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「辞書指導再考-中・高連携教育の立場から見た理想的な辞書指導を

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「辞書指導再考-中・高連携教育の立場から見た理想的な辞書指導を
辞書指導再考
−中・高連携教育の立場から見た理想的な辞書指導を考える−
小
Ⅰ
柳 安
信
はじめに
中・高連携教育の推進指定校として2年間にわたり,推進指定校の玉野市内の中学校の
先生方と公開授業・研究協議を通して有意義な交流を図ることができた。その中で,「辞
書指導」及び「発音記号の指導」について研究協議してきたわけだが,生徒が英語嫌いを
告白する理由として,まず第一に,「辞書の引き方がわからない」,「辞書に書いてあるこ
とが理解できない」,「単語をどう読んだらよいかわからない」といったことが根強くあ
ることがわかった。従来の辞書指導では,単語を辞書で引き発音記号でその発音を確認し
て単語を読むというアプローチが主流であったし,今でもそうである。しかし,私は,発
音記号の指導も重要であるが,まず最初に,適切な辞書指導をした方がより効果的だと思
っている。換言すれば,今,英語につまずいている生徒には,英語学習の基本である,辞
書の活用の仕方や綴り字と発音の規則性をもっと現場で体系的に教えた方がより効果的だ
と思っている。我々が十何年かかって頭の中に無意識のうちに形成したものを,規則立て
て生徒に教えてやると非常に効果があることは,私の経験からも明らかである。具体的に
言えば,新出単語を辞書で調べさせながら,辞書の引き方や,辞書に書いてある内容を説
明してやり,単語の発音については,単純に発音記号で指導していくだけでなく,発音の
規則性なども教えてやると効果的である。例えば,子音字の読み方をおさえ,母音の読み
方に「短音」と「長音」とがあり,単語の終わりで母音字の後に子音字が続いたらその母
音字は「短音」として発音され,母音字+子音字+eで終わる単語は,その母音字は「長
音」として発音し,語末のeは発音しない,といった基本的ルールをかみくだいて整理し
てやるのである。そうすれば,現在,英語嫌いの生徒や英語につまずいている生徒でも,
辞書の活用法や単語の発音のこつが理解できるようになり,英語のつまずきから少しでも
解放されるのではなかろうか。
本稿では,2年間にわたる研究協議の中で,中学校・高等学校の先生方から出された意
見を基に,中・高連携教育の立場から見た理想的な辞書指導について,さまざまな観点か
ら考察していきたい。
Ⅱ
辞書指導の際の注意点
1.辞書指導の必要性について
玉野高校が市内の中学生に対して行ったアンケートの中に「あなたは英語の辞書を引き
ますか?」という項目があるが,辞書を常用している生徒は少ないようである。このアン
ケート結果から判断して次のことが言えよう。すなわち,子供が中学生になって英語を勉
強するようになると,親はまず辞書を買って与えようとする。しかし,子供は引き方もよ
く分からず,また引く必要もあまりないので,ほとんど使われずに2,3年ぐらい放置さ
れるというケースが多いようである。日本の英語教育においては従来,辞書指導は軽視さ
れてきた。アメリカなどでは,小学校から大学まで,辞書の利用法と引き方が相当丁寧に
-1-
教えられている。英語教師の中には,辞書指導などしなくても,辞書ぐらいは何となく自
分で引けるようになるものだと考えている人もいるようであるが,辞書を引きこなすには,
かなりの知識と訓練が必要なのである。実際,高校生になっても,ろくに辞書の引き方を
知らない者が多い。英語学習の最大の武器である辞書の正しい活用法はできるだけ早く身
につけておくべきである。
ところが,中学校では週4時間しか英語の授業がないので,辞書指導など教室でする余
裕はないという声が数多く聞こえてくる。しかし,マイケル・ウェスト(Michael West)は,
『困難な状況における英語の教え方』(Teaching English in Difficult Circumstances)の中で,
“Children are sent to school not merely to learn but to learn how to learn.”と言っている。授
