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生理活性を持つアミド誘導体合成経路の 計算化学的検証 - J
生理活性を持つアミド誘導体合成経路の 計算化学的検証 О7 (山口大院理工)○松尾勇二郎,貞富博喬,山口 徹, 隅本倫徳,堀 憲次 た。 序論 1. 近年のコンピュータ技術の著しい進歩に伴 った合成経路設計システムの登場により、コン ピュータを利用したより効率的な合成経路開 発が実用されつつある。合成経路設計システム とは、逆合成の概念に基づいて、目的化合物に 至るまでの合成経路を提案するシステムの総 称である。目的化合物について考えられる限り の前駆体と合成法を提案し、さらにそれらの前 駆体の逆合成を繰り返し行うことで、一つの化 合物に対して多くの合成ルートを自動的に提 供する。 合成経路設計システムは多くの合成ルート の可能性を提案するが、重複や実現性の低いも のも含まれる。そのため、有効な合成経路を絞 り込み、その中からさらに優先順位付けを行っ て、実用化の望める合成経路を選抜する必要が ある。我々の研究室では、有機化合物の合成経 路開発を行うにあたり、理論計算により経路の 可否を検証し、実際に行う実験の数を減少させ ることで開発費の削減や開発時間の短縮を目 指した研究を行っている。 本研究では、この理論計算を用いた合成経路 開発の有効性を示すことを目的として、5-HT 拮抗作用等の薬理学的活性を有するアミド誘 導体 1 について検証を行った。合成経路設計シ ステム KOSP により創出された合成経路(図 1) RouteA~D について理論計算により検証を行っ RouteA(アミド化) RouteD(鈴木-宮浦クロスカップリング) H2N O O Cl + N H 3 N 2 N B(OH)2 + N N Br 7 Pd(PPh3) base base O N H N 1 EtOH N AcOH acid HO O H N H O 4 H + H2N 5 O 6 RouteB(ピナーピリミジン合成) 図1 N NH N N RouteC(ベックマン転位) KOSP により得られた経路 *[email protected] 8 2. 計算方法 全ての分子構造最適化及び遷移状態(TS)計算、 IRC 計算に密度汎関数理論(DFT/B3LYP 法)を 用いた。Pd の内殻電子は有効内殻ポテンシャル (ECP)で置き換え、基底関数は Pd 原子には lanl2dz を、その他の原子には 6-31G*をそれぞ れ用いた。全ての計算には、Gaussian03 プログ ラムを使用した。 3. 結果と考察 アミド誘導体 1 にKOSPを適用した結果、11 通りの合成経路が示された。それらをさらに有 機化学的考察によって絞込み、目的化合物を得 られる可能性が高いとされる 4 つの経路につい て理論計算を用いた検証を行った。図 1 の各反 応経路について反応解析を行い、律速段階の活 性化エネルギー(Ea)及び反応熱(∆E)を算出した。 RouteAではアミン 3 がカルボン酸クロライド 2 のカルボニル炭素に求核攻撃し四員環遷移状 態を経てアミド 1 とHClを与える。この経路の Eaは 18.9kcal mol-1と計算された。生成物 1 は 反応物(2+3)に比べて 8.9kcal mol-1安定である と計算された。これらの結果は反応が常温で進 行し、生成物が容易に得られることを示唆して いる。実際、RouteAについては 61.2%の収率で 1 を得ることが実験的に報告されており[1]、そ の結果とよく対応している。 RouteBはジアルデヒド 4 とアミジン 5 の脱水 縮合によりピリミジン環を構築する経路であ る。この経路は 1 に至るまでに 5 つのTSを経由 し、律速段階のEaは 30.7kcal mol-1、最終的な∆ E は-27.7 kcal mol-1と計算された。 RouteCはオキシム 6 を基質としたベックマン 転位反応である。この経路もRouteBと同じく 5 段階で進行し、律速段階のEaは 27.2kcal mol-1、 最終的な∆ Eは-35.4kcal mol-1と計算された。 これらの結果は、RouteAに加え、両反応経路 でも合成可能であることを示唆している。現在、 基がトランス位へ移動する異性化反応が起こ り 19’が生じる。19’から 22 への変化によりト ランスメタル化がされる。アリールホウ酸のホ ウ素とPdに結合した水酸基が相互作用して中 間体 20 を与え、続けて配位子が脱離し中間体 21 を経て 22 に至る。