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月刊JASTPRO PDF 2012年2月号

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月刊JASTPRO PDF 2012年2月号
401
2012- 02
今月号の内容
記事1.第18回国連CEFACT総会報告 ………………………………………………………… 1
記事2.◇連載◇ 貿易慣習の諸問題
(11) ………………………………………………… 17
早稲田大学名誉教授 朝岡 良平
記事3.国連CEFACTからのお知らせ ………………………………………………………… 28
記事4.第19回国連CEFACTフォーラムのお知らせ ………………………………………… 29
=JASTPRO広報誌電子版のご案内=
裏表紙にJASTPRO広報誌電子版のご案内を掲載しておりますので、ご参照下さい。
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記事1. 第 18 回国連 CEFACT 総会報告
2012 年 2月15日より17日までジュネーブの国連欧州本部にて開催されました掲題会議に日本代表団と
して出席致しましたので、その概要を下記の通りご報告致します。
財団法人日本貿易関係手続簡易化協会
業務第三部長 平井 一海
本報告は2012 年 2月号と3月に分けて掲載致します。
第1回 (本稿)
1.国連 CEFACT 総会について
2.第 18 回国連 CEFACT 総会の特記事項
3.議事概要
3.1 第 1日目(2月15日午前の議事)
3.2 第 1日目(2月15日午後の議事)
第 2 回 (次号 2012 年 3月号に掲載予定)
3.議事概要(続き)
3.3 第 2日目(2月16日午前の議事)
3.4 第 2日目(2月16日午後の議事)
3.5 第 3日目(2月17日午前の議事)
3.6 第 3日目(2月17日午後の議事)
1 国連 CEFACT 総会について
国連経済社会理事会欧州経済委員会(以下、
「ECE」と略す)の下部機関である国連 CEFACT
(United Nations Center for Trade Facilitation and Electronic Business: 貿易円滑化と電子ビ
ジネスの為の国連センター、以下「国連 CEFACT」と略す)は、発展途上国を含む諸国の、官民の
貿易関係組織・機関の生産性向上による財貨・サービスの効率的通商の振興をその使命とし、具
体的には、国内および国際通商の為の諸手続き、および情報交換の円滑化と電子化を図る為の諸々
の活動を行ってきており、ECE 規約第11条(E/ECE/778/Rev.3)に定める加盟国(日本など、欧州
域外国を含む)
と第12条に定める国際機関(ISOなど)の参加を求めて活動を展開しております。本
総会はその改正規約第 8 条により毎年1回開催される国連 CEFACTの最高議決機関であり、次期
総会までの重要活動方針、国連勧告等を審議・議決致します。
以下は、国連 CEFACT 事務局が国連 CEFACTの総会間承認手続を経てECEの正式承認の
下で公開する公式議事録に先立ち、その概要をご報告するものです。
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1.1 出席者
1.1.1 参加国
(ABC 順)
オーストラリア
(2)
、ベラルーシ
(1)
、フィンランド
(3)
、フランス
(3)
、ドイツ
(1)
、アイルランド
(1)
、
イタリア
(3)
、インド
(1)
、日本
(4)
、オランダ
(3)
、ノルウェイ
(2)
、ロシア
(4)
、セネガル
(1)
、スエー
デン
(1)
、タイ
(1)
、トルコ
(2)英国(5)
、米国(4)
計 18カ国 42 名 1
1.1.2 国際機関等
欧州委員会(1)
世界税関機構(1)
ECE 事務局(5)
計 3 機関 7 名
1.1.3 NGO 他
ISO(国際標準化機構)
(1)
GS1(3:内 2 名はGS1 China)
2 組織 計 3 名
合計 18カ国、3 機関、2 組織 47 名(上記 ECE 事務局を除く)
1.1.4 日本代表団
団長 荒木 正和
国土交通省総合政策局情報政策課専門官
団員 椿 弘次
早稲田大学商学部教授
山内大二郎
財団法人日本貿易関係手続簡易化協会常務理事
平井 一海
財団法人日本貿易関係手続簡易化協会業務第三部長
2 第 18 回国連 CEFACT 総会の特記事項
2.1 各国代表団出席者数の減少傾向
下記のグラフが示す通り、国連 CEFACTは、2005 年をピークに出席者数が減少傾向にある。
2011 年 7月の第 17 回総会での組織改革後、初の総会でこの右肩下がりの傾向値については判
断が分かれる。
本総会で改正された規約で導入された定足数規定が実際に適用されるのは第 19 回総会からと
なるが、仮に、定足数規定を本総会に適用したとすると、投票権を有する国連 CEFACT 加盟メ
ンバー国は37 ヶ国 2 であるので、定足数は19 名となり、今回の総会出席代表団長 18 名は定足数
1 国連加盟国数は2011 年 7月14日現在 193 ヶ国。ECE 加盟国数は45 ヶ国
2 国際機関および経済社会理事会認定 NGOは総会に出席し意見表明はできるが、投票権は無い。
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を満たしておらず、投票による決議は出来ず、全会一致のみが可能となる3。下記の趨勢が挽回さ
れないと、国連 CEFACTの総会運営は極めて難しくなろう。
図 2-1
2.2 深刻化する参加専門家の不足
平成 24 年 2月2日開催された、国連 CEFACT日本委員会第 2 回運営委員会での審議に基づ
き、日本代表団は、国連 CEFACTに参加する専門家の減少による人的資源の不足は、国連
CEFACTの持続可能性に関わる重要な問題であり、最優先で取り組むべき課題である旨、意見
表明を行った。総会冒頭の事務局長挨拶中の指摘に始まり、ビューロの活動報告や各国代表団
の意見表明においても、人的資源問題は重要課題として関係者の間で共通認識されていることが
確認されたが、各国代表団長により多くの専門家の派遣をアピールする以外には、有効な対策が
打ち出されることは無く、問題の先送りに終わった。
(議題1,議題3の②および⑤、議題9をご参照
下さい)
2.3 組織改革の総仕上げ
本総会で、一部積み残しとなっていた規約等は全て改訂、承認された。また、新組織の下で
の活動計画(2012-2013)
も承認され、組織改革自体は完了し、後は、改革が掲げた新組織のメリッ
トがその通りに発揮され、世界の利害関係者が期待する成果物をよりタイムリーに提供出来るかが、
その評価を決定付け、国連 CEFACTの今後の行方を左右することになる。
(議題6をご参照下さ
い)
2.4 外部組織との協調戦略
本総会で採択された活動方針では、初めて、主要活動領域3に他の標準開発組織や機関との
連携が明記され、
「活動の重複を回避し、国際的に整合性のある枠組みを共に構築するために、
3 国連の会議では委任状は認められていないが、代表団長の代理の派遣は可能。
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貿易円滑化活動に携わる他の主要な当事者や標準開発組織と共に活動する」という方針が示され
た。この戦略は、参加専門家の不足を補って活動を活性化させる可能性を持つものの、やり方次
第では国連 CEFACTの標準開発を担ってきた専門家の意欲を阻喪し、逆効果となる恐れがあり、
今後国連 CEFACT 内部で展開される議論には、わが国もAFACTメンバーと連携し、積極的に
関与して行く必要があると考えられる。
(議題7をご参照下さい)
2.5 サプライチェーン領域の新たな活動
(その1)
議題3の企画開発領域の活動報告において、業際取引用電子インボイスの改訂を貿易金融に
適合させる企画が、ISO20022との整合化を対象に含めて進める方向で進んでいる事が報告され
た。この企画は昨年秋の第 18 回フォーラムでは出ていなかったテーマにて、2012 年になってから
(議
の新企画と推察する4。商流と金流のマッチングは、重要な課題であり情報収集に努めたい。
題3の③をご参照下さい)
2.6 サプライチェーン領域の新たな活動
(その2)
議題8の貿易円滑化と電子ビジネスに関する課題についてのパネルディスカッションにおいて、欧
州委員会の高官、および国連 CEFACTの重要な支持組織であるGS1より、同組織の標準化戦
略が、EDIメッセージの開発から、プロセスの標準開発にシフトしつつある事が報告された。この動
きについても、今後その動向に注目致したい。
(議題8の②のパネラー6および③のパネラー9をご参
照下さい)
2.7 食の安心・安全に向けてのフランスの電子化への取り組み
同じく議題8では、フランス農務省が 2008 年から進めているECOPHYTO2018プロジェクトが紹
介された。食の安心・安全を確保することは世界的な政策課題となっており、世界の先頭を切って、
電子化の標準に取り組むフランス政府の標準化戦略は、着目に値する。
(議題8の②のパネラー4を
ご参照下さい)
2.8 ロシアの台頭
第 16 回総会直後の勧告 37 号の総会間承認手続きおよび第 17 回総会の同勧告の審議で、強
硬な反対を唱えたロシアは、ビューロの配慮で議題8のパネルCにおいてパネラーとしてロシアおよ
び CIS 加盟国が進めている電子文書認証基盤の現状をプレゼンした。
電子署名を支える暗号化技術は、ワッセナーアレンジメントや米国政府などの輸出統制対象に指
定されており、ロシアおよび CIS 加盟国はそれらの政治的障壁を克服すべく独自の技術基盤の開発
を進めている。
4 新規プロジェクトとして立ち上げるには、公開開発手順に定める3 ヶ国ルールをクリアする必要があるが、総会の時点では
この手続きは執られていない。
