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Citizenship 教員養成に関するチューターの視点について
Kobe University Repository : Kernel Title Citizenship教員養成に関するチューターの視点について の一考察(A Study on Tutors’ View on the Citizenship Initial Teacher Training Program) Author(s) 橋崎, 頼子 Citation 神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,2(1):4352 Issue date 2008-09 Resource Type Departmental Bulletin Paper / 紀要論文 Resource Version publisher DOI URL http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/81000807 Create Date: 2017-03-31 (43) 神戸大学大学院人間発達環境学研究科 研究紀要第 2 巻第1号 2008 研究論文 Citizenship 教員養成に関するチューターの視点についての一考察 A Study on Tutors’View on the Citizenship Initial Teacher Training Program 橋 崎 頼 子* Yoriko HASHIZAKI * 要 約:This article explores tutors’view on the Citizenship Initial Teacher Training in England through the interview with three tutors of the Higher Education Institutes. They were asked about their interpretation on standards for the award of teacher status and how they put them into a program. The analysis of the data reveals that each element of the standards was interpreted uniquely in the context of Citizenship. The main discussions were:‘Knowledge and Understanding’was considered as a most important element of the standards, attempts were made for integration of the elements in trainees’learning and focus was put on subject specialist approach. Keywords:Citizenship、教員養成、チューター、アクティブ・シティズンシップ 1. はじめに 判を受けることとなった 4。実態調査を行った教育水準局がその対 本稿の目的は、イングランドにおいて Citizenship1 の教員養成を 策として提案していたように、Citizenship 専門の教員養成は、急 担当する、高等教育機関の教員(以下、チューター)へのインタビュー 務の課題であると言える。 を通して、チューターが、Citizenship の教員が持つべき資質をど 現在、Citizenship の専門教員の養成を中心的に行っているのは、 のように解釈し、プログラムに具体化しようとしているのかについ 大学院レベルの1年間の教員養成課程(Post-graduate Certificate て明らかにすることである。但し本稿の目的は、一般化できる結論 in Education、以下 PGCE) である 5。そのプログラム全般をコー を導くことではなく、あくまでも対象とした 3 つの教員養成機関の ディネートしているのがチューターである。PGCE は、実践的な教 チューターの見解について明らかにすることである。 授スキルを習得させることに重点を置いているため、全体の 3 分 イングランドでは、シティズンシップを育成するための教育が、 の 1 の時間が高等教育機関、3 分の 2 が地域の学校での実習に充て ナショナルカリキュラムの一教科「Citizenship」として、2000 年 られる。しかし、Citizenship PGCE においては、実習先における に(中等学校での必修化は 2002 年から)導入されている。後に述 Citizenship 専門教員の不在、Citizenship の軽視などにより、学校 べるが、Citizenship の目的は、「公的な生活」に対して影響をもた での Citizenship 専門教員の養成体制は十分に整っているとは言え らすような「積極的な参加」を行う「アクティブ・シティズンシッ ない 6。このような事情からも、高等教育機関で教員養成を担当す プ」の育成である。 るチューターの役割は非常に大きいといえる。 Citizenship の目的が示された『クリックレポート 2』では、基本 以上に示したチューターの役割の大きさとは対照的に、チュー 的な骨子のみが提唱され、実践については、学校にかなりの部分が ターの視点から教員養成プログラムを分析した研究は多くはない 7。 委ねられていた。なぜなら、政府からの提案を基本的なものにのみ 特に、Citizenship PGCE のプログラムについてはほとんど見られ 留め、それを各学校の文脈に合わせて運用できるようにすることで、 ない。PGCE のプログラムについての先行研究として、訓練開発 効果的な学習がなされることが期待されていたからである 3。しか 庁 (TDA)8 からの委託プロジェクトである citizED9 の中で行われた し実際には、他の教科の教員が Citizenship について不十分な知識 Lewis の研究 がある。Lewis10 は、9 つの PGCE プログラムの内容を、 しか持たないまま教えるといった状況であったため、「Citizenship 主要な講義テーマ、出される課題、主な特徴といった観点からまと は最悪な教え方がされている教科 (worst taught subject)」との批 めているが、極めて概観的な分析に留まっており、それをコーディ *神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程 2008年4月1日 受付 2008年9月1日 受理 - 43 - (44) ネートしたチューターの見解を明らかにするには至っていない。 このような動きをどのように捉えるべきかについては、現在評価 そこで本稿は、チューターへのインタビューを通して、PGCE の が分かれている。しかし、主要な焦点を挙げるとすれば、多様性と プログラムを編成するにあたって、チューターが教員の持つべき資 統一のバランスであると言える。