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チューンアップを兼ねたオーバーホール

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チューンアップを兼ねたオーバーホール
チューンアップを兼ねたオーバーホール
消耗したり壊れているのではない、
完全に健康なエンジンに対する作業だが、
それでも手間は大変だ
2006年型のスズキGSX-R1000のエンジンをオーバーホールと同時にチューニングアップするという作業を
ケンツの協力で紹介する。見てのとおり、エンジンにトラブルはないため、いわゆる修理作業はほとんど含まれない
とはいっても、分解と組み立てに加え、チューンアップという課題をこなすのは簡単なことではない
Photos:Kenzaburo Kawashima(Kenz)
本誌でもおなじみのケンツは、いわゆるœレース屋
さん∑のイメージが強いが、逆輸入車を含めてのスズ
キ車全般を販売する普通のオートバイショップという
顔も持っている。事実、店に行けばスズキの新車を展
示してあるし、ワークショップには整備待ちや作業中
の車両がたくさんあって、とてもにぎやかだ。
親分の川島賢三郎さんがレース大好き人間で、全日
本ロードレースのチーム運営も手がけ、過去には北川
圭一選手を擁してJSBチャンピオンを獲得した経歴も
あるので、どうしても一般ユーザーに対する仕事は片
手間のように考えられがちだが、ケンツは通常整備の
ほか、エンジンオーバーホールやチューンアップとい
った依頼をごく普通に受け付けているのである。
これらの作業には、レース活動を通じて得られたノ
ウハウが活用されており、川島さん自身もこれをケン
ツというオートバイショップの財産だとしている。
ワークショップでは、いつも何かしらのエンジンが
バラバラになっている。それはTL1000Sやハヤブサ、
カタナ、RF900、最新鋭のGSX-R1000、はたまた2サ
イクルのRGV-„250だったりする。また、スズキ以外
のエンジンも分解されている。そのレパートリーの多
さには驚くが、これはエンジンと遊んでいればいつも
ニコニコという川島さんの人柄ゆえだろう。
このページの写真は、そんなケンツでGSX-R1000K6
のエンジンをオーバーホールするついでにチューンア
ップもしてほしいという依頼(GSX-R1000に限らず、
この手のオーダーがかなり多いと聞く)があった際、
分解から高性能化までの全工程を川島さんがカメラに
収めたものだ。この車両のオーナーは、富士スピード
ウェイでのレースでも使用したいという希望も持って
いるといい、GSX-R系に関しては、レースに使えるエ
ンジンはもちろん、ふだんの公道での使用でも無理な
く乗れるチューンアップのノウハウを持つと自負する
ケンツだけに、腕の見せどころといった感がある。
手順としては、まずエンジンを完全に分解して各パ
ーツを点検。これがが第1段階。消耗部品は基本的に
交換、傷んでいるパーツも当然取り替える。続くチュ
ーンアップについては、独自のバルブタイミングで味
付けしたカムシャフトに交換、ポート研磨、シリンダ
ーヘッドの面研とキットパーツのヘッドガスケットを
使用して圧縮比を高める。さらに、キットパーツのク
ロスミッションの組み込みなどが大まかな内容となる。
この種のエンジンには欠かせない各部のバランス取
りなども行われている。完成後は慣らし走行を実施し、
シャシーダイナモでのパワーチェックをして終了。
なお、掲載した写真は、ケンツのホームページ用に
撮影したものなので、
「ピンボケやブレは勘弁」という
本人の弁をつけ加えておくべきだろう。 (佐伯滋多)
GSX-R1000 K6
GSX-R1000K6。178Æを発揮するスズキ最強のスーパースポーツ。
昨年10月号のスーパースポーツ4車比較でも、評価は高かった。
