococcus faecalis and Enterococcus faecium from humans in the community,
broilers, and pigs in Denmark Diagnostic (デンマーク市中のヒト、ブロイラー及び豚
由来の Enterococcus faecalis 及び Enterococcus faecium の抗菌薬耐性表現型及び
耐性遺伝子の比較)
Aarestrup, F. M., Agerso, Y., Gerner-Smidt, P., Madsen, M., and Jensen, L. B.:Microbiology and
Infectious Disease 37, 127-137 (2000)
1998年中にデンマーク市中のヒト(98及び65分離株)
、ブロイラー(126及び122株)
、
ならびに豚(102及び88株)から分離されたEnterococcus faecalis及びE. faeciumを12種
類の抗菌薬に対する感受性について試験し、耐性をコードする遺伝子の一部について
その存在をPCRによって分析した。さらに、ヒトの糞便サンプル38例におけるバンコ
マイシン耐性腸球菌の存在を選択増菌によって調べた。3つすべての起源由来の分離
株の間に、クロラムフェニコール、マクロライド、カナマイシン、ストレプトマイシ
ン、及びテトラサイクリンに対する耐性が広く蔓延していることが認められた。ヒト
及び豚由来のE. faecium分離株はすべてがアビラマイシンに対して感受性であったが、
ブロイラー由来の分離株は35%が耐性であった。ヒト由来のE. faecium分離株はすべ
54
てがバンコマイシンに対して感受性であったが、ブロイラー及び豚由来の分離株はそ
れぞれ10%及び17%が耐性であった。選択増菌を用いて調べたヒトの糞便サンプル38
例のうち1例にバンコマイシン耐性E. faecium分離株が認められた。バンコマイシン耐
性分離株のすべてがvanA遺伝子を持ち、クロラムフェニコール耐性分離株のすべてが
catpIP501遺伝子を持ち、5つのゲンタマイシン耐性分離株のすべてがaac6-aph2遺伝子を
持っていた。試験した72株のエリスロマイシン耐性E. faecalisのうち61株(85%)及
び試験した63株のエリスロマイシン耐性E. faecium分離株のうち57株(90%)がermB
遺伝子を持っていた。カナマイシン耐性E. faecalisのうち40株(91%)及びカナマイ
シン耐性E. faecium分離株のうち18株(72%)がaphA3遺伝子を持っていた。試験した
ヒト及び動物由来のテトラサイクリン耐性E. faecalis及びE. faecium分離株の95%にtet
(M)遺伝子が認められた。tet(K)遺伝子は認められなかったが、tet(L)はテト
ラサイクリン耐性E. faecalis分離株の17%及びE. faecium分離株の16%で検出された。
tet(O)は豚由来の分離株ではまったく検出されなかったが、ブロイラー由来E. faecalis
分離株の38%、2株のヒト由来E. faecalis分離株、及び3株のブロイラー由来E. faecium
分離株で認められた。tet(S)は動物由来の分離株では検出されなかったが、ヒト由
来E. faecalisの31%及び1株のE. faecium分離株で認められた。本研究は、ヒト、ブロイ
ラー及び豚から分離されたE. faecalisとE. faeciumにおける高頻度の抗菌薬耐性の発生
及び一部の耐性遺伝子の存在を示した。分離起源によって耐性の発生及びテトラサイ
クリン耐性遺伝子の存在が異なることが認められた。しかし、同様の耐性パターン及
び耐性遺伝子が高頻度に認められ、このことはヒト、ブロイラー及び豚の間で耐性腸
球菌または耐性遺伝子の移行が起こっていることを示している。
0050
Comparison of In Vitro Activity of Danofloxacin, Florfenicol, Oxytetracycline,
Spectinomycin and Tilmicosin against Recent Field Isolates of Mycoplasma bovis
(Mycoplasma bovis の最近の野生分離株に対するダノフロキサシン、フロルフェニコール、オ
キシテトラサイクリン、スペクチノマイシン及びチルミコシンの in vitro 活性の比較)
Ayling RD, Baker SE, Peek /ML, Simon AJ, Nicholas RAJ:The Veterinary Record, 146, 745-747
(2000)
Mycoplasma bovisの62の最近の英国の野生分離株に対するダノフロキサシン、フロ
ルフェニコール、オキシテトラサイクリン、スペクチノマイシン及びチルミコシンの
最小発育阻止濃度(MIC)及び最小殺マイコプラズマ濃度(MMC)を、微量液体希
釈法によりin vitroで測定した。分離株はダノフロキサシンに対して最も感受性があり、
MIC90及びMMC90値は、それぞれ0.5µg/mL及び1.0µg/mLであった。これらは、フロ
55
ルフェニコールに対する感受性は低く、MIC90は16µg/mL、MMC90は32µg/mLであっ
た。オキシテトラサイクリン及びスペクチノマイシンは、検査した大部分の分離株に
対して限られた効果のみを持ち、MIC50はそれぞれ32µg/mL及び4µg/mLで、MIC90は
それぞれ64µg/mL及び>128µg/mLであった。分離株の約20パーセントは、スペクチノ
マイシンに対して高い耐性があり、チルミコシンは効果がなく、分離株の92%のMIC
値は128µg/mL以上であった。ダノフロキサシンに対するM. bovisによる耐性のエビデ
ンスはなかった。
0051
Omparison of Methods for In Vitro Testing of Susceptibility of Porcine
Mycoplasma Species to Antimicrobial Agents (抗菌剤に対する豚のマイコプラズマ種
の感受性に関する in vitro 検査方法の比較)
Ter Laak EA, Pijpers A, Noordergraaf JH, Schoevers EC, Verheijden JHM:Antimicrobial Agents
of Chemotherapy. 35(2), 228-233 (1991)
3種類の豚のマイコプラズマ種の株に対して用いた18種類の抗菌剤のMICを、連続
液体希釈法により測定した。M.hyorhinisの20野外株、M.hyopneumoniaeの10野外株、
M.flocculareの6野外株及びこれらの種の標準株を検査した。M.hyorhinisの12野外株及
び標準株は、寒天希釈法でも検査した。いくつかの時点で、検査結果の読み取りを行
った。液体希釈法を使用した場合、最終的なMICは、発色変化の停止から2日後に判
定する必要があった。テトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、ドキシサイクリ
ン及びミノサイクリンのMICは、検査した3種類のマイコプラズマ種に対して低かっ
た。クロルテトラサイクリンのMICは、その他のテトラサイクリンのMICより8~16
倍高かった。スピラマイシン、タイロシン、キタサマイシン、スペクチノマイシン、
チ ア ム リ ン 、 リ ン コ マ イ シ ン 及 び ク リ ン ダ マ イ シ ン は 、 M. hyorhinis 及 び M.