業時数の少なくなった今こそ,教え過ぎを避け,自学自習の習慣を養う必要がある。その
ためには,十分な辞書指導が必要なのである。
これまで日本の英語教育において,辞書指導がなおざりにされてきたのは事実である。
また,今回の中・高連携教育推進委員会の研究協議の中でも,「辞書指導」として特別に
指導されている先生方はあまりおられないような印象を強く受けた。これには,いくつか
の理由があると思われる。まず第1に教師中心主義である。教室では教師が何もかも教え,
生徒はそれをただ覚えればよいのである。教師の言うことは絶対であるから,教室では辞
書は教師にとって心理的には敵にもなるのである。生徒が得る知識・情報は教師と教科書
からのものに限定されてしまい,生徒達は受動的学習態度だけを身につけることになる。
これからの日本人に必要なのは,積極的に自ら知識・情報を求める姿勢であり,この意味
でも辞書指導の重要性を見直す必要があるといえよう。第2の理由として,生徒に親切す
ぎる教材が多すぎることがある。実際,中学校用の教科書を見ていると,巻末に訳や解説
のついた word list がついており,辞書を引く必要がほとんどないのである。また,中学
校の初学年においては,音声指導に重点が置かれるし,高学年になっても限られた基本語
彙を使って指導要領に示された文型・文法事項の指導に追われるといった実情もある。従
って,高校に入って Reading に重点が置かれ,教材の量が増えて急に辞書の必要性を感
じることになるのであるが,辞書の引き方に習熟していないために,予習や復習にも大変
な時間と手間がかかり,落後していくことがあるのである。辞書指導は,やはり中学校で
一応基礎作りをしておくべきである。また,中学校で最も必要なことは,学習意欲を起こ
させることである。英語学習の楽しさは,どんな平易な文章でも,自分の力で理解できた
ときに生まれる。できる限り家庭で,英語の物語を読むような機会を与えてその楽しさを
体感させたいものである。そのためにも辞書指導は必要なのである。
2.辞書指導の時期及びその方法について
辞書指導をいつ頃から始めたらよいかということについては,教師によって意見が分か
れるであろうが,ある程度英語学習が進み,言語感覚が高まってきたとき辞書指導の効果
はよく現れるので,中学2年生の初め,または,夏休み前ぐらいが適当と思われる。中学
1年生では,やはり聞く話すという意志伝達を最優先した方がよいと思われる。英語学習
の初期の段階における話し言葉の訓練は,将来の英語学習における重要な基礎作りとなる
ものであるから,これには十分な時間と労力をさいた方がよい。週3時間では,このため
の時間はもっと欲しいところである。2年生の夏休みぐらいからは,ごく平易な英語の読
み物を各自で読ませる課題をぜひ出したいものである。そのためにも,夏休み前の辞書指
-2-
導は必要であり,効果的でもある。もちろん,生徒の学力や学習意欲などを考え合わせた
上で,中学1年生からでも辞書の構成について簡単に説明し,適宜,家庭などで辞書を引
かせるようにしてもよいであろう。ただし,名詞などを引く場合には問題ないが,動詞や
形容詞などの場合には,まだ活用形や変化形を学習していないと,辞書を見ていろいろと
疑問を抱いたりすることも多く,教師も生徒も余分な労力を使うことになる。
ところで,中学校では2年生あたりで,高校では入学時などに辞書の引き方の基本を一
通り説明,指導するわけであるが,英語の時間を毎回15分ぐらいさいて教室で一斉に辞
書を引く練習を5,6回は続けて行った方がよいと思われる。その際,全員に同種の辞書
を持たせないと指導できないと言う先生もいるようであるが,そんなことはない。生徒が
いろいろな辞書を持っている方が,表記法や説明の仕方など種々の例をあげるのに都合が
よく,興味も引く。特に,高校生の場合や,実際に英文を読ませながら辞書指導をすると
きなどには,訳語や例文の不備をいくつかの辞書で補うことができて都合がよい場合もあ
る。実際,どんなによくできた辞書であっても完全なものはなく,学習が高度になるほど,
辞書というものは数種類同時に利用すると得る所が多いものである。そのかわり,教師は
生徒達が持っているすべての辞書について一通りの知識を身につけておく必要がある。も
ちろん,中学生の場合には,全員が同種の辞書を持っているほうが指導しやすいことも事
実である。従って,教師が選択した適当な辞書を学校で一括注文して生徒に買わせればよ
い。それが無理な場合には,学校で1クラスの生徒分同種の辞書を揃えておいて,指導用
に利用する方法もよいと思われる。
辞書の引き方の指導では,まず見出し語の見つけ方から始まる。辞書では単語が a b c
順に並んでいることだけを知っていれば,誰にでも一応引くことはできる。しかし,辞書
を引くときには人間は脳と目と手を複雑に,
しかもすばやく働かせる必要があるのであり,
引き方のコツを知り訓練をした者とそうでない者とでは,引く時間に相当の開きが出てく
るものである。中学生にはまずアルファベットを復習した後で,単語を書いたカードをア
ルファベット順に並べかえる練習をさせる。
(これを alphabetizing と言う。)その後,実際に辞書で単語を引かせる指導に移るわけで
あるが,早引き競争などをさせることも1つの方法である。なお,この際には,既習語を
引かせる方がいいように思われる。
発音記号についても大体の説明が必要である。まず,使用している教科書の発音記号を
説明し,その他の表記法の主な点について,また,英米の発音の相違などについても簡単
にふれ,ついでに center, centre などの英米の綴りの相違についても話しておく方がよいの
ではなかろうか。
品詞や語形変化について注意を喚起するには,例文を与えて,ある語が文中でどのよう
な機能を持っているかを考えてから辞書を引かせるようにするのがよいと思われる。
例えば,This tree bears much fruit. の下線部の語を引く場合,文型から bears は動詞であ
り fruit は much に修飾された名詞であることが分かる。bear は名詞ではなく fruit を目的
