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電波観測のデジタルバックエンドによる効率化
電波観測のデジタルバックエンドによる効率化 亀野誠二 (鹿児島大学) •電波望遠鏡による観測のレビュー •デジタルバックエンドによる効率化 •デジタル分光計 •帯域通過特性の平滑化 •デジタル電力計測 •ダイレクトサンプリング 電波望遠鏡による観測とは 電波望遠鏡による観測とは •天体からの電波を受信:電場を計測 VERA 入来局 •受信信号を解析 •電力測定(連続波) 20-m antenna •電波分光 •干渉計 電波望遠鏡の構成 •アンテナ •給電部(フィードホーン) •受信機 •バックエンド(分光器, 電力計) Antenna Feed Horn Back end LO LNA RF MIX IF TX RX PM Total Power Spectrometer Front end 九重セミナー 2011/8/11 Spectrum 2 /29 単一鏡観測と干渉計観測 Single dish FOV = beam size 九重セミナー 2011/8/11 Interferometer FOV = single-dish beam size Resolution = λ/D 3 /29 第1章 序論 電波天文の「信号」とは 1.1 電波観測における分光計の役割 一般に分光とは受信電圧を周波数毎のパワー、すなわちスペクトルを測定することである。分光 計とはその分光を行う機器のことを指す。電波観測における分光計は、分子や原子のガス雲やメー ザー天体などの電波源からのパワースペクトルを得るために使用される (図 1.1)。 •電場を情報として用いない 天体の電波 通信信号 •ランダム過程 •c.f. 電気通信 •定常確率過程:統計的な性質は安定 •強度分布を計測する 図 1.1: 分光計を通して受信電圧からパワースペクトルを測定する 以下に分光計に求められる機能について述べる。 分光機能 •天体の信号は微弱 1.1.1 分光機能は受信電圧からパワースペクトルを測定するという、分光計における中心の機能である。 パワースペクトルを測定すると、元の受信電圧にどの周波数がどの強度で含まれているかを知るこ とができる。 分光機能の性能を表す指標に、帯域, 周波数分解能, 分光点数がある。帯域は、パワースペクトル 全体の周波数幅である。分光点数はパワースペクトルにおけるデータ数をいい、これが大きいほど 周波数のより細かい情報を得ることができる。 周波数分解能は周波数において 2 点を見分けることのできる最小の値をいう。単一周波数の波を 分光したとき、理想的な分光計ではパワースペクトルはデルタ関数 (インパルス) となるが、現実に はそうはならず、分光計に固有の一定のパターンを示す。このパターンにおける半値幅 (FWHM: Full Width Half Maximam) を周波数分解能と定義することが多い。 •Ta (信号) << Tsys (雑音) •周囲は雑音だらけ (大気, 地面, etc.) 1 Cosmic Microwave Background 九重セミナー 2011/8/11 4 /29 雑音を差し引いて天体の「信号」を拾う •受信電力の大半は雑音 •“off点” を差し引く必要 ON Position-Switching OFF On-source Off-source 連続波差引き off点差引き 0.2 0.15 Maser Cosmic Microwave Background Flux Density [Jy] Cosmic Microwave Background Observation Fit km/s km/s km/s km/s km/s km/s 1824.92 1797.32 1746.23 1690.64 1626.18 1586.05 Jet Continuum 0.1 0.05 0 1200 1300 1400 1500 1600 LSR Velocity [km/s] 九重セミナー 2011/8/11 1700 1800 1900 2000 1200 1300 1400 1500 1600 1700 LSR Velocity [km/s] 1800 1900 2000 5 /29 電波観測のコスト ALMA 12mアンテナの場合 建設費 口径12m, 鏡面精度25μm, 7バンド 基礎・電源 1.5億 アンテナ 14億 Front end 3億 Back end 1.2億 アンテナ小計 50台 985 億 時間単価 建設費 + 保守費 (30 yr) + 運用経費 (30 yr) 150,000 hr (30年間運用時間) ∼ 320万円 / hr 製造コスト削減 が重要 観測の効率化 九重セミナー 2011/8/11 6 /29 電波観測のデジタル化 アナログ計測 アナログ計測 +デジタル記録 デジタル信号処理 FEのデジタル化 第1章 1.1 序論 電波観測における分光計の役割 一般に分光とは受信電圧を周波数毎のパワー、すなわちスペクトルを測定することである。分光 計とはその分光を行う機器のことを指す。電波観測における分光計は、分子や原子のガス雲やメー ザー天体などの電波源からのパワースペクトルを得るために使用される (図 1.1)。 図 1.1: 分光計を通して受信電圧からパワースペクトルを測定する 以下に分光計に求められる機能について述べる。 