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第7章 ニューヨーク州立大学バッファロー校の戦略的留学生リクルーティング

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第7章 ニューヨーク州立大学バッファロー校の戦略的留学生リクルーティング
第7章
ニューヨーク州立大学バッファロー校の戦略的留学生リクルーティング
太田
1.
浩
ニューヨーク州立大学バッファロー校(SUNY-Buffalo)の概要
ニューヨーク州立大学バッファロー校(SUNY-Buffalo)は、地理的、気候的に不利
でありながら、全米の研究型州立大学で最も留学生率が高く(16%)、その戦略的留学
生リクルーティングが注目されている。
SUNY-Buffalo は、1846 年創立のニューヨーク州立大学 (SUNY) システム(64 キャ
ンパス)が持つ 4 つの総合研究大学(University Center)のうちの一つである。2008-09
学年度の統計資料によると、学生数は 28,192 人(学部生:19,022 人、大学院生:9,170
人)で教員数は 1,827 人、職員数は約 8,600 人(その 4 分の 1 程度は院生のアシスタン
ト)である。大きくはノース・キャンパスとサウス・キャンパスの 2 地区に分かれてキ
ャンパスが存在するが、最近、新たにダウンタウン・キャンパスが開発されている。83
の学士プログラム、133 の修士課程プログラム、 78 の博士課程プログラム、4 つのプ
ロフェッショナル(専門職)課程・プログラムそして 3,000 以上ものコースをそろえて
いる。28 学科を有する文理学部を筆頭に、建築学、歯学、教育学、工学、公衆衛生学、
法学、経営学、医学、看護学、薬学、社会福祉学など広範囲にわたって学部学科を設置
している。SUNY-Buffalo は、カーネギー財団の重点研究機関として分類されており、
多くの宇宙飛行士やノーベル賞、ピューリッツアー賞、各々の分野での賞の受賞者を輩
出している。
2004 年に次期 15 年の戦略計画として、「UB2020 構想」を立ち上げた。構想の目玉
としては、学生数を 10,000 人、教員を 750 人、職員を 600 人増やし、大学の規模を現
在より、40%拡大することである。これにより、地域経済への貢献も 15 億ドル程度拡
大し、税収も 9,600 万ドル増えると試算している。この構想は学際的レベルをより高め
ていくために、以下の 5 本柱をおいている。
•
学際的な既存概念の転換、知的集団への啓蒙をおこなっていく
•
大学施設間で垣根をなくしていく
•
社会政策を取り入れて大学としての責務を地域に貢献させていく
•
大学資源の活用、長期的計画実施の基盤の役を果たしていく
•
環境や持続的社会へのリーダーシップを発揮していく
2. SUNY-Buffalo の留学生数
SUNY-Buffalo の留学生数は、1996 年には全学生数の 6.8%であったのが、2008 年に
は 16%、4,363 人とこの 10 年余りで急速な伸びを示している。留学生数には海外ブラ
ンチ・キャンパスやオフショア・プログラムでの学生数、そして E-MBA を履修してい
る海外の学生数は算入されていない。米国の他の研究型大学と同様に、留学生は工学、
ビジネス・経営学、情報工学に集中しており、この3領域だけで、留学生総数の半数を
しめる。70%の留学生はアジア諸国出身である。留学生の出身国の上位 10 カ国は、イ
ンド、中国、韓国、台湾、カナダ、日本、マレーシア、シンガポール、インドネシア、
トルコとなっている。ここ数年、学士課程の中国人学生が急速に増加している。以前は
163
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全学で 20 名程度だった学士課程の中国人学生が 2007 年と 2008 年にそれぞれ 150 人ほ
ど入学しており、この先 2 年も同程度の入学者が見込まれ、2010 年には学士課程全体
で 600 名近くになるであろうとの予測をしている。この変化の大きな要因は、米国の入
国管理・移民政策の転換で、学士課程に合格した中国人学生への F1 ビザ発給率は今や
90%に達しており、大学院に至っては 95%程度ということであり、4-5 年前とは大き
く様変わりしている(ちなみに日本の留学ビザ発給率は 50%程度)27。また、マレーシ
アからは編入学の留学生が多い。これは現地に海外留学を視野に入れたカレッジが多い
ためで、いくつかの学校とは Transfer/Articulation Program(現地のカレッジで履修し
た科目と単位が SUNY-Buffalo でどのように編入されるかという一覧表が既に出来てい
る)を実施している。また、最近トルコの大学と Double Degree Program を開始して
おり、軌道に乗れば他の外国の大学とも同様なプログラムを立ち上げることを検討して
いる。
SUNY-Buffalo に留学生が多い一つの理由は学費が他の米国の大学より安いことであ
る。学士課程、大学院課程ともに一般的な学費(MBA、ロースクールや医学系学部をの
ぞく)が 15,000 ドルというのは、確かに他の研究型大学に比べて安い(2008 年に 20%
値上がりしたにもかかわらず、まだ割安感がある)。
3.