語とする他動詞であることをまず判断してから辞書を引くように指導した方がよい。未知
の単語をやみくもに辞書で引き,あちこちと訳語を探す無駄な労力を省かせなければなら
ないからである。また,高校レベルでは,次のような文中の下線部の語を辞書で引かせて
意味を考えさせるのもよいのではなかろうか。
-3-
1. He is young but I am old.
2. It never rains but it pours.
3. He is but a child.
4. All but one man were killed in the accident.
5. There is no rule but has some exceptions.
ところで,辞書の役割の中心はなんといっても語の正しい意味を知り,適切な訳語を見
つけることである。生徒が辞書を引いて予習をする時に一番困難を感じる点は,各語にい
ろいろな訳語がありすぎて,どれが当てはまるか分からないという点である。大学生にな
っても豆単を辞書代りにしている者がいるそうだが,訳語や記述が少なくて,適当な訳語
を見つけやすいというのがその理由のようである。例えば,order などには,命令,注文,
順序,整頓,秩序,慣行,種類,階級など実に多くの意味がある。figure にも,姿,容姿,
∼な人物,人物像,図形,数字,計算など種々の意味がある。文脈によってこの中から適
訳を探すわけであるが,これらの中にピッタリした訳語がない場合もある。その場合には,
これらの訳語全体から単語のイメージを描き,適訳を自ら作り出さなければならない。わ
ずかな辞書のスペースの中に考えられるすべての訳語をのせるわけにはいかない。私は高
校生に日頃「ある文脈の中の単語に最もふさわしい訳語は辞書にはない。辞書の訳語を参
考にして自分で考え出せ」と極端な言い方をよくしている。語に原義(基本的意義)とい
うものがあり,order の場合には「列」,figure の場合には「線によって示された形」であ
ることが分かれば,語義の全体像はいっそう容易に浮かび上がってくるだろう。なお,語
義の配列には,使用頻度順によるものと,語義間の関連を考慮したものとがあるが,現在
出版されている辞書には前者のものが最も多い。辞書は上級用になるほど記述が多くなり,
高校生はつい初めの部分だけを見て済ませてしまうことがあるが,辞書はできる限り全体
に目を通す習慣をつけさせるべきである。しかし,辞書は全体をすみからすみまで読む必
要はなく,飛ばし読みでよいと思うのである。まとまった文章ではないから,前後左右ど
ちらかへ視線が飛んでもよい。用例なども含めて記述全体の飛ばし読みの中から正しい意
味や適訳が見つかるものである。
最後に述べておきたいことは,辞書の凡例(使用の手引き)をよく読ませることである。
こういうものを読むのは実に退屈するものであるが,中学生の場合には,(
)や[
]
の使い方。活用形の示し方,e.g., i.e. などの記号,文型や連語の示し方,派生語の示し方
など,めんどうな約束ごとが多いので,教師がやさしく解説してやることが必要だと思わ
れる。特に,2音節以上の見出し語の音節の切れ目は中丸(・)で示され,行を変えて書
くときには必ずここで切ることなどは高校生でも知らないことが多いので注意が必要であ
る。またスモール・キャピタルが相互参照(cross reference)を示していることも案外知ら
れていない。enjoy oneself とか keep one's promise といった表現が辞書に出ているために,I
enjoyed oneself. とか I always keep one's promise.と書いてしまう生徒も以外に多い。
この他,語法,用例,成句の指導や和英辞典についてなど種々の問題があるが,紙面の
都合でここでは省略する。
3.辞書の選択について
辞書は収録語数が多いことを売り物にし,買う方としても,同じ定価ならなるべく収録
語数が多く,長期間にわたって使えるものを選ぼうとする傾向があるが,辞書の場合には,
-4-
大は小を兼ねるという考えはいけない。必ず学力と学年にあったものを選ぶことである。
中学,高校,大学と買い換えていく必要がある。以前は,中学,高校生用の良い辞書がほ
とんどなかったが,最近では,初級者用の良い辞書がかなり出はじめているようである。
学習辞典で重要なのは,収録語数や見出し語の数よりも,どのような記述の仕方がなさ
れているかということである。各項目を平均的に記述するのでなく,基本的な語や機能語
について重点的に詳述しているものが初級者用の場合には望ましい。現在出版されている
辞書は,中学生対象のものは約1万語。高校生対象のものになると4万語以上収録してい
るものが多いが,実際には,もっと語数は少なくても良いのである。特に,中学生用のも
のは活字をなるべく大きくし,例文などが追いこみ式になっていないもの,煩雑な符号や
省略記号などがあまり多すぎないもの,また,図版なども豊富に入れた楽しいものが望ま
しい。その他,発音表記や品詞・語形変化の記述の仕方は系統立ってなされているか,語
義の記述の仕方や用例の出し方などが適切かどうかなど,種々の角度から教師は各種の辞
書をじっくり比較検討しなくてはならない。従って,正しい選択をするには,学習辞典の
あり方について教師も相当の研修をつまなくてはならない。
また,ほとんどの中学校・高等学校が,英和辞典を授業中に使わせており,英英辞典を
採用している学校はあまりないようである。しかし,英英辞典にも中学生用や高校生用の
引きやすいものがあり,生徒は,授業中に英英辞典を引くことで,英語に慣れると同時に,
英和辞典では得ることができない,さまざまな情報や微妙なニュアンスを学習することが
できるのである。以下に,その一部を紹介しておく。
Ⅲ
英英辞典の魅力
1.情報源としての英英辞典
研究社の大英和辞典にも載っていない説明が英英辞典にはあるので,教材研究の時,こ
れはという語は必ず調べることにしている。例えば,hunch には「こぶ」と「予感」とい
う意味が同居している。その関連は Webster's New World Dictionary( 以下 WNW と称す)
