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Title
「兎」に関することわざ : 兎をどう捉えてきたか
Author(s)
馬場, 俊臣
Citation
札幌国語研究, 17: A1-A8
Issue Date
2012
URL
http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/6834
Rights
Hokkaido University of Education
「兎」に関することわざ
一兎をどう捉えてきたか−
馬 場 使 臣
1 はじめに
「ことわざ」は、古くから言い伝えられてきた、教訓・風刺・真理などを含んだ
短い言葉であり、様々な事物に対する人々の見方や捉え方が反映されている。
馬場(2010卜馬場(2011)では、それぞれ、「牛」及び「虎」に関する日本のこ
とわざを取り上げ、ことわざに反映された牛及び虎に対する人々の捉え方の特徴を
まとめた。本稿では、「兎」に関することわざを取り上げ、兎に対するどのような
捉え方が見られるかを示したい。
本稿で取り上げることわざは『故事・俗信 ことわざ大辞典』(尚学図書(編)
(1982))に基づいている。ただし、各地の俗信・俗説は取り上げない。
同番の「総譜褒索引」の「兎」の項には、約60句のことわざ(俗信・俗説、言葉
遊び・しゃれ、慣用句、故事を含む)が挙げられており、十二支の動物名を含むこ
とわざの中では少ない方である。
兎は、一般には「ノウサギ亜科に属する仲間をよぶことが多い」(一日本大百科全
書(ニッポニカ)j(小学館(ジャパンナレッジ版))(以下も同番を参考にした)と
のことである。日本では、北海道の「エゾユキウサギ(エゾノウサギ)」及び本州
の「ノウサギ」(4亜種)(日本海側と東北地方の「トウホクノウサギ」、福島県の
太平洋沿岸地方より南の本州、四国、九州地方の「キュウシュウノウサギ」、隠岐
島の「オキノウサギ」、佐渡島の「サドノウサギ」)が生息している。「ノウサギ」
は「穴を掘らずに地上に巣をつくり、そこに子を産む」のに対し、同じく「ノウサ
ギ亜科」に属する「アナウサギ」(本来ヨーロッパなどに生息し、カイウサギはこ
れを馴化したものである)は「地中に穴を掘って巣をつくり、群れをなして生活す
る」とのことである。『古事記Jの「因幡の白兎」、r鳥獣戯画j、「かちかち山」「兎
と亀」の動物説話などで、古来、兎は扱われてきており、「人間と密接な関係をも
つ小動物」として受け取られてきている。また、兎は狩猟の対象であるとともに食
害をもたらす動物でもあった。なお、「日本において家畜としてウサギが飼養され
るようになったのは明治時代からで、中国やアメリカなどから輸入され、当初は愛
玩用として飼われていた」とのことである。
「兎」に関することわざでは、「株を守りて兎を待つ(意味のないことをいつま
でも後生大串に守ること)」や「二兎を追う者は一兎をも得ず(欲を出して同時に
−1−
二つの物事をしようとするといずれも成功しないこと)」などが広く知られている。
前者は中国の故事に基づく成語であり、後者は西洋のことわざの翻訳が定着したも
の(北村(2003))である。本稿では、日本のことわざを対象とするため、中国の
故事成語などに基づくことわざは対象としない。r故事・俗信 ことわざ大辞典』
に漢籍顆の出典が示されていない表現を日本のことわざとみなし本稿で取り上げる。
以下、兎に関することわざにおいて注目された兎の特徴を分類し、ことわざを例
示していく。()内に示した解釈は『故事・俗信 ことわざ大辞典」に基づいて
いる。関連する情報も随時補う。
2 兎の特徴
(1)狩猟の対象として
① 兎の罠に狐がかかる(意外な収穫や幸運を得ることのたとえ。)
(∋ 春の日に兎を釣るよう/来年の春、兎を釣るよう(気の長い話であるというこ
と。あてにならないこと。)
(∋ 兎追いが狐に化かされたよう(茫然自失の様子。)
(丑 山の兎に値を付ける(将来の不確実な事柄に期待をかけ、それをあてに気楽な
計画を立てることのたとえ。)
⑤ 狐繁らるる時は兎これを悲しむ/狐死して鬼泣く(同類の死を見て、その禍が
自分の身に及ぶことを憂えること。)
兎の狩猟の方法については、「昔、東北地方のマタギと呼ばれた狩猟を専
業としていた人たちがいたのですが、冬に兎狩りをする時には木の′ト枝とか
わらで直径三○センチほどの輪を作り(「わらだ」と呼んだ(中略))、それ
を兎が隠れていそうな場所の上空一○メートルぐらいのところを水平にくる
くると回転させながら投げました(中略)。「わらだ」は“シェルシュル”と
いうような音を立てながら飛んで行くのですが、兎は天敵である烏が飛んで
来たと思ってあわてて逃げ出します。しかし“わらだ’の方が速いから追い
つかれるので、兎は軟らかい雪の中に頭からもぐり込みます。マタギはそれ
を手掴みするのです。」(平田(1999)63−64頁)、「ノウサギの体の大きさは
人間がちょうど扱いやすく、くくりわなのような簡単なわなで老人1人でも
捕獲でき」(川道(編)(1996)64頁)、「以前に、知り合いの猟師さんから、
ウサギを撃つには、まず追い手がウサギを山の斜面に登らせるように追い詰
め、ウサギが反対の下り斜面に出たところを、谷の向かい斜面で待機してい
た撃ち辛が仕留める・・・、というパターンが一番簡単なのだと教えてくれまし
た。下り斜面なら、ウサギの走る速度がかなり遅くなってしまうのはどうや
ら事実のようです。」(佐草(1995)45頁)、「ウサギ狩りは斜面をかけおりさ
せ、下に網を張って待つのが効果的である。かけおりるときは前足が短く、
はねるたびに着地ショックが大きすぎて、後半身がはねあがってしまいそう
−2一
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