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広告の「消費規範形成力」について

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広告の「消費規範形成力」について
広告の「消費規範形成力」について
(元)金城学院大学
鈴木宏衛
1 課題意識と
課題意識と Theory of Reasoned Action
企業のネットコミュニケーションが盛んになり、またソーシャルメディアが人々に普及し消費
行動に影響を与える中で、マス広告の役割を再検討する必要が出てきている。また広告費の大半
を占めてきたマス広告の効果に対する疑問も高まっている。
従来は、主にマス広告がブランドに対する注目を高め、ブランド認知、好意的な態度形成、そ
の結果として購入意図を生むという階層型の心理的効果のとらえ方に蓋然性が高かった。しかし、
マス広告以外のメディアの増加、他方、成熟経済下での消費者の商品やブランドへの関与度の低
下という環境の変化によって、認知、態度、購入意図といったモデルの説得力は失われつつある。
これに代わり AISAS のようにマス広告とネットコミュニケーションを結びつけたモデルやSI
PSのように情報接触から生じる心理的変化(共感)による消費者の情報発信を起点とするモデ
ルなどが提案されている。
考えるに、これらのモデルは、マス広告には注目喚起・認知促進効果だけを認め、それ以降の
心理的過程にマス広告の影響をあまり想定していないものである。そこで注目喚起、認知促進以
外の効果についても改めて考える必要がある。すなわちマス広告の消費の「世論形成力」である。
マスコミ社会学では、マスメディアは、認知効果よりは、世論形成力を論じることが多い。
(議
題設定効果、沈黙の螺旋、涵養効果など)そこで、本研究では、マス広告の「消費の規範形成力」
を論じることによってソーシャルメディア時代のマス広告のあり方について検討してゆきたい。
また消費者行動と態度の関係を論じたモデルに合理的行動理論(Theory of Reasoned Action)
がある。これは、行動意図は個人のその行動に対する態度によって規定されるだけではなく、社
会がその行動をどうとらえるかという認識(推論)にも規定されるという理論である。広告は個
人の態度形成に影響を与えるだけでなく、社会的にその消費行動が望ましいことという認識を与
える。こ認識を Subjective Norm(主観的規範)と呼ぶ。広告はそのブランドやその商品カテゴ
リーを消費することが社会的に望ましいという認識を与えていると考えられる。消費だけではな
く、消費の仕方(ブランドの選択重視点や消費の仕方など)も含まれる。
たとえばソフトバンクのTVCMの「白土家の人々」は商品・サービスの品質・機能を仔細に
語らず、家庭の日常的な生活シーンをユニークな方法で表現している。このCMは、ソフトバン
クの携帯電話のイメージ(面白い家族、軽い世界)を付与すると同時に、
『携帯電話(正確には通
信会社であるが)は気分で気軽に選ぶべき』という消費の規範を作り出していると考えられる。
この社会的規範が購買行動に影響を与えるととらえるのが Theory of Reasoned Action であり、
マス広告の効果を考える時に、この特性を忘れて認知効果だけにとらわれるのは広告のマスコミ
効果という本質をとらえ損なう可能性がある。
図1 Theory of Reasoned Action
ブランド購買行動への態
度(Aact)
購買行動意図
(BI)
購買行動に関する主観的
規範(SN)
仁科、田中、丸岡(2007)
「広告心理」p.100「熟慮行動理論における効果の流れ」より引用
1
2 Theory of Reasoned Action は消費行動を
消費行動を説明す
説明するか
では、消費者は実際に購買行動を起こすときに Subjective Norm(購買行動に関する主観的な
規範)の影響を受けるだろうか。
表1の学生調査の結果をみるとファッション商品やスポーツウェアなどは当然ながら他人の目
を意識して購入している。これらは可視性の高く自己表現機能を果たす財であり、しかも世代ご
とに暗黙の共通ルールのある財であるから他人の評価を重視するのは納得できる。
ただ本来機能で選ばれるべき携帯電話、エンターテイメントの質が大切なテーマパーク、また
味や雰囲気が決めての外食チェーンなどについても他人の評価を意識するとの回答があり、
Subjective Norm が確実に購買に関与していることが示されている。
表1 商品選択に社会・他人の目を意識するか (Subjective Norm が影響を与えるか)%
ファストフ
ァッション
バッグ(ブ