右は、ご存じケンツ代表の川島賢三郎さん。30年にわたるレース歴
と整備歴を有する。左はケンツのチーフメカニック、藤沢敏穂さん。
過去にスズキワークスに在籍、渡辺篤や亀谷長純のチーフメカを務
め、ケニー・ロバーツのGSV-Rエンジンを担当していたこともある。
● エンジンの状態を把握するための試験や確認を行ってから各部を分解。解説は川島さんにお願いした
™
¡
¡車体から降ろしたGSX-R1000K6の水冷DOHC4バ
ルブ4気筒を、エンジン台に固定。こうして見ると
非常にコンパクトだが、スズキだけでなく、各メー
カーともリッタークラスのパワーユニットの小型化
は日進月歩で、ひと昔の400æと同格といえるくら
いだ。写真のエンジン台は、市販されている4輪車
用をケンツで改造、2輪に使えるようにした特製品。
™ケンツでは、まずそのエンジンの現状を把握する
ために、すべての作業前に必ず各シリンダーのリー
クテストを行うことにしている。写真は、そのため
にシリンダーヘッドカバーを外しているところだ。
£その作業に使うシリンダーリークテスター。シリ
ンダー内にエア圧をかけてリーク(圧縮漏れ)の状
態を調べる機器で、これによってピストンやピスト
ンリング、インテーク/エグゾーストバルブまわり
の摩耗状態などを把握できる。かなり高価な製品だ。
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BIKERS STATION 2007-4
¢リークテスト中。リークテスターにエアコンプレ
ッサーのホースをつないでシリンダー内にエア圧を
かけ、ふたつのゲージで元のエア圧とシリンダー内
のエア圧を比較し、どのくらい機密性が落ちている
「ありゃりゃ、このシリンダー
かを測定するのだ。
はリーク率20%だよ。これはもしかするとピストン
リング交換とバルブシートカットなんかが必要にな
るなぁ…」などと推測するのだ。逆に「ほとんどリ
ークしてないね。じゃあ今回バルブ自体は交換しな
いで、すり合わせ程度に留めておくかな」といった
こともある。もちろんこれらは目安で、実際にエン
ジンをバラしてから最終決定をすることになるが。
∞リークテストでエンジンの現状が認識できたら、
いよいよエンジンの分解作業に入る。まずは、シリ
ンダーヘッドカバーを開けてカムシャフトを外す。
、ピストンヘ
§¶シリンダーヘッドを外すと(§)
£
∞
。ここで改めて、シリンダ
ッドが顔を見せる(¶)
ー内の状態やピストンの焼け具合など、燃焼状態を
確認する。診断の第1ステップがプラグの焼け方の
点検なら、これは第2ステップといったところだ。
•シリンダーヘッドを見ると、このエンジンの燃焼
状態はとても良好であることがわかる。オーナーは
サーキットで使うのが主体というので、結構、回し
て乗っているのだろう。このくらいの状態ならカー
ボンを落とす作業は比較的楽だが、燃焼室にカーボ
ンが1Å以上も蓄積している場合は大変だ。今回の
写真にはないが、エンジンオーバーホール作業とい
œバラしたパーツを洗浄台で洗って洗って、
うのは、
さらに洗いまくって…∑という仕事が、すべての時
間でいちばん長いといってもいいくらいである。
ªインテークポートの拡大写真。鋳型から出したま
まなので少々イビツ。後でリューターを使ってガリ
¢
§
¶
ガリシコシコやって、修正&ポート研磨しましょう。
‚こちらは燃焼室のアップ。4本のバルブのサイズ
がボアに対してほぼ限界なのがわかる。また、圧縮
を高めるための面研の余裕もさほど多くはない。面
研は、やったとしても0.4Åくらいが限度と思う。
⁄バルブリフターを使って、シリンダーヘッドから
16本のバルブとバルブスプリング、バルブシートな
どを外す。この作業自体は、慣れればとても簡単だ。
¤バルブを外すと、バルブフェイスの摩耗やバルブ
シートの当たり幅などが一目瞭然でわかる。このエ
ンジンのそれらは極めて良好だった。チタンバルブ