によると「hunchback にさわると幸運が来るという迷信から」だと理解できる。
expedition は『小学館英和中辞典』では「遠征,調査旅行,探検,遠征〔探検〕隊;遠
征艦隊」と訳語を並べ正確な意味を伝えようと苦心している。しかし JD では a journey
for a specialpurpose, such as war, discovering, or collecting new plants とあり,「特別の目的を
持った旅行」が中心の意味で,その目的が種々あるのだと分かり,理解し易く応用のきく
説明になっているのである。
英和辞典が正確な意味を伝えようとすればするほど細分化して,その語の全体像はつか
みにくくなってくる。細分化より総合化をねらいにしているのが WNW で,初版から第
2版と20年にわたり愛用し,今3冊目である。この辞書は,定義を「語義の論理的伸展」
に従い「語源から初期の使い方を通して,現在の特殊な,あるいは口語的な使用へ」とい
う配列法をとっている。
例えば communication は前記『英和中辞典』に,③通勤④減刑とあり,この両義間に何
の関係があるのか分からない。ところが WNW によると,まず語源に a changing とあ
り,③ the act oftraveling as a commuter ④ change of the direction of a current by a commutator
⑤ a change of a sentence or punishment to one that is less severe とあり,この語は「変化」
-5-
が元の意味で,場所の変化が「通勤」となり,電流の変化が「整流」となり,刑罰の変化
が「減刑」となることがよく理解できる。
この辞書の語源の解説は, 非常に優れていて, 例えば belittle の coined c.1780 by Jefferson
という説明は OED や Webster や大英和辞典にもない。難しい語は語源から説明する
と,理解し易いだけでなく,生徒も非常に興味を示すように思われる。ある時 innoculation
を[in + oculus]が語源で[bud, eye]の意味になる,つまり「芽・目を中へ」から「芽
を植えつけること」それから「予防接種」になると説明したところ,後で一人の生徒が,
あの時英語に興味を持ったと言ってくれたことがある。
WNW では頻度の高い語義が前にないので一見非能率に見えるが,調べる者にとって
は,よく理解できるのである。例えば,英和辞典では want は「ほしい」で,最後に「欠
けている」が載っている。この2つを関連なしに覚えなくてはならないのである。ところ
が WNW によると,まず①として lack があり④に to desire; wish とある。
「欠けている」
から「ほしくなる」という語義の論理的発展をとらえれば,ごく自然に記憶することがで
きる。このように,生徒に分かるように説明の準備をするのが教材研究だと思うのである。
また,語の使用法の情報もいろいろ与えてくれる。例えば,damage は n. harm (done to
things,not to people)[HEE]と物に被害を与える時に使うことが( )内で理解できる
し, strike が sound の意味の時 JD には次の例文がある。The clock strikes twelve times at
noon. この場合の times が親切で,生徒は twelve o'clock と考えがちなのである。
我々は belong to 一本で学んできたが,意味によって in や with も取ることができるの
である。③ to go along or together with:This page belongs with all the others.④ to have a
correct place:These shoes belong in the cupboard.[CU]
POD も情報に満ちあふれている。まさにポケットにはいる小さな辞書なのに,まと
まった説明がちりばめられていて大変便利である。Roman のところには,ローマ数字の
説明が 1666 や 1900 の書き方まで記してあり,dog を引くと牝犬は bitch,子犬は puppy,
鳴き声は8つも並べてあるのである。まさに,英英辞典とは,情報の源なのである。
2.異文化を知るための英英辞典
外国語を学ぶ意味に,異文化を知る,ということがある。異文化に接することで外国か
ら知識やその国の良さを学ぶことができるのである。例えば,英語学習の際に,英英辞典
を引いていると,英語国民の考え方がよりよく理解でき,また,我々日本人の考え方をよ
り広く深くしていくのに役立つ場合が多いのである。また,英英辞典を引いていると,異
文化の一端にふれ驚くことがあるのである。
一例を挙げれば,relative=「親類」ではないのである。GACには Person who is related
to another, who belongs to the same family
Father, mother, aunts, uncles, brothers, and the like
are relatives. とある。つまり,「英語では,個人を中心に考えて,自分と関係のあるものを
relative と言うが,日本語では家族本意で考えるのである。言葉の裏にはこういうそれぞ
れの民族の思想があるのである。」
「家族」という日本語を引くと「同じ家に住み生活を共にする血縁の人」『
( 岩波国語
辞典』)で終わりである。ところが,英語には日本語と同じ意味の外に,family=a group of
people relatedto each other, including cousins, grandchildren, etc.[CU]とあり従兄弟まで含
まれるのである。このように語の適用範囲は言語間で大いに異なるのである。
-6-
nation という言葉は生徒に訳を聞くと,すぐに「国家」という答が返ってくる。しかし,
