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コンピュータシュミレーションによる砲丸投げの力学的研究
NAOSITE: Nagasaki University's Academic Output SITE Title コンピュータシュミレーションによる砲丸投げの力学的研究 Author(s) 木村, 広 Citation 長崎大学教養部紀要. 自然科学篇. 1990, 30(2), p.595-607 Issue Date 1990-01 URL http://hdl.handle.net/10069/16608 Right This document is downloaded at: 2017-03-31T06:53:23Z http://naosite.lb.nagasaki-u.ac.jp 長崎大学教養部紀要(自然科学篇) 第30巻 第2号 595-607 (1990年1月) コンピュータシュミレーションによる砲丸投げの力学的研究 木村広 (1989年10月31日受理) A Mechanical Analysis of Shotput with Computer Simulation Hiroshi KIMURA Abstract In this study, the performance of the shotput was analyzed by using a computer simulation method. The following results were got: a) The optimal angle of release of the shot was calculated about 36 degrees, which had been reported as 41 degrees in other studies. Almost all of the best shotputters in the world throw about in 36 degrees. This angle of release, 36 degrees has to be said around optimal. And this optimal angle is depend on the possible distance thrown. b) The importance of angle of release is greater in the top athletes than low skilled shot putters. c) Too high approach velocity is unnecessary to get a longer distance. 0.緒言 スポーツのバイオメカニクスを研究する目的の-つは,スポーツ選手個人個人のスポーツパ フォーマンスの発展に寄与することである.スポーツパフォーマンスは,それぞれ,そのスポー ツに特有の,時間的,空間的制約を受ける.例えば,ここで取り上げる砲丸投げでは,選手は 直径2.135mのサークルの中で動作を完了しなければならない.そういった制限の下で,質 量が7.25kgの砲丸をできるだけ遠くへ投げるには,一体どんな投げ方をすればよいか,ある いは,一体どんなトレーニングをすればよいかを研究するわけである. 本稿では,コンピュータシミュレーションを使って砲丸投げの分析をする. まず,始めに,砲丸投げの投射角皮の問題について分析する.砲丸投げの投射角度は理論的 に40度から43度が最適であるといわれてきた(Bangeretarn, Hay2), Hermann3¥ McGill- , Pagani6), Woicik6),松井0.その一方で, McCoy'やDessurealt9'やGrohllは,世界のトッ プクラスの選手の投射角度を測定して,その平均値が,それぞれ, 37.2度, 36.8度, 37.5度 であったことを報告している.つまり,現在まで受け入れられている理論では,実際のパフォー マンスを十分に説明することができない.前述したように,砲丸投げのパフォーマンスは,砲 丸を加速できる距離の短さ,砲丸の質量の大きさによって,運動に制約を受ける. 41-42度 が最適投射角度であるのはそれらの制約を受けないときだけである.ここで行うコンピュータ シミュレーションは簡単なものであるが,それらの制約を取り込んだものとなっている.ここ 596 木村広 でのシミュレーションによって求められた最適投射角度は,現実のエリート選手の投射角度と 良く一致して,シミュレーションが簡単なものでありながらも重要で本質的な部分をおさえて いることを示唆した. そして,このコンピュータシミュレーションを利用して,投射速度,投射角度の重要性がど れほどの大きさであるか,また,それらの重要性はシミュレーションの初期条件によってどの ように変化するかを算出してみた. 最後に,このシミュレーションによると投榔距離を伸ばすために選手はどのくらいパワーアッ プが必要とされるかを明らかにし,さらに,助走スピードは低く保った方が記録の向上につな がる可能性があるという結果が得られたことについて報告する. 1.