ランド)
意識する*1
39
29
22
19
18
18
やや意識*2
42
52
52
42
44
42
気にせず*3
18
26
26
39
35
39
テーマパー
ク
焼き肉チェ
ーン
牛丼チェー
ン
日焼け止め
クリーム
意識する*1
17
17
10
7
5
4
やや意識*2
18
25
29
18
13
28
気にせず*3
66
59
60
75
82
68
ジーンズ
*1「他人が認めないと選ばない」+「かなり気にする」
スポーツシ
ューズ
*2「少しは気にする」
ジャージ
コンビニ
携帯電話
ファミレス
*3「気にしない」
学生調
査 2011.6 対象は大学生2~4年男女 82 名
消費の規範を分類すると①特定ブランドを買うべきである②特定のカテゴリーの商品を買うべ
きである③ブランドの選択基準はこうあるべきである、などが考えられる。
ではこの Subjective Norm は何から形成されるのであろうか。認知心理学によると規範学習は、
条件付け(conditioning)と認知学習(Cognitive)からなる。特に広告の場合は、認知学習をベ
ースに考え、単純記憶(Rote learning)、モデリングなどが考えられる。詳細は省くが、規範学
習の源泉は経験と他者からの伝達によると考えられる。モデリングに近い概念であるが、仁科ら
の「集団効果」によるとマスメディアの「情報共有感」
(この情報は自分だけではなく他人も見て
いるという実感)がマスメディア上の情報を社会で共有された情報だと認識させ、世の中の共通
ルール、すなわち規範と認識するとしている。つまりマスコミュニケーションという社会的に信
頼性の高いメディアによって人々に共有された知識には従うべきだと思うようになる。
表2は各メディアが情報共有感を感じさせるか、また、その程度をきいたものである。テレビ
の広告、情報は共有感を感じさせるものである。繰り返し数多く流されるCMによってそのブラ
ンドが社会的に認められたブランドとおもうこともあるだろう。一方ネットの商品サイトの情報
はやや少なく、企業のホームページはさらに低い。これらのメディアには「目的的」に接するこ
とが多いため、情報を共有している感覚が乏しく、商品選択のための詳細情報と利用される。つ
まり Theory of Reasoned Action でいう「ブランド購買行動への態度(Aact)
」に貢献しているの
であろう。
マス広告に Subjective Norm 形成の効果があるのは、一般的に広告情報には高関与な接触をし
ていないからと思われる。ELM でいう周辺処理に近く、メッセージ内容よりはメッセージの語り
2
口や雰囲気を心理的なリアクタンスが少なく受容されるからと想像される。
表2 Subjective Norm を意識するメディアは
メディア別情報共有感 ~「皆が見ていると感じるか」~
%
テレビの
情報
テレビの
広告
新聞の記
事
ネットの
商品サイ
トの情報
Mixi など
SNS の広
告
ブログ
企業のホ
ームペー
ジ
感じる
68
54
8
15
43
22
6
やや
29
36
46
49
35
51
32
感じない
3
10
46
36
22
26
63
N=72 学生調査結果 2011.7 対象は大学生2~4年男女 82 名
3 仁科らの
仁科らの「
らの「集団効果」
集団効果」について
仁科、田中、丸岡は集団内での広告効果として「社会的規範効果」を提示している。広告に接
したときに自分にとってどのような意味があるかを検討すると共に、仲間や社会一般において反
響を推測する「社会的推論」が発生すると論じている。さらにこの推論は世間でそのブランドや
広告が受け入れられておりいわば規範化するとしている。これを規範的効果と呼んでいる。仁科
らはさらに「世評感」「売れ行き感」などに分けて論じている。
この仁科らの論考のなかでは、広告によって作られた規範を「Subjective Norm」と明示的に
は論じていないが、まさに Subjective Norm と云える。広告がこのような社会的規範を作り、消
費に影響を与えたり、需要を生み出していることは容易に想像できる。
どのような社会的規範をつくることがそのブランドの購入を促すかを明らかにすることが大切
である。しかし、仁科らの「集団効果」理論でそれらについて述べられていない。そこで次の3
点を明らかにすることが Theory of Reasoned Action を踏まえた広告効果を理解し、またその結
果を実践的なインプリケーションに結実させるために必要である。
①どういう場合に Subjective Norm が作られるのか
②Subjective Norm は購買行動にどのように影響力を与えるのか
③Subjective Norm の形成メカニズム