例えば、民主主義の再生産の為に 質をどのように解釈し、それをプログラム化しようとしているのか 必要な最低限の「共通価値 (shared values)」の伝達は認めるべきな について明らかにすることを試みた。 のか 20、「共通価値」そのものよりも、そこへ至るプロセスを重視 することで多様性を保持すべきなのか 21、あるいは 2005 年より導 2.Citizenship 導入の背景とその目的 入された新しい帰化制度との連携で「Britishness ( 英国性の体現 )」 教 員 養 成 プ ロ グ ラ ム を 検 討 す る に あ た り、 ま ず 対 象 と な る を求めるべきなのか 22、などの論点を通して多様性と統一性のバラ Citizenship の導入背景と、それが育成しようとする市民像につい ンスが議論されているのである。 て述べていく。 本稿が取り上げる調査結果は、『アジェクボレポート』が出され 2000 年の Citizenship 導入の背景として、異なる意図を持つ教育 の流れを指摘できる 11。一方は、1960 年代~ 70 年代のバーナード・ クリックやアレックス・ポーターらによって提唱された「政治的リ る前に行った調査に基づくものであるため、Citizenship は、「アク ティブ・シティズンシップ」を主要な教育目的を掲げるものとして 位置づける。 テラシー」教育、1980 年代の平和、人種、開発などの社会運動と 結びついた教育の蓄積と反省に立って提案されてきた、民主政治を 3. 調査概要 重視する教育の流れである。この流れは、1990 年代後半に、若者 3.1. 調査対象 の政治的無関心と民主主義の危機への対応を目的とし、バーナー 筆者は、2006 年 5 月から 8 月にかけてイングランド北部にある ド・クリックの提唱する「政治的リテラシー」を中心に据えた教育 3つの Citizenship PGCE のチューター3人に対してインタビュー を推進しようとする民間からの動きへと繋がっている。もう一方は、 を行う機会を得た。この3人(ここではチューター A、B、C とする) 福祉国家に依存せず、経済的な自立した国民の創出を意図したサッ をインタビュー対象としたのは、①所属機関、②専門分野、③担当 チャー政権から受継がれている教育の流れである。ブレア労働党は、 コース、④教員養成に関する研究などで果たす役割、⑤利便性とい 従来からの国民の経済的自立という課題に加え、青少年の反社会的 う 5 つの理由からである。それらを踏まえて各チューターの特徴を 行動への対応といった国内治安対策にも力を入れ、それらを達成す 以下に示す。 る手段として社会的・道徳的責任の向上やボランティア活動 チューター A は、大学の教員である。歴史教育が専門であり、 12 を 大学では歴史と Citizenship が合わさった PGCE を担当している。 中心とする教育を重視した。 Citizenship の 骨 子 を 示 し た『 ク リ ッ ク レ ポ ー ト 13』 は、 チューター B は、もともと教員養成機関として始まったカレッ Citizenship の構成要素として、1) 社会的・道徳的責任、2) コミュ ジ 23 の教員である。政治教育が専門であり、担当する PGCE は、 ニティーへの参加、3) 政治的リテラシーの三つを挙げていた。これ Citizenship に特化したものである。チューター C は、チューター らの要素は、上記の異なる立場からの解釈を与えることが可能なも B と同様カレッジの教員である。経済教育が専門であり、担当する のである 14。従って、 『クリックレポート』は、民間と政府の意図 PGCE は、Citizenship に特化したものである。 の「妥協の産物 15」としての性格を持っていたといえる。 3 人のチューターは、Citizenship 教員養成に関する研究および情 上記の Citizenship の構成要素は一見するとばらばらであるかの 報提供のためのプロジェクト(citizED)に関わっており、教員養 ように見える。しかし『クリックレポート』では、 「アクティブ・シティ 成の領域の中でも指導的な役割を担っているといえる。また、チュー ズンシップ」という目的によってこれらを相互に関連付けることが ターの所属する機関はいずれも調査者が所属していた大学から日帰 16。ここで言う「アクティブ」とは、単に政治 りで訪問できる範囲のところに位置していることも、この 3 人を選 できるとされていた に関する知識・理解を深めたり、ボランティア活動へ参加するだけ 択した理由であった。 ではなく、実際に「公的な生活」に影響を与えるような 「 積極的な 本稿の主なデータは、インタビューデータであるが、その内容を 参加 」 を行うことを指す。例えば、法に関する知識を持ち、法に従 より良く理解するため、インタビュー前にチューターに依頼して うだけではなく、必要であれば法を平和かつ責任ある方法で変更す 用意してもらった教員養成課程に関するハンドブックや、インタ るなど ビューの際にチューターより提示された資料も随時参照した。 17 である。 初期の Citizenship との違いを明らかにするために、以下では近 年の重点の変化についても簡単に触れておく。Citizenship の導入 3.2. 質問項目と分析方法 当初、多様性は、Citizenship の中でもあまり重視されていなかっ インタビューの質問項目は、「教員資格取得のためのプロフェッ た。その証拠にクリック自身も、多様性と反人種主義の側面は、政 ショナルスタンダード (Qualifying to Teach: professional standards 治的リテラシーに比べて、十分に強調されていなかったと認めてい for the award of Qualified Teacher Status)24」 (以下、スタンダード、 る 18。しかし近年、Citizenship の構成要素として多様性を重視す 【資料1】参照)のカテゴリーに沿って作成した。これは、教育技 べきであるという議論が高まり、『アジェクボレポート』(2007)の 能省によって定められた、全ての教科に共通して「教員資格を得よ 中で、Citizenship の第四の構成要素である「アイデンティと多様性: うとする者が身につけるべき資質要件」を示したものである。この イギリスにおける共生 (Identity and Diversity: Living Together in ようなスタンダードを設置し、教員養成の明確な指針を打ち出して the UK)」が追加された 19。 いることは、イングランドの教員養成制度の大きな特徴の一つであ - 44 - (45) るといえる 25。 めるかについての改善策を書かせている。 ス タ ン ダ ー ド は、(1)「 知 識・ 理 解 」(Knowledge and もう一例を挙げると、様々な枠組みからシティズンシップの概念 Understanding)、(2)「教授スキル」(Teaching)、(3)「専門家とし を検討することである。チューター A は例として、 「クリックレポー ての価値と実践」(Professional Values and Practice)という3つカ トの三つの構成要素:社会的・道徳的責任、コミュニティーへの参 テゴリーから成っている。