Comments
Description
Transcript
第8回医療安全シンポジウム
2011 年(平成 23 年)4月1日 No.1954 11 特集 特 集 第8回 京都府医師会 医療安全シンポジウム 新しい医療安全文化を目指して ~患者参加で築く安心医療~ 府医では,2月 26 日,府医会館3階大会議室において「第8回 医療安全シンポジウム」を開催し 240 名(医療関係者 146 名)の方 が参加された。 シンポジウムの開会にあたり,橋本府医理事か ら府医会館の移転にともない,医師会は敷居が高 いと常々いわれてきたことから,「開かれた医師 会」として気軽に府民・市民の方に来ていただけ る会館にしたいと考えている。今回のシンポジウ ムは,「患者参加で築く安心医療」とのテーマと した。我々医療に携わる者としては,常に患者さんに対しできるだ けいい医療,安全な医療の提供を心がけているが,医療人だけでこの成就は難しいのが現状で ある。患者さんに医療を受けるとき協力いただけることで安全のグレードが上がることがある。 今日は,患者参加で築く安全について理解していただける機会になればと願っている−と挨拶 した。 パネリストによる講演 最初に,齋藤信雄座長(府医医療安全対策委員会委員長)より新しい医療 安全文化を目指して医療安全シンポジウムを開催してきた経過を説明した。 過去において事故が発生した際,「隠す・逃げる・誤魔化す」といった医 療人の態度が不信感を招き,医療と患者の対立構造ができてしまった。これ は非常に悲しいことである。これらを解決したいという思いが,市民シンポ ジウムを開催する原点になった。 今回のテーマは「患者参加で築く安心医療」である。昨今, 病気が慢性疾患化し,医療が治らない病気を相手にするこ とに変化した。このことは,患者の医療への参加,患者の 医療への意思表示が非常に大事になってきている。患者の 医療への参加が実現すると個別医療の実現,安全な医療に 資することができる。そして,一番の目標はパートナーシッ プに基づく相互信頼関係の確立である。医師と患者の協働 作業により医療安全を実現していきたい−と述べた。 12 2011 年(平成 23 年)4月1日 No.1954 特集 ■森本 剛 氏(京都大学大学院医学研究科 医学教育推進センター 医師) 「病院に入院することの安全性」として安全性を数字で研究する意義と日 本における病院の安全性『薬害性有害事象』について講演した。 これまで日本では,医原性有害事象についてエラー等の発生状況は統計な どがなく分からないことが多かったが,統計を取ることでいくつかの危険要 素が分かってきた。6ヵ月間,薬剤性の有害事象に絞り日本での患者データ を取り分かってきたことは,日本のみならず世界共通の事項として,患者が病院に入院するの は,一定(かなり)の危険をともなうということである。事故がどのくらい多いのか,どうい う時に発生しやすいのかが少しずつ分かってきた。それにより,これまで有害事象はあっては ならないことが前提であったが,起こることを前提とした対策「患者と医療従事者の連携」が 必要になっている−と述べた。 ■江川 晴人 氏(日本バプテスト病院 産婦人科 医師) 「産婦人科における立会い出産の現状と医療者の意識」について講演した。 「立会い出産」はイベント化してきており,京都府下の分娩施設を対象に 行ったアンケート調査では 96.1%の施設で「立会い出産」を行っている。「立 会い出産」は急変することの多い分娩室において手術中でないと説明できな い状況や急変をつぶさに説明できる,まさに「インフォームドコンセント」 の場になると説明した。 しかし産婦人科医は,共に喜びを分ち合うことを望んでいる反面,分娩室での十分な安全の 確保も医療者の義務であると考えている。「立会い出産」を単なるイベントとして捉えるので なく,医療行為の現場としての認識をもって欲しい。緊急を要する現場においては,家族がい るだけで集中できない(力を発揮できない)と考える医師もおり,医療者にストレスをかけな いことも重要になってくる。患者参加型医療安全においては医療を安全に行うため,ルール作 り・制限を設けることも必要である−と意見を述べた。 ■森本 和代 氏(京都第二赤十字病院 医療安全推進室 看護師) 京都第二赤十字病院での転倒転落に対する取組みについて講演した。 当院では入院患者の転倒,転落について取組んでおり,少しずつ成果が見 え始めている。しかし日本医療機能評価機構の資料と比較した場合,全国平 均同等の数値である。主な取組みとしてはアセスメントシートを使用し危険 度別防止対策に活用,離床センサーの活用,薬剤・リハビリの観点からも対 策を立てるなどの取組みを行っている。課題としてはアセスメントと対策の妥当性,離床セン サー等の物品の適性について評価分析が必要である。認知症の患者の転倒・転落対策はキーワー ドであり,患者本人・家族から様々なことを聞き対策を立てている。これからは転倒・転落率 を減少させるためには,原因と結果を分析し,患者,家族,市民の協力が必要である−と述べた。 2011 年(平成 23 年)4月1日 No.1954 13 特集 ■甲斐 純子 氏(蘇生会総合病院 薬剤部 薬剤師) お薬を安全に服用するために~お薬手帳の効用~について講演と DVD を 放映した。薬剤師の立場から安全に薬の治療を受けていただくためにお薬手 帳の効用について説明した。 薬は病を治すためには欠かせないものであるが,相互作用により作用が強 く出たり,効果が下がってしまったり,場合によっては副作用が強く出るこ とがある。お薬手帳には現在服用中の薬から飲み合わせのチェック・薬の重複などを確認でき, より安全で的確な薬の処方に繋がる。多くの患者さんが, 「家にはあるが日頃は携帯していない」 「複数の手帳をもっている」という状態であるが,安全で安心な薬物療法のために,お薬手帳 を是非携帯していただきたい。また複数手帳を持っておられる方は,一冊に纏めていただきた い。お薬手帳を通じて,患者自身が自分で自分を守れるようにしていただきたい−と説明した。 ■齋藤 嘉夫 氏(がん患者サロンうずら) 自身が代表世話人である「がん患者サロンうずら」での経験を元に患者の 思いについて講演した。 がん患者となった経験から,「病気のことを気にすると日々の生活をして いけない。病気のことは医師に任せておきたい。」と考えている。そのため には医師との信頼関係が重要である。患者の中には「悪いことは聞きたくな い」「家族には知らせたくない」と考える患者もいる。医師は患者の質を理解していただきた い−と訴えた。 インフォームドコンセント・QOL・セカンドオピニオン等の言葉は,外来語であり,まだま だ医療者ごとに解釈・認識が違うところがある。これらは患者中心の医療が元の考え方である が,この辺りが整理されれば信頼関係が向上するのではないか。日本でもこういうことがよう やく医療者側にも定着されつつあると考えている。医療者,患者とも一緒に理解を進め,新し い医療安全文化の思想を地に付いたものとして広げてもらいたい−と述べた。 澤美彦座長(府医医療安全対策委員会副委員長)は,我々医療者にとって も非常に厳しい話もあった。人為的なミスが仮になくなっても有害事象はな くならない。やはり医療というものは予測できない危険なものであり,それ こそが医療の本質であることを再認識するとともに,患者・医療者間の連携 が必要である−と説明した。 パネルディスカッションでは,講演をもとに会場からの質問を受けながらディスカッション が進められた。 最後に齋藤座長より「患者参加の医療は避けては通れない。医療における事故は止むをえな いところはある。しかし,攻め立てられて萎縮するのではなく,ミスのあるなしにかかわらず 素直に反省,謝罪ができる環境,このような環境を医療安全文化として実現していきたい」と 締めくくった。