バスケットボール映画に見る黒人差別表現とその影響 The

バスケットボール映画に見る黒人差別表現とその影響
The representations and influences of racial discrimination against black people
on the basketball movies
1K04A183
指導教員
主査 宮内孝知 先生
目的
橋本 万葉
副査 石井昌幸先生
この論文では、3本のバスケットボール映画を扱
筆者は大学3年生の夏から1年間、アメリカ合衆
った。「人 種 差 別 」をテーマにして、白 人 監 督 ・プ
国 に留 学 をした。そこで筆 者 は、初 めて色 々な人
ロデューサーによってハリウッドで制作された『グロ
種 の人 々が暮 らす国 で生 活 し、そして、「自 由 の
ーリー・ロード』、田 舎 の白 人 高 校 バスケットボー
国 」と謳 われているアメリカ合 衆 国 で、「人 種 差
ルチームが優勝するまでを追った、白人バスケット
別」は今日でも存在していることを知った。留学中
ボール映 画 『勝 利 への旅 立 ち』、そして黒 人 監 督
に受 けた講 義 には、必 ずと言 って良 い程 「差 別 」
スパイク・リーによって制 作 され、黒 人 親 子 の絆 を
についての授 業 があった。そこで筆 者 は、留 学 中
描いた『ラストゲーム』の3本である。
に「スポーツ社 会 学 」と「映 画 論 入 門 」という授 業
まず、これら3本の映画が、「3アクト・ストラクチャ
の中 で勉 強 したことを元 に、「人 種 差 別 」をテーマ
ー」と呼 ばれるハリウッド式 の脚 本 に当 てはまるか
にしたスポーツ映 画 が、「なぜ、そう描 かれるべき
を検証した。この「3アクト・ストラクチャー」は、「2時
であったのか」、そして、「観 客 にどのような影 響 を
間 という短 い時 間 の中 で、観 客 を一 時 たりとも退
与 える可 能 性 があるのか」ということを明 らかにし
屈させないように」ほとんどのハリウッド映画が採用
たい。それが、本論の目的である。
しているフォーマットである。ハリウッドで白 人 によ
って制 作 された『グローリー・ロード』と『勝 利 への
方法
第1章では、「人種差別」について論じる上で理
解 が必 要 になる用 語 について確 認 の意 も含 めて
旅 立 ち』はこれに当 てはまったが、黒 人 監 督 にと
って制作された『ラストゲーム』は当てはまらなかっ
た。
定 義 し、アメリカ合 衆 国 における黒 人 差 別 の歴 史
次 に、3つの映 画 で共 通 している“今 住 んでい
と、スポーツ界 での人 種 差 別 の歴 史 ・実 態 につい
る町 を出 て行 く”という表 現 について比 較 した。白
て簡 単 に解 説 する。第2章 では、この論 文 で扱 う3
人 のみが住 む田 舎 町 が舞 台 の『勝 利 への旅 立
本 のバスケットボール映 画 のあらすじ、制 作 スタッ
ち』では、「バスケの英 雄 」になることは、町 の中 で
フや出 演 者 の民 族 背 景 、興 行 収 入 、受 賞 、映 画
神 様 扱いされることであり、そのためにこの町の中
の時 代 ・舞 台 設 定 について解 説 する。第 3章 では、
に閉 じ込 められることを意 味 した。一 方 で、ニュー
3本 の映 画 の脚 本 の書 かれ方 や、バスケットボー
ヨークの低 所 得 者 団 地 に住 む黒 人 が主 人 公 の
ル・シーンの描 き方 にどんな共 通 点 ・相 違 点 があ
『ラストゲーム』では、「バスケの英 雄 」になることが、
るのかを比較する。第4章では、これらの映画がな
「ここを出て行く唯一の方法」だとされていた。この
ぜそう描かれるべきで、それによってどんな影響を
ように、アメリカ人なら誰もが夢見る「アメリカン・ドリ
観客に与えるのかについて論じる。
ーム」を叶 えるために、黒 人 にとってバスケットボ
ールは良 い手 段 であったが、白 人 にとってはそう
結果・考察
ではないのである。
そして最 後 に、3本の映 画 に共 通 してクライマッ
つける様 子 が、『ラストゲーム』では、親 子 の1on1
クスで使 用 されているバスケットボール・シーンに
を通してこの親子が過 去 を乗り越える様子が描か
ついて比 較 した。『勝 利 への旅 立 ち』では、身 体
れていた。つまり、3本の映画すべてが、最後のバ
優 位 説 のある黒 人 選 手 に、白 人 選 手 が打 ち勝 つ
スケットボール・シーンを通 して、映 画 全 体 におい
様 子 が、『グローリー・ロード』では、黒 人 選 手 たち
て主 人 公 たちの「敵 」となっていたものと戦 ってい
が試 合 を通 して「人 種 差 別 」に対 しての怒 りをぶ
たのである。