まず、「知識・理解」は、「自分の教科の 加、政治的参加」、「自由主義、市民共和主義、共同体主義的シティ 教授活動に自信と権威を持ち、生徒の発達段階や生徒に期待すべき ズンシップの議論」、「ローカル、ナショナル、ヨーロッパ、グロー 到達目標を明確に理解するために必要なもの」である。次に、「教 バルなシティズンシップとその意味」 「地位身分、アイデンティティ、 授スキル」は、「実際に授業を行う際に必要なスキル」に関連し、 実践としてのシティズンシップ」などの枠組みを挙げていた。この 具体的には「授業計画」「評価」「クラス運営」のスキルに分けられ 学習では、個別的知識ではなく、それらを結び合わせたり、整理し る。三つ目の「専門家としての価値と実践」は、「教員資格を取得 たりする上位概念を学んでいるといえる。教育水準局の調査報告で しようとする人に期待される態度と関わり」である。 も指摘されたように 31、シティズンシップとは何かについて深い知 このスタンダードは、全ての教科の教員の資質を示すものとして 識を持つことは、Citizenship の専門教員にとって第一に必要なこ 作成されているため、これを基準に PGCE プログラムの編成を行 とである。 う際には、各教科の文脈で解釈する必要がある。高等教育機関にお 注目すべきは、必ずしも一貫性があるとは言えない、多様なシティ いて、主にその役割を担っているがチューターである 26。 ズンシップの枠組みについて、チューター B が、「論争的な性質を 本稿では、Citizenship PGCE を担当するチューターが、スタン 賞賛する (celebrate)」と述べていることである。ナショナルカリキュ ダードをどのように解釈しているのかを明らかにするため、以下の ラムには、異なる立場の意見を尊重しつつ議論することが参加のた 例のような質問項目を立ててインタビューを行った。(例は「知識・ めのスキルとして示されている。このため、異なるシティズンシッ 理解」の場合。「教授スキル」「専門家としての価値と実践」のカテ プの枠組みについて議論することが奨励されていると考えられる。 ゴリーに関する質問の場合も同様の項目を用いた。) 以上のように、教科内容の知識とは、ナショナルカリキュラムに 1.あなた(チューター)は、「知識・理解」を Citizenship の文 脈でどのように理解していますか。 示された個別的知識、および、異なるシティズンシップ概念を指し ており、教員は、自己評価や、必要であれば対立的な概念について の議論を通して、シティズンシップとは何かについての深い理解を 2.それを促進するために、何を行っていますか。 持つことが求められていた。 調査後、インタビューデータからトランスクリプトを作成し、 「た えざる比較法 27」を用いて分析を行った。 (2) 授業を想定した教育内容に関する知識の促進 「授業を想定した教育内容に関する知識」は、リー・ショーマン (Lee 4. 調査結果と考察 Shulman) の議論に基づきながら以下のように説明されてきた 。 4.1.「知識・理解」に関するチューターの見解 チューターへのインタビューでは、「知識・理解」は Citizenship 教育内容の知識を・・・授業の文脈に翻訳した教師に固有な知識で の 文 脈 に お い て、「 教 育 内 容 の 知 識 (content knowledge)」 と、 あり、ある概念を具体的に例示したり、子どもの複数の分かり方 「 授 業 を 想 定 し た 教 育 内 容 に 関 す る 知 識 (pedagogical content を想定して教材を開発したり再構成したり、その知識の現実的な knowledge)」の 2 つとして捉えられていた。 意味を解釈したりして表現される知識である。 (1) 教育内容の知識の促進 授業を想定した教育内容に関する知識として、大きく二つの知識 「教育内容の知識」は、「教師の頭の中にある知識の量と構造 28」 が想定されていた。一つ目は、体験を通して獲得されたシティズン または、「ある専門分野における中心的な事実、概念、原理そして シップの知識である。例えば、チューター A は、PGCE の学生募 説明のための概念枠組み 29」であると説明される。Citizenship の 集の段階で、市民活動や海外で働いた経験のある学生を優先して採 文脈において教育内容の知識は、主にナショナルカリキュラムに定 用している。それは、それらの生徒が、参加の中で知識・スキル・ められた知識として捉えられていた。 態度を学ぶということを、経験を通して知っているからだといえる。 ナショナルカリキュラムに定められた知識・理解の内容は、地方、 ナショナルカリキュラムでは、「知識・理解」は、スキルの発達に 国家、ヨーロッパ、グローバルな政府、人権、経済システム、消費 伴って、またはそれを支える形で教えられる必要があるとされてい 者の権利、多様性、環境問題など、大変多岐にわたっている。これ る 33。このことからも、チューターは、社会参加の経験のある学生 らの知識・理解を、生徒に教えるためには、教員もこれらについて が持つ、経験を通して学ばれたシティズンシップの知識に注目して のしっかりとした知識・理解を持つ必要がある。これらを達成する いた。 ための方法として、チューターはいくつかの方法を取っている。 もう一つは、教育内容を学校内外のリソースと結び付けて、教 例えば、チェックリストのような表 材を開発するための知識である。「アクティブ・シティズンシップ」 30 を用いた知識レベルの自 己評価である。C カレッジでは、ナショナルカリキュラムで学ぶべ を育成しようとする場合、教室の中だけではなく、学校や地位といっ きとされる個別の知識の理解度を、「不十分」「基礎」「十分」とい たより広いコミュニティーへ参加していくことが重要である。そ う三段階に分けて自己評価させ、理解が「不十分」な知識をどう深 こで教員に求められるのは、学校内外に、Citizenship の授業を構 - 45 - (46) 想するきっかけを求めていくための知識である。例えばチューター み方を学んでほしいと考えている。 A は、教員が持つべき知識として、学校内での学習機会(クロス 以上のように、Citizenship の授業計画については、一教科の範 カリキュラム、学校全体の活動)、地域への参加の機会(チャリティー 囲を超えた教育内容の構成と、参加型アプローチを用いた教育方法 活動、NGO 活動)、情報通信技術やメディアの活用方法を挙げてい という両面からの取り組みが必要であると考えられていた。 る。 以上のような授業を想定した教育内容に関する知識の習得を支援 4.2.2. 評価 するため、チューター C が行っているのは、模擬授業である。模 評価を行うこと自体に対するチューターの見解には、相違点がみ 擬授業は、教科内容を授業で教えるために必要な知識を身につける られた。ただし、筆記試験以外の方法でも評価を行うことについて 場であるという。 は、3 人のチューターとも意見が一致していた。 評価自体を積極的に捉えているのが、チューター A とチューター 前に立って法についての講義をするのではないのです。