はとても高価なので、費用面でもありがたいことだ。
‹バルブのステム部やステムエンドを傷つけないよ
、ボール盤にバル
うにして(チューブなどを巻く)
ブをセットしてカーボンを除去する。インテークバ
ルブよりエグゾーストバルブのほうがカーボンが付
•
ª
‚
⁄
¤
‹
›
fi
°
·
fl
‡
@0
@1
@2
@3
@4
@5
@6
@7
着しやすいのは知っていますよね。ここで注意した
いのは、あまりステム部を磨きすぎないことである。
›ひと目でわかると思うが、左が研磨前、右が研磨
後のインテークバルブ。そんなに時間をかけなくて
もこれぐらいになる。耐水ペーパーでなく、どこで
も売っているナイロンタワシにオイルを付けて磨く。
fiさあ、ここからが腕の見せどころ、エアリュータ
ーを使って、シリンダーヘッドのポート研磨だ。と
いっても、バルブは16本、ポートも16あるので、こ
の作業は一日以上の時間を要する。研磨では、まず
リューターに100番前後の布ヤスリ(耐水ペーパー
だとすぐに破けてしまう)を巻いて削り始め、徐々
に番手の大きい布ヤスリに変えながら削っていく。
削り方に関しては、角度や形状やら、それこそいろ
いろなノウハウがある。むやみにポートを大きくし
て、ピカピカにすればいいというものではないのだ。
flポート研磨のビフォアとアフター。写真で左側、
カーボンで真っ黒の3番の排気ポートも、削ってい
くと右側の4番排気ポートのように大変身する。
‡研磨後のインテークポート。吸気側に関しては、
ピカピカの極端な鏡面仕上げにはせず、ほんの少し
ザラつきを残すのがケンツのやり方だ。極端な鏡面
仕上げにするとポート面に表面張力が働き、液体で
あるガソリンがポートの壁に張りつくようになり、
霧化の状態が悪くなるというのが理由だ(あっ、秘
密のノウハウを言っちゃった…)
。つけ加えると、
インテークポートの壁面にゴルフボールのような小
œデンプル研磨∑と呼
さなデコボコをわざとつける、
ばれる極端な加工方法もポート研磨にはあるのだ。
°対してエグゾーストポート。こちらはかなり頑張
って削った。比較的寄って撮影したので、興味があ
る人はよーくながめていろいろと勉強してください。
·吸排気ポートの加工が終わったら、今度はシリン
ダーヘッドのバルブシートカット作業に移る。特殊
工具のバルブシートカッターを使用してシャリシャ
リとシート面を削り、バルブとシートの当たり幅を
正規に合わせる作業である。15度、30度、45度、60
度と角度の異なるカッター(刃)を使い分けて慎重
にシート面をカットし、最終的にシートの当たり幅
を計測してシートカットは終了する。これもバルブ
16本分=16カ所もあるので、相当な時間がかかる。
@0シートカットに続いて、バルブラッパーを使って
バルブの当たり出しを行う。GSX-R1000K6のチタ
ンバルブは、バルブコンパウンドではなくエンジン
オイルをシートに塗って当たり出しを行い、シート
の当たり面はツルツルの状態ではなくソフトな表面
とする。こうするのは、最終的にエンジンを始動し
てからの、より良好なバルブ密着を狙ってのことだ。
写真にはないが、最後に光明丹を塗ってバルブの当
たり幅を確認することをつけ加えておく。ああ、昔
は時間をかけてタコ棒でカンカンやっていたなあ。
@1仕上がったシリンダーヘッドを燃焼室面から見る
の図。ポート研磨では、より理想的なポート形状を
求めてバルブガイドまで削ってしまう手法もあるが、
今回はそこまではやらなかった。以前、カリカリに
仕上げたJSB用レーサーでは、パワーを求めてバル
ブガイドも削ってポート全体を形成していたが、今
回のチューンアップ作業では、ガイド落ちなどの危
険性を負ってまで加工する必要はないと判断した。
@2エンジン台に固定してあるクランクケースの作業
に移る。これから、いわゆるœ腰下∑のバラシをス
タートするわけだ。ただしクランクケースといって
