Comments
Description
Transcript
1 大人になるということ 私は、この清陵中高一貫校の6年間で、皆さん
大人になるということ 私は、この清陵中高一貫校の6年間で、皆さん全員が必ず達成しなければならないこと があると考えています。それは何だと思いますか? 私の考えを言います。私は、清陵中高一貫校だけでなく、全ての中高生が中高生でいる 間に必ず達成しなければならないことは、「大人になる」ということだと思っています。 ただし、いまの日本の法律では、20歳で成人ですから、高校を卒業した時点では皆さん は未成年です。だから、正確に言えば「中高6年間を通じて大人になるための準備をする」 と言った方がいいかも知れません。 いま、なんだそんなことかと思った人がいるかと思います。放っておいても時間はどん どん過ぎて行き、いま12歳、13歳の皆さんも来年になると確実に1つずつ歳を取り、 そうやって自然に18歳になり、20歳になり、大人になる。もしも皆さんがそう思って いるとしたら、それは大きな間違いです。 ちょっと皆さんの周りにいる、大人たちのことを思い出してみてください。なかには、 この間の土曜講座で講師を務めていただいた社長さんたちのような立派な大人もいますが、 その一方で、いい歳をしながら大人になりきれない、とても大人とは言えないような行動 をする、そんな人がいませんか。そうです、人は20歳になったから自動的に大人になる わけではないのです。大人になるとはどういうことか自分自身でしっかり考え、自分が目 指す大人像を持ち、そんな大人になろうと、そのために必要なことを学び、努力を重ねて、 はじめて人は大人になれるのです。大学に入ったからといって、就職をしたからといって、 結婚をしたからといって、だから自動的に大人になるということはないのです。逆に言え ば、大学に行かなくても、収入がなくても、結婚をしてなくても立派な大人はたくさんい るのです。 子どもが大人に変わっていく道のりのどこか、多分その入り口あたりのどこかに、いま 皆さんはいると思うのですが、では、そういうことだから頑張って大人になってください、 はい頑張ります、といってこの話を終わりにすることはできません。なぜなら、それで済 むほど、大人になるということは簡単なことではないからです。 皆さんは「知・徳・体」という言葉を知っていますよね。簡単にいえば、頭と心と体の ことです。この3つが3つとも十分に成熟したとき人は大人になると私は思いますが、こ の3つがバランスよく同時に成長するわけではありません。どれかが先行して、どれかが 追い付く、追いついてバランスが取れたと思ったら、またどれかが先行する。そういうこ とを繰り返ながら人は成長します。そのたびに、つまり皆さんが成長するたびに、皆さん の頭と心と体のバランスは崩れ、歪みます。皆さんが大人になるために成長するこの6年 間とは、皆さんがバランスを崩しながら、歪みながら、変化を繰り返していく6年間でも あるのです。 バランスが崩れ歪むとどうなるでしょう。いろいろと困ったことが起こります。時には 自分で自分をコントロールできなくなったりもします。思うように勉強が捗らなくなった 1 り、心の中が悩みごとでいっぱいになったり、体調を崩したり、ということが起きます。 これには個人差がありますので、もうそうなってますという人も、へーそうなんですかと いう人もいると思います。人の成長の速い遅いはそれぞれですから気にすることはないの ですが、そのことがまた悩みの種になることもあります。 そういう成長期のことを「思春期」と言いますが、皆さんが「二分の一成人式」をした 小学校4年生の終わり頃、小学校5年生あたりから「思春期」が始まっているという人も いますから、多くの皆さんは、もう思春期に入っているのではないかと思います。皆さん、 ちょっと小学校時代を振り返ってみてください。あの頃は、いろいろなことが思い通りに 順調に進んでいて、悩みごとらしい悩みごともなく、毎日が楽しくて仕方なかったの に・・・と思うことはありませんか。そうだとしたら、いままさに皆さんは「思春期」に いるということです。 一般的には、 「思春期」というと、若いエネルギーや好奇心にあふれた、人生のうちで もっとも輝かしい時期というイメージです。確かにその通りなのですが、一方では、いま 言ったように、頭・心・体のバランスが崩れ歪む、危なっかしくて難しい時期でもあるの です。皆さんは、この6年間で、喜びや楽しみにもたくさん出会いますが、同時に、苦し みや悲しみにもたくさん出会うことになります。しかし、それこそが人が成長するという ことなのです。それは、皆さんが立派な大人になるために避けることの出来ないこと。避 けてはならないことなのです。前置きが長くなりましたが、そんな皆さんに贈るアドバイ スが、本日の終始業式で、私が学校長として皆さんに伝えたいことです。これからが本題 です。 皆さんへのアドバイスの一つ目は、つらいこと、苦しいこと、悲しいことがあっても、 それを受け入れてください、ということです。それは自分が大人になるために必要な試練 なのだと思ってください。また、つらい、苦しい、悲しいことに直面するなかで、頑張れ ない自分、ずるい自分、情けない自分、恥ずかしい自分といった嫌な自分と出会うことが あるかもしれませんが、そのことで自分を嫌いになったり、目を背けて逃げ出そうとした りしないで、その醜い自分も自分の一部なのだ、かけがえのない自分なのだと思って、そ んな自分と向き合ってください。それも、自分が成長していくために必要なことなのだと 思ってください。これが一つ目です。 二つ目は、人と自分を比較して一喜一憂しないでください、ということです。この4月 から、皆さんはいろいろの大会やコンクールに出場したり作品を応募したりして来ました。 また、校内でも学習・部活・委員会活動などいろいろな場面で評価され、時には順位をつ けられてきました。当然のことですが、活躍して賞をもらったり、良い成績を修めたりし て、高く評価された人がいると思います。一年生なのにずごいと褒められた人もいるかと 思います。しかし、その一方で、賞を逃したり、成績が上がらなかったりして、つらい思 いをして来た人もいるかと思います。 2 その、全ての皆さんに言いたいのは、他人と比較して上だったとか下だったとか、勝っ たとか負けたとか、そんな小さなことで一喜一憂してはいけない、ということです。さっ きも言ったように、皆さんは全員大人になるための成長の途中にいるのです。順調に進む 時期も、停滞する時期もあります。一気にぐんと成長する時も、頑張ってもちっとも伸び ない時もあります。そのときに、他人と比較することには何の意味もありません。いま自 分自身が自分自身の成長のどんな段階にいるのかだけを考え、昨日の、先月の、去年の自 分と比較して、自分の頭の、心の、体のどこがどれだけ成長したか、そのことだけを考え てみて下さい。必ず成長している自分を見つけられるはずです。これが二つ目です。 三つ目、そしてこれが最期です。最後に皆さんに贈るのは、私の中学校時代を支えてく れた言葉です。中学時代、私はつらいことがあると、いつもこの言葉を心のなかでつぶや いていました。その言葉を皆さんに紹介することで、本日の講話を終わりにしたいと思い ます。 「ゆっくり進むことを恐れるな。ただ立ち止まることだけを恐れよ」 3