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パネルCでのプレゼンは、ロシアが情報通信技術の革新を急速に進めつつあることを如実に物語
るものである。ロシアは、電子文書認証基盤の実用化上、情報通信技術と表裏一体の関係にあ
る法的枠組みを、国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)のWorking Group IVに専門家を
投入し、ロシアおよび CIS 加盟国の殻に閉じこもらずに、国際組織の場で構築を進めようとしており、
ビューロが 企 画する2012 年 秋にウイーンで開 催 予 定の第 20 回 国 連 CEFACTフォーラムと
Working Group IVの年次会議の合同会議に向けた動きは看過してはならない。
(議題8の③のパ
ネラー8をご参照下さい)
2.9 欧州におけるUN/EDIFACT の定着
議題8のGS1のプレゼンでは、e-Com ユーザ調査の結果として、欧州では、UN/EDIFACT
のサブセットであるEANCOMのユーザが上位を占め、着実に利用者数が伸びている一方で、
XML/EDI が伸び悩んでいる事が示された。
(議題8の②のパネラー6をご参照下さい)
3 議事概要
3.1 第1日目
(2月15日水曜日午前)
議題 1:議事次第案採択
上程議案書:ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/1
予定されていたECE 事務局長のJán Kubiš 氏による開会挨拶は同氏欠席の為、国連
CEFACT 事務局長のVirginia Cram-Martos 氏より開会の挨拶が行われた。同氏はスピーチ
の中で、人的資源の不足問題を挙げ、その解決の重要性を指摘した。次いで、議長より議事
次第案が提示された。フランス代表団が議題5の勧告 37 号の取り扱いに異議を申し立て、当該
勧告の審議は、議長職権で、第3日目に繰り下げられた。
決議事項 12-01
総会は議題次第案を承認した。
議題 2:第 17 回総会以降第 18 回総会までに提起された事案
上程議案書:ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/2
ECE 事務局を代表し、Tom Butterly 氏が、国連欧州経済委員会(以下、ECEと略す)
が行っている2005 年に実施された国連改革の一環としてのECE 改革のレビューについて報告
し、その中で国連 CEFACTも報告を求められている旨説明した。 次いで、2011 年 12月に開
催されたECE 執行委員会(以下、EXOMと略す)の年次会議において、国連 CEFACTの組
織改革の報告が行われ認知された事が伝えられた。
最後に、ECE 事務局行った教育訓練(Capacity Building)の実施状況の概要が報告さ
れた。
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日本代表団は、教育訓練の重要性をわが国も認識していると前置きし、当該教育訓練のため
の教材などは、公開開発手順に沿って制作されてはいないのではないか(裏返せば、公開開発
手順の規程では、国連 CEFACTの活動計画の範囲内の文書等は全て公開開発手順に沿っ
て起草し公開される決まりとなっているので、それら教材は国連 CEFACTの活動計画の範囲外
となる)を 質 問した。 そ れ に 対して、ECE 事 務 局 は、 そ れらは 国 連 開 発 予 算(UN
Development Account)の下で、ECEの内部規定に基づき政策され、教育訓練が実施され
ている旨回答した。
(休憩時間中の)議長との非公式会話では、この問題(ECE 事務局と国連 CEFACTビュー
ロの権限、役割・機能の衝突問題)は、非常に根深くセンシティブな問題で、国連 CEFACT
議長もその処理に苦慮している問題であるとのことにて、日本代表団は上記以上に突っ込んでの
質問は避けた。
決議事項 12-02
総会はECE事務局報告を認知した。
議題 3:ビューロ
(役員会に相当)
による活動総括
上程議案書:ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/3
先ず最初に、議長の総括報告が行われ、引き続き担当別に副議長によってPDA 毎の活動
報告が下記の通り行われた。
(注:下記文章中の「文書(Document)」は特記されていない限り、
全てEDIの電文を意味する)
:
① 議長報告
議長報告は、概ね議案書に沿った内容であり、第 17 回総会で行った、組織改革の背景
と趣旨を再確認し、今総会で承認を求める活動計画などの議案を示したが、これまでの総会
などの説明と同じ内容にて、特記すべき事項は無い。
② 貿易および運輸の円滑化 PDA
報告者は担当ビューロ副議長である Mat Wicktor 氏、および Viktor Dravista 氏。
PDA 内のドメイン・コーディネータの紹介の後、対象ドメイン別の活動報告を行った。特記
事項は以下の通り:
●
貿易円滑化ドメイン
新勧告 36 号開発(シングルウィンドウの相互運用性確立のための勧告)は総会の翌週に
中間会議を行い作業の進捗を図る(注:当初計画では2011 年 11月に総会承認を受ける予
定であった。)
官民協調のためのモデルは、最初の草案が起草された。
貿易円滑化ガイドは、ECE 事務局と協議中である。
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運輸ドメイン
●
貨物の追跡(Cargo Tracing and Tracking)プロジェクト、および複合一貫輸送関係の
メッセージ(Multi Modal Transport 用 EDI 電文)開発は順調に開発を進めているが、参
加専門家の減少によって、下記プロジェクトは遅延を生じており、プロジェクトのリーダ役とな
る専門家の補強が焦眉の急となっている:
貨 物 輸 送 状 況 報 告および 輸 送 指 示 書の電 子 化(Status Report and Transport
Instructions)
運送状および危険品申告書の電子化(Transport Waybill and Dangerous Goods)
SMDG のUN/EDIFACT MIGの改訂
税関ドメイン
●
WCOによる下記取り組みを紹介したのみ:
㾎自然災害への対応・救援
㾎即時通関処理の指針の制作
㾎シングルウィンドウ関係手続きの改善(原産地証明書、動植物検疫、ワシントン条約
(絶滅の恐れのある動植物保護))
③ サプライチェーンPDA
報告者は担当ビューロ副議長であるMike Doran 氏、および Tim McGrath 氏
PDA 内のドメイン・コーディネータの紹介の後、現在開発が進行中のプロジェクト別に活動
報告を行った。特記事項は以下の通り:
●
コア構成要素ライブラリイ第 3 版への移行のためのパイロットプロジェクト
(対象文書:電子入
札(e-Tendering)および業際取引用電子インボイス(CII: Cross Industry e-Invoice))は
2012 年 4月にパブリックレビューを予定する。
●
業際取引用電子インボイス(CII)の改訂
5
貿易金融(銀行保証、信用状取引、オープンアカ
ウント取引、信用調査)関係書類の
電子化への対応。ISO20022との整合化が課題となる。
●
イタリアにおけるEDI 化の進展状況
イタリアの主要産業セクター別のEDI 化の調査結果が紹介された。
流通関係ではGS1
(EANCOM)の普及が目に付くが、全体を俯瞰するとEDIの利用状
況にはばらつきがある事があり、中小企業が多いイタリア経済の課題を浮き彫りにしている。
5 国際貿易に限定されず、国内取引のファイナンスを含む
̶7̶
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図 3-1
④ 行政 PDA
報告者は担当ビューロ副議長であるTasheen Khan 氏および Mats Wicktor 氏
PDA 内のドメイン・コーディネータの紹介の後、対象ドメイン別の活動報告を行ったが、そ
の内容はドメイン・コーディネータからのメモを集めて説明したに過ぎず、公式ホームページの
当該 PDAの情報が、組織改革後一度も更新されていない事実が示す通り、このPDAは新
体制でPDAとして期待された活動を実質的に行っていない。
⑤ 産業分野特化 PDA
報告者は担当ビューロ副議長であるBruno Prepin 氏および Harm Jan Van Burg 氏。
上記 PDA 同様、PDA 内のドメイン別の活動報告を行った。概要は以下の通り:
●
保険
組織改革以前と同様に、このドメインのメンバー米国ではACORD6、カナダのCSIO、欧
州のeEG77 などでの活動が中心であり、国連 CEFACTでの活動は限定的であるが、コア
構成要素ライブラリ
(共通辞書)への辞書項目の追加作業は、上記組織が連携して続けて
いる。
●
旅行・観光
小規模宿泊施設に関連する情報交換の標準化作業を継続している。
●
農業
食の安心・安全に対する行政および消費者のニーズの高まりを背景に、電子化による情
報の信頼性向上と事務効率化を進めている。
6 ACORD: Association for Cooperative Operations Research and Development
7 eEG7: the European eBusiness Expert Group for Insurance
(欧州地域保険関係電子ビジネス専門家会議)
メンバー
は、ドイツのBiPROとGS4eB、オランダの SIVI、ベルギーのTelebib。
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図 3-2
⑥ 技法および技術 PDA
報告は担当ビューロ副議長であるPeter Amstutz 氏および Tim McGrath 氏。
