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動学的一般均衡モデルへの招待

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動学的一般均衡モデルへの招待
研究ノート
動学的一般均衡モデルへの招待
weN ML-SI
モデル分析
加藤涼*
国際通貨基金
平田英明*
法政大学
近年じて金融政策分析では、動学的一般均衡モデルの l つであり、家計や企業の期
待を解析的に扱える New -SI [Mモデルが標準的に用いられている。本稿では、この
モデルの基本構造を紹介し、近年の原油価格の国内物価への波及度の低下が、期待
インフレ率が抑制されていることに起因する可能性を指摘する。また、 New IS-LM
モデルに関連した研究の展望について述べる。
1
はじめに
近年、
Genral
rNew
IS-LM
Equilbrium
モデル」と呼ばれるシンプルな動学的一般均衡モデル (Dynamic
モデル)が、従来のマクロ計量モデルや伝統的な SI 瑚 モ
<DGE>
デノレに代わって、経済政策の現場でよく用いられるようになっている。このモデルは、
例えばカーネギー・メロン大学のベネット・マッカラム教授がアメリカン・エコノミッ
ク・レビュー誌の論文 (McCalum
02(
1)で、
「学界・中央銀行界における金融政策
分析のコンセンサス」と宣言しているほか、欧米大学院における金融論の耕ヰ書として
近年利用される機会の多いコロンピア大学マイケノレ・ウッドフォード教授の名著
)302(
Wodford
New
モデルは 2 本の構造方程式
IS-LM
* (加藤)
lanoitanretnI
でも標準モデルとして扱われている。
liamE
@ogro.fmi
yratenoM
hsoh@atarih
takr
将来予想される所得である期待所得を含め
lia,
mtoh@camneg
∞ pj yciloP
tnempoleveD
dna weiveR
eD 凹tnemtr
dnuF ,007 ht91 teertS
,
.N.W ,
notgnihsaW
,
.C.D 13402
,A.S.U
目 .ca P
J 干201 0618
東京都千代田区富士見 2 71 1 法政大学経営学部
,
(平田) l
iamE
本稿作成にあたり、本誌匿名の複数レフェリー、飯塚信夫氏、石塚慎司氏、香西泰氏、中村康治氏、松岡
秀明氏の各氏(順不同)から 貴重なコメントを頂いた。記して感謝したい。また、本稿で示されている意見は
すべて量
産者の個人的見解である。なお、日本経済新聞・経済教室に掲載された平田英明 r ~フォワードノレツ
キング』な金融政策J 2( 的 7 同月初日)は、金融政策と動学一般均衡モデノレの 関係および科高のシミュレ
ーショ:結果を
般向けに紹介したものである。
,
002
日本経済研究比 75 7.7
12
た SI 曲線とニューケインジアン・フィリップス曲線 weN(
Keynsia
Philps
Curve
から成り立っているに
)CPKN
Y t
:CPKN
ただし、y==
= P lE
"t
PDG
l
tY t+
+ P2Y
= s,
1E 九 +1
ギャップ、 F
tl
+β~2 JZ't_l
σ
i( t + aY
E t" t+1)
tl
)
l
(
:SI
+弓
+ s3 V f
)2(
インフレ率、 I 二名目短期金利、 ε= 総需要、ンヨツク、v==
総供給、ンョック=原油価格ショック、その他のギリシャ文字は正のパラメーターとする。
この )1( 式と )2( 式に金手Ijの決定メカニズ、ムを表す何らかの金融政策ノレーノレを追加し
(または GDP
て
、 GDP
ギャッフ)、インフレ率、名目短期金利の 3 つをモデ、ノレによって