(学生が) B である。チューター A は、「Citizenship は必修科目であるので、 すべきことは、これらの法的な問題・・・をどのように教えること 他の科目と同様に評価されるべき」だとし、チューター B は、「学 ができるのかについてのアイデアを私たち(自分と他の学生)に 校が Citizenship に積極的に取り組む動機付けになる」とのべてい 与えることなのです。・・・教授経験、アクティビティー、授業の た。一方チューター C は、評価自体の積極面を認めながらも、「形 アイデアを私たちに与えてほしいのです。 式化した評価を持ち込むことで、教員がある程度自由に授業を構想 し、多様性が認められている現状の利点が損なわれることになる」 以上のようにチューターは、学生募集で市民活動の体験者を優先 との懸念を示している。チューター C の懸念は、教育技能省が出 して採用したり、模擬授業などを通して、教科内容を経験や内外の した、「学校の自己評価ツール」をめぐる議論とも一部重なり合っ リソースを通して、実際の授業でどのように教えることができるか ている。学校は、現状を「焦点化期」「開発期」「確立期」「発展期」 に関する知識の習得を支援しようとしていた。 という四つのレベルのどこに位置づくのかについて自己評価するこ とが奨励されている 34。しかし、一方で学校独自の取り組みを制限 4.2.「教授スキル」に関するチューターの見解 することにもなりかねないとの批判がある。このように、チューター 「教授スキル」には、「授業計画」「評価」「クラス運営」が含ま の間でも、評価すること自体の意見が分かれていた。 れている。以下では、それぞれの項目について述べていく。 一方、筆記試験だけでは Citizenship は評価できないということ は、チューターに共有されていた。プレゼンテーション、ディスカッ 4.2.1. 授業計画 ション、演劇、コンピューターの活用、日記、ポートフォリオ、ビ Citizenship の文脈において授業計画のスキルは、一教科の範囲 デオ、議会への手紙、行事の企画、などの評価方法が提案されてい を超えた教育内容と、参加的なアプローチを盛り込んだ授業計画を た 35。さらに、チューター C は以下のように述べて、自己評価や 立てるスキルとして捉えられていた。 仲間同士の評価の重要性を主張していた。 まず、教育内容に関しては、学際的なテーマを中心に複数の教科 の総合を図ること、教室外の学習機会を利用することなどが挙げら 評 価は、子どものノートを回収して、書いてあることに対して れていた。B カレッジでは、歴史と Citizenship それぞれを専攻す 点数をつけるだけではありません。われわれは、Citizenship は、 る学生が、戦争博物館を訪問し、紛争解決に関する教材を共同開発 参加すること、スキルを発達させること、コミュニケーションを する授業がある。チューター A は、Citizenship は教室でのフォー とることであると議論してきました。私は、自己評価、仲間同士 マルな教授だけではなく、友達同士の関わり、学校や地域の行事へ の評価といった、あらゆる革新的な評価は、大変重要だと思いま の関わりが必要であるとし、ピア・メディエーション、生徒会、現 す。 (傍線筆者) 場訪問などの例を挙げていた。このように、Citizenship の教師は、 教室で教える一教科の枠を超えて柔軟な授業計画を立てるスキルが 「アクティブ・シティズンシップ」の育成を目指す Citizenship は、 求められていた。 コミュニティーへの参加や、人とのコミュニケーションを通したス 次に、教育方法に関しては、参加型アプローチという、「 アク キルの発達は、具体的な教育目標の一部である。チューター C は、 ティブ・シティズンシップ 」 を育成する Citizenship に特徴的な方 自己評価や、仲間同士の評価の中に、そのようなスキルを発達させ 法が重視されていた。チューター C は、ロールプレーやゲームを る機会があると考えていた。 学生に体験させることによって、学生が参加型アプローチを授業計 以上のように、Citizenship の評価を行うこと自体に関するチュー 画の中に盛り込むことを期待していた。これは、チューター C の ターの視点は一致していないものの、口頭や映像などで表現したり、 「人がアクティブな市民となることを教えられることはできないよ 自己評価や仲間との評価を取り入れることで、多様な評価方法を採 うに、人は Citizenship の教師になることを『教えられる』ことは 用していこうという方向性では一致していた。 できない」という強い信念に裏づけされている。参加型の教育方法 を知識として教え、授業計画に取り入れることもできる。しかし、 4.2.3. クラス運営 チューター C は、それを知識として教えるのではなく、学生にま Citizenship のクラス運営で、チューターが重視するのは、適切 ず体験させることによって、その方法の意義や授業計画への盛り込 な発問をするスキルである。チューター B は、発問スキルについ - 46 - (47) て以下のように述べている。 3 人のチューターは、知識・理解が、Citizenship の教員養成プロ グラムの中において、重要であると考えていた。この理由として以 適 した発問、重要な発問をし、答えを待ち、子どもたちの最 下の二点が考えられる。 初の答えを深めることによってそれに答えていく能 力 で す。 一つは、実習先での Citizenship の実践が不十分であるため、相 Citizenship とは、しばしば、何が適した発問なのかを知ること 対的に高等教育機関の役割が高まっていることである。チューター です。(・・・)良い Citizenship の教授とは、オープンで重要な発 C は、他の科目の専攻であれば、学校での実習中に学校の教師か 問が多く出されるということです。 ら多くの科目の知識を学ぶことも出来るが、Citizenship の場合は、 実習先の教師の知識・理解が不十分であり、学校で科目の知識を学 チューター B が具体例として挙げているのは、「これは公平だと ぶことは期待できないと述べている。このことから、高等教育機関 思いますか。」「この状態では誰が権力をもっていますか。」「何が正 では、知識・理解に力点をおいたプログラムにすべきだという意見 しいことだと思いますか。」などの発問である。これらは、公平、権力、 が出てきたといえる。 正義といった Citizenship の中心概念を参照しつつ状況を説明する もう一つは、Citizenship の性質を理解する上で、知識・理解が ことを促す役割を果たすといえる。従って、教員に求められる発問 不可欠であるということである。チューター A は、知識・理解と スキルとは、子どもたちのディスカッションと Citizenship の中心 は「Citizenship に意味を与えるもの」であり、それらを理解する 概念をつないでいくものであると考えられる。 とは「Citizenship の性質そのものを理解する」ことであるという。 チューター A のいう知識・理解とは、単なる個別の知識ではなく、 4.3.