このPDAはドメイン・コーディネータを任命しない。
プロジェクト別の進捗状況は下記の通り:
コア構成要素ライブラリイ第 3 版への移行のためのパイロットプロジェクト
●
上記③ サプライチェーンPDAの報告通り
勧告 37 号
●
プロジェクトチームとしては、差し戻し後のパブリックレビューに基づく草案改訂作業は終了
した。
(総会審議は議題 5で行われた)
●
コードリストの保守管理
手順書の改訂は作業中である。
●
勧告 21 号および 23 号の改訂は総会間承認に付される予定
●
UN/EDIFACT ディレクトリD.11Bの公開は、R.10238 の改訂が終わっていないため、
2012 年 4月を予定する。
●
SBDH(標準ビジネス文書ヘッダー)は2012 年 4月までにパブリックレビュー段階に進むべく
作業中である。このプロジェクトは日本電気の専門家がプロジェクトリーダを務めている。
●
CCBDA(Core Component Business Document Assembly)
も第 1 次パブリックレビュー
に向けて作業中である。
⑦ ビューロプログラム支援
(BPS)
報告者は担当ビューロ副議長であるPeter Amstutz 氏。
8 TRADE/WP.4/GE.1/R.1023 (Rules for Presentation of Standardized Messages and Directories Documentation)
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●
UN/EDIFACT 保守
2011 年前期版は公開済み。
2011 年後期版は、DMRの審査は終了しているが、新体制下で品質管理の検証を行う
為には、R.1023を改訂する必要があり2012 年 4月までの公開を目標としている。
●
コア構成要素ライブラリイ
(共通辞書)
2011 年前期版は公開済み。
2011 年後期版は、品質管理のための検証を終え、近日中に公開を予定する。
●
BPSの懸案事項は下記の通り:
㾎 要員不足が深刻である。具体的には、品質管理のための検証作業が遠城秀和氏一
人の双肩に掛かり、過度の負担を強いており、早急な改善が必須である。
㾎 UN/EDIFACTの保守受付窓口(Entry Point)の担当責任者が不在となっている。
㾎 コア構成要素ライブラリイ中の不適切な辞書項目の是正(2011 年 9月に指摘された問題
であるが、問題の発生は2006 年前期版のチェック漏れであった事が判明している)。
●
広報問題
フランス代表団長が総会直前に文書で指摘した問題、即ち組織改革が行われてから既
に6 ヶ月以上経過したにもかかわらず、国連 CEFACTの公式ホームページ中のPDA 別 /
プロジェクト別の情報公開ページが新組織に対応して改訂されていない問題については、
ECE 事務局より、ECEの予算をやりくりし2012 年 4月までに改訂の目処を付ける予定である
旨の説明が行われた。
経過措置として、Tim McGrath 氏が、つなぎの措置としてGoogleのWeb サービス
(Wiki)を利用して制作した web pageの解説が行われた。同氏は、これらページは、
Googleの利用約款上、ECEの公式ホームページと見なすことが出来ない事を説明した。
●
外部の標準開発組織との協調・協働
休憩時間を利用し、Tim McGrath 氏に外部の標準開発組織との共同開発は、国連
CEFACT 知財権方針 9と、外部組織の知財権方針 10 が相容れないという問題があるので
はないかと質問した。同氏からは当該問題は十分に承知しており、共同開発は困難ではあ
るが、知財権問題回避のためにいくつかのパターンを考えている旨、説明を受けた。
⑧ 質疑応答
上記のビューロによるプレゼンの後、各国代表団との質疑に入った。主な質疑応答は下記
の通り:
9 国連 CEFACTの知財権方針では、プロジェクトに関わる知財権の放棄を規定する。
10 国連 CEFACT 以外の標準開発組織では、RAND(Reasonable And Non-Discreminatory) 合理的なライセンス料の範
囲内、で無差別的に知財権を提供する原則。
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●
ロシア代表団
ビューロの副議長の分担は、個々人のスキルに応じて適切に行われているのか。
(議長回答)責任分担は、個々のPDAおよび BPSの使命に応じて振り分けられている。
詳しい説明は総会会期中に行う。
(注:最終日の議事9で行われた)
●
フランス代表団
① 副議長による活動報告は、外部の人間が理解出来る様に、専門語ではなく平易な言
葉で行うべきである。そうすることにより、それぞれの活動がどの様な良い成果を生むの
かを上部組織、具体的には、執行委員会(以下、EXCOMと略す)がより正しく理解し、
ECE 内の予算配分において、国連 CEFACT への配慮が改善されると考える。
② コア構成要素ライブラリイ
(共通辞書)中の辞書項目へのエントリーが規約不適合となる
ミスの再発防止の為には、誤りをチェックする方策を、現行のやり方とは別の方法で行
うことを検討すべきである。
決議事項 12-03
総会はビューロ報告を認知した。総会はまた、国連CEFACTの普及啓蒙活動を促進
するための経済的支援を各国代表団が検討することを要請した。
3.2 第1日目
(2月15日水曜日午後)
議事
議題 4:ラポータ活動報告
上程議案書:ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/3
先ず アフリカ地区ラポータ報告が行われ、次いでアジア地区ラポータの報告が行われた。
① アフリカ地区ラポータ報告
●
第 6 回 ASEAL11 サミット
(首脳会議)を2011 年 6月6日にセネガルで開催。アフリカでは初
の開催であった。
●
上記に引き続きAfrican Alliance for e-Commerce(AAEC)
を6月7日にセネガルで開催。さ
らにその後、International Single Window Conference を6月8日から9日まで開催した。
●
The West African Economic and Monetary Union(WAEMU:西アフリカ経済・通貨
連合)加盟国による貿易円滑化の為の西アフリカ地域ワークショップを2011 年 10月24日から
26日にBurkina Faso(旧国名オートボルタ)の首都ワガドゥグー
(Ouagadougou)で開催。
議題は、加盟国で開発を進めている地域シングルウィンドウの進捗確認。
下記が確認された:
11 ASEAL:Asia-Europe Alliance for Paperless Trade。メンバーは、フランス、ドイツ、韓国、マレーシア、台湾、英国
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㾎 概ね計画通りにSWを導入済み、あるいは改良中:コートジボアール、ベニン、セネガル
㾎 近々導入を開始:ブルキナファッソ
㾎 Feasibility Study 段階:マリ
㾎 開発意向をIMFに提出:トーゴ
㾎 未計画:ニジェール、ギニアビサウ
アフリカ地区ラポータによれば、上記 WAEMU 加盟国以外のシングルウィンドウ導入状況
は下記の通り:
新規開発中:ケニア、ルアンダ
導入後に改良中:ガーナ
未計画:エチオピア
国連に加盟しているアフリカ諸国は54 ヶ国であるが、上記の通り、シングルウィンドウの導
入は、開発意向表明を含めてもまだ9 ヶ国に留まっており、アフリカ諸国の社会・経済状況
の厳しさを物語っている。
② アジア地区ラポータ報告
2011 年 11月に台北で開催されたAFACT 年次会議の議事録と殆ど同じ内容にて、特記
すべきものは無い。
日本代表団は、第 17 回総会議事録では「アジア地区ラポータ」と記名し、一方、今回の総
会では「アジア太平洋地区ラポータ」と記名され、不統一となっている点を指摘した。ECE 事務
局は、第 17 回総会の公式議事録の記述を誤りとし、
「アジア太平洋地区ラポータ」が正しい旨確
認した 12。
ロシア代表団は、2012 年のAPEC 議長国としてアジア太平洋地区の貿易円滑化およびペー
パーレス化に取り組んでいることを概括した。
決議事項 12-04
総会はラポータ報告を認知した。
議題 5:新規の勧告と標準、および改訂
(案)
上程議案書:
ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/7
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/14/Rev.1
(総会最終日に審議)
ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/8
(総会最終日に審議)
12 AFACT(Asia Pacific Council for Trade Facilitation and Electronic Business:貿易円滑化と電子ビジネスのためのア
ジア太平洋協議会 )と対をなす。
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① 先ず、新組織の管理権限の整備の一貫で、旧情報コンテンツグループ(ICG)が担っていた
コードリストの改訂承認権限をビューロに移す事が議決された。
決議事項 12-05
総会は、旧情報コンテンツグループ
(ICG)
のコードリストの承認権限をビューロに与えた。
② 議題案に掲げられていたECE 勧告 23 号改訂第 9 版は、総会までに書類が整わず、総会間
承認に付すことが了承された。
③ 引き続き、ビューロから下記が報告された。
●
国連 CEFACTモデル化技法(UMM)第 2 版はビューロ承認を経て、国連 CEFACT 公
式ホームページに公開済みである。
●
UN./EDIFACT ディレクトリ2011 年前期版(D.11A)国連地点コード(LOCODE)の2011