英英辞典を引くと,まず,次のように説明しているのである。a large group of people living in
one area and usually having an independent government[LD],この nation=people という考
え方は,議会制民主主義を発達させたイギリスにふさわしい表現のように思われる。
また,日常よく使われる語を英英辞典で引くと,意外な意味を発見する楽しさがある。
例えば,right(権利)は WNW によると what is right, or just...であり「正しい」ことが
「権利」になっていくという基本的人権の最も重要な意味が一つの語の中で発展している。
この考えがあれば,本来間違ったことを権利と称して主張する誤りが直ちに分かるのであ
る。この他にも,virgin は
「処女」だけでなく a man, especially a young one, who has not
sexual intercourse[WB]と男性にも使えるのである。また,lover は男女同じようには使
えないのである。a person, usu.a man, with whom someone has an affair と定義があり,次い
でそれにぴったりの例文を挙げている。Her husband didn't satisfy her, so she took a lover.[ L
L]このように,英英辞典を引くことは,異文化をより深く理解するための足がかりにな
るのである。
3.微妙なニュアンスを理解するための英英辞典
conscience は「良心」と誰でも覚えている。ところが He has a guilty conscience. のよう
な文に出会うと,どう考えるのか迷うのである。直訳すると「やましい良心」となってし
まい,しっくりしない。この解答はPODを引くと次のように説明してある。まず定義と
して consciousness of the moral character of one's past or present conduct とあり,次いで例を
(good or clear,bad or guilty, conscience)と挙げている。「自分の過去や現在の行動を品性の
面からみて意識すること」が conscience だから「やましい意識」や「やましくない意識」
のように形容詞がつくのである。この充実した書き方が POD の特長でまさに簡潔にし
て妙なのである。
この POD は Fowler 兄弟という辞書作りの天才の手になるもので,随所にはっと目
を見張らせるような記述がある。例えば eye を動詞に使うと watch carefully[WNW]で
あるが,PODは observe, watch, esp. with curiosity, suspicion, disgust と丁寧な解説をして
いる。
私は,長年にわたり,直接話法の伝達文と被伝達文の順序の法則を文法書などで捜して
きたが,型通りのことしか書いてなく,全貌をまとめて書いてある本はなかなか見あたら
なかった。ところが POD で say を引いてみると次のように書いてあった。
He said
‘Listen!’;‘Listen!’he said;‘Listen!’said he; Said he‘Listen!’これを発見した時はま
ったく嬉しく「分かった!英語は私達が固定的に考えている以上に自由なんだ。いろいろ
に言えるんだ。」という感じであった。最後の Said he 型は『タイム』で現在好んで使わ
れている。
また,類義語を比較することで単語間の微妙な違いを学ぶことができる。この点で際立
った特長のある辞典は Longman Lexicon で,語彙を a b c 順でなく「日常生活の論理」
で並べ,すべてをグループに分けてある。例えば,father の表し方について dad, papa な
ど6種類を挙げて,その使用上の違いを説明しており,mother
に至っては9つも挙げて
いる。
以上のように,ある単語を調べる場合,英語を日本語に置き換えただけの英和辞典より
-7-
も,英英辞典の定義を見た方がより正確な定義を得られる場合が多い。
以下に,いくつか例を示しておく。
例1
・wise=having or showing good sense, cleverness, the ability to understand what happens
and
decide on the right action[LD]
例2
・drug=If the change helps body, the drug is a medicine; if the change harms the body, the drug
is a poison.[JD]
例3
・context=the parts directly before or after a word or sentence that influence its meaning: you can
often tell the meaning of a word from its context.[JD]
例4
・dresser=A person who trims or decorates certain things: Mary has gone to the hair - dresser so
that her hair is pretty for the dance. Mr.Smith is a window-dresser. He arranges the displays in
shop window.[GAC]
例5
・thoughtful=Showing or having concern and care for other people and their feelings. A
thoughtful person does not do or say things that make other people unhappy.[BD]
例6
・abuse=a bad practice or custom: Slavery is an abuse. Abuses multiply when citizens are
