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プレスリリース(PDF:1.13MB)
など、絵画作品を中心に画 家たちが見つめた「こども」 たちから「かわいい」を感 じてみましょう。 一方で、 「こども」にも当 てはまる「小さい」という 要 素 は、 「箱 庭」や「弁 当」 のように「大きなものを小 さくする」日本文化に欠か 4 すことができません。当館 小林徳三郎 ≪こども≫ 制作年不詳 のコレクションから―芥川 永《雲になった蛙》とその エチュード(=制作過程に おける下絵、習作。 )による 大きいものと小さいものの 対 比 に よ る「ミ ニ チ ュ ア」 のかわいい、カンディンス キー《小さな世界》から作 家固有の点・線・面そして これまで日本特有の美学は、 お茶文化の大成によって生まれた「わび」 色彩がぎゅっと詰め込まれ や町民文化とともに流行した「いき」など、その時代の芸術文化とと た「凝縮」の表現によるか もに日本語のまま世界に広がってきました。そして、日本のポップカ わいい、手のひらにおさま ルチャーとともに今まさに世界に流行している美学こそ「かわいい」 りそうな河井低次郎の工芸 です。とはいえ、 「かわいい」は古くからある日本人の感覚―その最古 の例は、 『枕草子』に登場する「うつくしきもの」といわれています。 そこに記されているのは、こどもや動物そして、ありとあらゆる小さ ワシリー・カンディンスキー ≪小さな世界≫ 1922 年 作品から「サイズ」としてのかわいい―と、 性質の異なる 3 つの「小さい」 を探ると「かわいい」の本質が見えてくるのではないでしょうか。 形、大きさと続いて「かわいい」と感じるための重要な要素といえ ば色彩です。菅井汲《PARKING( パーキング )》は、明確な色彩と造形 1 いもの。 本展では、特別展「ジャパン・ビューティー −描かれた日本美人−」 の開催を記念して、 「美しさ」から少し視点をうつし、古くて新しい日 本人特有の感覚「かわいい」をコンセプトに「ちいさい」や「こども」 が何かの記号のように鑑賞者にインパクトを与える作品。児玉希望《春 のバンガロー》は、明るい色彩が春の訪れを爽やかに感じさせてくれ ます。私たちの感覚と密接に関係している色彩に焦点を当てながら「か わいい」を探ります。 など 7 つのテーマによって当館のコレクションを展覧します。 まず、展覧会は「まあるい」をテーマにはじまります。例えば、こ 続くテーマは「いきもの」 。 どもや動物の身体的特徴が人に安心感を与えるように、逆をいえば角 どこまでも主観的な「かわい 2 のあるモノは人に心理的な脅威を与えます。では、具体的な何かでは い」という感覚の中で、 「こ なく、丸みという要素だけなら、どのように感じるでしょうか。ジャ ども」というモチーフ同様、 ン ( ハンス )・アルプ 《目覚め》 などの抽象彫刻から、 前衛陶芸グループ 「走 動物や小さな生き物たちもま 泥社」に属していた八木一夫の見るためのオブジェといわれる陶芸作 た、普遍的に「かわいい」を 品まで、丸みを帯びた形と「かわいい」の関係を探ります。 感じさせるモチーフです。当 続けて、丸みを帯びた形をより具体的に「こども」という対象から 館を代表するコレクションの みつめてみるとどうでしょう 一つである《伊万里 柿右衛門 か。オーストリアの動物行動 様式 色絵馬》はじめ、自然や 学者コンラート・ローレンツ 生態の描写を得意とする大村 はこれら「こども」の身体的 廣陽《南苑》の可愛らしい子 特徴を「ベビースキーマ」と 猫 た ち、さ ら に は ア リ ス 指摘しています。ここから生 ティード・マイヨールの挿絵本《ウェルギリウスの農耕歌》に登場す まれるのは「未成熟なもの、 る身近な動物たちのほのぼのとした姿まで、そこには「かわいい」が 弱い対象を守ってあげたいと たくさん詰まっています。 いう」気持ちであり、 「こども」 そして、展覧会の最後には、特別展「ジャパン・ビューティー −描 に対して普遍的に感じる「か かれた日本美人−」と関連するテーマとして「女性美」 、 「おしゃれ」 わいい」という感覚の一つの を切り口に作品を展覧します。 「女性美」では、大正から昭和にかけて 3 ジャン ( ハンス )・アルプ ≪目覚め≫ 1938 年(1983 年鋳造 ) 大村廣陽 ≪南苑≫ 1928 年 ( 昭和 3 年 ) 正体といえるでしょう。家族 のモダン・ガールを思わせる児島善三郎《真珠の首飾り》や、質素な という目線で描かれた小林徳 装いでひた向きに働く女性を描いた小林千古《ミルク・メイド》など、 三郎の温かみのある《こども》 女性がもつ多彩な可愛らしさに焦点を当てます。 「おしゃれ」では、中 アジアの工芸作品の中から帽子、外衣、鞄やトルクメン人が使用した トルクメン・ジュエリーなど身に着けるものを中心に日本とはまた違 う生活、文化から生まれた「かわいい」を紹介します。 丸い形、明るい色、小さいなどの視覚的要素、柔らかい、温かいと いう皮膚感覚、さらにこどもや生き物、女性やおしゃれなどの具体的 な対象など様々に感じることのできる「かわいい」 。それは、どこまで も主観的でありながら、一方で確かな共感を生む不思議な感覚。 「これ はかわいい!」 、 「これはかわいくないな…」と、いつもとは少し違う 感覚で作品をお楽しみください。 当館指定管理者学芸員 山本恵子 1 四方田犬彦『 「かわいい」論』筑摩書房、2006 年 (清少納言『枕草子』 (第 146 段)平安時代) 2 入戸野 宏「 かわいい に対する行動科学的アプローチ」 『広島大学大学院総合科学研究科』2009 年 3 入戸野 宏「かわいさと幼さ:ベビースキーマをめぐる批判的考察」 『広島大学大学院総合科学研究科』2013 年 4 李御寧『 「縮み」志向の日本人』學生社、1982 年 児島善三郎 ≪真珠の首飾り≫ 1925 ∼ 1928 年頃 ( 大正 14 ∼昭和 3 年頃 ) エルサリ族 トルクメン人 ≪刺繍鞄≫ 19 世紀中期