年第1版および第 2 版は、ビューロ承認を経て国連 CEFACT 公式ホームページに公開済
みである。
④ 日本代表団は、国連 CEFACT日本委員会の運営委員会(以下、
「JEC 運営委員会」と略
す)の審議における指摘事項として、標準や勧告の新規開発プロジェクト作業の終了と公開
が行われた後の、保守管理は、利害関係者が国連 CEFACTの成果物を信頼し安心して
活用して行く上での必須条件である事を強調した上で、組織改革後、ビューロプログラム支援
(BPS)が担うことになった保守管理の文書整備を含む手続き明確化の遅れに懸念を表明し
た。それに対して、ビューロは、完成後の保守は(プロジェクトが属したPDAの)担当副議
長が、関係ドメイン・コーディネータの支援を受けて、その責任を担う旨回答した。ビューロ回
答通りに各副議長がその責任を任遂すれば良いが、まだそれを見極めるには時期尚早であ
り、この問題は、今後も注視して行く必要がある。
決議事項 12-06
総会は、勧告23号の改訂第9版の作業状況を認知し、必要手続きが完了次第、改訂草
案を総会間承認に諮る様にビューロに要請した。
決議事項 12-07
総会は、国連CEFACTモデル化技法
(UMM)
第2版、UN/EDIFACTディレクトリ2011
年前期版、国連地点コード
(LOCODE)
の2011年第1版および第2版を認知した。
また、
UN/EDIFACT ディレクトリ2011年後期版
(D.11B)
を2012年4月に発行し、
コア構成要
素ライブラリ2011年後期版
(11B)
を2012年3月に発行する計画を認知した。
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決議事項 12-08
総会はビューロに対し、新らたな勧告や標準、および勧告や標準の改訂版の開発作業に
最善を尽くすことを要請し、
かつそれらをフランス語とロシア語に翻訳した上で、第19回総
会の審議・承認を求めることを要請した。
議題1における議長裁量通り、勧告 37 号の審議は最終日にシフトされた。
議題 6:規約改正
上程議案書:
ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/9
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/15/Rev.3
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/15/Rev.3/Add.1
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/17/Rev.3
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/24/Rev.2
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/20/Rev.1
ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/20/Rev.1/Add.1
ビューロが、議案書「国連 CEFACT 新組織の概要とその改革の根拠(ECE/TRADE/C/
CEFACT/2012/9)」に沿って、組織改革を行った理由を背景について(第 17 回総会に続き)
再び説明し、国連 CEFACTの成果物をよりタイムリーに関係者に提供し、それらの普及・啓蒙
活動を強化していく事の重要性を唱えた。
スエーデン代表団より、
(公開開発手順に定める)パブリックレビューにおいて、対象文書をフラ
ンス語およびロシア語に翻訳する事を義務付けることになると、開発期間が更に延びる(=成果物
のタイムリーな提供が出来ない)結果を招く恐れが大である旨、懸念を表明した。それに対して
ビューロからは、フランス語およびロシア語に翻訳する事は必須ではなく、オプションであり、成果
物のタイムリーな提供を妨げてでも翻訳することは考えていない旨説明した。
決議事項 12-12
総 会は「 国 連 C E F A C T 新 組 織 の 概 要とその 改 革 の 根 拠( E C E / T R A D E / C /
CEFACT/2012/9)
」
を認知した。
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決議事項 12-13
総会は、
「国連CEFACT組織、使命、委任事項および手続き改訂 承認事項
改訂第3版
(ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/15/Rev.3)」、
「 国連CEFACTビューロ
運用手続規程改訂
(ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/17/Rev.3)」、
「 国連CEFACT
公開開発手順改訂第2版(ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/24/Rev.2)」、
「国連
CEFACT知財権方針改訂第1版
(ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/20/Rev.1)」、更
に上記規約の付属文書である
「国連CEFACT知財権方針改訂に関する概要(ECE/
TRADE/C/CEFACT/2010/20/Rev.1/Add.1)」、および「国連CEFACT総会間承認
手順改訂
(ECE/TRADE/C/CEFACT/2010/15/Rev.3/Add.1)」
を承認した。
議題 7:国連 CEFACT の組織戦略
上程議案書:ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/10
ビューロを代表しMat Wicktor 氏が、議案書「国連 CEFACTの組織戦略」に沿って下記
の趣旨でプレゼンを行った:
●
国連の組織的枠組みの中で、国連 CEFACTに与えられた使命を果たしていくには、その利
害関係者(Stakeholders)のニーズを的確に認識し、現実のギャップを埋める解決手段を提
供して行かねばならない。
●
各国政府は、自国の経済社会をテロや危険物などのリスクから守るために、
(貨物の積み込み
24 時間前申告ルールの導入に代表される)各種施策を強化しつつある。また、商品の安心
安全を求める消費者のニーズの高まりによりトレーサビリティは、サプライチェーン管理上の重
要課題になってきた。こうした世界の趨勢によって、国際サプライチェーン管理のプロセスは
複雑化し、カバーすべき地理的面積の拡大と相まって、国際的サプライチェーンに携わる関
係者のこの問題解決へのニーズは高まっている。
●
一方で、発展途上国や移行経済諸国においては、シングルウィンドウの導入・実施による貿
易円滑化が今後の課題として残っており、それらの国々を教育訓練(Capacity building)な
どによって支援して行かねばならない。
●
上記の認識に立ち、国連 CEFACTは組織改革後も、政府機関と民間が共に手を携えて活
動出来る強みを活かし、勧告と標準の開発とその保守を継続して行かねばならないが、その
活動の基盤となるのは、これまでの活動成果である勧告および標準の集積と、それを道具と
して具現化した共通辞書やディレクトリである。
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●
活動の遂行に当たっては、外部の標準開発組織などとの協調や連携をより強化し、重複を避
け、Win-Winの関係を構築していく必要がある。
決議事項 12-14
総会は
「国連CEFACTの組織戦略
(ECE/TRADE/C/CEFACT/2012/10)」
を認知した。
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◇連載◇
記事2. 貿易慣習の諸問題
(11)
早稲田大学名誉教授 朝岡 良平
11.1995 年物品売買
(改正)
法と貿易売買 11.1 新しい規則は貿易売買に適用されるか
11.1.1 CIF 条件による大量貨物の売買
大量のバラ積み貨物の海上運送中に、全部または一部分の物品が CIF 条件で複数の購買
者に転売する取引が行われることがあります。全部を1 人の購買者に転売する場合は、船荷証
券を裏書し、これを購買者に引渡すことができますが、一部分の物品を複数の購買者に転売す
る場合には、荷渡指図書をそれぞれの購買者に提供することが行われます。このようなCIF 契
約において、購買者が荷渡指図書と引換に代金を支払った後、売主が倒産した場合、所有権
の移転がないので、積荷は売主の破産管財人の占有に移され、買主は無担保債権者となり、
他の一般債権者と同様に扱われることになります。しかも、物品の危険は船積の時から購買者
に移転するので、大量貨物の一部分である物品の売買契約における買主(購買者)の保護と
救済が問題となりました。このような事態に対する業界の不満とSGA 第 16 条の改正を求める要
望に応えて、イギリスでは法律委員会とスコットランド法律委員会(the Law Commissionおよび
the Scottish Law Commission: 以下、法律委員会)がバラ積み貨物の売買に関する実態調
査を実施し、物品売買法改正の提言を行った経緯については本誌で紹介したとおりです。
11.1.2 新しい規則の構成要因
法律委員会は、大量貨物の一部分である物品の売買に適用され、特定の売買契約に関連
する物品が確定する前に、大量貨物の未分割持分の所有権移転を可能にする新しい規則が
必要であるとして、一連の提言を行いました。1995 年物品売買(改正)法第 20A 条には、これ
までのSGAにはない要因が含まれています。それは、①特定数量の不特定物、②特定された
大量貨物、③物品の全部または一部の代金支払(同条第 1 項)
、および④未分割持分の所有
権移転と⑤大量貨物の共同所有者になることです(同条第2項)