専門家としての価値と実践 その知識を生み出した背景にある概念枠組みにまで言及したもので チューターは、「専門家としての価値と実践」は、直接教えるこ ある。 とも可能であるとしつつも、「知識・理解」「教授スキル」の学習を クリックは、公と私の領域の区別に基づき、前者は Citizenship、 通して促されるものであると捉えていた。チューター A は、以下 後者は、人格・社会教育(Personal Social Education、以下 PSE) のように述べている。 を通して学ばれるべきであるとしている 36。しかしながら、小学校 段階(KS 1&KS 2)において、Citizenship と人格・社会・健康 「専門家としての価値」は、他の全てを通して引き出されるもの 教育 (Personal Social and Health Education、以下 PSHE) が連携し です。( ・・・ ) 知識や理解を専門家として発達させる時、そして教 て教えられている 37 こともあり、Citizenship と PSE は混同されや 授スキルを専門家として実践する時に(引き出されるの)です。 すい。チューター A は、両者の混同への批判を念頭におき、以下 (カッコ内筆者) のように述べている。 チューター A は、具体例として、「専門家としての価値と実践」 両 者を区別するのは、それぞれから出てくる知識です。PSE の のスタンダードの中の、「教授活動を自己評価し他人や既存の研究 知識は個人的な文脈から出てくるのに対して、Citizenship の知 成果から学ぶことができる」という項目(【資料1】1.7 参照)を 識はほとんどが公的な文脈から出てくるのです。これを知ること 取り上げて説明している。この項目に示される「専門家としての価 は Citizenship に意味を与えると思います。だから非常に重要な 値や実践」は、「Ofsted の研究について調べる」「自分の授業とそ のです。 (傍線筆者) こでの子どもの学びを批判的に検討する課題を行う」など、「知識・ 理解」や「教授スキル」の課題に、専門家としての意識をもって取 このようにチューター A は、Citizenship の本質を理解するため り組むことで最も良く学ばれると考えられていた。 には、それが公的文脈から出てくる知識によって構成されていると 従ってチューターは、「専門家としての価値や実践」を直接教え いうことを知ることが不可欠であると考えている。 るよりも、これまで見てきたような「知識・理解」「教授スキル」 以上のような二つの理由から、Citizenship PGCE のチューター の習得を支援するプログラムを通して、学生がそれらを学ぶことを は、知識・理解を大変重要視しているといえる。 期待していた。 5.2. 学びを相互に関連づける試み 5. 調査結果全体への考察 教員資格取得のためのスタンダードは、「知識・理解」「教授スキ ここでは、これまでの考察を踏まえて、全体的なチューターの見 ル」「専門家としての価値と実践」という異なる 3 つのカテゴリー 解として以下の 3 点について述べる。第一に、知識・理解の習得に から成っているが、チューターは、学生がこれらのカテゴリーを相 強調点が置かれていたこと、第二に、「知識と理解」「教授スキル」 互関連づけて学ぶことができるような取り組みを行うべきであると 「専門家としての価値と実践」という 3 つのカテゴリーの相互関連 考えていた。 を意識した形で学生に学ばせることを重視していたこと、第三に、 例えば、チューター A は、Citizenship の授業計画を考える際、 Citizenship という教科特有の考え方を、子どもたちに促すことが Citizenship の性質に関する知識・理解を動員することが重要であ できる能力が重視されていたということである。 るとし、そのような例として以下を挙げている。Citizenship の授 業として、 「公的な問題に効果的に取り組む方法を話し合う授業」と、 5.1. 知識・理解の重視 「映画館にアイスクリームを食べに行く授業」があった場合、どち - 47 - (48) らも参加型であるが、Citizenship の教師は、「公的な領域に関する りも、知識・理解、教授スキルの学習を通して身に着けられるべき 事柄を対象とする」という知識・理解を動員して前者の授業が望ま ものであると考えられていた。 しいことを判断できるようになる必要があるという。 調査結果全般から言えるチューターの見解としては、知識・理 このように、チューターは、3 つのカテゴリーの相互関連を意識 解が重視されていること、3 つのスタンダードを相互に関連するも した形で学生が学ぶことを重視していたと言える。 のとして学生に理解させようとしていること、また、一般的な教師 に求められる資質を身につけて良しとするのではなく、Citizenship 5.3. Citizenship 専門教員の資質育成 の教員としての専門性を追求させようとしていた、という点を挙げ 最後にチューターは、学生に、教師一般に求められる資質に加え ることができた。 て、Citizenship の専門教員としての資質を身につけさせることが 本調査の限界は、以下のように指摘することができる。まず、本 特に重要であると考えていた。チューター A は、以下のように述 調査はあくまでチューターの見解を聞いただけであり、実際のプロ べている。 グラムがどのように行われているのかを示すものではないというこ とである。また、調査は高等教育機関における PGCE のプログラ 学 生たちにとっての大きな問題は、クラス運営です。30 人の子 ムにのみ限定されており、PGCE の 3 分の2を占める学校における どもを担当し、活動を作り、計画を立て、時間を管理して、正し 実習プログラムが考慮されていない。 い語彙レベルで話さないといけないと。(・・・)しかし学生たちは、 今後の課題として、実際のプログラム運用についての調査を行う Citizenship に特有で特別であることのうち何を子どもたちに理 とともに、学校での養成プログラムの内容、そして学校と高等教育 解させたいのかについてはあまり語りません。これは、学生たち 機関との関連についても明らかにしていきたい。 にとってはレベルが高いことですが、それが出来ればできるだけ [注] よい教師だということになります。(傍線筆者) 1 本稿では、市民がもつ性質 (citizenship) を、 「シティズンシップ」 チューターによると、実習段階の学生は、クラス運営のスキルに とカタカナで表記する。シティズンシップの定義は、文脈によっ 代表されるような、どの教科の教師にも共通する知識、スキル、態 て異なるが、シティズンシップ育成のために行われる教育全般 度の習得に終始してしまいがちであるという。しかし、チューター を「シティズンシップ教育」とする。この訳は、嶺井 (2007) の が求めるのは、その授業が Citizenship の授業であるためのコアの 訳を参照した。嶺井明子編著『世界のシティズンシップ教育 - 要素に関連する知識、スキル、態度の習得である。言い換えると、 グローバル時代の国民 / 市民形成 -』(東信堂 ,2007)。