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4 食鳥処理場における Campylobacter 属菌検査法の検討
4 食鳥処理場における Campylobacter 属菌検査法の検討 ○天野隆之 大井啓希 佐々木多栄子 八島由美子 中村由香里 佐々木秀樹 栗山不二夫 1 はじめに 近年,食鳥肉を原因食品とし,Campylobacter 属菌を原因菌とする食中毒が多発しており,対策には食 鳥処理および食肉処理段階での細菌制御が重要と考えられている。今回我々は,食鳥処理場における Campylobacter 属菌汚染実態を把握するための定性試験として,拭き取り検体と皮膚検体からの Campylobacter 属菌検出率を比較した。また,検出された Campylobacter jejuni を分子疫学的に解析する ため,食中毒発生時の分子疫学的解析法として用いられている pulsed-field gel electrophoresis(PFGE)法 と repetitive extragenic palindromic sequence PCR(rep-PCR)法とを比較し,rep-PCR 法の有用性を検討し たので報告する。 2 材料と方法 (1)Campylobacter 属菌の定性試験 食鳥検査で異常を認めなかったとたいから頚部・胸部・背部・大腿部の皮膚を広く切り取った(検体採取 は内臓検査後)。切り取った皮膚の表面 25cm2 を滅菌綿棒で拭き取ったものを拭き取り検体とし,さらに同 部位を皮膚検体として切り取った。頚部からは 10cm2 の拭き取り検体と皮膚検体を得た。その後,とたいを 再懸鳥し,チラーまでの通常処理工程を経た同一とたいから,再度拭き取り検体および皮膚検体を得た。 出荷農場の異なる 2 ロットから 5 羽ずつを検査に用いた。 拭き取り検体および皮膚検体を 20ml の滅菌生理食塩水でストマッカー処理した後,10ml を試料として 定法に従い Campylobacter 属菌の同定を行った。統計処理は JMP9(SAS Institute Inc.)を用いて,Pearson のχ2検定およびフィッシャーの正確確率検定を行った。 (2)PFGE 法と rep-PCR 法の比較 平成21 年度に坂上ら 1)が PFGE 法で分類した 11 株の C.jejuni(14 株のうち、3 株は死滅)を用いた。10% キレックス溶液にコロニーを懸濁後,100℃で 15 分間の熱処理を行った。15,000rpm で 5 分間の遠心後に 上清を回収し,DNA 抽出液とした。プライマーは REP1R-I(5’-IIIICGICGICATCIGGC)および REP2-I (5’-ICGICTTATCIGGCCTAC)を用いた。25μl 反応液は Kelli ら 2)の報告に従い作製し,DNA 増幅反応 は 95℃7 分間の後,90℃30 秒間,40℃1 分間、65℃8 分間を 40 サイクル,65℃で 16 分間の条件で行っ た。その後,電気泳動を 70V8 時間行い,エチジウムブロマイド染色 20 分間,水洗 10 分間を行った。 得られたバンドは AlphaEase FC(Alpha Innotech)を用いて数量化し,DICE の相関行列を作成した。 UPGMA 法を用いたクラスター分析は MEGA5により行った。坂上らが PFGE 法により得たバンドも同様に して 11/14 株を再度クラスター分析した。 3 結果 (1)Campylobacter 属菌の定性試験 食鳥検査後の拭き取り検体は 80%(32/40)が Campylobacter 属菌陽性,皮膚検体は 100%(40/40)が陽 性であった。チラー後の拭き取り検体は 0%(0/40)であり,皮膚検体は 80%(32/40)が陽性であった。食鳥 検査後・チラー後ともに皮膚検体で有意に検出率が高かった(p<0.01)。食鳥検査後の拭き取り検体およ びチラー後の皮膚検体を採材部位で区分した場合,採材部位間で検出率に有意差を認めなかった。ロッ トにより区分した場合,ロット 1 は食鳥検査後,チラー後ともに採材部位間で検出率に有意差を認めなかっ たが,ロット 2 ではチラー後の皮膚検体で検出率に有意差(p<0.05)を認めた。 (2)PFGE 法と rep-PCR 法の比較 PFGE 法では 11 株の C.jejuni が 7 つのクラスターに分類され,検体 1・2 および 4・7・8・9 は各々同一の バンドパターンを示した。