indifferent.[WB]
例7
・mark=to show clearly: A tall pine marks the beginning of the trail.[WB]
この The World Book Dictionary は語彙数が多く,定義がよく,我が国ではまだあまり
知られていないが,注目すべき良い辞典である。新語も豊富で docudrama, Gray Panther,
Astro Turf など載っている。驚いたことに Hibakusha まで載っており a survivor of the
atomic explosions that destroyed Hiroshima and Nagasaki in 1945 と短い文で過不足なく定義
してあるのである。
4.英語に慣れるための英英辞典
英語の力をつけるためには,英語に慣れることが必要である。英英辞典をいつも引いて
いると,直読直解の習慣を身につけることに大変役立つのである。また,定義は基本語で
書かれているので,英英辞典を引けば引くほど基本語を駆使することになり,重要語彙が
定着するだけでなく,基本語を使って表現する力まで養っていることになるのである。
例えば awfully は,① terribly ② very[JD], vast は very large and wide[LD], huge
は very big in size[LD], frighten は to fill with fear[LD], return は come or go back
[OAL,LD], exactly は just[OAL]と易しい既得の英語で生徒に説明していくので
ある。また,just now を a moment ago[LD]と教えておけば,現在完了と両立しない
ことが理解できるのである。
この点で,Longman Dictionary は定義語彙 2,000 語ですべての語を説明してあり,常用
すれば英語に慣れてくるのである。また,さまざまな語法(文型,形容詞の前置か後置か,
-8-
複数形を必ずとる名詞の表示など)
が記してあり英作文辞典としても大変重宝な物である。
この慣れるということは非常に重要である。我々英語教師も,英語に慣れるため大いに
英英辞典を利用し,また,英語による定義で異文化を知り,英語に関する豊かな情報を得
て授業に臨みたいものである。
Ⅳ
英英辞典の効果的な活用法
1.英語教師と英英辞典
我々英語教師は,英英辞典に関して,過度に楽観的なイメージと否定的なイメージを持
っている。あまりに楽観的なのは,生徒に対して英英辞典を英和代わりに使わせれば,語
彙数が芋づる式に増やせて効果的だと考えている場合である。これはしばしば,英英辞典
の一括購入はするものの,その後の指導は一切せず,教師だけが自己満足に終わるという
結果になりやすい。あまりに悲観的なのは,英英辞典は早すぎる,むしろ英和活用の妨げ
になると考え,一切拒否するというものである。確かに,英英辞典は魔法の本ではない。
かといって,中学生や高校生にとって,あまりにも専門的な道具というわけでもない。適
切な指導がなされれば,特定の目標については,十分に生徒を動機づけ,その効果を得る
ことができるのである。では,英英辞典を何のために使うと効果的なのか。それが次の2
点である。
・パラフレーズ能力の育成
・語彙連結の修得
まず,パラフレーズ能力とは,1つの事項を特定の単語のみで表現するのではなく,別
の表現でも説明できるようにするものである。例えば, go Dutch(割り勘にするの意)
の代わりに,share expenses とも言えるようにするのが,これにあたる。
2番目の語彙連結とは,語と語の意味的・有機的なつながりのことである。これは,語
と語の文法的つながりを指す文法的連結(動詞型・名詞型・形容詞型など)と対をなす。
では,どういうものが語彙連結かと言うと,例えば,名詞ならばその語の特性・機能に
深く関わりのある動詞・形容詞等との結びつきである。
例えば,「傘」という名詞を考えると,「傘をさす/開く,たたむ/閉じる」,「傘に入
れてあげる」などがそうである。それに対して,(
「 赤い)傘が好き」,(
「 なくしたから)
傘を買う」などのように,動詞「好き」「買う」とのつながりは,使われる頻度は高くて
も,傘の機能とは直接関係がなく,自由連結と呼ばれる。
生徒は,特定の単語を知っていても,実は,こうした語彙連結を知らないために話した
り書いたりできない場合が意外に多いのである。
では,以上挙げたパラフレーズと語彙連結の練習について,英英辞典をどのように使え
ばいいかを述べていきたい。
2.パラフレーズ能力を育成するための英英辞典
パラフレーズの練習とは,私がライティングの時間に玉野高校の生徒によくやらせる練
習であるが,これは英英辞典の定義自体を,その語のパラフレーズモデルとして利用する
方法である。
手順として,まず,生徒に題材(名詞)を与えて,それを自分の英語力で説明・定義さ
せてみる。但し,「定義,説明」などと言われても,生徒にはまずピンとこないと思われ
-9-
るので,定義パターンとして,とりあえず‘A is / means B.’を提示しておく。もちろ
ん,名詞Bの部分には必要に応じて,形容詞や前置詞などの修飾語句がつく。
次に,説明する事物の特徴・機能について生徒に考えさせる。例として,ここでは「犬」
を取り挙げる。すると,すぐ次のような特徴が出てくるはずである。「動物,哺乳類,4
つ足,肉食,ペットになる,吠える,番犬になる,人に忠実,骨をしゃぶる,鼻が利く,
盲導犬になる,人になつく,人にこびる」などである。
このように,特徴・機能が出たところで,先ほどの定義パターンで表現する。すると,
生徒それぞれが自分の英語力に応じて,A dog is a friendly animal that barks...といった説明
文を作り上げる。もちろん,
「哺乳類」「4つ足」「吠える」「忠実」などといった部分が,
うまく表現できない者もいる。それはそれで全くかまわない。少なくとも,表現できなか
