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オンデマンド・リアルタイム集荷型配送の特性と導入
論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 オンデマンド・リアルタイム集荷型配送の特性と導入に関する検討 A Study of On-demand Real-time Parcel Collection and Delivery Systems 澤邊 佳代子(流通経済大学大学院) 、増田 悦夫(流通経済大学) Kayoko SAWABE(Ryutsu Keizai University)、Etsuo MASUDA (Ryutsu Keizai University) 要旨 宅配便など競争が激しさを増している今日の小口配送サービスは、仮想店舗での買い物への対応などから B2C 型 に重点が置かれ、特に荷受人サイドの便宜を考慮した質の向上に主眼が置かれている。配送需要の新規開拓の必要性 やモバイル通信技術の進展を考慮すると出先からの配送需要への対応も検討の余地があると考えられる。本論文では、 外出先の荷送人からの依頼に対し直ぐに駆けつけて集荷を行う「オンデマンド・リアルタイム集荷型配送サービス」 を取り上げ、集荷から配達までのトータルな範囲での特性評価とその結果に基づく今後の導入指針を示した。 Abstract To collect parcels of individual shipper directly on his demand is an important subject in the future delivery services. We have studied the system called "On-demand real-time parcel collection and delivery system." We firstly describe features of the system, then show the basic characteristics obtained by the simulation comparing with the existing milk-run type parcel collection, finally propose guidelines for commercial use of the system. 1.まえがき し直ぐに駆けつけて集荷を行う「オンデマン インターネットの進展により仮想店舗の需 (1) 要が拡大している 。一方、宅配便やメール便 ド・リアルタイム集荷型配送サービス」を取り 上げ、導入可能性について検討を行う。 など小口配送分野での市場獲得競争が熾烈化 (2)(3) 利用者の集荷依頼に対応したサービスとし 。宅配便に代表される今日の配 ては、法人を対象に指定された場所に集荷に向 送サービス(即ち、荷送人の荷物を集め、荷受 かう集荷依頼サービス(8)やインターネット経 人へ配達するサービス)は、仮想店舗での買い 由で集荷依頼を受け付ける Web 集荷受付サー 物への対応などから B2C 型の形態に重点が置 ビス(9)(10)が商用化されている。が、外出先の かれ、サービスの質の向上については、配達時 個人からの集荷依頼や集荷依頼に対するリア (4)(5) ルタイムの駆けつけには対応していない。リア している のカードによる決済 、荷物追跡による荷 (6) 、メール・携 ルタイムに駆けつけるものとして各種のバイ (7) ク便サービスが知られている(11)が、営業拠点 など、荷受人サイドの便宜を考慮したものとな は特定な地域に限定され、集荷先が拠点周辺エ っている。しかしながら、GPS(Global Positioning リアに限定されている。また、住所を記載でき System)機能付携帯電話などモバイル通信の進 ない外出先への集荷にも対応していないのが 展や配送需要の新規開拓を考慮すると、出先か 現状である。本論文で扱っているようなオンデ らの配送依頼にも対応し集荷側の便宜を図っ マンド型のリアルタイム集荷型配送について た C2C 型の配送サービスの導入についても積 は、文献(12)で方式の提案がされ、特に荷送 極的に検討していく余地があると考えられる。 