最後に 2 つのアリール基 が還元的脱離し、カップリング化合物 23 が生 成する。18 から 23 に至るまでの反応熱は 45.2 kcal mol-1と計算された。 L=PH3についても同様の反応解析を行ったと ころ、類似したエネルギーダイアグラムが得ら れた。酸化的付加(18b-19b)の活性化エネルギ ーは 14.2kcal mol-1であったが、これはL=PPh3の 場合に比べ 3.5kcal mol-1小さい。更に、20a-21a の活性化エネルギーが 6.2kcal mol-1であるのに 対し、20b-21bのそれは 16.3kcal mol-1と計算値に 大きな違いが見られた。これらの違いは、図 4 に示す様に嵩高い配位子PPh3 の立体反発によ るTS18-19及び中間体 20aの不安定化により生じ RouteBおよびRouteCの実験的検証を行ってい る。ただし、RouteAと比較してRouteB,Cの律速 段階のEaはやや大きいため反応を進行させるに は加熱等の特別な処理を加える必要があると 予想される。 RouteDは鈴木-宮浦クロスカップリング反応 を用いる。この反応は 0 価のパラジウムを触媒 としてハロゲン化アリールと有機ホウ素化合 物がカップリング反応するものであり、その触 媒サイクルは酸化的付加、トランスメタル化、 還元的脱離の 3 段階を経て進行することがこれ までに提唱されている[3]。計算した反応経路に ついて図 2 に示した。配位子LにPPh3を用いた 場合をRouteDa、PH3を用いた場合をRouteDbと して表記した。また、それぞれの構造番号の後 にaまたはbを付けて 2 つの経路を区別した。生 成物 23 は目的化合物 1 の一部を水素に置き換 えたモデル反応の解析を行った。 反応解析から得られたRouteDのエネルギー ダイアグラムを図 3 に示す。反応はハロゲン化 アリールと 0 価のパラジウム触媒が酸化的付加 して 19 を生成することから始まる。L=PPh3の 機構では酸化的付加(18a-19a)が律速であり、 その活性化エネルギーは 17.7kcal mol-1と計算さ れた。その後Br-がOH-と置換され、さらに水酸 N N L Pd Pd L N OH B H O N N L N L Pd R 20a:L=PPh3 L + L 21 N N R L + N L + PdL2 + 20b:L=PH3 図 4 中間体 20 の配位子による立体阻害 OH (HO)2B 20 Pd ∠P-Pd-P:175.9º P N Pd L B(OH)2 19 N R OH OH N Pd P 19 L Pd R Br L 18 P P a b L PPh3 PH3 H R N L ∠P-Pd-P:154.0º Pd N Br + P B(OH)3 るものと考えられる。 以上の結果から、鈴木-宮浦クロスカップリン グ反応のメカニズムを理論計算を用いて解析 する際に、PPh3をPH3にモデル化して計算する とあまり良い近似とならないことが分かる。 現在、RouteD について置換基 R を 1 と同じ ものにして引き続き計算及び実験的検証を行 っており、その詳細は当日の発表で報告する。 OH R (HO)2B 22 図2 17.7(17.7) 14.2(14.2) TS18-19 23 RouteD の反応機構 10.7(15.9) Not found TS19 -20 14.5(6.2) 7.5(16.3) TS20-21 8.3 11.3 22-23 2.8 0.0 18 16.8(5.5) Not found TS21-22 -5.2 -5.2 -13.0 -13.0 19 19 -9.8 21 20 L=PPh3 L=PH3 ()内の数値は各段階の活性化エネルギー(Ea) 単位は全てkcal mol-1 図 3 [1] アステラス製薬株式会社(旧・藤沢薬品工業株 式会社). 伊藤 清隆、スピアーズ,グレン, ダブル.、高橋 史江、山田 明、冨島 昌紀、 三宅 宏. アミド化合物. 特表 2003-511380 4.0(10.9) [2] Yamabe, S.; Tsuchida, N.; Yamazaki, Not found TS S., J. Org. Chem. 2005, 70, 10638-10644. [3] Sumimoto, M.; Iwane, N.; Takahama; T., Sakaki,; S., J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, 10457 -6.9 22 RouteD のエネルギーダイアグラム -45.2 23+PdL2+B(OH)3