さらに本 チューターは学生が、子どもに対して Citizenship 特有のものの考 稿では、特に英国において一教科として導入されたシティズン え方について教えるために必要な知識・理解、アプローチ、関わり 方を学んでほしいと考えていたといえる。 シップ教育を、「Citizenship」と表記する。 2 Crick, B. (2000), Essays on Citizenship, London: Continuum, p.9,118. 6. まとめと今後の課題 3 最後に、研究の成果をまとめ、今後の課題について触れたい。本 稿の目的は、Citizenship PGCE のチューターへのインタビューを Crick, B. (2000), Essays on Citizenship, London: Continuum, p.9,118. 4 Office for Standard in Education (Ofsted) (2005a), Citizenship 通して、チューターが Citizenship 教員の資質を定めたスタンダー in Secondary Schools: evidence from Ofsted inspections ドをどのように解釈し、プログラム化しようとしているのかについ (2003/2004), HMI2355, Ofsted, Office for Standard in て、明らかにすることであった。 Education (Ofsted) (2006), Towards consensus? :Citizenship 調査結果より、チューターは、教員資格取得のためのスタンダー in Secondary Schools, HMI2666, Ofsted, p.31. ドを、Citizenship 独自の文脈で解釈し、プログラムを編成しよう 5 イングランドにおいて、教員資格が取得できる教員養成プログ としていたことが明らかとなった。 ラムは、学部段階のもの、大学院レベルのもの、学校で働きな まず「知識・理解」は、教育内容の知識、授業を想定した教育内 がら教員資格を取得するもの、という 3 つに分けられる。また、 容に関する知識の2つとして捉えられており、他の「教授スキル」 教員養成プログラムの提供機関は、高等教育機関と学校に基 や「専門家としての価値と実践」を支えるコアの要素として考えら 盤を置くものに分かれる。Training and Development Agency れていた。 for Schools (TDA) Teacher Training: Type of Course, http:// 次に、「教授スキル」に関するチューターの視点については、以 www.tda.gov.uk/Recruit/thetrainingprocess/typesofcourse. 下のようにまとめられる。つまり、①授業計画のスキルについて、 aspx (Accessed 25th March, 2008)。 教科の範囲を超えた教育内容の構成と参加型アプローチを用いた授 PGCE は、高等教育機関が提供する大学院レベルの一年間の 業計画が重視されていた、②評価については、評価自体についての 教員養成課程であり、学部段階で科目に関する知識を既に チューターの意見は一致していないが、教師による筆記試験以外の 身につけた者に、実践的な教授スキルを習得させることに 方法でも評価しようとする方向性については共通していた、③クラ 重 点 が 置 か れ て い る。Citizenship PGCE は、Citizenship の ス運営のスキルについては、発問スキルが重視されていた。 ナショナルカリキュラムへの導入に合わせて 2001 年から設 三つ目に、「専門家としての価値と実践」は、直接教えられるよ 置され始めた。現在は、12 の高等教育機関で Citizenship に - 48 - (49) 特化した PGCE が、また他の科目と合わせたものを含める と、約 25 の高等教育機関で Citizenship に関連した PGCE が pp.302-319. 23 Gordon, P. and Lawton, D. (2003), Dictionary of British 提 供 さ れ て い る。CitizED, Course, http://www.citized.info/ ?strand=0&r_menu=courses(Accessed 25th March, 2008)。 6 7 8 Education, London: Woburn Press. 24 Training and Development Agency for Schools (TDA) (2006), Office for standard in Education (Ofsted) (2005b), Initial Qualifying to Teach: professional standards for the award of teacher training for teachers of citizenship 2004/05, HMI 2486, Qualified Teacher Status and requirements for Initial Teacher Ofsted ,p.6. Training, TDA,pp.8-15. Korthagen, F., Loughran, J.& M. Lunenberg (eds.)(2005), 25 上野ひろ美、松川利広、小柳和喜雄 (2005)「教員養成における Teaching teachers—studies into the expertise of teacher カリキュラム・フレームワークに関する予備的研究―米・英 educators: an introduction to this theme issue, Teaching and 国・独逸の研究を参考に―」『教育実践総合センター 研究紀要』 Teacher Education, 21(2), p.108. Vol.14, p.149. 教育・職業技術省 (DfES) によって役員が任命される、非省庁 26 Training and Development Agency for Schools (TDA) (2006), 型公共機関 (NDPB) である。非省庁型公共機関については、以 下を参照。沖清豪 (2000)「イギリスの教育行政機関における公 ibid, TDA, pp.16-20. 27 S・B メリアム著、堀薫夫、久保真人、成島美弥訳 (2004)『質 共性 : 非省庁型公共機関 (NDPB) とそのアカウンタビリティ」 的調査法入門―教育における調査法とケース・スタディ』ミネ 『教育学研究』Vol.67, No.4, pp. 397-405. 9 ルヴァ書房 , p.230, pp.260-288. CitizED プロジェクトの HP. http://www.citized.info/ 28 Shulman, L. (1986) Those who understand: knowledge growth in teaching, Educational Researcher, No.15, p.9. 10 Lewis, M.