1.1.1 2011/8/11 分光機能 九重セミナー 7 /29 デジタルバックエンド ADCで数値化→後はデジタル信号処理 Antenna Feed Horn Back end ← ここをデジタル化 LO LNA RF MIX IF TX RX PM Total Power Spectrometer Front end Spectrum •サンプリング周波数 GHz •量子化 2 bit (4階調) cf. CD : 44.1 kHz, 16-bit デジタル化の利点 •ソフトウェア処理でOK •特性が安定 •安い 汎用計算機でOK •勝手に性能向上 ムーアの法則 九重セミナー 2011/8/11 8 /29 デジタルバックエンド…分光計 専用デジタル機器による分光処理 汎用機で分光OK! →コストダウン 計算機 NAOCO (1993) NRFD (1997) DSA (2002) VESPA (2007) HP Proliant DL Generation 3 QuadCore Intel Xeon X5536 2.66GHz 2 (120GFLOPS) ∼¥1500万 512 ch/16 MHz 256 Mbps入力 九重セミナー 2011/8/11 4GB Memory Cent OS 5.2 ∼¥400万 約60万円+PC-VSIボード120万円 2007年11月時点 MHz 1024 ch/32 MHz ∼¥1000万 2048 ch/32 512 Mbps入力 1024 Mbps入力 現在は本体のみで約50万円 ∼¥60万 8192 ch/128 MHz 1024 Mbps入力 9 /29 帯域通過特性の平滑化による 分光観測の効率化 間 時 H 1( N( → 分 積 ν) +N (ν ν) )の A 減 低 の SD 0.002 On - Off 20-min Spline-Smoothed Bandpass, baseline subtracted 総観測時間 1200秒 総観測時間 400秒 -0.001 0.000 Ta / Tsys 0.001 0.001 1 -0.002 -0.001 平 after -0.002 化 滑 の D S A Ta / Tsys H → ) (ν before 0.002 ν) D 0.000 H 0( S A の *同一観測時間で r.m.s.を40%削減 * 同じSN比に要する 総観測時間を1/3に削減 0 5 10 Frequency [MHz] 15 0 5 10 Frequency [MHz] 15 電波望遠鏡によるスペクトル線観測 •受信電力の大半は雑音 天体のアンテナ温度 •“off点” を差し引く必要 ON Position-Switching 受信電力の分散 2 P OFF = 2 on + 2 off ton + toff ton toff 問題点 •off点の分散が雑音として加わる •off点時間 = on点時間→望遠鏡時間が2倍以上 On-source Off-source off点差引き 0.2 0.15 Microwave Background Cosmic Cosmic Microwave Background Flux Density [Jy] Cosmic Microwave Background Cosmic Microwave Background Cosmic Microwave Background Maser Observation Fit km/s km/s km/s km/s km/s km/s 1824.92 1797.32 1746.23 1690.64 1626.18 1586.05 Jet Continuum 0.1 Jet Continuum Jet Continuum 0.05 0 1200 九重セミナー 2011/8/11 1300 1400 1500 1600 1700 LSR Velocity [km/s] 1800 1900 2000 1200 1200 1200 1300 1300 1300 1400 1400 1400 1500 1500 16001500 1600 17001600 1700 18001700 1800 19001800 1900 20001900 2000 LSR Velocity [km/s] LSR Velocity [km/s] LSR Velocity [km/s] 11/29 off点時間削減方法 VERA入来局@22 GHz + VESPA分光計 •帯域通過特性 : H0(ν) 永続的・既知 •H0(ν) のゆらぎ : H1(ν) 時間変化成分 周波数方向に滑らか •雑音 N1(ν) 正規化したパワー off点スペクトルの要素 H(ν) = H0(ν) + H1(ν) + N(ν) 16 MHz / 1024 ch分光 正規分布 周波数ごとに独立 周波数 [分光ch] 九重セミナー 2011/8/11 12/29 帯域通過特性の平滑化 帯域通過特性 : H0(ν) H(ν) = H0(ν) + H1(ν) + N(ν) H0(ν) 永続的・既知 H1(ν) + N(ν) ☜予め計測 ☜観測時に計測 ☜平滑化 平滑化の最適周波数幅(窓)を アラン分散 (ASD) 解析で調べる 平滑化により雑音を低減する 九重セミナー 2011/8/11 13/29 平滑化の最適パラメーターを求める Step 1. 最適な周波数平滑化窓を求める アラン分散 : 「ゆらぎ」の指標 谷 分散の る アラン 小にす 最 を r.m.s. ト = 残差 ーセッ メータ パラ コントア+グレースケール:アラン分散 ASDが底を打つ周波数幅 周波数平滑化 : 42ch (時間間隔 360 sec) 九重セミナー 2011/8/11 14/29 平滑化の最適化パラメーターを求める Step 2. Off点スペクトルを平滑化→BPを得る 向 方 間 時 む 含 音 雑 熱 時間方向平滑化窓 : 360 sec 九重セミナー 2011/8/11 D AS 周 波 数 ス 平 ペ 滑 ク 化 ト し ル た の AS D 帯域通過特性の 安定度が底打ち 15/29 平滑化の最適化パラメーターを求める Step 3. スキャンパターンを設定 従来のOn-Off 総観測時間 1200秒 Off点平滑化したBP 総観測時間 400秒 (30-sec ON + 30-sec Off) x 20 scans 120秒 ON 120秒 ON 120秒 ON (120-sec ON + 10-sec Off) x 3 scans + 10-sec Off (360-sec ON + 30-sec Off) x 3 scans + 30-sec