ったということで,問題意識が活性化する。但し,中には,よくわからないけど,「4つ
足」はとりあえず,an animal that has four legs とか an animal with four legs と言えばいい
じゃないか,と気づく者が出てくる。こうした反応は,パラフレーズの観点からは,たい
へん歓迎すべきものである。
このように,生徒一人一人が異なった定義をしたところで,いよいよ英英辞典の定義を
参照する。出来不出来にかかわらず,自分で説明して問題意識が活性化されているから,
定義の英語がかなり「見えてくる」はずである。
a common four-legged flesh-eating animal, esp. any of the many varieties
used by man
(A Gray, Longman Dictionary of American English, Longman, 1983)
何でもないような定義だが,ここから多くのことが学べる。まず,当然ながら,自分達
が考えた特徴が全て盛り込まれているわけではない(「 哺乳類」「吠える」など)。しかし
ながら,着目すべき点もまた多いのが事実である。
まず,four-legged という形容詞表現。このような leg の使い方もあるんだということだ
けではない。これを知っていると「人間は2本足だ」という文にすぐ応用できる。もちろ
ん,four-legged を使えばよい。flesh-eating はどうか。もちろん,これは犬の定義だと分か
っているから,どうもこれが「肉食」に相当する部分だと見当をつけられる。自分の定義
で meat(食卓に上がる肉)を使った者は,flesh(それを意識せず,皮・骨と比較した場
合の肉)との違いに疑問を持つ。さらに,これが理解できると,「草食(動物)」という
表現への応用も簡単である。grass-eating, plant-eating と言えばいいんじゃないか,とピン
とくる者が必ずいる。
ちなみに,これを確認するのはどうすればよいか。もちろん,和英で引いてもよい。し
かし,dog で「肉食」が分かったんだから,「草食」を知るには「牛」「羊」などを見ればい
いんじゃないか,と想像できる者も何人かいるはずである。
例えば,sheep=grass-eating animal that is kept for its wool and its meat(LDAE)を見れ
ば,ちゃんと grass-eating が確認できるのである。(plant-eating も可能)。このように,定
義表現は,しばしばパーツを組み合わせてできた,いわばコンポ的表現であることが多い。
こうした表現形式に慣れていけば,ある語を忘れても,それを別の表現からの応用でコン
ポ的に表現できるわけである。
- 10 -
3.語彙連結を修得するための英英辞典
次に,定義練習を語彙連結の観点から実践してみることにする。上述したように,生徒
に英語表現力をつけさせるには,文法知識というよりも,語彙連結を多く身につけさせる
ことが有効である場合が多い。
そこで,英英辞典からこの情報を選び出すわけである。例えば,「傘をさす,たたむ」
などの連結を知るには,umbrella の用例を見るのが確実である。もちろん,これは英和で
も同じである。こうした連結を,ここでは「傘」の動作を表す語彙連結と呼ぶことにする。
これに加えて,英英辞典ではもう一つ別の連結が手に入る。それは,その事物の機能に
関する連結である。例えば,傘の機能は何かと言うと,当然「雨に濡れないようにする」
という答が生徒から返ってくるはずである。
そこまで確認できたら,「犬」の時と同じく生徒に定義させてみるのがよい。すると,
例えば,An umbrella is something for not getting wet. といったような文がいろいろ出てくる。
for 以下が傘の機能を表した部分である(もちろん,to 不定詞を使ってもよい)
。
また,「雨に濡れないようにするためにさす」というふうに,動作を表す連結「∼をさ
す」を使いたい者も出てくる。そうした場合には,something 以下に関係詞を使ってもい
いが,構造を簡単にするため,You (さす) an umbrella for not getting wet. というような
定義の方法もあることを教えておくべきである。(Cobuild 系辞書における文定義の要領
である)。でも,そもそも「さす」が英語で表現できない,ということならばどうか。こ
れはこの部分だけ辞書で確認してもいいが,先に述べたパラフレーズ感覚を思い出したい。
つまり,
「さす」と言えなければ,別の手持ちの表現を使えないかと考えさせるのである。
すると,とりあえず use でもいいんじゃないか,と気づく者がいるはずである。
このように,問題意識を高めた上で,英英辞典の定義と比較してみる。
umbrella=an arrangement of cloth over a folding frame with a handle,
(LDAE)
used for keeping rain off the head
何気ない定義であるが,いろいろ面白いことが分かる。例えば,傘の「骨」は bone で
はなくて frame である,というようなことである。
但し,ここでは語彙連結の観点から考えてみる。すると,機能を表す部分はどうなって
いるかというと,keep rain off the head と表現されている。どこにも「濡れる」という語
句や否定辞「∼しない」は見あたらない。でも,これが「雨に濡れない」という意味に相
当するわけである。もちろん,自分の定義を恥じる必要はまったくないが,こういうふう
にも言えるのかという英語感覚が体験できるのである。
この点を,Cobuild では次のように表現している。
An umbrella is an object which you carry to protect yourself from the
rain. It consists of a long stick with a folding frame covered in cloth.