これについて次の項で述べる。
4 尺度開発/
尺度開発/測定方法の
測定方法の開発と
開発と事例
Subjective Norm の理論展開をするためには、まずこれらを客観的に測定する尺度を開発する
必要がある。尺度としては次のものが考えられる。
①集団効果(推論効果)の認識度 「この広告は皆も見ている」という実感
②規範効果の尺度
・認識している「消費の規範」 消費の規範が形成されているか
・広告は消費の規範形成に役割を果たしているか 広告の関与や影響の程度
・広告によって形成された消費の規範が Subjective Norm として機能しているか
これらの指標が開発された後に、実際に広告が消費者に Subjective Norm を形成しているかど
うかを検証する。
事例として「社会の眼を意識する」商品として比較的ポイントの高かった携帯電話の CM につ
いて Subjective Norm が形成されたか事例研究を行った。ソフトバンク「白土家の人々」の広告
は携帯電話(通信会社)の機能性を全く伝えず、むしろ、
「携帯電話を選ぶ時に機能や特性を検討
3
しないで、その場の気分で選ぶべきである」という規範作りをしていると考えた。実際に学生調
査を行ったところ、この規範を認めたのは 12.5%にとどまった。これは携帯電話という学生に摂
っては高額であり、関与の高い商品であったこと、また授業内でのアンケートということで理性
的回答が増えたことと思われる。今回の発表では Subjective Norm の形成と広告との関連が明確
になっておらずその尺度化もあわせて今後の課題として取り組んで行きたい。
5 Subjective Norm を重視した
重視したコミュニケーション
したコミュニケーションのあり
コミュニケーションのあり方
のあり方
メディア特性を集団効果、規範形成効果という視点で比較すると表3の通り。
マス広告は集団効果を生み、その結果、規範形成効果も生み出すと思われる。反面、企業サイ
トや商品サイト等のネットコミュニケーションでは自分にとって今必要な商品情報を得ようとい
う意図があり、情報を自身に特化した情報と捉えるので、集団効果は生じにくい。従って規範効
果もない。ソーシャルメディアについては、その内容よりは同一画面上にある Web 広告が集団効
果を持つ場合がある。Yahoo,google などの検索サイト、mixi などの SNS では同じ Web 広告が繰
り返し提示されることからおそらく他人も同様の受け取りをしていると考えるであろう。
表3 メディアごとの役割(期待する効果)
、説得力、消費行動への影響
マス広告
集団効果の生じやす
さ
ネットコミ(企業サ SM+CGM+検索
イト、比較サイト等) サイト(上の広告)
◎特にテレビ、新聞
といった大メディア
×
△(SM 上のネット広
告)
規範形成効果
○
―
△
説得力、共感促進
△
○
◎
消費者行動への貢献
・新製品、既存商品
の新規性への注目
(認知促進)
・消費規範への働き
かけ(カテゴリーニ
ーズをつくる)
・詳細な商品情報の
提供
・ブランド選択への
貢献
・SMのコンテンツ
による商品購入やブ
ランド選択への強い
影響力、特定ブラン
ド・企業との強いキ
ズナ作り
消費情報との親和性
消費情報を提供でき
る
詳細な消費情報を提
供できる
消費情報はあまり馴
染まない
これらのメディア特性を考えながら今後のマス広告戦略を考えると、第一に、従来通り注目に
よる認知の促進(ネットへの誘導、ソーシャルメディアでの話題喚起)があるが、これに加えて
Subjective Norm 構築のコミュニケーション、つまり消費の世論作りを行う。この消費の世論が
ネットコミやソーシャルメディアで強化されるような総合的な組み立てが求められよう。
6今後の
今後の課題と
課題と展望
マス広告の役割は注目や認知獲得だけでなく、Subjective Norm の形成を通じた需要形成まで
広げるべきである。そのためには広告による知識形成ということだけではなく、規範形成という
視点まで拡大し消費行動への関与を明らかにすることが必要である。
今後の課題としては、今回「規範形成」としたが、よりコミュニケーションの役割を広げ、池
田謙一が指摘するように「リアリティ形成」という概念で捉えるべきかもしれない。またカテゴ
リーニーズを生成するという機能もこの Subjective Norm と関連づけることが望ましいと考えら
れる。これらのためには Subjective Norm の尺度、調査方法の開発が望まれるし、その中でノン
フレームで調査が可能な発話の言語解析などの利用も考えられる。
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