貴通投射角度について 1.1概要 Bangertarn, Hay2), Hermann3', Pagani6>, Woicik6松井7)らは,砲丸投げの理論的な最適 投射角度を41-42度と計算している.この計算をするにあたって,彼らは,選手はどんな投 射角皮であってもー定の速度で砲丸を投げ出せる,という仮定を取っている.表1は松井の示 したデータの抜粋である.表に示したような結果から,砲丸投げの最適投射角度は41-42度 位と報告しているわけであるが,この計算の仮定は現実的な仮定ではない.砲丸のように重い 物体を投げる場合には,物体を加速しているあいだに物体にかかる重量は無視できるほど小さ くはなく,投射角度を大きくしようとするほど,投射初速度が低下することが容易に想像され るからである.実際の最適投射角度は,彼らが計算した41-42度よりも低いはずである.・池 上ll)は最適投射角度が41度以下であることを予想はしているものの,理論付けて実際に計算 して算出するには至っていない. 一方,実際の投郷のフィールドデータとしては, McCoy'が20mを越える投郷をする男子 選手の投榔試技を測定しており,その投射角皮の平均値が37.2度であったことを報告してい る(表2).はかにも, Dessurealt9)やGrohllが,選手の実際の投射角皮は36.8度, 37.5度で あったと報告じている.丸野12)の測定では,投榔距離が13-15m程度の選手の投榔角度はさ らに低く, 35.6度であったとされている. 20mを越える投櫛をするような,世界でもトソプクラスの選手のパフォーマンスが,最適 な運動とかけ離れているとは考えづらく,今までの砲丸投げの理論は現実の運動を十分に把握 してはいないと言える.運動のパフォーマンスを説明する理論は,トップクラスの選手のパフォー マンスが最適な運動に近いことを説明でき,その他の選手のパフォーマンスを発展させるため にはどうすべきかという示唆を与えられるものでなければならない.ここでは,従来無視され ていたプッシュオフフェーズ中の砲丸に加わる重力の影響を無視せずにシミュレーションを行 い,改めて最適投射角度を算出してみる.従来の研究が砲丸の投射速度は一定という仮定を設 けていたのに対して,ここでは,プッシュオフフェーズ中に選手が砲丸に加えられる総力積量は 一定である,という仮定を取る.そのうえで,選手が砲丸に加える力の角度の変化をシミュレー トして,最も,砲丸が遠くまで飛ぶ投射角度を算出する.砲丸はリリース後,放物運動をする と仮定する.現実的には,力を発揮する方向が変われば,出せる力の大きさが変化する可能性も あるが,とりあえず,ここではそれを無視する.さらに,選手の腕の質量も無視する.それら, あえて無視された変数を考えにいれて再び計算をやり直すのは今後の課題のひとっである. しかし,結果的には,ここで取られた非常に簡単な仮定のもとにすすめられた計算によって ち,十分高い精度で,一流選手の投郷をシミュレートできることがわっかた.すなわち,ここ での投榔運動のシミュレーションは現実の運動をよく表現していると考えられた.この結果を コンピュータシミュレーションによる砲丸投げの力学的研究 597 Table 1. Matsui (1984) 's data extracted. He concluded the optimal angle of release was 41 degrees from this table. (so m e p arts are o m itte d b v H .K im ura) v elo city 1 1 m ′S A n g le o f R elease 380 39 40 41 42 43 14 .14 14 .17 14 .22 14 .2 1 14 .19 14 .17 12 1 6 .4 6 16 .5 1 16 .5 6 16 .5 6 16 .5 8 16 .5 5 13 1 8 .9 6 19 .0 4 19 .11 19 .14 19 .13 19 .12 14 2 1 .7 1 2 1 .7 8 2 1.84 2 1 .8 9 2 1 .8 9 2 1 .8 9 Table 2. McCoy (1984) 's measurement of elite shotputters. (som e p arts are o m itted b y H .K im u ra) sh o t a n lg e (d e g ) v e lo c ity O tn , ′ se c ) a th le te d ista n c e (m ) BO 2 0 .18 ( 0 .6 9 ) 3 7 .3 (2 .9 ) 12 .9 8 (0 .4 3 ) DL 2 0 .0 4 (0 .76 ) 3 9 .5 (3 .5 ) 1 3 .2 7 (0 .5 7 ) KA 2 1 .16 (0 .4 4 ) 3 5 .2 (1 .6 ) 1 3 .4 9 ( 0 .3 4 ) M L 20 .8 9 (0 .3 9 ) 3 3 .4 (1 .5 ) 1 3 .2 2 もとに,選手の実際の運動の様子をここでのシミュレーションと比較検討することで,選手が もっと良い記録を出すためにはどうすることが効果的かを客観的に判断しようとした. 1. 