人から集荷する部分についての基礎的特性が 受人などからの問合せへの対応 帯電話の利用による不在・再配達への対応 本論文では、外出先の荷送人からの依頼に対 既存の巡回集荷型配送方式との比較を含めて - 89 - 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 リア間(同図 b→d→e)の 3 種が存在する。 示されている。しかしながら、配送方式全体と しては、配達部分の特性や配送方法、地域拠点 図 1 の下左の図は集荷部分を示したものであ 間の輸送業務と集荷・配達業務との連携方法、 る。営業所(■)が荷送人(○印)から依頼を 全体のリードタイムにおける輸送部分の影響 受け付けると(①)、待機していたバイク等が の程度などをさらに明らかにする必要がある。 即座に集荷に駆けつける(②)。荷受人が別の 以上より、本論文では、集荷部分だけでなく 営業所内の場合には預かり荷物を配送センタ 配達までを含めたトータルな範囲での特性評 へバイク輸送し(③)、荷物を降ろして営業所 価を試み、それに対する考察を加えるとともに、 へ戻る(④)。自分の営業所内の場合にはその 今後の商用導入の方法としてどんな形態が考 まま荷受人(★1)へ届け(③´) 、営業所へ戻 えられるかの指針についても提案を行う。 る(④´) 。一方、図 1 の下右の図は配達部分 を示したものである。配送センタには、遠距離 便のドライバから前もって届け先営業エリア、 2.オンデマンド・リアルタイム集荷型配送 図 1 にオンデマンド・リアルタイム集荷型配 荷物の個数、到着予定時刻などが情報ネット 送のシステム構成を示す。配送のネットワーク ワーク経由で知らされる。配送センタは、こ は、荷主(荷送人、荷受人の総称)に直接対応 の情報を届け先の各営業エリアの営業所へ中 する「営業所」、隣接営業所との中継あるいは 継し配達依頼を行うようになっている。配送 遠隔地の営業所への配送拠点となる「配送セン センタから着荷物の配達依頼を受け付けると タ」とに階層化されている。営業所には個々の (①)、必要な台数のバイク等が配送センタへ 依頼荷物に対応するバイク等の軽車両が待機 駆けつけ(②) 、荷物を積んで荷受人(★2)へ している。また、配送センタ相互間には大型ト 配達し(③) 、元の営業所へ戻る(④) 。 以上のように、集荷側も、配達側も、依頼に ラックなどの遠距離便が規定された計画に基 づいて運行している。配送のパタンンとしては、 応じて即座に対応し、集荷または配達を行うこ (i)同一営業エリア内(図1のa)、(ⅱ)隣 とを基本としている。逆に、依頼がない限り配 接営業エリア間(同図b→c) 、 (ⅲ)遠隔営業エ 送業務は発生しない。なお、荷主はランダムな 配送 センタ 配送 センタ d b 営業所 c 営業所 配 送 パ タン (ⅰ)a: 同 一 営 業 エリア内 (直 送 ) (ⅱ)b→c: 隣 接 営 業 エリア間 (配 送 セン タ経 由 ) (ⅲ)b→d→e: 遠 隔 営 業 エリア間 (複 数 配 送 セ ンタ経 由 ) e 営業所 ハ ゙イク等 荷送人 a 荷受人 荷受人 営 業 エ リア 営 業 エリア × × ②集荷 荷受人 実車状態 営 業 エリア 空車状態 × ③ 配 送 センタへ ③配送 配 送 セ ンタ 配 送 センタ ①受付 ④ ´戻 り ★1 × ② 配 送 センタへ × ④戻り × 注 )■ :営 業 所 (バ イ ク 等 が 待 機 ) ○ :荷 送 人 × :他 の 荷 主 ★ 1、 ★ 2:荷 受 人 図1 オンデマンド・リアルタイム集荷型配送の構成 90 ★2 ④戻り ③ ´配 送 ①受付 × × 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 場所(移動し得る)に位置し、任意の場所・時 も大きいと考えられる配送パタン(ⅲ)b→d→e 刻から依頼を発生させる。配送の依頼は、例え を対象とする。なお、他の配送パタンについて ば、GPS 機能付きの携帯電話から営業所の Web は、3.4 節で考察する。シミュレーションの条 サイトへアクセスし、場所や荷物に関する必要 件は以下のとおりとする(図 2) 。 