hyopneumoniaeのすべての株に対して有効であった。キノロンは、M. hyopneumoniae
に 対 す る 効 果 が 高 か っ た が 、 M. hyorhinis に 対 し て は 効 果 が な か っ た 。
M .hyopneumoniaeとM. flocculareに対する感受性パターンは類似していた。
56
0052
Contemporary antimicrobial activity of triple antibiotic ointment: a multiphased
study of recent clinical isolates in the United States and Australia (三剤配合抗生物
質軟膏の現在の抗菌活性:米国及びオーストラリアの最近の臨床分離株に関する多相
試験)
Ronald N. Jones, Qing Li, Bruce Kohut, Douglas J. Biedenbach, Jan Bell and John D. Turnidge:
Diagnostic Microbiology and Infectious Disease, 54, 63-71 (2006)
ネオマイシン、ポリミキシンB、及びバシトラシンを含有する三剤配合抗生物質軟
膏(TAO)は表在性創傷感染の予防薬として、米国では1950年代に処方薬として発売
され(USA)、その後1970年代以降は大衆薬(OTC)として使用されている(USA)。
オーストラリアではTAOは処方使用に限定されている。本研究では、1)他のアミノ
グリコシド系抗生物質と比較してネオマイシンの交差耐性パターンを判定し、2)TAO
及び個別の成分に対する耐性のレベルと傾向を、特にムピロシン耐性株と対比させて
調べ(USA)、3)オーストラリアの病原菌に対するベースラインのTAO活性レベルを
確定した。交差耐性試験には米国で分離された合計200株(50%以上がゲンタマイシ
ン耐性)を使用し、Staphylococcus aureus(黄色ブドウ球菌;110株)
、コアグラーゼ陰
性ブドウ球菌(CoNS;50株)
、Pseudomonas aeruginosa(緑膿菌;10株)
、Escherichia coli
(大腸菌;20株)、及びその他の腸内細菌科細菌(10株)をTAO、バシトラシン、ポ
リミシンB、ネオマイシン、アミカシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ト
ブラマイシン、及びムピロシンに対して試験した。経時的なTAOの活性の判定には、
各年(1997~2002年)50株ずつのゲンタマイシン耐性分離株を使用した。オーストラ
リアの分離株300株(AGARSプログラム、2002~2003年)におけるTAOのベースライ
ン耐性率も調べた。本研究ではすべての相で標準の微量液体希釈法を使用した。交差
耐性試験では、軟膏濃度の1:100希釈でTAOはすべてのCoNS、Pseudomonas aeruginosa
及 び 腸 内 細 菌 科 細 菌 の 発 育 を 阻 止 し 、 こ の 濃 度 で TAO に 対 す る 耐 性 を 示 し た
Staphylococcus aureusはわずか5%であった。1997年から2002年までの米国における感
受性パターンには有意な変動は認められなかった。オーストラリアの病原菌では、
TAOはメチシリン耐性Staphylococcus aureusの98%、ならびに腸内細菌科細菌、メチシ
リン感受性S. aureus、CoNS、及びP. aeruginosaの100%に対して有効であり、この率は
米国でみられたものと同等であった。ムピロシン耐性S. aureus(5%)とCoNS(47%)
はすべてがTAO感受性であった。グラム陰性菌種はすべてがムピロシン耐性でもあっ
たが、TAOのネオマイシン及び/またはポリミキシンB成分によってその発育が阻止さ
れた。結論として、アミノグリコシド耐性パターンには有意な差があり、一般に試験
されている薬物によってネオマイシン耐性を正確に予測することは不可能であった。
米国におけるTAO耐性は広範なOTC使用が始まった後でもまれであり、何十年にもわ
57
たるアミノグリコシドの非経口使用にも悪影響を受けなかった。オーストラリアの調
査では、OTCとしての使用可能性に備えたベースラインとして収集された分離菌にお
けるTAO感受性が高度であることが示された。TAOはムピロシンよりも広域の活性ス
ペクトルを維持しており、ムピロシン耐性グラム陽性菌株に対して使用可能であった。
0053
Contribution of the CmeABC efflux pump to macrolide and tetracycline
resistance in Campylobacter jejuni.
(マクロライド及びテトラサイクリン耐性
Campylobacter jejuni における CmeABC 排出ポンプの寄与)
Gibreel A., N. M. Wetsch, and D. E. Taylor.:Antimicrob Agents Chemother 51. 3212-3216(2007)
著者らはCampyrobacter jejuniのマクロライド及びテトラサイクリン耐性獲得にお
けるCmeABC排出ポンプの関与に関しての実験を行った。標的遺伝子の全コピーを
A2074変異で追跡した場合、cmeB遺伝子の不活性化はマクロライド耐性に影響を与え
なかった。対照的に、23S rRNAの2あるいは3個のコピーがA2075C転移を有する場合、
CmeABC排出ポンプがマクロライド耐性に顕著に関与していた。cmeB遺伝子の不活
性化によって検査した分離株のテトラサイクリン感受性復活が認められた。しかしな
がら、フェニルアラニン-アルギニン-β-ナフチルアミドを用いた場合、テトラサイク
リンあるいはマクロライドに対する感受性の完全な復活は認められなかった。これら
のデータはCampyrobacter jejuniのテトラサイクリン及びマクロライド耐性獲得にお
けるCmeABC排出ポンプの寄与を証明するものである。
0054 Cross-Resistance among 3 Tetracyclines. (3 種のテトラサイクリン系抗生物質間
の交差耐性)
Wright SS, Finland M:Proceedings of the Society for Experimental Biology and Medicine, 85,
40-42 (1954)
以前の論文では、3種の化学的に類縁の抗生物質すなわちテトラサイクリン、オキ
シテトラサイクリン(Terramycin)及びクロルテトラサイクリン(Aureomycin)が供
試病原性菌株の大部分に対して非常によく似た抗菌作用を示すことが明らかにされ
た。一般に供試細菌は、用いられた試験条件下で3つの類似化合物のすべてに対して
同等の感受性または耐性を示したが、個々の株または種について見ると、これらの類
似化合物の作用の間には有意な量的差異が存在していた。さらに以前の研究では、ク
58
ロルテトラサイクリンとオキシテトラサイクリンの間にかなりの交差耐性が認めら
れ、この2剤とクロラムフェニコールの間にもいくらかの交差耐性が認められていた。
これらのことから、クロルテトラサイクリンの有機塩素もオキシテトラサイクリンの
特徴である水酸基も持たない新しい抗生物質であるテトラサイクリンとも同様の交
差耐性がin vitroで実証され得るかどうかが関心の的となった。
材料及び方法:テトラサイクリン(Achromycin)塩酸塩は、レタリー研究所のDr. Stanton
M. Hardyから無菌バイアルに入れた結晶型として提供された。使用した他の抗生物質
は以前の研究で用いられていたものと同様であった。使用した微生物は、入院患者の
感染材料の単コロニー培養から最近分離したものであった。これらをテトラサイクリ
