Comments
Description
Transcript
新たな通貨(オイロ)の流通
新たな通貨(オイロ)の流通 庄 菊博 今回の青少年異文化体験使節団においては、青少年 11 名の各自が、生活・環境・教育等といっ た研修テーマを持って参加した。 私 は、通 訳 という役 割 をもってこの使 節 団 に随 行 したのであるが、自 分 なりに一 つの問 題 関 心 を 持っていた。それは、2002 年 1 月 1 日より、ドイツを含む、欧州の多くの国々で本格的に導入・流通 したオイロ(EURO,英語読みではユーロ)がドイツ市民の実生活においてどのように影響を与えてい るのかについて知ることであった。 新たな通貨オイロのとの出会いは、日本を出国する前、成田空港での待合室の中であった。私は、 事 前 に日 本 の旅 行 会 社 を介 してオイロを購 入 したが、手 渡 された封 筒 の封 を切 ると、初 めて見 るオ イロ紙 幣 、しかも、折 り目 のないピン札 (新 券 )が入 っていた。従 来 、日 本 でマルクのような外 貨 を購 入する場合 、それは、外国からの旅行者等が日本に持ち込んだ紙幣であるために、ピン札が混じっ ていることは極 めて稀 である。それが、今 回 は全 てがピン札 である。オイロが本 格 的 に導 入 されてか ら約半年であるが、この半年という期間は、すでに半年ではなく、いまだ半年との感がした。 ドイツで初めてオイロの価格表示に接したのは、スーパーマーケットであった。一見すると、全体的 に物 価 が下 がっている印 象を受 けた。しかし、それは錯 覚 であった。ドイツにおけるマルクからオイロ への換算比率は約 2:1 である。例えば、従来は 2 マルクの品物は 1 オイロとなる。そのため、値段を 表示する数字は小さくなっているが、それを、上述の換算比率で、2 年前の値段と比較すると若干は 値上がりしているようである。実際、現地の人々も、オイロになって、便乗値上げが横行しているという 実感を抱いている。端的な例としては、駅のトイレの使用料については 2 倍の値上げになっていた。 このような値 上げの事実 は、帰国 後 において検 証することができた。あるドイツの雑 誌記事によると、 このような便乗値上げによってドイツの商店や飲み屋では売上が減少しているという。そして、かかる 状 況 は、Euro ist Teuro(オイロ イスト トイロ)という皮 肉 を生 み出 しているらしい。これは、Euro と teuer(値段が高い、英語では expensive)という形容詞をもじって、「オイロはタカイ(値段が高い)ロ」 ということになる。 他方で、新たな通貨オイロの流通は、国境を越える度の換金を不要としたばかりではなく、商店等 における清 算の近 代化 をもたらしているようだ。従来、ドイツでは、日本 のように品 目と値 段が記載 さ れたレシートは、スーパーマーケットやデパート等を除 けば、余り普及 していなかった。一般 的 には、 支払時に、総額のみが記載された手書きのメモが手渡されるのみであった。しかし、今回は、ほぼ例 外なく、日本でも見られるようなレシートが発行され、請求内容が明白となっていた。その際、特に印 象 的 であったのは、ドイツ人 が実 際 に支 払 いをするまでに、数 分 間 はレシートと睨 めっこする姿 であ った。そこには、「オイロ イスト トイロ」に騙 されまいとする一 種 の警 戒 心 が感 ぜられた。それに反 し て、オイロ初心者の私としては、半ば小脳がビールによって麻痺しているなか、お別れ会の清算時に おける 30 センチにも及ぶ長いレシートの内容も個々的に確認することなく、また、従来のマルクとの 換算率も遠い忘却の彼方に去り、支払を済ませてしまった。傍らでは、ドイツの使節団担当者が少し チップが多すぎたのではないかと助言してくれたが後の祭りである。 私 は、これまでも通 貨 は国 の顔 であり、そこには、歴 史 や文 化 が表 徴 されているべきであると考 え てきた。例えば、かつてのマルク紙 幣にも、私 が留学 していたミュンスターゆかりの女流 詩人 や、ヴォ ルフラーツハウゼンゆかりの財 務 官 の顔 が見 られた。しかし、オイロは欧 州 通 貨 を目 指 すことで、紙 幣の裏面には橋や門等各国独自のデザインが許されているものの、それらは現実の物であってはな らないという。いわば、オイロは無 機 質 な通 貨 になってしまった。確 かに、理 屈 としては、筋 が通 って いるが、いまだに、福沢諭吉、樋口一葉、野口英世等に拘るのは、島国根性そのものであろうか。 まさに、オイロ(ユーロ)の導入・流通は、21 世紀における最初の大きな実験である。オイロがかつ てのエスペラント語のような運命を辿るのか、また、文字通り、欧州統 一の通貨として定着するのか、 今後の推移を注視したいものである。 末 筆 ながら、今 回 の使 節 団 にご支 援 頂 いた全 ての関 係 者 の方 々に対 して、心 からの感 謝 を表 し ながら帰国報告としたい。 以上