も、GSX-R1000の場合は3分割ケース方式で、シリ
ンダーとアッパークランクケースを一体化している。
@3エンジン自体を180度ひっくり返して、ロアケー
ス側から分解する。これは、台に装着したままエン
ジンを上下逆さまに、自由にクルクル回せるように
エンジン台を改造してあるからこそ可能な作業だ。
@4オイルパンを外してからオイルストレーナーやリ
リーフバルブを取る。オイルパンはガスケットなし。
@5ロアケースにはシフトドラムやシフトフォークが
装着されているが、とりあえずこれごと外してOK。
@6ノックピンを落としたりなくさないように注意し
ながら、ロアクランクケースをパカッと取り外す。
@7そして、オーナーがふだんはめったに見ることの
ないミッションが現れる。今回のチューニングでは、
キットパーツのレース用クロスミッションの組み込
みをオーナーが希望しているので、ミッション2軸
のうち、ドライブ側シャフトをバラバラに分解する
必要がある(キットパーツのクロスミッションは、
ドライブ側シャフトのみSTDを流用するからだ)
。
@8
@8ミッションを外すと、ミドルクランクケースの中
にクランクシャフトが顔を出しているのがわかる。
■これ以降は、次ページの写真について書きます。
¡この段階になったら、残ったクランクケース部を
エンジン台から降ろして作業机に移動。写真は、ミ
ドルケースをアッパーケースから分離したところ。
™クランクシャフトが露出。アッパークランクケー
スがシリンダーを兼ねている3分割クランクケース
は、まずクランクシャフトからコンロッドを分離さ
せる作業が必要となる。12ポイントのソケットレン
チでしか緩まない、特殊な形状をしたコンロッドキ
ャップボルトを緩め、プラハンでそのボルトの頭を
コンと軽く叩くと、キャップとコンロッドメタルが
クランクシャフトから外れる。この要領で4本のコ
ンロッドをクランクシャフトから取り外していく。
BIKERS STATION 2007-4
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● クランクやピストンを外して点検。最適なメタルを選ぶ計測を実施。分解と逆の手順で組み立てる
¡
™
£
¢
∞
§
¶
•
ª
‚
⁄
¤
‹
›
fi
fl
‡
°
·
@0
めたギア本体はもちろん、シャフトのスプライン部
までバリを取る。シフトドラムなども新品を使う場
合は、ドラムのガイド(溝)を軽くバリ取する。シ
フトフォークがガイド間を滑らかに動けば、ミッシ
ョンの入りもよくなる。決してこだわりではない。
¤一方、これは地味なこだわりかもしれない。ピス
トンに付けるサークリップの端にある角を軽く落と
して、ピストンピンのホールに傷がつかないように
している。某人曰く、バラしたエンジンを見れば、
そのエンジンを組み上げた人がわかる、とのことだ。
@1
@3
‹話が少し横道にそれたが、各部に使用するメタル
のサイズも決まり、いよいよエンジンの組み立てに
ビスマニュアルの換算表を見て適正なメタルベアリ
£コンロッド上部とピストンをアッパークランクケ
入る。バラした逆の順序でまずはケース腰下から。
ングを選択するとあるが、経験上、それなりの中古
ース内に残し、クランクシャフトを取り外す。外し
›初めにピストンにピストンリングをセットし、さ
エンジンではそのデータどおりとはいかない場合が
たクランクは、Vブロックを使って振れの点検を行
らにそのピストンにコンロッドの上部だけを装着。
多いようだ。そのため、このプラスチゲージを使用
う。おっと、GSX-R1000はバランサーがあるので、
次に、ピストンリングコンプレッサーを使用してシ
@2
してメタル合わせをしたほうがよい(チューンアッ
これのメタルベアリングも交換しなくてはならない。
リンダー(何度も書くが、兼アッパークランクケー
プする場合は当然である!)