決定される変数、すなわち内生変数とするモデ、ノレが閉じる。このモデ、ノレに、総需要およ
℃総供給に対する外生的ショックを与えて、シミュ L ーションを行う。
New
-SI lMモデノレは、価格が一部硬直的な状況下で独占的競争を行っている企業群の
動学的最適化行動から導出される動学的一般均衡モデルである。見た目が学部レベノレの
教科書に必ず登場する伝統的な SI 曲線とフィリップス曲線 SA(
から、 New
-SI lMモデ、ノレなどと呼ばれる。
New
曲線)に似ていること
SI 川モデ、ノレは、①ノL ーカス批判に対応
した民間主体の期待形成の役割を織り込んだモデノレ設計となっていること、②そのコン
パクトさ、③数々の実ENi 5士析の蓄積の結果として実証的なパフォーマンスも向上してき
ていることなどから、学界でも政策の現場でも近年頻繁に用いられている。もっとも、
その名称とは裏腹に ML 曲線がモデル内に存在せず、代わりにテーラーノレールのような
名目金利を決定する金融政策ノレーノレが付加されるのが通常であるので、その意味では
weNr
SA-SI
モデル」と呼称すべきだが、ここでは慣例に従って New
-SI lMモデルとし
ている。
New
SI 瑚モデルが伝統的な SI 瑚 モデルと比較して優れている点を一言で言えば、
「期待)snoitacepx(
New
の役割を解析的 anlyti
は
l
に扱える」ことである。そこで、
SI 瑚モデルが政策の現場で実際にどのように利用されているか、具体的な分析例
ここでのニューケインジアン・ブイリップス 曲線は、Ga il dna G町 lt 町 )9991(
,aG il ,
eG r
rt
el dna
などで広く用いられているインフレ率の l 期ラグ項を含む定式化を援用している。この定
odilaS )5002(
)5002(
式化は、ハックワードノレッキングな価格設定を行う企業群の存在を仮定していることから、加藤・川崎
などで紹介されている完全にフォワードノレッキングなニューケインジアン・フィリップス 曲線
)3891(ovlaC(
型など) と区別するために、 「ハイブリッド型ニューケインジアン・フィリップス 曲線」など と呼ばれる こと
がある。なお、実証上のパフォーマンスはノ吋ブリッド型の方が 般 に高いとされている。
L
zepoL
Z1
日本経済研 究 比757.7
,
002
を紹介したい。
具体例として、原油価格の上昇の影響を採り上げよう。 207
年夏以降、引き続き原油
価格の上昇が見込まれる場合と下落に転じると予想する場合とでは、期待インフレ率が
当然異なる。これに伴い予想されるインフレ率も考慮した利子率である実質金利(~名
目金利期待インフレ率)も変化する。その結果、来年の原油価格変動に関する期待は、
実質金手Ijの変化を通じて現時点における消 費者行動・企業行動に大きな影響を及ぼすで
あろう。
期待所得や期待インフレなど、期待の変化が現在の経済活動に与える影響は重大であ
る。それにもかかわらず、伝統的 -SI [Mモデノレや従来のマクロ計 量モデルでは、期待変
数が影響を及ぼすメカニズ、ムを系統的(システマティック)に分析することが出来ず、
期待は不変であると仮定したり、何らかの期待の代理変数を用いるなどしたりして、ア
ドホックに処理していた。一方、ブオワートソレッキング(先読み的)な動学的一般均衡
モデルである New
値とは、 New
-SI [Mモデルを解くと、各変数の将来の期待直が判
明する。この期待
-SI [Mモデルの予想値と次期の実績値が(予想外のショックが事後的に生
じない限り)一致するように決められる ような合理的なものである。以上から、期待イ
ンフレ率はもちろん、実質金干Ijや長期金干Ij
(~将来の予想短期金利の平均値)などを相
互に整合的に求めることができる。以下では、特に期待インフレ率に焦点を当て、 New