ン及びオキシテトラサイクリンの4倍段階希釈を含有するpH±7.4のブレインハート
インフュージョン・ブロス(Difco)で増殖させ、ほぼ最適な増殖が可能な最高濃度
の抗生物質を含有するチューブから同じ抗生物質を含有するブロスの別のチューブ
シリーズへと3~4日間隔で継代培養を行った(このような長期間のインキュベーショ
ンはクロルテトラサイクリンを大きく劣化させて、結果を比較不能なものにしてしま
うため、この継代培養にはクロルテトラサイクリンを用いなかった)。このような継
代培養を20代行った後、抗生物質からの菌株2シリーズと抗生物質にまったく曝露さ
れていない親株とを、2倍寒天平板希釈法により3種のテトラサイクリン類似化合物の
それぞれに対して同時に試験した。次にすべての菌を抗生物質無添加ブロスに一回継
代培養し、3シリーズのすべてからの菌株を同じ寒天平板希釈法によりペニシリン、
ストレプトマイシン、クロラムフェニコール、バシトラシン、ポリミキシンB
(Aerosporin)、ネオマイシン及びエリスロマイシンに対する感受性について同時に試
験した。どの菌株についても感受性は24時間で目に見える増殖を許さなかった抗生物
質の最小濃度とした。
結果:テトラサイクリン系抗生物質間の交差耐性. 親株及びテトラサイクリンまた
はオキシテトラサイクリンのいずれかを段階濃度で含有するブロスで20回継代培養
した株のテトラサイクリン、オキシテトラサイクリン、及びクロルテトラサイクリン
に対する感受性を表に列挙している。どの菌でも、曝露された抗生物質に対する耐性
が16倍から256倍まで増進した。これらの菌のすべてが他の2つの類似化合物のそれぞ
れに対しても耐性を増進させ、その増大の大きさの次数は、同種抗生物質に対するも
のと同じであった。一部では異種抗生物質に対する耐性の増進が、その菌が曝露され
た抗生物質に対して見られたものよりも大きいこともあったが、その逆もまた同じく
らいの頻度で認められた。
他の抗生物質に対する交差耐性:この3シリーズの培養による試験では、ペニシリン、
ストレプトマイシン、バシトラシン、ポリミキシンB、ネオマイシン及びエリスロマ
イシンに対する感受性について有意差は認められなかった。いずれの場合も、これら
抗生物質のそれぞれについてのテトラサイクリン耐性変異株及びオキシテトラサイ
59
クリン耐性変異株の最小発育阻止濃度は、親株または2倍希釈1段階のみから得られた
変異株のいずれかのものと同一であった。しかし、クロラムフェニコールに対する感
受性は有意な変化を示し、それを表IIに列挙している。クロルテトラサイクリンとオ
キシテトラサイクリンを用いた以前の試験と同様、テトラサイクリンに対して耐性と
なっていた大腸菌群のみがクロラムフェニコールに対して有意な交差耐性を示した
が、テトラサイクリン及びオキシテトラサイクリン耐性グラム陽性菌はクロラムフェ
ニコールに対して交差耐性を示さないか、耐性のわずかな増進を示しただけであった。
その他の所見:抗生物質存在下で20代継代した菌株をいくつかの点についてそれぞれ
の親株とも比較した。抗生物質無添加の血液寒天平板では、抗生物質含有ブロスから
直接移した株は親株よりも増殖が遅く、はるかに小さなコロニーを形成した。これは
ブドウ球菌で特に顕著であり、いくぶん大きなコロニーの間に拡大しなければ見えな
いような小さなコロニーが散在していた。この小さなものは形態的にいわゆるG型に
相当していた。これらのブドウ球菌コロニーは色素の産生も親株より少なかった。オ
キシテトラサイクリンの存在下で継代したStaph. aureus 2の株はヒト血漿を凝集させ
なかったが、同じ血漿で同時に試験した他のブドウ球菌株はすべてが凝集を引き起こ
した。Staph. aureus 2の耐性変異株を抗生物質無添加ブロスで1回継代培養してから試
験した場合、これは親株と同様にペニシリナーゼを産生した。エオジン-メチレンブ
ルー寒天では、抗生物質存在下で継代した3種の大腸菌がそれぞれの親株よりも小さ
なコロニーを形成し、K. pneumoniaeの抗生物質耐性変異株のコロニーはその親株のも
のよりも平坦で粘液性が乏しかった。グラム染色では、抗生物質含有ブロスから直接
採取した菌は一般に、抗生物質を含まない同じブロスで増殖させたその親培養よりも
小さく、多形性がはるかに顕著であった。耐性グラム陽性菌はあまり染まらず、K.
pneumoniaeの耐性変異株はその莢膜を失っていた。熱に対する耐性はすべての腸球菌
株が保持していた。シモンズ・クエン酸寒天に対するE. coli及びA. aerogenesに対する
反応は変化しなかった。
結論:テトラサイクリンまたはオキシテトラサイクリンの存在下で反復継代すること
によってこれらの抗生物質に対する耐性をin vitroで獲得した菌は、この2つの抗生物
質及びクロルテトラサイクリンに対して本質的に完全な交差耐性を示した。テトラサ
イクリン系に対する耐性増進の結果としての交差耐性及び感受性の増大は、ペニシリ
ン、ストレプトマイシン、バシトラシン、ポリミキシン、ネオマイシン及びエリスロ
マイシンに対しては見られなかった。大腸菌群の桿菌3株はそれぞれテトラサイクリ
ンまたはオキシテトラサイクリンの存在下での継代後にクロラムフェニコールに対
して有意な交差耐性を示したが、グラム陽性球菌の5株では同様の交差耐性は認めら
れなかった。
60
0055
Decreased susceptibility to Azithromycin and Doxycycline in Clinical Isolated of
Chlamydia trachomatis Obtained from Recurrently Infected Female Patients in India
(インドの再発性感染症女性患者由来の Chlamydia trachomatis 臨床分離株における
アジスロマイシン及びドキシサイクリン感受性の低下)
Bhengraj AR, Vardhan H, Srivastava P, Salhan S, Mittal A:Chemotherapy, 56(5), 371-377 (2010)
再発性性器Chlamydia trachomatis感染症はしばしば重篤な続発症を起こし、生殖に
関する健康に大きな影響を与える。材料及び方法:再発性感染症は、症状のある女性
患者において診断された。再発性感染患者を含むC. trachomatis陽性患者から採取した
臨床分離株21株について細胞培養法を用い、アジスロマイシン及びドキシサイクリン
に対するin vitro感受性試験を実施した。結果:13分離株(61.9%)がアジスロマイシ
ン及びドキシサイクリンに対して感受性であることが確認され、最小発育阻止濃度
(MIC)は、各々、0.125//mL以下及び0.25 µg/mL以下であった。8分離株(38%)は、
アジスロマイシン及びドキシサイクリン対する感受性が低いことが確認された。この
うち2株のアジスロマイシン及びドキシサイクリンに対するMICはともに8 µg/mLで
あり、最小殺菌濃度試験でみられたように完全に排除することはできなかった。結
論:再発性感染患者由来の分離株において、クラミジア感染症治療のための現在の第
一選択薬(アジスロマイシン及びドキシサイクリン)に対する抗生物質感受性低下が
観察された。
0056
Defective killing of enterococci: a common property of antimicrobial agents
acting on the cell wall (腸球菌の不完全な死滅:細胞壁に作用する抗菌剤の共通特
性)
Krogstad D.J. and Parquette A.R.:Journal of Antimicrobial Agents & Chemotherapy, 24, 965-968
(1980)
本試験では、細胞壁に作用して腸球菌を死滅させる抗菌剤の能力を試験し、β-ラ
クタム系(ペニシリンG及びセファロチン)及び非β-ラクタム系(バンコマイシン、