2プッシュオフフェーズの定義 前脚(右利きの選手の場合は左足)の着地から砲丸のリリースまでをプッシュオフフェーズ とする.砲丸は投射初速度の80%以上をこの期間中に得ると報告されている. 1. 3運動方程式 ここでの計算のもとになる方程式は以下のとおりである. shotputDistanceが,砲丸の投榔 距離, releaseAngleが投射角度, releaseX, releaseYは砲丸のリリース時の水平位置,鉛直位 置を表す.水平位置は原点を投榔サークルの前縁に取っている. startX, startY, vinX, vinY, voutX, voutYは.プッシュオフフェーズに入ったときの砲丸の位置,および,速度で ある. strokeLenは砲丸がプッシュオフフェーズ中に加速される距離である. forceAngleは選 手が砲丸に加える力の角度, humanProductsは選手が砲丸に加える力積, gravityProductsは 重力によって砲丸に加わる力積, accTimeはプッシュオフフェースの継続時間, gravityは重 力定数である. また,計算に当たっては,砲丸のリリース時の水平方向変位, releaseXはゼロ,すなわち, 砲丸投げサークルの前線上となるように, startXを調整した. 木村広 598 s h叩utDis tano鰐releas eX+voutX flyingTime height-releas eY+ v ou tY fly ingTime+号fly ingTi-e releas eX=startX +S trokeLen Cos (releaseAngle) releas eY=s tartY+S trokeLen S in(releaseAngle) πleas eAngle-血cTan (堊) v outX =v inX humanProducts Cos (for∝An b allMas s S in (forαAn vuuu - ''JH ballMass gravityPr∝Iucts =gravity ballMas s a∝Time vinX=2.0 m/sec vinY - l.0 m/see startY= 1.1 m 1.4初期値 McCoyの測定データ8),および,西藤の測定データ13)から,プッシュオフフェーズ開始時点 での砲丸の位置,および,速度,選手のプッシュオフストロークの長さプッシュオフに要す る時間の長さを入手した.砲丸投げの投げ方には,サークル内を直線的に移動しつつ砲丸を加 速するオプライエン投法と,円盤投げのように体を回転させながら砲丸を加速するスピン投法 が現在行われているが,現在の主流はオプライエン投法であるので,オプライエン投法で投郷 を行った選手のデータのみを平均して採用した. 1. 5計算で求められた最適投射角度とエリート選手の投射角度の比較 力を加える角度を変化させたとき,砲丸の投射初速皮は図1のように直線的に変化した. 選手が砲丸に加える力積を3, 86, 76Nsとしたときの,力を発揮する角度とそのときの砲 丸の飛距離を図2, 3, 4に示す. それぞれ,力の角度が48.3, 48.5, 48.7度のときに,最も遠くまで砲丸が飛ぶと計算された. 力を発揮する最適の方向は,次で述べる砲丸の投射角度ほど,力積が大きい場合と小さい場合 で変化はなっかた. (09S/≡)AnooieAindjouc Figure 1. Shotput velocity at the moment of release with 96Ns products added in various angle during the push-off phase. コンピュータシミュレーションによる砲丸投げの力学的研究 599 (iu)eouejsiaindioiis <MCMCO (≡)eoueisiQindjouc 0 .3 0 .2 0 .1 3 台 3 4 . 3 6 . 由 4 0 . 台. \ 9 -9 9 .8 9 . Angle of Relase (degree) Figure 2. Shotput distance calculated with Figure 5. Shotput distance calculated in 96Ns products added in various various angle of release with 96Ns angle during the push off phase. products added during the push off phase. r - C c 1 d u O 1 s C 蝣 < D 1 COCOCOCO 1 1 1 1 ハ * 蝣 C c 1 O 1 (≡)ooueisinindious 6 1 N ( D i n 4 C O (≡)eoueisiaindioifs o 30. 32. 34. 36. 38. 40. 42. Angle of Relase (degree) Figure 3. Shotput distance calculated with Figure 6. Shotput distance calculated in 86Ns products added in various various angle of release with 86Ns angle during the push off phase. products added during the push off phase. 