SI 川モデルを用いた分析が、従来型の伝統的 -SI [Mモデルが提供できなかった政策的
インプリケーションを与える一例を紹介する。
2
原油価格の波及度の低下は真実か
原油価格上昇率が l パーセント上昇した時の国内物価上昇率(以下、インフレ率)の
変化を、 「原油価格の(国内物価への)波及度」と呼ぶことにし
よう。まずは、現実に
観察されるデータを用いて、原油価格の波及度の推計を行った場合を考えてみる。単純
な例として、当期のインフレ率F院を前期のインフレ率rt ,
,, GDP
油価格上昇率
V
,
という
3 つの説明変数でSLO
ギャップ y" 、当期の原
推計し、原油価格にかかるパラメーターを
計測したとする。
7[,二
b lr1 t_1 + _tYZb
)3(
l + h:
九+弓
ここで、誤差項 et は確率変数である各誤差項 eュ
,九
0
・
te' がお互いに独立であり、かっ
研究ノート
動学的
般均骨 モデルへの招待
123
同ヒ確率分布にの場合は正規分布とする)にしたがうことを仮定する
実際、このような推計(し、わゆる誘導形推計)は頻繁に行われており、推計値として
得られる原油価格の波及度んは米国や日本など多くの先進諸国において長期的にみる
と現在かなりの低水準にあるとこの原因として、①エネルギーの原油依存度の低下や②
企業をとりまく競争環境が激化していることから製品価格に原料価格の上昇分を転嫁
しにくくなっていることなどがよく指摘される。こうした指摘が正しいとすると、原油
価格の上昇に際して金融政策がより緩和的なスタンスで対応したとしても、過去に比べ
てインフレは生じにくいという示唆が得られる。
一方、 New
IS-
[Mモデ、ノレによる分析からは、全く目 jの視点から、むしろ正反対の政策
的インプリケーションカ1得られる。 New
IS-LM
モデ、ノレが真の経済構造を表しているとす
ると、 )3( 式の推計によって観察された h の低下は、上記①、②のようなインフレ抑制
的な構造変化(ニューケインジアン・フィリップス曲線における角の低下)が生じてい
るためではなく、家計や企業が、タカ派的(引き締め気味)な金融政策運営を期待に織
り込んでいることが影響している可能性がある。 l つの具体例として、 08 年代以前のわ
が国における原油価格に関する経験を考えることができる。 2 度のオイルショック期に
厳しい金融引き締めが行われた経験を踏まえ、例年代以降のわが国経済では、家計や企
業が原油価格上昇時には引き締め的な金融政策が行われると予想している結果、期待イ
ンフレ率が抑制されている可能性がある九こうした民間主体の期待を所与として「原油
価格の波及度が低下しているからインフレは起こりにくしリと考えた中央銀行がインフ
レ・リスクを過小評価し、より緩和的(景気刺激的)な政策スタンスをとったとしよう。
これに気付いた民間主体はタカ派的な金融政策予想、を修正し、期待インフレ率を上方修
正する。 )2( 式のニューケインジアン・フィリップス曲線を通じて、中央銀行が当初予
想した以上に急激なインフレが生じるリス クがある。以下、 New
モデルを用いて
IS-LM
このメカニス、ムを解析的に考えてみよう。
New
IS-
[Mモデノレの解として求められる期待インフレ率は、一定の前提の下で、前期
のインフレ率""と
GDP
ギャップ y1-t 、さらに当期の原油価格上昇率
Vt
の線形関数として
2 このような仮定を、独立同ーの正規分布の仮定、もしくは
yltnednepedni
dna y1lacitnedi
tsid ri
detub
i(
.i ).d の仮定などと呼ふ。
3 誘導形による推計は数多く行われている。例えば E 北 n
os te a.1)6002(
、Hok 目 白 川)2 などを参照。