シクロセリン及びバシトラシン)のいずれによっても、不完全な死滅が認められた(最
小殺菌濃度/最小発育阻止濃度比率≧32)
。本試験の結果は、抗菌活性に対する腸球菌
の耐性が、細胞壁合成を阻害することが知られる薬剤の薬効範囲に及ぶことを示し、
これらの薬剤による死滅に対する腸球菌耐性の機序が、自己分解酵素系の障害である
可能性を示唆している。
61
0057 Detection and survival of Campylobacter in chicken eggs. (鶏卵におけるカンピロバク
ターの検出及び残存)
Sahin, O., P. Kolbalka and Q. Zhang.:J. Appl. Microbiol., 95, 1070-1079 (2003)
目的:食物媒介ヒト病原体のCampylobacter jejuniは鶏肉に広がっている。しかし、養
鶏場におけるこの微生物の感染源及び伝播様式は、十分理解されていない。本試験の
目的は、C. jejuniの垂直伝播が鶏卵を介して起こるかどうかを判定することであった。
方法及び結果:温度差法により、カンピロバクターが卵殻から侵入する能力が小さい
ことが示された。C. jejuniを卵黄に直接接種し、鶏卵を18℃で保存した場合、この細
菌は最長14日間生存が可能であった。しかし、卵白あるいは気室に注入した場合、
C .jejuniの生存能力は劇的に短縮された。カンピロバクターの接種を受けた特定病原
体未感染(SPF)の産卵鶏による産卵直後の鶏卵を検査すると、C. jejuni汚染が、培養
及びPCR法を介して65の全卵プール(それぞれのプールに5~10個の鶏卵)のうち3つ
で検出された。しかし、同一のSPF群から採取したが、検査前に18℃で7日間保存した
800個の鶏卵(80プール)のいずれからも、この細菌は検出されなかった。同様に、
カンピロバクターは、糞中にカンピロバクターを活発に排出していたコマーシャルブ
ロイラー種鶏群から得られた500個の新鮮な鶏卵のいずれからも分離されなかった。
また、民間孵化場から入手したブロイラー種鶏による1000個の鶏卵は、いずれもカン
ピロバクターに対して陽性ではなかった。
結論:これらの結果により、鶏卵を通じたC. jejuniの垂直伝播は、稀である可能性が
高く、鶏群へのカンピロバクターの導入において主要な役割を果たさないことが示唆
される。試験の重要性及び影響:鶏群へのカンピロバクター伝播の制御では、鶏卵に
関連のない感染源に焦点を置くべきである。
0058 Detection of the satA gene and transferability of virginiamycin resistance in
Enterococcus faecium from food-animals (食用動物由来 Enterococcus faecium に
おける satA 遺伝子の検出及びバージニアマイシン耐性の伝達可能性)
Hammerum, A. M., Jensen, L. B., and Aarestrup, F. M.:FEMS Microbiol. Letters. 168, 145-151
(1998)
豚及びブロイラーからのバージニアマイシン耐性Enterococcus faecium分離株にス
トレプトグラミンA耐性をコードするsatA遺伝子が検出された。satA遺伝子は89株の
バージニアマイシン耐性E. faecium分離株のうち22株(25%)に存在した。また、ス
62
トレプトグラミン耐性をコードするsatA遺伝子及びその他の遺伝子は、同質遺伝子型
E. faecium株間で1ドナーあたり2.3×10-4から2.2×10-3の接合完了体の頻度で伝達可能
であることが示された。
0059
Detection of thermophilic Campylobacter from sparrows by multiplex PCR: the
role of sparrows as a source of contamination of broiler with Campylobacter. (多重
PCR によるスズメからの好熱性 Campylobacter の検出:ブロイラーの Campylobacter
汚染の源としてのスズメの役割)
Chuma, T., S. Hashimoto, and K. Okamoto.:J. Vet. Med. Sci., 62, 1291-1295 (2000)
Campylobacter jejuni、Campylobacter coli及びCampylobacter lariのための多重PCRの
プライマーとアニーリング温度の最良の組み合わせを検討した。多重PCRは、この3
種の株のタイプを検出することができた。多重PCRによる野生型の同定結果(30株が
C. jejuni、20株がC. coli、及び4株がC. lari)はいずれも従来の生化学的同定試験の結
果と一致しており、多重PCRによりカンピロバクターの野生型からのC. jejuni、C. coli
及びC. lariの同時識別を容易かつ迅速に実施できることが示唆された。多重PCRによ
りスズメの糞便からカンピロバクターを検出して各株の抗菌薬感受性を調べ、ブロイ
ラーのC. jejuni汚染におけるスズメの役割を考察した。スズメの糞便から分離された
13株のC. jejuni分離株のうち3株がキノロン耐性を示した。鶏、豚及び乳牛などの産業
動物の治療へのキノロン類の頻繁な使用から、スズメの3株のキノロン耐性C. jejuni
は産業動物に由来するものに違いないと思われた。キノロン耐性C. jejuniを持ってい
たスズメは産業動物またはその飼料と接触していたと考えられた。それとは逆に、ス
ズメのC. jejuniはブロイラーの汚染源になり得るとも考えることができる。
0060
Determination of Mycoplasma bovis susceptibilities against six antimicrobial
agents using the E test method (E-test を用いた 6 種類の抗菌薬に対する
Mycoplasma bovis の感受性の測定)
Francoz D, Fortin M, Fecteau G,Messier S:Veterinary Microbiology 105 (1)57, 64(2005)
本試験の目的は、6種類の抗菌薬に対するMycoplasma bovisの感受性をE-test法を用
いて測定することであった。
55 頭の罹患牛由来のM. bovis分離株58株について評価を行った。検体は、肺組織、
63
滑液、気管・気管支洗浄液、乳汁、及び外耳・内耳分泌物由来であった。試験した抗
菌薬は、アジスロマイシン、クリンダマイシン、エリスロマイシン、エンロフロキサ
シン、スペクチノマイシン、及びテトラサイクリンであった。被験菌浮遊液を接種し
たHayflick平板の表面にE-testストリップを置き、平板を35℃で72時間ろうそく培養し
た。その後、発育阻止帯がストリップと交差する位置の目盛りを読み取ってMICを決
定した。対照にはM. bovis Donetta分離株を使用した。
エリスロマイシンのMICは、MIC50、MIC90ともに256 µg/mL以上であった。アジス
ロマイシンのMIC50及び MIC90は、各々、3 µg/mL 及び256 µg/mL以上であった。テ
トラサイクリンのMIC50及びMIC90は、各々、4及び8 µg/mLであった。スペクチノマ
イシンのMIC50及びMIC90は、各々、2 µg/mL及び1021 µg/mL以上であった。クリン
ダマイシンの MIC50及びMIC90は、各々、0.19 µg/mL及び256 µg/mL以上であった。
エンロフロキサシンのMIC50及びMIC90は、各々、0.19及び0.25 µg/mLであった。ア
ジスロマイシンを除いて、検体採取元に関連した耐性はみられなかった。