。
11.1.3 本稿の目的
法律委員会の提言に従って、1979 年 SGA 第 61 条第1項(定義)の中に「大量貨物(bulk)」
の定義が挿入されました。また、法律委員会は、特定された大量貨物の例を7つ列挙していま
すが、その中で海上運送に関する例示は1つだけで、他はすべて陸上の倉庫または貯蔵施設
に保管されている原料、食料、燃料の例です 1。また、法律委員会の報告書に紹介された4つ
1 LAW COM. No.215; SCOT. LAW COM. No.145, at para. 4.3.
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の判例の中で、CIF Bristol 条件で海上運送中の大量貨物に関するRe Wait 事件 2 の他は、
すべて陸上の倉庫または貯蔵タンクに保管されている大量貨物に関する判例です。また、Re
Wait 事件はCIF 契約に関する紛争ですが、この契約は貿易売買でなく、国内売買です。そこ
で、本稿では、大量貨物の一部分である物品の売買に関する新しい規則が貿易売買にも適用
されるのかという点について考察したいと思います。
11.2 第 20A 条と第 20B 条
11.2.1 第 20A 条の3つの要件
本誌ですでに紹介したとおり3、イギリスでは、1995 年物品売買(改正)法(the Sale of
Goods(Amendment)Act 1995)により、1975 年 SGAに第 20A 条および第 20B 条が追加され
ました。第 20A 条第 1 項および第 2 項によると、特定された大量貨物の一部分である特定数量
の物品の全部または一部分の代金を支払った買主は、第 16 条の規定にもかかわらず、当該大
量貨物の共同所有者となります。この場合、同条が適用されるために、
(a)特定数量の物品、
(b)
特定された大量貨物、および(c)買主による代金支払の3つの条件が要求されます。この3つ
の条件が充足されたとき、他に別段の合意がないかぎり、未分割持分の所有権が買主に移転し
ます。共同所有者として、バラ積み貨物に占める買主の持分(share)は、当該バラ積み貨物の
中から買主が購入し、かつ代金を支払った数量です(第 20A 条第 3 項)
。バラ積み貨物の数量
に変化が生じた場合、買主の持分はこれに応じて変更します。第 20A 条第 4 項の規定に従っ
て、すべての買主の購入した数量の合計がバラ積み貨物の全体の数量を超過するときは、そ
れぞれの買主の持分はその割合に応じて減少します。買主が購入した物品の一部分について
のみ代金を支払ったときは、当該バラ積み貨物から引渡されるのは、まず買主がすでに支払った
金額に相当する物品とされます(第 20A 条第 5 項)。
11.2.2 第 20B 条は取引促進のための特別規定
SGA 第 20B 条は、通常の取引を促進するための特別規定です。各共同所有者は、それぞ
れの契約に基づいて所有するバラ積み貨物の持分を他の共同所有者に引渡すことに同意したも
のとみなされます。また、各共同所有者は、未分割持分について、他の共同所有者と取引、
移動、引渡または処分を行うことに同意したものとみなされます。
(第 20B 条第1項)。このような
擬制の同意(deemed consent)を信頼して、第 20B 条に従って行為をした者に対して訴訟を提
起することはできません(第 20B 条第2項)。さらに、第 20B 条第3項は、買主の契約上の権利
を規定しています。
2 Re Wait [1927] 1 Ch. 606.
3 拙稿「貿易慣習の諸問題 (9)」
『 JASTPRO』399 号 (2911-12)、12-14 頁を参照。
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11.2.3 未分割持分の売買は特定物の売買
第 20A 条および第 20B 条を提言するにあたって、法律委員会は、この問題に付随する他の提
言をも合わせて行っています。1995 年物品売買(改正)法の制定に先立って、未分割持分の売
買が、例えば、3 分の1とか、40%といった分数またはパーセントで特定された場合に、これが特
定物の売買であるか否かが明確でありませんでした。法律委員会の提言によって、1995 年物品
売買(改正)法は、
「物品」
(goods)
と「特定物」
(specific goods)の定義に、追加文言を設けて、
これが特定物の売買であることを明確にしました。すなわち、
「物品とは、. . 物品の中の未分割持
分を含む」および「特定物とは、. .これには、特定かつ合意された物品の分数またはパーセントと
して特定された未分割持分を含む」という文言がそれぞれの定義の終わりに追加されました。法
律委員会は、この提言は「バラ積み貨物の中の未分割持分に限定するものでなく、いかなる物
品の中の未分割持分にも適用される」ことを指摘しています 4。法律委員会の提言は、分数また
はパーセントで特定された未分割持分の売買には適用されないとしていました。その理由は、この
ような売買の買主の持分は売買契約によって決定されるのであるから、第 20A 条および第 20B 条
に規定する未分割持分を決定する方式は、このような売買には必要ないということです 5。
11.3 1995 年改正法に対する批判
1995 年物品売買(改正)法について3つの主要な批判があります。第1は、変更は断片的であ
り、範囲が狭いということです。例えば、同法は極めて断片的な変更であり、共同所有者の概念
であるとか、破産法との関係による問題点などが欠けていると述べ他論文があります 6。第2は主要
な批判で、1995 年物品売買(改正)法は、危険の配分を規定していないということです。バラ積
「危険移転に関する規定
み貨物の中の未分割持分に関する危険の配分について不明瞭であり7、
を欠いているので、不明確な問題が生じ、あるいは紛争の種となるだろう」という意見があります 8。
他方、
「1995 年物品売買(改正)法は危険の配分について全く触れていないが、しかし、あらゆる
可能性のある問題を包括的に規定するには、極めて複雑なので、これを1979 年物品売買法にお
いて故意に避けてのは賢明である」という意見があります 9。第 3の批判は、1995 年物品売買(改
正)法が幾つかの関連する原則にタッチしていないことです。この点に関連して、
「法律委員会が
今回の改正提言においてエクイティ上の原則を考慮したがらなかったのは賢明である」との指摘が
あります 10。
4 LAW COM. No.215; SCOT. LAW COM. No.145, at para. 5.2.
5 Ibid., at para. 5.2.
6 Janet Ulph,
“The Sale of Goods (Amendment) Act 1995: Co-ownership and the Rogue Seller”[1996] LMCLQ 93,
at 106.
7 A. G. Guest, Benjamin’
s Sale of Goods , 5th ed., 1997, at para. 6-006.
8 Robert Bradgate and Fidelma White,“Sale of Goods Forming Part of a Bulk: Proposals for Reform”[1995]
LMCLQ 315, at 322.