。使用方法は、クラン
¢お次は、コンロッドを下から押して、シリンダー
ス)にピストンの下側、つまりコンロッド側から入
ど、たくさんありますのでお問い合わせください。
クシャフトの軸方向にプラスチゲージを置き、クラ
(アッパークランクケース)からピストンをコンロッ
れ、ピストンの頭部をプラハンの柄でコンコンと軽
なお、バリ取りしていないメーカー出荷時のクラン
ンクケースを規定トルクで組み上げ、再び分解して
ドごと取る。これでやっとピストンが外れるのだ。
く叩きながら、ピストンリングがシリンダーを噛ま
クケースは、注意していても作業中に手をスパッと
押しつぶされたプラスチゲージのいちばん広い幅を
∞出てきたピストン。走行距離が少ないから、程度
ないよう慎重に挿入する。もちろん、ピストンリン
切っている場合が多い。鋭く切れるからめちゃ痛い。 専用ゲージで計測。そのデータから適切なメタルベ
は極上である。重量バランスなどを取り直して使用
グとシリンダー内面には薄くオイルを塗っています。
¶プラスチゲージを使い各部のメタル合わせを行う。 アリングを選択するというものである。もちろん、
するので、各ピストンにナンバーを書いておく。こ
fiキレイに4つのピストンがシリンダーに収まった。
コンロッド大端部のメタルも同じ手法で計測する。
ういう場合でもピストンリングは交換しておきたい。 •これがプラスチゲージ。この中には、非常に細い
flクランクケースをひっくり返し、クランクシャフ
ロウの棒が入っている。実物を見たことあるかな?
‚規定トルクで組み上げ、分解後、つぶれたプラス
§これは、クランクケースのバリ取り作業をしてい
トをコンロッドにセットし、さらにコンロッド大端
ªサービスマニュアルには、クランクケースやコン
チゲージを付属の専用ゲージで計測しているところ。 にキャップを被せ、規定トルクでコンロッドボルト
るところ。フルスペックのバリ取りメニューは、メ
ロッド大端部に刻印されている数字を照合し、サー
⁄クロスミッションの組み立て作業。ドッグ部を含
タルの合わせ付近やケース内のオイルライン周辺な
を締めつける。参考までに、GSX-R1000K6のコンロ
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BIKERS STATION 2007-4
● シリンダーヘッドより上の部分の組み上げでは、
これまでの経験がものをいう。そしていよいよ完成
@4
@8
@5
@6
@7
#0
#1
@9
ュの測定は、このようにとても手間がかかる作業な
調子のよいエンジンだったから、コンロッドやクラ
のである。なおこれまでの経験からして、このスキ
ンクシャフト、ピストン、バルブなどは交換してい
ッシュはどんなに頑張っても0.6Åくらいが限度だ。 ない。チューンアップといっても、費用だって、と
@9つぶれたハンダを測定。ノギスの液晶画面が示し
ても重要なポイントですからね。 (川島賢三郎)
ているように0.65Åである。おー、狙いどおりだ!
#0使うガスケットも決まり、やっとシリンダーヘッ
ドが載った。タペットクリアランスなどを測定、レ
ーシングカムシャフトのバルブタイミングを調整す
る。タイミング自体もこれまでのレース経験などか
らいろいろ考慮し、ケンツなりの味付けをしている。
#1その考えたタイミングが大丈夫であるかを検証す
るため、バルブタイミングを合わせながら、通称フ
ラミンゴと呼ばれる特殊工具でピストンとバルブの
クリアランスを測定しているところ。STDエンジン
のピストンとバルブの間隔は通常1.5Åくらいある
#2
が、レーシングエンジンは別だ。レース用エンジン
を造るうえで、どうしても理想的なバルタイを追い
ッドボルトは、仮締めトルクが37Nm、本締めはそ
で圧縮を上げる予定なので、この作業は絶対必要だ。 かけていると、いつもこのピストンバルブクリアラ
れに角度締め(60度)を加える。取り付け後、コン
@8まずは、全部のピストンの写真の位置に、動かな
ンスとの軋轢が生じる。これをイヤというほど経験
ロッドがスムーズに回転するかを忘れずに確認する。 いようにグリースを付けたφ1Åのハンダを置き、
したから、この数値は企業秘密とさせてもらおう…。
さらに数種類の厚さが用意されているシリンダーヘ
‡これはミドルクランクケース。メタルをセットし
#2そうこうして組み上がったGSX-R1000K6のエン
ッドガスケットを選択してセット。そして、シリン
てから、モリブデングリースをメタルに薄く塗る。
ジン。すべての計測、調整が終わり、ハイッ完成!!