M. bovis の感受性はE-testにより容易に測定され、エンロフロキサシンの有効性、
ならびにテトラサイクリン、スペクチノマイシン、アジスロマイシン及びクリンダマ
イシンに対する獲得耐性が証明された。
0061
Differences in Antibiotic Resistance Patterns of Enterococcus faecalis and
Enterococcus faecium Strains Isolated from Farm and Pet Animals (家畜及びペット
動物から分離された Enterococcus faecalis 及び Enterococcus faecium 株の抗生物質
耐性パターンの相違)
Butaye, P., Devriese, L. A., and Haesebrouck, F.:Antimicrob. Agents Chemother. 45,No.5,
1374-1378 (2001)
ベ ル ギ ー で 1998 年 と 1999 年 に 家 畜 と ペ ッ ト 動 物 か ら 分 離 さ れ た 146 株 の
Enterococcus faecium及び166株のEnterococcus faecalisについて、成長促進及び治療のた
めに用いられる抗生物質に対する獲得耐性の蔓延率を調べた。成長促進のみを目的と
して用いられる2つの抗生物質、フラボマイシン及びモネンシンに対する獲得耐性は
検出されなかった。アボパルシン(糖ペプチド)耐性はE. faeciumのみに散発的に認
められた。アビラマイシン耐性はほぼ家畜由来の菌株のみに見られた。耐性発生率は、
タイロシンとバージニアマイシンについてはブロイラー由来E. faecium株が他の動物
群由来菌株に比べて高く、ナラシンとバシトラシンについてはE. faecium株だけでな
くE. faecalis株でもブロイラー由来のものが高かった。アンピシリンに対する耐性は
主としてペット由来のE. faecium株に認められ、E. faecalisには認められなかった。テ
64
トラサイクリン耐性は家畜由来の菌株に最も多く見られたが、E. faecalisのみに見ら
れたエンロフロキサシン耐性はすべての起源由来の菌株で等しく認められた。ゲンタ
マイシンに対する耐性はブロイラー株ではごくまれに見られただけであったが、他の
起源由来の菌株における耐性発生率は高かった。成長促進のみを目的として用いられ
る抗生物質に対する耐性の蔓延率はE. faecalis株よりもE. faecium株の方が高かったと
結論づけることができる。わずかな例外を除いて、異なるカテゴリーの抗生物質に対
する耐性の蔓延率はペットよりも家畜由来の菌株の方が高かった。
0062 Differential antimicrobial susceptibility between human and chicken isolates of
vancomycin-resistant and sensitive Enterococcus faecium (ヒト及び鶏由来バンコマ
イシン耐性 Enterococcus faecium 分離株と感受性 Enterococcus faecium 分離株の抗
菌剤感受性の差)
Chen, H. Y., Hill, R. L., Kirk, M., Casewell, M. W., and Beighton, D.:Int. J. Antimicrob. Agents,
19, 39-46 (2002)
ヒト及び鶏丸体由来のEnterococcus faeciumの抗菌剤感受性の差を比較するため、臨
床分離株54株(バンコマイシン耐性(VREF)31株)及び鶏分離株60株(VREF29株)
について12種類の抗菌剤のMICを測定した。鶏VREF株はヒトFREF株と比べて、バン
コマイシン、テイコプラニン及びアボパルシンに対する耐性が軽度ではあるが一貫し
て高かった(p<0.01)。LY333328のMICは2 mg/L以下であった。ヒトVREF株は全てエ
リスロマイシン及びタイロシンに耐性であったのに対し、鶏VREF株では58.6%のみ
であった(p<0.01)
。ストレプトグラミン系は、鶏由来の4株を除き、全分離株に対し
て活性があった。ヒトE. faecium分離株に対するアモキシシリン及びゲンタマイシン
のMIC90は、鶏分離株よりも8~16倍高かった。鶏VREF株は、テトラサイクリンに対
する耐性が有意に高かったが、ヒトVREF株と比べてクロラムフェニコールに対する
感受性は高かった(P<0.001)
。
65
0063
Differential effects of temperature on natural transformation to erythromycin and
nalidixic acid resistance in Campylobacter coli. (Campyrobacter coli 菌株のエリスロ
マイシン及びナリジクス酸耐性への自然形質転換に対する温度の区別的影響)
Kim J.S., J.W. Kim, and S. Kathariou.:Applied and Environmental microbiology. 74, 6121-6125
(2008)
Campyrobacter jejuni及びCampyrobacter coliは自然形質転換能を有するが、形質転換
に対する環境条件の影響は殆ど知られていない。本研究において、著者らはC. coliの
エリスロマイシン及びナリジクス酸耐性への形質転換に対する温度及び微好気性対
好気性条件の影響を検討した。形質転換の頻度は微好気性条件(5〜10% CO2)と好
気性条件で顕著な差異は認められなかった。しかしながら、C. coliのエリスロマイシ
ン耐性への形質転換の頻度は25℃に比べて42℃で著しく高く(P < 0.05)
、25℃では形
質転換は僅かか、あるいは全く認められなかった。対照的に、ナリジクス酸耐性への
形質転換は42℃及び25℃で共に効率的で、両温度で同等かあるいは25℃に比べ42℃で
多くても4倍高かった。デオキシリボヌクレアーゼI処理の実験では、C. coliのエリス
ロマイシン耐性への形質転換においてDNAの細胞質内への移動の前後の段階は共に
温度の影響を受けることが示唆された。しかしながら、25℃に比べて42℃で4倍であ
ったナリジクス酸耐性への形質転換はもっぱらDNAの細胞質内への移動前の段階が
関与していた。本知見は、エリスロマイシン耐性への形質転換は低体温の宿主動物に
比べて家禽類のような宿主(42℃)の消化管内で頻度が高く、ナリジクス酸耐性への
形質転換は動物宿主の体内及び体外で効率的に認められることが示唆される。
0064 Distribution and numbers of Campylobacter in newly slaughtered broiler chickens and
hens. (新たに食肉処理されたブロイラー及び雌鶏におけるカンピロバクターの分布及び数)
Berndtson, E., M. Tivemo and A. Engvall.:Intl J Food Microbiol. 15, 45-50 (1992)
カンピロバクターが腸管内に存在すると、ブロイラー屠体は、食肉処理中に広く汚
染 さ れ る 。 新 た に 食 肉 処 理 さ れ た ブ ロ イ ラ ー 及 び 雌 鶏 に お け る Campylobacter
jejuni/coliの分布及び数を測定するため、6つのカンピロバクター陽性群からの合計100
羽の鳥を、3ヵ所のスウェーデンの加工工場でサンプリングした。カンピロバクター
が、頚部の皮膚の89%、腹膜腔スワブ検体の93%及び皮下検体の75%で分離された。
筋肉検体で認められた汚染は、きわめてわずかであった。羽嚢は、C. jejuni/coliが皮
下組織層に取り込まれる開口部と考えられる。
66
