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エッセイ - 北海道開発協会
ガソリンや日用品の価格が上昇し、さらに食料品も ■ エッセイ 徐々に値上がりしてきているのが現状です。私も含め & 4 4 ": できないような中で、果たして全く社会的に立場を確 立できず、混沌とした気持ちでいる方も少なくないかと ある地域人の生活観察 ﹁地の人のコミュニケーション﹂の話 第3回 賃金格差で悩む弱者の立場の方々は、生活費も確保 思います。 前回 6 月号に「大切なことは、地域ごとの尺度で財 政確保につながるものを見いだし、地域独自の運用を 心がける、すなわちライフプランを描くことにあるかと 思われます」とさらっと書いてしまいましたが、現実はそ んなに簡単なお話で済むはずがないと、悩んでいます。 社会政策のゆがみにより社会的弱者が起きている 状況、つまりマイノリティの意見を、どのような方々に 伝え託していけば、人と人をつなげる取り組みやしくみ へと展開し、地域の尺度(ルールや習慣)となり、そ うした状況を改善していくことができるのでしょうか。 その解答を私は見つけきれてはいません。 今回は、人と人をつなげる取り組み以前に、マイノ リティの意見を日常的に話し合う魅力的なコミュニケー ションについて、私なりにお伝えします。 イタリアでのコミュニケーション イタリアに調査に行った際、親しくなったコムーネ※ 1 の職員の方が、議員当選のお祝いパーティに私を誘っ てくれました。彼の友人である小さな小さな町の議員さ んは、私と変わらない年代(30代半ば∼40歳)の女性 でした。 その議員のために、町中の子供からご老人まで 総勢100名ほどが、外に設置した長いテーブルとイスで、 会食し始めていました。まるで身内の結婚式のようなお 祝いパーティに、 日本人の私が飛び入り参加したのです。 イタリアではそうした場面でしとやかにおとなしくし ているのは、女性であっても大変失礼なことにあたり ます。そこで、私がなぜイタリア語が普通に話せるのか から、調査対象のシエナの町の歴史やイタリア料理の話、 私の故郷の札幌の話まで、 自分の身の上話をしました。 すべてのイタリア人がそうであるとは言いませんが、 場面ごとに初対面でも会話が普通にうまれることが当 然なのです。30分間の電車の移動であれば、隣の席 のおばさんと「今日はずいぶん雨がひどくて、蒸し暑い ● Text : kana yamagishi わね」といったたわいもない会話。八百屋のおじさん 山岸 加奈 と「その野菜の生産者、食べ方」の話。バール※ 2 で はアペリティーボ(食前酒)を片手に、 「その地域の政 フリーライター 治・制度」の会話。 イタリアで経験したコミュニケーションの最も重要な ’ 08.8 ことは、 「初対面の段階で自分のことを相手にどの程 遅くなり、事 度表現できるか」であり、 「自分がどの程度の関係を 業 展開の遂 その相手と形成したいのかを伝えられること」でした。 行能力も欠け 無論、この定義は私の独断ですが、自分から壁を作っ て い る。 行 てしまう方、人見知りする方、話すことが苦手な方、徐々 政に頼らない に付き合いを深めたいという方は、イタリアでの生活に 「“ 観 光 協 会 は適さないかもしれません。 の再生と自立 イタリアから日本に戻ってきた頃の失敗談です。ま 化” 」が急務 ず自分のことを相手に伝えようとし、相手の話を聞い である。その ていなかったことで、 「よけいなことを話さない、無駄 ためには、自 な会話を控える」ように諭されたことがあります。今で 主事業の展開、財源の確保、キーマンとなる人材の誘 は当然のことだと思うのですが、信頼を得るコミュニ 致、組織体制の強化が欠かせない」と掲載されていま ケーションのあり方とは、 「誠意を持って相手の話を聞 した。 いて理解し、主張しすぎず、分かち合えること」であ 地元の人たち(地の人たち)が、地域活性化に向け ると痛感しています。 て自分たちが何の役割を担うべきなのかという課題を 方言と標準語 感じ取り、自らに明解なテーマを設定しようと、活動 九州で私が話をしていたときに、 「こちらの方ではな 目的を検討している一つの例に思えます。また、地元 いですよね?」と幾度か尋ねられたことがあります。北 の新聞記事には毎日のように、行政へ依存することの 海道弁のイントネーションや言葉がつい出てしまうと、 ない地の人たちの日々の奮闘が伝えられています。こう 羞恥心を感じてしまいます。 した記事から、人と人をつなげる取り組みやしくみは、 しかし、九州人はまったく逆の認識のようです。九 濃ゆい人間関係の中からこそ見い出すことができるの 州の方々は、初対面の私にでも、福岡弁、大分弁、熊 ではないかと感じ始めています。 本弁、鹿児島弁等で話をします。さらに、福岡市内で 九州人と北海道人 も各区や地域によって微妙に方言の違いがあるようで 札幌から福岡へと生活を変えたことで、認識できた す。島国という点では北海道も九州も同じですが、九 ことがひとつあります。九州では、地の人、地元企業、 州は各県間での闘争心があるらしく、郷土愛を無意識 財界人が「地域の担い手(主役)」として、行政に依存 の中で主張しているように思えてなりません。後々話を することがない適度な緊張感を持ちながら日々の活動 聞くと、九州では郷土の方言で話さず、標準語を話す を展開しているように見受けられます。 方は、ちょっとすかした人と思われているようです。 言い換えると「北海道はあまりにも行政主導型で物 九州では男女問わず普通に、建前の話を飛び越えて、 事を決定し進めているところがある」ということです。 自分のプライベートや愚痴、ぶっちゃけ話を話す方も 行政の計画だけでは埋められない「人と人とをつなぐ 多いかもしれません。イタリア人と同じように人との距 取り組みやしくみづくり」を担う意識を、北海道人も強 離感が近く、正直、どこまで、どのように相手に話を く持つべきです。そのためには、自分たち自身が地域 すればよいか、わからないとき、苦手に感じるときが 活性に向けて何ができるのかを問い続けるとともに、 私には度々あります。刺身醤油や料理のダシが濃ゆい 行政に頼らない自立化を促していかなくてはならない。 ように、人間関係が濃ゆいなぁと感じます。 また、揺るぎない郷土愛を持つ地の人同士のコミュニ 九州人は行政からの自立化を目指す ケーションをもっともっと濃いめにすべきであると思い 地元の新聞に、 「全国の観光協会は市町村合併に伴 ます。 大豆畑トラスト交流会:赤いそら豆の取り出し、みそづく りを行いながら、初対面同士でもすぐに会話が弾む う統廃合が進み、会員減や補助金減による財政不足 が顕著化している。観光協会の意思決定のスピードが ●3URILOH ※1 コムーネ(COMUNE) :イタリアの自治体の最小単位「基礎的地方 自治体」をさす。イタリアでは市町村の区別はなく、大小の別なく一律 コムーネである。 ※2 バール(Bar) :簡易食堂・喫茶店・酒場(バー) 。 札幌生まれ、福岡在住。フリーライター。イタリア国立フェラーラ大学建築学部留学、 北海学園大学非常勤講師、北海道景観審議委員、北海道大学博士後期課程満期退学 を経て、福岡に住む。おいしい食べ物と飲み物を求め、いろんな人との対話を持ちな がら、お金では買えない豊かな生活を送ることが何であるのかを考える。 山岸 加奈 やまぎし かな ’ 08.8