情報を入力して送信すればよい。 ■営業エリアは半径 5kmの円とする。配送セ ンタもひとつの営業エリアに属し、自分の属す る営業エリア+周辺 6 つの営業エリアの合計 7 3.配送システムの評価と考察 本章では取扱店を巡回して集荷を行う巡回 エリアを収容する(両配送共通の条件) 。 集荷型配送との比較によりオンデマンド・リア ■荷主は営業エリア内に一様に分布するもの ルタイム集荷型配送方式を評価・考察する。 とする。荷送人からの依頼や配達品の受け取り 3.1 評価項目 は、それぞれ平均 50 分の指数分布で発生する オンデマンド・リアルタイム集荷型配送では、 ものとする(両配送共通の条件) 。 外出先荷送人の荷物という新たな需要を取り ■オンデマンド・リアルタイム集荷型配送の場 込める上、依頼への即応性と渋滞の影響を受け 合、営業エリアの中央に営業所が設置される。 にくいバイク等の使用から配送のリードタイ 集荷や配達時のバイクの走行は直線距離で評 ムを短縮できる可能性がある。ここでは荷主と 価し、バイクの速度は平均 20km/h とする。 業者に関連する 2 つの基本的特性を評価する。 ■既存の巡回集荷型配送では、営業所内の取扱 ①配送リードタイム:荷送人の配送依頼時点か 店は中央に 1 箇所、周辺に 6 箇所、合計 7 箇所 ら荷受人への配達完了までの時間とする。 とし、相互間の距離は 2.5km とする。巡回集荷 ②配送費用:サービスの提供には集荷・配送用 時や配達時のトラックの走行は直線距離で評 バイク、遠隔輸送用車両、営業拠点などを確保 価し、走行速度はバイクと同様平均 20km/h と するための初期投資費用、ドライバなどの人件 する。集荷時の巡回間隔はパラメータとする。 費や車両の燃料費などの運用費用とが必要と ■遠距離便は、発側配送センタから一定間隔 なる。ここでは基本特性の比較評価に主眼をお (例えば、2 時間)で各方面へ向けて出発する き配送費用、即ち荷物1つを配送するのにかか ものとする(両配送共通の条件) 。 る車両の燃料費を取り上げ、それを、(集荷の ■荷送人は、図 2 の 7 つの営業エリアのうち周 際の総走行距離/車両の燃費 ×燃料単価)/集荷荷物数、で 営業エリア 営業所 営業所 算出する。荷物のサイズの違 配送センタ いがあるが、その違いによっ て車両の燃料費は変わらな いものとする。なお、燃料費 円内を一 様に分布 円内を一 円内を一 様に分布 様に分布 以外の費用については最終 ○ ○ 的な方式選定の段階で考慮 されるものと考えられる。 ◇ ◇ 5km ◇ ◇ ◇ ◇ 5km 5km 5km 5km 2.5km 2.5km 評価はシミュレーション は図 1 に示す 3 種が存在する ◇ ◇ ◇ ◇ 5km 3.2 評価モデルと評価条件 を用いて行う。配送パタンに ◇ ◇ ○:荷主 【リアルタイム集荷型配送】 が、取り扱い個数の割合が最 ◇:取扱店 ■:営業所(代表取扱 ■:営業所(代表取扱 ◇:取扱店 店) 店) 【巡回集荷型配送】 【巡回集荷型配送】 図2 評価モデル 91 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 辺のエリアに属するケースを評価するものと 送方式を比較したものであり、図 5 は特にオン する。中央のエリアに属する場合には、走行距 デマンド・リアルタイム集荷型配送におけるリ 離が短くなり、その分リードタイムや配送費用 ードタイムの内訳を示したものである。図 4 よ は小さくなる(両配送共通の条件) 。 り、リアルタイム集荷型配送は、リードタイム 3.3 評価結果と考察 において既存の巡回集荷型配送よりも短縮で (1)配送リードタイム きる。個々の依頼における大小関係は両方式 図 3 に両配送方式のリードタイムの構成を示 で変わり得るが、起こり得る最大値や平均値 す。網掛け部分は荷物を積んで走行している状 では、リアルタイム集荷型(最大 6.4、平均 態である。リアルタイム集荷型配送のリードタ 5.7)<2 時間巡回集荷型(最大 8.0、平均 6.8) イムは、①+②+③+④+⑥で算出され、⑤は <4 時間巡回集荷型(最大 10.0、平均 8.0) 含まれない。