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講演資料 [PDFファイル/2.58MB]

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講演資料 [PDFファイル/2.58MB]
山元町・産業振興復興セミナー(第5回)
多様な担い手が作る
「農業の新しい形」とその実践
日時:
2013年9月8日 13:30~
場所:
山元町中央公民館2階大ホール
株式会社 農業活性化研究所
大澤信一
Copyright (C) 2009 The Japan Research Institute, Limited. All Rights Reserved.[tv1.0]
[tv1.0]
【目次】
1.“袋小路”に入った日本農業の“弱点”を考えてみよう
2.東北農業の弱点と山元町農業の強み
3.“農(園芸)を核にした町おこし”をどう進めるか
1)(試案):山元町“交流型フルーツ産業”構想
(核ビジネス:園芸産地大規模直売施設)
2)戦略策定に不可欠な3つの視点
①広域の開発戦略 ②新しいビジネス手法 ③環境(安全・安心)
4.事例から考える“地域が主導する農業再生“
・“園芸産地”の普通のJAが成し遂げた“農を核にした地域再生”
・成功の秘訣を考える
5.“山元町農業の震災復興“は“日本再生”につながる道
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1.“袋小路”に入った日本農業の“弱点”を考えてみよう
(1)「食と農・水」を取り巻く「新しい価値体系」
• 経済の仕組みと食マーケットの高度化・成熟化で新しい農業・食料観、価値体系が浮上。
• 新しい農業・食料観、価値体系を前提としたフードビジネスのモデル構築が必要。
20世紀における
食と農の「価値体系」
農業観
均一な食料の
大量供給
食料観
個性化されない
画一的な食
(社会・環境・変化)
• 環境制約
• コミュニティ崩壊
(マーケットの変化)
• 食の成熟化
21世紀における
食と農の「価値体系」
有限な食料と
農業の多面的価値の重視
食の個性が価値を持つ
ビジネスモデル
• ライフスタイルの多様化
<<物流システムの革新(宅配便の普及他) & ICT技術の進歩(スマートフォンの普及他)>>
(資料)大澤作図
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1.“袋小路”に入った日本農業の“弱点”を考えてみよう
(2)最大の問題は流通→新しい流通の仕組みが必要
=成功直売所は新しい仕組みを示す
・「食材の価値」を消費者に提案することで新しいフードシステムが生まれる。
・新システムには「生産~流通~需要創造」全体について「一気通貫の構造改革」が必要。
・「各地で成功する成功直売所」は「生産~流通~需要創造」の新システムの手がかりとなる。
「食・農システム=フードシステム」
(=生産ー流通ー需要創造から成るサブシステムの総体)
生 産
(零細分散する農地)
流
通
(高比率な流通コスト、改革が必要な卸市場)
需要創造
(下落続く農産物単価)
強烈な価値
提案が必要
農 地
(資料)大澤作図
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2.被災した東北農業と山元町農業の強み
・東北農業は米農業の比重が高く活力を失う ⇔ 山元町には強いイチゴ農業があった
①(東北農業における米の比重の大きさ)
・地域農業に占めるコメの比率を見ると,全国ベースでは2割程度で推移してきたが,東北で
は4割程度あり全国平均の約2倍の比率を占めている。
②(米農業における厳しい規制)
・1942年(昭和17年)から1995年(平成7年)まで,50年以上にわたり食糧管理制度によって
コメはその生産,流通,価格,消費まで国の管理の下に置かれていた。
・1970年(昭和45年)からの「減反政策」というコメの消費減少に対する価格維持のための数
量調整政策に縛られて,自由なコメ作りに歯止めがかけられたままであった。
・日本のコメ生産者は,自由に生産し,値付けをして販売し,その結果に責任を負うというビジ
ネスの基本的な経験を積むことができず,「マーケットを読んで自ら変化し続ける」というビジ
ネスの最も基本的なスキルを訓練する機会が非常に乏しかった。
③(東北農業のビジネス経験の不足)⇒東北農業は米農業の比重が高く活力を失う
④園芸作物(イチゴ)は“美味しさが命”⇒農業の中では最も“ビジネス原理”が働く(着目!)