543 i C O J L l C O 一 一 I C O r l r C O t l (∈)aouejsiaincUoqs 30. 32. 34. 36. 38. 40. Angle ot Relase (degree) Figure 4. Shotput distance calculated with Figure 7. Shotput distance calculated in 76Ns products added in various various angle of release with 76Ns angle during the push off phase. products added during the push off phase. この結果を,砲丸の投射角度に直して表してみると,図5, 6, 7となる.まず,砲丸に加 えられる力積を96Nsとしたときの結果について考えてみる.計算では,最適投射角皮は36.9 皮,そのときの砲丸の飛距離は20.3mと求められた.もし,従来最適と言われていた41-42 木村広 600 Table 3. Comparisons between actual performance and simulation results. actual perform ance sim ulation results w ith m easured by M cC oy(s.d .) hum anProducts = 96N s velocity (m ′ S) 13.18 (0 .48) 13.5 3 angle (degree) 37.2 (3.5) 36.9 height (m ) 2.29 (0.ll) 2.06 distance (m ) 20.34 (0 .76) 20 .37 shot 度の投射角度をとった場合,本来達成可能な投榔記録よりも30cm以上低い記録しか出せない ことになる. このシミュレーションで求められた砲丸の投射初速度,投射速度,投榔距離は, McCoyの 測定した世界のトップクラスの選手の投郷の投射初速度,投射角度,投榔距離の平均値と非常 に良く一致した(表3).っまり,加速期間中の砲丸に加わる重量の影響を考えにいれるだけで, 世界のトップクラスの選手のパフォーマンスをシミュレートできたわけでる.逆に考えると, McCoyの測定した選手達は,自分が砲丸に加えることのできる力積のもとで投榔距離を最大 にする投榔角度,すなわち,最適投射角度の付近で投郷を行っていると考えることできる. ただし,選手個々について検討をしてみると,若干,投射角度を調整することで,さらに遠 くまで投I鄭することができる可能性がある選手もいる.例えば, DLは,投射角度39.5度で 砲丸を13.27m/secの初速度で投げ出しているが(表2参照),投射角度を3度低くすることに よって,投榔距離を15cm伸ばすことができる.男子の砲丸投げの世界記録の伸びとの比較で は,この長さは,おおよそ二年分の伸びに相当するから,決して小さなものではない.投射角 度を変えることに必要なエネルギーは,体力をさらに増強するのに必要となるエネルギーより も小さいであろうから, DLにとって投射角度を現在よりも低く抑えることは記録を伸ばす有 効な手段となるであろう.一方, KAは, McCoyの調査した選手の中で最も記録のいい選手 であり,彼の投射角度はここで計算された最適投射角度と1度未満の差しかない(表2参照). 投射角度データの標準偏差も小さいことから, KAは投射角度のスキルについては非常に高い ものを持っていると考えることができる. KAの場合,砲丸投げの投射角度を修正することに よって期待できる伸びは3cmに満たない. KAがさらに記録を伸ばすためには,体力をさら につけるか,投法に新しい工夫をこらす必要があるだろう. 次に,砲丸に加える力積を76Nsと仮定したときの結果に注目してみる.最適投射角皮は34.5 度であり,最大投榔距離は13.6mと計算されている.砲丸に加えられる力積を96Nsとして 計算した結果と比較すると,砲丸に加えることのできる力積が小さい場合には,最適投射角度 は低くなる,ということがわかる. この結果を,丸野12)の調査と比較してみる.丸野の測定では,日本のインターカレッジレ ベル選手の投榔距離,投射角度の平均値は,それぞれ, 13.48m, 35.6度であったとされている. ここでも,実際の選手のパフォーマンスと,ここで計算された最適値との差は,投榔距離で12 cm,投射角皮で1.1度と,非常に小さなものである. McCoyの調査した世界のトップクラス の選手と比べて,日本のインカレ選手は低い投射角度で投郷を行っているわけだが,この現象 の妥当性をも,ここで行ったシミュレーションで説明することができたといえよう. コンピュータシミュレーションによる砲丸投げの力学的研究 601 これらの結果から,ここで行った砲丸投げのシミュレーションの精度は十分高く,このシミュ レーションから求められる砲丸投げの最適投射角度は, 34-37度であったが,実際のエリー ト選手もこの最適投射角度の近くで投郷を行っていると考えることができた. 