• rタカ派的金融政策による期待インフレ率の抑制」という仮説は、一種の対立仮説である①、②のような「経
済構造変化仮説」を否定するものではない。現在のインフレ率が(例えばニューケインジアン・フィリップス
曲線のようなメカニズムによって)期待インフレ率の 影響を受けると考える限り、 )3( 式のような推計から政策
的インプリケーションを導 くことには必ず危険性が伴うことを指摘する ことが本稿の主眼である。
124
日本経済研 究 比 75 7.,
7002
表される。
r1
Et
t+l
二
内r1 t_l + 偽Y t - 1 + 偽v ,
3 のパラメーター (~</h,
,21/<)3>/<
や Gaus
れている Matlab
)4(
は、手計算でも求められるが、ウェブ、上で無料公開さ
等のコンヒ。ュータ・プログラムによって簡単に算出すること
ができるこれらのパラメーターの中身はいったんおいて議論を先に進めよう。この期
待インフレ率の)4( 式を New
SI 凶4モデルのニューケインジアン・フィリップス曲線()2(
式)に代入し、期待の項を消去すると次式を得る。
,r J
これは、 SLO
~β
(i 2 +β
,
,
1_r叫
J)
日
+(
',
o3v) ,
β
+ ',
o,
,
)y _,+(β3+β
)5(
の推計式である)3( 式と同じ形のため、誤差項 θz を無視すれば、
)6(
b3~ß3+ βl 偽
であることが分かる。 SLO
によって推計された原油価格の波及度九は、真の波及度の値
である β と比べて、負偽の分だけバイアスを持っている。
l五
0>
であるから、もしも仇
が負であれば、実際の(構造的な)原油価格の波及度に比べて期待インフレ率の影響分
だけ見た目の原油価格の波及度は害) 1 り引かれるのである。
このバイアスの存在は、真のインフレ決定メカニズムであるニューケインジアン・ブ
ィリップス曲線と SLO
推計式を見比べると当然の帰結であることが分かる。ニューケイ
ンジアン・ブィリップス曲線には、期待インフレ率が説明変数に入っているが、 SLO
推
計式にはこれがない。いうまでもなく、推計式から真の説明変数が欠落していれば、推
計値にはバイアスが生じる。真の原油価格の波及度β が変化していなくとも、期待イン
フレ率が何らかの理由で抑制されているような状況で推計を行えば、あたかも原油価格
の波及度が低し、かのように、推計値おが期待インフレ率の低下分を吸収してしまう。
5
以下のウェブサイト 7002(
mulaCcM
smiS
hslaW
aliuJ
otaK
,
.tenneB
年 6 月時点)や平田 002(
T
A
,
rehpotsirhC
,lraC
吋
,
,oyR
et.2bewpw/:pth
/!'pth
!'pth
lehciM
他
w/:pth
!'pth
7)所収の baltaM
即位
.notecnirp
剛哨
umc
プログラムを参明ヤ
吋
ulacm/ytlucaf/u
edu/~sims/
i/ d伺.341/dc
.brmq/esgd/c/gro.ceper
.pamerpec
哨
/gro.otakoyr
剛哨
/mlmth.hcraeser
lmth
.srnc
/eranyd/rf
伊
/camn
研究ノート
動学的般均骨モデルへの招待
125
3 金融政策の期待を通じた効果
期待インフレ率の決定メカニズムについて考えよう。期待インフレ率を求めるには、
New
SI
瑚モデルを解く必要があるので、金融政策ノL ーノレを追加してモデルを閉じなけ
ればならない。ここでは最も単純なテーラーノL ーノレを仮定する。
,
二q l
1
1[ t
+ Q2Y
)7(
t
オリジナノレのテーラーノレーノレでは、パラメーターはインフレに対して1. 5、GDP
プに対して .O 5 ずつ反応することを想定する(つまり中二1.