9 Janet Ulph, op. cit ., at 106.
10 Ibid , at 106.
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11.4 貿易売買への適用
11.4.1 国際物品売買の定義
1893 年 SGA 第 62 条第 1 項に、
1973 年物品供給(黙示条項)法 11 第 7 条第 1 項の規定により、
次のような「国際物品売買契約(contract for the international sale of goods)」の定義が挿
入されました 12。
「国際物品売買契約とは、営業所(または、営業所がないときは、常住居所)を
それぞれ異なる国の領域(the Channel Islandsおよび the Isle of Manは、本法の目的のため
に連合王国とは異なる国として扱う)に持つ当事者間に締結され、かつ次のいずれかの条件が
充足される場合の物品売買契約をいう。
(a)この契約が、契約締結時に、ある国の領域から他の国の領域に向けて運送中または運送
されることになる物品の売買に関連すること、または
(b)申込および承諾を構成する行為がそれぞれ異なる国の領域において行われたこと、または
(c)物品の引渡が、申込および承諾の行為がなされた国の領域とは異なる国の領域で行われる
こと。
」13
冒頭に引用したRe Wait 事件に関連したCIF 契約を図示すると次のようになります。
図1 SとVの間のCIF Bristol 条件の貿易取引
S ――――――→V ―――――→A ―――――→ B
(オレゴン) (ロンドン) 前借↑↓ B/Lを担保
銀行
ロンドンの輸入商(V)がアメリカのオレゴン州の供給者(S)からCIF Bristol 条件で1000トン
の小麦を購入し、Sが提供した船積書類と引換に手形を引受けました。このCIF 契約は上記の
定義の条件を充足する貿易売買になります。ロンドンの輸入商(V)は、このバラ積み貨物の海
上運送中に、国内の小麦商(A;Wait)にCIF 条件で転売しました。これは国内取引です。A
(売主)は、海上運送中の1000トンのバラ積み貨物のから500トンの小麦をCIF 条件でB
(購買
者)に転売し、インボイスを提供して、これと引換にBは500トン分の小麦の代金を小切手で支払
いました。もちろん、AとBの間のCIF 契約は国内取引です。Aは、Bの小切手を現金化し、ま
た船荷証券を担保に銀行から資金の前借をしましたが、オレゴンを出航した船舶がブリストルに
到着する前に倒産しました。以上が Re Wait 事件に関連するCIF 契約です。この事件とは関
係ありませんが、もしVが CIF Bristol, Amsterdam, Hamburg 条件でSから大量の小麦を購入
11 The Supply of Goods (Implied Terms) Act 1973 (1973 c.13).
12 この国際物品売買契約の定義は、1979 年物品売買法第 61 条第 1 項では削除されています。
13 1967 年の国際物品売買統一法 (Uniform Laws on International Sales Act 67; ULIS)の付表1第1条に同様の定義
が定められています。
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し、海上運送中の小麦をAmsterdamまたはHamburgの購買者(A)に転売する場合には、こ
のCIF 契約は貿易売買になります。
11.4.2 売主による充当の通知
一般に実務上、既積品の売買契約はCIF 契約(またはC&F 契約)
と同義であるとみられてい
ます 14。貿易取引では、CIF 契約(またはC&F 契約)の売主の船積義務は、①売主が仕向港
までの船舶を手配し、契約に一致する物品をこの船舶に船積するか、②既積品を購入するか 15、
あるいは、③例えば、図1に示すV(売主)が、Sによって船積された大量貨物の全部または一
部分の物品をA(買主)
との契約に充当することにより16、履行されます。CIF 契約は通常、不
特定物の売買契約なので、売主は契約に定められた種類、数量の物品を契約に充当する義務
があります。上記の③の場合、例えば、特定された船舶にバラ積みされた5000トンの小麦は、
「特
定された大量貨物」で、その一部分である1000トンの小麦を転売する場合、その契約の目的物
は、契約締結時にすでに特定された船舶に積込まれていますが、大量貨物のどの部分である
かが確定されていない状態にあるので、
「特定数量の不特定物」になります。そこで、売主は、
このバラ積み貨物の中から1000トンの小麦を契約に充当する通知を行い、これを引渡す旨を明
示した書類を買主に提供する義務があります。
Ross T. Smyth & Co. Ltd. v. T. D. Bailey, Sons & Co. 事件 17 において、Lord Wrightは、
CIF 契約における充当の通知の必要性について、
「売主は、契約に一致する物品を船積するか、
または既積品を取得して、これが不特定物である場合には、通常、売主は充当の通知を買主
に与えることが必要である」と述べています。一般に、CIF 契約では、充当の通知に関する条
項が挿入されています。しかし、このような明示条項がない場合について、1967 年の国際物品
売買統一法(ULIS)第 19 条第3項は、
「運送人に交付された物品が、宛先の表示その他の方
法により、契約に充当されたこがはっきりしない場合には、売主は物品の交付に加えて、買主に
船積の通知および、必要ならば、物品を特定する書類を送付しなければならない」と規定してい
ます。
契約により売主が充当の通知を行うことが義務づけられている場合、売主による充当の方法に
ついて、買主があらかじめ同意していたか否か、そして売主による充当が契約の要件を充足す
るか否かが問題になることがあります。しかし、売主の充当が要件を充たしても、買主が事前に
契約で同意したか否かは、その契約に充当の通知に関する条項がなく、売主が契約成立後に
通知を行っただけでは、後日になって合意を証明することが難しくなります。また、売主による充
14 Esteve Trading Corp. v. Agropee International (The Golden Rio) [1990] 2 Lloyd’
s Rep. 273, at p.276.
15 J. H. Vantol v. Fairclough, Dodd & Jones Ltd. [1955] 1 W.L.R. 642.
16 Shipton, Anderson & Co. v. John Weston & Co. (1922) 10 Ll.L.R. 762; Ross T. Smyth & Co. Ltd. v. T. D.
Bailey, Sons & Co. [1940] 3 All E.R. 60.
17 Ross T. Smyth & Co. Ltd. v. T. D. Bailey, Sons & Co., supra, at p.68.
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当の通知が有効である場合には、買主には、この問題について選択する余地はありません。も
し売主が「the Peerless I 号」に物品を有効に充当した場合には、買主は物品を「the Peerless
II 号」に積んで欲しかったという理由でこの充当を拒絶できません。この場合に、SGA 第 20A 条
第1項(a)号の規定に文字どおりに適合するか否かは難しいとの指摘があります 18。
11.4.3 バラ積み貨物の特定
前項で述べたように、CIF 契約の売主は通常、買主に対して船積に関する明細 ― すなわち、
物品を運送する船舶の名称、物品が充当されたこと、船積の年月日 ― について通知します。
この通知がなされた時が、バラ積み貨物が特定された時です。FOB 契約では、売主は通常、
船荷証券またはその他の運送書類を代金の支払と引換に提供します。ここでも、このような書類
が提供された時が、バラ積み貨物の特定がなされた時です。FOB 契約の売主が2人以上の買
主とそれぞれ異なる契約を結び、これらの売買契約を履行するために、同じ種類の商品
(commodities)をバラ積みすることは一般的なことです。しかし、FOB 契約では、原則として
買主が物品を運送する船舶を指定するのであるから、買主はすでに船積に関する具体的な情
報を知っています。また、FOB 契約では、買主の指定した船舶に売主が物品を船積みした時、
バラ積み貨物が特定されるのです。したがって、SGA 第 20A 条および第 20B 条が FOB 契約に
適用されることはほとんどないと考えられます。
11.4.4「買主の代金支払」の要件
第 2に、SGA 第 20A 条第 1 項(b)号は、
「買主が、契約の目的物であり、かつ大量貨物の
一部分である物品の全部または一部に対して代金を支払ったこと」を要件として規定しています。
これを、現金払いの場合に適用することは全く困難ではありません。しかし、貿易売買では、最
も普通に行われているのは荷為替手形または荷為替信用状による決済です。売買契約に代金
支払についてこれらの方法のいずれか1つが規定されている場合、銀行による手形(draft)の引
受または買主による為替手形(bill of exchange)の引受がなされたとき、たとえ後日、支払不履
行(non-payment)のために手形が不渡りとなっても、確定物の所有権は移転が可能です。し
かし、大量貨物の中から特定数量の物品を売買する契約において、このような決済方法が定め
られ、そして支払不履行となった場合、この売買契約は、SGA 第 20A 条第 1 項(b)号に定める、
「買主が代金を支払った」ことにはならないと考えられます。また、荷為替信用状にもとづく支払
が銀行によって行われたとき、それは文字どおり正しいのですが、
「買主が代金を支払った」こと
には文字どおりならないので、この場合には、買主のために支払がなされたことが明らかであり、
かつこのような支払が第 20A 条第 1 項(b)号の目的にとって十分であることが証明される必要が
あります 19。
18 A. G. Guest, op. cit ., at para. 18-235.
19 Ibid., at para. 18-235.
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11.4.5 荷為替手形による決済
11.4.5.1 荷為替手形制度
荷為替手形(documentary bill)
とは、為替手形に船積書類が添付されたものです。売
買契約に船積書類と引換に売主の振出した手形の引受により支払がなされる旨が定められて
いる場合、売主は為替手形と船荷証券その他の船積書類を一緒に、売主の指図人(通常、
輸入地の取立銀行)を通して、買主に呈示し、買主に為替手形の引受を要求します。このよ
うな場合に、買主は契約にもとづいて為替手形を引受ける義務があります。決裁条件として、
書類と引換に引受または支払を契約に定めることにより売主は安全策を講じることになりますが、
完全に保護されているわけではありません。この段階までに、売主は物品の製造または購入
に要する費用、買主に引渡すための運送その他の費用を負担しており、また、為替手形が
不渡りになった場合には、物品がすでに売主の手元を離れているので、その処分に煩雑な手
続やそのための費用を負担しなければならないからです。売主にとって必要なのは保証で、
貿易売買契約では、荷為替信用状に基づいて決済を行う取決めを行うことにより、売主は信
用状に基づいて輸出地の銀行で荷為替の取組みを行い、代り金(advance money)を受取
ることができます。
11.4.5.2 一覧払い手形と定期払い手形
為替手形が一覧払い手形(sight bill)の場合には、買主は船積書類と引換に支払をする
ので、買主は船積書類と引換に代金を支払うことになります。代金が完全に支払われたときは、
たとえそれが買主のために銀行によってなされたとしても、それは第 20A 条第 1 項(b)号の規
定に該当するものです。しかし、支払が荷為替手形によってなされても、それが定期払い手形
(term bill)であり、買主が船積書類と引換にその為替手形を引受けた場合には、後日、支
払不履行により手形が不渡りとなったときに問題が生じます。この場合には、買主はSGA 第
20A 条第 1 項(b)号にいう
「買主は代金を支払った」ことにはなりません。この場合に、物品
が確定物であるときは、物品の所有権は移転するのでしょうか。Benjaminの売買法は次のよ
うに述べています 20。
「SGA 第 19 条第 3 項は次のように規定している。
『売主が代金のために買主を支払人とする為
替手形を振出し、その引受または支払を確保するために為替手形と船荷証券を一緒に買主
に送付した場合、買主は、為替手形の引受または支払をしないときは、船荷証券を返還しな
ければならない。不当に船荷証券を保持しても、物品の所有権は買主に移転しない。』為替
手形が不渡りになるには、2つの場合がある。すなわち、引受拒絶と支払拒絶である。SGA
第 19 条第 3 項は、
(英語では)
“if he does not honour the bill of exchange”
と規定している
だけで、具体的に引受拒絶の時か、支払拒絶の時かという点について述べていない。しかし、
20 Ibid., at para. 18-170.
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The Prinz Adalbert 事件で、枢密院(Privy Council)
は、その理由として、次のように示唆
している。引受拒絶による不渡り
(dishonour)
は、所有権の移転を妨げる重要な要因である。
この事件で、Lord Sumnerは、その状況について、
『荷送人は、その時に物品の所有者とし
て、銀行に対して、手形の引受と引換に船荷証券の提供を指示する権限を有したのであり、
彼は引受がなされたときに所有権を移転させる意思があり、また、それがなされるまで所有権
を保持する意思があると考えることが自然である』
と述べている。為替手形が実際に支払われ
るまで所有権を保持することを望む売主は、当然、その旨を契約に明示するか、あるいは船
荷証券と引換に現金払いを決済条件として規定することができる。
」また、Berndston v.