⑤はバイクの配送センタ到着待ち <8 時間集荷型(最大 14.0、平均 10.4)の順 であるが、事前に連絡を受けると、前もって駆 で常に一定である。また、リアルタイム集荷型 けつけることが可能なため④に吸収されるも 配送は、ばらつきを小さくできる効果がある。 のとした。 ③や③´は、遠距離便が 2 時間毎 ばらつきの要因は、図 5 より集荷側での遠距離 に配送センタを出発することとし、その出発を 便との接続待ちが大きい。遠距離便の出発間隔 待つ時間である。⑤´は巡回集荷型配送におい (今回は 2 時間)が小さくなるほど、安定した て 2 時間毎に配達車が配送センタを出発するこ リードタイムを実現できる。 ととし、それを待つ時間である。主にひとり分 (2)単位荷物あたり必要な配送費用 の荷物を運ぶバイクと異なり、各方面から到着 図 6 に単位荷物あたり必要な配送費用の評価 する遠距離便のうちのひとつの到着に合わせ 結果を示す。ここでは、配送システムの集荷部 てトラックを駆けつけさせるのは得策でない 分を取り上げて両配送システムの比較を行っ ので、⑤´の時間をリードタイムに含めること た。集荷部分は、営業所を出発し荷送人の荷物 にした。④は両配送方式で共通である。なお、巡 を車両に積んで配送センタへ届け営業所へ戻 回集荷配送における⑥´は、複数積んでいる荷 るまでが範囲であり、この範囲の車両走行にか 物の中で対象としている荷物が最初に配達さ かる燃料費を算出した。車両の燃費は図 6 に示 れるものとして評価した。従って、⑥´の値は す通りであり、燃料単価は 140[ユニット/リットル]と 最小ケースであり、一般にはこの値以上となる。 した。なお、ユニットは通貨単位(ここでは、1 円) として用いている。 評価結果を図 4 及び図 5 に示す。図 4 は両配 バイク 待ち オンデマンド・ リアルタイム ① ② 集荷型 配送 依頼発生 巡回 集荷型 配送 ①´ バイク 配達 バイク輸送 遠距離便 (発配送センタへ) 待ち 遠距離便輸送 バイク到着 待ち ②´ ⑥ ④ (着配送センタへ) ③ ③´ ⑤ 遠距離便輸送 (着配送センタへ) ④ 巡回車 巡回車輸送 遠距離便 待ち (発配送センタへ) 待ち 図3 配 送リードタイム(荷 送人∼ 荷受人)の構成 92 注) 注) 網掛け: 網掛け: 輸送状態 配達完了 配達完了 ⑤´ 配達車 待ち ⑥´ 順次 順次 配達 配達 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 図 6 より、巡回集荷型配 送では、巡回間隔が大きく 巡回集荷型配送(×:8時間巡回、 :4時間、○:2時間) なるほど1回の巡回で多 くの荷物を集荷できるた め、単位荷物当たりの配送 費用は小さくなる。一方、 リアルタイム集荷型配送 は巡回間隔とは関係なく、 バイクの燃費に応じて配 オンデマンド・リアルタイム集荷型配送(△) 送費用が変わる。巡回集荷 型配送は 4 時間以上の間 隔で巡回するとリアルタ イム集荷より有利となる。 図4 一方、配達側についてみ 配送リードタイム(荷送人∼荷受人)の比較 た場合、巡回集荷型配送で は個々の荷受人(≠取扱い 注)○番号は図3の番号に対応 +⑥ 店)への配達が必要となる ため、取扱い店のみを巡回 +④ する集荷側に比較し配送 費用は大きくなると考え られる。リアルタイム集荷 +③ 型配送では配達側と集荷 側とは同等と考えられる。 ①+② なお、遠距離便の配送費用 は両方式共通である。 (3)総合評価 図 4 及び図 6 の 2 つの特 図5 配 送 リ ー ド タイ ム( リ アル タ イ ム集 荷 型配 送)の 内 訳 性を総合した場合、例えば、 回集荷型配送が望ましいといえる。 配送費用が 200[ユニット/荷物]を上回らなけれ 3.4 特性に関する発展的考察 ばよく、かつ配送リードタイムを 6.5 時間程 (1)他の配送パタンの特性 度にしたい場合は、オンデマンド・リアルタ ここでは図 1 の配送パタン(i)、 (ⅱ)につい イム集荷型配送の適用領域となる。逆に、配 ての特性を考察する。