ギャッ
5,2l' .0= )5 。実は、見た
目の原油価格の波及度 h におけるバイアスβ仰は、合理的期待の仮定の下で2l' および
2l'
の関数になる。ここでのポイントは、ぬが<]1についての減少関数になっていること
であるこの関係は違和感なく解釈することができる。つまり、中央銀行が強固にイン
フレ・ブアイター的であれば(<]1が高い場合)、原油価格の上昇に際して市場参加者が
織り込む将来の利上げ幅は大きくなり、その結果、期待インフレ率は低下しやすくなる。
実際に1. 2 から 2.0
までの異なる<]1のもとで
New
SI 瑚 モデノレを解き、見た目上の原
油価格の波及度 h を計測すると、表 l のとおり、真の原油価格の波及度β に対して、推
計値は1. 6 倍から 9.0
倍程度まで変化する。これは l つの数値例であるので、モデ、ノレ内
のそ江他のパラメーターによって具体的な推計値は異なりうるが、バイアスが無視でき
ない幅で発生するとし、う結論は頑健である。
つま り、SLO
推計で得られた低い原油価格の波及度は、経済構造の変化が引き起こし
たものとは限らない。将来の引き締め的な金融政策スタンスを織り込んだ企業や家計が、
期待インフレ率を抑制していることが見た目上、影響しているた、けかも知れない。仮に
中央金財Tが従来型のマクロ言十量モデノレを根拠に政策立案を行っている場合、こうした民
間主体の期待を所与として扱わざるを得ない。この場合、中央銀行は観察されるイ晶、原
油価格の波及度(お)に安心してインフレ・リスクを過小評価することから、(本来はよ
りインフ L 警戒的なスタンスがより望ましいにもかかわらず)過度に緩和的な政策スタ
ンスをとってしまうかもしれなし九結果として、現実には所与ではなく政策に対して司
本稿で扱ったシンプノレな eN w SI LM モデノレでは、かなり広範なパラメーターの下で、ハイアスβ;l~もが q , に 関
して減少関数であることを示すことが出来るが、 より 般的な動学的般均衡モデノレにおいて期待インフレ率
がどのように振舞うか、一意的な予想解を導く ことは難しい。さまざまなパラメーターや政策ルーノレの形状に
依存して期待インフレ率は変化しうる ことに注意が必要である。なお、 weN SI ML モデノレの標準的な分析例と
ad ,laG idna eG ltr er(
)9991
などを参照。
してはalC ri
7 実際には、例えば 日本銀行では動学的一般均衡モデルである「日本経済モテツレり目的」が運用されている
6
126
日本経済研 究 比 75 ,
7.02
表 1 金融政策ル
ルと原油価格の圏内物価への波及度のバイアス
4
lj(
.1 2
.1
Mβ
.1 36
.1 13
.1 8
99.0
.2 0
09.0
変である期待インフレ率が上昇し、一絡に原油価格の波及度も上昇してしまうとし、った
事態は十分に起こりうる。
米国ではこうした問題意識に基づく実証研究が進んでいる。例えば koH
まず単純な SLO
)6991(
目
は
、
を用いて民間主体の期待形成の果たす役割をあえて考慮せず、 h に相当
する原油価格上昇の国内物価への波及度を推計した。推計結果から 09 年代に波及度が
低下したことを確認しつつ、こうした変化が原油エネルギーへの依存度の低下とし、った
経済構造の変化の結果ではなく、金融政策がより適切な運営形態
G直切なタカ派的運営
といってよいだろう)にシフトしたことにその原因を求めている。
weN
-SI [Mモデ、ノレは、ここまで論じたような期待を通じた政策効果の波及メカニズム
を系統的に分析することができる。現実経済における期待インフレ率は、より複雑な要
因に左右されるだろう。金融政策が期待インフレを通じてマクロ経済にどのような影響
を及ぼすのかを理解するために、 w
eN
SI 瑚モデノレを用いて構造パラメーターや政策ノレ
ーノレのシフトの効果を調べ、期待の形成メカニズムや波及経路を把握しておくことが望
ましい。本稿の主眼は、第 l 節で述べたとおり、標準的な weN