2.投射速度,投射角度の重要性の度合い 砲丸の投射速度,投射角度,投射高の重要性の度合いについては,漠然と, 「投射速度>投 射角度>投射高」のように言われていることが多い.また,松井7)のように,投射速度を, 13 m/see ± 2m/sec,投射角度を41度± 2度(松井の主張する最適投射角度が41度であったこ とに注意)して,その結果から,投射速度が重要である,という結論を導いているものもある. 砲丸に加わる重力の大きいことが砲丸投げの本質的な部分であるから,投射速度と投射角度 をそれぞれ独立変数として扱って, ±2m/sec,あるいは, ±2度したときの投榔距離の変化 について云々したのは,やや,無謀といえる.投射角度を変化させると投射速度も変わってく るだろうし,投射速度を大きくするために必要となるエネルギーの大きさと投射角度を高くす るために必要となるエネルギーの大きさも遵うであろうし.極値付近でパラメータの値を変化 させても関数の値に大きな変化はないに決まっている. 改めて投榔距離に及ぼすパラメータの重要性を求めるために,ここでのシミュレーションで 得られた砲丸の投榔距離の関数を微分して傾きを求めてみる.ここで求めた投脚距離の関数で は,投射速度(vout),投射角度(releaseAngle)は入力変数ではなく出力変数であるため, それらのパラメータの変わりに,発揮する力積の大きさ(humanProducts),発揮する力の角 皮(forceAngle)で関数を微分してパラメータの重要性を調べた.この方法によれば,投射角 度によって変化する投射初速度の影響を考えに入れることができる.このとき,投射高は力の 角度の関数であるので,別に,その項は設けない.投射高は,また,選手の身長およびリーチ に大きく依存し,トレーニングによって高められるものでもない. 96, 86, 76Nsの力積を加える場合に求められた最適投射角度から投射角度を± 5度する力 の方向を求め,その力の角度での微分係数を求めた. McCoyのデータによれば,エリ-ト選 手の37回の投郷の投射角度の標準偏差は3.5であり,エリート選手の平均の投射角度がここで 計算された最適投射角度と非常に近かったことを考え合わせると,殆どの選手が,最適投射角 度± 5度以内で投輝を行っていると考えてよい.関数を微分するにあたっては, AppleMacintosh のMathematicalを利用した. Mathematicaには,変数を変数のまま,つまり,記号として, 微分できる機能があるので,この類の計算には欠かせない道具である. Table 4. The derivatives of the function of shotput distance. -5 degrees from optim alangle of +5 degrees to optim alan Ele release optim al ansle 96N s dProducts 0 .374 0.379 0.372 dA n gle** 0 .112 0.000 -0.103 86N s dP roducts 0.336 0.34 1 0 .334 0.090 0.000 -0.0 87 0.299 0.303 0.294 0.067 0 .000 -0 .070 dA n sle 76N s dP roducts dA ngle dProducts means the derivative of shotput distance by products added to the shot. dAngle means the derivatives of shotput distance by angle of the force to the shot. 602 木村広 微分はさほど困難なものではない代わりに,出力される式が非常に長いため,微分の結果の 式を掲載するのはひかえ,各パラメータに値を代入した後の計算の結果のみを表4に示す.並 んだ数字のうち,上の数字は投榔距離の力積値による微分係数,下の数字は投榔距離の投射角 度による微分係数である.数字の絶対値が大きいほど,影響力が大であることを表している. まず,この表から,全般的に,投榔角度は発揮する力積の大きさほど重要パラメータではな いことが読み取られる.最適投射角度± 5度の範囲内では,投射角度の重要性は発揮する力積 値の重要性に比べて三分の一以下であった. 96, 86, 76Nsのいずれの場合にも,力積の増加が最も効果的であるのは,最適投射角度で 投郷を行うときである. 次に,発揮できる力積が大きい場合程,力積の単位変化量あたりの投榔距離変化も大きくな ることがわかる.具体的にいえば,最適投射角度で投郷をできる場合,発揮できる力積が76Ns から77Nsに増加したときには記録の伸びは, 30.3cmであるが, 96Nsから97Nsに増加でき る場合の記録の伸びは37.9cmと,より,大きな伸びが期待できるということである.別な言 い方をすれば,大きな投郷をする選手の方が,少ない力積量の増加で,大きな記録の伸びを達 成できる.しかし,世界記録を狙うような超一流の選手の場合は,ここでいう力積をほんのわ ずか増加させようとすることに非常に大きなエネルギーを必要とすることが普通である. 