まず、配送リードタイム 送リードタイムの条件が、 例えば 24 時間以内 については、図 3 より配送パタン(i)では、① と緩く、一方配送費用を極力小さく(例えば +⑥(リアルタイム集荷型)に対し①´+②´ 100[ユニット/荷物]以下に)したいような場合 +⑤´+⑥´(巡回集荷型)となり、また配送 には巡回集荷型(8 時間巡回)の適用が必要 パタン(ⅱ)では、①+②+⑥(リアルタイム となる。一般には、料金が多少かかっても配達 集荷型)に対し、①´+②´+⑤´+⑥´(巡 の即時性を期待する荷主にはリアルタイム集 回集荷型)となる。なお、巡回集荷型では、配 荷型配送が向いており、即時性の要求よりも低 送パタン(ⅰ)でも他の荷物が存在するため一 料金のサービスを期待する荷主に対しては巡 旦配送センタまで運ばれることになる。配送パ 93 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 タン(ⅰ)や同(ⅱ)では、遠距 離便との積み替えの必要がない 巡回集荷型配送 (トラック燃費:10km/l) リアルタイム集荷型配送にとっ て非常に効率がよく、巡回型配送 に対する配送リードタイムの優 位性は配送パタン(ⅲ)よりも大 きいと考えられる。 一方、単位荷物当たりの配送費 用については、荷主からの依頼が オンデマンド・リアルタイム集荷型配送 (△:バイク燃費20km/l、 :燃費25、○:燃費30) 3.3 節の評価の場合と同じ頻度 (平均 50 分の指数分布)で発生 した場合、巡回集荷型では配送パ タン(i)でも(ⅱ)でも図 6 と 図6 荷物当たりの配送費用の比較(集荷部分) 同一であるのに対し、リアルタイム集荷型では、 することにより集荷を行うため、集荷側におい 配送パタン(ⅱ)のみ図 6 と同一であり、配送 ては荷主の位置の分布によって特性が変わる パタン(i)は集荷時の営業所への戻り、配達 ことはない。しかし、配達側については、荷主 時の配送センタへの駆けつけが不要となるた に対し個別の配達が必要となるため、位置によ め、走行距離が配送パタン(ⅱ)や(ⅲ)に対 る影響を受けることになる。影響の度合いは一 し平均で 1/4 以下程度に減る(注:パタン(ⅱ) 般にはランダムに一様分布する場合が最悪ケ や(ⅲ)では集荷時が荷送人まで平均 2.5km、 ースであり、局所的な偏りが生ずるにつれてよ 配送センタ往復で平均 20km の合計 22.5km、配 い方向の特性になると考えられる。 達時も同様で 22.5km、集荷と配達で平均 45km、 (3)配送依頼の発生間隔の影響 これに対しパタン(i)は荷送人まで平均 2.5km、 今回のシミュレーションでは、荷送人からの 荷受人まで平均 5km、営業所戻りで平均 2.5km 配送依頼の発生間隔が平均 50 分の指数分布に の合計 10km で済む)と想定され、その分だけ 従うものとして評価を行った。発生間隔の平均 図 6 よりも減少する。配送パタン(i)ではリ 値が変わった場合の影響について考える。 リアルタイム集荷型配送では、依頼に即応す アルタイム集荷型が配送費用の面で非常に効 率的といえる。 る配送方式であるため発生間隔に対し敏感で (2)荷主位置の分布の影響 ある。各配送依頼に対し、待機しているバイク 前節では配送依頼を行う荷主の位置の分布 (及びそのドライバ)が存在している場合には は一様として評価を行った。分布が変わった場 今回評価したリードタイムや配送費用に変わ 合の特性について以下に考察する。 りはない。しかし、バイク(及びドライバ)を リアルタイム集荷型配送では、荷主の位置が 無制限に待機させることは不可能なため、依頼 配送リードタイムや配送費用に直接影響する。 が集中した場合には対応するバイク(及びドラ 荷主位置の分布が中央の営業所から離れる方 イバ)が不在の事態が発生し得る。何台を待機 向で、かつ配送センタから遠ざかる方向に多く させるかは、車両費や人件費、利用者の満足度、 分布するような場合には、荷物当たりの走行距 サービス提供料金などを考慮して決められる 離が増えるため、配送リードタイムも配送費用 が、最終的な方式選定段階における課題となる。 もともに 3.3 節の評価結果よりも増加する。 