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*山元町のイチゴ農業の被災状況(資料:((財)東北活性化研究所「1次産業の戦略的育成に関する調査研究報告書」より)
被災の概要
総農家数
亘理町の
施設園芸ゾーン
いちご選果場
出典:国土地理院
いちご再計
山元町
いちご再計
1629
251
1166
約100(※)
300 (18%)
172 (15%)
兼業
1005 (62%)
690 (59%)
自給
324 (20%)
304 (26%)
3450
58.3
2050
田
2600
1440
畑
856
606
被災農地
37.8
2711
54.5
1595
36.5(※)
被災面積率
78.6%
93.5%
77.8%
96.6%(※)
田
2281
1123
被災面積率
87.7%
78.0%
畑
430
472
被災面積率
50.2%
77.9%
農業産出額合計
比
率
亘理町
専業
総耕地面積
山元町の
ストロベリーライン
単位:戸、ha、千万円
647
184
325
116
米
37%
33%
野菜
52%
730万円
/戸
1160万円
/戸
55%
出典:2010年農林業センサス、平成18年生産農業所得統計、津波により流出や冠水等
の被害を受けた農地の推定面積(3月29日農水省)
(※)亘理町のいちご生産データは亘理町震災復興会議資料、宮城JAいちご部会資
料より、山下町のいちご生産データは宮城JAいちご部会資料などから推計
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山元町イチゴ農業・復興の方向性(案)-(仮称)「山元町交流型フルーツ産業構想」)
(仮称)「山元町交流型フルーツ産業構想」
生産者グループの法人化を進めるとともに、最新式大型ハウスを導入して、観光農園や直接販売の比率を
高める。また、周辺観光地と連携して集客と売上の増加を図る。「交流型フルーツ産業創造」を進める
観光農園化と直接販売の推進
生産者グループの法人化と
最新式大型ハウスの導入
従来型のイチゴ生産システム(個人経営農業)
<< 生産システム >>
①個人経営
②ハウスMAX70a程度(パイプ式ハウス)
③夫婦2名と両親=4名+研修生1名
④販売金額 MAX2000万円 目標粗利1200万円
<< 流通システム >>
①農協経由の市場出荷中心
②市場手数料7.5%
③無条件委託販売
④その他(関連ビジネスなし)
<< 資金調達手法 >>
①資材購入=JAから個人購入
②資金=(補助金以外は)JAより借入
再生可能エネルギーなどの活用
新規イチゴ生産システム(法人経営農業)
<< 生産システム >>
①法人経営
②ハウス 冬80a (フェンロー式ハウス)
③社長、専務、+社員5名+研修生1~2名
④目標販売金額 1億円、目標粗利5000万円
<< 流通システム >>
①直接販売
②市場手数料なし
③契約栽培(単価と期間一定)
④その他=摘み取りイチゴ園併設、関連ビジネス
としてフルーツパーラー等想定
<< 資金調達手法 >>
①資材購入=競争入札(10法人一括)
②資金=(補助金、支援金以外は)民間金融機
関、復興支援金、復興支援ファンドなど
(資料)本頁は((財)東北活性化研究所「1次産業の戦略的育成に関する調査研究報告書」を講演者が一部修正して利用)
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山元町イチゴ農業・復興の方向性(案)-1)(仮称)「山元町交流型フルーツ産業構想」)
「構想」の中核は園芸産地の大規模直売施設(下はイメージ*)
・出荷者約1500人(山元町のイチゴ農家、リンゴ農家を核として福島県北部の果樹、宮城
県内陸部の蔵王町の酪農と連携させ、当地域を広域園芸観光農業エリアととらえ、1500
人の出荷グループを組織化する)
・出荷者の平均年齢50歳代中位~60歳代中位「高齢者標準」
(亘理町との連携)
・年商30億円(客単価@3000円×年間入込客数100万人)
亘理町の入込客数
・下図のような広域の観光農業戦略を展開する(交流型フルーツ産業)。
89万人(H21)
(蔵王町観光入込客数約158万人(H21)
(仙台圏)
(山元町観光入込客数
約4万1千人(H21)*
広域連携
(伊達市観光
数約44万人
*:直売施設には地元食材を活
用した食堂、フルーツケーキ
ショップも併設。食堂ではホッ
キ貝等地元水産物の活用
出展:伊達市ホームページ
出展:蔵王町ホームページ
入込客
(H24))
アップルライン
*H6~10は12~1万人で推移
山元町イチゴ農業・復興の方向性(案)-(仮称)「山元町交流型フルーツ産業構想」)
2)戦略策定に不可欠な3つの視点
①広域の開発戦略
:山元町のイチゴ農家を核として福島県北部の果樹、宮城県内陸部の蔵王町の酪農と連携
させ、当地域を広域園芸観光農業エリアととらえ、1500人の出荷グループを組織化する
(メリット)通年での観光プログラム、連携しての提供商品開発(フルーツケーキ、多様な食
材とそれを活用した農家料理・漁師料理の食堂、イチゴ・りんご・桃・柿・プラム・ブド