国際教育部(Office of International Education)
SUNY‐Buffalo の国際教育部(Office of International Education)は、日本の大学風
に置き換えて説明すれば(アメリカの大学の事務組織は日本のそれとはかなり違うため、
単に和訳しただけでは理解しにくい面が多い)、国際教育担当副学長(Vice-Provost)が
直接指揮を取る「国際交流事業統括部」のもと、
「留学生募集課」、
「留学生入学課」、
「留
学生・外国人研究員支援課」、「海外留学・研修課」、「付属英語学校」、「フルブライト事
業課」で構成されている。学士課程の留学生入学関係業務は、留学生入学課で包括的か
つ集中的に行われている。大学院の場合は、各研究科で入学審査(合否判定)までの業
務が行われ、その後の手続き(合格通知書送付、在留資格認定証明書送付、入学手続き
等)のみが留学生入学課で行われている。留学生募集課では、大学院まで含めたリクル
ーティング活動を行っているが、大学院留学に特徴的な学問分野に深くかかわる問い合
わせや入学審査に直接かかわる質問は、各研究科の担当教職員が対応している。
4,300 余名の留学生、100 名以上の外国人研究員・客員教授、65 の海外協定校との各
種交流プログラム、昼夜開講で留学生だけでなく移民の英語教育も担う付属英語学校、
多くのフルブライト関連事業などを考慮すれば、専任スタッフ 25 名(英語学校の教員
を除く)というのは、決して多い数ではない。しかし、それでも円滑に事業を運営でき
る裏には、大学院生アシスタントの存在がある。国際教育部は、その業務の特性から留
学生(特にアジア系の留学生)をアシスタントとして、多く採用している。アジア系が
好まれる理由は、勤勉であるという定評と SUNY‐Buffalo におけるアジア系留学生お
よびその志願者の高い比率が背景にある。
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この米国における入国管理・移民政策の転換は、留学生全体の 60%近くを中国人学生が占めている日
本にとって脅威といえるであろう。特に学士課程の中国人志願者に、米国が高率のビザ発給を行うように
なると、これまで、ビザ取得の困難性から米国留学をあきらめて、日本留学を目指していた層が日本に来
なくなる可能性が高くなる。
164
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4.
国際教育部における留学生の利活用
海外向けの広報と実際のリクルーティング活動を担う留学生募集課、そして留学生の
学部課程入学審査と大学院を含めた入学に関する手続きと在留資格認定書を処理する
留学生入学課には連日、世界各地から多くの問い合わせが来る。インターネット電話や
スカイプの普及で海外から気軽にコンタクトしてくる志願者も増大している。込み入っ
た要件は、留学生アシスタントが母国語で対応することも多い。E メールでの質問にも、
母国語で留学生アシスタントが自分の経験も踏まえて回答すれば、志願者の大学に対す
る印象は格段に良くなる。付属英語学校(留学生予備軍が大半を占める)や留学生・外
国人研究員支援課で起こった問題で、母国語での説明が必要な場合や文化的、社会制度
的な違いからに同国出身者の援助が求められる場合には、部署を越えて留学生アシスタ
ントが対応する。海外留学・研修課が、学生の派遣先で事故が起きた際に、現地の情報
収集をする場合も同様である。アシスタントは自分の所属している課だけでなく、国際
教育部全体で貴重な人材として、柔軟に活用されている。
5.