投射角度の重要性については,全般的には,発揮する力積の大きさよりも低いが,発揮する 力積が大きい場合ほど,微分係数の絶対値は大きくなっている.このことは,発揮できる力積 が大きく,投榔距離の大きい選手ほど,投射角度による投郷距離の変動が大きいことを表して いる.エリート選手ほど,投射角度にこだわるべきである,ということができよう. 以上示したように,ここで行ったシミュレーションから,砲丸投げのビギナーにとっては投 射角度にこだわるよりも自分の基礎体力をっけることが先決であり,エリート選手にとっては 投射角度も記録向上のための重要な要因となりうる,という結果を得ることができたと考えら れる. 3.投櫛距離を伸すめに効果な方法は何か? 3.1概要 投榔距離を伸ばすためには,砲丸に加える力を大きくすればよいと,単純に思われがちだが, 砲丸投げでは砲丸を加速できる距離が限られているため,大きくなった力すべてが,投榔距離 の伸びに寄与するわけではない.力が大きくなって,砲丸の加速度が大きくなれば,以前より も短い時間でサークル前縁まで到達してしまい,加速できる時間が短くなってしまう.加速時 問が短くなることは,選手が砲丸に加えうる力積がその分,小さくなってしまうことを意味す る. 同じことが,選手がプッシュオフフェーズに入るときの砲丸の速度についても言える.プッ シュオフフェーズに入るときに砲丸の速度が大きいことは,それだけ,短い加速時間でサーク ル前縁に達してしまい,加えうる力積が減ってしまう.また,プッシュオフフェーズ開始時の 砲丸の加速を大きくしようとしたために,長い距離を費やしてしまい,サークル前縁までの残 りの距離が短くなってしまうことも考えられる.プッシュオフフェ-ズ以前では砲丸と同時に 選手自身の身体も加速しなければならないから,プッシュオフフェーズ開始時の砲丸の速度を 大きくしようとするには,さらに多くのエネルギーを必要とするだろう. 多くの砲丸投げの指導者は,選手を指導するにあたって,低い速度でプッシュオフフェーズ に入るように指導していることが多い(Ariel16), Pagani!など).この助言は的を得ていると も言えるが,客観的なデータに裏付けされたものではない. コンピュータシミュレーションによる砲丸投げの力学的研究 603 ここでは,砲丸投げの記録を伸ばすためには,選手はどれくらいのパワーアップをしなけれ ばならないか,プッシュオフフェーズ開始時の速度はどのくらいが望ましいかを,第1章で行っ たシミュレーシぎンをもとに算出してみた.そして,前述の指導者達の助言に,客観的な,定 量的な科学的根拠を与えることを試みた. 3.2方法 ェリート選手のプッシュオフフェーズ中の砲丸の加速度曲線は,概して, ace(t) -K(1-Cost) と近似できる.さらに, ・accTimeu^accTime JK(1-Cost)dt--jdt 020 -accTime^X ffkcトCost)dtdx-芸^accTime^X //dtdx 000 。0 であるため,計算を簡単にするために(*)の代わりに, ace(t)=竺 2 の加速度で加速されるものとして,計算をすすめる.このように仮定しても(*)でwt- 2πとなる時間t,つまり,accTime中に砲丸に加わる総力積量は同じであり,かつ,その時間 中が移動する距離も同じである. ここで,一定の距離(ここではプッシュオフフェーズ開始の地点とサークルの前縁まで)を えて,砲丸に力を加えられない,という仮定をとり,McCoyの測定を受けた選手達の発揮で きる力の最大値が1割大きくなったとき,および,プッシュオフフェーズ開始時の砲丸の速 が1割大きく,あるいは,1割小さくなったときに,砲丸の投榔距離にどのような変化が生じ るかについて調査してみた. 3.3結果と考察 3.3.1選手の泰大力が10%増加したとき 選手の発揮する力の最大値が10%増加したとすると,加速期間中の平均の加速度は上で述 べたように,5%増加する.砲丸が,同じスタート位置で同じ初速度ベクトルを持っていたと すると,砲丸がサークル前縁まで達するまでの時間は0.274秒となった(増加前は0.280秒) 砲丸はこの時問を越えて加速されはしない.このときの砲丸の投射後の飛距離を図8のfma ±10%で示した.発揮する力の最大値が10%伸びると,飛距離は5.9伸びている.逆に言 えば,選手が現在の自分の最高記録を10%高めようとするときには最大筋力は16.9%高めら れる必要があると推測される. 3.3.2加速開始前の砲丸の速度を±10%したとき プッシュオフフェーズ開始時の砲丸の速度を10%遠くすると,加速時間は,0.274秒に減 少し,砲丸の飛距離は逆に低くなってしまった(図8,vin+10%).これは,十分な加速をでき 木村広 604 る前に砲丸がサークル前縁に達してしまい,投射初速度が低下してしまったことを表している. プッシュオフフェーズ開始時の砲丸の速度を10%遅くしてみると,加速時間は0.286秒とな り,遅くする前と比較して, 0.006秒長くなった.加速時問が長くなった影響で,砲丸に加え られる総力積が増加し,その結果,砲丸の投榔距離としては, 20cm長くなり, 1%の増加に なった(図vin-10%). これらの結果は,プッシュオフフェーズの開始期の砲丸の速度について重要な示唆を与える ものであると思われる.