ウ・牛乳・乳製品とフルーツケーキ)
②新しいビジネス手法
:広域での「マイクロ投資」手法の活用、ICT活用の直売ビジネス展開、担い手の意識改革のた
め「アグリビジネス塾」開講等
(マイクロ投資):個人が非常に小口で企業や事業に投資できる手法であり、投資を受ける企業
は、事業単位で資金調達ができる。自然エネルギー、震災復興、音楽、ワイン
産業などで広範に活用されている。
③環境(安全・安心)
:連携しての放射能等対策(“安全・安心のフルーツエリア“宣言、GAP導入、・・・等)
(GAP):「農産物の安全」「環境への配慮」「農業者の安全と福祉」「農場経営と販売管理」など
の管理基準を通して、農場のレベルアップを図る(Good Aglicultural Practice)
4.事例から考える“地域が主導する農業再生”
1)“園芸産地”の普通のJAが成し遂げた“農(園芸)を核にした地域再生”
<愛媛県・今治市の直売所・さいさいきて屋>の例(1)
(写真)大澤撮影
・愛媛県瀬戸内沿岸・島嶼部・中山間地、販売金額約25億円、出荷者約1300人/常時出荷者450
~500名(兼業9割、専業1割)。出荷者の平均年齢67.5歳。
・地元の園芸作物をふんだんに使った「SAISAI CAFEE」のフルーツケーキが大人気。
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<愛媛県・今治市の直売所・さいさいきて屋>の例(2)
・圧倒的な価値を発信する「SAISAI CAFEE」のフルーツケーキ
(一日200万円売る日もあり、東京渋谷にも進出)
(写真)さいさいきて屋HPより
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<愛媛県・今治市の直売所・さいさいきて屋>の例(3)
・地ものの食を提供する「菜彩食堂」
(写真)さいさいきて屋HPより
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<愛媛県・今治市の直売所・さいさいきて屋>の事例から学べるもの
★東北震災復興にもこの ダイナミズムを移植すべし
• 繁盛直売所からは「食・農システム」だけでなく、新しい「生活モデル」も読み取ることができる。
• 食・職・住がバランスよく共存することで、自立・自律した持続性の高い地方が実現しつつある。
•成功している直売所は新しいコミュニティビジネスのプラットフォームになりつつある。
現在の地域における重要課題
コミュニティの再構築
地域の持続性の向上
生活の質の改善
繁盛直売所はこれらの課題を解決する「生活モデル」の可能性の一つ
「農」「水」「林」を核とした多様な収入源で、持続的なインカム・ポートフォリオを実現
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< 山元町農業復興のベースに置くべき3つの視点 >
①消費者とともに作る農水産業
:マーケットイン型の構造改革。農業者、漁業者が,消費者や実需者と直接取引をする中で,
自ら生産する農産物、あるいは自らが営む農業に対するニーズをくみ取って、農業生産や流
通、需要創造の仕組みを変えていく。
②観光産業との融合
:例えば東北経済連合会は「2030年に向けた東北ビジョン」のなかで,2030年の日本への訪
日外国旅行者4000万人を想定し、そのうち東北地域へは10%の400万人の来訪を目指し
たプランを公表。このような東北全体での訪日外国人旅行者をも想定して、地域の観光産業
と農林水産業をどのように連携させるかという視点が重要。
③広域の地域開発へ
亘理、山元地区のイチゴ農業は、福島県北部の果樹、宮城県内陸部の蔵王町の酪農等と連
携させ、広域園芸観光農業としての開発指針が必要。さらにこれらを、三陸沿岸の水産物と合
わせ仙台空港からアジア市場に展開する可能性も。
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5.“山元町農業の震災復興“は“日本再生”につながる道
・本講演でご提案した再生プランは以下の3点がポイントになる
①(地域の特性を活用した基本戦略を消費者・都市住民と主体的に共創)
:地域の多様な自然条件、社会条件を生かす個性的な基本ビジョンが必要となる
が,その策定作業は、地域の農業、水産業が「消費者と共に」構想する必要があること。
②(21世紀の産業構造に適応したビジネスモデル)
:さらにそれは21世紀の前半に大きな成長が期待できる観光産業との産業間の連携が重要
である。
③(地方分権に基づく広域の戦略策定)
:地域の基本ビジョンの実効性を向上させるためには、行政枠を超えてより広域で構想するこ
とが重要である。
これらポイントは山元町農業復興に限って求められているのではない。
むしろ1990年初めにバブル経済が崩壊して以来、「失われた20年」といわれた日本の産業構造の組み
直しに広く応用できる手法である。
山元町農業の再生無くば、東北・日本の農業再生はなく、日本経済の再生も見えてこない
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