0065 Diversity of Tetracycline Resistance Genes in Bacreria Isolates from Various
Agriculture Environment (さまざまな農業環境から分離された細菌のテトラサイクリン
耐性遺伝子の多様性)
Kobashi Y, Hasebe A, Nishio M, Uchiyama H:Microbes and Microbes Environ. Vol. 22, No. 1,
44-51, 2007
日本の家畜の糞便、堆肥(FYM)、及び土壌から合計350株のテトラサイクリン耐性
(Tcr)細菌を分離した。これらの分離株は、16S rRNA遺伝子配列の一部の分析によ
り、Actinobacteria(放線菌門)
、Bacteroidetes(バクテロイデス門)
、Firmicutes(グラ
ム陽性細菌門)及びProteobacteria(プロテオバクテリア門)の確立されている28属に
分類された。PCR分析により350のTcr分離株のうち249株が15のTcr遺伝子のうち1つ以
上を持つことが明らかになった:140分離株が排出ポンプ遺伝子を持ち、109分離株が
リボソーム保護タンパク質(RPP)遺伝子を持っていた。糞便分離株の主流は
Enterococcus(腸球菌)属とEscherichia属のメンバーであることが確認され、それぞれ
tet(M)及びtet(H)を持っていた。土壌分離株の主流はBurkholderia属とAfipia属の
メンバーであることが確認され、それぞれtet(Z)及びtet(B)を持っていた。本研
究は、Bordetella、Bradyrhizobium、Burkholderia、Dyella、Flexibacter、Kurthia、Luteibacter、
Lysobacter、”Nordella”、Ochrobactrum、Pediococcus、Rhodopseudomonas及びVagococcus
の各属のメンバーにtet遺伝子が存在することを初めて報告する。tet遺伝子は環境内の
細菌の、以前に報告されていたよりもはるかに多様な系統発生的グループに分布して
いることが明らかになった。
抗生物質耐性にまつわる重要な問題として、抗生物質の広範な使用は薬剤耐性病原
性細菌を選択することになるだけでなく、正常な片利共生微生物叢に選択圧力をかけ
ることになるという事実がある。微生物の世界では抗生物質耐性遺伝子が水平移動す
るという現象が遍在性に実証されていることに照らして、このような保有者の存在が、
抗生物質耐性が共生微生物から病原性微生物叢へと急速に伝播していくことの説明
になると考えられている。
動物の堆肥には大量の耐性菌が含まれている。動物堆肥は農地に散布されることが
多いため、耐性菌が広まるリスクだけでなく、固有細菌に耐性遺伝子が水平移動する
リスクも存在する1)。最近の研究では、養豚場の下の土壌及び地下水から分離された
土壌細菌が、堆肥から分離された細菌に認められたものと同一のテトラサイクリン耐
性遺伝子を持っていることが示された。
以前の研究で私たちは、家畜の糞便、固形堆肥(FYM)
、FYMが散布されているま
たはされていない耕地及び果樹園、ならびに森林の土壌の19サンプルを分析すること
により、動物-土壌系における抗生物質耐性細菌の分布を調べた。飼料添加物として
67
抗生物質を給与されている家畜の糞便サンプルでは、高い確率で抗生物質耐性細菌が
認められた。それに対して、飼料添加物として抗生物質を給与されていない家畜の糞
便サンプルでは、抗生物質耐性細菌が認められる率が比較的低かった。この結果から、
飼料への抗生物質の使用と動物の糞便における抗生物質耐性細菌の蔓延率とが結び
ついている可能性が示唆された。さらに私たちの研究では、広域多剤耐性(MDR)
の発生率が自然な森林の土壌中の細菌に比べて抗生物質を給与されている豚の糞便
中の細菌の方がはるかに高いことが示され、糞便中の広域MDRの発生が飼料添加物
としての抗生物質の使用によって促されていることが示唆された。
テトラサイクリン系抗生物質は広域スペクトルの抗菌薬であり、広範なグラム陽性
及びグラム陰性細菌、原虫性寄生虫、ならびにクラミジア、マイコプラズマ、及びリ
ケッチアなどの非定型微生物に対して活性を示す。これらの薬剤の好ましい抗菌特性
及び重大な有害副作用の不存在が、ヒト、養殖魚、及び動物の感染症治療に広範に使
用されることにつながってきた。多くの国においてテトラサイクリン系は成長促進剤
として治療用量以下のレベルで動物飼料に添加されている。その結果として、テトラ
サイクリン耐性遺伝子が臨床及び自然環境内に広く蔓延し、テトラサイクリン耐性細
菌、特に農業環境からの分離菌が広域MDRを示している。これまでにも複数の研究
が細菌におけるテトラサイクリン耐性を調べているが、その大部分は病原性の疫学的
に重要な分離株を使用している5)
。これらの研究は有用ではあるが、環境内に自然に
存在するtet遺伝子の有無及びタイプについては十分な情報を与えてくれない。
今回の研究では、環境内の耐性遺伝子及びその分布をより良く理解するため、環境
内サンプル19例から分離した合計350株のテトラサイクリン耐性細菌を使用した。ま
た、tet遺伝子の分布も調べた(テトラサイクリン排出ポンプをコードする11遺伝子:
tet(A)、tet(B)、tet(C)、tet(D)、tet(E)、tet(G)、tet(H)、tet(J)、tet(Y)、
;ならびにリボソーム保護タンパク質(RPP)をコードする8遺
tet(Z)、及びtet(30)
伝子:tet(M)、tet(S)
、tet(O)
、tet(W)
、tet(Q)、tet(T)
、tetP(B)
、及びotr(A)
)。
材料及び方法
Tcr細菌の分離
多様な起源からのTcr細菌の特性を見極めるため、日本の6糞便サンプル、6FYMサ
ンプル、及び7土壌サンプルからTcr分離株を入手した。サンプルの起源と調製は以前
の報告のとおりである12)。糞便サンプルからのTcr細菌の分離には、それぞれ50
µg/mLのテトラサイクリン(Sigma Chemical Co., 米国ミズーリ州セントルイス)を含
有する次の4種類の寒天培地を使用した:好気性従属栄養テトラサイクリン耐性細菌
を検出するためのPTYG寒天培地;テトラサイクリン耐性腸球菌を検出するためのEF
寒天培地(日水製薬、東京);テトラサイクリン耐性乳酸菌を検出するためのMRS寒
天培地(Becton、Dickinson and Co.、米国ニュージャージー州フランクリンレークス)
;
68
及びテトラサイクリン耐性大腸菌を検出するためのデソキシコール酸寒天培地(日水
製薬)
。FYMサンプルからのTcr細菌の分離には、それぞれ50 µg/mLのテトラサイクリ
ンを含有するPTYG及びデソキシコール酸寒天培地を使用した。土壌サンプルからの
Tcr細菌の分離には、50 µg/mLのテトラサイクリンを含有するPTYG寒天培地を使用し
た。
リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.0)で10倍希釈を行うことにより、希釈平板法を用い
てTcr細菌を分離した。PTYG寒天平板は30℃で7時間、EF寒天平板及びMRS寒天平板
は37℃で48時間、そしてデソキシコール酸寒天平板は37℃で24時間それぞれインキュ
ベートした。インキュベーション時間の経過後、約10株の細菌をランダムに選択した。
50 µg/mLのテトラサイクリン(Sigma)を含有するPTYG寒天培地またはルリア-ベル
ターニ寒天培地を用いて細菌分離株の精製を実施した。
Tcr細菌分離株の特性決定
臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB)法によりTcr分離株からテン
プレートDNAを抽出した。PCRプライマー63f(5’-CAGGCCTAACACATGCAAGTC-3’)
