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ジャパン・ビューティー展開催記念展示 かわいい・可愛・KAWAII

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ジャパン・ビューティー展開催記念展示 かわいい・可愛・KAWAII
など、絵画作品を中心に画
家たちが見つめた「こども」
たちから「かわいい」を感
じてみましょう。
一方で、
「こども」にも当
てはまる「小さい」という
要 素 は、
「箱 庭」や「弁 当」
のように「大きなものを小
さくする」日本文化に欠か
4
すことができません。当館
小林徳三郎 ≪こども≫
制作年不詳
のコレクションから―芥川
永《雲になった蛙》とその
エチュード(=制作過程に
おける下絵、習作。
)による
大きいものと小さいものの
対 比 に よ る「ミ ニ チ ュ ア」
のかわいい、カンディンス
キー《小さな世界》から作
家固有の点・線・面そして
これまで日本特有の美学は、
お茶文化の大成によって生まれた「わび」
色彩がぎゅっと詰め込まれ
や町民文化とともに流行した「いき」など、その時代の芸術文化とと
た「凝縮」の表現によるか
もに日本語のまま世界に広がってきました。そして、日本のポップカ
わいい、手のひらにおさま
ルチャーとともに今まさに世界に流行している美学こそ「かわいい」
りそうな河井低次郎の工芸
です。とはいえ、
「かわいい」は古くからある日本人の感覚―その最古
の例は、
『枕草子』に登場する「うつくしきもの」といわれています。
そこに記されているのは、こどもや動物そして、ありとあらゆる小さ
作品から「サイズ」としてのかわいい―と、
性質の異なる 3 つの「小さい」
を探ると「かわいい」の本質が見えてくるのではないでしょうか。
形、大きさと続いて「かわいい」と感じるための重要な要素といえ
ば色彩です。菅井汲《PARKING( パーキング )》は、明確な色彩と造形
1
いもの。
本展では、特別展「ジャパン・ビューティー −描かれた日本美人−」
の開催を記念して、
「美しさ」から少し視点をうつし、古くて新しい日
本人特有の感覚「かわいい」をコンセプトに「ちいさい」や「こども」
が何かの記号のように鑑賞者にインパクトを与える作品。児玉希望《春
のバンガロー》は、明るい色彩が春の訪れを爽やかに感じさせてくれ
ます。私たちの感覚と密接に関係している色彩に焦点を当てながら「か
わいい」を探ります。
など 7 つのテーマによって当館のコレクションを展覧します。
まず、展覧会は「まあるい」をテーマにはじまります。例えば、こ
続くテーマは「いきもの」
。
どもや動物の身体的特徴が人に安心感を与えるように、逆をいえば角
どこまでも主観的な「かわい
2
のあるモノは人に心理的な脅威を与えます。では、具体的な何かでは
い」という感覚の中で、
「こ
なく、丸みという要素だけなら、どのように感じるでしょうか。ジャ
ども」というモチーフ同様、
ン ( ハンス )・アルプ
《目覚め》
などの抽象彫刻から、
前衛陶芸グループ
「走
動物や小さな生き物たちもま
泥社」に属していた八木一夫の見るためのオブジェといわれる陶芸作
た、普遍的に「かわいい」を
品まで、丸みを帯びた形と「かわいい」の関係を探ります。
感じさせるモチーフです。当
続けて、丸みを帯びた形をより具体的に「こども」という対象から
館を代表するコレクションの
みつめてみるとどうでしょう
一つである《伊万里 柿右衛門
か。オーストリアの動物行動
様式 色絵馬》はじめ、自然や
学者コンラート・ローレンツ
生態の描写を得意とする大村
はこれら「こども」の身体的
廣陽《南苑》の可愛らしい子
大村廣陽 ≪南苑≫
1928 年 ( 昭和 3 年 )
特徴を「ベビースキーマ」と
猫 た ち、さ ら に は ア リ ス
指摘しています。ここから生
ティード・マイヨールの挿絵本《ウェルギリウスの農耕歌》に登場す
まれるのは「未成熟なもの、
る身近な動物たちのほのぼのとした姿まで、そこには「かわいい」が
弱い対象を守ってあげたいと
たくさん詰まっています。
いう」気持ちであり、
「こども」
そして、展覧会の最後には、特別展「ジャパン・ビューティー −描
に対して普遍的に感じる「か
かれた日本美人−」と関連するテーマとして「女性美」
、
「おしゃれ」
わいい」という感覚の一つの
を切り口に作品を展覧します。
「女性美」では、大正から昭和にかけて
3
八木一夫 《表裏なし》
1978 年 ( 昭和 53 年 )
ワシリー・カンディンスキー
≪小さな世界≫
1922 年
正体といえるでしょう。家族
のモダン・ガールを思わせる児島善三郎《真珠の首飾り》や、質素な
という目線で描かれた小林徳
装いでひた向きに働く女性を描いた小林千古《ミルク・メイド》など、
三郎の温かみのある《こども》
女性がもつ多彩な可愛らしさに焦点を当てます。
「おしゃれ」では、中
アジアの工芸作品の中から帽子、外衣、鞄やトルクメン人が使用した
トルクメン・ジュエリーなど身に着けるものを中心に日本とはまた違
う生活、文化から生まれた「かわいい」を紹介します。
丸い形、明るい色、小さいなどの視覚的要素、柔らかい、温かいと
いう皮膚感覚、さらにこどもや生き物、女性やおしゃれなどの具体的
な対象など様々に感じることのできる「かわいい」
。それは、どこまで
も主観的でありながら、一方で確かな共感を生む不思議な感覚。
「これ
はかわいい!」
、
「これはかわいくないな…」と、いつもとは少し違う
感覚で作品をお楽しみください。
当館指定管理者学芸員
山本恵子
1 四方田犬彦『
「かわいい」論』筑摩書房、2006 年
(清少納言『枕草子』
(第 146 段)平安時代)
2 入戸野 宏「 かわいい に対する行動科学的アプローチ」
『広島大学大学院総合科学研究科』2009 年
3 入戸野 宏「かわいさと幼さ:ベビースキーマをめぐる批判的考察」
『広島大学大学院総合科学研究科』2013 年
4 李御寧『
「縮み」志向の日本人』學生社、1982 年
児島善三郎 ≪真珠の首飾り≫
1925 ∼ 1928 年頃
( 大正 14 ∼昭和 3 年頃 )
エルサリ族 トルクメン人
≪刺繍鞄≫
19 世紀中期
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