Off Off点平滑化したBP 総観測時間 1200秒 九重セミナー 2011/8/11 360秒 ON 360秒 ON 360秒 ON 16/29 平滑化の効果 従来のOn/Offスキャン Off点平滑化 Spline-Smoothed Bandpass, baseline subtracted 0.002 0.002 5 10 15 -0.001 -0.002 0 Frequency [MHz] 従来のOn-Off Total 1200 sec Off点平滑化 Total 400 sec Off点平滑化 Total 1200 sec 5 10 Frequency [MHz] Baseline補正前 (Ta / Tsys) のr.m.s. Baseline補正後 (Ta / Tsys) のr.m.s. 4.7 x 10-4 4.7 x 10-4 4.8 x 10-4 4.5 x 10-4 3.9 x 10-4 2.8 x 10-4 九重セミナー 2011/8/11 0.000 Ta / Tsys -0.001 -0.002 -0.002 0 総観測時間 1200秒 0.001 総観測時間 400秒 0.000 Ta / Tsys 0.000 -0.001 Ta / Tsys Spline-Smoothed Bandpass, baseline subtracted 0.001 総観測時間 1200秒 0.001 0.002 On - Off 20-min 15 0 5 10 15 Frequency [MHz] •1/3の時間で同等のr.m.s •同じ時間でr.m.s.を40%減少 望遠鏡の時間単価を 1/3にする効果 17/29 電力計測のデジタル化 *アナログパワーメーターを代替 *新たな機器不要…コスト0 *リアルタイムにシステム雑音計測 *連続波源のパワー計測 従来のアナログ電力計測 パワーメーターによる電力の測定 入力電圧 Vin 出力電圧 Vout ダイオード インピーダンス Z Vout 問題点 •インピーダンスの不安定性 (温度特性) •高精度なパワーメーターは高 価(∼100万円) •定期的に機器校正が必要 Vin 九重セミナー 2011/8/11 19/29 2-bit ADCによるパワーの計測 •電圧は正規分布 •ビット分布からσを計測 code = 11 code = 10 code = 01 code = 00 九重セミナー 2011/8/11 アナログパワーメーターを代替 20/29 アナログとデジタルの比較 13 dBに渡って 誤差 < 1% で線型性を保持 bias=0 九重セミナー 2011/8/11 bias=0.13 V0 21/29 デジタル電力計測 電波銀河3C 84のフラックス密度計測 •山口32m電波望遠鏡@8 GHz •2 bit量子化デジタル信号の統計 •ON/OFF 1分サイクル 293 Kの 標準雑音源 ぶ厚い雲 天頂通過でお休み 九重セミナー 2011/8/11 22/29 ダイレクトサンプリングによる 周波数変換の省略 *局部発振器・周波数変換器をカット *広帯域化への道 before 22GHz LNA LNA 帯域 8GHz after ~ ~ × × D/C BBC × × ~ ~ ADC LNA ADC ADC LNA ADC 帯域 512MHz 帯域 8GHz 帯域8GHz 32Gbps Frequency Conversion (周波数変換) Antenna 高周波より低周波が扱いやすい → 周波数を下げる Feed Horn LO LNA RF MIX IF TX Hi en u q e r F gher c ut o d e r e RX PM → Filt y Total P Spectrometer IF 周波数 = RF と LOの周波数差 IF周波数帯を固定する→ USB と LSB が混ざって出力される フィルターで分離 九重セミナー 2011/8/11 24/29 ダイレクトサンプリングシステム 22GHz LNA ADC LNA ADC 帯域 8GHz 帯域8GHz 32Gbps サンプリング信号の高調波を周波数変換に用いる サンプリング周波数 0 νs 九重セミナー 2011/8/11 サンプリング信号の高調波 Nνs Nνs +B 周波数ν 25/29 高速ADCによるデジタルフロントエンド GSI X-band & @ Ref # TK0710B 32m VLBI @ Square Kilometer Array Industry of Japan 10 RF ADX-831 8192MHz SG Clock DIVIDER UNIT 資料提供:(株)東陽テクニカ 九重セミナー 2011/8/11 X-band Ref # TK0710B @ @ Square Kilometer Array Industry of Japan 8 26/29 高速ADCによるデジタルフロントエンド GSI X-band & @ Ref # TK0710B Square Kilometer Array Industry of Japan 32m VLBI @ RF ADX-831 10 8192MHz SG Clock DIVIDER UNIT X-band Ref # TK0710B @ @ Square Kilometer Array Industry of Japan 8 資料提供:(株)東陽テクニカ 九重セミナー 2011/8/11 27/29 RF direct sampling : fringe tests Ref # TK0710B 九重セミナー 2011/8/11 Square Kilometer Array Industry of Japan 2 28/29 まとめ •デジタル分光計 → 汎用計算機でコスパ向上 •帯域通過特性の平滑化 → 平滑化によりコスパ3倍 •デジタル電力計測 → パワーメーター不要, リアルタイム較正 •ダイレクトサンプリング → 周波数変換不要 電波天文の大量生産・コモディティ化 九重セミナー 2011/8/11 29/29