及び1387r(5’-GGGCGGWGTGTACAAGGC-3’)を用いて細菌の16S rRNA遺伝子のセ
グメントを増幅した。PCRは、1.0 UのEx Taqポリメラーゼ(宝酒造、滋賀)、5 µlの10
×Ex Taq反応緩衝液(宝酒造)、10 nmolずつの各デオキシヌクレオシド三リン酸、1
nmolのテンプレートDNA、及び25 pmolずつの各プライマーを総容量50 µl中に含有す
る基本反応混合液を用いて実施した。PCR増幅は、30サイクル用I-Cyclerサーマルサ
イクラー(Bio Rad、米国カリフォルニア州ハーキュリーズ)により、それぞれ94℃
で30秒、58℃で30秒、及び72℃で30秒という構成で、最終的伸長反応を72℃で10分間
として実施した。PCR産物は、ウルトラクリーンPCRクリーンアップDNA精製キット
(Mo Bio Laboratories、米国カリフォルニア州ソラナビーチ)を用いて精製した。制
限断片長多型(RFLP)分析のために17)、PCR産物をエンドヌクレアーゼHaeIII及び
RsaI(東洋紡、大阪)で消化した。消化したDNA断片をTAE(40 mMのTris、20 mM
の酢酸、及び2 mMのEDTA)中の2.0%アガロースゲル水平電気泳動によって分析し、
臭化エチジウムで染色した。RFLP分析を350分離株について実施し、バンドパターン
に基づいてそれらを69グループに分類した。次に、その69グループそれぞれの代表的
な分離株のPCR産物のうち約1,200 bpについて、BigDyeターミネーターv3.1サイク
ル・シーケンシング・キット(Applied Biosystems、米国カリフォルニア州フォスター
シティ)による直接配列決定を実施した。この反応産物をABI PRISM 3730遺伝子ア
ナライザー(Applied Biosystems)で分析した。BLASTプログラムでDDBJデータベー
ス(http://www.ddbj.nig.ac.jp/Welcome-e.ht/mL)を検索し、分離株の系統発生学的な位
置を特定した。
本研究で得られた細菌株の配列は、受入番号AB272318からAB272386でDDBJデー
タベースに登録されている。
69
tet遺伝子のPCR検出
すべての分離株をPCRによりtet遺伝子の存在について試験した。19 tet遺伝子のPCR
増幅に用いるプライマーはAminovらが報告しているとおりとした。標的tet遺伝子は、
テトラサイクリン排出ポンプをコードする11遺伝子:tet(A)、tet(B)、tet(C)、tet
(D)、tet(E)、tet(G)、tet(H)、tet(J)、tet(Y)、tet(Z)、及びtet(30);ならび
にリボソーム保護タンパク質(RPP)をコードする8遺伝子:tet(M)
、tet(S)
、tet(O)、
tet(W)、tet(Q)、tet(T)、tetP(B)、及びotr(A)であった。
耐性遺伝子の有無を検出するためのPCRは、いずれもAminovらが報告した方法に従
って実施した3,4)。PCRシステム及び増幅産物のサイズの妥当性は、それぞれtet遺伝
子を持つ陽性対照プラスミドを用いて確認した。PCR産物のヌクレオチド配列は
BigDyeターミネーターv3.1サイクル・シーケンシング・キット(Applied Biosystems)
で決定した。
結果
テトラサイクリン耐性細菌の分離
多様な起源から4種類の寒天培地で合計350株のTcr細菌分離株が得られた(表1)。
この350株のそれぞれについてRFLP分析を実施した結果、異なるバンドパターンに
基づいてこの350株は69グループに分類された。次に、この69グループそれぞれの代
表的な分離株のPCR産物(約1,200 bp)について直接配列決定を実施した。すべての
配列結果が既知の属と94.5%以上の相同性を示し、すべての分離株が最も近い属と同
一のメンバーで分類された。
この350株のTcr細菌分離株は28の細菌属に属すると判定された(20属のグラム陰性
Tcr細菌及び8属のグラム陽性Tcr細菌)。176の動物糞便分離株からは11の細菌属が分類
された。糞便分離株の主流は60分離株が属するEnterococcus属と53分離株が属する
Escherichia属であることが確認された。62のFYM分離株からは9細菌属が分類された。
FYM分離株の主流は16分離株が属するSerratia属であることが確認された。102の土壌
分離株からは15の細菌属が分類された。土壌分離株の主流は47分離株が属する
Burkholderia属であることが確認された。
tet遺伝子の分布
1. 全分離株からの概要
350株のTcr細菌分離株を19タイプのTcr決定因子の存在について調べた。PCR分析で
は、分離株の71.1%がその19のTcr遺伝子の15のうちの1つ以上を持っていることが示
された。すべてのTcr細菌分離株のうち40%(140分離株)で排出ポンプをコードする
テトラサイクリン耐性遺伝子が検出され、RPPをコードする遺伝子は31.1%(109分離
株)で検出された(表1)。
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2. 動物糞便からの分離株
豚の糞便では、31分離株が排出ポンプ遺伝子tet(A)、tet(B)、tet(C)、tet(H)、
tet(J)、またはtet(Y)を持ち、30分離株がRPP遺伝子tet(M)、tet(Q)、またはtet
(W)を持っていた(表3及び4)。最も多く同定されたtet遺伝子はtet(M)で、全分
離株の39.3%に認められた。24のtet(M)陽性分離株のうち20株がEnterococcus属のメ
ンバーであると確認された。
家禽の糞便では、45分離株が排出ポンプ遺伝子tet(A)、tet(B)、tet(C)、tet(H)、
またはtet(J)を持ち、51分離株がRPP遺伝子tet(M)、tet(O)、tet(Q)、またはtet
(W)を持っていた。最も多く同定されたtet遺伝子はtet(M)で、全分離株の43.8%
に認められた。42のtet(M)陽性分離株のうち30株がEnterococcus属のメンバーであ
ると確認された。2番目に多く同定されたtet遺伝子はtet(H)で、全分離株の28.1%に
認められた。29のtet(H)陽性分離株のうち30株がEscherichia属のメンバーであると
確認された。
3.固形FYMからの分離株
豚のFYMでは、7分離株が排出ポンプ遺伝子tet(B)またはtet(J)を持ち、7分離
株がRPP遺伝子tet(M)、tet(S)またはtet(W)を持っていた(表3及び4)。家禽の
FYMでは、4分離株が排出ポンプ遺伝子tet(B)を持ち、6分離株がRPP遺伝子tet(S)
またはtet(W)を持っていた。ウシのFYMでは、14分離株が排出ポンプ遺伝子tet(B)、
tet(J)またはtet(Z)を持ち、2分離株がRPP遺伝子tet(W)を持っていた。
4.土壌からの分離株
豚のFYMが適用されていた土壌では、2株のTcr分離株が排出ポンプ遺伝子-1株が
tet(B)
、1株がtet(J)-を持ち、3分離株がRPP遺伝子otr(A)またはtet(W)を持っ
。家禽のFYMが適用されていた土壌では、20株のTcr分離株が排出
ていた(表3及び4)
ポンプ遺伝子tet(B)、tet(G)、tet(J)またはtet(Z)を持ち、2分離株がRPP遺伝子
tet(Q)またはtet(W)を持っていた。最も多く同定されたtet遺伝子はtet(B)で、9
分離株に認められた。FYMが適用されていなかった土壌では、11分離株が排出ポンプ
遺伝子tet(B)、tet(G)
、tet(J)またはtet(Z)を持ち、8分離株がRPP遺伝子tet(M)、
otr(A)またはtet(W)を持っていた。森林の土壌では、6株のTcr分離株のすべてが
排出ポンプ遺伝子を持ち、RPP遺伝子を持つ分離株は存在しなかった。
考察
Tcr細菌はかつて考えられていたよりも多様である。2001年には、テトラサイクリ