(2003), itt citiz ed: Review of PGCE citizenship course 2002-2003 29 Shulman, L. and Grossman, P.L. (1988) Knowledge Growth http://www.citized.info/pdf/commarticles/Review_of_PGCE_ in Teaching: a final report to the Spencer Foundation. CA, Citizenship.pdf. Stanford University. cited in Davies, I. (2003) What subject 11 Davies, I. (1999) What has Happened in the Teaching of knowledge is needed to teach citizenship education? How can Politics in Schools in England in the Last Three Decades, and we with student teachers in order to monitor and promote Why?, Oxford Review of Education, 25(1&2). および、蓮見二 their subject knowledge? 郎 (2004)「英国公民教育の市民像としての活動的公民格―教育 目標としての「アクティブ・シティズンシップ」の政治哲学的 30 C カレッジの PGCE 分析―」『公民教育研究』Vol. 12, p.45. http://www.citized.info/pdf/commarticles/Ian_ Secondary Citizenship Individual Development Portfolio も参照した。 12 クリックも、社会的・道徳的責任、コミュニティーへの参加に 31 Office for Standard in Education (Ofsted) (2006), op.cit., p.31. ついて、政治的リテラシーを育成するという目標を達成する手 32 佐藤学 (1997)『教師というアポリア』世織書房 , pp.64-65. 段としての有効性を認めている。しかしクリックの立場は、経 33 Department for Education and Employment (DfEE) & 済的に自立した国民を育成することを目的としたボランティア Qualifications and Curriculum Authority (QCA) (1999) 活動とは区別されるべきである。Kiwan, D. (2007), Education Citizenship: National Curriculum for England, London: DfEE for Inclusive Citizenship, Oxon: Routledge, p.47. & QCA , p14, 15. 13 Qualifications and Curriculum Authority (QCA)(1998), 34 Lloyd,J. and etc. (2004), The School Self-Evaluation Tool For Education for Citizenship and the Teaching of Democracy in Citizenship Education, the Department for Education and Schools(Crick Report)London:QCA. Skills (DfES). 14 阿久澤麻里子 (2001)「人はなぜ『権利』を学ぶのか:人権教育 の目的・内容・方法をめぐる議論とその実際」『1999-2000 年度 http://www.citized.info/pdf/other/DFES_Evaluation_Tool.doc 35 A カレッジのチューターが参照していると答えた資料をもと 科学研究費補助金(奨励研究A)調査報告書』,p.32. にした。Qualifications and Curriculum Authority (QCA)(2002) 15 蓮見二郎 (2004) 前掲書 , p.45. Citizenship at key stages 1-4: Guidance on assessment, 16 Kiwan, D. (2007), op.cit,p.77. recording and reporting. London: QCA, p.16. 17 Qualifications and Curriculum Authority (QCA) (1998), op.cit., p.10. 36 Kiwan, D. (2007), op.cit, p.51. 37 館林保江 (2007)「小学校における PSHE および市民性教育」武 18 Kiwan, D. (2007), op.cit, p. ⅹⅲ . 藤孝典、新井浅浩(編)『ヨーロッパの学校における市民的社 19 Ajegbo, K., Kiwan, D and Sharma, S. (2007) Curriculum 会性教育の発展―フランス・ドイツ・イギリス―』東信堂 , p.282. Review: Diversity and Citizenship, London: DfES. 20 清田夏代 (2005)『現代イギリスの教育行政改革』勁草書房 , pp.264-265. 21 Kiwan, D. (2007), op.cit, p108. 22 佐 久 間 孝 正 (2007)『 移 民 大 国 イ ギ リ ス の 実 験 』 勁 草 書 房 , - 49 - (50) 【資料 1】教員資格取得のためのプロフェッショナルスタンダード 1. 専門家としての価値と実践 (Professional Values and Practice) 1.1 生徒たちに対する高い期待を持つ。生徒たちの社会的、文化的、言語的、民族的背景を尊重する。生徒たちの 教育成果の向上に取り組む。 1.2 生徒たちに対し、尊重と配慮を持って一貫して接する。学習者としての発達を考慮する。 1.3 生徒たちに期待するような、肯定的な価値、態度、行動を自ら行う。 1.4 生徒たちの親やお世話をする人の生徒の学習における役割、それに関する彼らの権利、責任、利益を考慮しな がらやりとりする。 1.5 学校の共同生活において、貢献し、責任を共有する。 1.6 サポートスタッフや他の専門家の、教授学習に対する貢献を理解する。 1.7 自分の教授活動を評価し、他人の効果的な授業実践、研究結果から学ぶことによって、自らの実践を改善する ことができる。専門家として成長することにやる気を感じ、次第に責任を持てるようになる。 1.8 教師の責任に関連する法で定められた枠組みを意識し、その中で教える。 2. 知識・理解 (Knowledge and Understanding) 2.1 教えようとする教科に関する十分な知識と理解を持っている。 (a) Foundation Stage:QCA/DfEECurriculum guidance for the foundation stage に書かれている、目的、原則、 6 つの学習領域、初期の学習目標を知り、理解する。 (b) Key stage1-2: ナショナルカリキュラムのコア教科のカリキュラムを知り、理解する。また、読み書き算 のナショナルストラテジーのフレームワーク、方法、期待を理解する。以下の教科に関して十分な理解 を持っている。(history or geography, physical education, ICT, art and design or design and technology, performing arts, and religious education) (c) Key stage3: 関連するナショナルカリキュラムの学習プログラムと、教員資格を取得しようとするコア教科 に関連する Key stage3 のナショナルストラテジーに示されている、フレームワーク、方法、期待を知り、 理解する。ナショナルカリキュラムのクロスカリキュラムの期待や、Key stage3 のナショナルストラテジー のガイダンスに詳しくなる。 (d) K ey stage4,post-16: 学校、カレッジ、職場における 14-19 歳の段階の発達過程を意識する。QCA や国家資 格のフレームワークで示されたスキルに詳しくなる。自分の教科を通して学ばれること、また教科が貢献 できる資格の種類を知る。 2.2 「ナショナルカリキュラム・ハンドブック」に示された、価値、目的、目標、一般的な教授要件を知り、理解する。 教える Key stage に沿って Citizenship や PSHE のナショナルカリキュラムのフレームワークを知る。 2.3 そのキーステージ、または前後のキーステージにおける、期待、典型的なカリキュラム、教授の準備について 知る。 2.4 生徒たちの学習が、彼らの身体的、知的、言語的、社会的、文化的、感情的な発達にどのように影響を与える のかを理解する。 2.5 ICT を教科の教授活動と自らの専門家としての発達のために効果的に使う方法を知る。 2.6 SEN 実践規定の下の責任を理解し特別支援教育に対する助言の受け方を知る。 2.7 良い振る舞いを促進し、目的を持った学習環境を作るための、多様なストラテジーを知る。 2.8 読み書き算、ICT のスキルテストに受かる。 - 50 - (51) 3. 教授スキル (Teaching) 3.1 授業計画、期待、ターゲット(Planning, expectations and targets) 3.1.1 クラスの全ての生徒に関連する挑戦的な教授学習の目標を立てる。それは、以下の知識に基づく。(生徒、生 徒の年齢において期待されているスタンダードに対する過去と現在の達成度、当該年齢の生徒に関連する課題 の範囲と内容) 3.1.2 教授学習の目的を使って、個々の授業、一連の授業の計画を立て、評価の仕方も示す。ジェンダーやエスニシ ティーへの配慮をする。 3.1.3 教材を選択し準備する。しっかりと効果的に授業を組織する計画を立てる。その際、可能ならばサポートスタッ フの援助をへて、生徒の興味、言語的・文化的背景を考慮する。 3.1.4 その学校に合うような形で、教授チームに参加し、貢献する。可能な場合は、サポートスタッフの加配につい て計画する。 3.1.5 可能な場合は、他のスタッフとともに、学校外の文脈での学習を計画する。学校、博物館、劇場訪問、フィー ルドワーク、職場など。 3.2 モニタリングと評価(Monitoring and assessment) 3.2.1 学習目標に基づいて発達を評価するために多様な評価ストラテジーを用いる。評価で得た情報を、授業計画や 教授活動を改善するために用いる。 3.2.2 教えている時に、モニターと評価を行い、即座の建設的なフィードバックを行う。それによって生徒の学びを 支援する。生徒が、自分のパフォーマンスを振り返り、評価し、改善するように促す。 3.2.3 ナショナルカリキュラムの基準などを用いて正確に評価を行う。 3.2.4 異なるグループの生徒たちの学習要求を、発達の評価、潜在能力、感情的・社会的課題を元に特定し、支援する。 3.2.5 英語を母語としない生徒の学習達成度を判断する。認知的課題と言語的支援を提供するために、生徒の言語や 学習活動の必要性を分析する。 3.2.6 体系的に生徒の発達や達成度を記録する。しばらく後に達成や発達の証拠を提供する。生徒たちが自分の発達 について振り返るのを支援する。 3.2.7 口頭や文書で、生徒の学習到達度や発達について、親、世話人、専門家、生徒自身に報告するために記録を使う。 3.3 教授とクラス運営(Teaching and class management) 3.3.1 生徒に対する高い期待を持ち、教授学習を中心とした良い関係を築く。生徒たちが安心し、自信を持ち、多様 性が認められている、目的を持った学習環境を作る。 3.3.2 2.1.a-d で示された知識・理解、スキルに沿って教える。 3.3.3 生徒たちにとって面白く動機付けとなる、明確に組織された授業または一連のとりくみを行う。(生徒に学習 目標を明確に伝える、相互作用的な教授方法や協力的なグループワークを取り入れる、生徒が自分で考え、計 画し、学習を行えるようにアクティブで個別の学習を行う) 3.3.4 生徒の要求に合うように、教え方に違いをつける 3.3.5 追加の (additional) 言語として英語を学んでいる生徒を支援する。 3.3.6 異なるグループの多様な興味、経験、達成度を考慮する。(ジェンダー、エスニック、文化的背景など) 3.3.7 教授学習の時間を、効果的に組織し用いる。 3.3.8 物理的な教授空間、教具 (tool)、資源 (resources)、教材 (material)、を確実に効果的に組織し、用いる。 3.3.9 生徒の行為に対して高い期待を持ち、クラスの原則を明確にする。それによって、生徒行為を予測し建設的に 管理すると共に、生徒の自己規制や自律能力を促進する。 3.3.10 ICT を、授業の中で効果的に使用する。 - 51 - (52) 3.3.11 ある一定期間、責任を持って一つのクラス(複数のクラス)を教える。 3.3.12 宿題またはクラスの外での課題を出す。それは、クラスでの取り組みを強化し、広げ、生徒の自立的な学びを 促進する。 3.3.13 専門家や同僚と協力して働く。補助教員や生徒の学びを支援してくれる大人の取り組みをマネージメントする。 3.3.14 機会の平等の問題が、クラスで生じたとき、それを認識し効果的に対応する。 例)ステレオタイプな見方、いじめやハラスメントに取り組むこと。また、ある規定に従うことなど。 資料は、Department for Education and Skills (DfES) (2002) Qualifying to Teach: professional standards for the award of Qualified Teacher Status and requirements for Initial Teacher Training, London: DfES. を参照に、筆者作成 - 52 -