留学生募集・入学業務における IT の活用
IT の時代において、留学生募集におけるウェッブ・サイトでの情報提供は、最も重要
なものとなっている。米国の有力大学は、ウェッブ・サイトで様々な趣向を凝らし、魅
力的なサイトから的確な情報を提供して、留学希望者を引きつけようと躍起になってい
る。今や留学生用入学願書の一次申請は、サイトの”Apply Online” をクリックして、
「イ
ンターネットから」が常識となっている。IT と共に育った若者の感覚に応えるウェッ
ブ・サイトは、留学生からのアイデアも活かし、流行のツールやインターフェイス(オ
ンライン・チャット、ブログ、YouTube、Facebook など)を組み込んで作られている。
また、留学フェアのブースに訪れた者、メール等で問い合わせをした者、志願者、合格
者、入学手続者等の大量のデータを段階的に、効率よく処理する上においても、IT の活
用は欠かせない。
SUNY-Buffalo の留学生入学課の資料によると、2008 年秋学期入学における学士課程
への留学生志願者総数(1 年次入学希望と 2、3 年次編入学希望)は、3,370 名(出願に
かかわるすべての書類が揃わなかったもの<インコンプリート>を含む)であり、入学
審査および合格通知を経て、実際に入学手続きに至ったものが、1年次入学で 196 名、
編入学で 216 名であった。また、2009 年冬学期入学における学士課程への留学生志願
者総数(1年次入学希望と編入学希望)は、673 名であった。大学院の場合は、2008 年
秋学期入学で、20,180 名(インコンプリートを含む)の留学生志願者があり、入学審査
および合格通知を経て、実際に入学手続きを行ったものが、1,560 名であった。入学に
関する問い合わせの数は実際の志願者の数倍はあり、リクルーティングを担当する留学
生募集課および留学生入学課としては、その段階から情報を管理するため、実に膨大な
情報量となる。かといって、留学生リクルーティングやアドミッションにかかわる情報
処理(コンピュータ・ソフトの開発を含む)をアウト・ソーシングし、IT 関連企業に高
額なコミッションを支払うことはしていない。コンピュータ・サイエンスを学ぶ留学生
28がアシスタントとして採用され、その開発に職員と共に従事している。現場では、彼
28
コンピュータ・サイエンスの大学院課程において、留学生は全学生の 70%を占める。
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らが国際教育部の職員と大学全体のコンピュータ・センターとの職員の間に入り、国際
教育部サイドから出た IT 活用のアイデアを、大学全体の IT システム担当者と技術的な
整合性やセキュリティに関する対策を図りながら、ひとつひとつ形にして行く。サイト
のメンテナンス、情報の更新等もアシスタントが日々こなしている。IT を学ぶ留学生に
とっても、経済的な支援が得られるだけでなく、やりがいのある仕事であり、履歴書に
も経歴(実績)として書けることが大きなインセンティブになっている。
6.