SI 瑚モデノレを用いた現
実的な分析例を提示することである。今後の研究としては、ここで述べた仮説を、より
一般的な動学的一般均衡モデルと統計的手法との組み合わせによって厳密に検証して
し、くことが考えられる。
.4 weN ML-SI
最後に、 w
eN ML-SI
モデルの展望
モデルに関連した、より一般的な研究の展望について述べる。 w
eN
SI 川モデルの起源、は 08 年代にメリーランド大学のギレノレモ・カノレボ教授らが考案した
カノレボ型粘着価格モデ、ノレ)3891(ovlaC(
)にまで遡るため、元になっているアイデア自
体は新しいものではない。 09 年代半ばに BRF
シニアエコノミストのジョン・ロパーツが
ijuF(
岡目前 a
.1 )502(
ほか、 B
RF 、BCE , FMI 等においても期待:J 変化を解析的に扱える動学的般たY 軒モ
デノレの利用が進んでいる。他方、期待を所与として扱う従来型のマクロ計量モテツレを中 ι
滑れこ使用し続けてい
る機関が存在していることも事実である。
研究ノート
動学的般均市モデルへの招侍
127
複数の名目価格の硬直性モデルが、ニューケインジアン・フィリップス曲線とし寸共通
の表現型を持つことを明らかにした streboR(
)591(
ことがきっかけとなり、 09 年代
後半から徐々に標準モデルとしての地位を確立してきた。
本稿で紹介した分析例は、いわゆる「ノL ーカス批判」の現実的な応用例である。原油
価格の波及度の分析例から明らかなように、期待を通じた効果が存在すると、政策のわ
ずかな変更が、見た目上の経済変数の関係を変化させてしまう、というのがノレーカス批
判のひとつ江解釈である。 New
SI 川モデノレは、その限界や問題点が認識されつつも、
ノ
L ーカス批判を回避できる便利な実用ツールとして、欧米を中心に多くの研究・政策機
関で用いられているノレーカス批判は理論家の非実用的なコンセプトではなく、現場で
の政策分析に役立つ重要なコンセプトである。
現在では、このモデルの限界や問題点もよく把握されており、そうした弱点をさまざ
まな方法で克服する方向で研究が進んでいる。既に述べたとおり、 New
現在、金融政策分析の標準的なモデルとなっている。シンフツレな New
での最適金融政策については、例えば hslaW
Walsh
は、中央銀行は PDG
)302(
変化と言っていいだろう
モデ、ノレは
ML-SI
モデルの下
ML-SI
がほぼ完全な回答を導出している o
)302(
ギャップの水準よりも PDG
ギャップの差分
景気の
をターゲ、ツトとして政策運営を行う方が、結果としてイン
フレ率と実体経済を同時に安定化させるということを示している。こうした研究成果は、
現在、実際の金融政策運営の理論的パックグラウンドとして捉えられている
また、グローパノレ化が進む中で、開方対径済下における New
で い る 。 例 え ば 、 ilaG
lekciN
)502(
dna
ilecanoM
や ilecanoM
)502(
SI 川モデルの研究も進ん
)502(
や intaB
dna
は、小国型開放経済モデノレにニューケインジアン・ブイリップス曲線を
導入したモデルによる分析を行っている。
さらに、ごく最近では、 New
ンよりも、 New
ML-SI
SI 川モデルを所与とした最適な金融政策分析のデザイ
モデルそのものの問題点をそのミクロ的基礎付けに立ち返って克
服しようとする研究が盛んになっている。 New
企業が Cas
ecnavdA-Ih
)AIC(
ML-SI
モデ、ノレの最大の仮定は、①家計・
制約に服していることへ
e 企業部門が独占的競争を行
わが国における主な既存研究としては、 場飼・鎌田 )402(
、加藤(却 )60 、加藤・川本)502(
、三尾2( 的 )5 な
どが挙げられる。
9 P
DG ギャップ水準に反応する政策が、(7)式のテーラーノレーノレであるのに対
L 、PDG ギャップの差分に回芯す
、
