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環境性で見直される長距離バス ~ハノーファー
環境性で見直される長距離バス ~ドイツ・ハノーファー~ 日本へ帰るとよく長距離夜行バスを利用する が、こちらヨーロッパには都市と都市を結ぶ定 期運行の長距離夜行バスは普及していない。そ の代わり観光とセットになった夜行便は多く、 私が住む街からだとパリまで8時間、プラハ8 時間、ヴェネチア12.5時間。狭い4列シートの ため乗り心地はお世辞にも快適とはいえない が、料金は飛行機に比べ5分の1以下で済んで しまう。自分の住む街から観光目的地までダイ レクトに運んでくれるのも、気軽な短期旅行に はうってつけだ。 国境を接する大陸ならではのビッグスケール な長距離路線もある。知人はこの夏、実家のあ るロシアの片田舎まで24時間のバスの旅を経験 した。ただし行程は極めて過酷。未舗装の道路 が多く、オンボロバスが途中で故障するトラブ ルもあり、二度と使いたくないとのこと。 先日、ハノーファーで開催された欧州最大級 の IAA 商用車ショーにも多数の大型バスが展 示されていた。写真はバス・トラック製造大手 MAN 社の最新モデル。今の時代、乗用車だけ でなくバスにもエコが求められるのは当然だ が、車輌性能とは別に長距離バスの交通形態そ のものが環境性の視点から見直されているとい う。長距離バスと環境について MAN 社のマー ケティング課長ヘインツ・キース氏に話を伺っ た。 「このモデルでは経済性と環境性を追求して います。座席数を増やすためダブルデッカーと し、最大定員は83名です。車体の空気抵抗は乗 用車とさして違いませんし、燃費向上のため走 行時にサスペンションを制御します。環境にや さしいエンジンはもちろん、空気取り入れ口を 改良し空調も省エネです」 。 ワールドプレミアのため車内の写真撮影は制 限されている。 「撮影はかまいませんが、細部は写さないで くださいね! 側面の窓が屋根まで続いている のでパノラマが楽しめますし、室内をより広く 感じることができます。トイレと簡単なキッチ ンが付いており長距離を快適に過ごしていただ けます」 。 ライバルは飛行機。もちろん海を越えて走る わけにはいかないが1,500km までなら十分競合 できる。室内の快適性も、多分に飛行機のクオ リティーを意識している。 メッセ会場で配られている広報冊子には長距 離バスの将来性を探るシンポジウムの記事が載 り、経済性と環境性から長距離バス路線を増や そうというドイツ政府の政策が紹介されてい た。ベルリン ‐ ハンブルク間(300km)の新 設定期便は人気があり、すでに40万人の旅客実 績がある。 「旅行は飛行機や列車だけでは完結しませ ん。空港、駅から目的地まで何らかの交通手段 が必要です。特に目的の決まっている団体旅行 ならば居住地から目的地まで無駄なく移動でき るバスの経済性と環境性は大きいはずです」。 日本では馴染みないが、MAN 社の他、メル セデス・ベンツ社もバスを手掛け、ドイツは ヨーロッパ有数のバス生産国だ。世界経済危機 でバス業界も苦しい状況にあると想像するが、 キース氏によれば極端な影響はなかったよう だ。不景気になると海外旅行から国内旅行に人 が流れるうえ、乗用車ほどは買い替えに景気の 影響を受けないのが理由である。 これまでヨーロッパ内の長距離移動は飛行機 と列車に限られていたが、今後はリーズナブル な長距離バスの利用が増えそうだ。 (在独ジャーナリスト 松田 雅央) MAN 社長距離バスの最新タイプ「Skyliner」 日経研月報 2010.11 1