International Admission Ambassadors(IAA)
SUNY‐Buffalo の留学生募集課および留学生入学課では、入学審査に合格し、合格
通知を送付した合格者のプールから実際に入学する者の比率を高めるために、合格者と
その家族へのより積極的なアプローチを行っている。これを International Admissions
Ambassadors (IAA)と呼んでいる。そこでは、大学院留学生のアシスタントだけでなく、
学部留学生のアルバイトも活用されている(時給:10 ドル)。IAA に採用された留学生
は国ごとに編成されており、大学院生や学部の 4 年生がリーダーとなっている。
まず、リーダーが中心となり留学生入学課から合格者の両親宛の手紙を母国語に翻訳
し、それを合格通知書に同封する活動から始まる。そこでは大学の実績や功績だけでな
く、Buffalo という町の安全性や住みよさをアピールし、合格者のみならず、その家族
共々、大学のコミュニティに迎える雰囲気を醸し出している。しかし、その手紙の基調、
情報量は言語にかかわらず、英文の原版とほぼ同じであるが、表現方法は各言語によっ
て微妙に異なっている。それは、国によって、大学に対する文化的、社会的な背景が異
なり、言いまわしを変えたり、間接的な表現にしたりする必要があるからである。例え
ば、米国独特の大胆な宣伝文句の羅列や州立大学であるがゆえの授業料の割安感を強調
することは、東アジア諸国では、貧相な大学との印象を与え、逆効果となりかねない。
むしろ、控えめなトーンの文章の方が、大学の格と重みを伝えることになる。さらに、
マレーシアのような多民族国家の場合、合格者に対しては、民族の違いによって、同封
する手紙の言語が異なるため、必ず送付前に同国出身者の留学生が確認しなければなら
ない。
次に、合格通知書が届いたころを見計らって、IAA が出身国の合格者に“フォローア
ップ”の電話をする。この電話には、「合格した大学の中から、ぜひ SUNY-Buffalo を
選んでほしい」というメッセージを合格者に対し、キャンパスからリアルタイムで送る
という意図がある。情報過多の IT 時代であるからこそ、実際に留学している同国の学
生からの生の情報、経験談の説得力は大きい。合格者にとって、大学のウェッブ・サイ
トから得た情報と合格通知書だけでは、いまひとつ実感のわかない SUNY-Buffalo への
留学がより現実的なものになってくる。言いかえると、合格者に対して SUNY-Buffalo
への留学という、より具体的かつパーソナルな道筋をつけるためには、この時点から
SUNY-Buffalo における出身国別の留学生コミュニティに取りこむことが最も効果的と
言える。それは、実際に渡米し SUNY-Buffalo での留学生活が始まったとき、最初に頼
りになるのは同じ国の出身者で構成される留学生コミュニティだからである。合格者が
自分と同じ国の出身である先輩留学生から歓迎のメッセージを電話で受け取り、その後
E メールで口コミ的情報を母国語で提供していくという「留学前サポート・システム」
は、合格者の留学に伴う不安感を和らげるだけでなく、留学前から友達を得た感覚、大
166
- 165 -
学に対する親近感、信頼感を与える。加えて SUNY-Buffalo への留学に備えての具体的
な心構え、実用的な準備をも促すことになる。
留学生ボランティアからの電話の効用で、もう一つ見逃せないことは、合格者の両親
と話す機会があるということである。ただし、学士課程の若い学生は、合格者の家族(特
に両親)が電話を取ったとき、SUNY-Buffalo の看板を背負って話しをするという状況
でのマナーを身につけているものは少ない。礼節を重んじるアジアでは、せっかくの国
際電話が礼儀を逸した言葉遣いのため、むしろ顰蹙を買ってしまうおそれがある。そこ
で、実際に電話をする前に、留学生アシスタントや IAA のリーダーがマニュアルを作り、
それに基づき電話のかけ方のトレーニングをする。IAA の留学生が母国の礼儀を踏まえ、
適切な受け答えをすることにより、合格者の両親に子女の留学先としての好印象を与え
ることとなる。その好印象は、親が SUNY-Buffalo を子女に勧める契機となり、実際に
それが決め手となって、合格者が SUNY-Buffalo への入学を決意することは少なくない
と留学生入学課では考えている。実際、IAA のサポートが SUNY-Buffalo への留学(入
学)の決断の大きな要因であったというものも多く、彼らが入学後に IAA に応募してく
るケースが増えているという。留学生募集課と留学生入学課は、この循環がさらに留学
生の志願者呼び込むことになるとしている。
IAA は自国からの合格者を主としてサポートするが、それ以外の合格者へもオンライ
ン・コミュニティを通じてサポートする。合格者は合格通知書と共に UBelong Club と
呼ばれる合格者を対象としたオンライン・コミュニティへの招待状を受け取る。そこへ
ログインすれば、IAA 全体とコミュニケーションが取れることになる。言い換えると、