この場合には、配送リードタイムに図 3 では想 定しなかった空きバイク(及びドライバ)待ち 一方、巡回集荷型配送では、取扱い店を巡回 94 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 の時間が追加されるため増えることになる。こ 依頼の頻度が低く少量の小口荷物を扱うよう のようなケースを少なくすること、この時間を な場合には非効率となる上、巡回方式のために 短くすることがリアルタイム集荷型方式導入 リードタイムのばらつきが大きく緊急性を必 上の課題となる。 要とする配送には向いていない。 一方、巡回集荷型配送では、配送依頼の発生 そこで、依頼の頻度が低いが緊急性の高い小 間隔の変化は取扱い店に預けられる荷物数の 口荷物に対し今回のリアルタイム集荷型配送 変化となって現れるため、今回評価した 2 種の で補完し、両者を併用するようにする形態が現 特性のうちの単位荷物当たりの配送費用に対 実的な案と考えられる。その場合、リアルタイ し影響が出ることになる。即ち、依頼の発生間 ム集荷でバイクが待機する営業拠点は新規に 隔が短くなり集中した場合には取扱い店の荷 独立に設ける必要性は低く既存サービスでの 物が増えるため単位荷物当たりの配送費用が 拠点を極力共用する形態が現実的であり導入 減少しむしろ都合がよい。逆に、依頼の出方が 費用面で有効と考えられる。 疎の場合には配送の効率が悪くなり費用が増 4.2 両配送方式併用の具体例 加することになる。 両配送方式を併用する場合、(ⅰ)集荷・配 結局、依頼の発生間隔がより小さくなるとリ 達に用いる車両としては、①バイク(または軽 アルタイム集荷型の配送リードタイムを悪化 車両)と②トラックとが想定され、また(ⅱ) させ、逆に発生間隔がより大きくなると巡回集 集荷先としては、①個人(外出先や荷送人世帯) 荷型の配送費用を悪化させることになる。 と②取扱い店とが存在する。上記(ⅰ)と(ⅱ) (4)配送センタからの帰り荷の扱いとの関係 を荷主の配送依頼に対しどのように使い分け どちらの配送方式も、集荷した荷物を配送セ るかが両方式を運用するうえで課題となる。荷 ンタへ届けた際、自分の営業エリア着の帰り荷 主の配送依頼をオンデマンド集荷の必要性と を処理するようにする方法も考えられる。これ 配送の緊急性との観点から分類すると、 により、実車率(即ち、全走行距離に対する積 (a)オンデマンド集荷が必要 載状態での走行距離の割合)を向上させること (a.1)配送の緊急性:高い ができる。その結果、同じ走行距離で処理され (a.2)配送の緊急性:高くない る荷物数が増加するため、単位荷物当たりの配 (b)巡回型集荷でよい 送費用を削減することが可能である。この場合、 (b.1)配送の緊急性:高い 配送方式間の配送費用の関係は図 6 と同等と考 (b.2)配送の緊急性:高くない の 4 ケースに整理できる。 えられる。 上記(a.1)、 (a.2)、 (b.1)の 3 種の依頼への対 4.今後に向けての導入指針 応策として、以下のような使い分けが考えられ 小口配送サービスとして巡 回集荷型が主流 る。即ち、上記(a.1)に対しては、バイクで個 の状況において、オンデマンド・リアルタイム 人に対しオンデマンド集荷を行い配送を行う 集荷型配送をどのように導入すればよいかに オンデマンド・リアルタイム集荷型配送で対応 ついて考察する。 し、上記(b.2)に対しては、トラックにて取扱 4.1 導入の基本的な考え方 い店に対し巡回集荷を行い配送を行う既存の 第 3 章での特性評価結果より、既存の巡回集 巡回集荷型配送で対応する。一方、上記(a.2) 荷型配送は緊急性の高くない荷物を効率よく に対しては両配送方式併用で対応する。即ち、 配送するのに適した方式であると考えられる。 バイクで個人に対しオンデマンド集荷を行う しかしながら、配送にトラックを利用するため が、配送の緊急性が高くないため集荷したもの 95 論文 R 日本物流学会誌第 15 号 平成 19 年 6 月 ことなどを明らかにした。 は配送センタでなく取扱店へ届ける。その後、 トラックが取扱店を巡回し、集荷し配送すると さらに、今後の商用導入に向けての基本的な いうものである。