砲丸の投射初速皮を大きくする方法としては,砲丸を加速する以前の 速度をあらかじめ大きくしておくことと,加速する力を大きくすることが考えられるが,直径 2メートル強のサークル内で,選手が現在の世界記録を生み出す程度の大きさの力を発揮する 限りにおいては,加速する以前の速度がすでに大きいと,十分な加速をできる前に,加速可能 な距離を移動しきってしまって,砲丸の投射初速度の低下をまねき,投榔距離が低下すること につながってしまう.逆に,加速以前の砲丸の速度を低く抑えると,長い時間加速でき,加速 後の砲丸の速度を高め,投榔距離の増大につなぐことのできる可能性があることが,ここでの 計算で示された. 砲丸投げの指導者が,選手のパフォーマンスを高めるために,小さな速度でプッシュオフフェー ズに入るように指導していることは前に述べた.指導者は,指導者自身の選手時代に得た経験 から,そのような助言を行っているわけだが,その助言は本研究によって,はじめて理論付け がなされたと言うことができよう. (≡)°oueisinind}°LIS original fmax+1 0% viロ-1 0% - - vIn+10% Angle of Relase (degree) Figure. 8 How shotput distance is changed when the initial values in this simulation are changed? 3. 4加速パターンについて 上のシミュレーションでは,加速度のパターンは同じであるという仮定をとった.しかし, 砲丸に加える力積の大きさが同じでも,加速度のパターンを変えることができれば,さらに, 砲丸の投射速度を大きくすることが可能である. つまり,図9のように加速度のピークの発現する時間を遅らせることができるならば,同じ 時間で同じ力積が砲丸に加えられても,その時間内の砲丸の移動距離が短くなるから,その分, 加速に入る前の砲丸の速度を大きくすることができる. 加速度のピークの発現時刻を遅らせるためには.砲丸に近い,言い換えると,身体の末梢に 近い部分で発揮される力の発現を遅らせることが効果的である.末吉17)は砲丸投げの運動中 コンピュータシミュレーションによる砲丸投げの力学的研究 605 better 二コ uoijejaieoov Time Figure 9. The pattern of acceleration in bold line is more desirable to get longer distance than that in thin line. に肩関節,および,肘関節の働くトルクを測定して,肩関節トルクが砲丸を投射する方向に加 速方向に働いている間に,肘関節トルクが屈曲方向から伸展方向へ入れ替わることを発見して いる(図10).末吉はこの現象から,肘関節トルクは投射方向を調節するために用いられている のではないか,と推測しているが,筆者は,砲丸の投射速度を上げるための,および,加速度 ピークの発現を遅らせるための,砲丸投げ選手にとって重要なスキルではないかと考えている. つまり,肩関節が屈曲していって,砲丸の速度を高めている間,肘関節トルクは遠心力によっ て肘が開いてしまうのを抑えるべく,屈曲側に働く,肩関節トルクが最大となり,十分砲丸の 速度が高まった後,肘関節を伸展させて最後の最後の加速をするわけである. この予想を裏付けるためには,砲丸投げの運動について,さらに精密に, 3次元空間的な分 析を行う必要があるだろう. Figure 10. The direction of elbow torgue is changed after the shoulder torque getting greater (Sueyoshi, 1988). 606 木村広 4.今後のシミュレーションの課題 ここでのシミョレーションは,砲丸を加速する距離は一定であり,砲丸をリリースする位置 はサークル前縁の真上であるという仮定を取ったため,投射角度が低くなるにつれ,加速を始 める位置をサークル後縁に近づけなければならない.これを実現するためには,選手はグライ ドを全くしないか,グライドによって移動する距離をより短くしなければならないが,多くの 選手は,現在,すでに,グライドを極端に短くして,ストロークをできるだけ長く取ろうとす る投法を心掛けている.現在以上にグライドを短くしても,同じ様なパフォーマンスは可能で あるかどうかはここではわからない. また,砲丸をリリースした瞬間.選手の身体の前向きの速度が大きかったり,砲丸のリリー スポイントがサークルの前縁を大きく越えていたりすると,投榔後,選手自身がサークルライ ンを踏み越して,試技がファールとなってしまうことがある.植屋14)はスピン投法の有利な 点として,スピン投法による投輝がファールになりずらいことを挙げている. さらに,それとは別に,選手がファールを恐がったときにはパフォーマンスが低下すること がある.これは,位置とか運動量といった純粋に力学的な変数ばかりでなく,心理状態などの ように目に見えない変数もパフォーマンスに影響を及ぼすことを表している.