Strang 事件 21 において、Lord Cairnsも、船荷証券と引換に為替手形の引受がなされたとき
に、物品の所有権が移転すると述べています。
11.4.6 荷為替信用状にもとづく決済
同様の問題は、荷為替信用状(documentary letter of credit)に基づいて決済が行われる
ときにも生じます。荷為替信用状は基本的に指定された書類と引換に銀行による支払の保証で
す。貿易売買では、殆どすべての荷為替信用状に、国際商業会議所(ICC)の「荷為替信用
状に関する統一規則および慣例」
(UCP)に従う旨の文言が明示されています。例えば、1993
年改正のUCP No.500の第 2 条は、信用状の意味について、
「この規則(UCP)において、荷
為替信用状は、. . . 買主(発行依頼人;applicant)の依頼によりおよびその指図に基づいて行
為する、または自らのために行為する銀行(発行銀行;issuing bank)が、信用状条件の充足
を条件として、定められた書類と引換に、次のことを行う取決めを意味する。
(i)売主(受益者;
beneficiary)に対して、あるいはその指図人に対して支払うこと、または受益者が振出す為替
手形を引受かつ支払うこと、
(ii)他の銀行(以下、他行)に対して、そのような支払を行うことを、
あるいはそのような手形を引受かつ支払うことを授権すること、または(iii)他行に対して、買取
を行うことを授権すること」であると規定しています。
要するに,
「発行依頼人(applicant)」
(買主)
との取決めにより、銀行が(ⅰ)その取決めの「受
益者(beneficiary)」
(売主)に対して支払うこと、
(ⅱ)受益者(売主)が振出した為替手形を引
受け、かつ支払うこと、または(ⅲ)他の銀行に対して、そのような支払を行うこと、もしくはそのよ
うな手形を引受けかつ支払うことを授権すること、または他の銀行に対して、買取を行うことを授
権することです。銀行が売主に対して完全に支払う場合には、全く問題がありません。しかし、
もし銀行が為替手形を引受けるか、あるいは、他の銀行に為替手形の引受または約定の書類
の買取を授権する場合には、後日、支払不履行(default)になることがあります。この場合に、
買主はSGA 第 20A 条第 1 項(b)号の目的のための「支払われた」とはみなされないのです。
21 Berndston v. Strang (1868) L.R. 3 Ch.App. 588, at p.590.
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11.5 The Prinz Adalbert 事件
に関する訴訟です。売主が買主宛に振出した為替手
この事件は 22、戦時中の捕獲物(prize)
形を銀行で割引き
(discount)
、担保として船荷証券を銀行に引渡す場合、為替手形が買主により
引受されるまで、完全な支配権(the general property)
は売主にとどまり、引受がなされた時に買
主に移転します。本事件は、捕獲審検裁判所(Prize Court)
の扱った事件ですが、アメリカの売
主が潤滑油(lubricating oil)
をドイツ船籍の汽船により、ハンブルグの商社(荷受人)
に向けて船積
し、ハンブルグに在る売主に指図人宛に2 通の船荷証券を取得しました。船荷証券はいずれも白
地裏書され、売主がハンブルグの商社宛に振出した2 通の為替手形にそれぞれ添付されて、アメ
リカの銀行で割引かれ、その銀行は書類をドイツのコルレス先に送付しました。1 通の為替手形は
1914 年 8月1日にハンブルグの商社により引受がなされました。他の為替手形には同年 8月10日に
引受がなされる旨が記載されました。その間に、第1次世界大戦が勃発したため、8月5日に潤滑
油を積載したドイツの汽船がイギリス海軍に拿捕されました。そこで、アメリカの売主は、8月18日に
イギリスの捕獲審検裁判所に対して、当該潤滑油の所有権は売主に帰属している旨を述べて、引
渡を請求しました。これに対して、捕獲審検裁判所は、為替手形の引受がなされた時に所有権が
買主に移転するというのが売買契約における売主の意思であり、最初の為替手形に係る積荷につ
いては、8月1日にその所有権がドイツ商社に移転しており、また2 番目の為替手形に係る積荷につ
いては、8月18日の時点において売主がその所有者であったことは証明されないと判決しました。
この事件を担当したLord Sumnerは、次のように意見を述べています。
「. . . 物品の海上運送中に、荷送人の指図人宛の船荷証券が裏書され、荷受人に引受けされたこ
とは、物品それ自体の引渡と同じであり、他に別段の合意がなければ、所有権が買主に移転す
る。船荷証券は物品の象徴である。商品の輸出取引における通常の過程において、かつまた当
該商品に関する当事者の利害関係から、他に別段の意思に関する証拠がなければ、これは必
然的推論(necessary inference)
として十分である。荷送人が手形を振出し、これがまだ引受さ
れていなくても、船荷証券と一緒に銀行で割引いた場合には、荷送人は振出人として手形上の
責任を負い、かつ船荷証券が表象する物品を支払確保のための担保とするのである。他方、
手形を割引いた銀行は、手形の引受と引換に船荷証券を引受人に引渡したとき、担保は銀行の
手を離れ、その後の当事者が証券について責任を負うのである。このように、銀行は、荷送人(振
出人)
の許可と委任により行動すると考えられる。裏書された船荷証券を所持することにより、引
受人は船舶が到着したとき物品を占有することができる。もし荷送人が物品の所有者として、銀
行に対して、手形の引受がなされるまで船荷証券を保持する権利を与え、手形の引受と引換に
船荷証券を引受人に引渡すよう指図した場合、荷送人は、銀行によりこのような行為がなされたと
きに、所有権を移転させる意思を持っており、また、これがなされるまでは、彼が所有者であると
22 The Prinz Adalbert [1917] A.C. 586 (P.C.).
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考えることが自然である。荷送人と荷受人との間の特約によりこのような推論を変更ないし排除す