IAA は UBelong Club(http://ubelongclub.wordpress.com/welcome/)のサイトを通し
て、国に関係なく留学生の合格者をサポートするシステムが構築されている。
167
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図 1 UBelong Club のウェブサイト
さ
ら
に
UBelong
Club
の
サ
イ
ト
に
は
UB
Ambassablog
(http://www.ubambassablog.blogspot.com/)と呼ばれる IAA によるブログサイトもリ
ンクされており、そこでは IAA のひとりひとりが SUNY-Buffalo における学生生活での
思いや出来事を語っており、合格者にとっては、IAA をより身近に感じたり、留学生の
生活や勉学の状況などについて、深く知ることができるように工夫されている。
168
- 167 -
図 2 UB Ambassablog のウェブサイト
そして、合格者はデポジット(入学手付金)を支払い、入学予定者になると UBelong
の VIP Circle (http://ubelongclub.wordpress.com/vip-circle/)へ招待されることになる。
ここは、デポジットを支払った入学予定者だけに配付されるパスワードを入力しなけれ
ばアクセスできないようになっており、入学予定者に絞ったより実用的かつ留学・渡航
準備に必要な情報が提供されている。
169
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図 3 UBlong Club VIP Circle のウェブサイト
この種のプログラムを実施するにあたっての基本的な事項として、認識しておかなけ
ればならないことは、大学が留学生に高い満足度を与えているかどうかということであ
る。在学している留学生から合格者に対して、大学がある程度コントロールしながらと
はいえ、生の情報を流すということは、彼らの満足度が低ければ、悪評を世界中にばら
まくことになってしまう。多忙な留学生がわざわざ時間を割いて、母国の留学を目指す
人たちに自分の大学を薦めてくれるか、彼らの質問に丁寧に答えてくれるか、継続して
E メールを交換してくれるか、これらの事項は、在学中の留学生の大学に対する満足度
を示す一つの指標になると言える。そもそも IAA を募集する時点でどれだけの留学生が
応募してくれるかということが、在学中の留学生がどれだけ母国から後に続く留学希望
者に SUNY-Buffalo を勧めたいと思っているかを知るための重要な手がかりになるとい
える。
7.
国際関係業務(留学生募集・入学業務)における留学生の活用
IT 分野を含め、留学生のアシスタントやアルバイトを留学生募集課や留学生入学課で
雇用するときに忘れてはならないのが、守秘義務等就業に関わる倫理事項をきちんと遵
守させる仕組みである。雇用契約時にその旨サインさせることは当然のこととして、そ
れ以上に大事なことは、逆説的な言い方かもしれないが、アシスタントやアルバイトに
対して単純作業を主とした業務の補佐的な扱い(補助業務の切り売り)に終わらせず、
能力があれば積極的に重要な仕事を任せることにあるという。そして、アシスタントに
170
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は、任せた仕事に伴う責任を自覚させると共に、うまく成し遂げられた際には達成感を
与えるという雇用者(大学)側の姿勢が不可欠であるとのこと。会議においては、留学
生アシスタントも出席させ、正職員と区別なく意見をいう機会を与え、良いアイデアが
出されれば、積極的に採用するという姿勢が大事であるという。自分の仕事が大学作り
に貢献している実感は、留学生という立場からすると何事にも換えがたい充実感が得ら
れるであろう。同時に米国の大学の度量の大きさを再認識することとなるに違いない。
果たして、今日の日本でどれだけの大学が留学生を信頼し、真剣に日々の大学作りに
参画させているだろうか。
「学生中心(Student-Centered)の大学作り」とは、学生にアン
ケートを取って、その要望を取り入れるというような手法だけではなく、本来こういう
ところから始められるべきではないだろうか。さらに、もう一歩進んで、「学生参加型
の大学作り」を考えると、留学生と教職員が協働して留学生のリクルーティングに携わ
ることは、国際的通用性の向上やグローバルな視点からの大学改革につながる。大学院
生が多い研究型大学であれば、大学院レベルの留学生の語学力を含めた技能や経験と知
識は、大学の教育研究活動だけでなく、管理運営面でも積極的に活用されるべきである。
その際、留学生のリクルーティングとアドミッションをはじめとする国際関係部門は、
留学生活用の効果が最も大きいところである。留学生 30 万人計画の達成に向けて、留
学生は顧客あるいは人材として迎えられるだけでなく、その募集・入学の最前線で教職
員とともに汗をかく存在となるべきであろう。
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