(Collins Cobuild Essential English Dictionary, Collins, 1988)
ここでは,傘の機能として,protect oneself from the rain という連結が使われている。い
ずれの場合にも,これを知っておけば,
「日傘」の機能説明にもすぐ応用可能なのである。
もちろん,protect oneself from the sun と言えばよいことは自明の理である。
- 11 -
このように,英英辞典の定義から,その「機能」に相当する語彙連結も抽出できるわけ
である。上述してきたことを総合的に論ずるならば,中学校や高等学校でのよりよい辞書
指導を考える場合,
英英辞典は英和・和英辞典にとって替わるべきだと考える必要はない。
分からない点は後者を使えばよい。但し,どういう部分で英英辞典を使えば効果があるの
かという点は,教師がしっかり把握しておくべきである。具体的に言えば,本稿で示して
きたように,定義表現をパラフレーズの表現モデル,あるいは語彙連結のデータベースと
して活用したときに,英英辞典は大きな力となってくれるということなのである。
このように,英英辞典を英語表現力に生かすという側面は,従来かなり軽視されてきた
ように思われるが,この点をうまく活用すれば,教師にとっても学習者にとっても,この
道具を頼りになる「助っ人」にすることが可能なのである。
Ⅴ
おわりに
冒頭でも述べたように,本校は中・高連携教育の推進指定校として2年間にわたり,推
進指定校の玉野市内の中学校の先生方とさまざまな研究協議をしてきたわけだが,本稿で
は,その中の1つ「辞書指導」に焦点をしぼって考えてみた。時間的制約もあって十分な
研究協議はできなかったが,中学校・高等学校の各先生方から出された意見を基に,それ
を発展させる形で,中・高連携教育の立場からみた理想的な辞書指導を考えてみた。
辞書指導に関しては,本稿で言及してきたこと以外に,さまざまなアプローチが考えら
れるが,最も重要なことは,我々英語教師も日頃から研鑽を積む必要がある,ということ
である。最後に,私が日頃から心がけていることをいくつか紹介し,本稿の締めくくりと
したい。まず初めに,中学校や高等学校の生徒に有効な辞書指導をするためには,教師が
まず学習辞典についての十分な理解と基本語彙についてのできる限りの知識をもつべきで
ある。日本で出版されているすべての学習辞典について一通りの知識・情報を得て,特に,
生徒が使用することが多いものや,自己の研修に必要な辞書は,自らも座右に置いておく
べきである。どの辞書にも一長一短がある。自己研修のためには常に数冊の辞書を同時に
引き,相互の不備を補うようにすべきである。また,ISED,COD,OALD,LDCE
など外国人の編集した辞書もできる限り座右に置き参照したいものである。また,生徒
に辞書を引かせるためには,教師自らが教室に辞書を持っていき,率先して引いてみせる
ことも大切である。生徒の持っていない辞書(特に,英英辞典など)を利用することによ
って生徒の理解を深めたり,興味を喚起したりすることも必要である。とにかく,辞書を
引くことは楽しいことだということを生徒に身をもって示すことが教師の最大の務めであ
る。既述のような単語の原義についての知識などのほかに,日英語の意味のズレや各単語
の文化的背景に関する知識は,教師は絶えず吸収するよう努め,それによって辞書の欠点
を補ったり,生徒の興味を喚起したりするために教室で折にふれて紹介したい。最近では,
これらに関する記述をかなり盛り込んだ辞書もかなり出版されている。water は「水」と
は限らないこと,brother のような「兄」「弟」にも共通する語は日本語には存在しないこと
(そしてそれはなぜか?),head と「頭」,lip と「くちびる」,expect と「期待する」など
はイコールでないことなど,日英語の意味領域のズレに関する事実は,中学生・高校生を
問わず興味と関心を呼ぶであろう。また,wind は主に不快な風に使うこと(a coolbreeze と
言うが a cool wind とは言わない),blue は「憂鬱さ」を暗示し,drug は medicine と異なり
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「麻薬」の意味合いを持つなどといった連想の問題,さらに,Christmas, breakfast, party,queue
などの文化的背景については教師はいくら知識を持っていても多すぎるということはない
と思うのである。
以上,簡単に,効果的な辞書指導について,さまざまな観点から考察してみたが,我々
は現在,マルチメディア社会とかデジタル化社会と呼ばれている高度情報化時代に生きて
いる。また,近い将来,各社辞書のCD-ROM化が進み,パソコン上でしか単語を引く
ことができない生徒が増えてくると予想される。辞書指導と言うと一昔前のことのように
思われるが,こういう時代にこそ,適切な辞書指導が必要なのではなかろうか。
引 用 辞 書 一 覧
1.WNW : Webster's New World Dictionary of the American Language, second edition,1970
2.JD : Junior Dictionary, Scott, Foresman & Co.1959
3.HEE : Harrap's Easy English Dictionary, 1980
4.CU : Chambers Universal Learner's Dictionary, 1980
5.POD : The Pocket Oxford Dictionary, fifth edition, 1970
6.GAC : The Giant All-Colour Dictionary, Paul Hamlyn, 1967
7.LD : Longman Dictionary of Contemporary English, 1978
8.WB : The World Book Dictionary, 1979
9.LL : Longman Lexicon of Contemporary English, 1981
10.BD : Beginning Dictionary, Macmillan Publishing Co.,1976
11.OALD : Oxford Advanced Learner's Dictionary of Current English, 1974
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