血清型 A の 7 株は相同性 70%以上のバンドパターンを示し,さらに血清型 A は 4 つのクラスターに識別された。一方,rep-PCR 法では 11 株が 9 つのクラスターに分類され,検体 8・9 お よび 11・13 が各々同一のバンドパターンを示した。血清型 A はバンドパターンで 44%以上の相同性を示 すグループに分類され,さらに 5 つのクラスターに識別された。また,血清型間 Z4-K を除き,各血清型間 は両解析法ともに相同性 30%未満であり,Z4-K は両解析法ともに相同性 60%以上であった。 4 考察 本調査では,過去に Campylobacter 属菌が検出された 2 農場のロットについて定性試験を行い,種々 の条件による検出率の差を検討した。チラー後の拭き取り検体からは Campylobacter 属菌が検出されなか ったことから,洗浄やチラーが皮膚表面の Campylobacter 属菌対策として非常に有効であることが改めて 示された。一方で,チラー後の80%の皮膚検体からは Campylobacter 属菌が検出された。このことは,洗浄 やチラーが皮膚表面の菌数を減少させるものの,皮膚深部に対する効果は微弱であることを示唆してお り,拭き取り検体は皮膚深部の Campylobacter 属菌を検出するための検体としては適していないことが考 えられた。食鳥検査後においても皮膚検体が拭き取り検体よりも検出率が高かったことから,とたいの Campylobacter 属菌定性試験には皮膚検体が有用と考えられた。皮膚検体を採材部位で比較すると,頚 部・胸部・背部・大腿部間で検出率に有意差を認めなかったことから,比較的採材しやすい頚部皮膚を検 体とするのが適しているものと思われた。 今後,検出された Campylobacter 属菌を疫学的に解析し,汚染の動態を把握するためには,菌の遺伝 子型別試験が必要となる。PFGE 法は多くの菌種の分子疫学的解析法として活用されており,識別能力が 高く,かつ再現性の高い優れた方法であるが,特殊な電気泳動装置を必要とすることや,解析に至るまで 日数を要することなどの難点が挙げられる。近年では PCR 法を基礎とした解析方法も活用されはじめ,通 常の PCR 法に必要な器具で実施可能であることや,PFGE 法に比べて迅速であることなどが注目されて いる。今回我々は,繰り返し配列を利用した rep-PCR 法を用いて 11 株の C.jejuni を解析し,PFGE 法で得 られた 11 株の解析結果と比較した。PFGE 法で同一のバンドパターンを示した検体4・7・8・9 は,rep-PCR 法では相同性約 70%以上のグループとして分類され,そのうち検体 8・9 が同一のバンドパターンを示した。 また,血清型 A の 7 株は PFGE 法において 79%以上の相同性を示して 4 クラスターに識別され,rep-PCR 法では44%以上の相同性を示して5 クラスターに識別された。各血清型間の相同性を比較すると,Z4-Kを 除いて両解析法ともに相同性 30%未満であり,Z4-K は両解析法で比較的近いバンドパターンを示す傾 向を認めた。これらのことから,rep-PCR 法は PFGE 法に近い識別能力を有していることが推察され, C.jejuni の分子疫学的解析手法として rep-PCR 法の有効性が示唆された。さらに,ERIC や BOX プライマ ーを用いることによって,より詳細な分子疫学的解析が可能になるものと期待される。今後は rep-PCR 法 を用いて,食鳥処理場や食肉処理施設の衛生指導に役立てていきたい。 5 文献 1)坂上亜希恵ほか.大規模食鳥処理場におけるとたい等の細菌汚染状況.平成 21 年度宮城県食肉衛生 検査所事業概要,p.26-32. 2)Kelli L.Hiett;Bruse S.Seal.:Use of repetitive element palindromic PCR(rep-PCR) for the epidemiologic discrimination of foodborne pathogens.caugant(ed.),Molecular Epidemiology of Microorganisms,Methods in Molecular Biology.vol 551,p.49-58.