る政策をスピード・リミット・ポリシーと呼ぶ。スピード・リミット・ポリシーの有効性について、 G四hcilm )9991(
adeU )202(
など、中央銀行家からの言及が見られる。
01 IC A に代替する仮定として
yenoM
)nUIM(ytilitU
があるが、両者は実質的に殆ど違いがない。
8
128
日本経済研 究 比 75 ,
7.02
っていること、③企業はランダムに一定確率でしか価格を変更できないこと
にalvo(1983)
に基づく、いわゆるカノレボ型粘着価格モデノレ)、の
3 点である。このう
ち、特に③の企業の価格改定行動について、実証面から問題提起がなされている。ラン
ダムな価格改定行動を仮定するカノレボ型粘着価格モデノレは、価格改定に関するハザード
関数が常に水平であることを意味するが、米国の広範なデータに基づく実証研究
(Nakamura
and
Steinsson
は、多くの財・サーピ、スでハザード関数が右下が
(207)
りであることを報告している。つまり、いった λ価格を変更した企業は続けて何度も価
格改定する確率が高い。こうした企業行動のミクロ的基礎付けをモデル化し、動学的一
般均衡モデ、ノレに取り込む方向で研究が進んでいる 11
①の貨幣保有のミクロ的基礎イ寸け
についても、サーチ理論を応用した精激化が主に理論家から提案されており、近年、マ
ネタリー・サーチを組み込んだ勤学的一般均衡モデノレも登場している(例えば、 Wang
Shi
。
(206)
New
and
IS-LM
モデルが期待を解析的に扱えるからとしりて、現実経済で起きていること
のすべてを説明できるわけではない。経済学界と政策当局が相互に協力しつつ、民間経
済のフォワードソレッキングな行動様式について今後も研究を進め、経済活動の動学的側
面について一層理解を深める必要がある。そのためには、 New
IS-LM
モデルのほか、よ
り多様な動学的一般均衡モデルを用いた分析を進めていくことが有益であろう 21
参考文献
鵜 飼 博 史 ・ 鎌 田 康 郎 2(
削 )4
rマネタリー・エコノミクスの新しい展開
解説 J ~日銀レビュー~ 204力日劇京 )602(
J-8
~現代マクロ経済学講義
金融政策分析の入門的
, 日本銀行
動学的般モデ、ノレ入門』東洋経済鞘民社
カノレボ型粘着価格モテツレを改良するその他の試みとして、企業が価格改定を考える上で必要な情報を取得す
るのにコストがかかるとする、粘着情報 ykcits(
)noitamrofni
モデルが、 Mankiw
dna sieR )202(
らによって
提案されている。
11 わが国においても、臨w S
I I.Mモデルのみならず、ルーカス批判を回避できる動学的般均衡モデルの利用
dna fogR
)591(
に始まるいわゆ
がさらに進むことも望まれる。例としては枚挙にいとまがないが、 dleftsbO
る「新しいオープンマクロ経済学」や sukcaB
,eohK
and )491(dnalyK
をベースとした「国際リアノレビジネ
スサイクノレモデノレ」のような動学的一般均衡モデノレによるグローノミノレ化と景気変動の国際連動牲に関する研究
が世界的に注目されている。また、原油価格と実体経済の関係を扱った動学的一般均衡モデノレとしては、 Kim dna
札)29
、niF
札)59
、sukcaB
dna incurC
)002(
、Le cud dna liS )402(
、Dhawn
dna eksJ
)602(
、
inaguoL
Hirat
)602(
などが挙げられる。このうち、Le cud dna liS )402(
は、諸々:J 金融政策ノいーノレを仮定し、ノレー
ル毎の原油価格¢物価や実体経済への波及の遣いを検証している。
u
研究ノート 動学的般均市モデルへの招侍
129
rニューケインジアン・ブイリップス曲線粘着価格モデルにおけるイ
加藤涼. )11 本卓司)502(
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