ン耐性のメカニズムが特定されているものとして39属のグラム陰性菌及び23属のグ
ラム陽性菌が報告されていた8)。2005年にはTcr細菌属の数が62から115に増加した
19)。さらに今回の研究で私たちは、これまでtet遺伝子が検出されていなかった13属
を発見した:糞便分離株はKurthia、Pediococcus及びVagococcus各属、FYM分離株は
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Bordetella、Bradyrhizobium及びOchrobactrum各属、ならびに土壌分離菌はBurkholderia、
Dyella、Flexibacter、Luteibacter、Lysobacter、”Nordella”及びRhodopseudomonas各属の
メンバーであることが確認された(表2)
。
今回Tcr表現型を持つ細菌株が初めて発見されたことには2つの理由がある。その第
一は、糞便、FYM、及び土壌といった多様な起源からTcr細菌を分離しようと努めた
ことである。他方、Tcr細菌に関する以前の研究はほとんどが糞便起源の病原性腸内
細菌に焦点を絞っており、これらの数少ない研究は従属栄養細菌叢の中のTcr表現型
を判定していた。第二は、低栄養土壌細菌の分離に用いられるよく知られた低栄養培
地である非選択PTYG培地を用いたことである。PTYG培地を用いて糞便及びFYMサ
ンプルからTcr細菌が分離されたのは驚くべきことであるが、今回の結果はPTYG培地
が低栄養細菌の分離に、糞便やFYMサンプルからの分離さえにも、十分適用可能であ
ることを示している。淡水区画のサンプルに寒天培地ではなくジェランガム培地を用
いると約10倍のCFUカウントが得られるとの報告があるため、Tcr細菌分離株は今回
の研究が示唆する以上に多様であると考えられる。たとえば今回ジェランガム培地を
用いていたとしたら、より多様なTcr分離株が得られた可能性がある。培養可能な細
菌を分離するためにはさらなる研究が必要である。
Tcr細菌属で新たに確認された複数のtet遺伝子
本研究で私たちは、すでに実証済みのTcr細菌属だけでなく、これまでテトラサイ
クリン耐性であることが確認されていなかったいくつかの属でも複数のtet遺伝子を
同定した。すでに実証済みの115のTcr細菌属のうち、本研究では11属が認められた。
グラム陰性菌では、Acinetobacterにtet(Y)及びtet(W)遺伝子、Afipiaにtet(B)遺
伝子、Alcaligenesにtet(B) 及びtet(H)遺伝子、Escherichiaにtet(W)遺伝子、Proteus
にtet(H) 及びtet(M)遺伝子、Providenciaにtet(J)及びtet(Q)遺伝子、そしてSerratia
にtet(H)
、tet(J)、tet(Z)、otr(A)及びtet(W)遺伝子が見つかった。グラム陽性
菌では、Clostridiumにtet(S)及びtet(W)遺伝子、Enterococcusにtet(B)、tet(H)、
tet(Q)及びtet(W)遺伝子、そしてStaphylococcusにtet(B)、tet(C)、tet(H)及び
tet(Q)遺伝子が見つかった。これらの組み合わせは新しいものであるが、tet遺伝子
の種類はこれらの種でこれまでに報告されているものと同じである。
さらに、今回の研究では13属がtet遺伝子を持つことが初めて発見された。グラム陰
性菌では、Bordetella分離株がtet(B)またはtet(W)、Bradyrhizobium分離株がtet(B)
、
Burkholderia分離株がtet(B)、tet(J)、tet(Z)、tet(M)、tet(W)またはotr(A)、
、tet(G)
、tet(M)、
Dyella分離株がtet(Y)
、Flexibacter分離株が5つのtet遺伝子(tet(B)
tet(Q)またはtet(W)
)のうちの1つ、Luteibacter分離株がtet(Y)、Lysobacter分離株
がtet(B)またはtet(J)、”Nordella” 分離株がtet(J)またはtet(W)、Ochrobactrum
分離株がtet(B)、そしてRhodopseudomonas分離株がtet(G)を持っていた。グラム陽
性菌では、Kurthia分離株が3つのtet遺伝子(tet(B)
、tet(H)またはtet(M)
)のうち
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の1つ、Pediococcus分離株がtet(B)
、tet(H)
、tet(J)、tet(O)またはotr(A)、そし
てVagococcus分離株がtet(B)を持っていた。これらの新しい発見の理由の1つとして、
農業環境内のtet遺伝子に関する実験の規模が小さかったことがあり、tet遺伝子は多様
な細菌に存在している可能性がある。
tet遺伝子の広いまたは狭い宿主範囲
tet遺伝子は、ヒト、動物及び環境から分離された多様な細菌に認められる。tet遺伝
子の大多数は接合または可動エレメントに関連しており、このことが細菌種の間に広
く分布していることの理由の一部であると考えられる。グラム陰性菌のtet排出遺伝子
は、多様な不和合グループのプラスミドから多様なグループのプラスミド内へと挿入
されたトランスポゾンとして発見される。グラム陽性菌のtet排出遺伝子は小さなプラ
スミドと関連している。リボソーム保護遺伝子tet(S)及びtet(O)は接合プラスミ
ド上または染色体内に認められ、そこでは自動性がない。tet(M)及びtet(O)遺伝
子は一般に接合染色体エレメントと関連しており自分自身の転移をコードしている。
tet(B)遺伝子はすべてのグラム陰性菌という最も広範な宿主を持ち、しばしば接
合プラスミド上に存在する8)
。今回の研究でもtet(B)は動物の糞便、FYM、及び土
壌から分離された広範な細菌属に検出された(表3)。同様に、tet(M)、tet(W)及
びtet(J)は多様な環境内に遍在性に検出された。多様な属の細菌がtet(M)及びtet
(W)を持つことは十分に確証されており、これらの遺伝子はしばしば接合トランス
ポゾンと関連している。tet(J)遺伝子についてはまだ十分な情報が得られておらず、
Proteusで検出されたという報告があるのみである。et(B)、tet(M)及びtet(W)が
多くの属で検出されたことの理由はこれらの接合決定因子によるものと考えられる。
一方、限られた環境からしか検出されないtet遺伝子もある。本研究では、tet(A)、
tet(C)、tet(H)及びtet(O)は動物の糞便のみに検出された。この4つの遺伝子は、
豚またはその他の家畜の消化管に関連する分離株にしばしば検出されている。これら
のtet遺伝子が限られた宿主にしか分離していなかった理由の1つは可動性の低さであ
る。もう1つの理由は、これらのtet遺伝子が他の広範な宿主を持つtet遺伝子ほど詳し
く研修されていないことにある。事実、tet(H)は動物と魚養殖場の水から検出され
た。最近の報告も、堆肥適用土壌にtet(H)を検出している。
本研究では19種類の広範な環境サンプルから350のテトラサイクリン耐性細菌を分
離し、19のtet遺伝子の分布を調べた。今回の結果は、通常は非病原性で臨床とは関係
のない細菌であっても高率でテトラサイクリン耐性遺伝子を持っていること、及び
Tcr細菌はこれまで考えられていたよりも多様であることを示唆している。抗生物質
耐性遺伝子が動物の生産場所から多様な環境へと拡散していくリスクは、公衆衛生上
の深刻な問題である。さまざまな環境における遺伝子転移をより深く理解するために
はさらなる研究が必要である。このような知識があれば、将来のリスク評価に役立つ
と考えられる。
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