これからのバイ オメ舟エクスは,そのような総合的な視野にたって,人間の運動を分析できるものでなければ ならない18)もちろん,コンピュータシミュレーションはそこでも重要な役割を果たすであ ろう. 力学的にさらに精巧なモデルを作ること,および,心理的作用を含めたパフォーマンスのモ デルをコンピュータシミュレートすることは今後の研究課題である. 5.まとめ ここで行ったコンピュータシミュレーションによって以下のことが明らかにされた. 1 )砲丸投げ選手の砲丸投げパフォーマンスは,プッシュオフ期に砲丸に加わる重力の影響 を考慮にいれたシミュレーションで表現することができる. 2 )砲丸投げの最適投射角度は,選手の達成可能な投榔距離によって異なる. 20mを越え る投輝をする選手では最適投射角度は約37度であり, 15m程度の投輝をする選手の場 合は35度程度と低くなる. 3)投射速度と投射角皮の重要性の順位については,従来,報告されていたとおり投射速度 の方法が全般的に大きかったが,その重要性の度合いは,発揮する力積,投射角皮によっ て変化した.大きな投櫛をする選手ほど,投射角度にこだわるべきであることが定量的 に示された. 4 )投榔距離を10%伸ばすためには選手は筋力を16.9%増強させる必要がある. 5)加速に入る前の砲丸の速度を大きくしても,投榔距離を伸ばすことはできない.反対に, 加速前の砲丸の速度を低く抑えることによって,記録を伸ばせる可能性がある. コンピュータシミュレーションによる砲丸投げの力学的研究 607 【参考文献】 1) Bangeretar, B.L. :The application of Biomechanics to Track and Field.Track and Field Reviews, 7, pp.34-85, 1979. 2) Hay J, G. :The Biomechanics of Sports Techniques, Prentice Hall, 1987. 3) Hermann G.W. :An electromyographic stdudy of selected muscles involved in the shot put.Research Quarterly, 33, pp. 85-93, 1962. 4) McGill K. :Analysis chart for the shot put, Track and Field Quarterly Legkaya atletika, No.9, 1966. 5) Pagani T.:Mechanics &technique of the shot, Track Technique, pp.2601-2602, W, 1981. 6) Woicik M.:Shotput, Track and Field Quarterly Review, 83(1), 4, 1983. 7)松井秀治:投運動種目, In:現代体育・スポーツ大系第13巻pp.76-82, 1984. 8) McCoy R.W., R.J.Gregor, C.W.Whiting, R.G.Rich and P.E.Ward: Kinematic Analysis of Elite Shotputters,Track Tequnique.F, pp.2868-2871, 1984. 9) Dessureault J.:Kinetic and Kinematic factors involved in shot putting, In:Biomachanics VI-B,(Eds.E.Asmussen and J.Jogensen), pp.51-60, 1987. 10) Groh H.etc.:De la cinetique et de la Dynamique des mouvements corporels rapides, etude concernant les phases finals di lancer du poids javelot, Sportarzr 10, 1966. ll)池上康男:投げ出された物体の運動, In:現代体育・スポーツ大系第7巻pp.233-236, 1984. 12)丸野多恵子,末吉靖宏:砲丸投げによる下肢の回転運動について,鹿児島大学教育学部卒 業論文, 1987. 13)西藤宏司,浅川正一,三浦望慶:砲丸投げの投てき動作に関する研究(n) - 「投げの動 作について」-,中京体育学論叢vol.15, No.2, pp.1-16, 1973. 14)植屋清見西藤宏司,斉藤慎一:砲丸投げの技術分析的研究, In:身体運動の科学V, pp.214-221. 15) Wolfram S. :Mathematica, Addison Wesley, 1988. 16) Ariel G.B. :Biomechanical Analysys of shotputting, Track and Field Quarterly Review, 79(4), pp.27-37, 1979. 17)末吉靖宏:砲丸投げにおける上肢の運動の力学的解析,鹿児島大学紀要,体育科報告,罪 21号pp.57-67, 1988. 18)宮地力:スポーツバイオメカニクスにおける運動のモデル化の新しい視点,筑波大学体育 科学系紀要, 1989. (印刷中)