ダーヘッドを取り付け、規定トルクで締めてクラン
°液体ガスケットをケース合わせ面に薄く均一に塗
さてさて、どのくらいパワーアップしたか、慣らし
キングする。再びシリンダーヘッドを取り外し、つ
り、いよいよケース合わせ作業である。液体ガスケ
運転が終わってからの計測がとても楽しみだなあ。
ぶれたハンダの厚さをすべて測定し、そのヘッドガ
ットは2∼3分で乾いてしまうので、迅速かつ正確
#3今回の作業で交換して使わなくなった古いパーツ
#3
スケットが適正であるか否かを検討する。スキッシ
な作業が求められる。Oリングやノックピンなどを
群。そもそも、ベースエンジンは走行距離が少ない
忘れないよう、確認作業も同時に行う必要がある。
·アッパーとミドルケースを合体させたら、この段
後輪で190psに迫る強大なパワーを獲得。ピークに至るまでのカーブの滑らかさにも注目してほしい
階で再びエンジン台に固定する。組み立ては分解の
逆だから、最初は上下を逆さまにしてセットする。
@0組み立てておいたクロスミッションをミドルケー
スに置く。ミッションにもオイルを薄く塗っておく。
後輪実測
@1シフトフォーク、シフトドラムなどをロアケース
185.9ps / 121000rpm
に組み込んで、液体パッキンを塗った後、3つのシ
11.9kgm / 9900rpm
フトフォークがうまくミッションに噛み合うように
しながらミドルケースに取り付ける。ここでミッシ
ョンがスムーズに回転するかどうかを、ドライブシ
ャフトを手でクルクル回して確認する。回転が重か
ったりしたらダメ。やり直しだ。シフトドラムも手
で回して、カチャカチャシフトしてみるといい。
@2ロアケースにリリーフバルブとオイルストレーナ
ーを装着。ドライスタートにならないように注意。
@3最後にオイルパンを装着して、裏返しでの作業は
これで終了となる。クルッと正方向に回転させる。
@4正立させたエンジンのクランクシャフト右サイド
に、バルブタイミング測定用の円盤をセットする。
@5エンジン左サイドには、すでにジェネレーターや
ウォーターポンプなどの補器類を取り付けてある。
@6カムチェーンを手で持ってクランクシャフトを回
上は、今回のエンジンをテストした結果。緑がSTDのGSX-R1000K6、チューニングエンジンが
青だ。見てのとおり後輪出力で185Æ以上を記録しており、そのロス馬力を換算した修整値はなん
転させ、いわゆるトップ出しを行う。この作業は正
確に。もしゴッツンしちゃったら、大変ですから。
と193.9Æ。おまけに、出力だけでなくトルクも大幅に増大、しかも決してピーキーではない特
@7ヘッドとピストンのスキッシュハイトを測定して
性にも注目してほしい。だが、造り手としてはやみくもに出力向上だけを狙ったのではなく、耐
いるところ。今回はシリンダーヘッドを面研してお
久性を最も念頭に置いたチューンアップとしたこともつけ加えておく。右はケンツでオーバーホ
り、さらに、レースキットの薄いヘッドガスケット
ールやチューニングを行ったユーザーに渡すデータシート。一目瞭然で自分のエンジンがわかる。
■協力:ケンツ Tel.03-3333-5133
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