営業所内の取扱店が荷送人か 考え方として、荷主からの多様な配送依頼に対 ら離れているような場合、荷送人への便宜が図 し、従来からの巡回集荷型配送に加え、今回取 れ、かつ取扱店への配送はバイクにより効率よ り上げたリアルタイム集荷型配送を相互補完 く行うことができるため有効と考えられる。ま 的に利用するのが現実的であることを示した。 た、配達側では配送センタへの到着荷物が同一 これにより荷主の満足度と業務の効率とを向 営業エリアへ複数個集団で届く可能性がある 上させることが可能と考えられる。 ため、バイクの代わりに軽車両などを利用して なお、今回の議論は 3.2 節の条件を前提とす 巡回配達する方法も有効と考えられる。併用の る評価結果に基づくものであり、方式の最終選 仕方については方式の最終的選定段階での検 定の段階においては、外出先からのリアルタイ 討課題となる。なお、 (b.1)に対応するサービス ム集荷の需要の特性を含め実体に即したモデ は存在しないと思われる。 ルでの特性評価、必要となる初期投資費用や運 4.3 全国規模へのサービスの展開 用費用、サービス料金の設定法などの検討が必 要となる。 第 3 章の特性評価では荷主が営業所内に一様 に分布し、平均 50 分の間隔で配送依頼を挙げる ものとして行った。現実にはこのような均一の 参考文献・サイト 需要が得られるわけではない。今回のシステム (1)平成 18 年版情通白書、http://www.johotsusintokei. は全国規模を想定したものであるが、商用導入 soumu.go.jp/whitepaper/ja/h18/index.html(総務省). に当たってはある一定以上の需要の見込まれ (2)鈴木邦成:郵政民営化で始まる物流大戦争、かんき出 るエリアからサービスを開始し、段階を踏んで 版、2004 年 9 月. 徐々にサービスエリアを拡大していくという (3)鷲巣力:宅配便130年戦争、新潮社、2006 年 01 月. ことになろう。 (4)佐川急便−e−コレクト、http://www.sagawa-exp.co.jp /business/ecollect-index.html(佐川急便). 5.むすび (5)宅急便コレクト、http://www.kuronekoyamato.co.jp 以上、小口配送分野における市場獲得競争へ /corect/corect.html(ヤマト運輸). の今後の対応として、外出先も含む荷送人から (6)仮屋大輔:佐川急便−情報システム 顧客の問い合せ の依頼に即応し集荷を行うオンデマンド・リア に軒先で回答 通信機能が充実した新端末を導入、 ルタイム集荷型配送方式を取り上げ基礎的検 LOGI-BIZ、2004 年 10 月. 討を行った。 (7)ドライバーダイレクト、http://www.kuronekoyamato. まず、最も基本的な特性である配送リードタ co.jp/news/h16_42_01news.html(ヤマト運輸). イムと単位荷物あたりの配送費用の評価結果 (8)集荷依頼サービス、http://www.sagawa-exp.co.jp/ を示し、集荷時の配送費用の条件が 200[ユニッ business/service/other/syuka.html(佐川急便). ト/荷物]以下と緩く、配送リードタイムが 6.5 (9)Web サービス、http://www.sagawa-exp.co.jp/ 時間程度と小さい場合にはオンデマンド・リ business/service/other/webservice.html(佐川急便). アルタイム集荷型配送の適用が必要で、 逆に、 配送リードタイムの条件が、 例えば 24 時間以 (10)Web サービス、http://www.kuronekoyamato.co.jp/ services/webservice-guide.html(ヤマト運輸). 内と緩く、配送費用を極力小さく(例えば 100 (11)バイク便、http://www.shipping.jp/bike/(送料の虎). [ユニット/荷物]以下に)したい場合には既存の (12)増田悦夫:個別集荷型配送システムの実現に関する 巡回集荷型(8 時間巡回)の適用が望ましい 基礎検討、本学会誌、第 14 号、No. 14、2006 年 5 月. 96