...

冒頭を読む

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

冒頭を読む
Correspondence on current thought
︵明治大学教授︶
ヘゲモニーをめぐる二つの主張
Kyo Cho
張
競
一、なぜいまスマート・パワーか
︱︱
二〇〇四年、ジョセフ・ナイの﹃ソフト・パワー
世紀国際政治を制する見えざる力﹄が出版され、ただ
ちに大きな反響を引き起こした。それから七年経過し、
国際社会にはその後一連の出来事が起こった。国際情勢
︱
パワー
第二次湾岸戦争のとき、フランスの反対により、イラ
ク攻撃の国連決議が成立しなかった。国連常任理事国の
なる。アメリカ対タリバンの戦いのなかで、双方の戦闘
体﹂を相手にする場合、命の値段がもっと大きな問題に
が 問 わ れ る こ と に な る。 と く に 著 者 が い う﹁ 非 国 家 主
ソフト・パワーが提唱されたもう一つの理由はおそら
く戦争経済学とでも呼ぶべきものと関係しているのであ
うち、三ヵ国がドイツとともに反対を表明したにもかか
員の死亡者数が、たとえ一対百の割合であっても、一人
いなかった。ポール・ウォルフォウィッツやドナルド・
わらず、アメリカとイギリスは強硬にイラク戦争を発動
の戦死者に支払われるアメリカの社会心理的コストは、
ろう。百万ドルもかかる精密誘導のミサイルを使って、
した。ベトナム化こそしなかったものの、死傷者が続出
一〇ドルの値打ちもないタリバンの施設を破壊する意味
し、国内の反発は予想よりも大きなものになった。圧倒
百人のタリバン兵士よりも遥かに高いものになるであろ
ラムズフェルドの名を挙げるまでもなく、実力行使によ
的な軍事力を持っていても、使い方によってはその影響
う。しかも、タリバンがゲリラ戦を続けていく限り、ア
ってすべての目的を達成できると主張する一派が注目を
力が限定され、必ず目的を達成できるとは限らない、と
メリカによる最終勝利は保証できない。
戦争のコスト・パ
からさまに主張し、実力行使で問題を決着させようとす
が、国際政治になると、大義を掲げるよりも、国益をあ
アメリカは歴史的に実力を信奉する文化を持ってい
る。﹁ 正 義 ﹂ は 対 内 的 に は よ く 用 い ら れ て い る 言 葉 だ
時代背景のもとで、スマート・パワー論が登場した。
敗の判断基準が相対化されたからであろう。そのような
戦争でもアメリカの市民たちが挫折感を覚えたのは、勝
しているかもしれない。
イラク戦争でも、
アフガニスタン
フォーマンスという観点から見れば、勝敗はむしろ逆転
る。ベトナムでの挫折は実力が役に立たなかったからで
の差が大きく開いた場合、勝敗よりもむしろ勝利の原価
いうことが明らかになった。
は果たしてあるのか。戦争する相手とのあいだに、実力
いた。ハード・パワーの限界が見えてきたのだ。
ていた。しかし、イラクに続き、アフガニスタンでも躓
はない。行使する対象、場所と時期が不当だと考えられ
からだ。
ト・パワーはあらゆる問題の解決策になるわけではない
強制と金銭の支払いというハード・パワーと、説得と魅
The Future of Power by Joseph S. Nye, Jr.
の新たな変動を見据え、また、ソフト・パワー論に対す
(山岡 洋一・藤島京子訳、日本経済新聞出版社、2011年)
力というソフト・パワーの組み合わせである。今日のア
ジョセフ・S・ナイ
『スマート・パワー
―21世紀を支配する新しい力』
メリカにとって、スマート・パワーが必要なのは、ソフ
(中華書局 2010)
世紀を支配する新しい力﹄を出版し、スマ
『中國夢』 劉明福
る批判に答えるために、ジョセフ・ナイは﹃スマート・
劉明福
『中国の夢―中米対決の世紀と発言する軍人』
浴び、ワシントンにも多くの賛同者がいた。
世界にはアメリカと互角に戦える相手はもはやどこにも
十一世紀初頭、アメリカの軍事力は頂点に達しており、
そもそもソフト・パワーが提唱されるには理由があっ
た。一つは、ブッシュ政権の単独主義の教訓である。二
スマート・パワーとは何か。著者の言葉を借りると、
ート・パワーという新たなパラダイムを提起した。
21
122
123
世界の思潮
21
Fly UP