ることが可能であるが、別段の合意がなされた証拠がないかぎり、また、契約の成立時に、戦争
が勃発したことによる特別な規則を別として、物品の所有権は、支払いのために振出された為替
手形が引受けられたときに移転するというのが一般原則である。」23
11.6 貿易売買における
「買主の代金支払」
11.6.1 CIF 契約における決済方法
The Prinz Adalbert 事件における推論から、確定物の場合に、為替手形の引受は所有権
の移転にとって重要な要件であるということです。このような推論は、特定された大量貨物の中か
ら特定数量の物品を売買する契約にも適用できるので、荷為替信用状および荷為替手形による
決済に関連して、SGA 第 20A 条および第 20B 条に規定する「買主が代金を支払った」という要
件について考察するわけです。売買契約では、一方において買主の保護を、そして、他方に
おいて売主を保護するという均衡を常に考えることが大切です。さらに、売主が代金の支払のあ
るまで所有権を保持する場合には、売主は、The Prinz Adalbert 事件でLord Sumner が述
べたことを売買契約に規定することができます。そこで、第 20A 条および第 20B 条における「買
主が代金を支払った」という要件は、
(a)買主が荷為替手形にもとづいて、為替手形を引受けた
とき、または(b)関係銀行が、荷為替信用状にもとづいて、たとえ後日、支払不履行になると否
とに関係なく、為替手形を引受けるか、あるいは指定された書類を買取ったときに充足されたと
見做すことができます。
11.6.2 手形の引受を持って支払とみなす
荷為替手形または荷為替信用状による代金決済の場合に、前項に述べたように解釈するの
は、the Prinz Adalbert 事件における推論、すなわち所有権の移転にとって重要な要件である
後日の「支払」に代えて、為替手形の「引受」をもって、
「支払われた」ものと見做す考えに基づ
いています。
「引受」とは、手形の名宛人(drawee)が手形の所持人に対して、引受の条件に
従って手形の満期日に手形金額を支払うことを手形上に記載した約束です。小切手は、銀行に
宛てて振出された要求払(payable on demand)の為替手形ですが、それは特別な種類の為
替手形です。通常の過程では、小切手は引受されないし、また引受されるものと考えられていま
せん。小切手の所持人は、振出人との間では、引受を要求する権利がありません 24。小切手
は引受され得ないものであると言うことはできませんが、極めて例外的な状況においてのみ引受が
なされるのであり、その場合に、厳格かつ明確な言葉で行われることが必要です 25。それ故、
The Prinz Adalbert 事件における原則は、小切手による支払には適用されません。
23 Ibid., at p.589.
24 Bank of Baroda Ltd. v. Punjab National Bank Ltd. [1944] A.C. 176.
25 Ibid., at p.184.
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11.6.3 全額支払われた時に所有権が移転
第 3に、第 20A 条第 6 項は、代金の一部分の支払の場合、代金全額に対する割合で、物
品全体の一部分に対する支払として扱う旨を定めています。この原則を貿易売買に適用する場
合に、不合理な結果を招くことになるという意見があります 26。その理由は、貿易売買では、通常、
代金が完全に支払われるまで、所有権は移転しないからです。例えば、貿易売買では、買主
が大量貨物全部を購入したにもかかわらず、代金の一部しか支払わない場合は、この段階で
は、買主は通常、全く所有権を取得することはありません。Benjaminの売買法は、SGA 第
20A 条が未分割持分の買主を、大量貨物全部を購入する買主よりも有利な立場に置く理由が
分からないと述べています。しかし、同条を正当であると述べています 27。
「1995 年物品売買
(改正)法の政策は買主を保護することであり、原則として、コモン・ローの原
則が買主の支払不能の危険に対して売主を保護する政策に対応するものである。代金の一
部支払の場合に対する第 20A 条に定められている規則は、このような2つの政策に対する満足
な妥協であると思われる。このような制定法による解決は、売買された特定数量の物品が「大
量貨物の一部分」
を構成するものであり、したがって、
「大量貨物全部」が買主に売られた場合
に適用されるコモン・ローの規則に取って代わることはできない。しかし、この妥協策が満足で
きるものであるという事実は、物品が大量貨物の一部分である場合に、購入した数量の一部に
ついて代金を支払ったときに適用される満足な妥協策が、CIF 条件またはFOB 条件の売買契
約では、代金が全額支払われたときにのみ所有権が移転するのが原則であるから、これらの
売買契約に適用される規則に代替され得ないという議論にとって、少なくとも納得のいく根拠で
ある。もちろん、それは、これと異なる意思表示、例えば、代金が全額支払われたときに所有
権が移転する旨の明示条項によって、代えることができる。」
(続)
26 A. G. Guest, op. cit., at para. 6-006.
27 Ibid., at para. 18-237.
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記事3. 国連CEFACTからのお知らせ
3.1 2012 年 2月2日
ビジネス要件仕様書(Business Requirement Specification=BRS)と要求仕様マッピング
(Requirement Specification Mapping=RSM)のテンプレート第 2 版が更新され期間 60日間
のパブリックレビューに付されました。
このテンプレートは国連 CEFACT モデル化技法(UMM)基礎モジュール第 2 版との調整をは
かり且つ従来のテンプレート利用実績から積み重ねられた改善内容が十分反映されたものとなっ
ております。
これら草案は下記のウェブページで入手出来ます。
本件に関するコメントを受け付けますので、2012 年 4月3日までにChris Hassler へお願い致し
ます。
https://sites.google.com/a/documentengineeringservices.com/methodology-andtechnology-pda/un-cefact-modelling-methodology-umm/documents
3.2 2012 年 1月19日
国連 CEFACT コア構成要素技術仕様第 3 版は、基本コア構成要素、基本コア構成要素属
性値、基本ビジネス情報エンティティ、基本ビジネス情報エンティティ属性における属性値を定める
コア・データタイプとビジネス・データタイプを定義するルールを定めたものです。
これはまた国連 CEFACT が、承認済のコア・データタイプとビジネス・データタイプの包括リスト
を発行することになっております。コア構成要素データタイプカタログ第 3.1 版はこのリストの第一部を
構成するもので、また国連 CEFACT が定義したコア・データタイプ(CDTs)
も含まれています。ビ
ジネス・データタイプは(BDTs)はコア構成要素ライブラリーの一部として、国連 CEFACTディレク
トリにて公表されます。このカタログにはデータタイプ中で使用されるプリミティブと呼ばれるタイプの詳
細なリストおよび説明も含まれています。仕様は下記のホームページでご覧になれます。
http://www.unece.org/fileadmin/DAM/cefact/codesfortrade/CCTS/CCTSDTCatalogueVersion3p1.pdf
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記事4. 第19回国連CEFACTフォーラムのお知らせ
第 19 回国連 CEFACTフォーラムが、2012 年 4月16日から20日まで国連欧州本部(the Palais des
Nations)で開催されます。
ビューロ(役員会に相当)は、国連 CEFACTに参加されている専門家、各国代表団長および代表
団員の方々に、次回フォーラムに参加されることが極めて大切である事を申しあげます。
第 19 回フォーラムの重要課題は以下の通りです:
●
第 18 回国連 CEFACT 総会(2012 年 2月15日-17日)の決議事項の実施
●
現行プロジェクトおよび各ドメイン活動の推進
●
定常的な保守管理(UN/EDIFACTの保守要請(DMR)など)
●
新組織の下での、新規プロジェクトの編成と承認
●
外部組織に対する渉外活動の継続
●
ビューロプログラム支援(BPS)の具体的運用
フォーラム参加者は、新組織の下での運営に多くの方法で貢献出来ます。企画開発領域(PDA)を
構成するプロジェクトおよびドメインでの会議に参加することで、改革後の新組織での実活動を推進する
ことを支援出来ます。
国連経済社会理事会の下で、欧州経済委員会(UNECE)は、民間および政府機関のビジネスプロ
セスをカバーし、国際貿易およびそれに関連するサービス産業の成長を促す貿易円滑化の為の勧告と
電子ビジネス標準の開発活動の中心としての役割を果たします。この趣旨に従い、UNECE 通商委員
会の下部組織として、貿易円滑化と電子ビジネスのための国連センター
(国連 CEFACT)は設立され、
上記領域において世界的な協調と調和を達成するために必要な活動計画を策定し実行する使命を与え
られております。
国連 CEFACTは、先進国から発展途上国、および移行経済諸国に至るまでの民間企業、通商お
よび行政組織が、生産物やサービスの交易を効率的に営む能力を向上させるいろいろな改善活動を支
援しております。
国連 CEFACT 活動の重点は、ビジネスプロセス、貿易手続き、および情報の流れを簡素化し、か
つ調和のとれたものとすることにより国内および国際貿易を円滑化し、強いては世界の商業活動の成長
に貢献することにあります。
国連 CEFACTフォーラムは、世界の様々な場所で、年に2 回開催され、国連 CEFACTに参加し
ている専門家が一堂に会し、様々な活動分野間の交流と相互啓発の場となります。フォーラムに参加す
る専門家は、貿易円滑化のための勧告の開発、電子ビジネスのための標準とそれを支える技術仕様の
開発を行っています。
参加をご検討される方は下記の詳細情報をご覧下さい。
http://www.unece.org/index.php?id=28431
これまで開催されたフォーラムの情報は下記をご参照下さい。
www.unece.org.unecedev.colo.iway.ch/index.php
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̶ 協会ホームページのリンク集のご案内 ̶
http://www.jastpro.org/link/index.html
当協会のホームページのリンク集には、当協会の活動と日本輸出入者コードのユーザの方々の
お役に立つと思われる関係諸機関・団体のホームページへのリンクを下記の分類で掲載しており
ますので、ご活用下さい。
s 当協会に関係する我国の官公庁・公的機関(独立行政法人を含む)
s 輸出入関係手続きに関係する業界団体等
s 輸出入関係手続きに〔国内物流〕関係する情報源と用語集
s 国際空港の公式ページ
s 国際貿易港の公式ページ
s 貿易振興・簡易化や電子商取引の標準化活動を行なっている国内組織・団体
s 貿易振興・簡易化や電子商取引の標準化活動を行なっている海外組織・団体
s 貿易振興・簡易化や電子商取引の標準化に関係する国際機関
sその他の組織・機関
JASTPRO 第37巻 第11号 通巻第401号
本協会の事業は、財団法人JKA、
日本財団、財団法人貿易・産業協
力 振 興 財 団 からの 助 成 金 等、
・禁無断転載
平成24年2月29日発行 JASTPRO刊11-12
発 行 所 (財)日本貿易関係手続簡易化協会
東京都中央区八丁堀2丁目29番11号
八重洲第五長岡ビル4階
電 話 03- 3555- 6031
(代)
ファクシミリ 0 3- 3555- 6032
http://www.jastpro.org
関係業界からの寄付金および賛助
会費ならびにコード事業の収入に
よって行われております。
編 集 人
山 本 達 見
本誌は再生紙を使用しております。
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̶ JASTPRO広報誌電子版への切り替えのご案内 ̶
当協会の広報誌は 2007 年 4 月より印刷版と電子版の 2 つのメディアを提供しております。
印刷版と電子版は二者択一ではございませんが、印刷版につきましては賛助会員の方々には、
これまで通り口数を配布部数の上限とさせて頂きます。
(電子版には制限はございません。)
電子版への切り替えと、配布部数の追加方法:
毎月20日までに、次の項目を下記のアドレスへ送信してください。
sご所属の組織名称 s 所属されている部署
s申込者氏名
s 連絡先電話番号
s 送達をご希望のメールアドレス
【申込み宛先】
(財)日本貿易関係手続簡易化協会
業務第三部長 平井一海
E-mail address: [email protected]
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